【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

69 / 90

大変お待たせ致しました。

いよいよ全国大会に突入します。





10-10……全国大会前日

 

『まもなく12番線に、ひかり628号東京行が到着します。安全柵の内側でお待ちください』

 

全国大会前日。

 

吹奏楽部の部員たちが、バスで名古屋へ向かっている中、俺は今京都駅の新幹線ホームにいる。

 

『名古屋、浜松、静岡、三島、新横浜、品川、東京の順に停車します』

 

しかも、そこそこ重い楽器を抱えながら。

 

因みに、切符を買うとき駅員さんに確認して、持ち込み手数料を払っている。在来線なら不要らしいが、そんな時間的余裕は無い。

 

さっきの駅員さん、話口調からして、北宇治の卒業生らしい……。世間は狭い。

 

 

 

しかし。

 

どうしてこうなった?

 

 

 

きっかけは、移動中のバス車内で発覚したトラブルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽器運搬は前日のうちに済ませてあったので、朝は学校に集合。

 

バスに乗って出発。

 

高速道路に入った辺りで、白沢(しらさわ)先輩がコントラバスを載せるのを忘れてしまったことに気づき、急遽新名神大津サービスエリアに停車。

 

先を走っているトラックに確認を取り、本当に積み忘れていることが確認出来たので、自分の車で後追していた園田(そのだ)先生と合流し、俺が先生の車に乗って、北宇治へ引き返した。

 

学校に着いて楽器を取った所で園田先生の車が故障。身動きがとれなくなってしまった。

 

そこで、仕事があって学校に来ていた教頭先生が、無理矢理手を空けて、俺と楽器を京都駅まで送り届けた。

 

そして、今に至る。

 

 

 

サンライズフェスティバルといい、府大会に関西大会。そして、全国大会。今年の吹奏楽部は本当にトラブルが多い。

 

やるべきは『必勝祈願』ではなく『お(はら)い』だったのでは? と思ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着した新幹線に乗り込む。

 

朝ラッシュが終わった時間だからか、自由席は選べるくらいに空きがある。あ、今日は土曜日だった……。

 

座った席の隣に楽器を置く。

 

混んでいるわけではないし、もし怒られたら移動させよう……。目の届くところに置いておかないと不安だ。

 

 

 

えっと。

 

名古屋まで30分強。今のうちに経路を確認しておこう。

 

最寄り駅は、地下鉄の日比野(ひびの)駅と西高蔵(にしたかくら)駅。どちらから歩いても、所要時間は同じらしい。

 

地下鉄に乗るためには、名古屋駅から地下鉄に…………乗って良いのか?

 

金山駅から地下鉄に乗れば、1駅。

 

えっと、金山駅は名古屋駅の2つ隣。いや、隣駅か?

どういうこと?

 

中央線だと隣駅で、東海道線だと2つ隣の駅なのか……。よく分からない。最悪、向こうで駅員さんに尋ねよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『名古屋、名古屋です。東海道線、中央線、関西線、近鉄線、名鉄線、地下鉄東山線・桜通線、あおなみ線はお乗り換えです』

 

ホームに降り立つ。

 

『ありがとうございました。名古屋、名古屋です。お降りの際、車内にお手荷物など、お忘れ物御座いませんよう、ご注意願います……』

 

ここが名古屋駅か。初めて来た。

 

えっと、東海道線か中央線に乗り換えるためには……。

 

お腹が空いた……。

 

コンビニを探して何か買おう……と思うんだけど、辺りに(ただよ)っている出汁(だし)の匂いに逆らおうと思えない。

 

『名代 きしめん』

 

看板の文字。きしめんかぁ。気になる……。

 

時計を見上げると、時間はまだ余裕がある。

 

財布を開ければ、500円玉が1枚。これで何か食べれるだろうか……。

 

「いらっしゃいませ!」

 

入ってしまった。

 

所謂(いわゆる)立ち食いそば屋だ。食券制なんだ。どれどれ……。

 

えっ! 金額設定間違ってない? 500円でお釣りが来る値段だけど。

 

えっと、買った食券を置けばいいのか……。

 

「きしめんとそば、どちらにしますか?」

 

「えっ。あ、きしめんで……」

 

「キツネでーす」

 

そうか。そばも選べるんだ。

 

しかし、名古屋に来たらきしめんだろう。

 

