【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

74 / 90

お待たせしました。

今日で、連載開始からちょうど一年になります。

皆様に支えられてここまで来れました。

年明けに『年度内完結』なんて偉そうなこと言ってますが、当分掛かりそうです。お付き合いいただけると幸いです。




11-4……吹奏楽部のリハーサル

 

「行ってきます」

 

玄関でそう声を掛けると、案の定ゆうきが出てきた。

 

「行くって何処へ?」

 

「学校。部活に」

 

制服に着替えてるんだから、ある程度察して欲しい。

 

「今から? 今日は休日だよ」

 

「でも、学校は開いてるから部室には行けるだろ」

 

「まあ、朝から吹奏楽部 頑張ってるもんね……」

 

そう。今ここにいても、吹奏楽部の演奏が聞こえてきている。

 

吹奏楽部……。

 

「あ!」

 

「あ?」

 

「そうだ。吹奏楽部に今日のリハ顔出すように言われてたんだ……」

 

すっかり忘れてた。

 

「マジで! 大丈夫なの?」

 

ゆうきがそう言い、視線を下駄箱の上に移す。

 

置いてある時計を見たようだ。もう11時を回っている。

 

「とにかく行ってくる」

 

「あ、うん。行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

校門を潜る。

 

演奏の音色は体育館から聞こえている。

 

恐らくリハーサル中だ。音楽室ではなく、体育館へ向かう。

 

靴を適当に脱ぎ捨て、体育館に駆け込んだ。

 

靴下で体育館に駆け込んだわけだから、

 

「あー!」

 

当然(?)滑って転倒する。痛い……。

 

演奏が止まった。

 

金山(かなやま)くん……。はい」

 

顔を上げると、高坂(こうさか)さんが手を差し出していた。

 

「ありがとうございます」

 

手を借りて立ち上がる。

 

「えっと……?」

 

ステージの方へ目を向けると、ステージ上とその近くの段下に、楽器を抱えた部員たちが座っていた。

 

そうか。今回は部員全員で演奏するから、ステージには収まりきらないんだ。

 

その部員たちが俺の方を、きょとんとした顔や呆れたような顔で見てきている。

 

心配そうな顔をしている人もちらほら。

 

指揮台に立つ滝先生は、心配してくれてるらしい。

 

「大丈夫?」

 

隣の高坂さんにそう声掛けられる。

 

「大丈夫です。慌てて転んでしまいました」

 

「慌ててたの?」

 

「はい。今日のリハに呼ばれていたのを思い出して、家を飛び出してきました。すっかり忘れていたので。すいません……」

 

頬を掻く。

 

「呼ばれてるんだ? 誰もそんなこと言ってなかったけど」

 

えっ?

 

堀田(ほりた)先輩、話通してないの……?

 

「誰か、金山くんを呼んだの?」

 

ステージに向かい高坂さんが問い掛けるも、皆顔を見合わせたりで、誰も何も言わない。

 

堀田先輩……何で何も言わないの。首傾げてるし。

 

「当日金山くんが喋る内容は、まだ決まっていないからって。今はMCのところを飛ばしてやってるんだけど……。その為?」

 

MCの為、それしかないと思う。

 

まあ、呼ばれてないのなら、帰ろう……違う。部室に行こう。やることは山のようにあるんだから。

 

「えっと。それなら俺にやれることはないですよね。これにて失礼し……」

 

「いや、折角だしMC入れて、もう一回通してやろう」

 

橋本(はしもと)さん~!

 

「決まってないって言っても、本番明後日だよ? 原稿真っ白って訳じゃないよね。考えてない部分は、アドリブで何でも良いから喋って、通してみよう」

 

「そうですね。やってみましょうか」

 

橋本さんの提案に、滝先生が同調する。

 

こりゃダメだ。退路を絶たれた(使い方違うか?)。

 

俺とて暇ではない。忙しいんだよ……。

 

「頑張れ。諦めろ」

 

「えっ? あ、坂部(さかべ)さん……」

 

いつの間にか、後ろに来ていた坂部さんに肩を叩かれる。

 

「これ、落としただろ。……落としたというか、転んだ時に放り投げたというか」

 

差し出されているクリアファイルを受け取る。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

しまった。これ、MCの原稿が入ってる奴だ。

 

「やろっか」

 

坂部さんを真似したのか、高坂さんが反対の肩を叩く。

 

 

 

……やりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。1-2の金山です、文芸同好会の部室の鍵を借りに来ました」

 

リハーサルが終われば、今度こそお役御免だ。

 

当初の予定通り、部室にいくため、職員室に入る。

 

「あれ? 金山くんだ。こんな時間にどうしたの?」

 

名前を呼ばれてその方を見ると、西尾(にしお)先生の姿があった。他に先生は居ないらしい。

 

「吹奏楽部のリハーサルです。金曜日の演奏会のために」

 

「そっか。金山くんMCだもんね……。リハ終わったの?」

 

「とりあえず、俺の出番は終わりました。なので、部室に行きます」

 

「こんな日まで部活かぁ。頑張るねぇ。もう13時なのに」

 

こんな日、というのは『せっかくの祝日(休校日)』『吹奏楽部のリハーサルがあった日』の2つだろう。

 

「早く片付けたい案件があるので。……今日来てるのは西尾先生だけですか?」

 

さっき体育館で吹奏楽部の顧問には会っている。だから、3人が来ているのは知ってるけど。

 

「あとは、滝先生と松本(まつもと)先生に涼子(りょうこ)先生だね。あ、黄前(おうまえ)先生も居るよ」

 

見事に……黄前先生?

