【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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2……文芸同好会始動、と思ったら……
2-1……学校に泊まっているのか?


 

入部した日は金曜日だったので、週末を挟んだ月曜日。

 

放課後は、部室へ向かった。

 

『図書館閉架書庫室』

 

ノックしてから扉を開ける。

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい」

 

室内には園田先生が居る。

 

「テストお疲れ様」

 

「あ、ありがとうございます」

 

そう、一年生は今日実力テストだった。

 

「先生、必ずこの部屋に居ますよね?」

 

本来、部活の際には部室の鍵を職員室に借りに行くところから始まるのだが、鍵を借りに行く必要がない。

 

放課後は必ず園田先生が居るからだ。

 

「ずっと居るんですか?」

 

「まさか。午前中は授業持ってるからちゃんと職員室に居るわよ」

 

なるほど。松本先生たちが昼以降見ないのはそういうことか。

 

「昼以降、授業が無いからこの部屋に()もっていると」

 

「その通り」

 

 

得意気に言うことか?

 

 

 

 

そういえば、この部屋をちゃんと回ったことが無い。

 

部屋自体は、普通教室2つ分の大きさがある感じだ。

 

しかし、俺が出入りしている扉から正面に四畳半(よじょうはん)ぐらいのスペースがあり、そこは先生や俺が使っている机がある場所だ。

 

窓と扉以外の場所は全部本棚になっている。

 

入った左手に、カーテンで区切られた空間が存在している。

 

「先生、そのカーテンの向こう側はどうなってるんですか?」

 

「気になるの?」

 

気にならなければこんなことは言わない……。

 

「入っても大丈夫よ。気になるのなら入ってみれば?」

 

 

 

手荷物を机に置き、カーテンを開く。

 

その先には、同じように本棚が続いている。

 

しかし、窓が無く蛍光灯の明かりしかない。

 

そんな状態で、目の前に正体不明のボックスが現れた。

 

「か、核シェルター?」

 

勿論、そんな物があるわけ無い。しかし、そう思ってしまうようなボックスだ。

 

「日本の公立高校に核シェルターが必要な危険地帯ってどこ?」

 

ありませんね。

 

って、園田先生居たんだ……。

 

急に後で声がして驚いたんだけど。

 

「ではこのボックスの正体は?」

 

「防音室よ」

 

防音室? 図書館閉架書庫室に?

 

「なんでこんなところに?」

 

「私が来たときにはあったから知らない」

 

知らないって……。

 

「まあ、色々と便利だから時々吹奏楽部や軽音楽部が使ってるの。あ、合唱部もね」

 

なるほど。

 

 

 

 

さて、気を取り直して。

 

防音室が有る以外は、至って普通の書庫だった。

 

一番奥まで行くと、扉があり、その向こう側が図書館のようだ。

 

室内を、本棚を辿りながら歩く。

 

辞書や郷土史、学校の歴史について書かれた本などが並んでいる。

 

「金山くん!」

 

園田先生が呼んでいる。

 

一緒に居ると思ったら、いつの間にか居なくなっていた。

 

どこから呼んでる? 机か。

 

「どうしました?」

 

机のある場所まで戻る。

 

「あ……」

 

机の上に、デスクトップパソコンが置かれていた。

 

「学校の備品だから、使い勝手は悪いかもしれないけど、使って良いよ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

執筆に使えるパソコンを用意してくれたんだ……。

 

「セキュリティーはよっぽど大丈夫だと思うけど、その辺気を付けながら使って」

 

これで、部活中に執筆出来るようになった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

園田(そのだ)先生が用意してくれたパソコンで原稿を進めるようになってから、朝から夜まで学校にいるようになった。

 

それで分かったことがある。

 

園田先生は、確かに毎日昼以降、部室に居る。

 

だから、朝早く来ても、職員室にいるか、まだ学校に来ていないか……。

 

幸い(?)吹奏楽部や野球部の朝練の関係で、朝6時前には学校に入れる。

 

しかし、先生が来ていなければ、部室には鍵が掛かっている訳だから、朝早く登校したら、一番に職員室へ鍵を借りに行く。

 

 

『職員室』

 

来るのが当たり前になってしまった……。

 

「失礼します。1-2の金山です。閉架書庫の鍵を借りに来ました」

 

早朝の職員室にいる先生は少ない。

 

それに、いる先生はだいたい決まっている。

 

「おや、早いですね」

 

背の高い先生……吹奏楽部顧問の滝先生だ。

 

「滝先生も早いですね。ちゃんと寝ていますか?」

 

俺の知るこの数日、毎日朝早くから夜遅くまで学校にいる。

 

学校に泊まっているのか? と、疑うくらいに。

 

「そういう金山くんはどうなんですか? 朝早くから夜遅くまでいるみたいですが」

 

まあね。家近いから。

 

「俺は、学校の前に家がありますから。通学時間1分です。先生はそうもいかないでしょう?」

 

俺の言葉に滝先生は笑って流した。

 

「部活頑張ってください」

 

「ありがとうございます」

 

談笑しながらも、鍵を借りる。

 

「失礼しました」

 

職員室を後にする。

 

 

 

 

朝早い時間の校舎内は静かだ。と思うだろう?

 

朝練中の野球部の掛け声や、吹奏楽部の楽器の音など、意外と騒がしい。

 

渡り廊下を渡ろうとしたら、陸上部と思われる隊列に出くわした。

 

校舎周りを走っているらしい。先に通ってもらう。

 

「はい、声出す~! あ、金山くん。おはよう」

 

西尾先生だ。

 

先生も一緒に走っているのか。

 

「おはようございます」

 

挨拶されたので返す。

 

「しっかり腕振ってよ」

 

朝からお疲れ様です……。

 

『図書館閉架書庫室』

 

少し前までは、園田先生のプライベートルーム(だった時間は短い)。

 

今は俺の作業部屋(朝のみ)。

 

言葉だけ聞けば、洒落(しゃれた)空間にも思えてくるが、高校の一特別教室だ。普通に、MIWAのハウスキー。

 

それを鍵穴に差して回す。

 

ガチャ、という音がし、鍵が開く。

 

「失礼します……」

 

勿論、室内には誰も居ない。

 

それでも、癖で声を掛けながら扉を開く。

 

 

さて、朝練(違うか?)を始めよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

 

「窓開けるよ」

 

部活中、室内を換気するために、園田先生が窓を開ける。

 

「お。誰かトランペット吹いてるね」

 

開いた窓からトランペットの音色が聞こえてくる。

 

「聞いたことないから、加納(かのう)さんじゃないな。誰だろう?」

 

この間、加納先輩に言われたことを思い出した。

 

『吹部の人間じゃないと思うんだけど』

 

あのときのトランペットは確か……。

 

「梓じゃないですか? 小牧梓」

 

あのときはまだ吹奏楽部に入る前だった。築山で一人吹いていたらしい。

 

「そっか……。でも、グリーンスリーブスか。妙な選曲ねぇ」

 

妙?

 

「あ、そうだった。金山くんに頼まれて欲しいことがあるんだよね」

 

唐突に先生が言い出す。

 

頼まれて欲しいこと?

 

「演奏を聴いて思い出したんですか?」

 

「ええ。吹奏楽部の依頼をね、色々あって受けて欲しいの。今度の土曜日に」

 

土曜日。別に用事とかは無いけれど。

 

「吹奏楽部って。それ俺が頼まれなきゃ駄目なんですか?」

 

面倒事のような気がして気が進まない。

 

「拒否権は?」

 

「拒否権? それ美味しいの?」

 

古典的……。

 

 

 

 

 

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