店内を見渡すと、昼時だから、スーツ姿の人が目立つ。

 

厨房を含めた店内の広さは、文芸同好会の部室よりも狭い気がする。

 

それでも、冷凍庫や調理器具、食器類が綺麗に並んでいて、客席側(と言っても、椅子は無い)にも冷蔵庫が置いてあったりして、限られたスペースを有効活用している。

 

 

 

立食の店だからか、結構な頻度でお客さんが入れ替わっている。

 

「いらっしゃいませ~」

 

俺の隣に、スーツ姿の女性が立った。

 

食券を置き、

 

「きしめんね」

 

と、聞かれるよりも先に、そう店員に告げた。

 

ポニーテール……。横顔はなんとなく、加納(かのう)先輩を彷彿(ほうふつ)させた。

 

「はい。お待たせ」

 

俺の頼んだきしめんが届く。

 

「いただきます」

 

割り箸を取り、食べ始める。

 

ちょっと味が濃い。これが関東の味なんだ。うどんのような麺だけど、平べったい形でコシが強い。

 

名古屋名物というだけある。これは旨い。

 

「ねえ」

 

箸が止まらない。

 

「ねえって」

 

食べるのに夢中で、自分に話掛けられていることに気付かなかった。

 

「俺ですか?」

 

声の主は隣の女性だった。

 

「それってコンバス?」

 

俺の後ろに立て掛けてある楽器を指差している。

 

「はい。……よく分かりましたね」

 

「やっぱり? 私、一応吹奏楽経験者だからさ」

 

「そうでしたか。あ、俺はあくまで、忘れた楽器を届ける途中なので……。吹奏楽部員ですけど、マネージャーみたいな? 演奏は出来ないので……」

 

楽器経験者と早合点されて、ニッチな話に付き合わされても大変なので、早めに逃げを打った。

 

「マネージャーか。なるほどね」

 

一方的に()くし立ててしまったが、意図は汲んでもらえたみたいだ。

 

「それじゃあ、今国際会議場向かってるの?」

 

「その通です。よく分かりましたね」

 

「だって、そろそろ全国大会の時期だからね。……もしかして、道に迷ってる?」

 

「そんなことまで分かるんですか!」

 

驚いた。

 

「いや、これは言ってみただけだよ」

 

……。

 

「そうなのか。本当なら私が道案内できれば良いんだけど、時間がないからね……。道は教えるから、それで行ってみて」

 

マジですか!

 

「あ、ありがとうございます」

 

とても親切な人だ……。

 

会えて良かった。

 

 

 

 ①金山駅の改札が近い、中央線の電車に乗る。

 

 ②金山駅の改札を出たら、左手のエスカレーターで地下鉄の駅へ

 

 ③1・2番線の電車、名城線左回り・名古屋港行、どちらでも良いから、乗って隣の駅(左回りは西高蔵(にしたかくら)駅、名古屋港行は日比野(ひびの)駅)で降りる

 

 

 

教えてもらった通りに電車を乗り継ぎ、何とか名古屋国際会議場(全国大会の会場)に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、金山くん!」

 

ようやく部員たちと合流できる。

 

「金山くん! ご迷惑お掛けしました」

 

日比野先輩が真っ先に駆け寄ってくる。

 

「本当に申し訳ない……」

 

「いえ。お気になさらず。これ、コントラバスです」

 

「ありがとうございます!」

 

抱えるように(抱えられるように?)持ってきた楽器を渡す。

 

迷子になっていた我が子を抱きしめるように(?)、日比野先輩が楽器を持ってゆく。

 

日比野先輩が持っても、先輩が抱えられるように見えるのは、気のせいではないだろう……。

 

「あ、金山くんお腹空いてない?」

 

「お茶有るよ」

 

入れ替わるように、他の部員たちに囲まれた。

 

「あ。お昼は食べてきましたので」

 

名古屋駅のホームで……。

 

「食べてきたって、何を?」

 

「えっと……名古屋駅できしめんを……」

 

「「「えー!」」」

 

途端にブーイング。何で?

