【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
お待たせしております。新章です。
卒業式に向けて突っ走ります。
試験的に、注釈のタグを使ってみました。気になる点等ありましたら、教えていただけると有り難いです。
13-1……卒部式
3年生の先輩方のセンター試験等が一段落した頃。
全員の都合が良い日を選んで、卒部式が行われる。
放課後の音楽室にて、1・2年生が3年生を送り出す、というもので、全部員と顧問の先生が参加する。
俺も部員である以上、当然参加するし準備もあるんだけど、俺に任されたのはまさかの『買い物』だった。
何で俺が? とは思ったが、
要は、
因みに、その時職員室に滝野先生は居なかった。まあ、確かにあのビーノ(バイク)の出自は謎だらけ……。
そんなわけで、飲み物やらお菓子やら……近くのスーパーへ買い出しに行ってきた。なお、それは昨日。
「それでは、卒業生の入場です!」
司会担当の
すると、3年生の先輩方が順に入場してくる。
それを拍手で迎える。
「
「もう? 早いよ」
もう泣いている人も……。まあ、仕方ないか。お世話になった先輩なんだから。
普段、あまり音楽室に来ないけれど、こうして飾り付けられた室内を見渡すと、非日常感が嫌でも伝わってくる。別に嫌ではないけれど……。
ビンゴゲームにじゃんけん大会、普段の練習風景を撮った写真の上映。プログラムが滞りなく進んでゆく。
懐かしい写真を見ると、今年起きた出来事が、走馬灯のように流れてくる。いや、走馬灯じゃあ俺死んじゃうじゃん。違う。
……おい! 誰だよ。俺がコンバス抱えて新幹線で寝てる写真なんか使ったの。
みんなに笑われてしまったじゃないか。まあ、明らかな合成写真だったけどねぇ。
劇が始まる。
それぞれのテーブルの間をぬって、飲み物・お菓子の補充や空き容器の回収を行う。
「
「サンキュー」
所々で労いの言葉も貰う。
「こいつの命がどうなってもいいのかぁ!」
急に、後ろから抱きつかれた。
「まて! 早まるな!」
おいおい。劇に巻き込まれたんですが……。
俺人質? というか、この劇そんな内容だった記憶ないけど。脚本書いたの俺だし。
「お疲れ様」
廊下の水道で空になったペットボトルを洗っていると、
しかし、俺の隣に立つ。
「どうしました?」
手を止める。
先輩の顔は、なんとなく赤い。
「
別に勧誘したわけではない。相談に来たから応じたら、結果的に入部することになっただけ。
「何か噂話でもあるんですか?」
「そういう訳じゃないけどね、こういう時って、大抵金山くんが絡んでるよね。だから」
鋭い。
「で、どうなの?」
「ノーコメントでお願いします……」
「隠しても無駄だよ?」
えっ?
「
マジか。
「その彼がこうして吹部に入ってくれたんだから、金山くんには本当に感謝してるよ。いつもありがとう」
先輩は微笑みこう言った。
今更こういう風に言われると、なんか恥ずかしい。
俺まで顔が赤くなりそう。
「それでね、金山くん」
先輩が背を向けたので話が終わったんだと思い、蛇口を捻り、水を出してしまったけど、まだのようだ。
顔を上げると、こちらに向き直っていた。
「前にも聞いたけど。金山くんって、付き合ってる子いるの?」
これは聞かれたっけ? まあ良い。
「居ませんよ」
「好きな女の子は?」
これは前にも聞かれたな。
「同じく、ですけど……」
若林先輩は、前と同じ真剣な表情で、しかし少し赤い顔で俺を見ている。
「私ね、金山くんのことが……」
「みち*1? そろそろ出番だよ?」
何かを言いかけたところで、音楽室から加納先輩が顔を出した。
「あ……うん。今行く。それじゃあ、金山くん、続きはまた今度話すね」
そう言って音楽室に駆け込んで行った。
一体、何を言いかけたのだろう?
