【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
大変長らくお待たせ致しました。
この『卒業旅行』をもって、本作は完全に完結する予定です。もう少しお付き合いいただけると有り難いです。
※このお話には、2022年7月公開の 映画『ゆるキャン△』 のネタバレに繋がる部分があります。
映画『ゆるキャン△』 を、まだ視聴されておらず、今後視聴される予定の方は、閲覧を控えていただくことをお勧め致します。
なお、このお話は 映画公開前に執筆したものを、映画の内容に合わせて一部修正してあります。設定が矛盾している部分がありますが、そこは目を瞑っていただけると幸いです。
「
助手席に座る
「お前、本当にそう思ってるのか?」
先生は、いつも通りのからかうような口調で返す。
「もちろん。ね、あやち」
「はい、ありがとうございます。次の休憩でコーヒー買いますから」
振られた
「別に良いよ。生徒に買わせるわけにいかんだろう」
「滝野先生。私たち、もう生徒じゃないんですよ?」
「そうそう。もう『教師と生徒』の関係じゃないんだよ? ね、純ちゃん先生」
「ならその先生呼び止めてくれ」
「えー。教師と生徒じゃないけど、滝野先生は滝野『先生』ですよ。何も間違ってません」
「お前ら……」
そんな3人のやり取りを、俺は運転席の後席から眺めている。
何これ。誰得ですか?
滝野先生の運転する車は、俺と加納先輩、堀田先輩を乗せ、五条バイパスを東へ走っている。
「卒業旅行?」
年が明け、新学期が始まってすぐの放課後。
文芸同好会の部室に来ると、
「そう、卒業旅行。あやちと一緒に行くことにしてて、はるかもどうかな、って」
「別に構いませんけど。卒業旅行ですよね? 俺1年生だから、卒業なんてまだ先の話ですが……」
「はるかの卒業とこの卒業旅行は関係無いでしょ?」
ごもっとも。
「良いじゃん。部長と副部長の卒業旅行に、同じ代で副々部長だったはるかが一緒でも、不思議ではないよね?」
不思議ではない。確かに。
待って。俺が副々部長だったって、過去形にされてるんですが。
「この話に関しては、有り難い話ですし、行くのは構いませんけれど、何で俺なんですか?」
加木屋先輩の方を見ると、本を読んでいて話を聞いていない感じだ。
「えっとね。こういう話になった経緯を簡単に話そうか……」
加納先輩の話を要約すると、
『旅行会社に相談に行ったところ、卒業旅行特別割引の存在を知る』
『3人で行けば、2人の料金より少しだけ安くなる割引がある(逆に2人だと割高)』
『他のメンバーを誘うにしても、1人だけだと不公平になるし、他に予定がある人も居る』
『部長・副部長が行くのだから、副々部長を誘えば良い』
という理由らしい。
「まあ……そういうことなら、行かせてください……」
そういう話なら、断る方が失礼だろう。
「よし決まりだね。じゃあ、はるかの試験休みに合わせて予約するよ」
あ。問題発生。
「ところで。俺1人男ですけど、部屋とか大丈夫なんですか?」
「それは問題ないよ。行くのはキャンプ場だから。テント2つ借りる予定だから、私とあやち、はるかで分かれれば大丈夫」
「キャンプ場?」
「手ぶらキャンププランだよ。テントは設営されてるし、バーベキューの食材も用意してもらえるから、持ち物は要らないんだよ。温泉も付いてるし」
それは良い。でも、3月だけど。
完全にキャンプオフシーズン。
「最近では冬でもキャンプする人が居るんだよ……たぶん」
たぶんですか……。
当日。
『ご案内致します。北陸地方における降雪のため、北陸新幹線・
待ち合わせ場所の京都駅に到着すると、見事このザマだ。
俺が荷物番で、先輩2人が改札へ確認に行っている。
「お待たせ」
あ、戻ってきた。