 

「名古屋名物じゃん! いいなぁ~」

 

「私たち普通のお弁当だったし」

 

「ひつまぶしとか味噌カツとか食べたい!」

 

そういうことですか……。

 

時間があったから寄っただけだし、有り金で食べられたし、道は聞けたし……。食べて良かった。

 

しかし、ブーイングは想定外だった。

 

囲まれた輪を振り抜け、先生方の方へ行く。

 

「お待たせしました。金山 はるか、無事到着しました」

 

(たき)先生と松本(まつもと)先生に報告。

 

本来、ここに居るはずだった園田先生は、事実上のお留守番となってしまった。

 

「お疲れ様でした。楽器、ありがとうございます。園田先生の車が故障したと聞いたときは、焦りましたが、間に合って良かったです」

 

俺も焦った。まさか、新幹線で来ることになるとは……。

 

でも、

 

「お役に立てたのなら光栄です」

 

 

 

「道、迷いませんでしたか?」

 

迷った。しかし、滝先生にそう言われると、なんか悔しい……。

 

「それ、先生が言いますか?」

 

「あ、えっと……はい。確かにその通りですね。お恥ずかしい限りです……」

 

滝先生が頬を()く。

 

普段見ない仕草だから、何か新鮮だ。

 

「じゃあ、私から聞こう。道迷わなかったか?」

 

おっと。油断してたら松本先生から同じ質問が……。

 

「あ、はい。名古屋駅のホームで会った親切なお姉さんが、道を教えてくれました」

 

「そうか。それは良かったな。ちゃんとお礼言ったか?」

 

「はい」

 

何処(どこ)の誰か、聞いていないが、また会えると思う。なんとなくだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リハーサル室での最後の練習が終わり、一行は宿泊場所のホテルへ向かう。

 

部屋は和室だ。

 

これだと、ホテルと銘打(めいう)っているが、法律上は旅館に区分されるだろう。

 

部屋割りは大方(おおかた)パート毎になっている。当然、男子部員は別。

 

「金山くん。これ目通しておいてね」

 

「はい」

 

「えっと、重原(しげはら)ヨリちゃんと安城(あんじょう)さんは、集合時間より少し早めに集まってもらうね」

 

「はい」

 

「了解です」

 

しかし、俺は今、女子部員の部屋に来ている。

 

もちろん、悪さするために来たんじゃない。今この部屋に集まっているのは、『チームほたか』メンバーだ。

 

「以上。明日の打ち合わせは終わり。何か質問は?」

 

食事は一斉に取ったが、入浴は順番なので、部屋の主たちが入浴中のフルートパートの部屋を使って、明日の打ち合わせを行っていたのだ。

 

だいたい、女子部屋に集まってカードゲーム……なんて、修学旅行じゃないんだから。

 

「あ、1つ提案があるんですけど……」

 

遠慮がちに手を挙げたのは、ホルンの重原 文枝(ふみえ)さんだ。

 

因みに、さっき『重原ヨリちゃん』と呼ばれていたのは、クラリネットの重原 依子(よりこ)さんで、双子の妹だと聞いている。文枝さんが姉らしい。

 

「明日、表彰式が終わった後に、記念撮影があると思うんですが。その後、例え結果がどうであれ、部長と副部長を胴上げするのって、如何でしょう……?」

 

「「胴上げ?」」

 

胴上げか……。良いかもしれない。

 

しかし、演奏後の表彰式が終わってから、ということは、制服で胴上げされるって事だろ? スカートの中が……。って、これ以上はノーコメントで。

 

「良いですね!」

 

「1年間頑張ってくれたお礼ってことですよね。賛成です」

 

「良いと思う」

 

反対意見は無いようだ。

 

となると、部員たちには事前に告知しておく必要があるな。

 

「それなら、このこと、皆には何時(いつ)話しますか? 部員には言っておいた方が良いですよね?」

 

加納先輩たちはサプライズの方が面白そうだけど、部員たちに知らせておかないとまずい。

 

俺がそう言ったら、開明(かいめい)先輩が(うな)った。

 

「そっか……そうだよね。何時言う?」

 

そうか、タイミングがないのか……。

 

「表彰式の時なら良いんじゃない? その時、部長と副部長はステージに上がるから、観客席には部員だけ残るよ」

 

「その時なら大丈夫ですよね?」

 

「でも、どうやって伝える? 多分喋ってもうるさくて伝わらないと思う」

 

「伝言ゲームみたいにやる?」

 

古典的だな。

 

それに、伝言ゲームほど不確かな物はない。

 

『ドミニカ共和国』が、最終的に『ドレミファ協奏曲』になるぐらいだ。

 

「そこはせめて紙に書いて回す、とかにしましょう」

 

「だね……」

 

「それじゃあ、表彰式の時、2人が登壇するために離れたタイミングで皆に伝えよう」

 

決まったみたい。

 

「そうだ。先輩、指揮者賞を忘れないようにしてくださいね」

 

指揮者賞?

