【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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番外編です。

時間軸は、全国大会終了直後なので、少し遡っています。




      放課後の音楽準備室

 

「あやちってさぁ。はるかのこと、好きなの?」

 

新部長の指名を終え、沙也(さや)と私だけが残った音楽準備室。

 

沙也が唐突に発した言葉に、私は驚いて持っていたノートを落としそうになった。

 

「えっ? あー。予め断っておくけど、恋愛感情無いからね。そういう感じじゃないからさ」

 

何を言いたいのか察して、にやっと笑う。

 

私の笑った顔は同性さえも虜にしてしまうのだ。だから、沙也が慌てて視線をずらす。

 

「えっと、そうなの……?」

 

「弟みたいな感じかな? ほら、私の場合お兄ちゃんが居るけど、歳が離れすぎてるからさ、実質一人っ子だもん」

 

そうは言っても、このことを知る人は少ない。沙也やはるかには話したけれど、この先のことは誰も知らないはず。

 

「この間の全国大会覚えてる? 明静工科(みょうじょうこうか)堀田 綾介(ほりたりょうすけ)くん」

 

彼はその界隈で有名だから、同じ楽器の沙也なら、名前を出せば分かるはず。

 

「ああ、明静工科の1年生の男の子ね、トランペットの。そういえば最後、何か話してたよね」

 

彼に呼ばれたとき、沙也は近くにいたから覚えているみたい。

 

「そう。綾介くんは、私の甥っ子なの」

 

「甥! ……それじゃあ、歳の差ほとんど無いよね?」

 

2つ年下。

 

「綾介くんと一緒にいた女の人覚えてる? 背の高いセミロングの人」

 

「……ああ。大学生って感じの人だよね。一緒にいたね」

 

大学生って感じ? どんなイメージなの。まあ、確かに大学生だけど。

 

「あの人は、彩音(あやね)さん。綾介くんのお姉さんで、私の姪に当たる人。年上なんだけど……」

 

なんというか、複雑な家系図だよね。堀田家。

 

「綾介くんとは弟のような関係だったんだけど、元々宇治(うじ)市と守口(もりぐち)市だから地味に距離があるし、時々しか会えなかったの」

 

京阪(けいはん)電車で1時間未満。

 

『会おう』と思って行けない距離じゃないけど、京阪神の鉄道・道路は共に混雑しているから、頻繁に行くのは憚られる。

 

現に、前回綾介くんに会ったのは、関西大会の時に和歌山で。その前は何時だったかな……。彩音さんと会ったのもその時だったはず。

 

多くても2ヶ月に1回程度。

 

 

 

「実はね、綾介くんがトランペットを始めたのがきっかけで、私もユーフォ始めたんだよね。あの頃の私は負けず嫌いだったからさ、『トランペットに勝てる楽器が良い』って言ったら、ユーフォ勧められて……」

 

トランペットにユーフォニアムが勝てるのか? 単にその言葉を利用して、ユーフォを勧めただけだろう。今ではそう思っている。

 

しかし、それが私がユーフォと出会ったきっかけだから、勧めてくれた木津(こつ)先生には感謝している。

 

それに、色々とお世話になったし。

 

「綾介くんとはるか、そっくりだからさ。2人が被って見えたんだよね」

 

全国大会の時。綾介くんを見た沙也とはるかは、あまりにもそっくりで驚いていた。

 

「入学式の日の演奏、覚えてる? 階段のところでの」

 

「ああ、あの時。……そういえば、あの時あやちが変に動揺して、演奏始めるのが遅くなったんだ」

 

「そう。はるかがあまりにもそっくりだから。なんで綾介くんが? って。驚いて曲間違えちゃった。あの時はごめんなさい」

 

動揺のあまり、海兵隊だったのに、北からの子守唄の指揮をしてしまった。

 

「いや、別にもう気にしてないし、その場も和んだから良かったけどさ。そういうことだったの」

 

その理由、今まで伏せていたから、それが分かって沙也は納得したような顔をしている。

 

「うん。だから、仲良くなりたいなって思ってね……。きっかけ探してたの」

 

どうやって声掛ければ不自然にならないか考えていた。

 

「そしたら、沙也が話してるんだもん」

 

入学式の翌日、沙也がはるかと話しているのを見て驚いてしまった。

 

「連絡先聞き出せた時は舞い上がっちゃった」

 

 

 

「ところで。沙也はなんでこの事を聞いてきたの?」

 

「えっ。い、言い出したのはあやちじゃない」

 

「最初に話振ったのは沙也でしょ?」

 

「そ、そうだけど……」

 

分かりやすく動揺してる。

 

そういうことね。

 

「好きなんだ。はるかのこと」

 

「わ、悪い?」

 

「全然。人を好きになるのは自由だよ。私が口出しすることじゃないからね」

 

「真面目に答えてよ」

 

「真面目に答えてるよ?」

 

あーあ。みるみる顔が赤くなっていく。ちょっとからかいすぎたかな?

 

「じ、じゃあまた明日!」

 

逃げるように準備室を飛び出していった。

 

 

 

「あ。鍵……」

 

扉横の鍵掛けには、この部屋の鍵が残っている。

 

当然、施錠して帰らないといけない。

 

「しょうがないなぁ……」

 

本来、沙也がやるべき仕事なのに。

 

1人、呟きながら鍵を取り、準備室を出る。

 

「ん?」

 

誰か、走り去っていくのが見えた。

 

あの鞄は確か……未知流(みちる)ちゃん?

 

 

 

「あ……」

 

もしかして、今の話聞かれてた?

 

 

 

 





全国大会の時、堀田先輩に声かけた人物の正体は甥と姪でした。

複雑な家系図が出来そうな堀田家。

余談ですが、私の家も年齢差やきょうだいの年齢が離れていたりして、親と同い年のいとこ がいます……。


これで、(そもそもこの章自体が番外編と言えそうでしたが)全国大会記念の演奏会は終わりです。

原作アニメでも、この先(全国大会後)の話は大幅カット(?)で、卒部式→卒業式と飛んでいますが、定期演奏会等々何かしらあるはずなので、それを挟みつつ物語を進めていこうと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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