【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
卒業式からおよそ3週間。今日、終業式と離任式が行われる。
これで今年度が終わる。
入学式から始まり、次の日の朝、吹奏楽部部長の
文芸同好会に入部しようとしたら、部員がおらず集めることになり。
無事に部員が揃うも、顧問の
サンフェス・府大会・夏休みの合宿、関西大会と経て、
濃い……。濃すぎる一年だった。
学校が終わっても、『一年』という括りで見ればまだ1週間残っている。
これ以上、本当になにも起きなければ良いんだけど。
残念ながら、そうもいかないのがお約束……。
終業式。
『只今より、令和九年度三学期終業式を開始します』
教頭先生が登壇して開会を宣言する。
心なしか、いつもより声が体育館に響いた。
それもそのはず。後ろを振り向けば分かる通り、三年生が居ない。
『校歌斉唱』
今度は、
滝先生がピアノに座り、松本先生が指揮者として、前に立つ。
この珍しい光景に、回りが
手を構える松本先生は幾分険しい顔。うるさいからだろうか。
しかし、これはある程度仕方ないと思う。
(あの時はまだ名前を知らなかったけど、)入学式の国歌・校歌斉唱は、指揮が滝先生で伴奏は松本先生だった。
それ以降も、始業式・終業式では、指揮が滝先生か
つまり、今壇上の光景はこれまでとは逆。
普段見ない光景ゆえに、騒がしくなったのは仕方ないと思う。
校歌を歌い終えれば(松本先生は終始険しい表情のままだった……)、校長先生からの、有り難くながーいお話が待っている。
もう、閉会まで全員で行うことは無いので、既に眼を
まあ、何の話をしていたか、後で聞かれることも無いから、話を聞いてなくても不都合はない(と思う)。
『さて。これで長かった一年が終わります。今年一年何がありましたか? そう尋ねれば、色々な返答があると思います』
その通り……。
『誰。と、一人の生徒を名指しするつもりはありませんが、その子にはこの一年、様々な苦労をかけることになりました』
……俺?
『彼の活躍のお陰で、今があるようなものです。ありがとう』
ちょっと大袈裟だけど、俺の話みたいだ。
『話は変わりますが、今年は吹奏楽部が大活躍してくれました』
話変わってない! 続けて話したら、尚俺のことだって強調されるじゃん……。
「ん?」
ほら見たことか。
隣の
指で前を指してから俺を指す。暗に俺の話か尋ねているのだろう。
しかし確証は無いので、両手を上げ首を
いつの間にか、校長先生の話が終わり、今度は部活動の表彰が行わていれる。
吹奏楽部は、全国大会に出場し銀賞だったことが発表される。
代表として登壇したのは部長の
ステージに登壇した中に、
と、言ったところで最近話す機会もなかったから仕方無いか……。
終業式が終われば、そのまま離任式に移る。
『それでは、この度本校を去ることになりました先生方、前へご参集ください』
体育館各所に待機している先生方が歩き出す。
離任して行く先生を俺たち生徒は知らないから、館内からざわめきが起こる。
「え……」
俺も思わず声に出てしまった。
「それでは、登壇してください」
教頭先生の合図で、先生方が順にステージへ上がり、椅子に腰掛ける。
その中に、黄前先生の姿もあるからだ……。
『次は、
驚きのあまり、他の先生の挨拶が全く耳に入らないまま、黄前先生の順番が回ってきた。
「えっと。この度この学校を去ることになりました、黄前……じゃない、塚本 久美子です」
もはやお決まり。未だに旧姓で名乗るんだよね……。黄前先生は。
と、言ってる俺もそうか。
「在籍4年間で、うち3年ほど産休だったので、皆さんと一緒に過ごした時間は僅かでした」
考えてみれば、1年生から3年生まで、全員半年間だけお世話になっている。
4年居た先生で、これは珍しいのではないか?
「えっと、私はあまり洒落たことを言うのが得意ではないので、別れの挨拶代わりに1曲、演奏したいと思います」
演奏?
すると、ステージ脇から園田先生が楽器を持って現れる。ユーフォニアムだ。
あれって、準備室の保管スペースにあり、年代物だからか今年は誰も使わなかった奴じゃないか……!
使っていない割には綺麗にされてると思ってたら、黄前先生が使っていたのか……。
♪~
何だろう?
