【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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9-3……私を誰だと思ってるの?

 

2-1・2-2合同の喫茶店にやって来た。

 

「いらっしゃいませ~。お2人様ですね~」

 

客引きの生徒の案内で中へと入る。

 

時間が良いのか、予想よりも空いている。

 

「こちらの席へどうぞ。少々お待ちください」

 

案内されたのは、丸テーブルの4人席だ。

 

向かい合って座る。

 

「いらっしゃいませ~。あ、金山(かなやま)くんに傘木(かさぎ)さん。来てくれたんだ」

 

アカネ先輩がやって来た。

 

俺たちの席の応対をしてくれるみたいだ。

 

「部室、顔出しに行けなくてごめんね。ちょっと手が放せなくて……」

 

そう言われたので、室内を見渡す。

 

失礼ながら、決して忙しいようには見えない。

 

俺の視線に気づいたのか、先輩は言葉を続ける。

 

「別に忙しいってわけじゃないんだけど、衣装があまりにもぴったりだからって、抜けれなくなっちゃったの。これ、似合ってるかな……?」

 

アカネ先輩も着ている接客係の衣装は、白の長袖カッターシャツに、グレーのスラックス。一見、男子の制服みたい(北宇治は所謂(いわゆる)学ランなので、ちょっと違う)。

 

そこに、黒の腰巻きのエプロン。

 

喫茶店やレストランのウェイターの衣装に似てる。

 

「そうだね……」

 

傘木さんは、アカネ先輩を見てから、俺の方を向いた。そして、またアカネ先輩を見る。

 

「男の子の制服みたいだから、ボーイッシュな感じの人にはぴったりじゃないかな?」

 

それ、褒めてるんだろうか?

 

「傘木さんが着ても似合うと思いますよ」

 

ほら、変な対抗心抱かれた。

 

「だよね。私の時はメイド喫茶だったから、メイド服着せられたけど、私もそんな感じの衣装が良かったな……」

 

マジか……。

 

メイド喫茶か。一時期流行ったらしいね……。

 

というか、そろそろ周りの視線が刺さり始める。

 

「傘木さん。喋ってないで注文決めましょう。先輩も、注文取ってください」

 

そろそろ(アカネ先輩が)怒られそうな雰囲気になってきたので、多少強引に話を戻す。

 

「何にしましょうか?」

 

「じゃあ、ホットコーヒー2つ」

 

えっ? 俺の分まで傘木さんが注文した……。まあいいか。

 

「お待ちください」

 

アカネ先輩が下がって行く。

 

 

 

コーヒーが来るまで少し時間があるので、再び室内を見渡す。

 

「あ……」

 

校長先生と教頭先生がいるじゃないか。

 

しかも、トーストみたいなものを食べている。朝は忙しかったみたいだし、ようやく一息つける、といった感じだろう。

 

 

 

「お待たせしました……」

 

コーヒーが来たみたいだ。

 

この声、加木屋(かぎや)先輩だろう。と思って振り向く。……誰?

 

「金山くん……」

 

「あ。え? 加木屋先輩?」

 

一瞬、誰か分からなかった。

 

「あ。えっと、似合ってますね。それ」

 

話では聞いていたけど、確かにこの服装はぴったり。似合っている。

 

客引きにもなると思う。

 

「ありがとう……。ごめんね。文芸同好会の方、手伝えなくて……」

 

「気にしないでください。はっきり言うと暇なので、大丈夫ですよ。今は黄前(おうまえ)先生が変わってくれたので……。あ、あのポストカード好評ですよ」

 

「良かった……。それでは、ごゆっくり……」

 

さて。せっかくだから、コーヒーが冷めないうちに……。

 

「今の誰?」

 

コーヒーぐらい飲ませてくださいよ。

 

「加木屋先輩です。文芸同好会の」

 

「そうなの。見ない顔だけど、春から居たっけ?」

 

「今月から来た編入生ですよ。岐阜(ぎふ)県の可児(かに)市から引っ越してきたんですよ」

 

「可児かぁ。金上(かねがみ)さんの居るところか……」

 

そう呟いた。どうやら可児市のだいたいの場所が分かっているらしい。

 

とりあえず、聞きたいことを聞き終えたのか、傘木さんがコーヒーを飲み始めたので、俺も戴く。

 

