【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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9-2……真っ先に金山くんに会いに来たんです

 

来客が多く、執筆(しっぴつ)に集中出来ない。

 

物を頒布(はんぷ)している以上、来客対応は当然といえばそうなんだけど、こうなることは予想外だった。

 

もっと暇だと思っていたのに……。

 

お。廊下から声が聞こえる。誰か来るようだ。

 

「あ、金山(かなやま)くん。お久しぶりです~」

 

「久し振り! 元気か?」

 

やって来たのは川島(かわしま)さんと塚本(つかもと)さんだ。

 

「こんにちは。今日はお休みですか?」

 

「いえ。塚本くんは明けで、私は夕方から仕事です」

 

明け……? 仕事終わりということだろう。

 

電車の運転士は大変だな……。

 

「物語の冊子を頒布しているんですね。どんな調子ですか?」

 

「どうもこうも。散々です。ほぼ関係者しか来ませんから……」

 

顧問の先生、卒業生。そして、吹奏楽部員。

 

「まあ、立地が悪いよな。ここは……」

 

塚本さん、分かってらっしゃる……。

 

こんな場所でやってるんだから、仕方がない。

 

「これ、金山くんが書いたお話ですか?」

 

川島さんは既に、冊子を手に取り開いていた。

 

「はい。俺が書きました」

 

「ほら、秀一くんも」

 

「俺も?」

 

川島さんに促され、塚本さんも冊子を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、この文芸同好会のお話ではないんですね」

 

先に口を開いたのは川島さんだった。

 

「フィクションですよ」

 

ここの話を書いたら、俺の正体が公になってしまう。そんなヘマはしない。

 

「失礼します。金山、調子はどうだ?」

 

誰か入ってきたようだ。

 

この場所からだと、2人が楯になっていて確認できない。

 

しかし、この声は間違いなく……。

 

「おや? 川島に塚本か!」

 

呼ばれた2人が振り向く。

 

「あ! 松本(まつもと)先生。お久しぶりです」

 

「松本先生、御無沙汰(ごぶさた)です」

 

軍曹先生こと、松本先生だ。

 

「久し振りだな。元気か?」

 

「はい。元気に頑張ってますよ」

 

「先生も元気そうで良かったです。久美子から、体調が良くないみたいって聞いていたので……」

 

そうか? 体調が悪いようには見えないけれど。

 

強いて言うなら……、

 

「ちょっと夏バテしただけだ。問題ない」

 

だよね。そんな感じがしてた。

 

「今年の吹奏楽部は大変なんだよ。大会毎に問題が発生してな……」

 

思い出す。忘れようと思っても、忘れられない問題の数々……。

 

もちろん、忘れるつもりはない。

 

加納(かのう)から聞きました。府大会の時は、滝先生が入院されていたんですよね?」

 

そうだ。塚本さんと加納先輩は同じマンションに住んでいるんだっけ。

 

「ああ。それで府大会は急遽私が指揮をすることになった。でもまあ、関西大会に出場出来て良かった」

 

「その関西大会でもトラブルが発生したんですよね」

 

あれは思い出すだけで苦笑い。

 

「そうだ。事故渋滞で動けなくなって、私たちは会場に行けなかったんだ」

 

「そんなことが。その後はどうなったのですか?」

 

川島さんは初耳らしく、興味津々(きょうみしんしん)のようだ。

 

「別件で先に和歌山に行っていた前顧問の園田(そのだ)先生に代役をお願いした。それで、見事全国大会出場を決めたってわけだ」

 

あのときは、先生方の情報伝達が上手く行っておらず、俺たちは変な場所(Twitter)から情報を入手した。

 

大騒ぎだったなぁ……。

 

「そうなんですね! その園田先生にお会いしてみたいです。どちらに行けば会えますか?」

 

「川島は体育館のコンサートは聞いてないのか?」

 

「残念ながら……」

 

満員だから入れなかったのか……。

 

「今さっき着いたばかりなので……」

 

そっちですか。

 

「だから、真っ先に金山くんに会いに来たんですよ」

 

