【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
大変長らくお待たせ致しました。
完結に向け、突っ走ります。
12-1……駐輪場に俺のバイクが停まってるから、それで行ってこい
体育館での演奏会から2ヶ月が経った。
新年を迎え、新学期が始まる。
もちろん、この間も少ないながら練習は続いていた。
月に1回ぐらいの頻度で、演奏会が行われているからだ。
全国大会に出場する強豪校となると、あちこちから引っ張りだこ。俺も演奏会の度に楽器運搬係として仕事をこなしている。
時には事前打ち合わせの付き添いで行ったり、各クラスへ宣伝に行ったりすることも。
肩書きとはいえ、副々部長として慌ただしく駆けずり回っている。
そんなわけだから、冬休みは久し振りにゆっくりできた……。
新学期早々訪れた3連休。
今日は初日の土曜日。市民病院で新春コンサートが開かれる。
北宇治高校吹奏楽部は、
もちろん、市民病院となるとスペース的に規模も限られるから、全員が行くわけではない。今回は、希望者10人で編成したチームで参加する。
人数が少なければ、楽器も少ない。それ故、今回は俺の出番は無し。
学校は休みだから、部室に行って執筆でもしていよう……。
「失礼します。1-2の
登校したら、まずは職員室へ。
「お、金山。おはよう」
職員室に居るのは
「おはようございます。今日は滝野先生だけですか?」
「そうだよ。他の先生方は休み。あ、誰かに用事有った?」
「あ、そういうわけではないです」
何かあった時のために確認しただけ。
「そういえば、今日市民病院で演奏有るんじゃないか?」
お、滝野先生の耳にも入っているか。……いや、職員室の行事予定表に書かれているから、知ってて当然だろう。
「今回は小規模ですから俺の出る幕はありませんよ」
「そっか。じゃあ、部活頑張れよ」
「はい。ありがとうございます」
鍵を借りて退室する。
部室に到着。
鍵を開けようとドアノブに手を伸ばしたら、静電気が走った。
「痛っ……」
ちょっと強めのやつで、地味に痛かった。
いくら空気が乾燥しているとはいえ、これ程の奴は珍しい。
なんとなく、嫌な予感がする。
部室で1人、執筆していたらポケットのスマホが震え始めた。電話だ。
誰だろう……
「はい。金山です」
犬山
練習が休みの日や終わった後に、文芸同好会の部室を訪ねてきて、
しかし、先輩もバイトがあるから時々居ない日もあり、そんな時は俺と話すこともある。
『あ、金山くんだよね。犬山です』
「急にどうしたの?」
連絡先こそ交換したが、彼女から連絡が来るのは初めてだ。
喜怒哀楽はそれなりに見ていたから、声色からして良い話ではなさそう……。
『金山くん、今は学校に居るの?』
「そうだけど、なんかあった?」
困っているみたいだ。
『実は、今日のコンサートの様子を撮影するためにカメラを用意しているんだけど、それを職員室に忘れてきたみたいなの』
マジか! そういえば犬山さんはコンサートメンバーだけど、記録係も兼ねてるんだ。
『
なんだ。犯人は
「持っていけば良いの?」
そうなるだろう。聞かなくても分かる。
『お願いします。持ってきて。こっちから取りに行ってもらったら、間に合わないだろうし……』
だよな。ここまで取りに来たら、持っていくだけより倍の時間が掛かる。時間的には間に合わない。
それに、この時間帯だと道路が渋滞しているから尚更だ。
「分かった。滝野先生いるから持っていってもらうよ」
幸い、今日は滝野先生が居る。
『ありがとう! お願いします!』
そうと決まれば急ごう。
電話を切り、職員室に向かう。
「失礼します!」
やや乱暴に扉を開け放ち、入室する。
普段なら怒られるだろうけど、今は滝野先生しか居ないはずだから大丈夫だろう。
「どうした? そんなに慌てて。
「先生、黄前先生の机にカメラありますか?」
「黄前? リュックサックがあるな。中身は……あるぞ。ビデオカメラ」
先生に確認しつつ、机まで行くと、リュックサックからカメラが顔を覗かせている。
\コンニチハ/
なんか喋りかけてきた気がするんだけど。こっちは君のせいで大慌てなんだよ。……気のせいか。
「これ、今すぐに市民病院に届けてもらえませんか?」
「俺が?」
「はい。今頼めるの、滝野先生だけなんです」
そう言うなり、先生が腕を組み、唸る。
「参ったな……」
駄目なのか?
「今日このあと水道工事が入るんだよ。今俺しか居ないから、学校空けるわけにはいかないな……」
あちゃー。想定外だった。
「取りに来てもらったら……間に合わんな」
「はい。だから持ってきてくれって言われました」
「そうだよな。……あ」
何か閃いたらしい。
「金山、手出して」
手?
「はい」
そう言いながら右手を差し出すと、先生はポケットから何かを取り出し、俺の手に握らせた。
「えっ? 鍵ですか?」
渡されたのは、ストラップの付いた鍵。
「駐輪場に俺のビーノが停まってるから、それで行ってこい」
…………?
