【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
「それでは、こんな感じで進めていきますね」
「うん。でも、ちょっと堅い感じがするから、砕けた感じで大丈夫だからね。まあ、それがはるからしさでもあるけど」
3-1教室は受験生ということもあり、朝早いこの時間でもどこかピリピリした空気が漂っている。
毎日こうなのか? 否、今は俺みたいな部外者が混じっているからだろう……。そう思いたい。
「分かりました。えっと、明日は朝から練習ですよね?」
「うん。祝日で学校が休みだから、通しでリハやる予定。はるかも来てね」
「はい」
俺は今、金曜日に控える吹奏楽部の演奏会のために、
『生徒の呼び出しをします』
急に、チャイムも無しに、校内放送のスピーカーから声がした。
前触れがなかったため、驚いて誰もがスピーカーの方を見る。
『文芸同好会の金山くん、文芸同好会金山くん。大至急職員室の
は? 俺? 職員室に?
小田渕……先生って誰だろう?
「はるか、何したの?」
堀田先輩の
「いや。心当たりがないんですけど。えっと、小田渕……先生? 何方ですかね? そんな状態です」
面識がないんだけど。
まあ、小田渕先生は俺のことを知っているんだろう。
「小田渕先生か。生徒会顧問の先生だね。3年生の学年主任の先生だよ」
3年生学年主任……あ!
集会で見たことがある。
って、生徒会顧問?
生徒会と言われれば、心当たりがある。
「職員室行ってきますね……。恐らく、戻ってくる時間は無いので、資料は預かってもらえますか?」
「あ、うん。じゃあ、昼休みにね」
3-1の教室をでて、職員室へ向かう。
「あ……。呼ばれてた人だ」
「吹部の演奏しない子」
「でも、全国銀賞の立役者だって」
教室の前を通る度、視線が刺さる。
ただでさえ有名人だから、校内放送で呼び出されたことで、普段以上に注目されてしまう。
「おー。何したのよ?」
2-1の前で
廊下で俺を待っていたらしい。
「さっぱり? 何で呼ばれたのやら、って感じです」
「
えっ? 今なんて?
「ブチ?」
「そういう
ふと、教室内に目をやる。
……アカネ先輩だ。
目が合うと、笑って手を振ってくるので、会釈を返す。
あ。
相変わらず本を読んでいるみたいだ。
俺が加木屋先輩を見ていることに気付いたのか、アカネ先輩が何か耳打ちした。
それを聞いた加木屋先輩は一瞬アカネ先輩を見て、顔を本に埋めてしまった。真っ赤になってたけど、何を言ったんだろう……?
「おっ! 問題児の金山くん。……なんてね」
教室から
「何があったか知らないけど、小田渕先生は怒れない先生だから、怒られることは無いと思うよ。見た目こそ怖いけど、見た目だけだから……」
なるほど。見た目は怖いらしい。
「過去に生徒を叱って不登校にしてしまったことがあるらしいよ。大変だよね、先生って。ちょっとしたことで、すぐに保護者が怒鳴り込んでくるし。先生が不登校になりそうだよね……」
禿げてしまった理由はそれかもしれない。
「おっと、喋りすぎたね。ごめんね、足止めさせちゃって」
「あ、いえ。そもそも止めさせられたのは、白沢先輩ですから」
「俺~?」
俺の言葉に、白沢先輩が不満そうな声を上げる。
「じゃあ、失礼します」
『職員室』
かなり緊張する……。こんなのは6月5日以来。今日同様、校内放送で呼び出されたあの日と同じ。
なぜ、明確な日にちを覚えているかって? あがた祭りの日だから。あの頃は、防音室の予約対応とかで忙しかったし、今より吹奏楽部との距離が近かった……。って、今はそんな思い出に浸っている時間はない。
「失礼します。1-2の金山です」
入室すると、室内にいる先生の視線が、一斉に俺に集まる。
呼び出されている理由を知らない先生は、またあいつ何かやったのか? みたいな顔で見ている。……ように感じる。
「金山くん来たか。こっちだ」
禿頭……小田渕先生に呼ばれているので、そちらへ歩いて行く。
あれ?
「えっと……どの様なご用件ですか?」
先輩の表情も気になるが、先生の方を見て話し掛ける。
「実は少し面倒な事態になってるんだ」
面倒?
