【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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引っ張るつもりはない と言いながら、文化祭で時間を使ってしまいました……。

ちょっと駆け足で行きます。




10……駅ビルコンサートと全国大会
10-1……部員として認識されてなかった


 

文化祭と、それにオマケのようにぶら下がる体育大会が終わった。

 

体育大会では、文芸同好会は部活対抗リレーに出られない(人数が揃わない)ため、俺は吹奏楽部として出場する羽目になった。

 

結果は、って?

 

みっともない姿を(さら)す結果になってしまった……。

 

そっとしておいて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化祭から数日経った日の放課後。

 

いつも通りの部活中。

 

俺はパソコンとにらめっこしながら、原稿を進めている。

 

加木屋(かぎや)先輩は読書中。

 

今日は小難しそうな文芸書を読んでいる。背表紙を見たところ、市立図書館の本らしい。

 

黄前(おうまえ)先生は、小テストの採点中だ。この部屋に仕事を持ち込むなんて、勘弁してほしい。

 

……とは言えまい。俺だって仕事しているんだから。

 

 

 

行き詰まった。気分転換しよう。

 

「先生、先輩。窓開けますよ」

 

「はい……」

 

「了解」

 

二人に声を掛け、許可を得てから窓を開けた。

 

もうすぐ10月、吹き込む風は少し冷たくなっている。

 

「おお。やってるねぇ……」

 

先生が隣にやって来た。

 

「聞こえますね……。吹奏楽部の演奏」

 

反対側に先輩も来る。

 

そう。冷たくなった風と共に、吹奏楽部の演奏も入ってきている。

 

「これ……、名探偵コナンのメイン・テーマですか?」

 

「そうだよ。実はこの曲には、歌詞をあてたバージョンがあってね」

 

「『キミがいれば』ですよね。……最初の頃の劇場版だと、そちらが流れることありますね」

 

「加木屋さんよく知ってるね。その通りだよ」

 

因みに、この曲はそのために編曲されていて、厳密には違う曲で、『メイン・テーマ≠キミがいれば』となるらしい。

 

 

 

「そうだ。文化祭の軽音楽部・合唱部合同ライブで、キミがいればの方を歌っていたんだよ。ちょっと待ってね」

 

先生がスマホを取り出して操作し始めた。

 

「えっと……あった」

 

画面を俺たちに見せてきた。動画らしい。

 

「合同ライブの一幕だね。松本(まつもと)先生からもらったの」

 

松本先生が?

 

 『月と太陽なら私は月、キミがいれば輝けるよー。ひとりで背負わないで、気づいて私がいることー』

 

まさに。

 

松本先生かなりいい場所で聞いていたんだな……。

 

 

 

「ところで、何で今も文化祭の曲を練習しているんですか?」

 

メイン・テーマは吹奏楽部が文化祭で演奏した曲だ。

 

全国大会が近いのに、コンクール曲の練習と並行して行われている。

 

何故だろう……?

 

「駅ビルコンサートにその曲で出るらしいから、その練習じゃないかな?」

 

あ……。駅ビルコンサートか。

 

そういえばそんな時期だっけ。

 

「そういうことなんですね」

 

「去年は無かったからね。北陸新幹線建設工事のために、駅ビルの耐震補強工事があるから、場所が確保できなかったんだって」

 

去年は開催されなかったと思ったら、そういうことだったのか。

 

北陸新幹線ねぇ。あれ、京都駅の地下を南北に縦断するんだよな。

 

「駅ビルコンサート……?」

 

加木屋先輩は首を傾げている。そうか、引っ越してきたばかりだから、知らないんだ。

 

「文字通り。京都駅の駅ビルで行われるコンサートだよ。今年は、駅ビル改修工事完了の記念で、地元の演奏家も出るんだって」

 

地元の演奏家か。我が京都を代表する演奏家と言えば……。

 

麗奈(れいな)も出るんだよ」

 

だよな。高坂(こうさか)さんもその1人だ。

 

外部指導者という形で吹奏楽部と関わりがあり、身近に感じているけど、その正体はトランペットのプロ奏者だ。

 

 

 

「麗奈……誰だろう……」

 

先輩にはそこから説明する必要があるのか。

 

「加木屋先輩、トランペット奏者の高坂 麗奈さんをご存じですか?」

 

「高坂……えっ? もしかして、『孤高の独奏者(ソリスト)』の、高坂 麗奈さん……?」

 

何それ? そんな異名あるの?

