足を掻けば前には進む。
予想をしてなかった訳ではなかったのだが、予想していた中では一番望ましくない展開となってしまった。
俺は先程救うと約束した少女を今本能のままに殺そうとしている。
「活け作りー。活け作り。」
緊張感の無い所定の放送は淡々と流れていく。
紛れもない俺の声で、俺の意思とは無関係に。
放送が終わった頃に魔理沙の二つ前の席に座っていた男性に小人が近付いていき、手に持った刃物の様なもので切りかかる。
男性は逃げ出すことは無いが尋常では無い叫び声をあげる。
車内には鉄と酸の混ざったような悪臭が漂う。
しばらく挽き肉を捏ねるような音が車内に響き、男性の呻き声も聞こえなくなってきた。
最初に殺される男性と次に殺される女性は、恐怖心を与えるための存在なので実在はしない。
そうとは分かっていても目を背けたくなる光景が広がっていく。
これだけの惨劇が近くで起きているにも関わらず、魔理沙が逃げ出したり抵抗することは出来ない。
彼女の唯一の対処法は目覚めることのみだ。
「参ったな…」
そして同じく俺の身体も自由が利かなくなっていた。
これが夢だということは重々承知しているのだが、車内に放送をするマイクは離すことが出来ずこの場から動くことも出来ない。
そして口が勝手に動いてしまい、猿夢を実行していく。
「抉り出しー。抉り出し。」
再び小人が現れ、魔理沙の前に据わった女性の目をスプーンの様なもので抉りだす。
つんざくような悲鳴が車内に響き渡る。
早くも次は魔理沙が挽肉にされる番になってしまった。
何か手を打たないと彼女が俺に殺されてしまう。
「せめて彼女の前にもう一人いれば…」
いや。そうだ。
もしかしたら彼女の前に身代わりを作ることが出来るかもしれない。
俺は代わりに挽肉になる身代わりを想像してみる。
実在しない人物なら誰でもいい。
それから直ぐの事だったが、これは成功なのだろうか?
車内には男性が一人増えていた。
先程活け作りにされた筈の男性だ。
「なんだ!意外と簡単だったじゃないか。後はあの人を挽肉にすれば解決だよな。」
自分で言ったのだが、何だか身勝手な発言だなと思う。
まぁでも男性は俺の想像の中だけの存在なのだし、どうしようと問題は無いはずだ。
余裕が出てきたからか、そんな関係の無いことを考え出す。
そしてマイクを持ち、車内に放送を流す。
「活け作りー。活け作り。」
あれ?今、俺…何て言った?
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夢仁と魔理沙が眠りについてから一時間は経ったろうか。
心配なのは魔理沙のうなされ具合が時間の経過と共に悪化していく。
夢仁は随分難航しているようだ。
霊夢はイライラしているのか、顔には出してないが部屋の中を行ったり来たりしている。
「魔理沙さんも強いお方の様ですし、彼女を信じてゆっくり待ちましょうよ?」
「…ちっ」
黙ってれば可憐で美しい少女なのに勿体ない。
早く二人とも起きてくれないだろうか?
おっかない少女と二人きりでは僕の身が持たなそうだ。
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あれから何回活け作りと抉り出しを繰り返して来ただろうか。
別の実在しない人物を出現させれば身代わりになるのかも知れないが、頭の中でモンタージュすれば何処かに誰かの印象が入ってしまう。
他にこれといった解決策が浮かぶ事もなく、こうして時間稼ぎを続けている。
もう一度男性を出現させようとした時異変が起きた。
「あれ?おかしいな。出てこない。」
今車内では女性の抉り出し真っ最中で、早いところ次の男性を出さないと挽肉に続いてしまう。
「もうさ、無駄なことはやめなよ?俺が彼女を救う義理なんて無いだろ?」
その無気力な発言は俺の口から発せられていた。
「あれ?俺何言ってるんだ?」
「だから諦めろって言ってるんだ。このまま魔理沙を殺しても俺が退治されないように何とかしてやるからさ。」
端から見たら一人で会話をしているようにしか見えないが、実際に一人で会話しているのだ。
ここに来て何だこの状況は?
