【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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その⑤……卒業旅行 中編

 

自己紹介が終わり、窓際の椅子に座って寛いでいると、何だか外の様子が慌ただしくなってきた。

 

窓から眺めていたら、さっきの番頭さんと、数人のヘルメット姿の人が走って行くのが見えた。

 

「どうした? あー、何かあったな……」

 

俺が見ているのに気付いたか、滝野(たきの)先生も窓の外を眺めて呟く。

 

「何でしょうか?」

 

「さて? この大雪だ。何かトラブったんじゃないか? ……電気はついているから送電線絡みではないと思うけど」

 

「純ちゃん先生、はるか。お茶いれたよ~」

 

加納(かのう)先輩から声が掛かる。

 

「お、サンキュー」

 

「ありがとうございます」

 

先輩方と志摩(しま)さんに土岐(とき)さんはコタツで(くつろ)いでいる。冬だからかコタツが置かれているのだ。

 

その上に湯飲みが六つ。既に四人の前に一つづつ置いてあり、真ん中にあるのを滝野先生に続いて受け取る。

 

椅子に腰掛け一口。うん、美味しい。

 

「あのビーノ、滝野先生のって言いましたよね?」

 

「俺の妹のだな。それがどうかした?」

 

志摩さんはあのビーノが気になるらしい。

 

「あれ。多分、私が前に乗っていたやつだと思います。ぶつけてできちゃった傷とか、初心者マーク貼りっぱで残った痕とか……。あのとき見た限りだと間違いないです」

 

志摩さんの?

 

「そうなんだ。志摩さんが昔乗ってたのか」

 

「はい。……でも、ナンバーが黄色になってたのには驚きました」

 

「ということは、志摩さんが乗ってた頃は、普通の原付だったってこと?」

 

「はい。訳あって売却したのですが、その時点では白ナンバーでしたよ」

 

「そっか……。じゃあ、その次の所有者が改造したのかな……? さやかが買ったときには黄色だったからなぁ……ん?」

 

今度は廊下の方が慌ただしくなってきた。ドタバタ走り回る音が、部屋の中まで聞こえている。

 

「これは何か起きてるな……」

 

「何か?」

 

のほほんとした表情で寛いでいた土岐さんが、少し不安そうな顔を見せた。

 

「いや。さっき窓の外を見てたらな……」

 

と、滝野先生が話しているところで、扉をノックする音が響いた。

 

「はーい。今開けます」

 

先生が出てゆく。

 

「たたた、大変です!」

 

番頭さんが飛び込んできた。かなり焦った様子。

 

「あ、皆様こちらにお揃いでしたか……」

 

「大変って、どうしました?」

 

「ああ。雪の重みで、女性浴場の露天風呂にある屋根が倒壊しました」

 

マジで!

 

「倒壊って、大丈夫なんですか?」

 

「はい。幸い皆様にお泊まりいただく分には問題ございません。しかし、女性風呂が使えなくなってしまったので、ご面倒お掛けしますが、ご入浴は男性浴場を交代でご利用ください。では、失礼します」

 

言うが早い。他にやることがあるらしく、すぐに出ていった。

 

「だとよ。どうする?」

 

滝野先生が問い掛ける。先輩方二人はそろそろお風呂がどうとか話していたから、行くつもりなんだろう。順番的に女性たちが先かな。

 

「どうせなら一緒に入らない?」

 

と思っていたところ、滝野先生の問いに、土岐さんが即答した。

 

「「「は?」」」

 

志摩さんと先輩二人の声が重なる。

 

「一緒にって、はるかや純ちゃん先生も?」

 

「うん」

 

加納先輩の質問に、またも即答する土岐さん。しかも、さも当たり前のような口調で。

 

つまり『混浴』。この人、ある意味凄い……。

 

「だってさ。考えてみてよ」

 

うん、考えてみましょう……。

 

「せっかくこうして知り合えたのにさ、この天候じゃあ、泊まって終わりだよ? 明日、帰りに何処かに寄るっていうのも難しいでしょ?」

 

確かに。というか、明日帰れるのか。それすら心配だ。

 

下手すると、明日の朝を迎えられるかも……は、流石に考えすぎか。

 

「だったら少しでも長くいろんな話したいじゃん? そう思わない?」

 

それも一理ある。

 

……というか、土岐さんの声。黄前(おうまえ)先生そっくりなんだけど。先生の授業聞いてる気分。

 

「俺は別に構わんぞ。というか、俺が決めることでもないだろう」

 

「純ちゃん先生が積極的だったら、教育委員会通報(クビになる)案件でしょ?」

 

「言ってろ。で、どうするんだ?」

 

そう、二人に問い掛けた。

 

「私は構わないよ。あやちは?」

 

沙也(さや)が良いなら……」

 

先輩方……。

 

「じゃあ、早速! 炬燵(こたつ)は暖かいけど、やっぱり温泉だよね!」

 

言うが早い。土岐さんが真っ先に動きだし、後追いで各々お風呂道具を手に歩き出す。

 

あの。俺まだ何も言ってないんですけど!

 

…………あれ?

 

「志摩さんは行かないんですか?」

 

そういえば、今の話に彼女も返事していない。嫌なのかな?

 

「あ、えっと……金山くんだっけ? ありがとう。ちょっと仕事で電話することになっちゃったから、後から行くよ。先に行ってて」

 

ん? 確か、休みだから来たって言ってたけど……。それでも仕事か。

 

「じゃあ、先行ってます」

 

既に四人は先に行ったので、それを追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

「お、金山。志摩さんは?」

 

お風呂の入口まで来ると、滝野先生が立っていた。

 

「仕事があるみたいです。後から来るって。……先生は何故ここに?」

 

「加納、堀田(ほりた)、綾乃が先に着替えてる。少し時間置いてから来いって」

 

なるほど……ん? 綾乃?