それは光栄です。

 

「ありがとうございます」

 

そういえば、川島さんと塚本さんは、さっき手に取った冊子を持ったままだ。

 

「川島。手に持ってるそれは?」

 

松本先生がそれに気付いたようだ。

 

「ここで頒布してる奴です。金山くんの書いたお話らしいですよ」

 

「あ。川島、まだお金払ってないぞ」

 

はい。お代がまだですよ。

 

「おっと。そうでした。金山くん、幾らですか?」

 

「200円です」

 

金額を聞くと、2人は財布を取り出した。

 

塚本さんが200円を取り出し、俺に渡そうとしたところ、川島さんが取り上げた。

 

「えっ?」

 

「あ?」

 

塚本さんが驚く。

 

手を伸ばしていた俺も驚いた。

 

川島さんはその200円を自分の財布に入れ、代わりに1枚の硬貨を取り出した。

 

「はい。秀一くんと私の分です。お釣りは要りませんので、受け取ってください」

 

500円玉……。

 

「ありがとうございます」

 

「これからも頑張ってくださいね。では、失礼します」

 

敬礼だ。もはや、彼女の代名詞になっている。

 

「秀一くん、次行きましょう! 松本先生、ありがとうございました」

 

「ああ、頑張れよ」

 

 

 

あれ? 結局、彼女園田先生に会うにはどこへ行けばいいか、聞かずに行っちゃった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残ったのは松本先生。

 

「そうか。金山は川島や塚本とも面識があるんだな」

 

「そうですね。2人ともここの卒業生ということですし、俺の場合名前がね……川島さんと境遇というか、似てる部分があるというか……」

 

「まあ、そうだな。川島は……。最初、私も名前を読み間違えてしまったんだ」

 

緑輝(サファイア)。読める方が凄い。

 

「2人とも吹奏楽部では大活躍だったな。金山はその頃の大会成績は知ってるよな」

 

「3年生の時に、全国大会で金賞ですよね」

 

「流石、金山は何でも知ってるんだな」

 

おいおい、松本先生までウィキペディアくんとか言わないよな?

 

「200円だな。1冊貰おう」

 

そう言って、冊子の山に手を伸ばす。

 

「えっ、ありがとうございます……」

 

「頑張れよ。あ、そういえば、あの2人園田先生に会いに行くとか言いながら、場所を聞かずに行ったな……」

 

そんなことを言いながら、松本先生が出て行く。

 

 

 

何というか、あっという間だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん。来たよ」

 

制服姿の中学生……って。

 

「ゆうきか……。1人?」

 

「勿論。こんなとこまで来る物好き中学生は居ないよ~」

 

「それ、自分は物好きだって認めてるようなものだぞ」

 

「違うとでも?」

 

違わないな……。

 

「そういえば、なんで制服なんだ?」

 

今日は学校、休みのはずだが。

 

「一応、高校見学ってことになるから、制服で行くように学校から言われてるよ。ってか、お兄ちゃん、去年来なかったの?」

 

来てない……。

 

その頃には既に北宇治進学を決めていたから……。いや、原稿が忙しくてそれどころじゃなかったんだっけ? もう思い出せない……。

 

「ところで、ゆうきは何しに来たんだ?」

 

「顔出しに来ただけだよ。来ないのはまずいと思って」

 

別に来なくても良かったんだけど……。

 

「それじゃあ~」

 

言うが早い。部屋を出て行く。

 

本当に顔見せだけかよ……。

 

「貰ってくれないのかー!」

 

「どうせ余るでしょ? そんなにたくさんあるなら……」

 

後で持って帰ってこいってことか。ちゃっかりしてるよ。全く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

黄前(おうまえ)先生が戻ってきた。

 

少し気の抜けた声だ。

 

疲れているのだろう。

 

「何があったんですか?」

 

「まあね。ちょっと野暮用があったの。力仕事もあったから疲れちゃった。……よいしょっと」

 

若干年寄り臭い掛け声で、先生は俺の隣の椅子に腰掛けた。何で?

