【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。いよいよ最終話です。
前回、番外編とお伝えしましたが、このお話が無ければこの物語が完結しないので、話数は続きになっています。そのため、扱いは本編と同じです。紛らわしくてごめんなさい。
では、本編をどうぞ。卒業式まで遡っています。
無事に卒業式が終わった。
私たち卒業生が帰るところ、中庭では在校生が集まって、各々最後の挨拶をしている。
「「ありがとうございました!」」
威勢の良い声が聞こえると思えば、野球部が並んでお辞儀をしている。
卒業生から「今年こそ頼んだよ」という声かけをしている。思えば彼らも私たち同様、
今年こそ、勝てるように頑張れ!
心の中でエールを送りつつ、私は……。
「部長! 今まで本当にありがとうごじゃいましたぁ!」
トランペットパートが集まっているところで捕まった。
まあ、当然といえばそうだけど。
というか、しょうくん*1号泣してる。うまく喋れてないし。
「しょうくん泣かないの。ちゃんとみっぱらくん*2支えてあげてね」
「ちょっと
みっぱらくんが唇を尖らす。
「だって、名前間違えれるとすぐ訂正するでしょ? それで萎縮しちゃう子も居るからね。そんなときにしょうくんの出番よって」
「う。た、確かに……」
言い返せないらしい。
「ぼ、僕が
「
言った傍から……。
それよりも。
「みち*3。はるか見なかった?」
「
どこ行っちゃったんだろう……。
「楽器運搬終わってるよね? みんな来てるし……」
1・2年生はこの後体育館の片付けがあるけれど、吹奏楽部はそれよりも先に楽器を音楽室に仕舞ったので、ここへ来るのは遅かった。
それでも、もう来ている。
「保健室は?」
卒業式の式中からずっと泣いていた
「さっき行ってきたけど、居なかったよ」
挨拶を兼ねて様子見に行ったら、居たのは彼女と保健の先生だけ。
「じゃあ、分からないな……」
「ありがとう。ちょっと探してくるよ」
はるかが見当たらない。
中庭を見渡しても居ない。保健室にも居なかった。
他を探そう……。
おおっと。バスケ部は胴上げか。
……全国大会を思い出す。そういえば、私は3回胴上げされたけど、あやちは5回だったっけ。少ない分の2回、今からやるなんて言われないうちにこの場を去ろう。名残は惜しいけど、胴上げは恐怖だ。
「あ、もえもえ*4。はるか見なかった?」
音楽室へ向かう途中で、新部長 もえもえ……
「金山くんですか? 私よりも先に音楽室出ましたよ」
やっぱり。
「中庭に居ませんでしたか?」
「居なかったから来たんだけど……」
「うーん。何処でしょう? あ、私今から中庭行きますから、もし見かけたら連絡しますよ」
「本当? 悪いけどお願い」
「承知しました。部長!」
「部長は貴方よ」
「おっと。そうでした……」
しかし、何処に居るんだろう?
当てが外れ、どこへ向かえばいいか考えながら歩く。
「あれ? 加納さんどうしたの?」
「
声を掛けられ振り向くと、黄前先生……
どうしても旧姓で呼んでしまう。まあ、元々同じマンションというのもあるし。って、今はそんなことどうでもいい。
「はるか 見てませんか?」
「金山くん? ああ。部室に行くって言ってたよ。加納さんに会ったら、部室に来るように伝えてくれって」
部室に?
「他に何か言ってましたか?」
「それだけだよ」
部室。つまり、図書館閉架書庫室か……。っと、その前に。
「黄前先生。短い間でしたが、ありがとうございました!」
挨拶をし、一礼。
「卒業おめでとう。困ったことがあれば、相談にのるからね。同じマンションだし、何時でも会えるんだからさ。大袈裟な挨拶は要らないよ」
さすが黄前先生。危うく引っ越しの挨拶みたいになるところだったけど、上手く纏めてくれた。
「そうですよね。それでは失礼します」
『図書館閉架書庫室』
ノックして扉を開く。
「失礼します……」
鍵が開いているのに、誰もいなかった。
呼び出しておきながら……。あれは呼び出しではないか……?
あ。机の上に何か置いてある。
……カバーが掛けられた文庫本と、1枚の紙。
『加納先輩へ』そう紙に書かれている。
本を手に取ると、付箋が挟んであるのに気付く。
「これ……!」
付箋のページは、『トランペットを吹く彼女
『トランペットを吹く彼女』
春。高校に入学。
そこで、私は彼女と出会った。
私の友人が吹くトランペットの音をきっかけに、私に話し掛けてきたらしい。
吹奏楽部の部長で、彼女自身もトランペット奏者だ。
吹奏楽部は、昨年成し得なかった『全国大会金賞』を目標に、新たなスタートを切った。
しかし、そこで予想外の壁にぶち当たる。
騒音という言い掛かりも甚だしい理由で、遅い時間の練習が出来なくなってしまったのだ。
それでも、その壁を乗り越え、無事にサンフェスを終え、コンクールへと突き進む。
コンクールにはオーディションがある。
トランペットにはソロパートがあり、ソリストもオーディションで選ばれる。
年功序列でいったら選ばれるのは彼女だが、全国大会を目指す以上、実力で選ばれるのが必然。
彼女はソリストには選ばれなかった。
しかし、選ばれた人物について、一悶着起きる。
その騒動の当事者となった彼女は、後輩からの声もあり、ソロパートを吹きたいと思い直した。
それでも、部の目標である『全国大会金賞』を第一に考え、皆が選んだ後輩に委ねた。
…………
これ、私のお話じゃんか……。
今年度、私や吹奏楽部で起きたことが、それなりに詳しく書かれている。
取材を受け語った記憶はない。近くで見ていた人物しか知り得ない話だ……。
この著者は誰? 何てタイトルの本だろう……?
カバーを外そうとしたら、本の隙間から紙が落ちてきた。
ハガキ位の大きさで、絵が描かれている。
トランペットを吹く立ち姿。これは……私?
楽器を吹いているときの顔は、凄い顔になってしまう。どんな美人であっても。
それさえも忠実に描かれている。恥ずかしくて直視できない……。
裏返してみると、文字が書いてある。えっと……。
『加納先輩、ご卒業おめでとうございます。短い間でしたが、お世話になりました。
マジ……?
この紙といい、文化祭の時に作ったというポストカードといい。絵が上手いと思ってたけど、イラストレーターなんだ。加木屋さんは。
……ということは、もしかしてあの紙の裏にも何か書いてあるのかも。
紙を裏返す。
あ、こっちも裏に文字が書かれている。
……えっ! 嘘……。これ、はるかの筆跡で間違いない。
はるか、小説家なんだ……。
道理で。廃部寸前だったこの文芸同好会を、存続させてまで所属していたわけだ。
『先輩、卒業おめでとうございます。
小説家金山 はるか、イラストレーター加木屋 みなみ。
同じ学校に在籍し、同じ文芸同好会に所属している。
どういう偶然だろう……?
そういえば、この本のタイトルをまだ見ていない。
カバーを外す。
……。
…………。
そういうことなのかな?
これは、はるか からの卒業記念ということなんだね……。
「ありがとう。はるか……」
本を抱きしめ、上を見上げる。
吹奏楽部の前部長だから、今日の卒業式では泣かない。そう決めていたのに……。
溢れ出る涙を堪えることができない。
本のタイトルは、『短編集~君へ捧げる物語~
「ありがとう。はるか……」
もう一度、小さく呟いた。
君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 完