【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

55 / 90

気付いたら、あっという間に半年経ってました。

皆様に支えられてここまでやって来れました。ありがとうございます。


今回は番外編として(?)、滝野先生視点のお話をお贈りします。

位置は、前話からの続きです。



     放課後の職員室②

 

「お疲れ様です」

 

「はい。お疲れ様でした」

 

帰って行く先生を見送る。

 

時刻は17時過ぎ、部活顧問の先生は部活に行っているし、デスクワークがある先生はこの職員室で仕事中。どちらでもない先生は帰って行く。

 

俺は小テストの採点中だ。

 

このテストには地味な引っかけ問題を出したので、それに俺自身が引っかからないように注意しながら○×を付ける。

 

正直採点が面倒だ。やるんじゃなかった……。

 

「あれ……? さっきと計算が違うぞ」

 

隣では西尾(にしお)先生が、書類と格闘中だ。

 

「先生、部活は良いんですか?」

 

「えっ? ああ、部活は江南(こうなん)先生にお願いしていますから大丈夫です。今日中にこの書類を片づけないと駄目なので……。そういう滝野(たきの)先生こそ、部活は良いんですか?」

 

黄前(おうまえ)先生が行ってるよ。俺は所詮副顧問だからね……」

 

あの狭い部屋に2人で行ったら窮屈なだけだ。

 

「そうですか。困ったなぁ……」

 

先生が眺めている書類は、収支報告らしい。

 

計算が合わないらしく、半泣きで眺めている。

 

「そんなに悩むなら、数学の先生を頼れば良いだろうに」

 

「そんなこと言っても誰も居ませんよ」

 

そう言われ、室内を見回す。

 

確かに。校内に残っていても、この部屋には居ない。

 

「滝野先生、黄前先生呼んでください」

 

黄前は、確かに数学担当だ。この部屋には居ないが、帰ったわけではない。部活に行っている。

 

「なんで俺が呼ばなきゃならんのだ。用があるのは西尾先生だろ? 呼びたきゃ自分で呼びなさい」

 

「えー」

 

こらそこ。涙目で訴えるな。俺に泣き落としは通用しな……。

 

「分かりました。自分で呼びます」

 

危なかった。もう少しで落ちるところだった……。

 

「その代わり、滝野先生が部活に行ってくださいよ」

 

嫌だ。面倒臭い。

 

というのは嘘、冗談だ。

 

「別に誰か居なきゃあ駄目な部じゃないんで、俺が行かなくても大丈夫ですよ」

 

「そんなんで良いんですか?」

 

「良いんです」

 

それに、金山は俺が居ない方がやりやすいだろう。

 

 

あいつは俺たちに何かを隠している。

 

それを知っている人間は校内に居ない。もし居たとしても、1人か2人だろう。

 

何を隠しているか気になるが、本人がそれを話してくれるまで、余計な詮索(せんさく)はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

西尾先生が電話を取ろうと手を伸ばした所、外線の着信音が鳴る。

 

「ええっ、電話? ……はい。京都府立北宇治高等学校です」

 

一瞬うろたえるも、そのまま出た。

 

「はい。えっ? もしかして(あかね)!」

 

電話の相手は誰だろう?

 

「久し振り! 元気だった? 小太郎(こたろう)くんも? 私は元気だよ。相変わらずね。今はこの学校に勤務してるよ。……何? 勿論顧問は陸上部だよ」

 

誰か知らないが、学校の電話を使ってする話ではないんじゃないか?

 

「ゴホン」

 

一発、わざとらしく咳払い。

 

「あ……えっと、何の用?」

 

一瞬俺の顔を見た西尾先生は、話を戻した。

 

しかし、誰からだろう?

 

「そうだけど。うん。そうだよ。えっ? 涼子(りょうこ)先生?」

 

涼子先生というと、園田(そのだ)先生か。……部活に行ってるな。席には居ない。

 

「呼んだ方が良い? 他に文芸部の顧問って……」

 

目線を隣に向ける。

 

西尾先生の向こう側、黄前先生は……居ない。

 

となると、副顧問は俺。

 

そのまま、西尾先生と目が合う。

 

そして、受話器を置いた。

 

「滝野先生、坂上(さかがみ)出版からお電話です」

 

坂上出版?