「ビーノ?」
「原動機付自転車」
原付のことか。
即ちそれは……バイク。
「お、俺が先生のバイクに乗って行ってこいって事ですか!」
「うん」
あっさり!
こっちは急な話で驚いてるっていうのに……。
「あ、正確には妹のだけど」
それ今関係ない。
「迷ってる暇ないぞ。それに、原付なら多少近道可能だから、渋滞知らずだぞ。さ、急げ」
マジか……。
「分かりました。行ってきます……」
カメラの入ったリュックごと手に取る。
「気をつけてな。メットはミラーに引っ提げてるのを使え。たぶん金山でも大丈夫だろうから」
「はい。ありがとうございます」
仕方ない。こうなった以上、急ごう。
先生用の駐輪場に着くと、バイクが1台停まっている。
えっ? 原付って言ってたよな? マジかよ。まあ良い。
YAMAHAビーノ。バイクというよりは、スクーターと言った方が良い可愛い奴だ。……本当はそんなこと言っている余裕ないんだけど、こうでも言わないとテンパって事故を起こしそうだからね……。
言っていたとおり、ミラーにヘルメットが引っ掛けてある。
そのヘルメットを被り、エンジン始動。
「ふうー」
1回、深呼吸。
バイクなんて、自動車学校で乗った以来。慎重に発進させる。
いざ、市民病院へ……。
10分程で市民病院に到着。
案の定、宇治街道は渋滞していた。
特に、俺が走ったのとは逆方向(京都市方面)が酷い渋滞で、これだと車で学校に取りに行っていたら、確実に間に合わなかっただろう。
バイクだから、脇道などの細い道でも通れるから、渋滞を気にせずに来れたのが良かった。
「犬山さーん!」
ロータリーに向かうと、正面玄関のところに犬山さんの姿を発見。声を掛けると、こちらを向いた。しかし、途端に顔色が変わる。
あれ? なんか、とんでもない形相でこっち見てるんだけど……。
まあ、分からなくもない。
「はい、これね」
バイクを停め、カメラが入っているリュックサックごと渡す。
「えっと……金山くんだよね?」
やっぱりそうか。
「うん」
返事をしつつ、ヘルメットを脱ぐ。
「びっくりしたよ。金山くんの声で名前呼ばれたからそっち見たのに、バイクに乗った人に声掛けられてるんだもん。一瞬誰だろう……って思ったよ」
「驚かせてごめん。滝野先生手が離せない、っていうから、俺が来た。あ、そろそろ時間じゃない?」
速度計のところに時計があるので確認したら、良い頃合いだ。
「あ、そうだね。ありがとねー」
正面玄関に入って行く。
さてと。帰ろう。
んー?
燃料計が残り2メモリになってる。
これ、このまま帰っても大丈夫なのか……。給油しないとダメだよな……?
分からない。聞こう。
スマホを取り出す。
『どうした?』
電話を掛けるとすぐに繋がった。
「あ、滝野先生、ちょっと良いですか?」
『ほい』
「今、バイクの燃料が残り少ないんですね」
『ああ、そうだったな。帰りに入れていこうと思ってたんだよ』
知ってたのか。
「これ、入れないとまずいですか?」
『残り幾つだ? メモリは』
「2メモリです」
『ああ。なら大丈夫だ』
えっ?
『ビーノの燃費は、その形式なら1リットルで80㎞は走る。まだ1リットルは残ってるから、俺が帰るときに給油するから大丈夫だよ』
ビーノ。そんなに走れるんだ……。
『カタログ燃費は90㎞でタンクは4リットル。だから、360㎞走れるよ。まあ、そんなわけだから、そのまま気を付けて帰ってこい』
カタログ燃費って……このバイクにそれ言うか?
「はい、分かりました。ありがとうございます。あ、先生一つ言いたいことがあります。帰ったら言うんで覚悟しといてくださいよ」
『了解』
電話が切れた。
とりあえず、お腹がすいたので、近くのコンビニに寄る。
適当にお昼御飯を買い、近くのベンチで食べていると、バイクが2台走ってきた。
そのまま、ビーノの隣に止まる。
お。女性の2人組だ。
その2人はバイクを降りると、ビーノを眺めている。止める前から気付いていたらしい。
何だろう……。なにか気になるのか?
時折会話しながら5分位眺めていただろうか。
何事もなかったかのように、コンビニへ入っていった。
2人共肩ぐらいのショートヘアーで、1人は濃い青色、もう1人は紫がかった茶髪。
俺の知り合いではないはず。(このビーノと)知り合いだろうか? まあ、良い。
お昼御飯のゴミを捨て、ビーノのところへ戻る。
ふと、隣に並んでいるバイク2台を見る。
え? 浜松ナンバーに名古屋ナンバー? それなりに遠いところから来てるんだ……。
尚更知り合いの可能性はないだろう。
さてと。今度こそ帰ろうか。頼むよビーノ。
最後の方に登場した2人が何者か。
ご想像にお任せします。
10年後、ということである程度勝手に設定していたのに、まさか今夏公開の映画がその『10年後が舞台』なんて……。想定外です。
設定が間違ってくるかもしれませんね。まあ、その場合、都合解釈で逃げます。