【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
2-1・2-2合同の喫茶店にやって来た。
「いらっしゃいませ~。お2人様ですね~」
客引きの生徒の案内で中へと入る。
時間が良いのか、予想よりも空いている。
「こちらの席へどうぞ。少々お待ちください」
案内されたのは、丸テーブルの4人席だ。
向かい合って座る。
「いらっしゃいませ~。あ、
アカネ先輩がやって来た。
俺たちの席の応対をしてくれるみたいだ。
「部室、顔出しに行けなくてごめんね。ちょっと手が放せなくて……」
そう言われたので、室内を見渡す。
失礼ながら、決して忙しいようには見えない。
俺の視線に気づいたのか、先輩は言葉を続ける。
「別に忙しいってわけじゃないんだけど、衣装があまりにもぴったりだからって、抜けれなくなっちゃったの。これ、似合ってるかな……?」
アカネ先輩も着ている接客係の衣装は、白の長袖カッターシャツに、グレーのスラックス。一見、男子の制服みたい(北宇治は
そこに、黒の腰巻きのエプロン。
喫茶店やレストランのウェイターの衣装に似てる。
「そうだね……」
傘木さんは、アカネ先輩を見てから、俺の方を向いた。そして、またアカネ先輩を見る。
「男の子の制服みたいだから、ボーイッシュな感じの人にはぴったりじゃないかな?」
それ、褒めてるんだろうか?
「傘木さんが着ても似合うと思いますよ」
ほら、変な対抗心抱かれた。
「だよね。私の時はメイド喫茶だったから、メイド服着せられたけど、私もそんな感じの衣装が良かったな……」
マジか……。
メイド喫茶か。一時期流行ったらしいね……。
というか、そろそろ周りの視線が刺さり始める。
「傘木さん。喋ってないで注文決めましょう。先輩も、注文取ってください」
そろそろ(アカネ先輩が)怒られそうな雰囲気になってきたので、多少強引に話を戻す。
「何にしましょうか?」
「じゃあ、ホットコーヒー2つ」
えっ? 俺の分まで傘木さんが注文した……。まあいいか。
「お待ちください」
アカネ先輩が下がって行く。
コーヒーが来るまで少し時間があるので、再び室内を見渡す。
「あ……」
校長先生と教頭先生がいるじゃないか。
しかも、トーストみたいなものを食べている。朝は忙しかったみたいだし、ようやく一息つける、といった感じだろう。
「お待たせしました……」
コーヒーが来たみたいだ。
この声、
「金山くん……」
「あ。え? 加木屋先輩?」
一瞬、誰か分からなかった。
「あ。えっと、似合ってますね。それ」
話では聞いていたけど、確かにこの服装はぴったり。似合っている。
客引きにもなると思う。
「ありがとう……。ごめんね。文芸同好会の方、手伝えなくて……」
「気にしないでください。はっきり言うと暇なので、大丈夫ですよ。今は
「良かった……。それでは、ごゆっくり……」
さて。せっかくだから、コーヒーが冷めないうちに……。
「今の誰?」
コーヒーぐらい飲ませてくださいよ。
「加木屋先輩です。文芸同好会の」
「そうなの。見ない顔だけど、春から居たっけ?」
「今月から来た編入生ですよ。
「可児かぁ。
そう呟いた。どうやら可児市のだいたいの場所が分かっているらしい。
とりあえず、聞きたいことを聞き終えたのか、傘木さんがコーヒーを飲み始めたので、俺も戴く。
「本格的だね。こういうところだから、インスタントだと思ったけど、マシンで淹れてるね」
どれどれ。……本当だ。
調理場の方に目線を向ける。
確かに、調理場の端にコーヒーマシンが1台、鎮座しているのが見える。
「えっと……これで200円か。凄いね……」
メニューを見ながら、傘木さんが感心している。
「ご馳走さまです。ありがとう」
「ありがとうございました」
お金を払って喫茶店(教室?)を後にする。