先生がこちらを見るので、目が合う。
「……っ!」
強面に一瞬ビビる。
顔は怖そうだけど、全然怖くないって佳介先輩から聞いているが、それでも。
「面倒な事ですか?」
「ああ。非常にまずい。このままだと文芸同好会が危ないぞ」
えっ! 何でそうなるの? この間、生徒会につつかれて、新体制表提出したばかりだぞ。なのにどうして……。
『部又は同好会において、管理職の立場にある者は、掛け持ちを認めない』
春先の、堀田先輩から聞いた言葉が脳内に流れる。
「あ! そういうことですか!」
「おお? 急に叫んだらびっくりするだろ……」
呼び出された理由に思い当たり、思わず大きな声が出た。それで小田渕先生を驚かしてしまったようだ。
「すいません。えっと、何で呼ばれたか分かったので……」
「おっ、流石金山。話が早くて助かる」
流石って……。俺、小田渕先生と接点無いはずだけど。
「知っての通り、金山くんは今、『吹奏楽部 副々部長』と『文芸同好会 部長』を兼任しているわけだ。しかし、部活動規定では、部長等の管理職にある者は、掛け持ちを認めていない」
そう言いながら、先生が机の引き出しからバインダーを取り出す。
「えっと……、あった。『部又は同好会において……』長いな。まあ、簡単に言うと、部長は掛け持ちが出来ないんだよ」
「春先にあや……堀田さんが生徒手帳を確認したら、そうなってるって言ってましたね。だから、私とあや……堀田さんは協力できないって。でも、夏前に提出したはるかの、吹奏楽部入部届は受理されていますよ? それで、矛盾ながらも両方で部長職に就いているわけですよね?」
小田渕先生の言葉に、加納先輩が異を唱える。
確かに。文芸同好会入部のときには、2人は協力出来なかった。しかし、俺は吹奏楽部に入部出来た。
今までは肩書きだけ副々部長(つまり、一部員)だったけれど、新体制で正式に副々部長に就いた。その結果がこれ……。
話の
「規定がアホみたいにややこしいんだよ。面倒だから、一旦読むぞ。長いけど、しっかり聞けよ」
マジですか……。
『部又は同好会において、管理職の立場にある者は、掛け持ちを認めない』
『但し、同好会において管理職の立場にある者が、部において管理職の立場にある者から入部を許可された場合、前項を適用しない』
何ですか、これ?
意味ないじゃん。後の項が前の項を無効化してる。
「そんなわけだから、金山くんの入部届は受理されるな。まあ、どっちにしたって過ぎた話だ。問題はこの先。金山くんをどうするかってこと」
「俺ですか?」
「そう。この問題を解決する方法は、残念ながら2つしかない。『吹奏楽部を退部する』か、『文芸同好会の部長を辞める』か」
「その選択肢おかしくないですか?」
すかさず加納先輩が突っ込んだ。
「俺も同じ事思いました」
吹奏楽部の副々部長を辞めるっていう選択肢が、何で無いんだろう?
文芸同好会の部長を務めながら、吹奏楽部に部員として所属するのは可能なはず。
「これもまた面倒な規定があるんだよ。これも長いけど、ちゃんと聞けよ」
『部において管理職の立場にある者が、その職を解かれる場合は、以下に定める通りとする。・引退に伴い、同職の後継者が選定されたとき。・退学、転出、その他理由により退部したとき』
『前項の規定により、管理職の立場にある者が、その職を解かれた場合、部員として留まることは認めない』
「何ですか、これ?」
「あ、それ私の……」
嫌になるぐらい面倒だ。
ん? 今何か聞こえたような……。まあ良い。
「どうしてこんなにややこしいんですか?」
「俺に聞かれても困る」
ですよね……。
あ、加納先輩フェードアウトしないでくださいね。ちゃんと聞いててよ……。
『同好会において管理職の立場にある者が、その職を解かれる場合は、以下に定める通りとする。・引退に伴い、同職の後継者が選定されたとき。・退学、転出、その他理由により退部したとき。・過半数の部員による解任要求があったとき』
『前項の規定により、管理職の立場にある者が、その職を解かれた場合でも、部員として留まることが出来る』
『部又は同好会を退部した場合、如何なる理由であっても、退部より1ヶ月以上経過するまで、復部は認めない』
この学校嫌だ。何で、たかだか部活動の規定が、こんなにややこしいんですか!
「加納、聞いてたか?」
「はい。聞いてました」
小田渕先生に問われると、加納先輩は即答した。
しかし、俺が見ていた限り、話の最中余所を見ていたので、話を聞いていたとは思えない。
「聞いてましたけど、難しくて分かりませんでした……」
そういうことだと思った!
