あなたは誰から見たあなたを演じている?
あれから暫く考えてみたが、これと言った結論が出ることはなかった。
魔理沙は間違いなく猿夢を見ているのだろう。
しかし、猿夢には他の都市伝説にありがちな対処法が話の中に出てこない。
今出た案の中で一番確実性が有りそうなのは、元凶である俺自身を退治することだった。
それは俺が困る。
「魔理沙さんは夢仁の夢の中に出てくるのか?」
「いや。幻想郷に来てからは猿夢自体見ていないな。」
「流石の僕でも解決策は出てこないな。やっぱりこういうのは専門家に見て貰うのが一番なんだけど・・どうもね。」
専門家?そんな人が居るのなら始めからその人を頼ればいいと思うのだが。
簡単な事なのに何故煮え切らない態度なのだろうか?
「その人の所へ行こうよ。アマチュア二人で話してても埒が開かないし。」
「いや、その専門家ってのが博霊の巫女なんだ。」
なるほど。確かに一番会いたくない。
「そういえばこの前はよく博霊の巫女から逃げ切れたな。どうやったんだ?」
「ん?・・あぁ、ちょっと騙くらかしただけだよ。君はよく本題を置いといて変なところを気にするね。悪い癖だよ。」
変な所だろうか?
あの博霊の巫女からの逃走劇は誰でも気になるだろう。
また彼女が退治にやってきた時の参考にもなるし。
でも確かに、今気にすべき事はこの問題をどう解決するかだ。
彼女に再会することなく解決できれば一番なのだが。
「他に専門家は居ないのか?」
「残念ながら僕より優秀なのは彼女くらいだろう。」
「自称退治屋がよく言うよ。」
「ちなみに自称退治屋は自称策士家でもある。解決策は無いまでも代替策はあるんだな。そして残念ながら次なる目的地は博霊神社だ。」
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博霊神社も人里から離れた場所にあった。
早苗さんの神社といい、どちらも参拝しづらい場所に作ってしまったものである。
博霊の巫女は既に鳥居に背を預けて立っていた。
恐らく俺達の気配を察知して待っていたのだろう。
もしこちらが隙を見て奇襲を仕掛けたつもりで来ていたのなら、返り討ちに遭っていただろう。
間違っても奇襲なんてしないけど。
「私の一番会いたい妖怪と一番退治したい妖怪が、そろいも揃って何の用?自首ならちゃんと首は洗ってきたんでしょうね。まさか参拝に来た訳じゃないでしょ?」
とにかく怖い。
外の世界の巫女さんはもっと神聖で粛々としている。
決して彼女のような任侠映画の女頭領顔負けの気迫は持っていない。
「先ほど魔理沙に会ってきました。彼女の症状は間違いなく俺の能力によるものでしょう。しかし、俺は彼女に呪いを掛けたつもりは有りません。」
「で?」
とりつく島もない。
随分嫌われたものである。
ビビっちゃ駄目だ俺。
「俺としては彼女の呪いを解きたいと思っています。その為に専門家である貴女にご助力頂きたいと思って参りました。」
「・・・」
眉間にしわを寄せて睨む彼女。
一体どんな人生を送れば神職に就く彼女がそんな表情を出来てしまうのだろうか。
「とりあえず貴方と魔理沙が会った日のことを聞かせて。そこが原因だと思うから。貴方をどうするかはそれから考える。」
俺と戸見乃は神社の住居スペースに上げて貰い、チルノと一緒に魔理沙に襲撃された日のことを話すことになった。
民家の和室という感じだが、異様なのは辺り一面に散らばった妖怪や呪術関係の書物だった。
恐らく魔理沙の呪いを解くために、情報を集めていたのかもしれない。
予想通り博霊の巫女と魔理沙は深い仲なのだろうか。
「確認したいんだけど、貴方はちゃんと自分の能力を制御できてる?見てると能力の割に妖力が弱い気がするのよね。」
「制御できているというか、自分の能力が何なのかあまり理解できてないんですよね。」
そう。未だに俺が使っているこの能力が具体的にどういう物なのか分からないままだ。
猿夢を操る程度の能力・・・ではないだろう。
「博霊の巫女様。夢仁は3年くらい前に発生した新しい妖怪なんです。まだ経験が浅いのですよ。夢仁や、ちなみに僕は300年位前から生きてるから実は大先輩なんだよ。」
「それじゃ計算が合わないだろ。トミノ地獄はそんなに古くない。いらない見栄張るんじゃないよ。」
「おっと、失言だったね。気にしないで。」
それを聞くと博霊の巫女は深く考え込んでしまった。
どうやら俺が年の浅い妖怪だということが引っ掛かっているらしい。
今までは冷酷な処刑人というイメージだったが、首を傾げて熟考する彼女は頼れる専門家という感じがしなくもない。
「もしかしたら能力が暴走したのかもしれないわね。他にも力の弱い妖怪が、不相応な能力を押さえきれずに暴走なんて事たまにあるのよ。」
力の暴走。
確かそんな単語を何回か聞いた気がする。
俺が悪意を持って魔理沙に呪いを掛けたという疑いは、どうやら晴れたのかもしれない。