「本格的だね。こういうところだから、インスタントだと思ったけど、マシンで淹れてるね」

 

どれどれ。……本当だ。

 

調理場の方に目線を向ける。

 

確かに、調理場の端にコーヒーマシンが1台、鎮座しているのが見える。

 

「えっと……これで200円か。凄いね……」

 

メニューを見ながら、傘木さんが感心している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さまです。ありがとう」

 

「ありがとうございました」

 

お金を払って喫茶店(教室?)を後にする。

 

しかしまあ、今日は200円という金額をよく目にする日だ……。

 

 

 

 

 

 

「次、どこ行く? 文芸同好会の部室行こうか?」

 

「そうですね。黄前先生がいますから」

 

部室に戻ることに決まった。……なんか言い方が変だ。

 

傘木さんは黄前先生に会いに行きたいのだろう。

 

「黄前さんか。先生としての彼女に会うのは久し振りだな……。会うのさえ、あがた祭り以来かな」

 

大吉山(だいきちやま)の展望台で、俺が初めて先生に会ったとき、傘木さんも居たんだっけ。

 

あの時はまだ産休中だった。……先生とは知らなかったけれど。

 

「まあ、あまり変わっていないと思いますよ」

 

「そんなものか……。数ヶ月だもんね」

 

そんな話をしながら歩く。

 

隣の校舎に入ると、急に静かになる。

 

「こっちはうるさくないね」

 

「この校舎は文芸同好会以外出展に使ってませんから……」

 

閉架書庫室に到着。

 

「それでねー」

 

中から、黄前先生の楽しそうな声が聞こえてくる。

 

誰か居るんだろう。

 

「戻りました」

 

そう、声掛けながら入室。

 

「金山くんおかえりー。あ、希美(のぞみ)先輩も一緒なんだ」

 

「傘木先輩、お久し振りです」

 

室内には高坂(こうさか)さんが来ている。

 

「黄前さんお疲れ様。高坂さん久し振りだね。元気だった?」

 

「ありがとうございます。元気にやってます」

 

「希美先輩もお疲れ様です。模擬店の方はどうですか?」

 

「良い調子だよ。ナックル先輩がほとんど仕切ってやってるから、問題ないよ」

 

「なら大丈夫ですね」

 

田辺(たなべ)先輩はその手のプロですから」

 

「うん。あ、2年生の喫茶店、本格的で良かったよ。高坂さんは行った?」

 

白沢(しらさわ)くんたちのクラスですよね。行ってきました。コーヒー、インスタントかと思ってたら、マシンで淹れてましたね。驚きました」

 

俺を余所に、3人で盛り上がっている。

 

まあ、良いけどね。

 

俺は、吹奏楽部の指導に来ている高坂さんとは時々顔を合わせるし、話もするけれど、傘木さんは久し振りみたいだし、積もる話もあるだろう。

 

さて、椅子に座って続きを……。

 

…………あれ?

 

何か、おかしくないですか?

 

「黄前先生、ちょっと良いですか?」

 

「えっ? 何?」

 

「頒布してる冊子、どこかに仕舞いましたか?」

 

「ううん。動かしてないけど。あ、ひょっとして疑ってる?」

 

疑わない訳がないでしょう。

 

俺が離席するまで90冊はあった冊子が、半分以下……いや、3分の1になっている……。

 

「50冊以上捌けてませんか?」

 

「えっと……60冊ぐらい売れたよ」

 

60冊! 予想外の数が捌けている……。

 

「私を誰だと思ってるの? これでも5年教師やってるんだよ」

 

そのうちの数年間は産休だったはず……。

 

「卒業生の子や、吹奏楽部の子たちが、わざわざこの部屋まで私を尋ねて来てね、ついでに買っていったの」

 

「黄前さんは顔が広いからね。そうだ。川島さんや加藤さんにさつきちゃんにも会ったよ。みんな元気そうで良かった」

 

「私も、(もとむ)くんや黒江(くろえ)さんに会いました。あ、ゆうきちゃんにも会ったよ」

 

来てるからね。あ、妹が高坂さんに迷惑かけてなきゃ良いけど……。

 

「そうですね。卒業してからだいたい10年たちましたから……」

 

