【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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13-3……終業式と離任式 今までありがとうございました!

 

卒業式からおよそ3週間。今日、終業式と離任式が行われる。

 

これで今年度が終わる。

 

入学式から始まり、次の日の朝、吹奏楽部部長の加納(かのう)先輩と副部長の堀田(ほりた)先輩に出会い。

 

文芸同好会に入部しようとしたら、部員がおらず集めることになり。

 

無事に部員が揃うも、顧問の園田(そのだ)先生が前年まで吹奏楽部の顧問だった縁と、部長・副部長と知り合っていた縁で、吹奏楽部の手伝いをして、その流れで吹奏楽部にも入部。

 

サンフェス・府大会・夏休みの合宿、関西大会と経て、藤浪(ふじなみ)先輩の離脱、全国大会……。

 

濃い……。濃すぎる一年だった。

 

学校が終わっても、『一年』という括りで見ればまだ1週間残っている。

 

これ以上、本当になにも起きなければ良いんだけど。

 

残念ながら、そうもいかないのがお約束……。

 

 

 

 

 

終業式。

 

『只今より、令和九年度三学期終業式を開始します』

 

教頭先生が登壇して開会を宣言する。

 

心なしか、いつもより声が体育館に響いた。

 

それもそのはず。後ろを振り向けば分かる通り、三年生が居ない。

 

 

 

『校歌斉唱』

 

今度は、(たき)先生と松本(まつもと)先生が登壇。

 

滝先生がピアノに座り、松本先生が指揮者として、前に立つ。

 

この珍しい光景に、回りが(にわか)にざわめいた。

 

手を構える松本先生は幾分険しい顔。うるさいからだろうか。

 

しかし、これはある程度仕方ないと思う。

 

(あの時はまだ名前を知らなかったけど、)入学式の国歌・校歌斉唱は、指揮が滝先生で伴奏は松本先生だった。

 

それ以降も、始業式・終業式では、指揮が滝先生か黄前(おうまえ)先生、伴奏は松本先生か園田先生だった。

 

つまり、今壇上の光景はこれまでとは逆。

 

普段見ない光景ゆえに、騒がしくなったのは仕方ないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

校歌を歌い終えれば(松本先生は終始険しい表情のままだった……)、校長先生からの、有り難くながーいお話が待っている。

 

もう、閉会まで全員で行うことは無いので、既に眼を(つむ)っている人もいる。寝るの早いな……。

 

まあ、何の話をしていたか、後で聞かれることも無いから、話を聞いてなくても不都合はない(と思う)。

 

 

 

『さて。これで長かった一年が終わります。今年一年何がありましたか? そう尋ねれば、色々な返答があると思います』

 

その通り……。

 

『誰。と、一人の生徒を名指しするつもりはありませんが、その子にはこの一年、様々な苦労をかけることになりました』

 

……俺?

 

『彼の活躍のお陰で、今があるようなものです。ありがとう』

 

ちょっと大袈裟だけど、俺の話みたいだ。

 

『話は変わりますが、今年は吹奏楽部が大活躍してくれました』

 

話変わってない! 続けて話したら、尚俺のことだって強調されるじゃん……。

 

「ん?」

 

ほら見たことか。

 

隣の紅葉(くれは)が肘で俺をつつく。

 

指で前を指してから俺を指す。暗に俺の話か尋ねているのだろう。

 

しかし確証は無いので、両手を上げ首を(かし)げて見せた。

 

 

 

いつの間にか、校長先生の話が終わり、今度は部活動の表彰が行わていれる。

 

吹奏楽部は、全国大会に出場し銀賞だったことが発表される。

 

代表として登壇したのは部長の榎戸(えのきど)先輩だ。

 

ステージに登壇した中に、(たくみ)の姿もある。

(やり)投げ、大会新記録で優勝だって。そんな話聞いていない。

 

と、言ったところで最近話す機会もなかったから仕方無いか……。

 

 

 

 

 

終業式が終われば、そのまま離任式に移る。

 

『それでは、この度本校を去ることになりました先生方、前へご参集ください』

 

体育館各所に待機している先生方が歩き出す。

 

離任して行く先生を俺たち生徒は知らないから、館内からざわめきが起こる。

 

「え……」

 

俺も思わず声に出てしまった。

 

「それでは、登壇してください」

 

教頭先生の合図で、先生方が順にステージへ上がり、椅子に腰掛ける。

 

その中に、黄前先生の姿もあるからだ……。

 

 

 

『次は、塚本 久美子(つかもとくみこ)先生です』

 

驚きのあまり、他の先生の挨拶が全く耳に入らないまま、黄前先生の順番が回ってきた。

 

「えっと。この度この学校を去ることになりました、黄前……じゃない、塚本 久美子です」

 

もはやお決まり。未だに旧姓で名乗るんだよね……。黄前先生は。

 

と、言ってる俺もそうか。

 

「在籍4年間で、うち3年ほど産休だったので、皆さんと一緒に過ごした時間は僅かでした」

 

考えてみれば、1年生から3年生まで、全員半年間だけお世話になっている。

 

4年居た先生で、これは珍しいのではないか?