聞いたことの無い曲だけど、懐かしく感じる曲だ。
回りを見渡しても、皆聞き入っている。
目を閉じている人も。あ、あれは単に寝ているだけか……。
演奏が終わった。
なんというか、もっと聞いていたかったという余韻が残る曲だった。
「今の曲は、『響け! ユーフォニアム』という、卒業した先輩からもらった曲です。それでは皆さん、お元気で」
それだけ言うと、先生が一礼して椅子に戻った。
一瞬、体育館じゅうが静かになり、遅れて拍手が起こった。
「えっと。こんな空気の中、話すのはとてもハードルが高いですが。
江南先生も離任されるんだ……。
正直、よく分からない先生だった。
「私の得意なこと、と言っても、体育館内で
壁や床だけでなく、俺たち生徒にも穴が開きます。止めてください。
「陸上部のみんなは、大会で会いましょう。会えるように頑張ってください。ありがとう」
やっぱりよく分からない先生だ……。
離任式が終われば、教室に戻ってHR。
通知表を貰い、連絡事項等を聞いて、クラス解散式を行えば終わりだ。
打ち上げ? 参加している暇はない。俺は忙しいので。
『職員室』
「失礼します。1-2金山です。文芸同好会の部室の鍵を借りに来ました」
「あ、鍵なら
いつも通り。今日が終業式でも、離任式があっても。この部屋はいつも通りだ。
それでも、所々荷物が纏めてあったり、片付いている机があり、去って行く先生の存在を感じずにはいられない。
「失礼しました」
先輩が鍵を持っていったことを教えてもらったので、もうこの部屋に用はない。
速やかに退室する。
職員室を出て部室へ向かう。
この時間となると、もう帰っているか、まだ残っているかどちらかなので、校舎内は静かだ。
「ありがとうございました!」
「頑張って!」
「先生もお元気で」
渡り廊下まで来ると、先生に見送られて下校する生徒がちらほら。
『図書館閉架書庫室』
ノックし、扉を開く。
「失礼します」
「ああ、お疲れ」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
声を掛けると、聞き慣れた返事が来る。
それを聞きながら入室。
この部屋のメンバーが揃っている。
しかし、この光景も見納めだ。
「黄前先生、短い間でしたがありがとうございました!」
黄前先生は転勤される。
だから、会うのは最後になるだろう……。
「どういたしまして。まぁ、引っ越すわけじゃないから、いつでも会いに来てよ」
「えっ?」
思わず、驚きの声が漏れた。引っ越さないって?
「金山くん。私が次に行く学校、知らないの? 教頭先生言ってたのに」
「いや。聞いていたとは思います。ただ、驚きのあまり耳に入ってきませんでした……」
「それはそれで嬉しいけど……。ダメだよ、ちゃんと聞いてなきゃ。この先困るのは金山くんだよ。ね、滝野先輩」
「先輩言うな。あ、因みに黄前が行くのは、城西だよ」
市内じゃないか。むしろ、黄前先生としては通勤距離が今より短くなると思う。
「今度来る先生は、ちょっと厳しいけど優しい先生だから、よろしくね」
「黄前先生知ってるんですか?」
「うん。私の大学時代の先輩だよ」
大学生の頃の先輩か。
「
滝野先生も知っているらしい。
「まあ、私も今度は吹奏楽部の顧問を任されるみたいだから、金山くんとは大会で会えるかもね」
大会でって。確かに俺は吹奏楽部の一員だけど。
「それじゃあライバルじゃないですか。滝先生と松本先生の。あ、あと園田先生も」
今まで一緒に頑張ってきた仲間が、今度は敵になる。教師というのは辛い仕事かもしれない……。
「まあね。でも、先生ってそんなものだと思うよ。さてと。色々とやることがあるから私はこれにて失礼。いつでも会いに来てよって言った手前変だけど、元気でね」
そう言って黄前先生が部室を出て行く。
「「今までありがとうございました!」」
見送る声は、加木屋先輩と重なった。
滝野先生も退室し、俺と先輩の2人が残った。
立ったままというのも変なので、いつもの椅子に腰かけた。
「しかしまあ、金山くんも洒落たことするよね。加納先輩、泣いてたよ」
「は?」
先輩が唐突に放った言葉に、俺はフリーズした。
「ち、ちょっと待ってください。なんで加木屋先輩があの事を知っているんですか?」
恐らく。というか、間違いなく。
今加木屋先輩が言ったことは、俺が卒業式の日に、この場所に一冊の本を置いたことだろう。
加納先輩への卒業記念。俺がそのために書いて、意図せず出版された本となった物語。
「さて? 何故でしょう?」
それを、この部屋に置き、黄前先生を通じて加納先輩がこの部屋に来るようにお願いした。
あの後、先輩には会わなかったけど、後日会った時には受け取ってくれたことを教えてくれた。
その事を加納先輩から聞いたのだろうか?
「加納先輩、凄く嬉しそうだったねぇ。というか、驚いていたと言うべきかな?」
えっ? 嫌な予感……。
「ね。
予感通りだった。
「
「文化祭の冊子の原稿を読んだ時かな? この作風、言い回し。間違いないと思った」
やっぱり。
あの日、
「あの後、とある人から間違いないことの確証が得られたから、金山くんが金先生だって分かって接してたよ」
マジか。完全にバレていたんじゃないか。原稿読んでもらったのが
……待て。とある人から確証を得たって言った?
誰だろう?
「先輩、今言った『とある人』って、誰ですか?」
「誰だろうね? あ、彼女の名誉のために言っておくけど、加納先輩や園田先生ではないよ」
まあそうだろう。
俺が金 山人であることを知る人物。家族と園田先生、坂上出版の
加納先輩に正体を明かしたのは卒業式の日だから、ついこの間の話。時間が開きすぎている。
家族……とは接点無い筈だ。それに、この話を易々教えるわけがない。
安曇さん……とも接点無い筈……。
消去法でいけば、やっぱり家族だろうか? 近所、同じ町内だし。
「分からないの? なら、考えたって無駄だよ?」
俺の悩む姿を見て、加木屋先輩は
「まあ、金山くんらしいと言えばそうかもしれないな……」
俺らしい?
「そういったところも好きなんだよね……」
「今何て言いました?」
「ん? 何も言ってないよ」
結局、誰か教えてくれず仕舞いだった……。
お読みいただきありがとうございました。
本編自体はこれで終わりとなります。
とはいえ、これではタイトル回収出来てませんよね。
番外編としてもう一話、卒業式のお話に戻ります。
そちらでタイトル回収しますから、もう少しだけお付き合いください。