【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
1日の授業が終わった放課後。
「失礼します。1-2の
部室の鍵を借りに職員室に入る。
もし、先輩が先に借りていたら、この辺りで誰かしら声を掛けてくれるのだが……。
「
そう。まさにこんな感じで。
「
「頑張れよ」
教えてもらった松本先生にお礼を言い、一度室内を見渡す。
珍しく、
部室に行っているのは滝野先生か……。
「失礼しました」
職員室を出る。
特に何もなく、部室に
「失礼します」
ノックして扉を開く。
「お疲れ~」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
滝野先生と加木屋先輩に声掛けられたので、返事をする。
自分の席に座り、パソコンを起動させ、執筆を開始。
執筆を始めてしまえば、後は俺がキーボードを叩く音以外聞こえなくなる。
先輩と先生は本を読んでいるし、俺は黙々とキーボードを叩く。
……。
ん?
静かだった室内に、鉛筆で何かを書く音が聞こえ始めた。
気になって顔を上げると、先輩がスケッチブックに何か書いている。
そういえば、先輩は絵が上手いんだっけ。文化祭のポストカードを思い出した。
あの絵、似たのを何処かで見たことがある気がするんだけど、思い出せない……。
「どうしたの?」
手を止めて描いている様子を眺めていたら、手を止めた先輩が顔を上げて、目が合った。
「あ、いえ。描いているのを見たことがなかったので……。絵が上手いのは、ポストカードで知ってますから。それは?」
トランペットと、それを持つ手が描かれている。人物画だろうか。
「
なるほど、高坂さんか。
「まだ時間掛かるよ? 描き上がったら教えるから、続きやってて」
「あ、はい」
再びキーボードを叩き出す。
高坂さんと言えば、トランペット……。
トランペットと言えば、
……よし。
今書いている原稿データを保存し、閉じる。
そして、新たな原稿のファイルを開く。
まだ何も書かれていない、新たな物語を書くためのファイルだ。
締切まで時間あるし、息抜きも必要だろう……。
そこからは夢中だった。
尿意を感じ、手を止めるまでひたすらキーボードを叩き続けた。
「ちょっと、お手洗い行ってきます……」
そう声を掛け、部室を出る。
廊下を歩き、一番近いトイレへ向かう。
用を足して手を洗い、ハンカチを……あれ?
制服のポケットに入っているはずのハンカチが見当たらない。
えっと……何処に行った?
いやいや。勝手に居なくなるわけがない。何処に置いた……?
記憶を辿る。部活に行くときは確認していないから、授業。
6限目の音楽。一旦音楽室に入ってから、授業前にトイレに行って、戻って……。
あ、机の引き出しの中に入れてしまったんだ……!
音楽室だ。
取りに行くしかないな……。
音楽室に到着。
室内を覗き込むと、今は、吹奏楽部の合奏練習中だ。
ということは、机は音楽準備室隣の空き教室に移動している。
つまり、俺が使っていた……即ち、ハンカチが入っているだろう机がどれか、捜すのは容易ではないってことだ。
仕方無い。片っ端から捜そう……。
そう思ったところで扉が開いた。
「何してるの? こんな所で」
「あ、
変な物を見るような目、きょとんとした表情で俺を見ていた。
「あ、あの。今日の授業の時に、机の引き出しにハンカチを忘れたみたいで……。合奏練習中ですからね、机は空き教室かな……って思っていたところです」
嘘をついても仕方がないので、包み隠さず本当のことを言う。
「ああ。ハンカチね。机移動させていたら、中から出てきたってのがあるね。持ってくるから待ってて」
おお。捜すまでも無かったらしい。
「
室内を覗き込むと、合奏を止めたところのようだ。
「ティンパニー、今のところ、ワンテンポ遅かった。罰金取るよ?」
先生方がそれぞれ指摘事項を言っている。
「はい」
「そんなとこかな……」
「では、私から。トランペット
「はい」
「それと、チューバ。
「分かりました」
「はい」
