【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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8-4……肩書きだけ副々部長

 

翌日。

 

朝早く登校する。

 

校門を通ると、誰もいないグラウンドを横に見ながら進む。

 

早朝の声出しを伴う練習が出来ないのもあるが、大会等が終わって、3年生が引退してしまったのもあるだろう。

 

昇降口で靴を変え、職員室へ向かう。

 

「おはようございます。1-2の金山です。図書館閉架書庫室の鍵を借りに来ました……あれ?」

 

職員室に入ると、先生は誰も居なかった。

 

この時間に誰も居ないというのは、今までに無かったことだ。どういう事だろう?

 

まあ、考えて結論が出ても、正解は出ない。考えるのは止めよう。

 

「失礼しました」

 

誰も居ないからって横着はしない。正当な手続きを踏んで鍵を借り、声を掛けて退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に到着。

 

鍵を開け、

 

「失礼します」

 

声を掛けて入室する。

 

もちろん、誰も居ない。

 

9月とはいえまだ暑いので、エアコンを付けてパソコンの電源を入れる。

 

……さてと。作業を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間は経っただろうか。

 

廊下の方が騒がしくなってきた。

 

生徒が登校してくる時間ではあるが、この辺りは通り道ではない。

 

一体何の騒ぎだろう? と思ったら、ノックされて扉が開いた。

 

「おや、金山くん。おはようございます」

 

「教頭先生……。おはようございます」

 

教頭先生が入ってきた。

 

「失礼します」

 

続いて、私服の男性が入ってきた。

 

白髪頭。年齢は70代ぐらいだろうか。

 

ん? 名札がぶら下がっている。

 

……町内会長だ。

 

「こちらです」

 

教頭先生が町内会長をカーテンの向こう側へ連れて行く。

 

何だろう?

 

そもそも、学校に町内会長が来ているというのが……。

 

待てよ。騒音クレーマーの件か?

 

昨日、俺がその話を滝野先生にして、教頭先生に話に行くと言って退室した。今朝、職員室が無人で、町内会長が来校しているということは。

 

 

 

間違いないだろう……。

 

 

 

「金山くん、お騒がせしました。もうじき始業時刻だから、遅れないように……」

 

「失礼しました」

 

数分後、2人が出てきて、退室していった。

 

もう良い時間だし、俺も教室へ行こう。

 

教頭先生方が出てから少し間を置いて、部室を出る。

 

鍵をかけ、職員室へ向かう。

 

始業時刻が近いのもあるが、ほとんどの部が大会を終えているため、朝練をしている部が少ないからか、特別教室が多いこの校舎内は静かだ。

 

もちろん、教室のある校舎に来ると、登校してくる人たちで賑わっている。

 

「おはよう!」

 

「金山くん、おはよう」

 

「おはようございます」

 

すれ違う人と挨拶を交わしながら、職員室に入った。

 

 

 

「失礼します」

 

さすがにこの時間になると、ほとんどの先生が室内に集まっている。

 

俺の声を聞いた数人の先生が、こちらを見てきた。

 

「1-2の金山です。閉架書庫の鍵を返しに……」

 

「えっ? 金山くん?」

 

「金山?」

 

「金山くんだ」

 

「あの金山?」

 

しかし、俺が名乗った途端、ほぼ全員の視線が集まる。

 

俺、何か悪いことしたっけ?

 

急に怖くなり、視線が泳いでしまう。誰か、助けてくれる人……あ。

 

黄前(おうまえ)先生と西尾先生に滝野先生が。

 

「滝野先生。俺、何か悪いことしましたっけ?」

 

若干、涙声になっていたと思う……。

 

「逆だよ。早朝・夕方の音出し禁止が撤回されたんだ。それで、今までの状況下でも吹奏楽部が全国大会に出場出来るのは、防音室の予約対応をしてくれた金山のお陰だって。今教頭からその話があったところで、金山本人が現れたから、みんなが注目しただけだ。みんな金山に感謝してるんだ。ありがとう」

 

「そうだよ」

 

「金山くん、ありがとう」

 

隣の西尾先生・黄前(おうまえ)先生が続いた。

 

「ありがとう!」

 

「金山サンキュー!」

 

だめだ。泣きそう。

 

……というか、もう泣いています。

 

「おーい。泣くなよ」

 

「すみません……涙脆くて……」

 

「まあ、涙脆いといえば、松本先生も負けてませんけどね」

 

えっ?