「ダメだった。湖西線が雪で止まってる。行けても
「サンダーバードも米原経由で走ってるらしいね。しかもかなり遅延してるって」
駄目じゃん……。
「えっと。俺たちが行きたいのはマキノ駅でしたっけ?」
「うん。最悪、米原経由で
「この雪じゃね……。敦賀まで行けるかも分からないって言ってた」
参ったな……。
3人立ち尽くす。
どうするか。電車が駄目なら車……誰が運転するの? しかもこの雪だ。
飛行機……
「あっ!」
すると突然、閃いたように加納先輩が声を上げる。
一瞬、頭上に ! が見えたような……。気のせいか。
「もしもし?」
俺たちに背を向け、電話し始めた。
「今は京都駅にいます。……はい、そうなんです。雪で新幹線も湖西線もダメで……」
誰と話しているんだろう? 堀田先輩と顔を見合わせる。
電話の相手は誰だ? と、ジェスチャーで聞かれるも、俺だって知りたい。
両手を上げ首を
「えっ? いや、私まだ取り立てですよ。車借りれませんって。それに、この雪の中を運転しろって言うんですか?」
どうやら、加納先輩は既に運転免許を取っているらしい。
「事故起こしたらどうしてくれるんですか? ……知らない俺の責任じゃないって。良いんですか? はるかも一緒なのに……?」
あ、俺の名前を出した。
ということは、知っている人か。もしや……。
「分かりました。ありがとうございます! はい、待ってます!」
話は
電話を切ると、勢いよく振り向いた。
「純ちゃん先生。来てくれるって」
やっぱり相手は滝野先生だった。
えっ? 来るって言った?
……マジで?
そんなわけで、滝野先生が京都駅まで車で駆け付けてくれた。
しかも、バンタイプの車だから、7人乗れる。使わない最後尾の座席を荷物スペースにし、俺たち3人を乗せて走っている。
駅では散々『降雪』と言っていたが、府内には雪が無い。よくあることだ。
しかし、
「わあ。雪ですね」
隣の堀田先輩が感嘆の声を上げる。
「だな」
滝野先生は素っ気なく言い放つ。
「純ちゃん先生、この中を運転しろって言ったんですよ」
助手席の加納先輩は唇を尖らせた。
「それはお前も同じだろ」
「でも、私は免許取り立ての初心者で、滝野先生は経験豊富なプロじゃないですか」
「まあな。それは否定しない」
「うわー。得意気なのが悔しい……」
「なら、お前も得意気になれるように頑張れ」
『得意気な物言いは、吹奏楽部部長の
あ、一瞬目が合うとすぐに逸らされた……。
途中の道の駅で休憩し、約束通り(?)堀田先輩がコーヒーを買ったりしつつ、目的地を目指し北上する。
しかし、北へ進むにつれ、様子がおかしくなってゆく。
積雪量がどんどん増えてきた。
視界が悪くなるほどではないが、吹雪いている。
段々不安になる。それ故か、車内は静寂に包まれている。
幸い、車の流れは順調で、すぐに立ち往生となる気配はない。
「まあ、あれだ。最悪車中泊ってことになっても、この車なら4人寝るくらい容易い」
車内の空気を変えようとして滝野先生が言った言葉は、逆に不安を煽る。
「これ、このまま行っても大丈夫なんでしょうか?」
やべ、口が滑った。今言わない方が良いのに。
「だよね……。キャンプ場やってるかな……? あはは……」
雪だるまと化した対向車を眺め、加納先輩は棒読みだった。
やっぱり言うべきではなかったか?
「そんなに気になるなら、電話してみたら良いだろ。今向かってますが、大丈夫ですか? って」
「おお、そうか」
思い至らなかったらしい。
さっきとはうって変わった様子で電話を掛けている。
「もしもし。予約している者です。はい……」
繋がったようだ。
「そうですね……。今、
加納先輩とはそこそこ長い付き合い。声のトーンで良し悪しが分かるから、隣の堀田先輩共々電話の声を聞く。
「そうですか……。ですよね……」
まずいの?