 

「えっと、私はあまり洒落たことを言うのが得意ではないので、別れの挨拶代わりに1曲、演奏したいと思います」

 

演奏?

 

すると、ステージ脇から園田先生が楽器を持って現れる。ユーフォニアムだ。

 

あれって、準備室の保管スペースにあり、年代物だからか今年は誰も使わなかった奴じゃないか……!

 

使っていない割には綺麗にされてると思ってたら、黄前先生が使っていたのか……。

 

 

♪~

 

 

 

 

何だろう?

 

聞いたことの無い曲だけど、懐かしく感じる曲だ。

 

回りを見渡しても、皆聞き入っている。

 

目を閉じている人も。あ、あれは単に寝ているだけか……。

 

 

 

演奏が終わった。

 

なんというか、もっと聞いていたかったという余韻が残る曲だった。

 

「今の曲は、『響け! ユーフォニアム』という、卒業した先輩からもらった曲です。それでは皆さん、お元気で」

 

それだけ言うと、先生が一礼して椅子に戻った。

 

一瞬、体育館じゅうが静かになり、遅れて拍手が起こった。

 

 

 

「えっと。こんな空気の中、話すのはとてもハードルが高いですが。江南 亜美(こうなんあみ)です」

 

江南先生も離任されるんだ……。

 

正直、よく分からない先生だった。

 

「私の得意なこと、と言っても、体育館内で円盤(えんばん)投げや槍投げをやろうものなら、壁や床に穴が開く大惨事になるので、止めておきます」

 

壁や床だけでなく、俺たち生徒にも穴が開きます。止めてください。

 

「陸上部のみんなは、大会で会いましょう。会えるように頑張ってください。ありがとう」

 

やっぱりよく分からない先生だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

離任式が終われば、教室に戻ってHR。

 

通知表を貰い、連絡事項等を聞いて、クラス解散式を行えば終わりだ。

 

打ち上げ? 参加している暇はない。俺は忙しいので。

 

 

 

『職員室』

 

「失礼します。1-2金山です。文芸同好会の部室の鍵を借りに来ました」

 

「あ、鍵なら加木屋(かぎや)さんが持っていったよ」

 

いつも通り。今日が終業式でも、離任式があっても。この部屋はいつも通りだ。

 

それでも、所々荷物が纏めてあったり、片付いている机があり、去って行く先生の存在を感じずにはいられない。

 

「失礼しました」

 

先輩が鍵を持っていったことを教えてもらったので、もうこの部屋に用はない。

 

速やかに退室する。

 

 

 

職員室を出て部室へ向かう。

 

この時間となると、もう帰っているか、まだ残っているかどちらかなので、校舎内は静かだ。

 

「ありがとうございました!」

 

「頑張って!」

 

「先生もお元気で」

 

渡り廊下まで来ると、先生に見送られて下校する生徒がちらほら。

 

 

 

『図書館閉架書庫室』

 

ノックし、扉を開く。

 

「失礼します」

 

「ああ、お疲れ」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

声を掛けると、聞き慣れた返事が来る。

 

それを聞きながら入室。

 

滝野(たきの)先生、黄前先生、そして加木屋先輩。

 

この部屋のメンバーが揃っている。

 

しかし、この光景も見納めだ。

 

「黄前先生、短い間でしたがありがとうございました!」

 

黄前先生は転勤される。

 

だから、会うのは最後になるだろう……。

 

「どういたしまして。まぁ、引っ越すわけじゃないから、いつでも会いに来てよ」

 

「えっ?」

 

思わず、驚きの声が漏れた。引っ越さないって?