 

「そうだった! それがあるのよね。忘れるところだったよ……」

 

……指揮者賞?

 

「しっかりしてくださいよ。先輩」

 

「そう言われてもね。私たち去年はここ来てないから」

 

そう。去年の吹奏楽部は関西大会銀賞だったから、全国大会出場即ち、名古屋に来るのは2年振りになるんだ。

 

 

 

で、指揮者賞って何?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「良いお湯でしたよ」

 

入浴を終えたフルートの面々が戻ってきた。

 

「お帰りなさいませ」

 

「次、ほたか だって。行ってきなよ」

 

どうやら、フルートが(ほたかを除き)最後だったらしい。

 

「じゃあ、お風呂道具取ってきたら、みんなで行こうか」

 

「そうしましょう」

 

風呂か。

 

男子部員たちはもう入ったのだろうか?

 

どのみち、男子と女子では人数が違うから、順番決めて行くほど混まないだろう……。

 

「ほら、金山(かなやま)くんも一緒に行くよ」

 

……。

 

…………えっ?

 

「いやいやいや。俺男ですよ?」

 

安城(あんじょう)さんの爆弾発言に、暫し言葉が出なかった。

 

「でも、金山くんとなら一緒にお風呂入れるよ。私は」

 

多屋(たや)先輩も?

 

「確かに。あまり意識しないっていうか……」

 

「うん。問題ないと思うよ」

 

八幡(はちまん)さんに明智(あけち)さんまで。

 

皆さん。しっかりしてください。

 

「問題しか無いでしょう! 混浴じゃないんだからさ」

 

「何よ。私と一緒に入りたくないって言うの?」

 

腕を組み、頬を膨らませている。

 

安城さん、もしかして酔ってる? いや、酒も飲まずに酔うとか変だし。

 

変な対抗心抱いてるとか?

 

「混浴とかなら構わないけど、()(かく)ここでは駄目だって。早くしないと入浴時間短くなるよ」

 

「嫌じゃないのなら、良いけど……」

 

渋々の様子だが、納得してもらえたらしい。

 

 

 

 

 

お風呂に到着。

 

『殿方』そう書かれた暖簾(のれん)を潜る。

 

脱衣場に入ると、誰も居ないらしい事が分かった。ロッカーは全て空いている。

 

さっき聞いた話だと、どうやらこの旅館は北宇治の吹奏楽部が貸切状態らしいので、お風呂に入るのも男子部員8人(俺を含む)だけ。

 

他の人は全員入ったから、俺1人貸切……。

 

ロッカーに服を入れ、タオルだけを持って施錠する。

 

全部空いてるのに、5番のロッカーを選んだのは、俺の出席番号だから。

 

特に指定されていないけど、好きな番号を選んでしまうのは人の(さが)かな……。

 

「おお、広い。しかし、誰も居ない」

 

とりあえず、髪を洗い、身体も洗い、湯船に浸かる。

 

「はあ……」

 

癒される。温泉ではないけれど、疲れが吹き飛びそうだ。

 

足も伸ばせるし。

 

 

 

 

 

「……だよ」

 

「ですね。……しかし……」

 

ん?

 

脱衣場の方から声がする。

 

誰だろう。他の男子部員はもう入ったって言ってたし。

 

旅館のスタッフ……にしては早すぎないか?

 

「……だな」

 

「……」

 

3人居るらしい。

 

というか、聞き覚えのある声だった。

 

ガラガラ。音と共に扉が開き、声の主3人が現れた。

 

やっぱり。

 

「んー? 誰か居るぞ」

 

「おや、本当ですね。誰でしょう? うちの生徒でしょうか」

 

あ……。(たき)先生と橋本(はしもと)さんは普段メガネ掛けているから、裸眼では分からないのか。

 

「金山ですよ。吹奏楽部のホープの」

 

後ろの坂部(さかべ)さんが助け舟を出した。

 

って、俺がホープ?

