【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

66 / 90

大変長らくお待たせ致しました。

お待たせしておきながら、短めです。申し訳ありません。




10-7……1限目と2限目は社会になった

 

翌朝、いつもと同じ時間に学校へ行く。

 

下駄箱で、加木屋(かぎや)先輩の靴を確認。

 

最近では、靴があれば直接部室へ向かうようにしている。その方が早いから……。

 

 

 

ノックし扉を開ける。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

加木屋先輩に挨拶をし、自分の定位置に座り、パソコンの電源を入れる。

 

立ち上がるまで時間が掛かる。

 

さて、暇だ。

 

先輩の方を覗き込んでみる。

 

「はい。高坂(こうさか)さんと滝野(たきの)先生」

 

どうやら、先輩も覗き込まれると思って準備していたようで、すぐスケッチブックを差し出された。

 

「ありがとうございます」

 

受け取り、見る。

 

おお。紛れもなく高坂さんの胸像画だ。

 

トランペットを吹いているときのものだ。

 

鉛筆(シャーペン?)で描かれているから白黒だけど、写真と勘違いしそうな出来映えだ。

 

これ、言ったら失礼かもしれないけど、どんな美人・美青年でも、楽器吹いている時って、凄い顔するよな……。それまで忠実に再現してるよ。

 

 

 

えっと、もう一つは滝野先生だ。

 

先生もトランペットを吹いている時の絵だ。

 

しかし、滝野先生がトランペットを吹いている姿を見たことがない。

 

高校生の時、この学校でトランペットパートだったという話を聞いているけれど、話だけだ。

 

「先輩、滝野先生が楽器吹いているの、見たことがあるんですか?」

 

「無いよ。駅ビルコンサートの時に見た、ペット吹いてる男の子と、滝野先生を重ねて描いてみたの」

 

なるほど。

 

「じゃあ、滝野先生にフルート持たせたり、西尾(にしお)先生にクラ持ってもらうことも出来ますか?」

 

「出来るよ。でも、本人に許可無くそれやるの、失礼じゃない?」

 

それもそうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の部活を終え、教室へ。

 

「おはよー」

 

西尾先生が入ってきた。

 

「「おはようございます」」

 

「「先生おはよー」」

 

「さてと。朝礼始めるよ。出欠とるね」

 

赤池 秀夫(あかいけひでお)

 

「はい」

 

阿久比 尚美(あぐいなおみ)

 

「はーい」

 

石刀 真紀(いわとまき)

 

「はい」

 

植大 優斗(うえだいゆうと)

 

「うい~」

 

「こら、まじめに答えなさい。次、江吉良 香澄(えぎらかすみ)

 

「はい」

 

金山(かなやま) はるか」

 

「はいっ!」

 

「元気だね。次、清水 紅葉(しみずくれは)

 

返事がない。

 

振り向くと、後ろの席は空いていた。

 

「あれ? 清水さんは来てないのか……。というか、吹部誰も居ない?」

 

確かに。

 

教室内を見渡すと、紅葉(くれは)の他にも吹奏楽部のメンバーが誰一人居ない。

 

「誰か何か聞いてる?」

 

先生がそう言って室内を見渡したところで、扉が開いた。

 

「おはようございます」

 

「部活が長引きました」

 

「遅くなりました!」

 

吹奏楽部のメンバー登場。

 

「何かあったの?」

 

「この件については、職員室で松本(まつもと)先生が説明するって言ってました。HRの後に」

 

「了解。じゃあ席ついて。出欠確認続けるよ」

 

紅葉(くれは)が歩いてくる。

 

あ、今わざと目合わせなかった。

 

「何かあったのか?」

 

だからといって確認しないわけにもいかない。

 

後ろの席に問い掛ける。

 

「金山くん。……藤浪(ふじなみ)先輩って知ってる?」

 

やはり。

 

「低音だっけ? あまり接点無いから、名前ぐらいしか知らないけど。先輩がどうした?」

 

知っているけれど、ここで本当のことは言えない。

 

「私、パートが違うから、詳しいことは知らないんだけど、今朝の朝練に来なかったの。まじめな人だから、無断欠席は疎か遅刻することさえ無い人だし。低音パートは大騒ぎだったよ。堀田(ほりた)先輩がラインしたんだけど、既読付かないし。電話してみたんだけど、出ないし……。チューバ、青山(あおやま)先輩1人じゃあ音が聞こえてこないし。急きょ成岩(ならわ)さんと古見(こみ)さんが加わることになったんだけど、2人とも『ほたかメンバー』だから……。言いたいことは、金山くんなら分かるよね?」

 

Aメンバーではない、ということは、まあそういうことなんだろう。

 

(たき)先生が時間が過ぎてるのに気付かないから……。だから、楽器片付けてたら遅くなったの」

 

あの先生が時間を忘れるなんて。相当焦っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、席つけー。授業始めるぞ」

 

1限目の始まる時間になると、教室に滝野先生が入ってきた。

 

あれ? 1限目は数学のはず。

 

「純ちゃん先生どうしたの? 1限目数学じゃないの?」

 

誰かが突っ込むように言った。

 

「時間割変更だよ。1限目と2限目は社会になった」

 

「えっ? 2限目もですか!」

 

黄前(おうまえ)先生と松本先生が訳あって外出してるんだよ。だからだ、諦めろ」

 

「うわー」

 

先生の言葉に、社会が嫌いな人が悲鳴を上げた。俺は社会得意だし別に構わない。

 

しかし、黄前先生と松本先生が一緒に外出したってことは……。あの件だろうか。

 

「黄前先生って誰?」

 

「悪い。塚本(つかもと)先生だったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなわけで、関ケ原の戦いで敗れた三成は……っと。チャイム鳴ったな。一旦終わり。日直、号令頼む」

 

「起立。気を付け、礼」

 

「「ありがとうございました」」

 

1限目が終わる。

 

このまま2限目も同じ授業だが、流石に一旦区切るらしい。

 

「滝野先生! ここ教えてください」

 

「板書し損ねたので、お願いします」

 

先生は室内に留まるようで、質問をする生徒が駆け寄っていく。

 

「ねえ、金山くん」

 

そんな様子を眺めていたら、前の席の柳津(やないづ)さんが振り向いて名前を呼ばれた。

 

「えっと。何?」

 

「これ教えてもらえる?」

 

どれどれ……数学かよ。計算式が途中で途切れている。

 

「これは、ここが逆。ひっくり返して考えてみ」

 

「逆……ああ。そういうことね」

 

分かったらしい。

 

「そう。それで答え出るから」

 

「ありがとう」

 

「ねえ、金山くん」

 

柳津さんが向き直ると、今度は後ろの紅葉から声が掛かる。

 

「どうしたの?」

 

「金山くん。実は藤浪先輩のことを何か知っているとか?」

 

いきなり何言い出すの、この人は。

 

「何も知らないよ。論より証拠、疑うなら何か証拠出してよ」

 

中学の頃は『失言魔』の異名を(たまわ)った紅葉も、最近は勘が鋭くなっているようだ。

 

とはいえ、このことは話すわけにはいかない。

 

「証拠って……無いよ。どちらかといえば、金山くんなら知っているかもしれない、という希望みたいな?」

 

何故、自分で言いながら疑問形。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。