何処まで行けば友達だ?遊ぶ所まで?心を開く所まで?
突如ヒーローのように現れ、俺を助けたあいつ。
つまりは西条戸見乃の事について話をさせて欲しい。
知らない友人の自慢ほどつまらない物はないのは重々承知だが、少々お付き合い願いたい。
戸見乃は俺が住んでいたアパートの隣の部屋に引っ越してきたフリーターだった。
まだ日も昇っていない朝4時の事である。
「おはようございます。気持ちの良い朝ですね!隣に引っ越してきた西条戸見乃です。」
連打されるインターホンに眠い目をこすり、ドアを開けると奴が居た。
確か隣には狂子さんという美人女子大生が住んでいたが、新しい隣人は少年のようだ。残念
見ると彼は手にはお蕎麦を持っている。
未だに日本でこの風習を世襲する若者が居るとは思わなかった。
しかしなぜつけ蕎麦にした?
既にちょっと伸びてきているではないか。
「何時だと思ってるんですか?挨拶ならもう少し後にして下さいよ。」
「本当は昨日の内に挨拶しようと思ってたのですが、遅くに着いたもので夜分お伺いするのはご迷惑かなと。そう言えば名前は何て言うんですか?」
夜明け前にお伺いするのもご迷惑だ。
あと5時間は寝る予定だったのに。
「猿橋です。もう寝ても良いっすか?」
「嫌ですねー。猿橋は表札を見れば分かりますよー!僕は名前を聞いてるんです。ファーストネームですよ。アンダースターン?」
こっちが嫌ですねー。だバカ野郎。
寝起きで機嫌が悪いのを全面に出しても、新しい隣人はちっとも気に留めない。
てか普通隣人の下の名前を気にするか?
「夢仁。」
「ほう、なるほど。ファンタスティック!」
自己紹介をしてこの返答は初めてだ。
こいつはオカシイ。そして主に性格がうざい。
「もう良いよね?」
「あっ!お蕎麦ですね?どうぞ!」
ちがーう。
その後僕も腹が減ったと部屋に上がり込み、一緒に蕎麦を食べる運びとなった。
初対面の奴と一つの丼からつけ蕎麦を分け合う。
なんなんだこの状況?
「つまり僕は西条で戸見乃なんです。これだけトミノ地獄を暗喩している名前はあるだろうか?そして貴方は猿橋夢仁。略せば猿夢でしょ?ほら、都市伝説で繋がった。これはもう運命でなのです?そういえば今日お仕事は何時から?てか何してんの?」
聞き慣れない単語の羅列が戸見乃の口より紡がれる。
新興宗教にでも勧誘されているのだろうか?
それとちょいちょいタメ口を挟んでくる。
「車掌。今日は昼から。」
「かああぁ!素晴らしい!猿夢は電車の車内を舞台に繰り広げられる惨殺劇。僕よりも怪異に縁が深い。昼からだよね?もう少しお話ししよう!!」
「やだ。」
これから戸見乃は仕事の日以外は毎日のように家へ遊びに来た。
そして奴の尽力で俺も少なからずオカルト関係に興味を持ってしまった。
ある意味では洗脳だ。
二人で都市伝説の研究や伝承の舞台へ旅行、また心霊スポットの廃墟に侵入し怒られたこともあった。
そんな日々を俺は嫌いになれなかった。
そんな中、戸見乃は一つだけ絶対に譲らないことがあった。
一緒に風呂に入らないことだ。
温泉旅館に泊まっても一人で水道水の部屋風呂で済ませてしまう。
その理由は俺がこの世界に来る直前に知った。
少年かと思っていた彼は彼でなく彼女だったのだ。
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そんな彼女が小屋を訪ねてきたのは、巫女に襲われた一件の次の日だった。
朝の4時、ノックの音に引き戸を開けると戸見乃が腕を広げて立っていた。
「良いよ。おいで!!」
俺は引き戸を閉め、一応鍵も閉めておいた。
今日は寺子屋でテストがある日だ。
答え合わせは結構疲れるので、もう少し寝て万全の状態で挑むとしよう。
7時頃いつも通り起床し、引き戸を開け爽やかな朝の空気と暖かい陽光を室内に取り込む。
彼女はまだ同じ場所に立っていた。
気持ち目が赤い気がするが、寝不足だろうか?
「夢仁、あの人誰?」
「頭が可哀想な人だよ。ああなったら有機物としてお終いだ。」
「いくら何でも非道いよぉ・・・一応僕命の恩人なんだよ?」
戸見乃も気が付いたら幻想郷に来ていて、今は人里で退治屋を始めたらしい。
退治屋ってそんなに気軽に始められるのか?