 

「俺宛ですか?」

 

「いや、文芸同好会宛ですね」

 

坂上出版から、文芸同好会宛に電話。

 

あ……分かった。

 

受話器を取る。

 

「はい。お電話代わりました、北宇治高等学校滝野です」

 

『あ、私坂上出版編集部の安曇(あずみ)と申します。文芸部の顧問の先生でしょうか?』

 

女性の声。

 

「はい、私が副顧問です。えっと、用件は金山のことでしょうか」

 

『えっ? はい。金山くんに連絡したいことがありまして、電話致しました』

 

やはり。

 

金山が文化祭用に製作している冊子は、出版社を通じて業者に依頼することになった。そう聞いている。

 

文芸同好会宛てに電話が来たのなら、その件しかないだろう。

 

「本人呼びましょうか?」

 

『あ、いえ、大丈夫です。お伝えいただければ』

 

「何を伝えましょうか?」

 

『文化祭用冊子のデータ、無事に受け取りました。そう、お伝えください』

 

文化祭用冊子のデータ。読み通りだな。

 

「分かりました。そのように伝えます」

 

『よろしくお願いします。それでは失礼します』

 

「はい。失礼します」

 

電話が切れる。

 

 

 

 

 

さて。気になったことを聞くか。

 

もちろん、学校の電話で私的な会話をしたことについての確認だ。

 

「西尾先生は、安曇さんとどういう関係なんですか?」

 

「同じ中学の出身です。陸上部で互いに切磋琢磨(せっさたくま)し頑張っていた仲間です」

 

同じ中学か……。

 

確か、川越(かわごえ)市の出身って言っていたから、そっちの方の人だろうか。

 

「彼女は私の目標だったんです。彼女を追い越すつもりで頑張ってました。一回だけ、抜いたことがありますね」

 

追い越すつもりで……か。

 

先生が自分の机上に視線を落とす。

 

手には、1枚の写真。

 

男女6人の集合写真だ。

 

証書筒に満開の桜……。卒業式のものだろう。

 

「あ、見ますか?」

 

俺の視線に気づいたのか、その写真が差し出される。

 

受け取ると、そのまま写真を指差す。

 

「これが私。で、隣のこの子が茜です」

 

先生若いな。いや、幼い感じだろうか。

 

それより、この髪が桃色のこの子は誰だ?

 

男なのか? ……西尾先生が赤いリボンで、この子はネクタイだから、男子なんだろう。

 

本当に男?

 

「ありがとうございます」

 

写真を返す。

 

「そういえば、滝野先生の中学時代って、どんな感じだったんですか?」

 

俺? 俺かぁ……。

 

「俺は中学の頃と言えば……」

 

駄目だ。ひたすらトランペット吹いていた記憶しかない……。

 

「部活ばかりだったな。ある先輩に憧れて、吹奏楽部に入って……ずっと」

 

「滝野先生吹奏楽部だったんですね」

 

あれ? 話したと思ってたけど。

 

「言ったよな? その話」

 

「聞きましたよ」

 

おい。

 

「中学の頃の話は初耳です」

 

失礼しました。

 

 

先輩か……。元気かな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か忘れていないか?

 

「西尾先生、書類は?」

 

「あ! 黄前先生助けて~!」

 

叫んでも聞こえんぞ。

 

 

 

 

 





設定の有無が分からないので、都合解釈でお願いします……。

滝野は、香織先輩と同じ中学校の出身で、彼女に憧れて入部。高校も彼女を追って北宇治に来た。ということになります。


西尾先生の過去については、こちらの原作『月がきれい』をご存じの方なら、あの集合写真の正体が分かると思います。

『月がきれい』は良い作品なので、見たことの無い方も一度ご覧になっては如何でしょう? 感動すると思いますよ。


さて。次から文化祭が始まります。

あまり引っ張るつもりはないのですが、長くなりそうです……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。