「えっ? はい! 構いません。よろしくお願いいたします!」
大丈夫そう?
「ありがとうございます! 失礼します!」
電話を切った。
こちらを振り向く。
親指を立てた。
「キャンプ場自体はこの大雪で臨時休業だけど、近くの系列の旅館が、キャンセルの山で、がら空きだから、そっちに泊めて貰えるって」
マジか。良かった。
「ちょっと予定と変わっちゃうけど、このまま向かって大丈夫だよ。純ちゃん先生、お願いします」
「オッケー。任せとけ」
車は目的地へ向け、北上を続ける。
滝野先生は運転に集中しており、加納先輩はそのサポート役に徹する。
従って、車内から会話が消えた。
疲れたのか、安堵感からか、隣の堀田先輩は寝てしまった。
いつぞやみたいに俺の肩を枕代わりに……ということはない。バンの真ん中の列だから、間が開いている。
距離的には出来ても膝枕。しかし、シートベルトを着用しているため、それも叶わない。
……別に残念だ、とか思ってないから。
「わあ! 凄い!」
助手席の加納先輩が声を上げる。
「えっ? 何々?」
堀田先輩が飛び起きた。
「綺麗な並木道だよ」
運転席越しに前を見る。
「メタセコイヤの並木道だな。この道2.5㎞に渡って植えられているんだよ」
「純ちゃん先生、知ってるの?」
「社会科教師だぞ。俺は」
確かに。知らない方が不思議だ。
「さ、この道を抜ければもうすぐだ」
今が雪化粧なら、春は新緑、秋は紅葉が楽しめるのだろうか。
そんなことを考えていると、並木道を抜け出した。
『マキノ高原キャンプ場』
脇道にそれると、看板が掲げられている。
着いたようだ。
「この大雪の中をお越しくださり、ありがとうございます」
旅館に入ると、
「まあ、すごい雪でしたが、運転は慣れてますので……。3人で予約してると思いますが、4人でも大丈夫ですか?」
雪道に慣れているとは頼もしい。これ、先生今後も運転手確定?
「もちろん大丈夫です。この雪ですから、本日のお客様は、皆様の他に1組だけですので、大歓迎ですよ!」
そりゃあこの雪だもん。
さっき電話で問い合わせていた加納先輩が、キャンセル続出だって言っていたし。
ん? 今の言葉に小さくガッツポーズの2人。何だろう?
「さてと。それではお部屋にご案内致します……おや?」
すると、俺たちの入ってきた扉が開く。
「おお。もう1組のお客様ですね。大雪の中ありがとうございます。少々お待ちくださいね」
番頭さんが声を掛け、そのまま歩き出す。俺たちを先に案内するらしい。
「あ、いえ。大丈夫です」
「待ってますね」
番頭が先に荷物をもって歩き、滝野先生、加納先輩と堀田先輩が後に続く。
俺は何となく気になって、今来たお客さんを見ている。
女性2人組。キャンプ道具らしいものを持っている。
俺たちと同じで、元々はキャンプの予定だった様だ。
しかも、自前で道具を揃えているということは、キャンプ慣れしているか?
……。
…………?
この2人、何処かで見たような……。
「あっ! バイクの2人組じゃないですか!」
思い出した。市民病院での定期演奏会の日、帰りに見掛けた人たちじゃんか!
「えっ? アヤちゃんの知り合い?」
「私は心当たり無いよ。リンちゃんこそ、違うの」
俺の声に、先を行く4人は立ち止まり、今来た2人は顔を見合わせる。
「違いますよ。知り合いって程ではないです。……えっと、1月にあった連休の土曜日、宇治橋横のコンビニに来ましたよね?」
「えっ? 確かに行ったけど」
「あの時のビーノです」
「ああ! 居たね、ちょっと変わったビーノ」
思い出してくれたらしい。
とりあえず、一旦双方ともに部屋に案内してもらった。
俺と滝野先生、先輩二人、バイクの二人と、それぞれの部屋に入った。
元々大人数での宿泊を想定しているであろう部屋だ。二人で利用するのには広すぎる。
部屋に荷物を置いたら、先輩方の部屋に集合。
そこで自己紹介という流れになった。
まずは、キャンプ2人組から。
「
「しまりん?」
群青色(?)の髪をボブカットにしている人だ。
名前を聞くなり、真っ先に加納先輩が突っ込んだ。
「ゆるキャラみたいに呼ぶのはやめて」
「シーマリン?」
続いたのは堀田先輩。
「海じゃないし。出身、『
一宮市……何処だっけ?
