【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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11……演奏会
11-1……「ね、寝言は寝てから言ってください!」「寝とらんわ!」「じゃあ、冗談は顔だけにしてください!」「その元ネタ知ってんの?」


 

吹奏楽部の全国大会が終わり、1週間が経った。

 

この1週間はあっという間だった気がする。

 

北宇治高校吹奏楽部、2年振りとなる全国大会は、2年前同様銀賞という結果だったが、それでも学校の歓迎ぶりは凄く、校舎には垂れ幕、渡り廊下の手摺(てす)りには横断幕が掲げられた(祝 吹奏楽部全日本吹奏楽コンクール銀賞)。

 

それを見た加納(かのう)先輩は泣いていた。

 

 

 

それと同時に、吹奏楽部は3年生が引退し、新体制へと移行。

 

部長がテナサクの榎戸 萌(えのきどもえ)先輩、副部長がトロンボーンの白沢(しらさわ) タカヒロ先輩、副々部長は変わらず庶務(しょむ)金山(かなやま) はるか、つまり俺。そして新役職として1年生リーダーにパーカスの一色 彩葉(いっしきいろは)さんとクラの日長(ひなが) レイさんが指名された。

 

これにより、所謂(いわゆる)執行部は5人、俺を抜いても4人の体制となった。今までは2人だけだったから、これで運営基盤は強くなっただろう。

 

しかし、指名制なんだから、俺を外してくれても良かったんだよ……?

 

 

 

余談だけど、部長にコンバスの日比野(ひびの)先輩を推す声もあった。しかし、部のトップ2人が男子というのは如何(いかが)かという声があったのと、現時点で部唯一人のコンバス奏者を多忙にして何かあった場合、代わりの奏者が居ないのは危険、という判断で却下された。提案者は涙目だったな……。

 

本人は満更でもなさそうだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はハロウィンだ。

 

とは言っても、日曜日だから学校は休み。俺は部活に来ている。

 

「失礼します。文芸同好会の金山です。部室の鍵を借りに来ました」

 

登校して直ぐに職員室へ。

 

日曜日ということもあり、知っている先生は居ない。

 

「あ、金山くん。おはよー」

 

仕事中の先生から挨拶された。

 

「おはようございます」

 

……今の先生誰だっけ?

 

吹奏楽部の一件で俺はすっかり有名人で、俺が知らない先生はいても、俺を知らない先生はいない。

 

「失礼しました」

 

鍵を借りて退室する。

 

 

 

あの騒動以降、加木屋(かぎや)先輩は部活に顔を出していない。既に2週間経過している。

 

今までは平日休日関わらず、朝早くに部室に行っているので、俺が鍵を借りに行くことは無かった……。

 

……ん?

 

部室の前に誰か居るぞ。

 

あの格好は女子。左袖に腕章らしきものが見える。

 

生徒会執行部の腕章。吹奏楽部ではないか。

 

金山相談所の出番でなければよいが……。

 

「あ、おはようございます」

 

俺に気づいたのか、声が掛かる。

 

何となく、黄前(おうまえ)先生に声が似てるな……。なんて余計なことを考えてしまった。

 

「おはようございます。えっと、文芸同好会にご用ですか?」

 

「はい。お疲れ様です。私、生徒会執行部、部活動統括長の田中 砂取(たなかさとり)と言います。あなたが文芸同好会の部長ね?」

 

部活動統括長……? 何の用だろう?

 

「あ、えっと、はい。部長の金山 はるかです」

 

3年生の先輩だから、丁寧に応対しないと……。

 

あとでクレームがついて、部の運営に支障を来さないように……。そんなことはないけれど。

 

「実は、3年生が引退するこの時期に、新たな部・同好会の体制を表にして提出してもらってるのね。今年は吹奏楽部が全国大会に進出した関係で、一番3年生の引退が遅かったんだけど、その吹奏楽部からも新たな体制表が提出されて、この度文芸同好会が最後の未提出部になったの」

 

そんな話聞いてない!

 

しかし、春の部設立の時に出した用紙と同じ様なものだろう……。だから、何となくは分かる。

 

「あ……。申し訳ありません、休日にこんな所までご足労ありがとうございます。えっと、その用紙って、今持ってますか?」

 

「そんなに(かしこ)まらなくて良いよ。えっと、これが用紙ね。……生徒会執行部に休日なんて無いから、気にしなくて良いよ」

 

休日返上か。高校生なのに大変だな……。まあ、俺は生徒会には縁がないだろう。忙しくて死ねる。

 

「それに、休日関係なしっていうのはあなたも同じでしょう?」

 

確かに。

 

忘れちゃいけない。今日は日曜日だ。土日関係なく学校に来ているのは俺も同じか。

 

「では、用紙は速やかに持って行きます。えっと、生徒会室で良いですか?」

 

ところで、生徒会室ってどの辺りだ?

