「はぁ・・はぁっ・・・冗談じゃないよ、」
心拍数は高いままだが、ようやく思考は落ち着いてきた。
小屋から這うように逃げ出し、今は木の下で詰まりそうな呼吸を整えている。
友人の影響でオカルトに興味を持ち、二人で研究まがいのお遊びをしていたが
実際に経験するとこんなにも恐ろしいとは思いもしなかった。
一旦思考を切り替え、今自分の置かれた状況を分析してみる。
小屋から出た時、近くに集落のようなものが見えた。
どの家も文明に取り残されたようなみすぼらしい平屋ばかり。
車を所有している家は一軒も無かったように見えた。
集落の周りは一面田園風景で、鮮やかな新緑が水を張った水田にきらめいている。
田植えを終えたばかりらしく、稲はまだ15センチくらいだ。
丁寧に手入れをされた田んぼを見る限り人は住んでいるらしい。
限界集落というやつなのだろうか。
一体どこに拉致られたんだ・・・?
近くに小高い山が見えた。
周りには遮るものもなく見晴らしは良いかもしれない。
そんなに大きな山でもないので、遭難の危険もないだろう。
もしかしたら近くの街が見えるかも知れない。
そんなことを考えているうちに何とか呼吸も落ち着いてきた。
日も高いし調査のために登ってみるのも良いかもしれない。
この判断が大きな間違いだった。
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「暑い・・・喉が渇いたぁ・・」
五月も中ごろ。
夏服には替えてあったが、晴天での登山は中々汗をかく。
運動のために設計されていない制服は、体温を閉じ込め蒸していた。
日ごろから健康のため運動はしていたが、その分代謝が良く汗でびっしょりだ。
「下から見たら大したことない山なのに、登ってみるときついなぁ。」
一人ぶつくさ文句をたれながら歩いていると、泉のようなものが見えてきた。
うっとおしい汗を流すことができそうだ。
近づいて覗いてみると水はとても澄んでおり、どうやら給水も事足りそうである。
しかし、強烈な違和感と非現実への特有の不快感を感じた。
「嘘だろ・・・」
水面にはいくら乗り出そうとも自分が映らなかった。
なんてことだろう、
鏡に反射しないなんて幽霊か吸血鬼ぐらいのものだ。
俺はいつの間に死んでしまったんだろうか。
そして追い打ちをかけるように第二の怪奇現象が俺を襲った。
「どう?すごいでしょ!!最近気づいたんだけど、光の屈折を操れば鏡の反射も消すことが出来るのよ。見てあの人間ずいぶん驚いてるわ!!」
「なんだかそれ地味じゃない?サニーは私たちの姿を消すことが出来るのに今更鏡なんて・・・。使う場目も限定的すぎるわ。」
どういうことだ・・・誰もいないのに子供の声が聞こえてきた。
いよいよ体内の警報機がけたたましく警音を上げている。
何だかわからないがヤバいと、
「ねぇ・・あの人間こっちを見てるわよ?ちゃんと姿消えてるんでしょうね?」
「もちろんよ!!ちゃんとこっちにも能力使ってるわ!!ルナがサボってるんじゃないの?」
「えっ!?なに?呼んだ?・・・それより面白い茸が生えていたわ!今日天ぷらにしようかしら。」
テングダケが宙を浮いていた・・・・
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「最近は異変も起きないし、ネタがないですねぇ・・・。また妖精でもけしかけて事件でも起こすようですかね。」
烏天狗の少女「射命丸 文」は新聞のネタ集めに今日も精を出していた。
ここ最近の一番のネタが[遂に撮らえた!!伊吹童子・・・その素面の姿]という四流ゴシップなのだから笑えない。
コンクールに出せるわけもなく、第一上司の失態を晒して待っていたのはきついお仕置きだけだった。
その詳細は花果子念報に載っているのだから更に笑えない。
ここで名誉挽回のスクープをキャッチしないと後がないのだ。
