【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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10-6……ちょっと音楽室に

 

1日の授業が終わった放課後。

 

「失礼します。1-2の金山(かなやま)です。閉架書庫室の鍵を借りに来ました」

 

部室の鍵を借りに職員室に入る。

 

もし、先輩が先に借りていたら、この辺りで誰かしら声を掛けてくれるのだが……。

 

加木屋(かぎや)が借りていったぞ」

 

そう。まさにこんな感じで。

 

松本(まつもと)先生、ありがとうございます」

 

「頑張れよ」

 

教えてもらった松本先生にお礼を言い、一度室内を見渡す。

 

珍しく、黄前(おうまえ)先生が居るが滝野(たきの)先生が居ない。

 

部室に行っているのは滝野先生か……。

 

「失礼しました」

 

職員室を出る。

 

 

 

特に何もなく、部室に辿(たど)り着く。いつも通りだ。

 

「失礼します」

 

ノックして扉を開く。

 

「お疲れ~」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

滝野先生と加木屋先輩に声掛けられたので、返事をする。

 

自分の席に座り、パソコンを起動させ、執筆を開始。

 

 

 

執筆を始めてしまえば、後は俺がキーボードを叩く音以外聞こえなくなる。

 

先輩と先生は本を読んでいるし、俺は黙々とキーボードを叩く。

 

……。

 

ん?

 

静かだった室内に、鉛筆で何かを書く音が聞こえ始めた。

 

気になって顔を上げると、先輩がスケッチブックに何か書いている。

 

そういえば、先輩は絵が上手いんだっけ。文化祭のポストカードを思い出した。

 

あの絵、似たのを何処かで見たことがある気がするんだけど、思い出せない……。

 

「どうしたの?」

 

手を止めて描いている様子を眺めていたら、手を止めた先輩が顔を上げて、目が合った。

 

「あ、いえ。描いているのを見たことがなかったので……。絵が上手いのは、ポストカードで知ってますから。それは?」

 

トランペットと、それを持つ手が描かれている。人物画だろうか。

 

高坂(こうさか)さんがトランペットを吹いていたのを思い出しながら、彼女を描いてるの」

 

なるほど、高坂さんか。

 

「まだ時間掛かるよ? 描き上がったら教えるから、続きやってて」

 

「あ、はい」

 

再びキーボードを叩き出す。

 

高坂さんと言えば、トランペット……。

 

トランペットと言えば、加納(かのう)先輩……。

 

……よし。

 

 

 

今書いている原稿データを保存し、閉じる。

 

そして、新たな原稿のファイルを開く。

 

まだ何も書かれていない、新たな物語を書くためのファイルだ。

 

締切まで時間あるし、息抜きも必要だろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは夢中だった。

 

尿意を感じ、手を止めるまでひたすらキーボードを叩き続けた。

 

「ちょっと、お手洗い行ってきます……」

 

そう声を掛け、部室を出る。

 

廊下を歩き、一番近いトイレへ向かう。

 

用を足して手を洗い、ハンカチを……あれ?

 

制服のポケットに入っているはずのハンカチが見当たらない。

 

えっと……何処に行った?

 

いやいや。勝手に居なくなるわけがない。何処に置いた……?

 

記憶を辿る。部活に行くときは確認していないから、授業。

 

6限目の音楽。一旦音楽室に入ってから、授業前にトイレに行って、戻って……。

 

あ、机の引き出しの中に入れてしまったんだ……!

 

音楽室だ。

 

取りに行くしかないな……。

 

 

 

音楽室に到着。

 

室内を覗き込むと、今は、吹奏楽部の合奏練習中だ。

 

ということは、机は音楽準備室隣の空き教室に移動している。

 

つまり、俺が使っていた……即ち、ハンカチが入っているだろう机がどれか、捜すのは容易ではないってことだ。

 

仕方無い。片っ端から捜そう……。

 

そう思ったところで扉が開いた。

 

「何してるの? こんな所で」

 

「あ、坂部(さかべ)さん……」

 

変な物を見るような目、きょとんとした表情で俺を見ていた。

 

「あ、あの。今日の授業の時に、机の引き出しにハンカチを忘れたみたいで……。合奏練習中ですからね、机は空き教室かな……って思っていたところです」

 

嘘をついても仕方がないので、包み隠さず本当のことを言う。

 

「ああ。ハンカチね。机移動させていたら、中から出てきたってのがあるね。持ってくるから待ってて」

 

おお。捜すまでも無かったらしい。

 

橋本(はしもと)先生からは?」

 

室内を覗き込むと、合奏を止めたところのようだ。

 

「ティンパニー、今のところ、ワンテンポ遅かった。罰金取るよ?」

 

先生方がそれぞれ指摘事項を言っている。

 

「はい」

 

「そんなとこかな……」

 

「では、私から。トランペット新川(あらかわ)さん、もう少し上向けて吹いてください。1人だけズレていると目立ちます」

 