「今日来たのは、昨日君が何故博霊の巫女に襲われていたのかを知りたかったからだ。理由があるんでしょ?そしてその前に僕は君に告白しなければならないことが三つ有る。聞いて欲しい。」
相変わらずズラズラしゃべる奴だ。
何も変わっていない事に少し安心する。
「聞こう。」
「うん。まず一つ目は僕は妖怪だ。都市伝説に脚が生えそのまま妖怪になった。君と同じだね。そしてそうなると一つの仮説が出るだろう。それは正しいよ。ぼくはトミノ地獄だ。」
トミノ地獄
西条八十の執筆した詩集「砂金」に収録された詩だ。
怪しくも美しい抽象的な文章に、どこか悲しい雰囲気が読む物を引き込む名作だ。
しかし、立て続けに朗読者が不幸に見舞われ「音読したら死ぬ詩」という不名誉な噂がついてしまった。
昨日人里で再会した時、もしかしたらとは思っていた。
「二つ目は僕は君が妖怪だと知っていた。君が猿夢だという事を知っていて近づいたんだ。最初は君の猿夢としての能力を僕の計画に利用しようと企んでいたんだ。これについては友人として謝りたい。ごめん。」
「それはもう良いけど・・計画って?」
「それはまだ気にしなくていい。」
即答だった。そして強い否定が含まれていた。
「そして三つ目だが、僕は時々君のことを性的な目で見てい「実は俺も博霊の巫女が何故襲ってきたか分からないんだ。」
「・・・・」
「・・・実は僕は君を」
「実は俺も博霊の巫女が何故襲ってきたのか分からないんだ。」
努めて冷静に聞いていたつもりだが、戸見乃の二つの告白は衝撃的だった。
最初は騙されていたというのは気持ちが良くない。
しかし、それで今までの戸見乃との交友が偽りだったとは思わない。
「分からないの?本当に?博霊の巫女があそこまで感情的になるのも珍しいんだ。何か心当たりはないか?この世界で生きていくのに彼女を敵に回すのは、非常によろしくないことなんだ。」
「確か、魔理沙に掛けた呪いを解いてって言ってた気がする。でも俺は魔理沙って子に能力を使った覚えはないんだが。」
「成る程ね、多分それだろう。取りあえず魔理沙さんの家へ行こう。」
「駄目だよ夢仁!寺子屋に行こう。授業の時間になっちゃうよ?」
静かに聞いていたチルノが突然大きな声で会話に入ってきた。
確かにそろそろ向かわないと授業が始まってしまう。
新米講師の俺がテストの日に遅刻はやばい。
「明日じゃ駄目か?今日はこれから仕事なんだが。」
「君は優先順位を付けるのが下手だね。君のせいで魔理沙って子が苦しい目に遭っている。手遅れになったら優しい君は一生後悔することになるだろう。魔理沙さんがどうなろうと知ったことはないが、君が悲しむのは僕が許さない。今何をするべきか考えるんだ。」
結局チルノに今日は体調が悪くて行けないと慧音さんに伝えて貰うことにした。
別れ際「あまりアイツと関わらないで。何だか凄く不吉な感じがして気持ち悪い。」と人を選り好みしないチルノには珍しい事を言っていた。
確かに戸見乃は初見では変な奴だが中身は良い奴だ。
いつかきっと彼女にも伝わるだろう。
チルノに魔理沙の家の場所を聞き、戸見乃と向かうことになった。
「ちなみに魔理沙さんとはどういう関係なの?あぁ、妬いてるわけじゃないよ。状況を知りたいだけだ。」
「さっきの妖精と歩いてたとき襲撃されたんだ。この世界のルールをあまり把握していないから、彼女を殺されたと思って少し怒っちゃったかな。でも能力は使っていない。」
「ふうん。ちなみにさっきの妖精、チルノちゃんだっけ?彼女とはどういう関係なの?これに関しては滅茶苦茶妬いてるんだ。」
「頭に浮かんだことそのまま話すのやめた方がいいよ。」
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魔法の森の奥深くに魔理沙の家はあった。
鬱蒼と茂る木々は日の光を通さないので昼間でも薄暗く、そこに佇む彼女の家はまさしく魔女の住処という感じだ。
「俺あいつ嫌いなんだ。戸見乃先に行ってよ。」
「今更何言ってるの?自分で行ってよ。」
しぶしぶドアをノックする。
しばらくしても返事はなかったが、室内から人が動く音がする。
そしてゆっくりと扉が開くとそこには黒い魔女の姿があった。
しかし、以前の天真爛漫な彼女の面影はなく、頬はやせこけ目の隈が特に非道く病人のようだった。
「おいおい。現実までお前に会わなきゃ行けないのかよ。頼むからもう許してくれ」
「どうしたんだよ。何があったんだ?」
「どうしただ?よく言うぜ。お前が寝る度に夢に出てくるんだ。多分次に寝るときが最期だろう。向こうで私を挽肉にして現実では心臓麻痺か何かで死ぬんだろう?」
彼女の話す内容は猿夢の話と酷似していた。
戸見乃は後ろで静かに聞いているが、同じ事を考えているのだろう。
「最後にその夢を見たにはいつ?」
「一週間前だよ。冷やかしに来ただけなら帰ってくれないか?お前の声を聞いてるだけでもう気が狂いそうなんだ。なぁ頼むよ、帰ってくれ!私が壊れてしまう。」
「でも・・・」
「夢仁帰ろう。今日は話にならなそうだ。」
戸見乃の指示で3分ほど話しただけで撤収することになった。
今から行けばテストの時間に間に合いそうだが、そんな気分にはなれない。
「時間がないな。魔理沙さんもう限界が近い。おそらく一週間前から寝てないのだろう。」
「うん、やっぱり俺が原因みたいだし早急に対策を立てないと。とりあえずは呪いを解かないまでも、睡眠を取らせないと死んじゃうよな。」
「そうだね。これからどうする?」
「とりあえずは家に帰って案を練ろう。」
二匹の妖怪はその後一言も話さず家路についた。
今回より会話文に変わる時の行間を2行から1行に変更しました。
開けすぎて読みにくい気がしたので。