悲しいかな、崩れるから平穏なのだ
寺子屋でのバイトを始め、3週間ほど経った。
最初こそ初めての教鞭に四苦八苦したが、今は何とか形になってきた。
「人に物を教えるには、教えられる人の三倍理解していなければならない」とは良く言ったものだ。
俺自身も沢山勉強した気がする。
話は変わって飛行に関しては思うように飛べるようになり、弾幕に関しても試作品ではあるがスペルカードを作れるまで成長した。
そんな感じで今現在は寺子屋のお昼休みだ。
「夢仁先生。明日使うテスト用紙の印刷が終わったけど机の上に置いとけばいい?くあぁ」
大きな欠伸で言葉を締めくくった彼女は、寺子屋の事務としてアルバイトをしている藤原妹紅さんだ。
俺の少し前に同じくアルバイトとして雇われたらしい。
最初はクールな外見で近寄りがたかったが、案外話好きでいつもお互いの休憩時間を世間話で潰し合っている。
ちなみに印刷機は河童の制作らしい。
河童って何だっけ?
「ありがとうございます。その様にお願いします。何だかお疲れのようですが夜更かしでもしました?」
「ん?あぁ。ここ最近嫌な夢ばかり見てな。1200年位前の出来事の夢で、お陰でここ10年はずっと寝不足だー。」
「それはまたスケールのデカいお話で。一度お医者さんに看て貰った方が良いかもしれませんよ?」
「大丈夫。死ぬことだけは絶対ねぇから。」
ちなみにお医者さんというのは彼女の発言が電波だからという訳ではない。
彼女は不老不死の蓬莱人で年齢は1000を越えているだとか。
見た目こそはまだ少女だが、言ってることは嘘ではない。らしい。
死ぬことはないという発言も結して比喩ではないのだ。
「でも疲れてるのには変わりないし、あんまり無理しない方が。病気になれば死なないまでも辛いんでしょ?」
「あーもう、うるせーなー。夢仁はまだ長い自分の将来の事でも心配してろ!」
まぁこんな感じに彼女とは良好な関係を築けている。
「二人とも。休憩時間は終わってるぞ!仲良くするのも良いけど早く仕事に戻れ。」
そして今日も昼休みが雑談で消失していった。
授業の方は算数とそろばんは俺が受け持っているが、歴史や国語は慧音さんが行い、俺はアシスタントをしている。
ちなみに当寺子屋一番の問題児は我らが師匠であるチルノだった。
どの教科においても遅れてしまう。
そもそも本人が理解しようとしないのだ。
「だーかーらー分かんないよ!夢仁の教え方が悪い!」
「ここでは先生って呼ぶの!やる気がなきゃ出来る物も出来ないよ。」
「だって理由が分かんないもん。じゃあ夢仁先生!なんで丸は3.14を掛けるのさ。3.14の理由を教えてよ。」
「んぐっ・・・後で調べるよ。」
チルノさえしっかりしていれば授業のペースが乱れる事はないのに。
慧音さんが算数を誰かに押しつけたかった理由が、今なら分かる気がする。
そして今日も短く充実した一日が終わろうとしていた。
帰ったら明日のテストの平均点を上げるためチルノに勉強を教えねば。
あとチルノに言われた円周率が3.14である理由も調べなければならない。
そういう物だとしか考えたことがなかったので、あの質問は痛かった。
そんな事を考えながら帰り道の森の中を歩いている時だった。
「貴方が猿橋夢仁ね?」
彼女は道を塞ぐように仁王立ちをしていた。
早苗さんの様な格好をした巫女さんだった。
「魔理沙に掛けた呪いを今すぐ解いて。それとも永遠の寒い封印に就きたい?」
口調こそは余裕を感じさせるが、彼女の内に秘めたる感情は増大なる憤怒だった。
この日この時までが俺の覚えている平穏な日々である。