「はい」

 

「それと、チューバ。青山(あおやま)さんが遅れ気味です。藤浪(ふじなみ)くんは逆に早い。パート練習で直してください。明日の合奏に間に合いますか?」

 

「分かりました」

 

「はい」

 

青山先輩に続いて藤浪先輩が返事をした。

 

しかし、藤浪先輩は明日……。

 

「お待たせ。これだけど、違う?」

 

坂部さんがハンカチ片手に戻ってきた。手にあるハンカチはまさしく、

 

「俺のです。ありがとうございます」

 

良かった。机の中を片っ端から捜す必要が無くて。

 

「どういたしまして。それじゃあ。……萩原(はぎわら)、さっきのはなんだ!」

 

坂部さんが室内に向き直り、指摘事項を飛ばしながら戻って行く。

 

俺も部室へ戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻りました」

 

ノックして扉を開ける。

 

「おかえりー」

 

「お帰りなさい。遅かったね」

 

「ちょっと音楽室に行ってきました。忘れ物を取りに……」

 

「そう」

 

先輩は顔を上げることなく、ずっと描き続けている。

 

俺もパソコン前の椅子に腰掛け、続きを書き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。描けたよ、金山くん」

 

「描けたって何が?」

 

加木屋先輩がそう言うと、真っ先に滝野先生が反応した。

 

「お、これ高坂か。絵上手いんだな」

 

「描くのは得意なので……。先生も描きましょうか?」

 

「俺か? そんな感じでペット持った……吹いてる絵でも描ける?」

 

「もちろんです……。ただ、今日は……こんな時間ですし、明日までに仕上げます」

 

こんな時間? ……あちゃー。

 

夢中になって時間に気付かなかった。

 

「俺はそろそろ帰るよ。2人とも、あまり遅くならないように」

 

滝野先生がそう言って立ち上がる。

 

「あ……えっと……」

 

先輩が俺の方を見てきたので、頷いてみせる。

 

「私たちも帰ります……」

 

先輩が先生にそう言うと、

 

「じゃあ、鍵は返しておくから、さっさと準備しろー」

 

俺はパソコンの電源を切り、窓の施錠を確認しに行く。

 

鍵が閉まっていることを確かめ、荷物を持って部室を出る。

 

「忘れ物無いな?」

 

「はい」

 

「大丈夫です」

 

「鍵閉めるぞ」

 

先生が鍵を回す。

 

「それじゃあ、気を付けて帰れ」

 

「はい。先生さようなら~」

 

最近は、滝野先生と一緒に帰る時だと、先生が鍵を持って行ってくれるので、そのまま帰路につける。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

滝野先生を見送り、昇降口へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下駄箱で靴を替え、昇降口を出る。

 

吹奏楽部ですら、もう残っていない。もしかしたら、俺たちが最後まで残っていた生徒かもしれない……。

 

「遅くなっちゃいましたか?」

 

「大丈夫。いつも通り」

 

「その、いつも通りの時間が遅いんですよね」

 

「確かに」

 

2人、校門へ向けて歩いて行く。

 

駅ビルコンサート以降、俺と先輩は一緒に帰ることが多くなった。

 

運動を兼ねて、先輩の家まで一緒に行き、帰っている。

 

「絵、見せ損なっちゃったから、明日、滝野先生の絵を描き上げたら一緒に見せるので良い?」

 

「はい。それで大丈夫です。せっかく見せて頂けるところで手が放せなくて、失礼しました」

 

「いいの。そういうの、私も分かるから。マンガ書いてるときとか、良くあるよね」

 

マンガ?

 

「先輩、マンガ書くんですか?」

 

「偶にね」

 

「今度見せてくださいよ」

 

「それは嫌」

 

拒否された、しかも即答。

 

「何でですか~?」

 

「じゃあ、金山くんの過去のお話読ませてくれる? お蔵入りにしたのとか、あるでしょう?」

 

成る程。そういうことか。それなら仕方ない。

 

「その気持ち、分かります。諦めきれないけど……。今はこの気持ち封印しておきます」

 

「よろしく」

 

ノリや勢いで書いた、短編の恋愛小説を、あとで冷静になって読み返すと、恥ずかしくなって捨てたくなることがある。

 

先輩のマンガもそれなんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩の家に到着。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「はい。おやすみなさい」

 

先輩が玄関を潜るのを見届けると、駆け足で帰宅する。

 

『明日、先輩の絵が見られる』と思うと、明日がいつも以上に楽しみになってきた。

 

 

 

でも、明日は一騒動起きるはずだ……。

 

 

 

 






大変長らくお待たせ致しました。

実は、祖母が急逝しまして、急きょ仕事を休んで帰省しています。

夜通し車を運転しての800㌔(運転交代ありのため、全部は運転してません)は、中々大変でした。


今は、帰省先から投稿しているため、これから戻ることになります。

次の更新もお待たせすることになると思いますが、お待ちいただけると幸いです。

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