青山先輩に続いて藤浪先輩が返事をした。
しかし、藤浪先輩は明日……。
「お待たせ。これだけど、違う?」
坂部さんがハンカチ片手に戻ってきた。手にあるハンカチはまさしく、
「俺のです。ありがとうございます」
良かった。机の中を片っ端から捜す必要が無くて。
「どういたしまして。それじゃあ。……
坂部さんが室内に向き直り、指摘事項を飛ばしながら戻って行く。
俺も部室へ戻ろう。
「戻りました」
ノックして扉を開ける。
「おかえりー」
「お帰りなさい。遅かったね」
「ちょっと音楽室に行ってきました。忘れ物を取りに……」
「そう」
先輩は顔を上げることなく、ずっと描き続けている。
俺もパソコン前の椅子に腰掛け、続きを書き始める。
「よし。描けたよ、金山くん」
「描けたって何が?」
加木屋先輩がそう言うと、真っ先に滝野先生が反応した。
「お、これ高坂か。絵上手いんだな」
「描くのは得意なので……。先生も描きましょうか?」
「俺か? そんな感じでペット持った……吹いてる絵でも描ける?」
「もちろんです……。ただ、今日は……こんな時間ですし、明日までに仕上げます」
こんな時間? ……あちゃー。
夢中になって時間に気付かなかった。
「俺はそろそろ帰るよ。2人とも、あまり遅くならないように」
滝野先生がそう言って立ち上がる。
「あ……えっと……」
先輩が俺の方を見てきたので、頷いてみせる。
「私たちも帰ります……」
先輩が先生にそう言うと、
「じゃあ、鍵は返しておくから、さっさと準備しろー」
俺はパソコンの電源を切り、窓の施錠を確認しに行く。
鍵が閉まっていることを確かめ、荷物を持って部室を出る。
「忘れ物無いな?」
「はい」
「大丈夫です」
「鍵閉めるぞ」
先生が鍵を回す。
「それじゃあ、気を付けて帰れ」
「はい。先生さようなら~」
最近は、滝野先生と一緒に帰る時だと、先生が鍵を持って行ってくれるので、そのまま帰路につける。
「じゃあ、行きましょうか」
滝野先生を見送り、昇降口へと向かう。
下駄箱で靴を替え、昇降口を出る。
吹奏楽部ですら、もう残っていない。もしかしたら、俺たちが最後まで残っていた生徒かもしれない……。
「遅くなっちゃいましたか?」
「大丈夫。いつも通り」
「その、いつも通りの時間が遅いんですよね」
「確かに」
2人、校門へ向けて歩いて行く。
駅ビルコンサート以降、俺と先輩は一緒に帰ることが多くなった。
運動を兼ねて、先輩の家まで一緒に行き、帰っている。
「絵、見せ損なっちゃったから、明日、滝野先生の絵を描き上げたら一緒に見せるので良い?」
「はい。それで大丈夫です。せっかく見せて頂けるところで手が放せなくて、失礼しました」
「いいの。そういうの、私も分かるから。マンガ書いてるときとか、良くあるよね」
マンガ?
「先輩、マンガ書くんですか?」
「偶にね」
「今度見せてくださいよ」
「それは嫌」
拒否された、しかも即答。
「何でですか~?」
「じゃあ、金山くんの過去のお話読ませてくれる? お蔵入りにしたのとか、あるでしょう?」
成る程。そういうことか。それなら仕方ない。
「その気持ち、分かります。諦めきれないけど……。今はこの気持ち封印しておきます」
「よろしく」
ノリや勢いで書いた、短編の恋愛小説を、あとで冷静になって読み返すと、恥ずかしくなって捨てたくなることがある。
先輩のマンガもそれなんだろう……。
先輩の家に到着。
「それじゃあ、また明日」
「はい。おやすみなさい」
先輩が玄関を潜るのを見届けると、駆け足で帰宅する。
『明日、先輩の絵が見られる』と思うと、明日がいつも以上に楽しみになってきた。
でも、明日は一騒動起きるはずだ……。
大変長らくお待たせ致しました。
実は、祖母が急逝しまして、急きょ仕事を休んで帰省しています。
夜通し車を運転しての800㌔(運転交代ありのため、全部は運転してません)は、中々大変でした。
今は、帰省先から投稿しているため、これから戻ることになります。
次の更新もお待たせすることになると思いますが、お待ちいただけると幸いです。