【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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11-2……問題児の金山くん

 

「それでは、こんな感じで進めていきますね」

 

「うん。でも、ちょっと堅い感じがするから、砕けた感じで大丈夫だからね。まあ、それがはるからしさでもあるけど」

 

3-1教室は受験生ということもあり、朝早いこの時間でもどこかピリピリした空気が漂っている。

 

毎日こうなのか? 否、今は俺みたいな部外者が混じっているからだろう……。そう思いたい。

 

「分かりました。えっと、明日は朝から練習ですよね?」

 

「うん。祝日で学校が休みだから、通しでリハやる予定。はるかも来てね」

 

「はい」

 

俺は今、金曜日に控える吹奏楽部の演奏会のために、堀田(ほりた)先輩と喋る内容の打ち合わせを行っている。

 

『生徒の呼び出しをします』

 

急に、チャイムも無しに、校内放送のスピーカーから声がした。

 

前触れがなかったため、驚いて誰もがスピーカーの方を見る。

 

『文芸同好会の金山くん、文芸同好会金山くん。大至急職員室の小田渕(おだぶち)のところまで来なさい』

 

は? 俺? 職員室に?

 

小田渕……先生って誰だろう?

 

「はるか、何したの?」

 

堀田先輩の怪訝(けげん)そうな声。

 

「いや。心当たりがないんですけど。えっと、小田渕……先生? 何方ですかね? そんな状態です」

 

面識がないんだけど。

 

まあ、小田渕先生は俺のことを知っているんだろう。

 

「小田渕先生か。生徒会顧問の先生だね。3年生の学年主任の先生だよ」

 

3年生学年主任……あ!

 

集会で見たことがある。禿(ハゲ)頭の先生だ。

 

って、生徒会顧問?

 

生徒会と言われれば、心当たりがある。

 

「職員室行ってきますね……。恐らく、戻ってくる時間は無いので、資料は預かってもらえますか?」

 

「あ、うん。じゃあ、昼休みにね」

 

 

 

3-1の教室をでて、職員室へ向かう。

 

「あ……。呼ばれてた人だ」

 

「吹部の演奏しない子」

 

「でも、全国銀賞の立役者だって」

 

教室の前を通る度、視線が刺さる。

 

ただでさえ有名人だから、校内放送で呼び出されたことで、普段以上に注目されてしまう。

 

「おー。何したのよ?」

 

2-1の前で白沢(しらさわ)先輩に声掛けられた。

 

廊下で俺を待っていたらしい。

 

「さっぱり? 何で呼ばれたのやら、って感じです」

 

禿頭王(とくとうおう)ブチからの呼び出しねぇ……。説教じゃないと思うけどね」

 

えっ? 今なんて?

 

「ブチ?」

 

「そういう渾名(あだな)があるんだよ」

 

ふと、教室内に目をやる。

 

……アカネ先輩だ。

 

目が合うと、笑って手を振ってくるので、会釈を返す。

 

あ。加木屋(かぎや)先輩もいる……。

 

相変わらず本を読んでいるみたいだ。

 

俺が加木屋先輩を見ていることに気付いたのか、アカネ先輩が何か耳打ちした。

 

それを聞いた加木屋先輩は一瞬アカネ先輩を見て、顔を本に埋めてしまった。真っ赤になってたけど、何を言ったんだろう……?

 

「おっ! 問題児の金山くん。……なんてね」

 

教室から佳介(けいすけ)先輩が出てきた。

 

「何があったか知らないけど、小田渕先生は怒れない先生だから、怒られることは無いと思うよ。見た目こそ怖いけど、見た目だけだから……」

 

なるほど。見た目は怖いらしい。

 

「過去に生徒を叱って不登校にしてしまったことがあるらしいよ。大変だよね、先生って。ちょっとしたことで、すぐに保護者が怒鳴り込んでくるし。先生が不登校になりそうだよね……」

 

禿げてしまった理由はそれかもしれない。

 

「おっと、喋りすぎたね。ごめんね、足止めさせちゃって」

 

「あ、いえ。そもそも止めさせられたのは、白沢先輩ですから」

 