「志摩が苗字で、リンが名前。志摩 リンね。ね、リンちゃん」
志摩さんの隣の人が補足。
なるほど。志摩 リンさん。一度聞いたら忘れることはないだろう。
続いて隣の人の番だ。紫色の髪、志摩さんよりは長い。
「あたしは
「普段困らないから良いだろ。
あ。一宮市って、名古屋の近くだから、
「でも、今日困ったじゃん」
「そ、それは……」
「滋賀だから私が
「名古屋と浜松の位置関係からして、逆方向って雪降らない地域だろ」
「そうかなぁ? 降るときは降るよ。たぶん」
「たぶんかよ」
仲が良いようだ……。二人の世界に突入してしまった。
「雪道のバイクは滑りやすいからな。
そのやり取りを見た滝野先生が俺にこう言った。何故?
「いやいや。乗らないから大丈夫ですよ。大体、学校目の前だし。もうあんな緊急事態はごめんです」
卒部式の買い出しも、想定外だったんだよね……。滝先生にあんなこと言われたら、断れるわけないし。
「まじかよ。学校目の前とか通学時間ほぼゼロじゃん。二度寝問題なし……」
ボソッと志摩さんが呟く。
「リンちゃん、通学バイクだったじゃん。良いの?」
通学時間がゼロだと、バイク乗る機会は減る。自転車だとしても同じ。
「その分週末に乗る」
なるほど。その手があるのか……。
いや、俺は乗らないからね?
続いてこちらの番だ。
「俺は滝野
便利屋自称した……。
今後、どうなっても知りませんよ?
「先生なんですね」
「そ。俺も今日は来る予定じゃなかったんだけど、電車が雪で動かなくなったって、教え子から泣き付かれて脅されて……。車出したのさ」
脅された? 加納先輩が電話口で何か、それっぽいこと言ってたけど……。
「何言われたんですか?」
お。志摩さんは興味津々のようだ。
「大事な副々部長のはるか に何かあったらどうするんですか? って。な、加納」
あ、先輩しれっと顔
「私は、吹奏楽部前部長の加納
加納先輩が堀田先輩と纏めて紹介した。
「あ、よろしくお願いしますね」
この流れは俺か。
「俺は、吹奏楽部副々部長兼文芸同好会の金山 はるかです」
いつものやつ、来るか?
「「はるか?」」
来た。最早お決まりのこれが。
「吹奏楽部、と言っても俺も滝野先生みたいな感じで便利屋です。楽器は演奏出来ないので……」
思い出される数々のトラブル……。溜め息が出そう。
「副々部長で? 演奏出来ないってことは、本当に便利屋なんだね……」
志摩さんが驚いている。いや、これだと呆れも混じってるかもしれない。
「あの日も、定演の忘れ物を届けた帰りだったんですよ……。滝野先生のバイクで」
「なるほどね。ともあれ、よろしくねー」
「よろしく……」
自己紹介が終わった。流石に6人もいると時間が掛かるねぇ……。
志摩 リン は勝手に『図書館司書』という設定で書いてました。そんな仕事に就きそうな予感がしてたので。
出版社とはねぇ……。といった思いです。
因みに、途中で出てきた『マキノ高原の並木道』は、大雪災害の後、今年の2月に取材を兼ねて見てきました。
綺麗でしたが、そこまで行く雪道は大変でしたよ……。