【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
月曜日の朝。
いつも通りの時間に登校する。
職員室で鍵を借りてから、文芸同好会の部室(図書館閉架書庫室)に向かう。
……誰かいる。
「あ、はるか。おはよう」
「おはようございます。朝からどうしました?」
「ちょっと相談したいことがあってね」
そう言い、扉の横へ視線を移す。
俺も同じところを見る。
『金山相談所』なるほどね。
鍵を開けて扉を開く。
「どうぞ」
「ありがとう。失礼します」
さて。相談とは何だろう……。
昨日一緒にいたのに、あの場で話さなかった……。
屋外ではしにくい話……。ということはないだろう。
まさか、恋の相談ではないよな。
先輩と俺の仲だ。有り得ない話ではないが、昨日が休みだったから、今日は朝から部活があるはず。遅刻してまで恋バナするような人ではないことも知っている。
ならば……。
「吹奏楽部に関する相談ですね?」
「えっ? うん」
やはり。
もしかすると、俺が昨日聞きたかった話と同じかもしれない。
「
絶句。と言うのが適切だろうか。
先輩は驚いて何も言えない様子だ。
「合ってました?」
「うん……。その二人のことだよ。何で分かったの?」
何で、と言われても。
昨日の今日だし、先輩と俺の仲だからこそ、知り得たと言うべきか。
「何となく、ですね」
ここは上手く誤魔化す。
「えっと、それはどういう話で、至った
「実はね。自由曲にあるトランペットのソロパートのことなんだけど」
梓に決まったって聞いている。
「オーディションで
初耳だな……。
木金土と、普通に防音室貸してたけど、いつも通りだったぞ。
「騒ぎ、とは?」
「オーディションに不正が有ったんじゃないかって」
不正……?
あの顧問に限ってそんなことは有り得ない。
あるとすれば部員側……。
「どんな内容ですか?」
「沙也がね。前日に軽い熱中症になっちゃったの」
オーディション前日って、すぐそこで二人で練習していた日じゃないか!
しかも、俺が熱中症に気を付けてって注意した。
「それでオーディションが本調子ではなかったって。そもそも、外で練習してたのが、誰かの企みで教室が使えなかったのが原因だとか、沙也が飲んでたペットボトルの水の中身が、水道水に変えられていて、熱中症予防に効果がなかったとか。一方的に捲くし立てて、誰も反論出来なかったの」
呆れた。先輩にではなく、その二年生に。
そんなこと、言い掛かりも甚だしい。
誰が
水の取り替えなんてやるか? 普通。誰か見ていたのだろうか。
仮に、教室が使えなくなっていたり、水が変えられていたとしても、それは誰が何のためにやるのか?
「それで、不正支持の子たちに、元々滝先生の厳しい指導をよく思っていない子たちが加わって、このどちらでもない子たちと、対立しつつあるの」
部が二分されるのだろうか。おいおい、コンクールは何処行った?
こんな大切な時期に暇ですね……。と、言いたいけれど、口が裂けても言えない。
「事情は
「えっ?」
俺の問いかけに、はっとする。
「不正の有無を調べて欲しいのか、ソロパートを加納先輩に交代させれば良いのか。それとも他の何かでしょうか?」
「それは……」
はっきりしてくださいよ。
仕方ない。
「分かりました。全部ひっくるめて俺が何とかします」
やれるだけやってみよう。
暇じゃないけれど、時間なら幾らでも作れるし。
「本当に! ありがとう!」
先輩、嬉しそうだな……。まだ何も解決していないのに。
「とりあえず、コンクールまでの練習スケジュールを知りたいです。紙であるなら下さい」
「えっ。うん」
「それと……」
残酷な質問かもしれないが、これは絶対だ。
「先輩はソロ。梓と加納先輩のどちらに吹いてもらいたいんですか?」
「私は……」
「副部長を
昨日かわされてるからな。
「私は。今年が最後だから……。絶対全国に行きたい。そのためにも、上手い人が吹くべきだと思う。だから、小牧さんに吹いて欲しい……」