【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
渋滞を脇道で回避しながら学校に戻ってきた。
駐輪場にビーノを戻し、ヘルメットをあった通りに掛ける。
そのまま部室に向かいそうになるが、鍵を返さなきゃならないし、何より先生に一言言いたい。
『職員室』
「失礼します」
「お帰りー。遅かったな。道混んでた?」
滝野先生の声。
一応室内を見渡すが、先生一人の様だ。
「混んでましたね。車で取りに来てたらアウトでしたよ。まあ、バイクなら渋滞回避可能ですから……。遅くなったのはコンビニ寄ってたからです」
先生の前まで行き、鍵を返す。
「サンキュー。しかしまあ、あいつらも慌てすぎだよな。ビデオカメラ忘れたのは大変だろうけど、スマホのカメラがあったろうに」
スマホのカメラ……。
カメラ……スマホ……。
あ。
誰一人スマホのカメラに気づかなかったのか……!
忘れたことで気が動転して誰も気付けなかったのだろう。
「確かに。でも、ビデオカメラ渡せて良かったです。助かりました」
「役に立てたなら良かったよ」
「工事は終わったんですか?」
「ああ。これで1階の女子トイレが使えるようになったよ」
そういえば、クリスマスの辺りから使用禁止になってたっけ。
排水管が詰まり、洋式便器からナイアガラの滝の如く、水が流れ出たとか……?
おっと、危うく肝心な話をし忘れるところだった。
「さて、改めまして。滝野先生、一言良いですか?」
「ああ」
先生は俺が何を言おうとしているのか、分かっているらしい。
まあ、答えは予想がつくけれど。
「先生、嘘吐きましたね」
「嘘は言ってねぇよ。言葉足らずと言うべきだ」
「まあ、確かにそうですね」
滝野先生は俺に、『原動機付自転車』と言ったが、あのビーノは『原付二種』だ。ナンバープレートが黄色なので、言い逃れは不可能。
「
まあ、知識的な面や法律的な面でも問題なく……。待て待て。
「でも、あのビーノに50CC越えのモデル、あるんですか?」
「ないよ」
あっさり! じゃあ、あのビーノは何者?
「厳密には幾つか種類があるんだよ。125ccモデルもあるな。だけど、あのビーノは50ccモデルだから、それ以上のは無い。とはいえ、所有者は妹だし、聞いてみんことには分からん。でも、買ったときから黄色だったらしいけどな。中古車だから、前の所有者が何かしたんじゃないの? 知らんけどさ」
なるほど。
気にしても仕方ないか。あくまで俺は借りただけで所有者ではないんだから……。
まあ、もう乗ることは無いだろう。いや、無いことを祈りたい。
職員室を後にし、部室に戻って執筆を続けていた。
突然、やや乱暴に扉がノックされた。
「失礼しまーす!」
そして、扉が開いた。
「金山くん、どういうこと?」
「説明求む!」
「驚いちゃったよ」
その途端数人なだれ込んできた。えっ? 何?