 

「懐かしい名前だね。それ、大学時代の渾名(あだな)じゃなかった? まあ、この話は置いておいて。その高坂 麗奈だよ」

 

「高坂さんの演奏があるんですか?」

 

なんか、先輩の反応がいつもと違う。

 

「先輩、どうしました? なんか、いつもと違って興奮気味ですよ……?」

 

「あ、当たり前じゃない! あの高坂さんよ。高坂さんの演奏が聞けるなんて、夢みたい……」

 

夢、だって。彼女にとって高坂さんは雲上人(うんじょうびと)らしい。

 

先生の方を見る。

 

教えてあげた方が良い。顔にそう書いてある(気がする)。

 

「先輩、実は部活動には、外部指導者という制度が有るんですね」

 

「外部指導者……?」

 

急に何を? 先輩の返事はそう言いたげ。

 

「吹奏楽部には、今年3人の外部指導者が来ているんですね。パーカッションのプロ、橋本 真博(はしもとまさひろ)さん、木管指導者の坂部 寛人(さかべひろと)さん。そして、金管演奏家、こ……」

 

言っている途中で、扉がノックされた。

 

3人同時に扉の方を向く。

 

これでこのまま扉が開けば関係者、開かなければ部外者が来た訳だが。

 

あ、開いた。

 

久美子(くみこ)いる?」

 

噂をすれば何とか。か。

 

「あ、麗奈どうしたの?」

 

先生が高坂さんの方へ歩いて行く。

 

「え……。本物……?」

 

先輩はやっぱり驚いている。

 

そりゃあそうだろう。プロ奏者が目の前に居るんだから。

 

「本物ですよ先輩、途中になりましたが、3人目の外部指導者が、トランペット奏者の高坂 麗奈さんです」

 

 

 

「先輩?」

 

「嘘……本物が目の前に……」

 

「先輩?」

 

ダメだ。感動のあまり、俺の声が届いていない。

 

「あ、金山くん」

 

先生と話し終えた高坂さんは、今度は俺の方へ歩いてくる。

 

「金山くん、今度の駅ビルコンサートには行くよね?」

 

「はい。吹奏楽部として行くことになると思います……」

 

この話自体、今日が初耳だけど。

 

「その時、私の手伝いをしてもらえないかな?」

 

「て、手伝いですか?」

 

「うん。演奏の前後で譜面台を持って欲しいの。私の前が南宇治の演奏で、後は立華(りっか)のパフォーマンスだから、譜面台の移動は各自でお願いしますって」

 

なるほど……。

 

でも、それ俺で良いのかな?

 

「制服じゃない正装が必要だけど、それは私が用意するし、少ないけれど報酬は出すから。お願いできる?」

 

「わ、分かりました。俺でよければ手伝います」

 

「本当? ありがとう。助かる」

 

駅ビルコンサート当日は、高坂さんのお手伝いに決まった。

 

 

 

 

 

高坂さんとの話が終わり、隣の先輩を見る。

 

「先輩……?」

 

ダメだ。まだ固まっている。

 

「その子は?」

 

「あ。高坂さんは初対面ですね。加木屋 みなみ先輩です。岐阜(ぎふ)可児(かに)市から引っ越してきたんです。かれこれ1ヶ月くらい前に……」

 

「そうなの。ところで、この子どうしたの?」

 

先輩の異様な雰囲気に気付いたらしい。

 

「詳しい話は聞いたことがないので分かりませんが、どうやら高坂さんのファンらしいんですよ。今度の駅ビルコンサートで演奏が聞けるって、興奮気味に語ってましたから……」

 

一度、先輩の顔を見る。

 

