【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

61 / 90
10-2……私の演奏は日本一

 

『ご乗車ありがとうございました。京都(きょうと)、京都、終点です』

 

京都駅に到着。

 

『新幹線、琵琶湖(びわこ)線、京都線、湖西(こせい)線、嵯峨野(さがの)線。近鉄(きんてつ)線、地下鉄線はお乗り換えです』

 

電車を降り、駅構内を歩く。

 

普段ならICOCAを使うが、今日は高坂(こうさか)さんの用で来ているので、事前に貰った切符で改札を出る。

 

京都駅の改札を出るのは初めてだから、迷わないようにしないと……。

 

おお……。

 

立ち止まって見上げると、京都タワーが見えている。

 

雲一つ無い秋晴れの空。今日は駅ビルコンサートの当日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いていたとおりに進むと、『大会本部 関係者以外立入禁止』と書かれた紙が貼ってある扉があった。

 

「失礼します……」

 

扉をノックし、開く。

 

「はい。えっと……。はい、どうぞ」

 

切符と共に渡されていた許可証を提示して入れてもらう。

 

室内ではスタッフと思われる人たちが慌ただしく動いている。

 

その中には高坂さんもいる。

 

「あ。金山(かなやま)くん、こっちよ」

 

高坂さんが俺に気づき、呼んでいる。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。朝早くからありがとう」

 

「早起きは慣れてますから。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ。早速だけど、これが衣装だから、そこで着替えてきて」

 

差し出される衣装を受け取る。

 

「……スーツですか……」

 

「うん。本来なら、直接採寸してオーダーメイドするものだけど、急だから数字だけで作ってもらった。合うと思うんだけど……」

 

そういえば、この間滝野(たきの)先生に保健室でかなーり細かい身体測定されたな……。あれ、衣装用の採寸だったのか。

 

「分かりました。とりあえず、着替えてきます」

 

そこ、と指示された場所にある更衣室で、着替える。

 

 

 

 

「お待たせしました……あれ?」

 

着替えて出てきたら、高坂さんがいなくなっていた。

 

何処へ行ったのだろう。

 

まあいいや。待っていればいつかは戻るだろう。時間は決まっているんだから。

 

とりあえず、高坂さんが座っていた椅子の辺りに立つ。

 

ん? ラインの通知か。

 

どれどれ……堀田(ほりた)先輩からだ。えっと。

 

『今学校に集まったところ。はるかは?』

 

そうか。北宇治の出番は後の方だから、出発も遅いんだ。

 

『京都タワーに来てます。今準備中』

 

とりあえず、こう返信しておこう。

 

「君が高坂さんの付き人?」

 

えっ!

 

後ろから声が掛かる。

 

丁度スマホをしまったところだったので、驚いてしてしまった。

 

「えっと……そうです。譜面台を運びます」

 

付き人かと問われれば、ちょっと違う気もする。

 

しかし、今日譜面台を運ぶ手伝いをするのだから、多分合ってるだろう。

 

「これ、今日のタイムテーブルね。渡しておくから、彼女にも伝えてね」

 

差し出されている紙を受け取る。

 

「分かりました」

 

もらったタイムテーブルを見る。

 

えっと……、高坂さんの演奏の前に、南宇治の演奏があり、それが終わったらスタッフ総出で椅子の撤去。

 

終わったタイミングで、俺と高坂さんがステージに登り、演奏。終わったらステージから降りて、立華(りっか)が登場。マーチングバンドの演奏……。

 

休憩時間を挟んで、北宇治の演奏がある。

 

椅子を片付けなければならないから、譜面台は自分でお願いします、ってことなんだ……。

 

「お待たせ」

 

あ、高坂さんが戻ってきたようだ。

 

「何処に行って……。更衣室でしたか……」

 

高坂さんがスーツ姿で現れた。

 

「あ、タイムテーブル貰ったのね。ちょっと見せて」

 

「はい。南宇治の演奏後に椅子の片づけがあるんですね。だから、譜面台はこっちで運べって」

 

「ああ。そういうことなの……。えっと、北宇治……芸大……浜松海浜(はままつかいひん)は最後の方か……」

 

俺が渡したタイムテーブルを見て、色々呟いている。

 

今年は浜松海浜高校の演奏があるという話は、高坂さんから聞いている。

 

詳しい話は知らないが、大阪で式典に参加した帰りに寄るらしい。

 

(あずさ)から「全国常連校だよ」という話を聞いていたので、俺も多少調べてきた。

 

ここ3年連続で全国金賞だった。

 