しかし、根本的に俺の能力が関わっており、それで終わりというわけにはいかない。
責任を取らなければならない。
「魔理沙は暫く寝ていないみたいだし、睡眠を取らせないと呪いよりも先に過労死していまいます。」
「そんなこと言われなくても分かってるわよ。だから焦ってるんじゃない。」
「俺に策があるのですが協力していただけませんか?」
そこまで聞いて博霊の巫女は少し怪訝な表情をする。
この策は成功する確率が不確定だ。
気むずかしい彼女を説得するのは難しいかもしれないが言うしかない。
この状況を打破できるかもしれない唯一の荒療治を。
「魔理沙に呪いを掛けます。」
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魔理沙は俺の管理下にない呪いによって苦しんでいる。
要するに改めて猿夢の呪いを掛けることによって、俺の管理下にある呪いで上書きをするということだ。
俺が直接管理する事で何かアクションが起こせるかもしれない。
「自分の能力が何なのか把握できてない貴方に何が出来るの?」
「分かりません。何も出来ない可能性の方が高いかもしれません。」
「話にもならない。そもそも能力は貴方自身のアイデンティティーみたいな物なの。人を殺すためだけの能力は人を殺すためだけにしか使えない。」
ここまでは予想通りの返答だ。
こんな博打にもならない提案は俺でも乗るはずないだろう。
彼女としては俺が裏切ってくる可能性も十分考えられる。
「勿論条件を付けます。魔理沙が夢を見ているときに危険だと判断したら、俺を退治して下さい。」
「言っておくけど私は躊躇しないわよ?」
「いや駄目だ。その提案は受け入れられない。」
ここで戸見乃が突如怒りだす。
ちなみに彼女は普段全く怒らない。
「僕にはその策が成功するとは思えない。失敗して退治されるのが落ちだ。僕としては魔理沙さん何かより夢仁の方が大事なんだ。君を守るためならば博霊の巫女様にだって世界にだって反旗を翻そう。」
「どの道ほかの解決策は俺を退治するしかない。ただ巻き込まれた魔理沙さんは猿夢ごときで死んではならない。何で分からないんだ、散々話しただろう。」
俺も同じく激昂し戸見乃の胸ぐらを掴みあげる。
簡単にバランスを崩す戸見乃に、本当に大丈夫なのかな?なんてこの後の事を考える。
「だって夢仁が居なきゃこんな世界に生きてても意味がないんだ。こんなに思ってるのにそっちこそ何で分からないんだ!」
「分らずやが!俺が理不尽を何よりも嫌うのはお前も良く知ってるだろ!自分の信念を曲げてまで俺はこの世界を生きたくない!」
そこまで言うと俺は抑えきれない感情(?)を拳にのせて彼女にぶつけた。
やはり体重の軽い彼女は意図も簡単に吹っ飛ばされてしまう。
「ちょっと貴方達なにをやってるのよ!友達なんでしょ?流石に殴っちゃ駄目でしょ!」
興奮ぎみに仲裁に入ったのは博霊の巫女だった。
思惑通り情には熱いみたいだ。
「でも俺は本気なんです!どうか一度だけチャンスを下さい!」
「分かったから取り敢えず二人とも落ち着いて。戸見乃には悪いけど魔理沙は私にとっても大切な友人なの。駄目な時は夢仁を退治する。でも戸見乃も友達ならもう少し夢仁を信用してあげて!」
戸見乃を見ると既に我慢できずニヤニヤしていた。
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そもそもこの案に博霊の巫女は全くの得がない。
呪いを掛け直すリスクを考えれば、先に俺を退治してしまえば良いだけの話なのだから。
かと言って俺達が勝手に魔理沙に呪いを掛け直そう物なら、間違いなく博霊の巫女の妨害が入る。
つまり重要なのは話を盛大にはぐらかし、有耶無耶にしてしまう事だったのだ。
その上でこの提案を無理矢理押し通す。
つまりは先程のやり取りは全部演技だったりする。
「夢仁が理不尽を何よりも嫌う、とか言い出したときは流石に吹き出しそうだったよ。いつ君が他人に興味を持つようになったんだい?」
「こう見えて俺は結構正義漢なんだ。嘘は言ってないよ。そっちこそ随分恥ずかしいこと言ってたじゃないか。」
ちなみに台詞は棒読み対策のために全部アドリブだ。
あったのは激しく喧嘩するというシナリオだけ。
「全部本気に決まってるじゃないか。じゃなきゃ恥ずかしくて言えないよ。」
「やめてくれ気持ち悪い。」
「演技とはいえ本気で殴るからちょっとドキドキしちゃったよ。」
「それはマジで気持ち悪いぞ。怪しまれないようにしっかり殴れと言ったのはそっちだろ?」
今日の収穫は今夜直ぐに魔理沙に呪いを掛ける許可を得たこと。
反省点は友人の特殊性癖を引き出してしまった事だろう。
しかし問題は全然解決していない。
まずは今夜、俺は夢のなかで上手く立ち回れるかということだ。
正直自信はない。
普段読んでる分には気にしないけど、台詞の書き分けって難しい。