【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
お待たせ致しました。
夏休みが終わりましたね……。
物語に季節が追い付いた……。そのまま追い越されそうです(汗)。
先輩はどちらかというと無口なタイプで、こちらから振らない限り話をすることはない。
しかも、会話が続かない。
それでも、律儀に朝夕と部室に顔を出し、黙々と読書をしている。
さて、この人にはどう接すれば良いのだろう……。
朝。6時半頃に登校。
グランドで練習している運動部を横に見ながら、昇降口へ向かう。
3年生が引退してしまったからか、部員の数が少なくなった。
それでも運動部。声の大きさは、春先の全学年が揃っていた頃と変わらない。
靴を替え、職員室へ向かう。
「失礼します」
9月に入っても一向に涼しくならないため、職員室には冷房が利いていて涼しい……。
「1-2の
「あ、金山。待って」
言い終えると、すぐに声が掛かった。
この声は、英語の
ハーフ……クォーターだっけか? 髪が赤いのが(※地毛)特徴の先生だ。
「何でしょう?」
「鍵なら、2年生の女の子が借りてったわ。だから無い」
2年生。加木屋先輩か……。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
言い方は素っ気ないけれど、親切に教えてくれたのか……。
赤毛の下から覗く顔は無表情。この先生、何を考えているのか分からない……。
「あ。金山、今日の授業で小テストやるから、よろしく」
職員室を出ようとしたら、突然こんなことを言われた。
「えっ? 小テストですか……」
夏休み明けの実力テストから、2週間経ってないのに?
「ええ。これ、あなたにしか言わないから、ほかの誰にも言わなければ、抜き打ちテストね」
「それ、俺に言って良いんですか? みんなに言いますよ?」
「構わないわ。それより早く部室行ったら?」
「は、はい。失礼しました……」
職員室を出る。
この先生、本当に謎だ。
でも、美人だから男女問わず人気なんだよな……。
それは滝先生も同じか。
但し、滝先生の場合、その本性を知っている吹奏楽部を除いた場合の話だけど……。
部室の扉には、鍵が掛かっていなかった。
ノックして扉を開ける。
「失礼します」
普段通り、声を掛けて入室。
今日は、加木屋先輩が居るはずだから、無言というわけにはいかないだろう。
「おはようございます」
「おはよう……」
やっぱり。加木屋先輩が居る。
挨拶をすると、短く挨拶が返ってきた。読書中だ。
一度、こちらを見たその顔は無表情だった。
「先輩、朝早いんですね」
話し掛けながらも、パソコンの電源を入れる。
「家、近いから」
顔を逸らさずに、返事をしてきた。
立ち上がるまで、少し時間が掛かる。その間、会話が続くだろうか。
「へぇ……どの辺りですか?」
「5分くらいの所」
5分。徒歩か自転車か。それによって場所が変わってくる。
しかし、俺の勝手な偏見だけど、先輩に自転車は似合わない。
徒歩だとしたら、5分圏内だとすると、俺と同じ町内の可能性もある。
……あ!
そういえば、件の騒音クレーマーが住んでいた家。もう新しい住人が入居したんだ。
確か、新しい住人は『カリヤ』って名前……。もしかして。
「一本奥の通りの5軒目ですか?」
カタッ。音が室内に響く。
先輩が、持っている本を落としたのだ。
落とした、といっても、机で本を読んでいたわけだから、高さは10センチにも満たない。それでも、少し大きめの音が出た。
しかし、本を落とすなんて尋常ではない。
「な、何故それを?」
先輩は、心なしか震えているように見える。
「あ、俺家がすぐ目の前なんですよ、学校の門を出て真正面の。それで、同じ町内で最近引っ越していった家に、新しく引っ越してきた人がいるって聞いてて、その人の名前、『カリヤ』って聞いていたんで。もしかして『
慌てて一方的に捲くし立ててしまった……。
「そう」
先輩の震えは止まっている。
「えっ? じゃあ、もしかして、あなたが金山 はるか……?」
しかし、なにかに気付いたらしく、また震えだす。
でも、今度はさっきと違う理由のようだ。
青くなりかけていた顔が、今度は赤い。
さっきまでのが恐怖だとしたら、今度は羞恥だろう。
「はい。俺が金山 はるかです」
震えている理由は恐らく……、
「町内会長さんから、同じ町内に北宇治の子がいるから、困ったら頼ると良いって聞いてた。はるかって名前だから、女の子だと思ってた……」
やっぱり。
「あ、あなたのことだったの……」
そういう
しかし町内会長も意地悪だな。名前だけ教えたら、誰だって女の子だと思うだろう。
「それでは改めまして。俺が、金山 はるかです。同じ部活というのも何かの縁でしょうから、困ったことは何でも聞いてください」
ってこれ、何度目の改めましてだろう。
「えっと。とりあえず今聞きたいことはないかな……」
そうか。
「あ、それなら俺から一つ頼みたいこと、というか、相談があるんですが、良いですか?」
「何?」
「編入してきて早速ではあるんですが、今月末に文化祭があるんですね」
「話は聞いた。私のクラスは合同で喫茶店やるって」
なるほど。喫茶店ね。
因みに、俺のクラスは合同で劇をやるらしい。
らしい、っていうのは、俺は1人で部活動の出し物(物語の本の制作)があるため、免除してもらったからだ。
最初、脚本を書かされそうになったが、断固拒否した……。
「文芸同好会として、活動報告みたいなものを作らなきゃあ、いけないんですね。それで物語を書いたんですが、校正も兼ねて先輩に読んでもらいたいんですよ」
「こ、校正……?」
「そんな難しく考えなくても大丈夫ですよ。製本は業者に依頼しますし、正式な校正はプロにお願いすることになってるんで。添削みたいな感じでお願いしたいんです」
何処の誰に依頼するかはお察しください……。
「分かった。やってみる」
少し悩んだようだが、いい返事を貰えた。
「ありがとうございます! 早速ですが、これです」
パソコンから出力してある原稿の入ったクリアファイルを先輩に差し出す。
長さとしては、原稿用紙25枚くらい。
「
「5日ぐらいでお願いしたいです」
締切を考えると、6日が限界だろう。
「……分かった。それじゃあ授業行くから失礼……」
えっ? もうそんな時間か。
俺も授業行かなきゃ……。
午前の授業が終わり、昼休みがやって来た。
とりあえず、昼食を済ませたい。
お弁当を広げる……何だ?
