【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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12-3……前の学校

 

3連休明けの火曜日。

 

朝から部室で執筆していると、扉をノックする音が聞こえた。

 

少し間があったが、開く気配がない。

 

『ノックしたら、返事を待たずに開けて良い』というルールを決めてあるから、開かないということは、吹奏楽部・文芸同好会の関係者ではない。

 

誰だろう?

 

「どうぞ!」

 

扉の向こうに聞こえるように、大きな声で返事をする。

 

「失礼します……」

 

ようやく扉が開く。

 

入ってきたのは……見ない顔、見たことの無い制服だ。

 

女の子……? いや、スラックスだから、男の子だろうか? 見ただけでは断言できない……。

 

「えっと……」

 

あ、この声は男の子で間違いないだろう。

 

しかし、どうすれば良いか困っている様子。

 

……やっぱり見ない顔だ。一体誰だろう?

 

この学校の制服ではないということは、編入生かもしれない。

 

開明(かいめい)先輩が言っていた人か?

 

「もしかして、編入生ですか? 2年4組に来た」

 

編入生がやって来たって。

 

「えっ? 僕のこと知ってるんですか?」

 

やはり。

 

「そういう訳ではないんですが、吹奏楽部の一部で噂になってますからね」

 

「ああ。えっと、噂かどうか知りませんけれど。編入生です。僕は各務原 哀(かかみがはらあい)といいます」

 

じゃあ、各務原先輩だ。

 

もしかしたら、彼も俺と同じような経験があるかもしれない。

 

「俺は文芸同好会の金山(かなやま) はるかです。吹奏楽部の副々部長も務めています」

 

「そうなんだ……。ここ、文芸同好会の筈なのに、吹奏楽部で噂になってるって、どういうことだと思ったよ。えっと、よろしくお願いします」

 

やっぱり。

 

名前でいつもの反応を示さなかった。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

「ところで、ここへは何をしに?」

 

文芸同好会へ入部希望、というわけではないだろう。まあ、聞くだけ聞いてみるか。

 

「我が文芸同好会に入部希望ですか?」

 

「そうか……。それも選択肢だねぇ。どうしよう?」

 

そこ、なぜ迷う!

 

「いやいやいや。冗談ですよ。先輩は吹奏楽部に入部するんですよね?」

 

慌てて訂正するも、先輩は満更でもなさそう。

 

それになんだか、ホッとしたような表情をしている。

 

「何かあったんですか?」

 

その顔で何も思わないほど、俺も鈍くはない。詳しいことは不明だが、何か悩んでいることがあるのは確かだろう。

 

はっとした顔でこちらを見ている。

 

「俺で良ければ相談にのりますよ。表の看板見ましたよね?」

 

黄前金山相談所』

 

「看板……。そういうことなんだね。実は……」

 

 

 

各務原先輩が言ったことを纏めると、次の通りだ。

 

 前に在籍していた学校の吹奏楽部も、北宇治同様コンクールメンバーを、オーディション形式で選んでいた。

 

 各務原先輩はトランペット経験が長く上手いため、1年生ながら3年生を差し置いてメンバーに選ばれた。

 

 それをよく思わない人が居たけれど、コンクールのためだと理解してくれる人も居た。

 

 しかし、コンクールが地区大会ダメ金で終わると、『こうなるのなら、思い出作りとして、先輩方に出場してもらう方が良かった』という声が多くなり、孤立してしまった。

 

 それ以降、パート連の部屋を教えてくれなかったり、わざと違う曲を演奏させたり、嫌がらせを受けた。

 

 嫌気が差し吹奏楽部を退部した。

 

 

 

「そういうことですね……。事情はなんとなく分かりました」

 

先輩が吹奏楽部に入るか決めかねている理由はそれか。

 

「でも、それだけですよね?」

 

「だけって……。そうだけど」

 

ちょっと不服そうな声になった。

 

確かに、悩んだ末に退部しているのに、その理由を『だけ』で一蹴されたら誰だってそう思うだろう。

 

でも……。

 

「ここにあるのは北宇治高校吹奏楽部です。前の学校の吹奏楽部ではありません」

 

「は?」

 

「嫌がらせをしていた人は居ません。みんな『全国大会金賞』を目標に頑張っています。『学年関係なく、上手い子が出場するべき』、殆どの人がそう思っています。残念ながら、全員とは断言できませんが」

 

苦笑い。

 

つられて先輩も苦笑い。

 

顔色が明らかに変わった。良い意味で。

 

「さっき、一瞬ポケットのスマホが見えましたけれど、そのストラップ、トランペットですよね」

 

「……うん」

 

「前の学校の吹奏楽部が嫌いになったんだとしても、トランペットを嫌いになったわけではありませんよね?」

 

「うん!」

 

良い顔だ。

 

「答えは出ましたね? 直接行きづらかったら、俺が仲介しましょうか? 一応、副々部長ですから」

 

「……いや、自分で行くよ。音楽……」

 

『始業時刻5分前です』

 

あ、やべ。もう授業始まるじゃんか。

 

「今行くべきは教室でしたね……」

 

顔を見合わせ再び苦笑い。

 

そして、鞄片手に部室を飛び出す。

 

 

 

「お前ら、廊下は走るな!」

 

揃って松本(まつもと)先生に怒られた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、各務原先輩が吹奏楽部に入部したという話が流れてきた。

 

数人から「金山くん、何かしたの?」と、聞かれたが「別に……」と言って誤魔化した。

 

 

しかし、新年早々市民病院まで走ったり、先輩の相談にのったり。今年も去年みたいに俺の出番は多そうだ……。

 

 





この章は繋ぎ のつもりなので、短いですがこれにて終わりです。

いよいよ卒業式に突入します。

今後ともよろしくお願いいたします。
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