「俺~?」

 

俺の言葉に、白沢先輩が不満そうな声を上げる。

 

「じゃあ、失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『職員室』

 

かなり緊張する……。こんなのは6月5日以来。今日同様、校内放送で呼び出されたあの日と同じ。

 

なぜ、明確な日にちを覚えているかって? あがた祭りの日だから。あの頃は、防音室の予約対応とかで忙しかったし、今より吹奏楽部との距離が近かった……。って、今はそんな思い出に浸っている時間はない。

 

「失礼します。1-2の金山です」

 

入室すると、室内にいる先生の視線が、一斉に俺に集まる。

 

呼び出されている理由を知らない先生は、またあいつ何かやったのか? みたいな顔で見ている。……ように感じる。

 

「金山くん来たか。こっちだ」

 

禿頭……小田渕先生に呼ばれているので、そちらへ歩いて行く。

 

あれ? 加納(かのう)先輩も一緒に居るじゃないか。しかも、なんだかばつの悪そうな表情。

 

「えっと……どの様なご用件ですか?」

 

先輩の表情も気になるが、先生の方を見て話し掛ける。

「実は少し面倒な事態になってるんだ」

 

面倒?

 

先生がこちらを見るので、目が合う。

 

「……っ!」

 

強面に一瞬ビビる。

 

顔は怖そうだけど、全然怖くないって佳介先輩から聞いているが、それでも。

 

「面倒な事ですか?」

 

「ああ。非常にまずい。このままだと文芸同好会が危ないぞ」

 

えっ! 何でそうなるの? この間、生徒会につつかれて、新体制表提出したばかりだぞ。なのにどうして……。

 

『部又は同好会において、管理職の立場にある者は、掛け持ちを認めない』

 

春先の、堀田先輩から聞いた言葉が脳内に流れる。

 

「あ! そういうことですか!」

 

「おお? 急に叫んだらびっくりするだろ……」

 

呼び出された理由に思い当たり、思わず大きな声が出た。それで小田渕先生を驚かしてしまったようだ。

 

「すいません。えっと、何で呼ばれたか分かったので……」

 

「おっ、流石金山。話が早くて助かる」

 

流石って……。俺、小田渕先生と接点無いはずだけど。

 

 

 

「知っての通り、金山くんは今、『吹奏楽部 副々部長』と『文芸同好会 部長』を兼任しているわけだ。しかし、部活動規定では、部長等の管理職にある者は、掛け持ちを認めていない」

 

そう言いながら、先生が机の引き出しからバインダーを取り出す。

 

「えっと……、あった。『部又は同好会において……』長いな。まあ、簡単に言うと、部長は掛け持ちが出来ないんだよ」

 

「春先にあや……堀田さんが生徒手帳を確認したら、そうなってるって言ってましたね。だから、私とあや……堀田さんは協力できないって。でも、夏前に提出したはるかの、吹奏楽部入部届は受理されていますよ? それで、矛盾ながらも両方で部長職に就いているわけですよね?」

 

小田渕先生の言葉に、加納先輩が異を唱える。

 

確かに。文芸同好会入部のときには、2人は協力出来なかった。しかし、俺は吹奏楽部に入部出来た。

 

今までは肩書きだけ副々部長(つまり、一部員)だったけれど、新体制で正式に副々部長に就いた。その結果がこれ……。

話の辻褄(つじつま)が合ってない。

 

「規定がアホみたいにややこしいんだよ。面倒だから、一旦読むぞ。長いけど、しっかり聞けよ」

 

マジですか……。

 

『部又は同好会において、管理職の立場にある者は、掛け持ちを認めない』

 

『但し、同好会において管理職の立場にある者が、部において管理職の立場にある者から入部を許可された場合、前項を適用しない』

 

何ですか、これ?

