【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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いつもありがとうございます。

新キャラ登場です。




8-5……噂の編入生

 

新学期がスタートして一週間が過ぎた。

 

防音室の貸し出しが終了し、毎日のように吹奏楽部の部員が出入りすることも無くなった。

 

やることが一つ無くなり、集中できるようになった反面、この数ヶ月間毎日のようにやっていたことが無くなったわけだから、僅かながら喪失感もある。

 

時間感覚も少し鈍くなった気もする……。

 

 

 

いつも通りの部活中。

 

扉がノックされる。

 

今日は職員室で仕事があるらしく、先生は2人とも来ていない。

 

その仕事が片付いて顔出しに来たのだろうか。

 

しかし、扉が開く気配はない。

 

再びノックされる。

 

「どうぞ」

 

返事をしたら、ようやく扉が開いた。

 

黄前(おうまえ)先生と滝野(たきの)先生と園田(そのだ)先生、吹奏楽部のメンバーは、返事をしなくても、ノックをしたら扉を開けて入ってくる。そういう風に決めているからだ。

 

入ってこないということは、それ以外の誰かが来たってことだ。誰だろう?

 

「失礼します」

 

この声、菜穂子(なおこ)か。

 

「失礼します……」

 

と、もう一人知らない声……。

 

「あ。頑張ってるね」

 

「菜穂子が来るなんて珍しいね。えっと、その方はどちら様?」

 

扉のところには、菜穂子ともう一人女性が立っている。さっきの声の主だろう。

 

2年生か。

 

髪はショートカット。それだけを見たら、男性と錯覚しそう。

 

しかし、制服から覗かせている腕や脚は白く華奢で、気を付けないと折ってしまいそうだ。

 

「初めまして。私、加木屋(かぎや) みなみと言います……」

 

加木屋先輩か。

 

加木屋? ……あ。

 

「噂の編入生……」

 

思い出した。

 

W水野(ダブルみずの)先輩が言っていた。編入生がやって来たって。

 

「噂かどうか知りませんけれど。えっと、編入生です……」

 

「あ、とりあえず、中入りませんか。立ち話もあれですから」

 

扉のところに立ったまま話していた。

 

扉は開けっ放しに出来ないから、菜穂子が押さえている状態だ。

 

「失礼します……」

 

「入るね」

 

2人を室内へ招き入れ、椅子に座るよう促す。

 

「こんな物しかありませんが、どうぞ」

 

買い置きの缶の緑茶と、紙コップを3人分用意して置いた。

 

「あ、お構いなく……」

 

「遠慮は要らないよ。貰って」

 

菜穂子がそれを言うか。

 

「じゃあ……いただきます」

 

紙コップに注いでお茶を飲む。

 

先輩が遠慮しているので、俺と菜穂子が先に飲み始めると、先輩もお茶を飲み始めた。

 

 

 

 

「加木屋先輩は編入生なんですよね」

 

「はい……」

 

「何処から来たんですか?」

 

W水野先輩は、岐阜県としか言っていなかった。

 

「岐阜県の……可児市(かにし)から」

 

何処高市(どこだかし)って、可児市のことだったか。

 

佳介先輩何を聞いていたんだろう?

 

でも先輩のこの様子だと、はっきりと言わなかったのかもしれない……。

 

「えっと……あなたは?」

 

しまった。自己紹介まだだった。

 

「すいません、申し遅れました。文芸同好会部長の金山(かなやま)です。よろしくお願いします」

 

「金山くんが部長なの……?」

 

加木屋先輩は予想通りの反応だった。

 

1年生の俺が部長を努めていることに驚かれることが多い。

 

もちろん、同じクラスの人はこのことを知っているし、入部した経緯を知る人は尚更だ。

 

「えっと。どのようなご用件でしょうか」

 

「あ、えっと……その。あのね……」

 

主語が出てこない。何を言いたいのだろう?

 

「加木屋さんは入部希望なの」

 

しびれを切らして菜穂子が言った。

 

入部希望……?

 

「我が文芸同好会に?」

 

「はい……」

 

「そうなんだって」

 

「部員が増えるのは歓迎だけど、大丈夫か?」

 

「何が?」

 

「何がってお前……」

 

加木屋先輩は人見知りなのか、さっきから視線がせわしなく動いている。

 

目が合えば慌てて逸らされる。

 

会話も続かない。

 

「菜穂子も知っての通り、この部で活動しているのは、俺1人だぞ。菜穂子が顔出さない限り、俺と先輩2人きりになっちゃうじゃんか」

 

俺は良くても先輩が大丈夫だろうか?

 

「問題ないでしょ? 普段なら先生がいるし。そういえば、園田先生は?」

 

あ。菜穂子は知らないんだ。

 

「園田先生なら吹奏楽部だよ。そもそも今の顧問は黄前先生だし」

 

「えっ! 顧問の先生変わったの……。で、黄前先生って誰?」

 

塚本(つかもと)先生のことだよ」

 

黄前先生じゃあ分からなかったか。

 

……話が逸れた。

 

「まあ、確かに普段は先生がいるから2人きりになるのは珍しいけどさ。問題は、先輩自身の思い、考えだろう。さっきから俺たちだけで話してる状態だぞ」

 

当の先輩は何も言わない。

 

さっきから視線が泳いで……いない?

 

もしかして。そういうことか?

 

「加木屋先輩は本が好きなんですね」

 

そう言うなり、椅子に座っている先輩が、一瞬跳ねた。

 

「どうして分かったの……」

 

「いや、俺と菜穂子が話している間、視線が泳いでたから、人見知りなのかなって思ったんですが、本棚を眺めていたんですね」

 

本好きあるある。図書館や書店で、視線が本に釘付けになる。

 

「ここ、閉架書庫ですから、珍しい本多いでしょう?」

 

そう問いかけると、先輩の顔が明るくなった。

 

そんな顔出来るんだ……と思うぐらいに。

 

「うん!」

 

 

 

「えっと、それじゃあ……。先輩、入部届は持ってますか?」

 

「えっ? うん。持ってきてる……」

 

先輩から差し出される紙を受け取る。

 

その際、一瞬手が触れてしまい、慌てて引っ込められる。先輩の顔が少し赤くなった。

 

やっぱり人見知りかな。

 

どれどれ。『2-1加木屋 みなみ』『文芸同好会』よし。問題なし。

 

そっか。菜穂子と同じクラスなんだ。

 

「はい、確かに。改めまして」

 

 

 

 

「文芸同好会へようこそ!」

 

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