【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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お待たせしております。新章です。

卒業式に向けて突っ走ります。

試験的に、注釈のタグを使ってみました。気になる点等ありましたら、教えていただけると有り難いです。




13……卒業の時
13-1……卒部式


 

3年生の先輩方のセンター試験等が一段落した頃。

 

全員の都合が良い日を選んで、卒部式が行われる。

 

放課後の音楽室にて、1・2年生が3年生を送り出す、というもので、全部員と顧問の先生が参加する。

 

俺も部員である以上、当然参加するし準備もあるんだけど、俺に任されたのはまさかの『買い物』だった。

 

何で俺が? とは思ったが、(たき)先生から「今まで顧問が車を出す、という形で手伝っていましたが、全て生徒だけで行う、というのは素晴らしいと思います。私は生徒の自主性を重んじることをモットーとしていますからね」何て言われたら、断れるわけがない。

 

要は、滝野(たきの)先生(の妹さん)のビーノで買い出しに行けってことらしい。

 

松本(まつもと)先生にも、「金山ならなんの心配もいらないな。強いて言うなら、使う滝野先生のバイクの出所位だな」と言われている。

 

因みに、その時職員室に滝野先生は居なかった。まあ、確かにあのビーノ(バイク)の出自は謎だらけ……。

 

そんなわけで、飲み物やらお菓子やら……近くのスーパーへ買い出しに行ってきた。なお、それは昨日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、卒業生の入場です!」

 

司会担当の犬山(いぬやま)さんの声で、一色(いっしき)さんが扉を開く。

 

すると、3年生の先輩方が順に入場してくる。

 

それを拍手で迎える。

 

加納(かのう)先輩……」

 

「もう? 早いよ」

 

もう泣いている人も……。まあ、仕方ないか。お世話になった先輩なんだから。

 

普段、あまり音楽室に来ないけれど、こうして飾り付けられた室内を見渡すと、非日常感が嫌でも伝わってくる。別に嫌ではないけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

ビンゴゲームにじゃんけん大会、普段の練習風景を撮った写真の上映。プログラムが滞りなく進んでゆく。

 

懐かしい写真を見ると、今年起きた出来事が、走馬灯のように流れてくる。いや、走馬灯じゃあ俺死んじゃうじゃん。違う。

 

……おい! 誰だよ。俺がコンバス抱えて新幹線で寝てる写真なんか使ったの。

 

みんなに笑われてしまったじゃないか。まあ、明らかな合成写真だったけどねぇ。

 

 

 

 

 

劇が始まる。

 

それぞれのテーブルの間をぬって、飲み物・お菓子の補充や空き容器の回収を行う。

 

金山(かなやま)くんありがとう」

 

「サンキュー」

 

所々で労いの言葉も貰う。

 

「こいつの命がどうなってもいいのかぁ!」

 

急に、後ろから抱きつかれた。

 

「まて! 早まるな!」

 

おいおい。劇に巻き込まれたんですが……。

 

俺人質? というか、この劇そんな内容だった記憶ないけど。脚本書いたの俺だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

廊下の水道で空になったペットボトルを洗っていると、若林(わかばやし)先輩が出てきた。トイレだろうか。

 

しかし、俺の隣に立つ。

 

「どうしました?」

 

手を止める。

 

先輩の顔は、なんとなく赤い。

 

各務原(かかみがはら)くん。金山くんが勧誘したって本当?」

 

各務原(かかみがはら)先輩を?

 

別に勧誘したわけではない。相談に来たから応じたら、結果的に入部することになっただけ。

 

「何か噂話でもあるんですか?」

 

「そういう訳じゃないけどね、こういう時って、大抵金山くんが絡んでるよね。だから」

 

鋭い。

 

「で、どうなの?」

 

「ノーコメントでお願いします……」

 

「隠しても無駄だよ?」

 

えっ?

 

各務原(かかみがはら)くん、前は滋賀の愛荘(あいしょう)高校に居たんだよ。その学校に大会で知り合った友達が居て、何があったか聞いてるからね」

 

マジか。

 

「その彼がこうして吹部に入ってくれたんだから、金山くんには本当に感謝してるよ。いつもありがとう」

 

先輩は微笑みこう言った。

 

今更こういう風に言われると、なんか恥ずかしい。

 

俺まで顔が赤くなりそう。

 

 

 

「それでね、金山くん」

 

先輩が背を向けたので話が終わったんだと思い、蛇口を捻り、水を出してしまったけど、まだのようだ。

 

顔を上げると、こちらに向き直っていた。

 

「前にも聞いたけど。金山くんって、付き合ってる子いるの?」

 

これは聞かれたっけ? まあ良い。

 

「居ませんよ」

 

「好きな女の子は?」

 

これは前にも聞かれたな。

 

「同じく、ですけど……」

 

若林先輩は、前と同じ真剣な表情で、しかし少し赤い顔で俺を見ている。

 

「私ね、金山くんのことが……」

 

「みち*1? そろそろ出番だよ?」

 

何かを言いかけたところで、音楽室から加納先輩が顔を出した。

 

