【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

53 / 129
第50話……相談したいこと

 

月曜日の朝。

 

いつも通りの時間に登校する。

 

職員室で鍵を借りてから、文芸同好会の部室(図書館閉架書庫室)に向かう。

 

……誰かいる。

 

「あ、はるか。おはよう」

 

「おはようございます。朝からどうしました?」

 

「ちょっと相談したいことがあってね」

 

そう言い、扉の横へ視線を移す。

 

俺も同じところを見る。

 

『金山相談所』なるほどね。

 

鍵を開けて扉を開く。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。相談とは何だろう……。

 

昨日一緒にいたのに、あの場で話さなかった……。

 

屋外ではしにくい話……。ということはないだろう。

 

紅葉(くれは)に聞かれたくない話。だとすれば、吹奏楽部に関係する話か?

 

まさか、恋の相談ではないよな。

 

先輩と俺の仲だ。有り得ない話ではないが、昨日が休みだったから、今日は朝から部活があるはず。遅刻してまで恋バナするような人ではないことも知っている。

 

ならば……。

 

「吹奏楽部に関する相談ですね?」

 

「えっ? うん」

 

やはり。

 

もしかすると、俺が昨日聞きたかった話と同じかもしれない。

 

(かけ)で振ってみるか。

 

加納(かのう)先輩と(あずさ)に関してでしょうか?」

 

絶句。と言うのが適切だろうか。

 

先輩は驚いて何も言えない様子だ。

 

「合ってました?」

 

「うん……。その二人のことだよ。何で分かったの?」

 

何で、と言われても。

 

昨日の今日だし、先輩と俺の仲だからこそ、知り得たと言うべきか。

 

「何となく、ですね」

 

ここは上手く誤魔化す。

 

「えっと、それはどういう話で、至った経緯(いきさつ)は?」

 

「実はね。自由曲にあるトランペットのソロパートのことなんだけど」

 

梓に決まったって聞いている。

 

「オーディションで小牧(こまき)さんに決まったの。でも、沙也(さや)に吹いて欲しいって思ってる二年生の子が反発して、木曜日に騒ぎになっちゃったの」

 

初耳だな……。

 

木金土と、普通に防音室貸してたけど、いつも通りだったぞ。

 

「騒ぎ、とは?」

 

「オーディションに不正が有ったんじゃないかって」

 

不正……?

 

あの顧問に限ってそんなことは有り得ない。

 

あるとすれば部員側……。

 

「どんな内容ですか?」

 

「沙也がね。前日に軽い熱中症になっちゃったの」

 

オーディション前日って、すぐそこで二人で練習していた日じゃないか!

 

しかも、俺が熱中症に気を付けてって注意した。

 

「それでオーディションが本調子ではなかったって。そもそも、外で練習してたのが、誰かの企みで教室が使えなかったのが原因だとか、沙也が飲んでたペットボトルの水の中身が、水道水に変えられていて、熱中症予防に効果がなかったとか。一方的に捲くし立てて、誰も反論出来なかったの」

 

呆れた。先輩にではなく、その二年生に。

 

そんなこと、言い掛かりも甚だしい。

 

誰が何処(どこ)で練習してたって、それは個人の自由だろう。

 

水の取り替えなんてやるか? 普通。誰か見ていたのだろうか。

 

仮に、教室が使えなくなっていたり、水が変えられていたとしても、それは誰が何のためにやるのか?

 

「それで、不正支持の子たちに、元々滝先生の厳しい指導をよく思っていない子たちが加わって、このどちらでもない子たちと、対立しつつあるの」

 

部が二分されるのだろうか。おいおい、コンクールは何処行った?

 

こんな大切な時期に暇ですね……。と、言いたいけれど、口が裂けても言えない。

 

「事情は掌握(しょうあく)しました。そこで聞きたいのですが、先輩はこの事態をどうしたいんですか?」

 

「えっ?」

 

俺の問いかけに、はっとする。

 

「不正の有無を調べて欲しいのか、ソロパートを加納先輩に交代させれば良いのか。それとも他の何かでしょうか?」

 

「それは……」

 

はっきりしてくださいよ。

 

仕方ない。

 

「分かりました。全部ひっくるめて俺が何とかします」

 

やれるだけやってみよう。

 

暇じゃないけれど、時間なら幾らでも作れるし。

 

「本当に! ありがとう!」

 

先輩、嬉しそうだな……。まだ何も解決していないのに。

 

「とりあえず、コンクールまでの練習スケジュールを知りたいです。紙であるなら下さい」

 

「えっ。うん」

 

「それと……」

 

残酷な質問かもしれないが、これは絶対だ。

 

「先輩はソロ。梓と加納先輩のどちらに吹いてもらいたいんですか?」

 

「私は……」

 

「副部長を(たて)にしないでくださいね?」

 

昨日かわされてるからな。

 

「私は。今年が最後だから……。絶対全国に行きたい。そのためにも、上手い人が吹くべきだと思う。だから、小牧さんに吹いて欲しい……」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。