 

「金山くんでしたか。今日は本当にありがとうございます」

 

今日……。コンバス抱えて(抱えられて?)新幹線に乗るのは大変だった。

 

「お役に立てたのなら光栄ですよ。お礼はさっきも聞きましたから……」

 

何度もお礼を言われると、流石に恐縮してしまう。

 

 

 

 

先生方が掛け湯をして、入ってくる。

 

「今日も大活躍だったんだって? 聞いたよ。金山クンがいれば、向こう2年間はこの部は安泰だね」

 

橋本さんは相変わらずのハイテンションだ。

 

疲れるって言葉を知らないのか? って位いつも。

 

「安泰って。俺もいつまで吹奏楽部に顔出せるか分かりませんよ。文化祭前がそうだったように、文芸同好会の方が忙しくなったら、そっちメインになっちゃいますし」

 

「だよね。そこが問題だな」

 

「問題って……」

 

「他方面から圧力掛けて、文芸同好会を潰すか」

 

物騒だな。おい。

 

「いくら俺と橋本さんの仲とはいえ、本当にやったら絶交ですよ? 許しませんからね」

 

「ボクとそんなに仲良かったっけ?」

 

別に……。言ってみただけです。

 

「それなら、私と新山(にいやま)先生も、橋本先生とは絶交ですね」

 

「わー! 冗談だってばー」

 

慌てて訂正してる。しかしまあ、元気な人だ。

 

「潰せないのなら、文芸同好会の部員を増やすか……?」

 

それは有り難いけれど、当てがあるのだろうか? それに、例え部員が100人居たとしても、俺は1人しか居ない。金 山人(こがねやまと)はゴーストライター募集しません。

 

「それか、またマネージャー置くか」

 

また? マネージャー?

 

「また、ということは、前はマネージャー職が居たんですか?」

 

「はい。顎関節症(がくかんせつしょう)で演奏できなくなった生徒が、マネージャーとして、部をサポートしてくれたことがあります」

 

なるほど。

 

「部のために働いていましたよ。今の金山くんがやっている仕事の他にも、元奏者として、新入生の指導や、相談もやっていたみたいです」

 

「彼女みたいな子が居ると助かるんだけどさ。あくまで病気で引退した、レアケースだからね。……難しいんだよ。吹奏楽部に入部してくる子は、みんな奏者希望だから、さすがに『マネージャーも募集してます』って勧誘するわけにはいかないし。本人の『演奏したい』って思いを剥奪するのは駄目だからさ」

 

「橋本先生、そこまで考えていたんですね。私も部の内情には疎いのですが、橋本先生も演奏指導しかやっていないと思ってました」

 

「滝クン。相変わらずボクには厳しいよね……」

 

 

 

坂部さんの方に視線を移す。

 

あ、目が合った。

 

「どうした?」

 

「あ、いや。静かだから寝てないかな……って」

 

滝先生と橋本さんとは、俺を挟んだ反対側にいて、会話には加わっていなかったから、気になった。

 

「ちょっと疲れてるだけだよ。心配してくれてありがとう」

 

疲れるようなことがあったのだろう。

 

「まあ、新幹線で追いかけてくれた金山くんは、俺より疲れてるだろうね。本当にご苦労様」

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、別に成岩(ならわ)古見(こみ)が下手だって訳じゃないんだけど、藤浪(ふじなみ)と比べたら劣るから、それを加味して演奏の再構成しなきゃならんから。頭使って疲れた」

 

そうだ。

 

コンクールでの演奏や合奏は、指揮者の演奏を作るものであり、奏者1人が好き勝手演奏していたら崩壊する。そう紅葉(くれは)が言っていたのを思い出す。

 

だから普段彼女は、実力の80%ぐらいの演奏をしている。『フルートメインの曲なら、聴衆全員虜にする演奏しても良いよ』って言っているらしい。

 

(あずさ)からそう聞いた。

 

因みに、紅葉がかつて所属していた楽団で、彼女が年下だからと難癖(なんくせ)を付けた先輩奏者を、実力で黙らせた挙げ句、楽団を解散に追い込んだことがあるらしい。これはあくまで噂だけど……。

 

今のは紅葉の話だが、合奏とは、つまりそういうことなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂上がり。

 

部屋に戻るため廊下を歩いて行く。

 

「あ、金山くん」

 