3年生による演奏。『ルパン三世のテーマ』だ。厳密には、『ルパン三世'80』が正しいらしい。
限られた時間の中で、3年生だけが集まって練習したものだ。
それでも聞いていると、しっかり練習していたことが分かる。去年の文化祭で演奏した曲らしく、体で覚えているのだろう。
流石3年生。
演奏が終わると、
「今年度は、本当に色々なことが起こりました。それでも、こうして卒部式を無事に迎えることが出来ました。今となっては良い思い出ですし、かけがえのないものです。先輩たちと過ごした中で、様々なことを学びました。来年は必ず、金賞に行って全国をとりたい……」
「それ逆」
盛大に間違えた。
3年生がたまらず噴き出した。
1・2年生も笑っている。声には出さないが、数人肩が震えている。
「……」
「あー。えっと……」
元々緊張していたのだろう。顔を真っ赤にして何も言えなくなった榎戸先輩に代わり、白沢先輩が続ける。
「必ず全国大会に出場し、金賞をとりたいと思います。その決意を込め、この曲を送ります」
それぞれ持ち場につく。
俺は、というと、カメラ係としてこの模様を撮影している
指揮者の
振り向き、手を上げ、振りおろす。
曲はもちろん『うさぎの駆ける道』。コンクールの曲だ。
聞き慣れたこの曲を聞きながら、カメラを構える。
聞き慣れているからこそ、物足りなさを感じる。3年生が抜けたのは大きいと、改めて実感した。
トランペットのソロだ。
ふと、加納先輩の手元に目がゆく。
「……っ!」
声が出そうになり、慌てて口を抑えた。
先輩の指が動いている。恐らく、いや間違いなく、ソロパートの指使いだろう。
『私、ソロを吹くつもりはなかったの。でも、かわいい後輩からあんなに強く言われたら、吹けるなら吹きたい、って思い直した』
加納先輩に言われた言葉を思い出し、目頭が熱くなる。
ダメだ泣きそう。というか、もう泣いてる。写真撮らなきゃいけないのに。
どうにもならないから、そのまま写真を撮り続けた。
先輩方に驚かれたのは言うまでもなく……。
演奏が終わる。
盛大な拍手が捧げられる。
3年生23人と先生3人、たった26人からの拍手なのに、今まで聞いたどんな拍手よりも大きく、力強いものに感じた。
「そっち持ってる?」
「良いよ。外して」
「ゴミ袋はどこ?」
卒部式が終わった。
もちろん、明日からも授業があるので音楽室をもとに戻さなければならない。
1・2年生総出で片付け中。
「金山、居る?」
音楽室の扉が開き、滝野先生が入ってきた。
「何でしょう?」
「ちょっと、御使い頼まれてくれん?」
御使い? 面倒な話じゃないのか?
「
黄前先生を……。
「迎えにって、ビーノで?」
「うん。貸すから」
待て待て。先生肝心なこと忘れてるぞ。
「滝野先生、俺免許取って1年未満ですよ。2人乗りしたら捕まります」
あのバイクは原付二種だから、車両上2人乗りしても問題はない。しかし、俺がまだ免許取得後1年未満なので、2人乗りは違法になる。
「あ……。そういえばそうだっけ。悪い、忘れてた」
「全く。気を付けてくださいよ。まさか、先生も無免許って言いませんよね?」
「それは大丈夫だよ。俺に乗れない車は無い。……乗りたくない車はあるけどさ」
乗りたくない車?
「それは?」
「口車」
……。
…………。
なんだかんだ騒がしかった室内が、一瞬で静まり返った。
「今頼んだことは忘れてくれ。自分で行ってくるよ」
そう言い滝野先生は音楽室を出ていった。
今のは一体何だったんだろう?
これ、駅まではるか が運転し、帰りは久美子が運転すれば問題無いですよね……。と、思ったのですが、設定上久美子は普通免許しか持っていないので、そもそもあのバイクを運転出来ません……。
車やバイクを運転される皆様、安全運転に心掛けましょう。