というか、もう15時か。
こんな時間になってるなんて、全然気付かなかった……。
やって来たのは、
「えっと。俺は何を言えば良いの?」
「「「バイクに乗ってた話」」」
おお。3人ハモった。
って感動している場合じゃない。
「そりゃあ。運転免許持ってますから……」
そう言い、財布から取り出した免許証を見せる。
「本物だ……」
「免許持ってるんだね。知らなかった」
「いつの間に……」
無免許でバイクに乗ったら、普通に捕まるからね。
……実は、帰り道で警察に止められている。
飲酒運転の検問で、別に俺が悪いことをして止められた訳ではない。
お巡りさん、制服姿の俺に驚き、バイクが原付二種であることにも驚き、俺がちゃんと免許を持っていることを知って尚驚いていた。無免許運転(純無免・免許外運転)を疑っていたのか、悔しそうな顔をしていた。今思えば、なんか失礼な人だったな……。
飲酒運転の検問って、夜にやるものだと思ってたけど、最近は昼間にやることも多いんだって。
さておき。
「あれ? 部長には言ってあった筈ですよ」
いつの間に、なんて言ってるけど、免許取得前に連絡してある。
「聞いたっけ? ……あれ。そういえば、
「それです」
『免許合宿行ってくるから、年内は部に顔出せません』
って断りを入れたのに……。
定演前で忙しかったとはいえ、聞いていなかったとは。何か悲しい。
話はまだ終わっていないらしい。
「あのバイクは金山くんのなの?」
「いいえ。滝野先生の妹さんのものらしいですよ」
今ので開明先輩が微かに反応した。
確か、トランペットパートの先輩だ。というか、関西大会の日に見てる。
「あー。あの妹さんね……」
「
開明先輩がいかにも、知ってますという反応だったので、犬山さんが喰い付いた。
「まあね。あの人私の家の近くにある酒屋さんで働いてるから……。時々配達してるところに鉢合わせるのよ」
「先輩、酒屋行くんですか?」
「メグちゃん、酒屋って言っても、お酒を買うわけじゃないからね?」
当たり前。それに俺らは未成年だから、そもそも買えない。
「
「確かに……!」
「部長は知ってるんですか?」
「顔を見たことはあるよ。美人だね」
「あ、でもあの人美人だけど、八方美人でもあるので、接するときは要注意だよ」
なるほど。
というか、俺を蚊帳の外に盛り上がってるんだけど……。
まあ良いか。
俺は気にせずに、俺のやることをやるだけ……。
「来年、新しい子達どれくらい入部してくれるかなぁ……?」
「あ。そういえば
夢中で気付かなかったが、いつの間にか話題が変わっていた。
「入部希望者?」
「冬休み明けに私のクラスに編入生が来たのね。自己紹介でトランペット担当してたって言ってた」
なるほど。編入生か。
そう思い、前を見るが、そこに彼女の定位置を姿はない。
確か、今日もバイトのはず……。
この学校にすっかり馴染んでいるらしいが、
普段なら、その定位置で読書しているか、絵を描いている。
「それなら入ってくれるかもね」
「ただ……。男の子なんだよね……」
何か問題が?
「それがどうしたの?」
「いや。今トランペットパートって、3年生の先輩方を除いても5人居るじゃん? コンクールメンバーを選ぶことになった場合、大抵の曲なら5人居れば充分じゃない?」
今年は6人だっけ。
「まあ、確かにね。あの曲だから6人選ばれたようなものだし……」
「今年、うちでメンバー落ちしたの、私1人だけだったけど、今は人数的には丁度足りてるのよ。当然、4月になれば新しい子が入部してくるわけで、その子達の入る余地が無くなっちゃうよね」
「そっかー。でも、それは本人の実力だから」
「私、今から緊張してきました……」
「愛実ちゃんはコンバスだから、メンバー間違いないと思うよ。上手いしね」
そう。
「仮に、メンバー落ちしても、サブメンバーとしてサポートしたりで忙しいんだよ。それもそれで楽しいし」
なるほど。ほたか として支えてきた開明先輩の言葉には重みがあるな。
「仮に、その編入生の子がサブメンバーになっちゃったら、男1人だから不安じゃないですかね?」
ん?
「いや、新しい1年生から出ないとも限らないよ」
「皆さん。俺を忘れてませんかね?」
呆れ口調で言い放つ。
お、3人と目が合った。
「そういえば、金山くん男の子だっけ」
「あんまり異性として意識しないから……。一緒にいても違和感無いし」
マジかよ。そんな認識なのか……。
「付いてるんだよね……?」
ちょっと! 今の誰?
「ちゃんと付いてるからね! 正真正銘男だから。何なら見せようか!」
「見せてくれるの?」
「そこ喰い付かないで。冗談だから!」
この人らの相手、疲れるわ……。
あれ? なにか忘れているような……。
あ!
「そういえば、
カメラの件で一言言っておこうと思ってたんだ。
まあ、先生相手に怒るつもりはないけど。
「黄前先生……?」
「あ、ごめん。
「家近いからそのまま帰ったよ」
「あ、でも、私がカメラと金山くんの話をしたら、あからさまに声震わせながら、帰るって」
逃げられた……。