「あ……うん。今行く。それじゃあ、金山くん、続きはまた今度話すね」

 

そう言って音楽室に駆け込んで行った。

 

一体、何を言いかけたのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

3年生による演奏。『ルパン三世のテーマ』だ。厳密には、『ルパン三世'80』が正しいらしい。

 

限られた時間の中で、3年生だけが集まって練習したものだ。

 

それでも聞いていると、しっかり練習していたことが分かる。去年の文化祭で演奏した曲らしく、体で覚えているのだろう。

 

流石3年生。

 

 

 

演奏が終わると、榎戸(えのきど)部長からの挨拶が始まる。

 

「今年度は、本当に色々なことが起こりました。それでも、こうして卒部式を無事に迎えることが出来ました。今となっては良い思い出ですし、かけがえのないものです。先輩たちと過ごした中で、様々なことを学びました。来年は必ず、金賞に行って全国をとりたい……」

 

「それ逆」

 

盛大に間違えた。

 

白沢(しらさわ)副部長がすかさず突っ込む。

 

3年生がたまらず噴き出した。

 

1・2年生も笑っている。声には出さないが、数人肩が震えている。

 

「……」

 

「あー。えっと……」

 

元々緊張していたのだろう。顔を真っ赤にして何も言えなくなった榎戸先輩に代わり、白沢先輩が続ける。

 

「必ず全国大会に出場し、金賞をとりたいと思います。その決意を込め、この曲を送ります」

 

それぞれ持ち場につく。

 

俺は、というと、カメラ係としてこの模様を撮影している住吉(すみよし)さんに代わり、カメラ係となる。彼女も演奏するからだ。

 

指揮者の各務原(かかみがはら)先輩が前に立ち、住吉さんがスタンバイしたのを見届けると、3年生の側に一礼。

 

振り向き、手を上げ、振りおろす。

 

 

 

曲はもちろん『うさぎの駆ける道』。コンクールの曲だ。

 

聞き慣れたこの曲を聞きながら、カメラを構える。

 

聞き慣れているからこそ、物足りなさを感じる。3年生が抜けたのは大きいと、改めて実感した。

 

 

 

トランペットのソロだ。

 

ふと、加納先輩の手元に目がゆく。

 

「……っ!」

 

声が出そうになり、慌てて口を抑えた。

 

先輩の指が動いている。恐らく、いや間違いなく、ソロパートの指使いだろう。

 

『私、ソロを吹くつもりはなかったの。でも、かわいい後輩からあんなに強く言われたら、吹けるなら吹きたい、って思い直した』

 

加納先輩に言われた言葉を思い出し、目頭が熱くなる。

 

ダメだ泣きそう。というか、もう泣いてる。写真撮らなきゃいけないのに。

 

どうにもならないから、そのまま写真を撮り続けた。

 

先輩方に驚かれたのは言うまでもなく……。

 

 

 

演奏が終わる。

 

盛大な拍手が捧げられる。

 

3年生23人と先生3人、たった26人からの拍手なのに、今まで聞いたどんな拍手よりも大きく、力強いものに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっち持ってる?」

 

「良いよ。外して」

 

「ゴミ袋はどこ?」

 

卒部式が終わった。

 

もちろん、明日からも授業があるので音楽室をもとに戻さなければならない。

 

1・2年生総出で片付け中。

 

「金山、居る?」

 

音楽室の扉が開き、滝野先生が入ってきた。

 

「何でしょう?」

 

「ちょっと、御使い頼まれてくれん?」

 

御使い? 面倒な話じゃないのか?

 

六地蔵(ろくじぞう)駅まで黄前(おうまえ)迎えに行って欲しいんだよ」

 

黄前先生を……。

 

「迎えにって、ビーノで?」

 

「うん。貸すから」

 

待て待て。先生肝心なこと忘れてるぞ。

 

「滝野先生、俺免許取って1年未満ですよ。2人乗りしたら捕まります」

 

あのバイクは原付二種だから、車両上2人乗りしても問題はない。しかし、俺がまだ免許取得後1年未満なので、2人乗りは違法になる。

 

「あ……。そういえばそうだっけ。悪い、忘れてた」

 

「全く。気を付けてくださいよ。まさか、先生も無免許って言いませんよね?」

 

「それは大丈夫だよ。俺に乗れない車は無い。……乗りたくない車はあるけどさ」

 

乗りたくない車?

 

「それは?」

 

「口車」

 

……。

 

…………。

 

なんだかんだ騒がしかった室内が、一瞬で静まり返った。

 

「今頼んだことは忘れてくれ。自分で行ってくるよ」

 

そう言い滝野先生は音楽室を出ていった。

 

 

 

今のは一体何だったんだろう?

 

 

 

*1
若林 未知流みちるを指す、加納が付けた愛称。





これ、駅まではるか が運転し、帰りは久美子が運転すれば問題無いですよね……。と、思ったのですが、設定上久美子は普通免許しか持っていないので、そもそもあのバイクを運転出来ません……。

車やバイクを運転される皆様、安全運転に心掛けましょう。
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