【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
『ご乗車ありがとうございました。
京都駅に到着。
『新幹線、
電車を降り、駅構内を歩く。
普段ならICOCAを使うが、今日は
京都駅の改札を出るのは初めてだから、迷わないようにしないと……。
おお……。
立ち止まって見上げると、京都タワーが見えている。
雲一つ無い秋晴れの空。今日は駅ビルコンサートの当日だ。
聞いていたとおりに進むと、『大会本部 関係者以外立入禁止』と書かれた紙が貼ってある扉があった。
「失礼します……」
扉をノックし、開く。
「はい。えっと……。はい、どうぞ」
切符と共に渡されていた許可証を提示して入れてもらう。
室内ではスタッフと思われる人たちが慌ただしく動いている。
その中には高坂さんもいる。
「あ。
高坂さんが俺に気づき、呼んでいる。
「おはようございます」
「おはよう。朝早くからありがとう」
「早起きは慣れてますから。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。早速だけど、これが衣装だから、そこで着替えてきて」
差し出される衣装を受け取る。
「……スーツですか……」
「うん。本来なら、直接採寸してオーダーメイドするものだけど、急だから数字だけで作ってもらった。合うと思うんだけど……」
そういえば、この間
「分かりました。とりあえず、着替えてきます」
そこ、と指示された場所にある更衣室で、着替える。
「お待たせしました……あれ?」
着替えて出てきたら、高坂さんがいなくなっていた。
何処へ行ったのだろう。
まあいいや。待っていればいつかは戻るだろう。時間は決まっているんだから。
とりあえず、高坂さんが座っていた椅子の辺りに立つ。
ん? ラインの通知か。
どれどれ……
『今学校に集まったところ。はるかは?』
そうか。北宇治の出番は後の方だから、出発も遅いんだ。
『京都タワーに来てます。今準備中』
とりあえず、こう返信しておこう。
「君が高坂さんの付き人?」
えっ!
後ろから声が掛かる。
丁度スマホをしまったところだったので、驚いてしてしまった。
「えっと……そうです。譜面台を運びます」
付き人かと問われれば、ちょっと違う気もする。
しかし、今日譜面台を運ぶ手伝いをするのだから、多分合ってるだろう。
「これ、今日のタイムテーブルね。渡しておくから、彼女にも伝えてね」
差し出されている紙を受け取る。
「分かりました」
もらったタイムテーブルを見る。
えっと……、高坂さんの演奏の前に、南宇治の演奏があり、それが終わったらスタッフ総出で椅子の撤去。
終わったタイミングで、俺と高坂さんがステージに登り、演奏。終わったらステージから降りて、
休憩時間を挟んで、北宇治の演奏がある。
椅子を片付けなければならないから、譜面台は自分でお願いします、ってことなんだ……。
「お待たせ」
あ、高坂さんが戻ってきたようだ。
「何処に行って……。更衣室でしたか……」
高坂さんがスーツ姿で現れた。
「あ、タイムテーブル貰ったのね。ちょっと見せて」
「はい。南宇治の演奏後に椅子の片づけがあるんですね。だから、譜面台はこっちで運べって」
「ああ。そういうことなの……。えっと、北宇治……芸大……
俺が渡したタイムテーブルを見て、色々呟いている。
今年は浜松海浜高校の演奏があるという話は、高坂さんから聞いている。
詳しい話は知らないが、大阪で式典に参加した帰りに寄るらしい。
ここ3年連続で全国金賞だった。
そんな強豪校の演奏が聴ける、というだけで部員たちが興奮気味だったのを覚えている。
コンサートが始まり、順調に演目が進んでいるらしい。
らしい、というのは、この大会本部兼控え室では、モニター越しにしか様子が分からないからだ。
「そろそろだよ」
高坂さんから声が掛かる。
「はい……」
リハーサルもやったし、問題ない。そもそも、俺が演奏する訳じゃないんだから、緊張するだけ無駄だ。落ち着いてやるだけ……。
そう自分に言い聞かせても、やっぱり緊張する……。
「高坂さん、金山くん。出番だよ」
扉が開き、入ってきたスタッフに呼ばれる。って、この声……。
「あ、えっ?
