【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
3連休明けの火曜日。
朝から部室で執筆していると、扉をノックする音が聞こえた。
少し間があったが、開く気配がない。
『ノックしたら、返事を待たずに開けて良い』というルールを決めてあるから、開かないということは、吹奏楽部・文芸同好会の関係者ではない。
誰だろう?
「どうぞ!」
扉の向こうに聞こえるように、大きな声で返事をする。
「失礼します……」
ようやく扉が開く。
入ってきたのは……見ない顔、見たことの無い制服だ。
女の子……? いや、スラックスだから、男の子だろうか? 見ただけでは断言できない……。
「えっと……」
あ、この声は男の子で間違いないだろう。
しかし、どうすれば良いか困っている様子。
……やっぱり見ない顔だ。一体誰だろう?
この学校の制服ではないということは、編入生かもしれない。
「もしかして、編入生ですか? 2年4組に来た」
編入生がやって来たって。
「えっ? 僕のこと知ってるんですか?」
やはり。
「そういう訳ではないんですが、吹奏楽部の一部で噂になってますからね」
「ああ。えっと、噂かどうか知りませんけれど。編入生です。僕は
じゃあ、各務原先輩だ。
もしかしたら、彼も俺と同じような経験があるかもしれない。
「俺は文芸同好会の
「そうなんだ……。ここ、文芸同好会の筈なのに、吹奏楽部で噂になってるって、どういうことだと思ったよ。えっと、よろしくお願いします」
やっぱり。
名前でいつもの反応を示さなかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで、ここへは何をしに?」
文芸同好会へ入部希望、というわけではないだろう。まあ、聞くだけ聞いてみるか。
「我が文芸同好会に入部希望ですか?」
「そうか……。それも選択肢だねぇ。どうしよう?」
そこ、なぜ迷う!
「いやいやいや。冗談ですよ。先輩は吹奏楽部に入部するんですよね?」
慌てて訂正するも、先輩は満更でもなさそう。
それになんだか、ホッとしたような表情をしている。
「何かあったんですか?」
その顔で何も思わないほど、俺も鈍くはない。詳しいことは不明だが、何か悩んでいることがあるのは確かだろう。
はっとした顔でこちらを見ている。
「俺で良ければ相談にのりますよ。表の看板見ましたよね?」
『黄前金山相談所』
「看板……。そういうことなんだね。実は……」
各務原先輩が言ったことを纏めると、次の通りだ。
前に在籍していた学校の吹奏楽部も、北宇治同様コンクールメンバーを、オーディション形式で選んでいた。
各務原先輩はトランペット経験が長く上手いため、1年生ながら3年生を差し置いてメンバーに選ばれた。
それをよく思わない人が居たけれど、コンクールのためだと理解してくれる人も居た。
しかし、コンクールが地区大会ダメ金で終わると、『こうなるのなら、思い出作りとして、先輩方に出場してもらう方が良かった』という声が多くなり、孤立してしまった。
それ以降、パート連の部屋を教えてくれなかったり、わざと違う曲を演奏させたり、嫌がらせを受けた。
嫌気が差し吹奏楽部を退部した。
「そういうことですね……。事情はなんとなく分かりました」
先輩が吹奏楽部に入るか決めかねている理由はそれか。
「でも、それだけですよね?」
「だけって……。そうだけど」
ちょっと不服そうな声になった。
確かに、悩んだ末に退部しているのに、その理由を『だけ』で一蹴されたら誰だってそう思うだろう。
でも……。
「ここにあるのは北宇治高校吹奏楽部です。前の学校の吹奏楽部ではありません」
「は?」
「嫌がらせをしていた人は居ません。みんな『全国大会金賞』を目標に頑張っています。『学年関係なく、上手い子が出場するべき』、殆どの人がそう思っています。残念ながら、全員とは断言できませんが」
苦笑い。
つられて先輩も苦笑い。
顔色が明らかに変わった。良い意味で。
「さっき、一瞬ポケットのスマホが見えましたけれど、そのストラップ、トランペットですよね」
「……うん」
「前の学校の吹奏楽部が嫌いになったんだとしても、トランペットを嫌いになったわけではありませんよね?」
「うん!」
良い顔だ。
「答えは出ましたね? 直接行きづらかったら、俺が仲介しましょうか? 一応、副々部長ですから」
「……いや、自分で行くよ。音楽……」
『始業時刻5分前です』
あ、やべ。もう授業始まるじゃんか。
「今行くべきは教室でしたね……」
顔を見合わせ再び苦笑い。
そして、鞄片手に部室を飛び出す。
「お前ら、廊下は走るな!」
揃って
後日、各務原先輩が吹奏楽部に入部したという話が流れてきた。
数人から「金山くん、何かしたの?」と、聞かれたが「別に……」と言って誤魔化した。
しかし、新年早々市民病院まで走ったり、先輩の相談にのったり。今年も去年みたいに俺の出番は多そうだ……。
この章は繋ぎ のつもりなので、短いですがこれにて終わりです。
いよいよ卒業式に突入します。
今後ともよろしくお願いいたします。