 

「それで良いよ。……いや、明日の朝取りに来るわ。生徒会室の場所知らないでしょ?」

 

バレてましたか……。

 

「それじゃあ失礼するね。部活動頑張って」

 

田中さんがそう言って廊下を歩いて行く。

 

「ありがとうございました」

 

その背中に声を掛けた。

 

 

 

鍵を開けて入室。

 

「失礼します……」

 

もちろん、誰も居ない。

 

パソコンの前の椅子に座り、電源を入れる。

 

立ち上がったら、執筆開始だが、それまで時間があるので、生徒会に提出する書類の作成に掛かる。

 

えっと……。

 

『部名 文芸同好会』

 

『部長 金山 はるか』

 

『副部長 大里 菜穂子(おおさとなおこ)

 

『その他管理職者、役職名も記載』……。

 

居ないな。

 

吹奏楽部だと、新たな役職である『1年生リーダー』が該当するだろう。

 

最後、部員数。

 

『2年2人 1年4人』

 

菜穂子と加木屋先輩は2年生……。

 

そういえば、菜穂子って1個年上なんだよな。

 

普段、幼なじみというのもあり、姉弟のように接してるから、あまりそういう風に感じない。

 

まあ、本当に姉弟だとしても、当然菜穂子の方が年上だけど。

 

そういえば、加木屋先輩、どうしているんだろう?

 

学校には普通に来ているらしいから、元気なんだろうけど……。

 

少し前まで毎日見ていた人が居ないと、やっぱり寂しいものだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケットのスマホが震える。

 

ラインが来たようだ。

 

どれどれ……。新着通知は『吹奏楽部執行部』のライングループだ。

 

『金山くんへ。打ち合わせを行うので、12時までに音楽室集合。榎戸(えのきど)

 

新部長の榎戸先輩からだった。

 

先輩、俺の個人ライン教えたのに、何故か業務連絡にこのグループ使うんだよな……。まあ、『俺への連絡』と『俺が来ることを他メンバーへ連絡』の両方が一度に出来るから楽なんだろう。

 

って、12時集合? ……10分前じゃないか。家に居たらどうするつもりだったんだ?

 

……家に居たとしても、10分で音楽室へ行くのは容易い。

 

 

 

 

部室の鍵を閉め、音楽室へ向かう。

 

日曜日ということもあり、校内は静かだ。

 

すべての部で3年生が引退した(と、生徒会から聞いた)のと、大会のオフシーズンだから、活動している部は少ない。

 

それに、もうすぐ12時だから昼食の時間だから、流石に休憩中だろう。

 

 

 

「失礼します」

 

声を掛けて音楽室に入る。

 

「あ、はるか来たよ」

 

あれ?

 

俺を名前で呼ぶ人は、もう引退したはず……。

 

「はるかお疲れ様」

 

加納先輩と堀田(ほりた)先輩をはじめ、引退したはずの3年生がいる。

 

「何で引退した先輩方が居るんですか? しかも、楽器持ってるし!」

 

加納先輩はペット、堀田先輩はユーフォを持っている。しかも、今の今まで演奏していたらしい。どういう事だ?

 

「昨日、学校から『吹奏楽部の栄誉を讃え、演奏会を開きます』って連絡が有ってね。1週間のブランクはあるけれど、せっかくの機会だから」

 

演奏会? なにそれ。初耳ですが。

 

「まあ、ようやく学校も我ら吹奏楽部の実力を評価したって事だね。『我が校の実力は折り紙付きです』ってね」

 

橋本(はしもと)さんが、大袈裟な身振り手振りを交えながら喋っている。

 

「我らって。この部は橋本さんの物じゃ無いでしょう?」

 

「金山くんも、ボクに厳しいよね……」

 

事実だし。

 

「いや、橋本さんの指導力は本物ですよ。プロ奏者っていうのも知ってますから」

 

拗ねそうなので、ちょっと褒めてみる。

 

母の伝手で、橋本さんの所属する楽団の演奏をDVDで見せてもらったけど、凄かった。上手く言えないけど、パフォーマンスは本物だったし。

 

「そうかそうかー! 金山くん分かってるねぇ」

 

ほら。チョロいもんだ。

 

「そんな金山くんに頼みたいことがあるんだよ」

 

えっ? 橋本さんからの頼みごとって、嫌な予感しかしない……。

 

「今度のその演奏会はね。引退した前部長も、この度就任した新部長にも、演奏に専念してもらいたいって思ってるんだよ。なんたって記念演奏会だからね」

 

確かに。引退し、これからが進路決定(進学・就職)のために大事な時期だ。その時間を割いてまで行うんだから、そう思うのは当然だろう。

 

「というわけで、MCは金山くんにお願いしたいんだよ」

 

は? 橋本さん。今なんて……?

 

「今、MCって言いました?」

 

「うん。さすがにMC無しに淡々と演奏するだけじゃ、つまらんからね」

 

「それを俺に頼みたいと?」

 

「そういうことだよ」

 

マジか……。

 

「ね、寝言は寝てから言ってください!」

 

「寝とらんわ!」

 

「じゃあ、冗談は顔だけにしてください!」

 

「その元ネタ知ってんの?」

 

「あ。いや。知りません。(たくみ)から聞いただけなので……」

 

「ウィキペディアくんか……。まあ、知らんなら知らんで構わないけど」

 

いや、逆に何で橋本さんが工のことを知っているんだ?