 

「先生、土岐さんのこと……」

 

「本人がそう呼べってさ。さて、そろそろ良い頃合いだ。行くぞ」

 

 

 

 

脱衣所で服を脱ぎ、後追いで入る。

 

「あ、純ちゃん先生にはるか」

 

「やっと来たね」

 

「あれ、リンちゃんは?」

 

三人は既にお湯に浸かっていた。

 

……大きい……。誰の、何が、とは言わないけれど。大きい。

 

誰の何がって? 言ったら最後、死ぬかもしれない……(社会的に)。

 

「仕事があるって言ってました。電話するって」

 

「そっかあ~。リンちゃん、一応仕事で来てるからね」

 

土岐さんが溜め息混じりに言った。

 

しかしこの人、隠す気全く無い。

 

湯船にタオルを浸けるのはマナー違反だから、タオルを巻いていないのは当然とはいえ、他の二人は湯船に肩まで浸かっているのに、彼女は半身浴。おへその辺りから上は丸見えだ……。

 

「休みじゃなかったのか?」

 

滝野先生が尋ねる。

 

「リンちゃん、出版社に勤めてるんですよ。で、雑誌の企画でキャンプ場特集組んでて、今回のが『手ぶらキャンプ』って言ってました」

 

手ぶらキャンプ。俺たちが当初予約していた奴だろう。

 

話ながら髪を洗い、身体も洗ってから、湯船に浸かる。

 

温かい。特にこの時期の温泉は良いねぇ。年寄り臭いか?

 

「本当は私たち、その手ぶらキャンプのつもりで来たんですよ。卒業旅行で」

 

加納先輩がそう言った。やっぱりそうだったのか。

 

「お、沙也ちゃんたち卒業旅行なんだね。ということは、春から大学生?」

 

「はい! 綾乃さんは?」

 

そういえば、先輩方と進路の話をしたことがない。今まで知らなかったけど、加納先輩は大学に行くらしい。

 

「私はバイク屋だよ。あ、先生のバイク、オイル交換は是非私の店で! リンちゃんのバイク御用達ですから」

 

加納先輩と話していたのに、ちゃっかり営業もしている。

 

本当に色々な意味で凄い人だ。

 

「浜松って言ってただろ? 遠くて行けんよ」

 

そうだ。自己紹介の時にそれらしい話をしていた。

 

「でも、一時期リンちゃんは名古屋から山梨まで毎週通ってましたよ。別のバイクで。それに、あのビーノで山梨から浜松や大井川に行ったこともありますよ。原付だった頃に」

 

「バカ言え。京都から浜松って、高速使っても三時間。あのビーノじゃ高速走れんから、下道で五時間は掛かるぞ。大井川っていつの話だ?」

 

「えっと。高校の時ですね」

 

「体力バカの高校生と一緒にしない」

 

体力バカって……。言い方! 俺高校生。

 

「じゃあ、はるかが乗って来れば?」

 

「俺?」

 

油断してたら話振られた。しかも、土岐さん名前呼びで。

 

「そもそも、名古屋から浜松ってそんなに近いんですか?」

 

そう返すと、綾乃さんが少し考え込む。

 

「まあ、近いとは言い切れないかな。京都から姫路くらいの距離じゃない?」

 

「そんなもんだな。なんなら京都から岐阜くらいの距離だよ」

 

綾乃さんの言葉に滝野先生が続いた。

 

「遠すぎます。なんで志摩さんは浜松まで行くんですか? バイクの整備だけで」

 

あ、本人居ないんだった。

 

「さて? 詳しいことは分からないけど。でも、リンちゃんが今乗ってるバイク。豊橋に住むお祖父さんから譲り受けたもので、元々うちの店で整備してたって噂はあるよ」

 

ああ。豊橋から浜松ならそんなに遠くないか。

 

「まあ、私が入ってすぐに定年退職した店長が言ってたって。今の店長から聞いた話だから、尾びれが付いてるかもしれないけど」

 

噂話にはよくあることだ。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~。吹奏楽部の大会ってそうなってるんだ」

 

先輩方と綾乃さんは、さっきとは別の話で盛り上がっている。

 

「失格にならない限り、金銀銅の賞が必ず貰えるんです。だから、『()賞でもすごいじゃん!』って、時々言われますけど、正直()()でも良いです、って」

 

「沙也ちゃん、今の駄洒落になってたよ」

 

「沙也、外寒いんだから寒くなる駄洒落はやめてよ」

 

「良いじゃんあやち。()()()()()()にもウケたんだから」

 

あやのんさん だって。すっかり打ち解けてる。

 

その様子を明後日な方向を眺めつつ聞いていた滝野先生が、ふと時計を見上げた。

 

俺もつられて時計を見る。

 

「志摩さん遅いな……」

 

確かに。かれこれ30分は経った。しかし、まだ入ってくる気配がない。

 

 





長らくお待たせ致しました。前話投稿から丁度一年経ってしまいましたね……。

その間に、新しい劇場版映画が公開され、アニメ第三期の放送時期も決まり。そして、京アニファンが忘れてはならないあの一件に動きがあり……。


これからも、響け!ユーフォニアム 界隈が少しでも賑わうよう、微力ながら応援しています。
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