そんな強豪校の演奏が聴ける、というだけで部員たちが興奮気味だったのを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサートが始まり、順調に演目が進んでいるらしい。

 

らしい、というのは、この大会本部兼控え室では、モニター越しにしか様子が分からないからだ。

 

「そろそろだよ」

 

高坂さんから声が掛かる。

 

「はい……」

 

リハーサルもやったし、問題ない。そもそも、俺が演奏する訳じゃないんだから、緊張するだけ無駄だ。落ち着いてやるだけ……。

 

そう自分に言い聞かせても、やっぱり緊張する……。

 

「高坂さん、金山くん。出番だよ」

 

扉が開き、入ってきたスタッフに呼ばれる。って、この声……。

 

「あ、えっ? 傘木(かさぎ)さん?」

 

「傘木さんだよー。緊張してるでしょ? 金山くん」

 

「はい。少し……。というか、傘木さんはここで何を?」

 

「酷いなあ、私は主催者側の人間だよ。今日も仕事に決まってるじゃん。だいたい、金山くんと会うときって必ず私は仕事中だよね?」

 

確かに。初めてお会いした嵐山(あらしやま)といい、学校に来るときといい……。

 

大吉山(だいきちやま)でお会いしたときは珍しくお休みでしたよね。先輩、毎日仕事してるんじゃないかって思うときありますもの」

 

「確かに」

 

「いや、そこ納得しないでね? 一応、週休2日制だよ、私の会社。……それじゃあ行こう!」

 

何だろう……? 傘木さんと話していたら、緊張も何処かに飛んでいった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ脇にて待機。

 

今は南宇治高校の演奏中だ。

 

ドクターXのテーマ曲に、コードブルーのテーマ曲。医療ドラマの曲をセレクトしたらしい。

 

隣には高坂さんが立っている。手には白銀の輝きを放つトランペット。

 

そういえば、なんだかんだ高坂さんの演奏を聞いたことがない。

 

プロ奏者だというのは知っているし、吹奏楽部のメンバーから見せられたYouTubeの動画で聞いたことがあっても、生は初めてだ。

 

 

 

南宇治の演奏が終わり、拍手が湧き起こる。

 

下がってくる演奏者と入れ替わるように、スタッフが総出で椅子を片づけ始める。

 

ここにいれば、嫌でも下がってくる演奏者とすれ違う訳だが。

 

……あーあ。秋子(あきこ)に凄い顔で見られた。

 

他にも数人が、俺の方を見て指差していたり、何か話している。

 

まあ、こんな所にこの人と一緒にいたら、驚かれて当然だけどね……。仕方ない。

 

 

 

さあ、出番だ。

 

 

 

 

 

合図を(もら)い、ステージに上がる。

 

俺は譜面台と楽譜を、高坂(こうさか)さんはトランペットを持っている。

 

観客席となっている大階段は、8割方埋まっている。

 

あまり高いところに行っても見えないだろうから、観客席として機能し得る部分は一杯といえるだろう。

 

(あらかじ)め指示されている場所に譜面台を置き、楽譜を広げる。

 

一曲目、『トランペット吹きの休日』を開いた。

 

あとは高坂さんの独壇場(どくだんじょう)だ。俺は舞台袖の陰に待機するため移動。

 

 

 

そして、演奏が始まる……。

 

 

 

 

『トランペット吹きの休日』

 

 

 

『新世界より』

 

 

 

『フライデーナイトファンタジー』

 

 

 

 

演奏はあっという間に終わった。

 

やるべき仕事を、聞き惚れて忘れてしまわないように気をつけていたが、それでも一瞬意識がとんでいたらしい。

 

割れんばかりの拍手が聞こえてきたので、慌てて譜面台の回収に向かう。

 

「隣立って」

 

譜面台のあるところ。即ち、高坂さんのそばまでやってくると、唐突にそう囁かれた。

 

「えっ? は、はい」

 

言われるままに隣に立つと、急に手を捕まれた。

 

えっ! どういう……手を上に上げるの?

 

ああ。万歳か。

 

それでお辞儀?

 

再び拍手が湧き起こる。

 

俺まで一緒に挨拶する事になったけど、良かったのだろうか……?