 

意味ないじゃん。後の項が前の項を無効化してる。

 

「そんなわけだから、金山くんの入部届は受理されるな。まあ、どっちにしたって過ぎた話だ。問題はこの先。金山くんをどうするかってこと」

 

「俺ですか?」

 

「そう。この問題を解決する方法は、残念ながら2つしかない。『吹奏楽部を退部する』か、『文芸同好会の部長を辞める』か」

 

「その選択肢おかしくないですか?」

 

すかさず加納先輩が突っ込んだ。

 

「俺も同じ事思いました」

 

吹奏楽部の副々部長を辞めるっていう選択肢が、何で無いんだろう?

 

文芸同好会の部長を務めながら、吹奏楽部に部員として所属するのは可能なはず。

 

「これもまた面倒な規定があるんだよ。これも長いけど、ちゃんと聞けよ」

 

 

 

『部において管理職の立場にある者が、その職を解かれる場合は、以下に定める通りとする。・引退に伴い、同職の後継者が選定されたとき。・退学、転出、その他理由により退部したとき』

 

『前項の規定により、管理職の立場にある者が、その職を解かれた場合、部員として留まることは認めない』

 

「何ですか、これ?」

 

「あ、それ私の……」

 

嫌になるぐらい面倒だ。

 

ん? 今何か聞こえたような……。まあ良い。

 

「どうしてこんなにややこしいんですか?」

 

「俺に聞かれても困る」

 

ですよね……。

 

あ、加納先輩フェードアウトしないでくださいね。ちゃんと聞いててよ……。

 

 

 

『同好会において管理職の立場にある者が、その職を解かれる場合は、以下に定める通りとする。・引退に伴い、同職の後継者が選定されたとき。・退学、転出、その他理由により退部したとき。・過半数の部員による解任要求があったとき』

 

『前項の規定により、管理職の立場にある者が、その職を解かれた場合でも、部員として留まることが出来る』

 

『部又は同好会を退部した場合、如何なる理由であっても、退部より1ヶ月以上経過するまで、復部は認めない』

 

この学校嫌だ。何で、たかだか部活動の規定が、こんなにややこしいんですか!

 

「加納、聞いてたか?」

 

「はい。聞いてました」

 

小田渕先生に問われると、加納先輩は即答した。

 

しかし、俺が見ていた限り、話の最中余所を見ていたので、話を聞いていたとは思えない。

 

「聞いてましたけど、難しくて分かりませんでした……」

 

そういうことだと思った!

 

「簡単に言うなら、金山くんには『吹奏楽部を退部』するか、『文芸同好会の部長を辞める』か、どちらか選ぶ必要がある。どうするんだ?」

 

どうするんだって言われても、決まっている。

 

「そりゃあもちろん、吹奏楽部を退部するしか……」

「文芸同好会の部長を降りてもらうしか無いでしょ?」

 

しかし、言っている途中で加納先輩に阻まれる。

 

「何でですか!」

 

「だって、今度の演奏会のMCでしょう? 退部したら誰がやるの?」

 

た、確かに……。しかし、『退部したら誰がやるの?』は俺とて同じ。

 

「そうしたら、文芸同好会の部長は誰がやるんですか?」

 

「いま副部長やってる子がやれば良いじゃない」

 

菜穂子が? まあ、それも手ではある。でも、そうなると今度は副部長が居なくなる。

 

「何とかなりませんか? 小田渕先生」

 

加納先輩が困り果てた顔で、先生を見る。

 

「俺にどうしろと? 書類をでっち上げる位ならやっても良いけど、校則を無視することはできないぞ」

 

大丈夫かこの先生……。

 

 

 

 

 

 

 

「そうしたら、どうすれば良いの……おー」

 

加納先輩が喋っている途中で間の抜けた叫び声を上げた。

 

どうしたのかと思ったら、滝野(たきの)先生が後ろから襟首を掴んでいた。

 

「加納、授業始まるぞ。それでは小田渕先生、こいつ貰っていきます」

 

「おお。よろしく」

 

よろしく、って……。

 

「純ちゃん先生、まだ話し終わってないんだけど」

 

「後にしろ。時間切れだ」

 

「あ、じゃあ、はるか昼休みにここでね!」

 

朝の時間が無くなったのに、昼休みも無くなるのか。堀田先輩との約束もあるのに……。

 

「金山。お前も授業遅れるなよ」

 

俺にそう言うと、加納先輩を(文字通り)引きずりながら、職員室を出て行った。

 

「さて。うるさい奴が居なくなった……」

 

酷い言い草。

 

「それでは、俺も教室行きますね」

 

「おお。頑張れよ」

 

「失礼しました……あれ?」

 

今、加納先輩を滝野先生が連れて行った?

