【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。いよいよ最終話です。

前回、番外編とお伝えしましたが、このお話が無ければこの物語が完結しないので、話数は続きになっています。そのため、扱いは本編と同じです。紛らわしくてごめんなさい。


では、本編をどうぞ。卒業式まで遡っています。




13-4……君へ捧げる物語

 

無事に卒業式が終わった。

 

私たち卒業生が帰るところ、中庭では在校生が集まって、各々最後の挨拶をしている。

 

「「ありがとうございました!」」

 

威勢の良い声が聞こえると思えば、野球部が並んでお辞儀をしている。

 

卒業生から「今年こそ頼んだよ」という声かけをしている。思えば彼らも私たち同様、所謂(いわゆる)『騒音クレーマー』の被害者だった。

 

今年こそ、勝てるように頑張れ!

 

心の中でエールを送りつつ、私は……。

 

「部長! 今まで本当にありがとうごじゃいましたぁ!」

 

トランペットパートが集まっているところで捕まった。

まあ、当然といえばそうだけど。

 

というか、しょうくん*1号泣してる。うまく喋れてないし。

 

「しょうくん泣かないの。ちゃんとみっぱらくん*2支えてあげてね」

 

「ちょっと加納(かのう)先輩。俺がサポートする側じゃないんですか?」

 

みっぱらくんが唇を尖らす。

 

「だって、名前間違えれるとすぐ訂正するでしょ? それで萎縮しちゃう子も居るからね。そんなときにしょうくんの出番よって」

 

「う。た、確かに……」

 

言い返せないらしい。

 

「ぼ、僕が各務原(かがみはら)先輩支えましゅから、部長もどうか頑張ってくだしゃい!」

 

各務原(かかみがはら)だって!」

 

言った傍から……。

 

 

 

それよりも。

 

「みち*3。はるか見なかった?」

 

金山(かなやま)くん? ……見てないけど」

 

どこ行っちゃったんだろう……。

 

「楽器運搬終わってるよね? みんな来てるし……」

 

1・2年生はこの後体育館の片付けがあるけれど、吹奏楽部はそれよりも先に楽器を音楽室に仕舞ったので、ここへ来るのは遅かった。

 

それでも、もう来ている。

 

「保健室は?」

 

卒業式の式中からずっと泣いていた(つなぐ)ちゃんは、貧血(?)を起こして保健室で休んでいる。

 

「さっき行ってきたけど、居なかったよ」

 

挨拶を兼ねて様子見に行ったら、居たのは彼女と保健の先生だけ。

 

「じゃあ、分からないな……」

 

「ありがとう。ちょっと探してくるよ」

 

はるかが見当たらない。

 

中庭を見渡しても居ない。保健室にも居なかった。

 

他を探そう……。

 

 

 

おおっと。バスケ部は胴上げか。

 

……全国大会を思い出す。そういえば、私は3回胴上げされたけど、あやちは5回だったっけ。少ない分の2回、今からやるなんて言われないうちにこの場を去ろう。名残は惜しいけど、胴上げは恐怖だ。

 

 

 

「あ、もえもえ*4。はるか見なかった?」

 

音楽室へ向かう途中で、新部長 もえもえ……榎戸(えのきど)さんを見付けた。

 

「金山くんですか? 私よりも先に音楽室出ましたよ」

 

やっぱり。

 

「中庭に居ませんでしたか?」

 

「居なかったから来たんだけど……」

 

「うーん。何処でしょう? あ、私今から中庭行きますから、もし見かけたら連絡しますよ」

 

「本当? 悪いけどお願い」

 

「承知しました。部長!」

 

「部長は貴方よ」

 

「おっと。そうでした……」

 

しかし、何処に居るんだろう?

 

 

 

当てが外れ、どこへ向かえばいいか考えながら歩く。

 

「あれ? 加納さんどうしたの?」

 

黄前(おうまえ)先生……」

 

声を掛けられ振り向くと、黄前先生……塚本(つかもと)先生が立っていた。

 

どうしても旧姓で呼んでしまう。まあ、元々同じマンションというのもあるし。って、今はそんなことどうでもいい。

 

「はるか 見てませんか?」

 

「金山くん? ああ。部室に行くって言ってたよ。加納さんに会ったら、部室に来るように伝えてくれって」

 

部室に?

 

「他に何か言ってましたか?」

 

「それだけだよ」

 

部室。つまり、図書館閉架書庫室か……。っと、その前に。

 

「黄前先生。短い間でしたが、ありがとうございました!」

 

挨拶をし、一礼。

 

「卒業おめでとう。困ったことがあれば、相談にのるからね。同じマンションだし、何時でも会えるんだからさ。大袈裟な挨拶は要らないよ」

 

さすが黄前先生。危うく引っ越しの挨拶みたいになるところだったけど、上手く纏めてくれた。

 

「そうですよね。それでは失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『図書館閉架書庫室』

 

ノックして扉を開く。

 

「失礼します……」

 

鍵が開いているのに、誰もいなかった。

 

呼び出しておきながら……。あれは呼び出しではないか……?