「本人に会えて感動してるみたいですね」

 

どこかに行ってしまった……。

 

「そう」

 

窓の桟に置いている先輩の手を、高坂さんが取る。握手か……。

 

「こ、高坂さんにお会いできるなんて……」

 

あ、先輩戻ってきた。

 

「ありがとう。これからも頑張るから、応援よろしくね」

 

「は、はい。が……、頑張ってください!」

 

 

 

 

 

あの後、黄前(おうまえ)先生が持っていた色紙に、高坂(こうさか)さんからサインを貰った加木屋(かぎや)先輩は、夢心地で椅子に座っている。

 

高坂さんが黄前先生に話に来たのは、俺が手伝うことについて、許可を得に来たらしい。

 

黄前先生が許可を出すことではないと思うんだけど……。

 

 

 

俺は今、高坂さんと共に音楽室へ向かっている。

 

「そういえば、滝野(たきの)先輩今日は来ていないのね」

 

「ああ見えて滝野先生も忙しいんですよ」

 

俺には、高坂さんにどう見えているかは分からないが。

 

「どのみち、文芸同好会は実質俺と加木屋先輩の2人しか居ませんからね。顧問の先生が2人とも来ることは稀ですよ。今日のように仕事持ち込んだり、読書してたり……」

 

「そんな感じか。ところで、金山くんは文化祭終わったのに、今度は何書いてるの?」

 

次回作の執筆中…………本当のことは言えない。

 

「まあ。色々と」

 

これで上手く誤魔化せたか分からない。

 

しかし、音楽室に着くとそれ以上聞いてくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「えっと……。何か言うことはありませんか?」

 

「ごめん!」

 

「ごめんなさい!」

 

俺の前で頭を下げる2人。

 

下克上? そんなつもりはないんだけど。

 

 

 

 

音楽室に入ると、丁度練習が終わったところらしく、(たき)先生と園田(そのだ)先生と入れ違いになった。

 

先生方は顔色一つ変えずに、俺に会釈だけし、俺も会釈すると、そのまま音楽室を出て行った。

 

指揮台のところに、加納(かのう)先輩と堀田(ほりた)先輩が立っていたので、2人を呼び止めてさっきのように問ったところ、こうなった……。何でこうなるんだろう?

 

 

 

 

 

「いや、謝らなくて良いですよ。そうじゃないんで……。とりあえず、顔上げてください」

 

顔を上げた2人と目が合う。

 

いつも通りの鋭い目つきの加納先輩と、誰もが惚れるであろう堀田先輩の優しい目。

 

しかし、それは何処かよそよそしい。

 

「駅ビルコンサートのこと、教えてもらえなかった理由は?」

 

「はるかなら知ってると思ってたから……」

 

「こっちから声掛けなくても、はるかの方から来るんじゃないかな? って」

 

これ、笑って許せば良いの?

 

言われなきゃあ分かりませんって。

 

ん? 堀田先輩が加納先輩を肘でつついている。

 

何か隠しているのだろうか?

 

「……言って」

 

「……言えって?」

 

小声で何か、やり取りしている。

 

「何ですか?」

 

言いづらいことを隠しているらしい。

 

「えっとね。あやちとも相談して、これ以上部員でもない金山くんに頼るのは止めようって、話してたの。今まで色々と助けられてきたけど、依存しすぎも良くないと思って……」

 

は?

 

あれ、今日4月1日(エイプリルフール)だっけ? いや、もう10月だ。それに、もう昼を過ぎて夕方だ。

 

2人の後ろにいる部員たちを見る。

 

練習が終わった後の音楽室に来ているから、楽器の片付けや、練習の反省をしていたりして、ほとんどの部員が残っている。

 

「えっと……。俺が吹奏楽部に所属しているの。知ってる人、挙手お願いします」

 

声を掛けると、数人手を挙げる。

 

パーカッションパトリの不破(ふわ)先輩に、(あずさ)紅葉(くれは)W水野(だぶるみずの)先輩、他数名。あと、男子部員全員……。

 

良かった。

 

「どういうこと?」

 

