【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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10-4……浜松海浜高校の演奏

 

会場へと戻ってきた。

 

ちょうど、浜松海浜(はままつかいひん)高校の演奏が始まるところだ。

 

この辺りでは無名でも、知っている人は知っているのか、観客の数は更に増えている。

 

さて、何処に座ろうか……と迷っていたら、高坂(こうさか)さんに関係者用のスペースに連れて行かれた。

 

俺は何時(いつ)まで関係者面して良いのだろう? というか、堀田(ほりた)先輩と加納(かのう)先輩も一緒だけど。

 

しかし、それについて誰も(とが)める者はなく、4人で関係者用スペースに座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんこんにちは! はじめましての方が(ほとん)どだと思いますので、簡単に紹介させていただきます」

 

MCを務めるのは部長だろうか? そんなことを考えていたら、

 

「副々部長の近藤(こんどう)さん。サックスのパーリーとドラムメジャーも務めてる子だよ」

 

高坂さんの囁き声が聞こえてきた。加納先輩と話している。

 

静岡(しずおか)県浜松市から来ました。浜松海浜高等学校、吹奏楽部です」

 

「今日は、大阪市にある姉妹校の新校舎完成記念式の帰りに、立ち寄らせていただきました。ここ、京都駅で演奏出来るということで、とても緊張しています」

 

と言いながらも、緊張している様子は見られない。全国大会常連の強豪校だから、こういうイベントには慣れているのだろう。

 

それか、本当に緊張しているけれど、顔に出ていないだけか……。

 

「短い時間ではありますが、お楽しみいただけると幸いです。それでは1曲目、『これが私の生きる道』!」

 

 

 

高坂さんが言うには、浜松海浜の十八番(おはこ)立華(りっか)における『フニクリ・フニクラ』みたいな曲らしい。

 

 

 

そういえば、北宇治には十八番と言える曲はあるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。2曲目は、京都在住の作曲家、鳴海 成美(なるみなるみ)先生の作曲、『南への恋文』を演奏します。えっと……北宇治でしたね。北宇治高校も演奏されたように、鳴海先生は地元でも人気が根強いんですね。それではどうぞ!」

 

 

 

『北からの子守歌』に『南への恋文』。この作者は方角の入った曲名が多い。

 

確か、『四方曲集』だったかな。この他に西と東の付く曲があるはず。

 

近藤さんが言ったように、鳴海先生は地元では有名な作曲家だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっという間に最後の曲となりました。皆さんお楽しみ頂けたでしょうか? 私たちも全日本吹奏楽コンクール全国大会に出場します。会場が名古屋で、ここからは遠いですが、聞きに来ていただけると嬉しいです。また、大会以外でも、ご縁ありましたらまた演奏を聞いていただけると有り難いです。それでは最後の曲、『宝島』です!」

 

浜松海浜も全国大会出場だっけ。

 

確かに名古屋は遠い。

 

でも、我ら吹奏楽部も名古屋へ行くんだ……。

 

 

 

「最後に一番盛り上がる曲を選んだねぇ」そう堀田先輩が呟いた。

 

確かに。

 

パーカスのアンサンブルから始まり、メロディーに入ると、会場からややずれた手拍子が起こる。

 

 

 

「あ、この曲聞いたことある!」

 

「凄いね。聞いていこうか」

 

通りすがりの人も、足を止めて演奏に聞き入っている。

 

「見たことのない制服だけど、何処の学校だろう?」

 

「ちょっと調べてみるね」

 

因みに、北宇治は吹奏楽部のTシャツを着て演奏したし、加納先輩や堀田先輩もまだ着用したままだが、浜松海浜は制服で演奏している。

 

 

 

サックスソロは、MCを務めていた近藤さんだ。

 

演奏は完璧。終われば盛大な拍手が注がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演奏が終われば、今日一番の拍手が起こる。

 

流石全国大会常連校。レベルが違う。

 

堀田先輩も加納先輩も、演奏に聞き入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浜松海浜高校の演奏を最後に、駅ビルコンサートは終了した。

 

部員たちはバスで帰るが、俺は高坂さんから往復分の乗車券を貰っているので、電車に乗って帰ることになる。

 

「それじゃあ、また学校でね」

 

「はい。お疲れ様でした」

 

「はるかお疲れ様」

 

「先輩もお疲れ様でした。皆さんにもよろしくお伝えくださいね」

 

「固いよ~。いつものはるからしくない!」

 

「なんか高坂さんに影響されちゃった感じが……」

 

「まあいいや。気をつけてね」

 

堀田先輩と加納先輩に挨拶し、荷物を預けてある大会本部へ向かう。

 

 

 

「あ、金山(かなやま)くん」

 

大会本部に戻ると、高坂さんが花束片手に立っていた。

 

「それ、どうしたんですか?」

 

「ファンだって言う子から貰ったの。感動しました! って」

 

わざわざ花束持参で演奏を聞きに来たのか……。

 

「凄いですね……」

 

「そうね。音楽室に来ればいつでも会えるのに……。いつでも、というわけではないか……。毎日じゃないから」

 

待て。

 

高坂さんが普段何をしているのか、詳しい話は知らないけれど、黄前(おうまえ)先生曰く『(たき)先生絡み』で来ているという話をしていた。それの真偽は分からない。

 

だけど、吹奏楽指導に行っている学校は北宇治だけらしいから、『音楽室で会える』のは、北宇治関係者。で、花束を持参しそうな人って……。

 

