【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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2-2……デートではない

 

土曜日の朝。

 

地下鉄(ちかてつ)六地蔵(ろくじぞう)駅改札前。

 

「お待たせ~!」

 

堀田(ほりた)先輩が駆け足でやって来る。

 

「待った?」

 

「いえ。俺も来たばかりです」

 

5分も待ってない。

 

「行きましょうか。あ、切符買いますか?」

 

ICOCA(イコカ)あるから大丈夫。はるかは?」

 

「俺もICOCAです。じゃあ電車乗りましょうか」

 

堀田先輩と二人でのお出掛け。

 

なお、これは決してデートではない。

 

 

そう。園田(そのだ)先生に頼まれたこととは、堀田先輩と二人で、今度お世話になる外部指導者への挨拶へ行くことだ。

 

 

本来ならば、吹奏楽部顧問の滝先生や松本先生が行くべきなのだが、サンライズフェスティバルの事前協議があり不在、部長の加納先輩も同行。

 

代わりに昨年顧問の園田先生に回ってきたのだが、園田先生も別件で不在。

 

回りに回って、吹奏楽部副部長の堀田先輩と、文芸同好会部長の俺が行くことになった。

 

 

だから、断じてデートではない。正装として制服を着ている。

 

しかし、

 

どうしてこうなった?

 

 

 

 

電車はロングシートなので、二人並んで座った。

 

そうしたら、発車してすぐに堀田先輩は眠ってしまった。

 

俺の肩を枕代わりに……。

 

毎日部活で頑張っているから疲れも溜まっているのだろう。

 

寝顔も美しい……。役得?

 

そういえば、堀田先輩のことをあまり知らないな……。

 

吹奏楽部の副部長で、部内一の美人で、吹奏楽部のマドンナ的存在。

 

ユーフォニアムを吹いている、低音パートのパトリ。

 

常に笑顔で、左目の泣き黒子がチャーミング。

 

……結構知ってるじゃないか。

 

まあ、ソースが(あずさ)の情報もあるけれど。

 

いや、これはあくまで学校内での話だ。

 

私生活については何も知らない。

 

どの辺りに住んでいるのか、家族構成は、好きな物・嫌いな物、趣味や特技、ファッション、恋人の有無……。

 

ユーフォニアムを吹き始めたのは何時か。それも聞いたことはない。

 

結局、俺はこの人について何も知らないんだな……。

 

 

 

30分ちょっとで、終点の太秦天神川(うずまさてんじんがわ)駅に到着。

 

乗り換えだ。

 

「先輩。終点ですよ」

 

寝ている先輩に声を掛け、起こす。

 

「あれ……? もう着いたの?」

 

寝ぼけ眼。

 

「着きました。乗り換えです」

 

電車を降り、案内表示に従って歩く。

 

「はるかは来たことあるの?」

 

慣れたように歩くからか、そう尋ねられた。

 

「いいえ。俺も初めてです」

 

案内表示を見ていれば、初めてでもある程度分かる。

 

地上に出ると、道路の真ん中に駅……ホームがある。

 

嵐電(らんでん)天神川駅だ。

 

「路面電車なんだね」

 

そう。嵐電*1といえば、京都府唯一の路面電車である。

 

 

 

嵐電に揺られること20分。

 

嵐山(あらしやま)駅に到着。

 

 

 

駅近くの喫茶店に入る。指定された場所だ。

 

「あ、こっちだよ」

 

俺たちに気付いたらしく、窓際の席から手を振っている。

 

すらっと背が高く、サラサラの黒髪が『大人の女性』という感じを際立たせている。

 

「お待たせしました。道路が渋滞してて遅れてしまいました」

 

「渋滞って。車で来たの?」

 

普通そう思うだろう……。

 

「電車で来ました」

 

乗った電車がそもそも道路渋滞の影響で遅れていて、その先も渋滞が酷くどんどん遅れていった。

 

「なるほど。嵐電で来たのね」

 

しかし、この人声が園田先生に似ているな……。知らずに聞いたら間違えそう。

 

「とりあえず座って」

 

「失礼します」

 

堀田先輩が座った。

 

その隣に俺も座る。

 

「失礼します」

 

メニューが差し出される。

 

「決まったら店員さん呼ぶから、教えてね」

 

どれどれ……。

 

 

 

差し出されたメニューを眺める。

 

いろんな飲み物があるが、難しい名前だったりして、よく分からない。

 

ここは無難(ぶなん)にコーヒーにしよう。

 

「俺は決まりました」

 

「私も」

 

「じゃあ、店員さん呼ぶね。すいませ~ん」

 

店員が呼ばれる。

 

「ご注文どうぞ」

 

「カモミールティーを」

 

俺もカモミールティーは知っている。

 

堀田先輩、お洒落だな。

 

「ホットコーヒーで」

 

俺が注文すると、向かいの席の彼女は続けて、

 

「ホットコーヒー3つお願いします」

 

という注文をした。

 

「ホットコーヒーは全部で4つですね。お待ちください」

 

3つ、ということは、あと2人来るのだろう。

 

しかし、外部指導者は2人と聞いているが……。

 

「改めてまして。私は傘木希美(かさぎのぞみ)です。あなた達の先輩に当たるね」

 

この人は、傘木さんというのか。

 

北宇治の卒業生らしい。

 

「私は吹奏楽部副部長の堀田彩花です」

 

「あ、俺は、金山はるかです。文芸同好会の部長です」

 

「堀田さんと金山くんね。えっ? 文芸……同好会?」

 

やっぱり驚いたか。

 

「先生方や部長は、サンフェスの打ち合わせで、都合が付かなかったんですね。なので副部長の私と、訳あって彼が来ました」

 

訳、というほどの訳でもないんだが……。

 

「なるほどね……。あ、来た来た。こっちですよ」

 

 

 

*1
京福けいふく電気鉄道嵐山本線・北野線を併せて指す通称





平日朝の嵐電は、通勤・通学客で溢れていました。

昨年初冬に行ったとき、コロナ禍でか渡月橋は観光客が皆無でした。

嵐電は良いですよ。山ノ内駅とか……。


因みに、このために 六地蔵→(嵐電)嵐山 のルートを検索したところ、『JR利用、嵯峨嵐山(さがあらしやま)駅から、嵐電嵯峨駅まで歩き、一駅乗車』という、ぼったくりルートが出てきました。

均一運賃は、長く乗った方がお得ですよね。


因みに、JR嵯峨嵐山駅から嵐電嵐山駅って、歩けない距離ではありませんよね。私だけ?

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