自販機コーナーのところで呼び止められた。

 

声がした方を見る。この声は高坂(こうさか)さんだ。

 

「高坂さん。……と、なんで黄前(おうまえ)先生と滝野(たきの)先生が居るんですか?」

 

自販機横の椅子に、高坂さん・黄前先生・滝野先生が座っている。

 

「なんで、って言われてもね……」

 

「あれだ。園田(そのだ)先生が急に来れなくなったから、代わりに来た。どのみち仕事も無いし、今日も休みだったからな」

 

今日は……10月第4土曜日。確かに、学校は休みだった。

 

「わざわざ名古屋まで?」

 

遠かっただろう……。俺は新幹線だったから、車で来た場合の所要時間とかは、詳しく知らないけれど。

 

「そうだよ。滝野先輩の運転でね。私の車は軽だし、運転も下手だから……。滝野先輩は大型免許持ってますもんね」

 

理由は知らないけれど、滝野先生は大型免許を持っている。

 

前に、それでトラックを運転し、楽器運搬をしたことがある。

 

「大型二種もあるぞ。……あ、黄前今先輩呼びだったな」

 

「あ……。良いじゃないですか。だいたい、滝野先輩も私のこと、黄前って呼びますよね?」

 

「自分はどうなんだ? 聞いたぞ、自己紹介の時に黄前って名乗ったらしいじゃないか」

 

黄前先生と滝野先生が2人で話し込んでいる。

 

俺は高坂さんに話しかけてみる。

 

「正直どう思いますか?」

 

「どう、って?」

 

「今の演奏」

 

「……坂部さんから聞いた?」

 

「はい……」

 

「まあ、銅は確実ね」

 

「高坂さん。俺をからかってませんか?」

 

『吹奏楽部のコンサートで、銅賞は参加賞みたいなもの』って聞いたし、それを言っていたのは他ならぬ高坂さんだ。

 

「銀賞は厳しいと思う。やっぱり、藤浪くんの抜けた穴は大きいかな」

 

やっぱりそうなのか。坂部さんも同じ様なことを言っていた。

 

「あとは、審査員次第か……」

 

「あ、そうか。チューバの奏者が急きょ変わったんだっけ」

 

「そういえば、噂になってたね」

 

滝野先生と黄前先生も会話に加わってきた。

 

「噂ですか?」

 

話の途中だったのに……。

 

でも、黄前先生の言ったことの方が気になる。

 

「チューバの3年生が学校に来なくなったって……。もしかして、私がお宅に訪問した子のこと?」

 

確か当日の朝、無断欠席して連絡も取れないからって、藤波先輩の家に行ったの。

 

……松本(まつもと)先生と黄前先生だったじゃんか!

 

「黄前、気付いてなかったのか……」

 

「だって、急に松本先生に連れられて外出だったから、分からなかったです」

 

「お前は相変わらずだな……」

 

「それは先輩も同じでしょう?」

 

「久美子、声出てるし先輩呼びになってるよ」

 

「……!」

 

また始まった……。

 

「えっと。俺は部屋帰りますね……」

 

付き合っていたら朝になりそうだ。

 

「おお、明日な」

 

「お休みなさい」

 

「またねー」

 

先生方3人と別れ、部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

おや? ラインの通知。

 

どれどれ……。

 

園田先生からだ。えっと……、

 

『今日の新幹線などの切符代、領収書と共に早めに学校に提出して下さい』

 

そういえば、今日の新幹線代、俺が自分で払ったんだっけ……。

 

教頭先生からも、領収書を貰ってくれば学校が負担できるから、とりあえず立て替えて欲しいって言われている。

 

まあ、教頭先生も俺を京都駅に送り届けるため、大慌てで学校を飛び出したため、財布すら持って行くのを忘れていた。

 

仕方ないか……。

 

 

 

 

 





名駅のホームで出会ったお姉さまの正体は……?


因みに、名駅のホームにあるきしめん屋さんは、在来線ホームの方がオススメです。天ぷらが揚げたてですからね。

在来線ホーム限定のお得なメニューもありますよ。


因みに、新名神高速道路は、大津~高槻が全線開通している前提で、話を進めています。


滝野先生が、大型二種免許や調理師免許を持っている(取得した)理由。

『女子にモテたいから』です。

先生になって、別の意味でモテモテですけどね……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。