俺はいつの間に多重人格になってしまったのだろうか。
でも多重人格か…何だかこれはヒントになりそうな…。
「挽肉ー。挽肉。」
「あっ!しまった。勝手に放送すんじゃねぇよ!!」
気付けば女性の抉り出しは終わっており、次の身代わりを作るよりも早く放送が済んでしまった。
そして今まで微動だにしなかった魔理沙がこちらに視線を送り、すがるような表情でこちらを見て何かを叫んでいる。
その姿はまだまだ年相応のあどけない少女だ。
別にその表情が可愛かったという訳ではないが、やっぱり彼女は救わなければならない。
どうにか出来ないか?
先程の多重人格というのが何か引っ掛かる。
いや、どうにかするしかない。
明晰夢を操るんだ。
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「話が違うじゃないか。ふざけるな!」
魔理沙の寝言?で良いのだろうか。
その一言は、夢仁のバカがしくじったという事の確定的な証拠だ。
「どうやら失敗したみたいね。残念だけど、お友達は約束通り退治させて貰うわよ。」
霊夢はそう言うとまだ眠っている夢仁に向かって手をかざす。
その姿に慈悲の心は全く無い。
今後の計画のためには、まだ幻想郷の住人といざこざを起こすのは不味い。
かといって夢仁を失うのも今は痛いし何とか説得するしかない。
元々人見知りな僕にこの役目を押し付けた夢仁を恨む。
「そういえば夢仁は魔理沙さんに、今回のお詫びとして夢に関する魔法を教えると言っていました!その張ったりがバレたから魔理沙さんは怒ったのでしょう。流石に命懸けだからそのくらいのバックが無いと魔理沙さんも了承しないでしょうしね。」
「貴女のその張ったり自体が無理あるわね。ずっと私たちと一緒にいて何時約束出来るのよ。あまり邪魔をするようなら貴女も退治するわよ?」
「まぁ、そうですよね。」
実際の所、こうなる可能性も考えていなかった訳ではない。
もし駄目なら駄目で『魔理沙と霊夢を食ってしまえば良い』と最初から決めていたのだ。
僕はバレないようにこっそりと臨戦態勢に移る。
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俺は魔理沙の目の前に立っている。
そして今は身体の自由が利く。
実在しない人物を想像出来ない俺は、実在する人物を創造する事にした。
俺だ。
やはりさっきの多重人格がヒントになった。
猿夢としてでの俺ではなく、猿橋夢仁としての俺を別に作り出したのだ。
そのためか今度は夢の干渉を受けることなく身動きが取れる。
そして乗務員室ではもう一人の俺が放送をしているという変な状況だ。
「怖い思いをさせて済まなかった。もう大丈夫だ!!…多分。」
「おっ…遅いよ!!流石に殺されるかと思ったぜ。」
魔理沙はいつもの彼女らしくなく、目に少し涙を浮かべて俺の胸を叩いてくる。
心から申し訳ないと思う。
「それでこれからどうするんだ?早くしないとアイツらが来るぞ。もう放送が済んだ後なんだ!」
アイツらとは小人達の事だろう。
放送をしたのは俺自身だから言われなくても分かるが、彼女は俺が放送していた事に気付いていないのだろうか?
「取り敢えず魔理沙は目を閉じて俯いていてくれ。恐らくこれで夢から覚めるはずだから。」
「はぁ?それじゃあ私が挽肉にされちまうじゃないか!」
「大丈夫だって!とにかく言う通りにしろ!!俺が身代わりになるから。」
俺が言い終わると同時に業務用の精肉機の様な物を小人達が運んでくる。
自分で言い出した事だが、この殺され方は滅茶苦茶嫌だ。
しかし、ここまで来て逃げるのはカッコ悪いので、俺は出来る限りカッコつけて小人達の方へと歩き出した。
後ろからは彼女の叫び声が聞こえる。
あれだけ目を閉じろと言ったのに。
俺は魔理沙の目の前で粉々になった。
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僕が和解を諦めて霊夢に襲いかかろうとした時だった。
魔理沙と夢仁が悲鳴を挙げながら目を覚ました。
夢仁よ。
男なら「きゃあああぁ」は無いだろ。
投稿頻度落ちてますが頑張ります。