 

「代わるから、少し校内回ってきたら?」

 

どうやら、交代してくれるらしい。

 

「良いんですか?」

 

「ずっと座りっぱなしも大変でしょう。ちょうどお昼だし、行ってきなよ」

 

時計を見ると、12時を過ぎている。

 

「そうですね。お言葉に甘えて」

 

椅子から立ち上がる。

 

おっと、パソコンの原稿データ保存しておかないと……。

 

「そういえば、エクセルのショートカットキーの使い方って、分かってるの?」

 

唐突に、先生から言葉が飛んできた。

 

「エクセルのショートカットキー? Ctrl+Sとかですか?」

 

今、それを押したばかりだ。

 

「そうそれ。イマイチ分からないんだよね。だから、いつも選択、右クリック、コピー……ってやっていたら、江南(こうなん)先生に怒られちゃった。遅い、って」

 

確かに。いちいち右クリックなんてやっていたら、時間が掛かってしまう。

 

だからって怒るのもどうかと思う。あ、でも江南先生が? あの人怒るのか?

 

「あとで説明しますよ。俺が分かる範囲で」

 

「本当? 助かるよ。人多いから気を付けてね」

 

「はい。行ってきます」

 

 

 

 

閉架書庫室を出ると、室内では気付かなかった様々な音が聞こえてくる。

 

そのほとんどが客引きの声で、隣の校舎に来ると顕著に聞こえる。

 

「あれ? 金山(かなやま)くんだ」

 

「あ。傘木(かさぎ)さん……」

 

廊下で傘木さんに出会う。

 

「1人なの?」

 

「はい。元々文芸同好会は俺1人みたいなものなので、ずっと接客対応してました」

 

とはいえ、来たのは身内やその関係者だけど。

 

「それで、黄前先生が代わってくれたので、お昼に来ました」

 

「なるほどね。じゃあ、今時間あるんだ?」

 

「えっ? はい。しばらくは大丈夫だと思います。あ、ごめんなさい……」

 

廊下で立ち話をしていたので、他の人の通行を妨げていた。

 

脇に寄って話を続ける。

 

「なら、私と一緒に回らない? 私も今なら時間あるんだ」

 

傘木さんと? それよりも、気になったワードがある。

 

「今ならって、傘木さんは何かするために来てるんですか?」

 

「酷いなぁ。同窓会が模擬店出してるのは知ってるよね? カレーや焼きそばとか、食べ物メインで」

 

「はい。体育館裏の通りでやってるんですよね?」

 

「そうそれ。私も手伝ってるの。それの担当の時間が終わったから、今なら時間あるの」

 

なるほど。そういうことなのか。

 

「分かりました。一緒に行きましょうか」

 

「オッケー。じゃあ、まずはお昼ご飯だね」

 

 

 

そういうわけで模擬店の通りに連れて行かれた訳だが、俺が関係者の傘木さんと一緒に居たからか、吹奏楽部員だからか、理由は分からないけれど、かなりサービスしてもらえた。

 

もちろん、お金は払ったんだけど、200円とかなり安価だったし、量が普通じゃなかった。

 

あの模擬店の人、傘木さんは『ナックル先輩』と呼んでいたけれど、何者なんだろう?

 

名前だけは何処かで聞いたことがある気がするんだけも……。

 

 

 

焼きそばだけでお腹いっぱいになってしまった……。嬉しいような、悲しいような。

 

他にも美味しそうなものが沢山あったのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔出しに加木屋(かぎや)先輩のクラスに行こうと思っていたけれど、お腹いっぱいなので後回し。

 

そんなわけでやって来たのが『最恐伝説の館』。

 

「お化け屋敷だよね……?」

 

「だと思います」

 

怖いのだろうか?

 

「入ろっか?」

 

傘木さんがそのつもりなら……。

 

「入りますか? じゃあ、行ってらっしゃーい」

 

入口のゲートを管理している人の、陽気な声で送り込まれる(?)