 

園田先生の声で、松本先生の方を見る。

 

「な、何で松本先生が泣いているんですか……」

 

「すまん……。金山につられてしまった……」

 

松本先生は涙脆いのか。

 

普段『軍曹先生』と呼ばれている先生の、意外な一面を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起立。気を付け、礼」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

「着席」

 

午前中の授業が終わり、昼休みとなる。

 

「お昼食べようか」

 

「今日の数学難しかったね」

 

夏休み明け2日目となると、話題は夏休みの思い出話ではなくなるようだ。

 

「5限目何だっけ?」

 

「英語だよ」

 

「そういえば、北新川(きたしんかわ)先生の代わりに、江南(こうなん)先生が担任になったんだって」

 

「江南先生か……」

 

さて。お昼ご飯としよう……。

 

自分の席でお弁当を広げる。

 

いただきます。そう心の中で呟き、食べ始める。

 

「今朝、町内会長が来てたらしいね」

 

「あれでしょ。音・声出し禁止令の撤回でしょ?」

 

もう噂になってるのか。

 

「それ聞いた途端、野球部の部長、泣き崩れたらしいよ。大会の結果、散々だったからね」

 

確か、初戦敗退、コールドゲームだった。

 

「練習不足だったからね。どう考えたって勝ち目はなかったよ」

 

「しかも、相手チームに完全試合(パーフェクトゲーム)許したから。コールドだけどさ」

 

「うわ、それ悲惨だね……」

 

確かに悲惨だ。

 

しかし、相手が相手とはいえ、完全試合(コールド)をやってしまうとは……。将来有望の投手がいるらしい。

 

初戦の相手は何処だっけ?

 

「でも、凄いのは捕手だって聞いたよ。ID野球っていうの? それらしいけど」

 

へぇ……。そうなのか。

 

さて。お弁当を食べ終えたので、片付ける。

 

まだ時間あるし、読書でも……。

 

「失礼します」

 

廊下の方から声がした。

 

一瞬にして、教室が静まり返る。

 

そりゃあそうだ。この声の主は知っている。

 

用があるのはどっちだ?

 

「は、はるか居る?」

 

「「「はるかぁ?」」」

 

超巨大爆弾が炸裂(さくれつ)した!

 

えっ? 加納(かのう)先輩俺のこと名前で呼んでたっけ? 堀田(ほりた)先輩だけだったよね?

 

それはこの際どうでも良い。

 

問題は、このあと遭うだろう質問責めの対策だ。

 

「はい。何でしょう?」

 

いたって普通に返事をする。

 

「あ、いたいた……」

 

先輩が俺の所までやって来る。

 

教室中がざわめく。

 

「突然で申し訳ないんだけど、今日から練習メニューを変更することになって、防音室の使用を止めることになったの」

 

ある程度予想はしていたが、早速来た。

 

「つまり、今日の予約から無しになるってことですか」

 

「うん、急でごめんね。あ、一応みんなに話だけしたいから、放課後音楽室に来てくれる?」

 

みんなに話。

 

また泣かされるのか……。

 

「分かりました。放課後ですね」

 

乗り気じゃないけれど、断ることは出来ない。

 

ただでさえ場所が悪い。クラス全員に聞かれている。断ろうものなら……。

 

「本当? ありがとう」

 

そう言った先輩の視線がずれる。

 

「ということだから、宜しくね」

 

ん? ああ。紅葉(くれは)に話したのか。

 

「分かりました」

 

今ので分かったのかよ……。

 

「それじゃあ失礼します。お騒がせしました」

 

先輩が教室を出て行く。

 

 

 

 

先輩が出て行くとき、再び静まり返った教室が、また騒がしくなる。

 

主に、俺の周辺が。

 

「金山くん、加納先輩と仲良いの?」

 

「先輩とどういう関係?」

 

「この夏に何かあったの?」

 

「どこまでヤったんだ?」

 

的外れな物も含め、様々な質問が降り注ぐ。

 

「い、一応俺も吹奏楽部員だし……な」

 

後ろの紅葉(くれは)に助けを求める。

 

「うん。正式に所属してるよ。肩書きだけ副々部長」

 

そう。『金山相談所』が発足したとき、何かあったとき吹奏楽部に協力できるよう、名前だけでもと入部を打診した相手が、他ならぬ加納先輩だ。

 

「そういうことだから。特別仲がいいって訳じゃないから。変な関係ではないからね。誤解しないで」

 

「そう……」

 

「なるほどね……」

 

おいそこ。つまらなそうな顔すんな。

 

 

因みに、今まで黙っていたけれど、防音室を如何わしいことをする為に使ったバカが居た。

 

後片付け・掃除・換気をしたのは誰だと思っているんだ……。

 

勿論、予約制だったから誰か分かっているけれど、先輩方の手前、今の所誰にも言ってない。

 

いつか言わなければならないときが来るかもしれないが、少なくとも、全国大会を控えた今、言うべきではないだろう……。

 

 

 

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