「卒業して数年は、知ってる先生や、一緒に過ごした後輩達が居るから、文化祭とかで行ってみようと思うけどさ。年数が経つと、知ってる先生も少なくなるから、滅多に来れないからね。優先順位が下がっちゃうから」

 

言われてみるとその通りかもしれない。

 

「今年は、滝先生に松本先生がいるし、滝野(たきの)と黄前さんが先生として働いているから、とても来やすいんだよね。金山くんや堀田(ほりた)さんも居るからさ」

 

確かに。

 

偶々(たまたま)面識がある川島さんは、俺に会いに来てくれた訳だし、中世古(なかせこ)さんが来たのも、お世話になった滝先生が今年から勤務しているからだ。

 

「分かります。私も外部指導者という形で来ているから、なんの躊躇(ためら)いもなく来れますけれど、そうでなければ来づらいですからね」

 

 

麗奈(れいな)の場合、滝先生目当てでしょ?」

 

「久美子うるさい」

 

そうなのか。なんとなく予想してたけど、高坂さんって……。

 

あまり言い過ぎると、後が怖いから程々にしておこう……。

 

 

 

 

 

 

黄前(おうまえ)先生は、高坂(こうさか)さんと一緒に2-1・2-2合同の喫茶店へ向かい、傘木(かさぎ)さんは残った。

 

現在、ここ閉架書庫室にいるのは、俺と傘木さんの2人だ。

 

文化祭が終わるまで、残り1時間半。しかし、もう思い残すことはない。何故(なぜ)かって?

 

10部()ければ御の字だと思っていた冊子が、残り20部強しか残っていないからだ。

 

70部程捌けた。これは全て黄前先生のお陰。

 

これからは先生の方に足向けて寝られないね。えっと、先生が住んでいるのは、平等院の辺りだから……。大丈夫。

 

古典的かな? まあ良いだろう。

 

傘木さんは今、俺の隣の椅子で冊子を読んでいる。

 

しかも、それは既に買ってくれた冊子だ。有り難い。

 

傘木さんにも足向けて寝られない。住んでいるのは……。そういえば何処だろう?

 

「お疲れ~」

 

「頑張ってるか?」

 

オーボエの住吉(すみよし)さんと、硬式野球部の植大(うえだい)くんだ。

 

2人一緒に回っているのか。付き合っているという噂は本当らしい。

 

「植大くんお疲れ。劇どうだった?」

 

彼は同じクラスだから、劇の結果を知ってるはず。

 

「大盛況だったよ。まあ、前後にライブとコンサートがあったから、その効果もあったんじゃないかな?」

 

確かに。

 

ライブが盛況すぎて、一度離席したら座れなくなると思った観客は、例え吹奏楽部のコンサート目当てでも、劇を見ていただろう。

 

「お客さんの殆どが、(うしろ)のコンサート目当てで座ったままだったみたいでさ。そこに俺たちの劇だ。寝てる人も居たけど、叩き起こすつもりでやったからね。終わってみたら、割れんばかりの拍手だったよ」

 

やっぱり。

 

「吹部のコンサートも凄いお客さんの数だったよ。もしかすると、他の学校の先生も来てたんじゃないかな?」

 

来てたね。滝野(たきの)先生から聞いた。

 

「体育館、満員札止めになったって聞いたよ」

 

「やっぱそうか……」

 

「そうか、って?」

 

「いや。俺たちは劇が終わった後、観客席の方に行けないから、舞台袖から見てたんだけど、塚本(つかもと)先生が実行委員となんか揉めてたのが見えて、何だろうって。トラブルでも起きたのかと思ったけど、そんな様子じゃなかったし。あれ、入れないって言われてたのか」

 

先生、目立ってたんですね……。

 

「隣は何方(どなた)?」

 

「ああ、優斗(ゆうと)知らないんだっけ。吹奏楽部OGの傘木 希美(のぞみ)先輩だよ」

 

そういえば、隣に傘木さんが座っているんだった。静かだから忘れてた。

 

「傘木さんは何読んでるの?」

 

「あ、それが冊子だな。調子はどうだい?」

 

住吉さんは俺がここで冊子の頒布をしていることを知らないんだ。

 

植大くんは同じクラスだから知ってて当然だろう。

 

現に、今の話し方がそう言っている。

 

