【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
いよいよ全国大会当日です。
賛否両論あると思いますが、お楽しみいただければ嬉しいです。
大会当日。
ここは、名古屋国際会議場、つまり全国大会の会場。
昨日、リハーサル室での練習の時に来たが、今は多くの大会関係者(出場校の部員)が居て、まるで別の場所みたいだ。
「あ!
隣に立っているアカネ先輩が声を上げる。
先輩の視線を追うと、一瞬
「凄い先生なの?」
「勿論。杉村
亜希先生? 杉村先生らしき人物の隣に居るのは男の先生だけど。
「あ、水島先生は男の方ですよ。間違えないでね」
なるほど。
アカネ先輩は各校の顧問の先生のことにも詳しいのだろう。
誰かが『強豪校オタク』って言ってたのを思い出す。
「あ、あの制服見たことある……」
「
それを目敏く見つけたアカネ先輩がそう言った。
「清良女子って、あの!」
名前だけなら俺も知っている。福岡県の有名校かつ強豪校だ。
「先輩! あっち見てください」
「どこ? ……あ! あの人ってもしかして?」
「
「あの制服も知ってる……」
「静岡清水高校ですね。あ、あの方は有名な
次々と先生の名前を言ってゆく。
アカネ先輩元気だ……。
これから演奏だというのに、疲れないのかな。というか、緊張してないのか?
「アカネ先輩の強豪校オタク、舐めてたわ……」
その姿を見ながら、
俺は演奏しないし、今回は楽器運搬の手伝いも必要ないらしいので、ある程度は自由だ。
少し散策に出る。
「あれ、北宇治の
ん?
声がした方を見て、視線を追う。
確かに。我ら北宇治の滝先生だ。
「じゃあ、隣が松本先生?」
「マジ! 滝先生初めて見ました。噂に違わぬイケメンですね!」
……そういえば、滝先生も有名なんだっけ。
「あ、滝先生だ。それに松本先生も……。あれ?」
また、我ら北宇治の先生の名前が聞こえる。
「もしかして、昨日の?」
ん? 俺を呼んでいるのか?
「あ、昨日の……」
振り向くと、昨日名古屋駅のきしめん屋で会った女性が立っている。
「昨日はありがとうございました。俺、北宇治高校の
「私は、
マジか……。本当に世の中って狭いんだ。
「私、吹奏楽部に所属してて、ユーフォやってたの」
……ユーフォ?
「それじゃあ、
「黄前先生? 久美子ちゃん?」
「はい。黄前 久美子先生です」
久美子ちゃんと言っていたから、黄前先生の先輩に当たる人だろう。
えっと……先生も一緒に会場に来ていたから、あの辺りに居るはず。
「お。金山、お前こんな所で何やってんの?」
もしかして……。
「あ。滝野じゃん! こんな所でどうしたの?」
もしかした。中川さんと滝野先生は同級生ということだ。
となると、
「俺を知ってる……? あ! お前中川か!」
「中川だよ。久し振り。卒業以来……だね」
「いやー、一瞬誰か分かんなかったよ。10年以上会ってないもんな。こんな所でどうした?」
「今日のチケット、仕事のつき合いで貰ってね。休み貰って見に来たの。母校の後輩たちが出場するし、滝先生が戻ってきたって噂で聞いたし。……滝野は?」
滝先生のことは卒業生の間でも噂になっているのか。そういえば、
「引率の先生が1人急に来れなくなったから、その代わりに来た」
「引率って……滝野、先生になったの?」
「ああ。改めまして、北宇治高校教師の滝野 純一です」
「いや、改めなくて良いから……。滝野先生か。違和感ありすぎ」
「お前なぁ……」
2人で会話に花が咲いている。
俺は
そっと、この場を後にする。
「北宇治の皆さん、出番です」
あっという間に演奏の時間がやってきた。
スタッフの合図で、舞台袖に待機している部員が一斉に動き出す。
しかし、俺とほたかメンバーはその場に残る。奏者でない者はここから見守ることしか出来ない。
横を見れば、皆普段より堅い面持ちで舞台を見つめている。
緊張するのは演奏する側だけではないらしい。それは俺も同じ。
『プログラム8番。関西代表、京都府立北宇治高等学校。指揮は、滝 昇です』
アナウンスがあり、スポットライトが灯る。
ライトに照らされたステージ上では、滝先生が会場に一礼してから指揮台に上がる。
そういえば、これで大会は3度目になる訳だけど、指揮台に登った滝先生を見るのは初めてだ。
関西大会は園田先生だったし、見ていないけど府大会は松本先生だった。
トラブルを乗り越えてきたから、今日があることを再認識した。
腕を上げ、
そして、振り下ろす……。
課題曲と自由曲合わせ12分。あっという間に演奏が終わる。
先生に促され奏者が一斉に立ち上がる。
先生が会場に一礼。そして沸き起こる盛大な拍手。
どうやら、演奏は上手く出来たようだ。
一番の懸念材料であったチューバに関しても、俺の個人的(素人)意見としては、問題無かったと思う。