 

「っていうか、何で俺……」

 

「金山、諦めろ」

 

断ろうと思ったら、滝野(たきの)先生に肩を叩かれる。

 

「よろしくお願いします」

 

(たき)先生まで……。

 

助け舟を求め、高坂(こうさか)さんと坂部(さかべ)さんの方を見る。

 

高坂さんのグットサイン、坂部さんは無言で頷づく。

 

 任せた。宜しく。

 

そう言いたげなのは、顔を見ただけで分かる……。

 

おい、まじか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにを喋るかは、はるかに一任するね。これ、曲目』

 

そういって渡された曲目を手に、文芸同好会の部室へ戻る。

 

執筆も一段落しているし、とりあえず何を言うか考えよう。

 

「おっす! はるか頑張ってるか?」

 

途中の廊下で(たくみ)に出会う。ジャージ姿、部活終わりだろうか。

 

「お。どうした? 出番が欲しかったのか?」

 

「出番って何だよ? 西尾(にしお)先生から預かり物だよ。なんか、金曜日に渡し損ねたとか?」

 

西尾先生から?

 

工が差し出す封筒を受け取る。

 

「なんだこれ?」

 

「さあ?」

 

そこそこ重い。工は何か聞かされていないらしい。

 

開けてみると、中からお金が出てくる。

 

「あー。分かった」

 

この間名古屋へ行った時の切符代だ。

 

「工ありがとう」

 

「どういたしまして。それじゃあ俺は帰るから。また明日」

 

帰る途中だったのか……。あ。

 

「工、急いでるのか?」

 

「えっ? 時間はあるけど」

 

「それじゃあ、ジュースでも飲まないか?」

 

 

 

(たくみ)と一緒に自販機に向かう。

 

「何が良い?」

 

そう言いつつ、500円玉を自販機に投入。しかし、戻ってきた。

 

もう一度投入するが、やはり戻ってくる。

 

「ダメだこれ。何で?」

 

曲がっているわけではないし、綺麗だから削れて軽くなっているわけでもなさそう。

 

「どれどれ? あ、はるかこれ新硬貨だ。この自販機は対応してないみたいだぞ。古いからな……」

 

新硬貨? あ、2021年に発行された奴か。

 

コロナ禍だったし、キャッシュレスが進んでいたため、対応が割れたというあの新500円玉か。

 

使えないのなら仕方ない。代わりに1000円札を投入しようと取り出すも、止めた。

 

新500円玉に対応していないのなら、新紙幣もダメだろう……。

 

100円玉を2枚、自販機に投入する。

 

「サンキュー」

 

工がそう言いながら(ボタン)を押した。温かいほうじ茶か……。

 

続けて俺も釦を押す。

 

プルタブを引くと、小気味よい音を立て、飲み口が開く。

 

「この気温で炭酸か……」

 

「サイダーが飲みたい気分なんだよ。工こそ、ほうじ茶って渋い選択するなぁ」

 

「ほうじ茶は渋くないぞ」

 

「味の話じゃなくて」

 

「分かってるって」

 

たわいもない話を交わす。

 

クラスが違うから滅多に会わないので、こういう機会は貴重。

 

ついでだし、あのことも聞いてしまうか……。

 

「工、一つ聴いて良いか?」

 

「なんだい」

 

「橋本さんと面識あるの? 吹奏楽部外部指導者の」

 

「はしもっちゃんか。勿論知ってるよ。有名な演奏家だからねぇ。しかも、俺のクラス、松本(まつもと)先生が担任だから、会う機会も地味に多いんだよな」

 

そうだった。

 

時々忘れてしまうけど、橋本さんと高坂さんは共に有名な演奏家だ。

 

『ウィキペディアくん』という渾名が付く工なら、知ってても不思議ではない。

 

しかも、工のクラスの担任は吹奏楽部の副顧問である松本先生だから、関わることも多いのだろう。橋本さんの暴走を制御できる唯一の先生らしいし……。

 

「じゃあ、前工が言っていた『冗談は顔だけにしろ』の元ネタって何? 橋本さんに言ってみたら、驚いていたから」

 

「ああ。あれね。アメリカの古いドラマだよ。主人公の口癖なんだ。まあ、吹き替えでそう言っているだけで、実際は違うって噂だけど」

 

なるほど……。

 

 

 

飲み終わった缶をゴミ箱へ入れる。

 

工も同様に捨てた。

 

「じゃあ、俺は帰るな」

 

「お疲れ。引き留めて悪かったな」

 

「なんのなんの。またなー」

 

工を見送り、俺は部室へ戻った。

 

 

 

 





大変長らくお待たせ致しました。

遅れましたが、新年明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

あまり連載を長引かせるつもりはないので、年度内完結を目指します。


昨年の年末年始がコロナ絡みで自粛続きだったためか、今回の年末年始はかなり忙しかったです。

お客様の数も多かったですし、集い向けの大きな商品(寿司桶・オードブル)が売れましたね。そんなわけで、早朝3時出勤とか、かなり多忙な年末年始でした。皆様は如何お過ごしでしたか?


新章に突入しました。

文芸同好会が主なお話の予定です。

お楽しみいただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
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