「簡単に言うなら、金山くんには『吹奏楽部を退部』するか、『文芸同好会の部長を辞める』か、どちらか選ぶ必要がある。どうするんだ?」
どうするんだって言われても、決まっている。
「そりゃあもちろん、吹奏楽部を退部するしか……」
「文芸同好会の部長を降りてもらうしか無いでしょ?」
しかし、言っている途中で加納先輩に阻まれる。
「何でですか!」
「だって、今度の演奏会のMCでしょう? 退部したら誰がやるの?」
た、確かに……。しかし、『退部したら誰がやるの?』は俺とて同じ。
「そうしたら、文芸同好会の部長は誰がやるんですか?」
「いま副部長やってる子がやれば良いじゃない」
菜穂子が? まあ、それも手ではある。でも、そうなると今度は副部長が居なくなる。
「何とかなりませんか? 小田渕先生」
加納先輩が困り果てた顔で、先生を見る。
「俺にどうしろと? 書類をでっち上げる位ならやっても良いけど、校則を無視することはできないぞ」
大丈夫かこの先生……。
「そうしたら、どうすれば良いの……おー」
加納先輩が喋っている途中で間の抜けた叫び声を上げた。
どうしたのかと思ったら、
「加納、授業始まるぞ。それでは小田渕先生、こいつ貰っていきます」
「おお。よろしく」
よろしく、って……。
「純ちゃん先生、まだ話し終わってないんだけど」
「後にしろ。時間切れだ」
「あ、じゃあ、はるか昼休みにここでね!」
朝の時間が無くなったのに、昼休みも無くなるのか。堀田先輩との約束もあるのに……。
「金山。お前も授業遅れるなよ」
俺にそう言うと、加納先輩を(文字通り)引きずりながら、職員室を出て行った。
「さて。うるさい奴が居なくなった……」
酷い言い草。
「それでは、俺も教室行きますね」
「おお。頑張れよ」
「失礼しました……あれ?」
今、加納先輩を滝野先生が連れて行った?
しかし、滝野先生は先輩のクラスの担任ではないはず。
授業の前にはSHRがある。
「SHRは見逃すけど、授業はサボるなよ」
小田渕先生の笑い声。
やってしまった……。
職員室を出て、教室へ向かう。
「あ。
「金山……」
階段を登っているところで
「SHRに居なかったから、欠席かと思ったよ」
「すいません……。ちょっと用事がありまして」
「遅刻した?」
「いや、ちゃんと学校にいました」
「それ、遅刻した子の
「いやいやいや。校内に居ましたから」
SHRはサボってしまったが、断じて遅刻ではない。
しかし、それを証明出来ない……。
俺の必死の説得に、隣の江南先生が笑い出した。
「西尾先生、そろそろ許してあげましょう」
「そうですね」
2人とも笑っている。どういう事だ?
「金山くんが校内放送で呼ばれて職員室に来たの、見てたよ。
マジですか……。
分かっていてからかわれていたらしい。
「金山も忙しいだろうし、仕方ないと思うけど、時間だけは守って」
「はい。承知しております……」
江南先生の真剣な眼に、大人しく頷く。
「宜しい。じゃあ、授業頑張れ」
「またねー」
先生方が階段を降りていった。
「あ、お疲れ様です。……金山くん?」
今度は、下から
すれ違った西尾先生と江南先生と挨拶を交わして、俺の横まで来て立ち止まる。
「何かあったの?」
「特に……。SHRに出るのを忘れてしまっただけです」
「そういえば加納さんと一緒に長いこと職員室に居たね。小田渕先生と何話してたの?」
「あー」
黄前先生は見ていたのか。いや、見られていたと言うべきか。
……そうだ。この先生担任持ってないからずっと職員室に居たわけだ。見ていないって方が不思議。
「今何か失礼なこと考えてなかった?」
黄前先生が、上目づかいで俺の顔を覗き込み、そう言い放った。
先生の方が背が低く、しかも一段下に立っているから、上目づかいになるのは仕方ない。
「……いや。失礼なことは考えてません。別に……」
しかし、その視線と言われた言葉に驚き、すぐに返事が出来なかった。
「嘘だ……」
「嘘じゃありません」
「あっ!」
どうやら、先生のいつもの癖が出ていたらしい。
俺の言葉に、先生は慌てるように口を押さえた。
「えっと……。そろそろ授業始まりますよ、お二人とも」
下からやって来た先生が、通りすがりにそう言っていった。
「あ。えっと、行こうか? 金山くんのクラスだから、一緒に行くよ……?」
そうか。1限目は数学だっけ。
あ! そういえば、SHRに出てないから、今日教室行くのはこれが初めてだ。
校内放送で呼び出されたこと、SHRサボったこと。
……集中砲火の予感。
諦めよう。
部活動規定のところで難しい言葉が連続しました。ごめんなさい。
わたしも、高校時代に『部活動の新設』を試みたことがあるので、その学校の規定を読んだことがあります。
勿論、こんなに複雑ではありません(汗)