「高坂さん。その人って俺が知っている人ですか?」

 

「勿論」

 

即答。

 

加木屋(かぎや)先輩ですね……」

 

「うん。サインのお礼も兼ねてるみたい」

 

凄いな先輩。

 

引っ越してきて2ヶ月も経っていないし、家が俺と同じで学校の近くだから、平日は『学校⇔家』の行き来が殆どだろう。どこに花屋さんがあるかなんて知らないと思う。

 

それでもわざわざ探して買ってきたのか……。

 

「ここまで熱烈なファンはなかなか居ないよ。ありがとね」

 

「えっと、何で俺に?」

 

「金山くんが文芸同好会と吹奏楽部両方に在籍してなかったら、私が文芸同好会の部室に行く機会は無かったし、加木屋さんに出会うこともなかったと思うから」

 

それもそうか。でも、なんか、こそばゆい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせいたしました。快速 奈良行き発車します』

 

帰りの電車に乗る。

 

帰ろうとしたら、高坂さんに「忘れ物」と言って渡されたスーツを持って……。

 

確かに、俺のために採寸して作ったんだから、俺が持って帰らなければ、誰も使わない。

 

とはいえ、こんなにお礼を貰って申し訳ない気もする……。

 

「金山くん……」

 

窓の外を眺めていたら、声を掛けられた。

 

「えっ? あ、加木屋先輩」

 

声の主は加木屋先輩だ。

 

制服を着ているということは、一度学校に行ったのだろうか……。

 

「どうでした? 高坂さんの演奏は」

 

「凄かった! もうそれ以上言うこと無いくらいに。皆が知ってる曲を選んだんだね。演奏が凄かったし、聞いていて楽しかったよ」

 

先輩が饒舌(じょうぜつ)になってる……。

 

「どうしたの……?」

 

「あ、いや。先輩がそんなに喋ってるのが珍しくて……」

 

だから、黙って聞いていたら、変な顔をされた。

 

「そう……。確かに、私がこんなに喋るの……珍しいかもね……」

 

恥ずかしかったのか、先輩は顔を赤くして、窓の外を向いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六地蔵(ろくじぞう)駅で電車を降りる。

 

もちろん、加木屋先輩も一緒だ。

 

先輩が先を歩いていて、後追いの形で改札を抜ける。

 

「急に寒くなったね……」

 

「そうですね。昨日はまだ昼間は暑かったのに」

 

陽が当たるところなら暖かいけれど、日陰に入ると肌寒く感じる。

 

「服装……気を付けないと風邪引くね」

 

現に、半袖のセーラー服の先輩は、少し寒そうだ。

 

「先輩、明日からは冬服にしますか?」

 

今は衣替えの期間なので、冬服・夏服どちらを着用しても良いことになっている。

 

「そうする……。昼間は暑くなるとかないよね?」

 

男子の制服は、長袖カッターシャツ+学ランだが、女子の制服はセーラーだから、男子と違い『上着を脱ぐ』ことが出来ない。

 

暑いと悲惨だ(コンクール当日の惨状)。

 

「だと良いんですけど……」

 

そういえば、先輩は9月に編入してきたから、冬服を着ているのを見たことがない。

 

「金山くんも明日は冬服着る?」

 

「そのつもりです」

 

因みに、今は私服だ。

 

 

 

「先輩、明日の服装気を付けてくださいね」

 

「何を?」

 

「先輩なら大丈夫だと思うんですが、夏前の衣替えの時、上下で違っていた人を見ましたから」

 

男子の場合、スラックスは見た目は変わらないが、女子のセーラー服は全く異なる。凄く目立つ。

 

「間違えた子は顔真っ赤にして半泣きだったし、クラス中が『見て見ぬ振り』を決め込んでました。まあ、最終的には西尾(にしお)先生が体操服の着用を勧めましたけど」

 

結局、保健室で借りて上下揃えた。

 

「それは……恥ずかしいね……。私だったらもう学校来れないかも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校門の前、即ち俺の家に到着。

 

「それじゃあ……」

 

先輩が1人歩き出すので、追いかける。

 

「先輩、すぐだから送りますよ。もう暗くなってきましたし」

 

「別に良いよ。……家の前なのに」

 

「大丈夫です。少しぐらい。それに、運動をかねて歩かないと」

 

そう言いながら、隣を歩く。

 

「花束、高坂さん喜んでましたよ」

 

「そう……。喜んでもらえて良かった」

 

先輩が立ち止まった。

 

「先輩?」

 

振り向くと、先輩と目が合う。しかし、目線は逸らされない。

 

「私ね、こんな性格だから、京都に引っ越すことになったときは不安だったの」

 

「前に、高坂さんについて書かれた本を読んだことがあって、彼女の演奏に感動したのね。だから、京都に来れたらもしかしたら会えるんじゃないかって、少しだけ期待してたんだけど……」

 

「まさか本当に会えるなんて……。金山くんのお陰だね」

 

「いや、俺は何もしてませんよ?」

 

「でも、金山くんに出会ったから会えたんだよ」

 

さっき、これと逆のことを高坂さんに言われたばかりだ。

 

そう言おうと思った。でも、言えなかった。

 

「ありがとう」

 

満面の笑みでそう言い、先輩が走って行ったからだ。

 

俺はその背中を見送ることしか出来なかった。

 

でも、助かった。

 

 

 

俺の顔は今、真っ赤だと思うから……。

 

 

 

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