 

「……」

 

「……?」

 

というわけで、入ってみた。

 

「何ですか、これ?」

 

最初の区画は、普通教室の4分の1くらいに区切られていて、普通に明るい。

 

お化け屋敷あるあるなBGMが流れているものの、お化けみたいな物もなく、怖さは感じられない。

 

「これ、お化け屋敷なんですかね?」

 

「どうだろう。……何これ?」

 

傘木さんが、壁一面に貼られている紙に気付く。

 

「えっと……『督促状(とくそくじょう)』だって。借金300万円、今すぐ返せって」

 

俺も他の紙を見る。どれどれ……。

 

「こっちはテストですね。0点……」

 

「『課題未提出者。出さない場合は、落第』って書いてある」

 

「『逮捕状』。これ、本物そっくりなんでしょうか……?」

 

「いや。私実物見たことないからね?」

 

そりゃあそうだろう。

 

「これが最恐伝説なのかな? 人によっては怖いかもしれないけど……」

 

確かに。傘木さんの言うとおりだ。

 

これも人によっては『怖い』と思うだろう。

 

『順路→』に従って進むと、黒いカーテンが下がったゲートがある。

 

『最恐伝説という洒落(しゃれ)にお付き合い頂きありがとうございます。怖かったでしょう? この先お化け屋敷、本当の最恐伝説のつもりです』

 

横の貼り紙にこう書かれている。

 

洒落なのか……。

 

 

 

 

 

カーテンを潜ると、本当のお化け屋敷が現れた。

 

「か、金山くん……だ、だ、大丈夫なの……」

 

入ってすぐ、天井から吊されたこんにゃくにビビった傘木さんは、俺の腕にしがみついている。

 

「こんなの普通でしょう。ほら、怖くないですよ」

 

こんにゃくなんて古典的……。人が多いからか、暑さ故か、多少乾いていた。

 

「傘木さん、大丈夫ですよ。ほら、笑い声が聞こえますから……」

 

他のグループだろうか。先の方から聞こえるのは、悲鳴ではなく笑い声だ。

 

「おおおお化け役の子の声なんじゃない?」

 

「そうですか? 普通に笑ってますよ」

 

なんとなくだけど、川島さんの声じゃないか? 似てる。

 

「そうかな……キャー!」

 

傘木さんが悲鳴を上げる。

 

「うわっ! ゾ、ゾンビ……」

 

目の前にゾンビが現れた。

 

驚いた。……悲鳴のほうに。

 

「怖くないですよ。傘木さん。……傘木さん?」

 

あーあ。泣いてるよこの人。

 

おいおい。ゾンビは笑ってるよ。

 

……よく見れば、クラの寺本(てらもと)先輩じゃないか。これ、3年生の出し物なのか。

 

 

 

「確かに最恐だったかも。怖かった……」

 

外に出て来ると、傘木さんは中で泣いていたからか目元が赤くなっていた。

 

「ですね。心臓に悪いです」

 

終始傘木さんが俺の腕に抱きついていて、いろんなところが当たっていた。という意味で……。

 

「金山くん、どうでした?」

 

「あ、日比野(ひびの)先輩。これ、先輩のクラスですか?」

 

出口のゲートを管理しているのは、コンバスの日比野先輩だ。

 

「2-7と3-7の合同だよ。進学クラス同士で組んだんだよね。言い出しっぺはクラス委員長だったかな?」

 

「ああ。だから寺本先輩も居たんですね」

 

「金山くん気付いた? あのメイク。大江(おおえ)先輩の力作だよ。怖かったでしょ?」

 

テナサクの大江先輩か。あの人日頃からメイクが濃いと思ってたけど、こういう特技があったのか。

 

「はい。怖かったです……それなりに」

 

傘木さんは強がってるけど、その涙声じゃあ説得力はない。

 

「なら良かった。そちらの方も楽しんで頂けたようでなにより」

 

「はい。彼女、終始泣きっぱなしで……悲鳴の方が怖かったです」

 

「良かったよ。さっきなんか、全然怖くなかったって、笑いながら出てきた人も居たからね」

 

やっぱり。笑い声はお化けではなく、客のほうだったか。

 

 

 

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