「黄前先生のお陰で、ご覧の通り。最初、100部有ったんだ。それが残り20部ぐらい」

 

「マジで!」

 

「凄い……!」

 

「えっ、何?」

 

2人が感嘆(かんたん)の声を上げると、傘木さんが我に返ったようで、驚きの声を上げた。

 

「あ、傘木さん戻ってきた。何処行ってました?」

 

読むのに夢中だったのは分かっているけれど、わざとらしく言ってみる。

 

「何処にも行ってないよ? どうしたの?」

 

「いや、それ俺の台詞です。それなら、2人が来たことに気付いてましたか?」

 

目配せして、2人の方を見させる。

 

ほら、やっぱり。驚いているじゃないか。

 

「住吉さん……いつの間に? えっと、そちらの方は?」

 

間接的に、気づいてなかったことを認めた……。

 

「野球部の植大くんです。俺と同じクラスの」

 

「どうも。植大 優斗です」

 

「わ、私は卒業生の傘木 希美です。よろしく……」

 

互いに自己紹介をした。

 

 

 

 

「それで、傘木さんは何処行っていたんですか?」

 

住吉さんが追及する。

 

「……金山ワールドへ」

 

金山ワールド?

 

「そういうことですか。じゃあ、私も金山ワールドに行ってこようかな~。ほら、優斗も」

 

「はいはい」

 

「はい、は1回で宜しい」

 

「はい」

 

住吉さんと植大くんが冊子を手にし、読み始めた。

 

金山ワールド、つまりそういうことか……。

 

「金山くん……」

 

2人が冊子を読んでいる間に、傘木さんから声が掛かる。

 

「これ、5冊貰って良い?」

 

「ご、5冊もですか! 構いませんけれど、何でそんなに?」

 

今読んでいたのは代済みの傘木さんのものだから、更に5冊?

 

「今日来られない子たちにも、読ませてあげたいから……」

 

「5冊で1000円です」

 

「はい」

 

万券ー! お釣りあるかな……。

 

お金を入れている缶の中は、見事なくらいに100円玉で溢れている。

 

その中に紛れ込んでいる紙幣を、破らないように引っ張り出す。

 

……9枚あった。

 

「はい、9000円お返しです。そして冊子が5冊ですね。ありがとうございます」

 

お釣りと冊子を渡す。

 

本当に有り難い。これで残る数は僅か。

 

「俺たちも1冊ずつもらうよ。2人で400円」

 

植大くんと住吉さんも買ってくれた。

 

「ありがとう。2人とも」

 

「良いって。あ、金山くん一応終礼には顔出した方が良いぞ。全仕事免除になったこと、快く思ってない奴も居るらしいから」

 

「了解」

 

クラスという組織に所属している以上、そう思う人がいることは分かっている。

 

部活の出し物が1人だけだからという理由で、特別扱いして貰っているわけだから、むしろその方が自然だろう……。

 

 

 

 

 

 

文化祭が終わった。

 

印刷所の都合で、100部用意された冊子。

 

10部捌ければ御の字だと思っていたのに、残ったのが10部だ。

 

みんなが貰ってくれたお陰で、何より黄前先生の人脈で、ここまで頒布できたんだ……。

 

本当に有り難い。

 

長く感じた文化祭も、終わってみればあっという間だったな……。

 

 

 

さて。クラスの終礼に出なければ……。

 

お金の入った缶に蓋をし、金庫代わりに防音室の隅に置く。

 

集計は後日でも大丈夫だから、盗られないようにしないと……。

 

防音室の施錠をし、部室も施錠する。

 

鍵は……後で返せば良いな。先に教室へ行こう。

 

 

 





自分で書いておいてアレですが、卒業した高校の文化祭って、卒業した最初の年や翌年辺りなら、知っている先生も多いので、行ってみたりしましたけれど、ここ最近は行ってませんね……。

自分の思ったことを傘木先輩に言わせてみました。



文化祭編、終わりました。

ここまで引っ張るつもりは無かったのですが、伸ばしてしまいました……。

一応、京アニ繋がりで、とある作品のエピソードを基に、書いてみました。

まあ、こちらは1日だけの話で、交代してくれる人がいましたから、ちょっと違う感じになりましたね……。


次回は珍しい人の視点で番外編(?)をお送りします。

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