しかしまあ、今日は200円という金額をよく目にする日だ……。
「次、どこ行く? 文芸同好会の部室行こうか?」
「そうですね。黄前先生がいますから」
部室に戻ることに決まった。……なんか言い方が変だ。
傘木さんは黄前先生に会いに行きたいのだろう。
「黄前さんか。先生としての彼女に会うのは久し振りだな……。会うのさえ、あがた祭り以来かな」
あの時はまだ産休中だった。……先生とは知らなかったけれど。
「まあ、あまり変わっていないと思いますよ」
「そんなものか……。数ヶ月だもんね」
そんな話をしながら歩く。
隣の校舎に入ると、急に静かになる。
「こっちはうるさくないね」
「この校舎は文芸同好会以外出展に使ってませんから……」
閉架書庫室に到着。
「それでねー」
中から、黄前先生の楽しそうな声が聞こえてくる。
誰か居るんだろう。
「戻りました」
そう、声掛けながら入室。
「金山くんおかえりー。あ、
「傘木先輩、お久し振りです」
室内には
「黄前さんお疲れ様。高坂さん久し振りだね。元気だった?」
「ありがとうございます。元気にやってます」
「希美先輩もお疲れ様です。模擬店の方はどうですか?」
「良い調子だよ。ナックル先輩がほとんど仕切ってやってるから、問題ないよ」
「なら大丈夫ですね」
「
「うん。あ、2年生の喫茶店、本格的で良かったよ。高坂さんは行った?」
「
俺を余所に、3人で盛り上がっている。
まあ、良いけどね。
俺は、吹奏楽部の指導に来ている高坂さんとは時々顔を合わせるし、話もするけれど、傘木さんは久し振りみたいだし、積もる話もあるだろう。
さて、椅子に座って続きを……。
…………あれ?
何か、おかしくないですか?
「黄前先生、ちょっと良いですか?」
「えっ? 何?」
「頒布してる冊子、どこかに仕舞いましたか?」
「ううん。動かしてないけど。あ、ひょっとして疑ってる?」
疑わない訳がないでしょう。
俺が離席するまで90冊はあった冊子が、半分以下……いや、3分の1になっている……。
「50冊以上捌けてませんか?」
「えっと……60冊ぐらい売れたよ」
60冊! 予想外の数が捌けている……。
「私を誰だと思ってるの? これでも5年教師やってるんだよ」
そのうちの数年間は産休だったはず……。
「卒業生の子や、吹奏楽部の子たちが、わざわざこの部屋まで私を尋ねて来てね、ついでに買っていったの」
「黄前さんは顔が広いからね。そうだ。川島さんや加藤さんにさつきちゃんにも会ったよ。みんな元気そうで良かった」
「私も、
来てるからね。あ、妹が高坂さんに迷惑かけてなきゃ良いけど……。
「そうですね。卒業してからだいたい10年たちましたから……」
「卒業して数年は、知ってる先生や、一緒に過ごした後輩達が居るから、文化祭とかで行ってみようと思うけどさ。年数が経つと、知ってる先生も少なくなるから、滅多に来れないからね。優先順位が下がっちゃうから」
言われてみるとその通りかもしれない。
「今年は、滝先生に松本先生がいるし、
確かに。
「分かります。私も外部指導者という形で来ているから、なんの
「
「久美子うるさい」
そうなのか。なんとなく予想してたけど、高坂さんって……。
あまり言い過ぎると、後が怖いから程々にしておこう……。
現在、ここ閉架書庫室にいるのは、俺と傘木さんの2人だ。
文化祭が終わるまで、残り1時間半。しかし、もう思い残すことはない。
10部
70部程捌けた。これは全て黄前先生のお陰。
これからは先生の方に足向けて寝られないね。えっと、先生が住んでいるのは、平等院の辺りだから……。大丈夫。
古典的かな? まあ良いだろう。
傘木さんは今、俺の隣の椅子で冊子を読んでいる。
しかも、それは既に買ってくれた冊子だ。有り難い。
傘木さんにも足向けて寝られない。住んでいるのは……。そういえば何処だろう?