廊下の方が騒がしい。
「
「はるかー!」
「金山くーん!」
俺?
廊下の方に集まった視線が、今度は俺に向く。
「あ、居た!」
扉のところを見ると、
確か、全員2-1。同じクラス……。
「一体何したの?」
「どういう事?」
「どうなってるのさ?」
「渡したの何かな?」
4人一斉に話し掛けられる。
「待って待って。状況が分かりません。何の話ですか? それに、一気に話掛けられても、答えられませんよ」
それもそうか。そう呟きながら、4人顔を見合わせる。
誰が話すか相談している模様。
しかし、俺に一体何の話があるんだろう?
何をした。何を渡した。……
渡したのは、冊子用の物語の原稿。
とんでもない
加木屋先輩が笑うところを見たことがないから、その理由を知りたいというのなら、合点するが。
それとも、俺の文章力に呆れ、読まずに捨ててしまったとか?
一応、著作が出版されている作家だ。そんなにひどい物語を書いたつもりはないが。
……ようやく決まったらしい。
アカネ先輩が俺の方に向き直った。
「授業の間の時間にね、加木屋さんが原稿用紙を読んでいたの」
俺が渡した原稿だろう。
「そうしたらね、彼女原稿用紙持ったまま急に震えだして……。擬音にするなら『わなわな』って感じ? あの原稿用紙は何かな?」
震えた? 何で?
「あれは、文化祭に出展する冊子用の物語です。文芸部の活動日誌みたいなお話ですね」
もちろん、我が文芸同好会の話ではない。そんな物を書いたら、俺の正体を
あくまで創作のお話。
しかし、話を聞いた感じだと、とんでもない誤植はあり得るが、文章力には問題無さそう……。
「加木屋先輩がなんで驚いたかは、俺には分かりません。本人に聞いてみるしか……」
「聞けって?」
「私が?」
「俺は無理!」
3人は3人で話し合っている。
そろそろ限界か?
1年生の教室に2年生が4人も来ている。
既に教室内は異様な空気が漂っている。主に俺の周りで。
この様子を、廊下を往来する他のクラスや上級生に見られ続けるのは、後々面倒なことになりそうだ。
「さて。そんなに気になるのなら、今から本人に直接聞きに行きましょうか?」
そう言い立ち上がる。
「えっ?」
「今から?」
「直接って……」
うろたえてどうするんですか……。
「さ、行きますよ。先輩方」
先輩4人を押しながら、教室を出る。
「あ、そうだ」
出る際、わざとらしく教室内に向き直る。
「
言い終えると、そのまま歩き出す。
『2年1組』
突き出しプレートにそう書かれている教室に到着。
あのプレート、ヒビが入ってる……。誰の
扉の所から中の様子を窺うと、お弁当を食べていたり、談笑していたり、予習中だったり様々だ。
その中で、手に持った紙を食い入るように見つめている人物がいる。
他ならぬ加木屋先輩だ。
「凄い集中力だよね」
「穴開かない?」
「例えでしょう?」
「目は良いんだろうね」
先輩方4人、自分たちの教室のはずなのに、廊下から室内を眺めている。
シュールな光景だ。
「失礼します。加木屋先輩、ちょっと良いですか?」
教室に入り、声を掛ける。
しかし、先輩は集中しており、俺の存在には気づいていない。
「加木屋先輩?」
机の横に立ち、もう一度声を掛ける。
やはり無反応。
「ねえ」
後ろから肩を叩かれた。
「はい」
振り向くと、肩を叩いた人が廊下の方を指差した。
「何あれ?」
「何でしょうね……。俺にはさっぱり分かりません」
自分の教室なんだから、入ってくればいいのに……。
「君、吹奏楽部だっけ?」
間違っていないけど、そういう認識なのか。
「はい。吹奏楽部であり、文芸同好会でもあります。申し遅れました。1-2の金山 はるかです」
「君が金山くんか。
黒田先輩か。
一体、菜穂子からどう聞いているんだろう?
「文芸同好会として加木屋先輩に……」
「加木屋さん、文芸同好会に入ったの?」
そんなに驚くことか?
「はい。」
「加木屋さん、あまり人と話さないタイプだからね。僕とか、大里さんとなら、色々話したり相談されたりもするんだけどさ……」
そう言いながら、黒田先輩は加木屋先輩を見る。
俺もそちらに視線移す。
相変わらず、原稿用紙に釘付け。全く視線が逸れない。本当に凄い集中力だ。
「駄目だねこの様子だと。何の用かな?」
「先輩が読んでるこの原稿。何か、読んで震えていたらしいんですね。あの4人から聞いた話なんですが」
「ああ。確かに驚いていたね。何か呟いていたね……。
俺の
「ありがとうございます……。とりあえず、俺は帰りますね。俺がここに来たことは言わなくても大丈夫ですので。まあ、隠すわけではないですし、どうせあの4人が言うでしょうから……」
「そう? じゃあね。何かあったら
「ありがとうございます。失礼しました……」