演奏はあっという間だったが、その後の待機時間もあっという間だった。
先輩方に連れられて喫茶店に行ったんだけど、お茶をしながらも先輩方はどこか上の空だった。
結果が気になるのは人の性だ。仕方ない。
因みに、喫茶店に行く前に、演奏を聴かなくても良いのか尋ねたら、『もう引退だよ? 結果はどうであれ、次は無いんだから……』と言われてしまった。
なんとなく実感が無かったけど、この大会を最後に3年生は引退なんだ。
これから結果発表だ。
参加者全員がホールに集まっている。
表彰式に参加する
さて、俺の仕事が始まる。
「これ、読んだら隣に回してください」
そう声掛けながら、端の席に座っている人にメモ紙を渡す。
『結果に関わらず、最後の講評の際、部長と副部長を胴上げするので、協力お願いします。チームほたか』
内容はこうだ。
先生方にも目を通してもらう。
「粋なことを考えるんだな。良いじゃないか。但し、絶対に落とすなよ」
松本先生にはこう言われた。
「引退するとはいえ、大事な部長と副部長です。丁重に扱わせていただきます……」
「宜しい」
『それでは、まず初めに皆さんをここまで導いてきた指揮者の先生へ指揮者賞を贈呈します』
アナウンスが流れる。
指揮者賞、そんなものがあるんだ……。
忘れてた、って言っていたから、全国大会だけのものだろう。
先生の名前が呼ばれると、観客席から様々な掛け声が飛ぶ。
『東関東代表、市立
ん? うちのパーカスにも
「せーの」
「「「いろは先生愛してるー!」」」
声掛けに、笑顔で手を振っている。あの人が一色先生か。『美しい。というよりは、可愛いが似合う』先生だ。掛け声の内容からしても、生徒からの人気は高いのだろう。
しかし、全国まで導いた顧問だ。指導は厳しいはず……。
一色先生が待機場所へ戻ると、その隣の滝先生が歩き出す。
次だ。
『関西代表、北宇治高等学校。滝 昇殿』
「せーの!」
「「「滝先生、ありがとうー!」」」
いたってシンプルな内容だけど、部員全員が感謝の意を込めて叫んだ感じ。
「あだだっ!」
ふと、声が聞こえて横を見ると、真っ赤な顔をした
踏まれた滝野先生が小さく悲鳴を上げていたのだ。
何か言ったのだろうか?
『続きまして、結果発表に移ります』
来た。いよいよ結果発表だ。
『1番、東関東代表、市立成合高等学校。ゴールド金賞』
読み上げ終わる前に、歓声が沸き起こる。
「結果は『ゴールド金賞・銀賞・銅賞』の3つだけ。頭文字『ゴ・ぎ・ど』が聞こえた時点で結果が分かるから、歓声の上がるタイミングに注意して聞いてると、面白いよ」と、
『5番、九州代表、
全国大会常連の学校。金賞が当たり前のような反応だ。
『6番、北陸代表、
『7番、東関東代表、市立
次だ。
『8番、関西代表、北宇治高等学校。』
祈る。
祈ってどうにかなる話ではないけれど、祈る。
俺だけではなく、回りの誰もが、部員だけではなく、先生も。
『銀賞』
表彰式が終わる。
あとはバスに乗って帰るだけ。
明日からも普段通り学校があるから大変だ……。
バスに乗る前に、最後の集合が掛かった。
部員、顧問教師、指導者が並び、前に部長たちが立つ。
「えっと。皆さん。演奏お疲れ様でした」
最初に、加納先輩……部長から。
「1年生はとりあえず聞いててね。2・3年生の皆さん。去年関西大会のあと、こんな場で前部長の
2・3年生が頷く。
「『結果は残念だし悔しいけど、この悔しさを忘れないで』って。忘れずに努力した結果がこれだ、そう私は思っています。1年生諸君は、そんな先輩の姿を見て頑張った結果です。……金賞はとれなかったけど、全力を出し切った。私は悔いのない結果だと思います。はい、次はあやちね」
先輩に拍手が送られる。
この1年間の感謝を込め、振り返りながら手を叩いているのだろう。数名涙を浮かべている。
拍手が途切れると、堀田先輩……副部長が部員を見渡してから言葉を発する。
「はい。私も
盛大な拍手が送られる。
さっきより泣いてる人が増えている。
「それじゃあ、次は副々部長。はるか、一言どうぞ」
油断してたら俺の出番が待っていた。でも、想定内だ。
「えっと……振られると思っていたので、一応用意しておきました。俺から言いたいことは2つだけです。3年生の皆さん、お疲れ様でした。素晴らしい演奏をありがとうございます。1・2年生の皆さん、来年もここに来ましょう。そして、来年こそ金賞を! 以上です。えっと……、このタイミングでオッケーですか?」
そう言うと、皆が一斉に動き出し、加納先輩と堀田先輩を取り囲む。
「えっ? 何?」
「どういうこと?」
「……?」
何も知らない2人は驚いている。知らせた時に居なかった滝先生もきょとんとした顔をしている。
「えっと、私たちから感謝の気持ちを込めて、加納部長、堀田副部長を胴上げしたいと思いまーす!」