 

あ。机の上に何か置いてある。

 

……カバーが掛けられた文庫本と、1枚の紙。

 

『加納先輩へ』そう紙に書かれている。

 

本を手に取ると、付箋が挟んであるのに気付く。

 

「これ……!」

 

付箋のページは、『トランペットを吹く彼女 金 山人(こがねやまと)/著 ヤギ/イラスト』。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

   『トランペットを吹く彼女』

 

 

 

春。高校に入学。

 

そこで、私は彼女と出会った。

 

私の友人が吹くトランペットの音をきっかけに、私に話し掛けてきたらしい。

 

吹奏楽部の部長で、彼女自身もトランペット奏者だ。

 

 

 

吹奏楽部は、昨年成し得なかった『全国大会金賞』を目標に、新たなスタートを切った。

 

しかし、そこで予想外の壁にぶち当たる。

 

騒音という言い掛かりも甚だしい理由で、遅い時間の練習が出来なくなってしまったのだ。

 

それでも、その壁を乗り越え、無事にサンフェスを終え、コンクールへと突き進む。

 

 

 

コンクールにはオーディションがある。

 

トランペットにはソロパートがあり、ソリストもオーディションで選ばれる。

 

年功序列でいったら選ばれるのは彼女だが、全国大会を目指す以上、実力で選ばれるのが必然。

 

彼女はソリストには選ばれなかった。

 

しかし、選ばれた人物について、一悶着起きる。

 

その騒動の当事者となった彼女は、後輩からの声もあり、ソロパートを吹きたいと思い直した。

 

それでも、部の目標である『全国大会金賞』を第一に考え、皆が選んだ後輩に委ねた。

 

 

…………

 

 

 


 

 

 

 

これ、私のお話じゃんか……。

 

今年度、私や吹奏楽部で起きたことが、それなりに詳しく書かれている。

 

取材を受け語った記憶はない。近くで見ていた人物しか知り得ない話だ……。

 

この著者は誰? 何てタイトルの本だろう……?

 

カバーを外そうとしたら、本の隙間から紙が落ちてきた。

 

ハガキ位の大きさで、絵が描かれている。

 

トランペットを吹く立ち姿。これは……私?

 

楽器を吹いているときの顔は、凄い顔になってしまう。どんな美人であっても。

 

それさえも忠実に描かれている。恥ずかしくて直視できない……。

 

裏返してみると、文字が書いてある。えっと……。

 

『加納先輩、ご卒業おめでとうございます。短い間でしたが、お世話になりました。加木屋(かぎや) みなみ(ヤギ)』

 

 

 

マジ……?

 

この紙といい、文化祭の時に作ったというポストカードといい。絵が上手いと思ってたけど、イラストレーターなんだ。加木屋さんは。

 

 

 

……ということは、もしかしてあの紙の裏にも何か書いてあるのかも。

 

紙を裏返す。

 

あ、こっちも裏に文字が書かれている。

 

……えっ! 嘘……。これ、はるかの筆跡で間違いない。

 

はるか、小説家なんだ……。

 

道理で。廃部寸前だったこの文芸同好会を、存続させてまで所属していたわけだ。

 

 

 

『先輩、卒業おめでとうございます。金 山人(こがねやまと)こと、金山 はるか』

 

 

 

小説家金山 はるか、イラストレーター加木屋 みなみ。

 

同じ学校に在籍し、同じ文芸同好会に所属している。

 

どういう偶然だろう……?

 

 

 

そういえば、この本のタイトルをまだ見ていない。

 

カバーを外す。

 

……。

 

…………。

 

そういうことなのかな?

 

これは、はるか からの卒業記念ということなんだね……。

 

「ありがとう。はるか……」

 

本を抱きしめ、上を見上げる。

 

吹奏楽部の前部長だから、今日の卒業式では泣かない。そう決めていたのに……。

 

溢れ出る涙を堪えることができない。

 

 

本のタイトルは、『短編集~君へ捧げる物語~ 坂上(さかがみ)出版ラノベ文庫』。

 

 

 

 

「ありがとう。はるか……」

 

もう一度、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 完

 

 

 

 

*1
町方 昭宏まちかたあきひろ

*2
各務原 哀かかみがはらあい

*3
若林 未知流わかばやしみちる

*4
榎戸 萌えのきどもえ

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