【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
文化祭が終わった。
我々2-1・2-2合同の喫茶店は大盛況で終わり、有り難いことに、用意した食材は使い切った。
閉会式が終わり、教室に集まっている。
あとは号令が掛かれば解散だろう。
「打ち上げ行く人~!」
クラス委員長が打ち上げ参加者を募っている。
でも、両クラス合わせて80人。こんな大所帯を受け入れてくれるお店なんて有るのかな?
「あ、場所は
ああ。森下さんのお家が居酒屋やってるんだっけ。
それならそこまで遠くないし、宴会場が100人まで対応してるらしいから、全員行っても大丈夫だね。
「挙手して! 数えるからそのままでね!」
あ、私は手を挙げていないよ。私たちが行く場所は決まってるからね。
「オッケー。えっと67人だね。開始は18時からだから、遅れないようにお願いします。では解散!」
委員長から号令が掛かり、解散になった。
「行こうか」
「楽しかったな」
「お前、衣装似合ってなかったけど」
「そういうあんたはどうなの?」
各々、喋ったりしながら移動し始めている。
「アカネさん。俺たちも行こうか」
「オッケー」
「お願いします……」
「うん。行きましょう」
と、いうわけで、佳介くん白沢くん、加木屋さんと私の4人でカラオケにやって来た。
文化祭でみんな疲れているだろうし、ステージでの演奏と、その前の練習もあったので、今日は元々部活は休みになっている。
だから、この機会にみんなでカラオケに行くことにしていた。
「最初は俺で良い?」
「勿論。しっかり頼むよ!」
「アカネさんは?」
「私は、最初の曲は決めてるからね。加木屋さんは決まった?」
「うん……」
親睦を深めるのも含め、加木屋さんを連れてきたけれど、大丈夫だろうか。
普段からあまり話さないし、彼女のことがいまいち分からない。
でも、カラオケに誘った時は、渋々という感じはしなかったので、大丈夫だと思うけど。強引に連れてきてしまったみたいで、なんか不安。
まずは白沢くんから。
『夏祭り』
彼の
カラオケに来たときは、必ず最初に歌うんだって。
ノリノリな彼の歌声を聞きながら、私は自分のリクエスト曲を探す。
……あった。
送信……っと。
『渡月橋~君想ふ~』
私のリクエストだ。
渡月橋といえば、嵐山。ここ京都がモデルの曲。
そういえば、最近嵐山の方に行ってないな……。
『私鉄沿線』
これは佳介くんの曲。
なんというか……選曲が渋いよね。
しかもこの曲、一応別れの歌だよね? 私の前で歌うの……。なんて言えば良いんだろう?
「僕は今日も人波避けて、帰るだけです、一人だけでー。この街を越せないまま、君の帰りを待ってますー」
佳介くんの熱唱……。ちょっと力が入りすぎてる。
歌ってるのは私じゃないけれど、恥ずかしくて顔が熱くなってる。
えっと、次は誰の番だろう……。
『阪急ブレーブス団歌』
「は、阪急ブレーブス?」
モニターに表示された曲名に、みんな驚く。
そもそも、阪急ブレーブス って何だろう?
イントロが流れ始めると、モニターに映し出されるのは……野球場か。
野球の応援歌?
佳介くんも白沢くんも驚きの表情。2人のリクエストではない? 私? もちろん違うよ。
そうなると、加木屋さん?
お、歌詞が表示されたから、前奏は終わりか。誰が歌うの?