 

「行くよ」

 

そう言い高坂さんが歩き始めるので、俺も譜面台と楽譜を持ってステージ脇に戻って行く彼女を追いかける。

 

 

 

 

興奮冷めぬまま。と言うのだろうか。

 

俺は今、控え室の椅子に座っている。

 

ステージ脇で立華(りっか)とすれ違ったはずだし、そもそも控え室まで戻って来たはずだけど、その辺の記憶が一切無い。

 

いつの間にか、着替えて座っていた。

 

「お疲れ様。今日はありがとう」

 

着替え終えた高坂さんがやってくる。

 

「お疲れ様でした」

 

「演奏どうだった?」

 

「素晴らしかったです。……えっと。もう少し洒落た言葉が出てくれば良いんですけど、ありきたりというか、平凡な言葉しか出てこなくて申し訳ないです……」

 

「ありがとう。その言葉だけで充分よ。私の演奏は日本一なんだから、日本一の褒め言葉を探せって言っても無理でしょ?」

 

無理ですね……。って、日本一の演奏だって?

 

確かに高坂さんの演奏は凄い。日本一だといえる。

 

しかし、それを本人がなんの躊躇(ためら)いもなく言い切るなんて、普通はしないだろう。いや、できないと思う。

 

『日本一の演奏(トランペットソロ)』をする高坂さんだからこそ成立する言葉かもしれない……。

 

 

 

 

「そろそろ北宇治の演奏始まるよ」

 

時計を見上げる。確かにそんな時間だ。

 

「行きましょうか」

 

そう言って立ち上がる。

 

「あ、金山(かなやま)くんちょっと待って」

 

すると、高坂さんに呼び止められた。

 

「これ、渡すの忘れてた」

 

そう言って封筒を差し出された。

 

受け取る。

 

「少ないけど、今日のお礼。ありがとう」

 

お礼……。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

貰ってしまった……。

 

少ないって言ったからお金だろうか。にしても、この封筒厚くないか? 

 

……後で確認しよう。演奏が先だ。

 

 

 

 

 

 

大階段の下の方にある関係者用のスペースにやって来た。

 

ステージがそこまで広くないので、ステージ上で演奏する人と、ステージの下で演奏する人に別れているのだが、位置的にはステージの下で演奏する人と同じ目線の高さ、そんな感じのところだ。

 

「えーと。皆さん、こんにちは。北宇治高校吹奏楽部です」

 

加納(かのう)先輩がMCを務めている。

 

高坂さんの場合はソロだったからやらなかったけど。

 

「一曲目は、昨年のコンクールにて演奏しました、ここ京都出身の作曲家、鳴海 成美(なるみなるみ)氏作曲『北からの子守歌』をお贈りします」

 

この演奏には、チーム『ほたかメンバー』も参加している。

 

演奏に加わっていない部員は、俺1人だけだ。

 

 

 

去年のコンクールはこの曲だったのか。

 

指揮が園田(そのだ)先生から(たき)先生に代わり、卒業した3年生ではなく、新1年生が演奏している、という違いはあるが、これが去年の自由曲。

 

 

 

 

 

 

 

 

「続きまして、先日本校の文化祭にて演奏しました『名探偵コナン メイン・テーマ』です」

 

曲が始まってすぐ、アルトサックスのソロがある。

 

演奏は(さくら)先輩だ。

 

……ソロが格好良く決まると、拍手が沸き起こる。

 

しかし、曲はまだ半分ぐらい残っている。3分の1がソロというのも凄い。

 

ソロパートが終わると、会場中に拍手が響く。

 

 

 

そして、演奏が終われば更に大きな拍手が起こる。

 

 

 

 

 

「最後になりました。私たち吹奏楽部は、今月末愛知県にて行われます、全日本吹奏楽コンクール全国大会に出場します。最後の曲は『うさぎの駆ける道』、全国大会にて演奏する曲です」

 

演奏が始まる。

 

何度か音楽室で聞いているが、やはり上手い。

 

俺には分からないけれど、府大会や関西大会の頃と比べれば、確実に上達しているはずだ。

 

それに、今日の演奏には、『ほたか』メンバーが加わっているから、その分演奏に厚みがある。のだろうか?

 

そんな気がする。

 

 

 

トランペットのソロパートに差し掛かる。

 

流石と言うべきか。完璧だ。

 

 

 

今度はフルートのソロパート。

 

機械のような完璧な演奏、しかし所々感情が込められており、ロボットには出来ない、人にしか出来ない演奏だ。

 

 

 

演奏が終わると、今までで一番大きな拍手が起こる。

 

俺も精一杯手を叩く。

 

 

 

 

 

 





演奏の部分の表現が簡潔になってしまい、申し訳ありません。

視点のはるかが、吹奏楽に関しては素人ですから、難しい用語を乱立させるのも変ですし、細かな記載をするのも如何かと悩んだ末、こうなりました……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。