音頭をとるのは、チームほたか筆頭(名前が)の
「ど、胴上げ?」
「じゃあ、まずは加納部長から」
皆が先輩を囲み、持ち上げる準備をする。
「ち、ちょっと! パンツ見たり変なとこ触ったら殺すからね!」
「じゃあ男子は下がれ~」
先輩がそう言うから、男子部員が下がる。
「でも、女子だけじゃ力足りなくて落とすかもよ?」
「わ、分かった。触るなとは言わないから、絶対に落とさないで!」
「はーい」
一旦下がった男子も加わり、準備が整った。
「いくよ。3回だからね! 絶対落とすんじゃないよ!」
「せーの!」
「わーっしょい!」
加納先輩の身体が宙に舞う。……というと大袈裟かもしれないが、僅かながらも、身体は浮いた。
「ぎゃー。怖い!」
先輩の悲鳴が辺りに
「わっしょいー!」
「止めて許してこれじゃあ拷問だってぇー!」
再び悲鳴が飛び出す。
「わっしょーい!」
「もう無理ー!」
最後、しっかり受け止めて下ろす。
みんなで拍手。
「怖かったけど……みんな、ありがとね……」
流石の加納先輩も目に涙を浮かべていた。
「怖かったですか?」
「いや……。怖かったけど、嬉しかった……」
ヤバい。加納先輩がいつもの加納先輩じゃない。
「泣いてますけど」
「嬉し泣きだよ」
滅茶苦茶可愛い……。え、これプロポーズしても良い奴?
「次、堀田副部長です」
「わー。楽しみー」
さっきの加納先輩を見ているからか、堀田先輩は棒読みだった。
「準備オッケー? 5回だよ。絶対落としたら駄目だからね!」
「ちょっと増えなくて良いから! 3回にし……て……」
「わっしょいー!」
先輩が言い終えないうちに、1回目。
「うわー! 飛んだぁー!」
堀田先輩が宙に舞う。
「わーっしょーい!」
「ナニコレめっちゃ怖いんだけどなんでぇー」
「わっしょい!」
「うわ、でもこれ楽しい!」
あれー?
「わっしょーい!」
「わーなんで? これメチャ楽しいじゃんー」
「わっしょーいー!」
「ありがとうみんなありがとーう」
しっかり受け止めて下ろす。
あ……今メチャメチャ柔らかいところ触ってしまった……。
「部長、副部長。今まで本当にありがとうございました!」
盛大な拍手。
「お疲れ様。みんなありがとう。それでは順にバスに乗ります」
輪がばらけ、順に荷物を持ってバスに向かう。
「あやち凄かったね。途中から笑ってたよ……」
皆が移動し始めたので、部長と名の付く3人だけが残った。
「何だか楽しかった。帰ったら沙也も2回追加する?」
そうか。加納先輩の方が2回少なかった。
「いやいやいや。もうたくさんです……。さ、バス行こう。はるかも」
「
動こうと思ったら、どこからともなく声が聞こえてきた。
彩姉さん?
「えっ?」
その名に堀田先輩が反応した。
「あ!
綾介くんに彩音さん? 誰だ?
「お疲れー。綾介くんペット凄かったよ!」
堀田先輩が2人の方へ駆け寄っていく。
嘘……。綾介くんと呼ばれた人、俺にそっくりなんだけど……。兄弟だって言っても通用するぐらい。
「彩姉さんのユーフォも格好良かったです!」
「ありがとね。……
「頑張って入った甲斐がありました。死に物狂いでAメンバーになりましたからね」
「一言じゃ表せないぐらい頑張ったんだね。偉い!」
「彩姉さんも凄かったです。でも銀賞でしたね……」
「ううん。銅かもって思ったから、銀賞とれて良かったよ」
あ。
そういえば、高坂さんが昨日の夜何か言っていたな。
プログラムを取り出す。
審査員……あった。
『審査員次第』だっけか。
あれはどういう意味だったんだろう……?
お読みいただきありがとうございました。
全国大会が終わりましたね。
当初から予定した通り、全国大会出場校には、他の作品に登場している学校をお借りしました。
賛否両論あるのは承知の上ですが、お楽しみいただけたのであれば幸いです。
というわけで、ここの扱いに悩みました。
他の小説・アニメ作品を、この作中でどう扱うかってところです。
他作品をこの中でも『作品(2次元)』とするか、『作中では現実(3次元)』にするか。
これをどうしたか。それについてはお読みいただければ分かると思います。
例を挙げると、『スーパーカブ(小説・アニメ)』は前者、『青空エール(漫画・実写映画)』は後者にしておます。
他にも幾つか登場していますので、どの作品か見つけてみるの面白いと思いますよ。
さて、吹奏楽部の全国大会は終わりましたが、物語はまだ続きます。
府大会の時にも言いましたが、ここで終わったらタイトル詐欺ですからね……、タイトル通りの作品となるよう精進致します。
活動報告の方にも書きましたが、これから年末年始繁忙期に突入するので、執筆ペースが落ちています。
同様に更新頻度も落ちますので、お待たせして申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。