そう思うのと同時に、加木屋さんがマイクを手に取った。
「六甲おろしに鍛えたる。我ら熱と力のますらおだー」
普通に歌い始めたよ……。
良い声なんだね。そういえば、給湯器の音声案内の声と似てる。……全く別のことが頭に浮かんだ。
「白球飛ぶ青空に希望は燃える。若き友どもよ、腕を組みいざ行けーよ、光り輝く勝利の道を」
何というか。軍歌みたいな渋いメロディーに、透き通った歌声。ギャップが凄い。
「阪急ー、阪急ー。我らは阪急ブレーブスー」
……思わず、聞き惚れてしまった。
「佳介くん、始まってるよ!」
それこそ、誰も次の曲が始まっているのに気づかないぐらい。
「あ、本当だ……」
テーブルに置いていたマイクを引ったくるように取り、歌い始めた。
「一緒に出ようねって言ったのに~。いつも私が待たされたー」
今歌ってるのは『神田川』。これも渋い選曲。
因みに、一度佳介くんとお風呂屋さんに行ったときは、私が待たせた側でした……。
「加木屋さん、さっきの曲って?」
「阪急ブレーブス。今のオリックス・バファローズの応援歌」
やっぱり野球の応援歌なんだ。
メロディーといい歌詞といい。昔の歌なんだろう。
「よく知ってるね」
「祖母や母とカラオケに行くことが多かったから……」
そういうことね。
『優しさの理由』
あ、私の番だ。
「退屈な窓辺に、吹き込む風に。顔をしかめたのは、照れくささの裏返しー」
歌っていても、頭の中には加木屋さんの歌声が流れている。
「曖昧にうなづく、手のひらの今日」
私は歌うのが好きだから、たくさん歌いたいけれど、私の分を譲ってでも、もっと加木屋さんの歌声を聞きたい。そう思ってしまう。
「……」
「……」
視線を白沢くんや佳介くんに移す。どうやら、考えていることは同じみたいね。
「心に呼びかける君のせいだね」
……なんか、今の状況と歌詞がマッチしてない?
私の次は白沢くんか。
「加木屋さん、これ歌える?」
マイクを使って話し掛けた。
これ?
あ。有名なやつだ。
「うん……大丈夫」
「じゃあ、一緒に歌って」
『ライオン』か。デュエット曲だから、丁度良いんじゃないかな?
「星を廻せ 世界のまんなかでー」
白沢くん、やっぱり歌上手いよね。
「キミが守るドアの鍵デタラメ。恥ずかしい物語」
加木屋さんも負けてない。
声が綺麗。
「舐めあってもライオンは強い」
「生き残りたい、まだ生きてたくなる」
サビに入ると2人のデュエット。
なんというか、凄い……。この一言に尽きると思う。
次は佳介くんの『津軽海峡・冬景色』本当、選曲渋いよね。私と同い年のはずだけど、年齢詐称を疑いたくなる。
「加木屋さん。歌えるなら一緒に歌おう!」
強引な。あなたが選んだ曲を歌えるわけ……歌えるんだ。マイク持ってるよ。
「上野発の夜行列車おりた時から、青森駅は雪の中」
うわー。2人とも声が良い。
最高、いや最強のデュエットだ。
ちょっと妬きそう……。
あっという間に時間が過ぎていった。
今は、お店を出た帰り道。
「楽しかったね」
「うん。またみんなで来たいよな」
後半、ほとんど加木屋さんが歌っていたけれど、白沢くんも佳介くんも、満足しているみたい。
「加木屋さん、また誘って良いかな?」
隣を歩く彼女の表情は、いつも通り無表情。どう思っているか分からない。
「えっと。また、加木屋さんの歌声聞きたいな……って」
「いいよ……」
「本当! ありがとう!」
良かった。また来てもいいって思ってもらえた。
「私も水野さんの歌声聞きたい……」
「そう? あ、アカネで良いよ。水野姓多いから、その方が分かり易いし」
現に、同じクラスに佳介くんがいるし、吹部にももう1人、
「被るから、基本みんなからは名前で呼ばれてるの。だからアカネで良いよ」
「じ、じゃあ……アカネさん……」
照れくさそう? 最初はみんなそうだよね。
「うん。あ、私も加木屋さんのこと、みなみちゃんって呼んでも良いかな?」
「良いよ……」
「ありがとう。みなみちゃん」
あ、みなみちゃん笑った。
こんな風に笑うんだ……。
「えっと。今度何時が良いかな……。あ、全国大会が近いから、終わってからだね……」
そうだった。
全国大会まで残り1ヶ月強。
残された時間は限られている。
全国大会金賞。
「佳介くん。白沢くん」
「アカネさん?」
「どした?」
「全国大会、頑張ろうね!」
カラオケ行きたいですね……。
今、私の住んでいるところには、緊急事態宣言が出てて(9月28日現在)、カラオケ店は軒並み臨時休業なんですよ(涙)。
因みに、みんなが歌った曲は、私もカラオケで歌う曲です。
というわけで、10月になってカラオケ店が営業再開したので、行ってきました。
この曲順で歌ってみましたが、楽しかったです。
なお、2021年現在配信の無い曲は、他の曲を代わりに歌いました。
方向性が分からなくなるのと、利用規約に抵触しないように、歌詞を掲載している曲の数は抑えましたが、みんなで20曲ぐらい歌ったことにしてあります。