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ここに来てから俺は能力である猿夢を発動させた記憶はないが、いくら説明しても彼女は話を聞いてくれなかった。
そして彼女は規格外に強かった。
「能力が危険なくせに、貴方自身はすこぶる弱いわね。逃げてばかりいないで攻撃の一つでもしてみたら?」
「する隙すら無いじゃないか!それとも一発位撃たせてくれるのか?」
「そうね、一方的にやっつけても私の気は晴れ無ないわ。絶対的な敗北を味あわせた後に退治する。さぁ貴方の弾幕は何色かしら?」
相手は完全に油断をしている。
もし打開するなら今しかないだろう。
俺は一枚目からラストスペルを切ることに決めた。
二枚しか無いけど。
「夢符『スペクタクルゴージ』」
3m程の巨人型の弾幕を使い魔達がえぐり出し、その弾幕を次々と巫女に向かって投擲していく。
簡単に言うとこの間練習していたえぐり出しを、スペルカードとして整え強化したものだ。
しかし、剛速球となった弾幕は巫女を掠めることもなかった。
彼女は身を少し翻す程度で、まるで予期しているがの如く避けていく。
「弾同士の感覚が広いし、ペースも単調で目を瞑ってても避けれるわ。第一美しくない。そこいらの妖精の方が良い弾幕を撃つわよ。こんな弱い奴に魔理沙はやられたの?もういい。退治する。」
俺の中途半端な弾幕は尚更彼女を激昂させてしまった様だ。
やっぱり逃げることだけに専念するべきだった。
今更ながら退治されることに現実味が増してきて、絶望感が沸いてくる。
しかしもう打開策がない。
「最後に言いたいことはある?氷の妖精には伝えといてあげる。」
そう言い彼女はスペルカードを構える。
「ほ・・・本当に俺は知らないんだ!」
「そう。最期までがっかりね。」
彼女はスペルカードを宣言した。
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前にも同じ様な経験をしたが、俺は無事だった。
今回も助けられていた。
しかしまた射命丸さんが通りかかったという訳ではない。
目の前のあいつにだ。
「これは僕が先に目を付けてた獲物だ。横取りしないで欲しい。随分と楽しそうなことしてるじゃん。一匹王子」
この世界に俺の悪口を知ってる者は居ない。
そしてそれを面と向かって俺に言う奴は一人しか居ない。
「何でお前が居るんだ?」
外の世界で一緒にオカルト研究ごっこをしていた最悪の隣人で最高の相棒。
西条戸見乃だった。
「再会の抱擁をしたい所だが詳しい説明と一緒に後にする。取りあえず今は逃げろ。博霊の巫女相手では分が悪すぎる。」
彼女が会ったら逃げろの危険人物、博霊の巫女だったのか。
勝てる筈が無いわけだ。
俺も俺で彼女の特徴位は聞いておくべきだった。
「恩に着る。戸見乃!」
今俺に出来ることは一つ。
相棒を見捨てて逃げることだ。
俺は今持てる力の全てを逃走に回した。
「・・・そこは少しくらい僕を心配するとこじゃないのかな?やっぱり僕がしっかり教育しないと。」
「あんた誰?何勝手なことしてんの?」
勿論突然の乱入者に獲物を逃がされた巫女は穏やかでなかった。
「ん?僕かい?僕は西条戸見乃だよ。最近村で退治屋を始めたんだ。同業者同士よろしくぅ!」
「嘘ね。妖怪が退治屋?笑えもしないわ。」
「まぁまぁ、取りあえず今回は僕に免じて目を瞑っていて欲しい。睡符『誘いの聖砂』でね。」
突如現れた砂のような弾幕に覆われ、博霊の巫女はまるで電池の切れたよう深い眠りに落ちていった。
・夢符『スペクタクルゴージ』
猿夢二つ目の惨殺えぐり出しが元ネタ。
弾幕製の巨人からえぐり出した弾幕を相手に投げつける。
・睡符『誘いの聖砂』
ドイツのサンドマンが元ネタ。
砂状の弾幕なので避け難いだけの弾幕のはずだが。