「さて?」

 

「部長、知らないんですか? 7月から部費が1人分増えてるんですけど……」

 

そう、不破先輩は会計だから、部費を納めるため知っている。

 

「そもそも、サンフェスが終わった後、加納先輩に入部届渡したでしょう?」

 

だから、サンフェスの時にはバスに乗れなかったけれど、関西大会は一緒にバスに乗って行けた。

 

「あれ? そうだったっけ? 忘れてたよ」

 

忘れてたって。

 

それに、俺が入部した際、俺は楽器演奏が出来ないから、『書類上、所属パートは庶務ね』って言っていたのも、他ならぬ加納先輩だ。

 

「あまりインパクトが無かったというか、吹奏楽部での存在感が薄かったというか……」

 

「俺が金山(かなやま)くんにトップでバトン渡して、見事に牛蒡抜(ごぼうぬ)きされて最下位になったの、部長たちも見てましたよね?」

 

そうだ。それじゃあ、体育大会の部活動対抗リレーなんだと思ってたんだ……。

 

野間(のま)っち体育大会のリレー、トップバッターだったよね。二番目の走者がはるか……。そういえば、リレーではるか吹奏楽部として走ってたわ……」

 

気づいてなかったのか。

 

 

「部長たちには部員として認識されてなかったんですね……。道理で」

 

駅ビルコンサートについて、一切連絡無かったわけだ。

 

しかし、さっきの先生方の態度を見た感じだと、先生2人には認識されているらしい。とりあえず、顧問の先生が分かっていたのなら、大丈夫だろう……。

 

「はるかごめんなさい……」

 

もう良いです。このことは忘れよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駅ビルコンサートの時、金山くんには私の手伝いをお願いしたから、当日金山くんは直接京都駅に来てもらうことになるよ」

 

北宇治の演奏順は後半の方にあるが、高坂さんの出番は前半にあるため、部員とは別行動だ。

 

「例年、業者に楽器運搬を依頼してるから、今年も例年通り業者にやってもらうから、楽器運搬係の仕事はないの。会場での積み卸しも無し」

 

野間先輩達の出番はなしか。

 

その分演奏に集中出来るだろうし、他校の演奏も聴けるのだろう。

 

「当日は学校に集合してバスで移動、終わった後もバス移動ね。帰りの時間は遅めにしてあるから、他校の演奏を時間一杯聞いて、吸収できることは吸収するように。と、松本(まつもと)先生から言われてます。まあ、この話ははるか以外の部員には一度話したから、大丈夫だよね?」

 

全員頷く。

 

「あと、これは今日コンサート本部から連絡があって、東馬堀(ひがしうまほり)高校がなんか辞退するらしくて、変わりに東海代表の学校が偶々大阪に来るついでで出場するらしいです」

 

加納先輩の発言に、音楽室がざわめく。

 

「東海代表……?」

 

愛電(あいでん)かな?」

 

「中央じゃないか?」

 

「どっちの?」

 

色々な学校名が上がる。

 

因みに、中央とは、岐阜県の『中央学園大学中央高等学校』と、愛知県の『中央大学中央高等学校』の二つが当てはまる。

 

両校とも野球部が何度か甲子園に出場しており、吹奏楽部も強いらしい。紅葉が言っていた。

 

「部長、何処の学校か分かりませんか?」

 

よほど気になるのだろう。誰かがそう問いかける。

 

「ごめん。私も知りたい……」

 

部長も知らないようだ。

 

これは当日のお楽しみか? と思ったが、すぐに判明した。

 

浜松海浜(はままつかいひん)高校よ」

 

そう言ったのは高坂さんだ。

 

「浜松海浜って、あの浜松海浜!」

 

「他にあるの?」

 

途端に室内が騒がしくなる。

 

「はい! 静かにしてください! 強豪が来てうれしいのは分かるけど、とりあえず静かにして!」

 

加納先輩の声で、なんとか静かになった。

 

「今日はこれにて解散。お疲れ様でした」

 

静まらせたと思ったら、解散の合図かい……。

 

 

 

 

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