 

「来ているんですか? 黄前先生」

 

「うん。小テスト作るからって、図書館に籠ってるはずだよ」

 

小テストを作る……つまり、近々数学の小テストがあるかもしれない。

 

あれ? これ、俺に言って良いの?

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「あ。黄前先生じゃなくて、塚本(つかもと)先生だね。癖で間違えちゃったよ。……金山くんも黄前先生って呼んだね?」

 

「ええまあ……」

 

俺もそっちで慣れている。

 

おっと、長居は無用。

 

余計な仕事を頼まれる前に、鍵を借りて退室する。

 

 

 

部室に到着。

 

「失礼します……」

 

当然、鍵は開いていなかったから、開けて入室。

 

誰もいないけど、声を掛けて入室。

 

さて。まずはお湯を沸かそう……。

 

昼過ぎ。流石にお腹が空いたので、まずはお昼ごはんにしよう。

 

ケトルに水を入れ、セット。

 

買い置きのカップラーメンを引っ張り出して、用意する。

 

今日はシーフード。蓋を開ければお湯を注ぐだけの、簡単な奴だ。

 

カレーの奴が一番腹持ちは良いんだけど、室内に匂いが染み付いて面倒だから、ここでは滅多に食べない……。

 

お湯が沸くのに3分待ち、入れてから3分待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るよー」

 

お湯を注いですぐ、ノックもなしに扉が開いた。

 

この声……というより、ノックせずに扉を開ける人なんて、1人しか知らない。

 

「おはようございます、黄前先生」

 

「おはよー。金山くん頑張るねぇ……」

 

そう言いながら、視線は机上のカップラーメンへ。

 

「お昼ごはん? ってことは、今日は朝から来てるの?」

 

「いえ、そんなに経ってませんよ。学校に来たのは11時過ぎです。ここには今来たばかりです」

 

「……じゃあ、その2時間何してたの?」

 

何してたの? って。先生知らないのか。

 

「吹奏楽部のリハーサルです。体育館に居ました」

 

「そっか、もう明後日だもんね。演奏会」

 

「というか。先生、俺がこの部屋にいるのを知ってて来たんですか?」

 

「さっき職員室行ったら西尾先生から、『今さっき金山くんが来て部室に行ったよ』って教えてもらった」

 

なるほど。知ってて来たのか。

 

「俺に何か用でも?」

 

「別に用事は無いよ。こんな時間から来たのが気になってね」

 

リハが終わってから来たので、遅くなったのは仕方ない。

 

「そっかー、明後日本番だもんね。全国大会凄かったもんね……」

 

そう言い、窓の外、どこか遠いところを見つめる先生。

あの演奏は凄かったなぁ……。そう呟いた。

 

「黄前先生が部長の時に、全国大会で金賞取ったんですよね?」

 

「そうだよ。私が部長で秀一(しゅういち)が副部長。あの時が黄金メンバーだったかもしれないね……」

 

俺の問いかけに、先生は窓の外を眺めたまま答えた。その時のことを回想しているんだろう。

 

「私が入学した頃の吹部はね、正直腐ってた。そこに滝先生が赴任してきて、叩き直した感じだね。あ、そうは言っても、挑発的な言葉で発破かけただけだよ」

 

俺が変な誤解をすると思ったのか、言い終えるとこっちを見て手を振った。

 

言いたいことは分かったから大丈夫だけど。

 

しかし、発破かけただけ、って……。

 

「それでも充分凄いことしたと思います」

 

あの先生のことだから、なんか凄いこと言ったのだろう。

 

「まあね。腐ってた3年生が卒業していって、元々は熱意あった新3年生と新2年生が、奮起して頑張った結果だよ。『若さにかまけてドブに捨ててた時間』をかき集めてね」

 

ドブ! やっぱり。

 

橋本さんは『自称、歩く名言集』だけど、滝先生もそれなりに名言残してるよね。これ。

 

……毒舌か?

 

「その年は、凡そ10年振りの全国大会出場で、結果は銅賞ね。文化祭に来た香織(かおり)……中世古(なかせこ)先輩って覚えてる?」

 

中世古さん? ……あ。あの看護師の人か。

 

「はい。覚えてます。高坂さんとソロを争った人ですよね?」

 

府大会前のホール練習のあと、滝野(たきの)先生がそれとなく教えてくれた。

 

今は看護師をしてること、高校時代には親衛隊なるものが存在してたこと、吹部のマドンナ的存在だったこと、腐ってた頃に発生した大量退部事件の時に3年生と1年生の仲を取り持とうと奔走していたこと等々……。

 

「そう。その香織先輩が3年生だった年だね……。その次の年、希美(のぞみ)先輩や滝野先輩が3年生の年が関西ダメ金」

 

その話は前に傘木(かさぎ)さんから聞いたことがある。

 

纏めれば本一冊になるんじゃないか? ってぐらい、濃く深い話だった。

 

因みに、先述の大量退部事件の首謀者が傘木さんだったことを知ったのは、つい最近のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり話し込んでしまったけれど、何か忘れているような……。

 

「ラーメン伸びてない?」

 

「あー!」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。