【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
気付いたら、あっという間に半年経ってました。
皆様に支えられてここまでやって来れました。ありがとうございます。
今回は番外編として(?)、滝野先生視点のお話をお贈りします。
位置は、前話からの続きです。
「お疲れ様です」
「はい。お疲れ様でした」
帰って行く先生を見送る。
時刻は17時過ぎ、部活顧問の先生は部活に行っているし、デスクワークがある先生はこの職員室で仕事中。どちらでもない先生は帰って行く。
俺は小テストの採点中だ。
このテストには地味な引っかけ問題を出したので、それに俺自身が引っかからないように注意しながら○×を付ける。
正直採点が面倒だ。やるんじゃなかった……。
「あれ……? さっきと計算が違うぞ」
隣では
「先生、部活は良いんですか?」
「えっ? ああ、部活は
「
あの狭い部屋に2人で行ったら窮屈なだけだ。
「そうですか。困ったなぁ……」
先生が眺めている書類は、収支報告らしい。
計算が合わないらしく、半泣きで眺めている。
「そんなに悩むなら、数学の先生を頼れば良いだろうに」
「そんなこと言っても誰も居ませんよ」
そう言われ、室内を見回す。
確かに。校内に残っていても、この部屋には居ない。
「滝野先生、黄前先生呼んでください」
黄前は、確かに数学担当だ。この部屋には居ないが、帰ったわけではない。部活に行っている。
「なんで俺が呼ばなきゃならんのだ。用があるのは西尾先生だろ? 呼びたきゃ自分で呼びなさい」
「えー」
こらそこ。涙目で訴えるな。俺に泣き落としは通用しな……。
「分かりました。自分で呼びます」
危なかった。もう少しで落ちるところだった……。
「その代わり、滝野先生が部活に行ってくださいよ」
嫌だ。面倒臭い。
というのは嘘、冗談だ。
「別に誰か居なきゃあ駄目な部じゃないんで、俺が行かなくても大丈夫ですよ」
「そんなんで良いんですか?」
「良いんです」
それに、金山は俺が居ない方がやりやすいだろう。
あいつは俺たちに何かを隠している。
それを知っている人間は校内に居ない。もし居たとしても、1人か2人だろう。
何を隠しているか気になるが、本人がそれを話してくれるまで、余計な
西尾先生が電話を取ろうと手を伸ばした所、外線の着信音が鳴る。
「ええっ、電話? ……はい。京都府立北宇治高等学校です」
一瞬うろたえるも、そのまま出た。
「はい。えっ? もしかして
電話の相手は誰だろう?
「久し振り! 元気だった?
誰か知らないが、学校の電話を使ってする話ではないんじゃないか?
「ゴホン」
一発、わざとらしく咳払い。
「あ……えっと、何の用?」
一瞬俺の顔を見た西尾先生は、話を戻した。
しかし、誰からだろう?
「そうだけど。うん。そうだよ。えっ?
涼子先生というと、
「呼んだ方が良い? 他に文芸部の顧問って……」
目線を隣に向ける。
西尾先生の向こう側、黄前先生は……居ない。
となると、副顧問は俺。
そのまま、西尾先生と目が合う。
そして、受話器を置いた。
「滝野先生、
坂上出版?
「俺宛ですか?」
「いや、文芸同好会宛ですね」
坂上出版から、文芸同好会宛に電話。
あ……分かった。
受話器を取る。
「はい。お電話代わりました、北宇治高等学校滝野です」
『あ、私坂上出版編集部の
女性の声。
「はい、私が副顧問です。えっと、用件は金山のことでしょうか」
『えっ? はい。金山くんに連絡したいことがありまして、電話致しました』
やはり。
金山が文化祭用に製作している冊子は、出版社を通じて業者に依頼することになった。そう聞いている。
文芸同好会宛てに電話が来たのなら、その件しかないだろう。
「本人呼びましょうか?」
『あ、いえ、大丈夫です。お伝えいただければ』
「何を伝えましょうか?」
『文化祭用冊子のデータ、無事に受け取りました。そう、お伝えください』
文化祭用冊子のデータ。読み通りだな。
「分かりました。そのように伝えます」
『よろしくお願いします。それでは失礼します』
「はい。失礼します」
電話が切れる。
さて。気になったことを聞くか。
もちろん、学校の電話で私的な会話をしたことについての確認だ。
「西尾先生は、安曇さんとどういう関係なんですか?」
「同じ中学の出身です。陸上部で互いに
同じ中学か……。
確か、
「彼女は私の目標だったんです。彼女を追い越すつもりで頑張ってました。一回だけ、抜いたことがありますね」
追い越すつもりで……か。
先生が自分の机上に視線を落とす。
手には、1枚の写真。
男女6人の集合写真だ。
証書筒に満開の桜……。卒業式のものだろう。
「あ、見ますか?」
俺の視線に気づいたのか、その写真が差し出される。
受け取ると、そのまま写真を指差す。
「これが私。で、隣のこの子が茜です」
先生若いな。いや、幼い感じだろうか。
それより、この髪が桃色のこの子は誰だ?
男なのか? ……西尾先生が赤いリボンで、この子はネクタイだから、男子なんだろう。
本当に男?
「ありがとうございます」
写真を返す。
「そういえば、滝野先生の中学時代って、どんな感じだったんですか?」
俺? 俺かぁ……。
「俺は中学の頃と言えば……」
駄目だ。ひたすらトランペット吹いていた記憶しかない……。
「部活ばかりだったな。ある先輩に憧れて、吹奏楽部に入って……ずっと」
「滝野先生吹奏楽部だったんですね」
あれ? 話したと思ってたけど。
「言ったよな? その話」
「聞きましたよ」
おい。
「中学の頃の話は初耳です」
失礼しました。
先輩か……。元気かな……?
何か忘れていないか?
「西尾先生、書類は?」
「あ! 黄前先生助けて~!」
叫んでも聞こえんぞ。
設定の有無が分からないので、都合解釈でお願いします……。
滝野は、香織先輩と同じ中学校の出身で、彼女に憧れて入部。高校も彼女を追って北宇治に来た。ということになります。
西尾先生の過去については、こちらの原作『月がきれい』をご存じの方なら、あの集合写真の正体が分かると思います。
『月がきれい』は良い作品なので、見たことの無い方も一度ご覧になっては如何でしょう? 感動すると思いますよ。
さて。次から文化祭が始まります。
あまり引っ張るつもりはないのですが、長くなりそうです……。