 

しかし、滝野先生は先輩のクラスの担任ではないはず。

授業の前にはSHRがある。

 

 

 

「SHRは見逃すけど、授業はサボるなよ」

 

小田渕先生の笑い声。

 

やってしまった……。

 

 

 

 

 

職員室を出て、教室へ向かう。

 

「あ。金山(かなやま)くん」

 

「金山……」

 

階段を登っているところで西尾(にしお)先生と江南(こうなん)先生に出くわす。

 

「SHRに居なかったから、欠席かと思ったよ」

 

「すいません……。ちょっと用事がありまして」

 

「遅刻した?」

 

「いや、ちゃんと学校にいました」

 

「それ、遅刻した子の常套句(じょうとうく)だよ。『校門入ってれば、学校に居たのと同じだから、遅刻にはならない』って」

 

「いやいやいや。校内に居ましたから」

 

SHRはサボってしまったが、断じて遅刻ではない。

 

しかし、それを証明出来ない……。

 

俺の必死の説得に、隣の江南先生が笑い出した。

 

「西尾先生、そろそろ許してあげましょう」

 

「そうですね」

 

2人とも笑っている。どういう事だ?

 

「金山くんが校内放送で呼ばれて職員室に来たの、見てたよ。小田渕(おだぶち)先生と加納(かのう)さんとの話し合い、だいぶ白熱してたね。チャイム気づかないぐらいだし」

 

マジですか……。

 

分かっていてからかわれていたらしい。

 

「金山も忙しいだろうし、仕方ないと思うけど、時間だけは守って」

 

「はい。承知しております……」

 

江南先生の真剣な眼に、大人しく頷く。

 

「宜しい。じゃあ、授業頑張れ」

 

「またねー」

 

先生方が階段を降りていった。

 

「あ、お疲れ様です。……金山くん?」

 

今度は、下から黄前(おうまえ)先生が登ってくる。

 

すれ違った西尾先生と江南先生と挨拶を交わして、俺の横まで来て立ち止まる。

 

「何かあったの?」

 

「特に……。SHRに出るのを忘れてしまっただけです」

 

「そういえば加納さんと一緒に長いこと職員室に居たね。小田渕先生と何話してたの?」

 

「あー」

 

黄前先生は見ていたのか。いや、見られていたと言うべきか。

 

……そうだ。この先生担任持ってないからずっと職員室に居たわけだ。見ていないって方が不思議。

 

「今何か失礼なこと考えてなかった?」

 

黄前先生が、上目づかいで俺の顔を覗き込み、そう言い放った。

 

先生の方が背が低く、しかも一段下に立っているから、上目づかいになるのは仕方ない。

 

「……いや。失礼なことは考えてません。別に……」

 

しかし、その視線と言われた言葉に驚き、すぐに返事が出来なかった。

 

「嘘だ……」

 

「嘘じゃありません」

 

「あっ!」

 

どうやら、先生のいつもの癖が出ていたらしい。

 

俺の言葉に、先生は慌てるように口を押さえた。

 

 

 

「えっと……。そろそろ授業始まりますよ、お二人とも」

 

下からやって来た先生が、通りすがりにそう言っていった。

 

「あ。えっと、行こうか? 金山くんのクラスだから、一緒に行くよ……?」

 

そうか。1限目は数学だっけ。

 

あ! そういえば、SHRに出てないから、今日教室行くのはこれが初めてだ。

 

校内放送で呼び出されたこと、SHRサボったこと。

 

……集中砲火の予感。

 

諦めよう。

 





部活動規定のところで難しい言葉が連続しました。ごめんなさい。

わたしも、高校時代に『部活動の新設』を試みたことがあるので、その学校の規定を読んだことがあります。

勿論、こんなに複雑ではありません(汗)
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