 

「金山くん。私が次に行く学校、知らないの? 教頭先生言ってたのに」

 

「いや。聞いていたとは思います。ただ、驚きのあまり耳に入ってきませんでした……」

 

「それはそれで嬉しいけど……。ダメだよ、ちゃんと聞いてなきゃ。この先困るのは金山くんだよ。ね、滝野先輩」

 

「先輩言うな。あ、因みに黄前が行くのは、城西だよ」

 

市内じゃないか。むしろ、黄前先生としては通勤距離が今より短くなると思う。

 

「今度来る先生は、ちょっと厳しいけど優しい先生だから、よろしくね」

 

「黄前先生知ってるんですか?」

 

「うん。私の大学時代の先輩だよ」

 

大学生の頃の先輩か。

 

名和(なわ)先生か。確かに良い先生だよ」

 

滝野先生も知っているらしい。

 

「まあ、私も今度は吹奏楽部の顧問を任されるみたいだから、金山くんとは大会で会えるかもね」

 

大会でって。確かに俺は吹奏楽部の一員だけど。

 

「それじゃあライバルじゃないですか。滝先生と松本先生の。あ、あと園田先生も」

 

今まで一緒に頑張ってきた仲間が、今度は敵になる。教師というのは辛い仕事かもしれない……。

 

「まあね。でも、先生ってそんなものだと思うよ。さてと。色々とやることがあるから私はこれにて失礼。いつでも会いに来てよって言った手前変だけど、元気でね」

 

そう言って黄前先生が部室を出て行く。

 

「「今までありがとうございました!」」

 

見送る声は、加木屋先輩と重なった。

 

 

 

 

 

滝野先生も退室し、俺と先輩の2人が残った。

 

立ったままというのも変なので、いつもの椅子に腰かけた。

 

「しかしまあ、金山くんも洒落たことするよね。加納先輩、泣いてたよ」

 

「は?」

 

先輩が唐突に放った言葉に、俺はフリーズした。

 

「ち、ちょっと待ってください。なんで加木屋先輩があの事を知っているんですか?」

 

恐らく。というか、間違いなく。

 

今加木屋先輩が言ったことは、俺が卒業式の日に、この場所に一冊の本を置いたことだろう。

 

加納先輩への卒業記念。俺がそのために書いて、意図せず出版された本となった物語。

 

「さて? 何故でしょう?」

 

それを、この部屋に置き、黄前先生を通じて加納先輩がこの部屋に来るようにお願いした。

 

あの後、先輩には会わなかったけど、後日会った時には受け取ってくれたことを教えてくれた。

 

その事を加納先輩から聞いたのだろうか?

 

「加納先輩、凄く嬉しそうだったねぇ。というか、驚いていたと言うべきかな?」

 

えっ? 嫌な予感……。

 

「ね。金 山人(こがねやまと)先生?」

 

予感通りだった。

 

何時(いつ)気付きました?」

 

「文化祭の冊子の原稿を読んだ時かな? この作風、言い回し。間違いないと思った」

 

やっぱり。

 

あの日、黒田(くろだ)先輩が聞いたという『黄金大和』は『金 山人』で間違いなかった……。あっさり正体を見破られていたのか。

 

「あの後、とある人から間違いないことの確証が得られたから、金山くんが金先生だって分かって接してたよ」

 

マジか。完全にバレていたんじゃないか。原稿読んでもらったのが不味(まず)かったか。

 

……待て。とある人から確証を得たって言った?

 

誰だろう?

 

「先輩、今言った『とある人』って、誰ですか?」

 

「誰だろうね? あ、彼女の名誉のために言っておくけど、加納先輩や園田先生ではないよ」

 

まあそうだろう。

 

俺が金 山人であることを知る人物。家族と園田先生、坂上出版の安曇(あづみ)さん……。そして、この度教えた加納先輩。

 

加納先輩に正体を明かしたのは卒業式の日だから、ついこの間の話。時間が開きすぎている。

 

家族……とは接点無い筈だ。それに、この話を易々教えるわけがない。

 

安曇さん……とも接点無い筈……。

 

消去法でいけば、やっぱり家族だろうか? 近所、同じ町内だし。

 

「分からないの? なら、考えたって無駄だよ?」

 

俺の悩む姿を見て、加木屋先輩は悪戯(いたずら)っぽく微笑んでいる。

 

「まあ、金山くんらしいと言えばそうかもしれないな……」

 

俺らしい?

 

「そういったところも好きなんだよね……」

 

「今何て言いました?」

 

「ん? 何も言ってないよ」

 

 

結局、誰か教えてくれず仕舞いだった……。

 

 

 

 

 

 





お読みいただきありがとうございました。

本編自体はこれで終わりとなります。

とはいえ、これではタイトル回収出来てませんよね。

番外編としてもう一話、卒業式のお話に戻ります。

そちらでタイトル回収しますから、もう少しだけお付き合いください。


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