「傘木さんだよー。緊張してるでしょ? 金山くん」
「はい。少し……。というか、傘木さんはここで何を?」
「酷いなあ、私は主催者側の人間だよ。今日も仕事に決まってるじゃん。だいたい、金山くんと会うときって必ず私は仕事中だよね?」
確かに。初めてお会いした
「
「確かに」
「いや、そこ納得しないでね? 一応、週休2日制だよ、私の会社。……それじゃあ行こう!」
何だろう……? 傘木さんと話していたら、緊張も何処かに飛んでいった気がする。
ステージ脇にて待機。
今は南宇治高校の演奏中だ。
ドクターXのテーマ曲に、コードブルーのテーマ曲。医療ドラマの曲をセレクトしたらしい。
隣には高坂さんが立っている。手には白銀の輝きを放つトランペット。
そういえば、なんだかんだ高坂さんの演奏を聞いたことがない。
プロ奏者だというのは知っているし、吹奏楽部のメンバーから見せられたYouTubeの動画で聞いたことがあっても、生は初めてだ。
南宇治の演奏が終わり、拍手が湧き起こる。
下がってくる演奏者と入れ替わるように、スタッフが総出で椅子を片づけ始める。
ここにいれば、嫌でも下がってくる演奏者とすれ違う訳だが。
……あーあ。
他にも数人が、俺の方を見て指差していたり、何か話している。
まあ、こんな所にこの人と一緒にいたら、驚かれて当然だけどね……。仕方ない。
さあ、出番だ。
合図を
俺は譜面台と楽譜を、
観客席となっている大階段は、8割方埋まっている。
あまり高いところに行っても見えないだろうから、観客席として機能し得る部分は一杯といえるだろう。
一曲目、『トランペット吹きの休日』を開いた。
あとは高坂さんの
そして、演奏が始まる……。
『トランペット吹きの休日』
『新世界より』
『フライデーナイトファンタジー』
演奏はあっという間に終わった。
やるべき仕事を、聞き惚れて忘れてしまわないように気をつけていたが、それでも一瞬意識がとんでいたらしい。
割れんばかりの拍手が聞こえてきたので、慌てて譜面台の回収に向かう。
「隣立って」
譜面台のあるところ。即ち、高坂さんのそばまでやってくると、唐突にそう囁かれた。
「えっ? は、はい」
言われるままに隣に立つと、急に手を捕まれた。
えっ! どういう……手を上に上げるの?
ああ。万歳か。
それでお辞儀?
再び拍手が湧き起こる。
俺まで一緒に挨拶する事になったけど、良かったのだろうか……?
「行くよ」
そう言い高坂さんが歩き始めるので、俺も譜面台と楽譜を持ってステージ脇に戻って行く彼女を追いかける。
興奮冷めぬまま。と言うのだろうか。
俺は今、控え室の椅子に座っている。
ステージ脇で
いつの間にか、着替えて座っていた。
「お疲れ様。今日はありがとう」
着替え終えた高坂さんがやってくる。
「お疲れ様でした」
「演奏どうだった?」
「素晴らしかったです。……えっと。もう少し洒落た言葉が出てくれば良いんですけど、ありきたりというか、平凡な言葉しか出てこなくて申し訳ないです……」
「ありがとう。その言葉だけで充分よ。私の演奏は日本一なんだから、日本一の褒め言葉を探せって言っても無理でしょ?」
無理ですね……。って、日本一の演奏だって?
確かに高坂さんの演奏は凄い。日本一だといえる。
しかし、それを本人がなんの
『日本一の演奏(トランペットソロ)』をする高坂さんだからこそ成立する言葉かもしれない……。
「そろそろ北宇治の演奏始まるよ」
時計を見上げる。確かにそんな時間だ。
「行きましょうか」
そう言って立ち上がる。
「あ、
すると、高坂さんに呼び止められた。
「これ、渡すの忘れてた」
そう言って封筒を差し出された。
受け取る。
「少ないけど、今日のお礼。ありがとう」
お礼……。
「あ、ありがとうございます……」
貰ってしまった……。
少ないって言ったからお金だろうか。にしても、この封筒厚くないか?
……後で確認しよう。演奏が先だ。
大階段の下の方にある関係者用のスペースにやって来た。
ステージがそこまで広くないので、ステージ上で演奏する人と、ステージの下で演奏する人に別れているのだが、位置的にはステージの下で演奏する人と同じ目線の高さ、そんな感じのところだ。
「えーと。皆さん、こんにちは。北宇治高校吹奏楽部です」
高坂さんの場合はソロだったからやらなかったけど。
「一曲目は、昨年のコンクールにて演奏しました、ここ京都出身の作曲家、
この演奏には、チーム『ほたかメンバー』も参加している。
演奏に加わっていない部員は、俺1人だけだ。
去年のコンクールはこの曲だったのか。
指揮が
「続きまして、先日本校の文化祭にて演奏しました『名探偵コナン メイン・テーマ』です」
曲が始まってすぐ、アルトサックスのソロがある。
演奏は
……ソロが格好良く決まると、拍手が沸き起こる。
しかし、曲はまだ半分ぐらい残っている。3分の1がソロというのも凄い。
ソロパートが終わると、会場中に拍手が響く。
そして、演奏が終われば更に大きな拍手が起こる。
「最後になりました。私たち吹奏楽部は、今月末愛知県にて行われます、全日本吹奏楽コンクール全国大会に出場します。最後の曲は『うさぎの駆ける道』、全国大会にて演奏する曲です」
演奏が始まる。
何度か音楽室で聞いているが、やはり上手い。
俺には分からないけれど、府大会や関西大会の頃と比べれば、確実に上達しているはずだ。
それに、今日の演奏には、『ほたか』メンバーが加わっているから、その分演奏に厚みがある。のだろうか?
そんな気がする。
トランペットのソロパートに差し掛かる。
流石と言うべきか。完璧だ。
今度はフルートのソロパート。
機械のような完璧な演奏、しかし所々感情が込められており、ロボットには出来ない、人にしか出来ない演奏だ。
演奏が終わると、今までで一番大きな拍手が起こる。
俺も精一杯手を叩く。
演奏の部分の表現が簡潔になってしまい、申し訳ありません。
視点のはるかが、吹奏楽に関しては素人ですから、難しい用語を乱立させるのも変ですし、細かな記載をするのも如何かと悩んだ末、こうなりました……。