「お疲れ~」
「頑張ってるか?」
オーボエの
2人一緒に回っているのか。付き合っているという噂は本当らしい。
「植大くんお疲れ。劇どうだった?」
彼は同じクラスだから、劇の結果を知ってるはず。
「大盛況だったよ。まあ、前後にライブとコンサートがあったから、その効果もあったんじゃないかな?」
確かに。
ライブが盛況すぎて、一度離席したら座れなくなると思った観客は、例え吹奏楽部のコンサート目当てでも、劇を見ていただろう。
「お客さんの殆どが、
やっぱり。
「吹部のコンサートも凄いお客さんの数だったよ。もしかすると、他の学校の先生も来てたんじゃないかな?」
来てたね。
「体育館、満員札止めになったって聞いたよ」
「やっぱそうか……」
「そうか、って?」
「いや。俺たちは劇が終わった後、観客席の方に行けないから、舞台袖から見てたんだけど、
先生、目立ってたんですね……。
「隣は
「ああ、
そういえば、隣に傘木さんが座っているんだった。静かだから忘れてた。
「傘木さんは何読んでるの?」
「あ、それが冊子だな。調子はどうだい?」
住吉さんは俺がここで冊子の頒布をしていることを知らないんだ。
植大くんは同じクラスだから知ってて当然だろう。
現に、今の話し方がそう言っている。
「黄前先生のお陰で、ご覧の通り。最初、100部有ったんだ。それが残り20部ぐらい」
「マジで!」
「凄い……!」
「えっ、何?」
2人が
「あ、傘木さん戻ってきた。何処行ってました?」
読むのに夢中だったのは分かっているけれど、わざとらしく言ってみる。
「何処にも行ってないよ? どうしたの?」
「いや、それ俺の台詞です。それなら、2人が来たことに気付いてましたか?」
目配せして、2人の方を見させる。
ほら、やっぱり。驚いているじゃないか。
「住吉さん……いつの間に? えっと、そちらの方は?」
間接的に、気づいてなかったことを認めた……。
「野球部の植大くんです。俺と同じクラスの」
「どうも。植大 優斗です」
「わ、私は卒業生の傘木 希美です。よろしく……」
互いに自己紹介をした。
「それで、傘木さんは何処行っていたんですか?」
住吉さんが追及する。
「……金山ワールドへ」
金山ワールド?
「そういうことですか。じゃあ、私も金山ワールドに行ってこようかな~。ほら、優斗も」
「はいはい」
「はい、は1回で宜しい」
「はい」
住吉さんと植大くんが冊子を手にし、読み始めた。
金山ワールド、つまりそういうことか……。
「金山くん……」
2人が冊子を読んでいる間に、傘木さんから声が掛かる。
「これ、5冊貰って良い?」
「ご、5冊もですか! 構いませんけれど、何でそんなに?」
今読んでいたのは代済みの傘木さんのものだから、更に5冊?
「今日来られない子たちにも、読ませてあげたいから……」
「5冊で1000円です」
「はい」
万券ー! お釣りあるかな……。
お金を入れている缶の中は、見事なくらいに100円玉で溢れている。
その中に紛れ込んでいる紙幣を、破らないように引っ張り出す。
……9枚あった。
「はい、9000円お返しです。そして冊子が5冊ですね。ありがとうございます」
お釣りと冊子を渡す。
本当に有り難い。これで残る数は僅か。
「俺たちも1冊ずつもらうよ。2人で400円」
植大くんと住吉さんも買ってくれた。
「ありがとう。2人とも」
「良いって。あ、金山くん一応終礼には顔出した方が良いぞ。全仕事免除になったこと、快く思ってない奴も居るらしいから」
「了解」
クラスという組織に所属している以上、そう思う人がいることは分かっている。
部活の出し物が1人だけだからという理由で、特別扱いして貰っているわけだから、むしろその方が自然だろう……。
文化祭が終わった。
印刷所の都合で、100部用意された冊子。
10部捌ければ御の字だと思っていたのに、残ったのが10部だ。
みんなが貰ってくれたお陰で、何より黄前先生の人脈で、ここまで頒布できたんだ……。
本当に有り難い。
長く感じた文化祭も、終わってみればあっという間だったな……。
さて。クラスの終礼に出なければ……。
お金の入った缶に蓋をし、金庫代わりに防音室の隅に置く。
集計は後日でも大丈夫だから、盗られないようにしないと……。
防音室の施錠をし、部室も施錠する。
鍵は……後で返せば良いな。先に教室へ行こう。
自分で書いておいてアレですが、卒業した高校の文化祭って、卒業した最初の年や翌年辺りなら、知っている先生も多いので、行ってみたりしましたけれど、ここ最近は行ってませんね……。
自分の思ったことを傘木先輩に言わせてみました。
文化祭編、終わりました。
ここまで引っ張るつもりは無かったのですが、伸ばしてしまいました……。
一応、京アニ繋がりで、とある作品のエピソードを基に、書いてみました。
まあ、こちらは1日だけの話で、交代してくれる人がいましたから、ちょっと違う感じになりましたね……。
次回は珍しい人の視点で番外編(?)をお送りします。
皆様はどうお考えでしょう?