「おや・・・人間?・・変わった格好をしていますね。もしかして外来人でしょうか!?事件の予感です!!」
情けない叫び声をあげながら、全力疾走する外来人らしき人物。
そしてそれを楽しそうに追いかける妖精たち。
外来人×妖精
これは面白いに決まってる。
事件に期待し射命丸は翼を羽ばたかせた。
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「ひぃっひっひいいいいいぃぃぃっ!!!嫌!!来ないでっ!!!」
我ながら情けない叫びが出るものだと思う。
職場では冷静冷血冷情、歩く寡黙、一匹王子なんて称されたものだが落ちたものだ。
ちなみに決して嫌われていたわけではない。
ただちょっと友達が少なかっただけだ。
先ほどまでは姿を隠していた追跡者も、今は俺にも見えている。
三人の可愛らしい少女たちだった。
普通に見れば愛嬌のあるその子たちも、浮いているという地点で人外である事は確定だ。
「---のっ!---てっ!!」
最初は笑いながら追いかけてきたが、今は必死の形相で何かを叫んでいる。
捕まえて何をする気だろう。最悪命を奪われるかもしれない。
テングダケを食わされるとかシャレにならない。
とにかく今は逃げるしかない。いや・・無いのだろうか?
そもそも俺は今生きているのだろうか。
泉で顔が映らなかったのを忘れたわけではない。
もし死んでいたならば今更何を恐れるのだろうか・・・・
今の俺は何だ?幽霊か?
足はある・・・だが足が無いことだけが幽霊の定義ではない。
そんなことを考えながら走っていたからだからだろう。
周りを見ることを忘れていた。
「違うのっ!!貴方を襲ったりしない!!とにかくそっちへ走ってはだめ!!止まってっ!!」
ようやく彼女たちの叫びが耳に届いた。
前を見れば広大な景色。道は続いていない。終着地点・・
崖だった。
浮遊感。
上下の間隔が無くなり上を見上げれば地面。
あべこべだ。
少女達の悲鳴。
重力加速。
地面がスピードを上げて降ってくる。
明らかに想定される衝撃は身体の許容を超すだろう。
目を閉じる。
身体に強い衝撃が走った。
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終わったはずの浮遊感が続いている。
目を開ける。
飛んでいる?
「衝撃映像は欲しかったですが、事故死の瞬間は嫌ですね。」
少女の声。
どうやら生きているらしい。
「おや?意識があるのですか!ずいぶん頑丈な身体をおも・・・?取りあえず下に降りましょう。飛び話も何ですし。」
命の恩人の名前は射命丸さんというらしい。
背中に羽が生えているがもう何も言うまい。
「本当に助かりました。何とお礼を言えばよろしいか・・」
「いえ礼には及びません。お気になさらず。それより聞きたいのですが、なぜ飛ばなかったのですか?」
命の恩人は少々抜けているのだろうか?
羽も無いしどう飛べというのだろう。
飛べれば最初からそれで逃げている。
「では質問を変えましょう。貴方はなぜ人間の振りをしているのですか?」
職場では散々陰口を叩かれたが、ここまで否定されたのは初めてだ。
しかし彼女は至って真面目で、悪徳政治家を詰問する熱血女性記者という感じだ。
ちょっとタイプかもしれない・・・
「なぜも何も私は貴方と違って人間です。それともやはり一度死んで幽霊になっているのでしょうか?」
ついでに気になっていた事も聞いてみた。
「貴方の素性はわかりかねます。しかしその妖気を感じる限り種族としては妖怪のはず。もしかしてとぼけているのですか?」
少し機嫌を損ねてしまったようだ。
俺は怒らせる才能でも持っているのだろうか。
「嘘はついていません。気が付いたらここに居たんです。妖気についてはさっぱり何の事だか。」
「確かに嘘はついてなさそうですね。しかし先ほど貴方を助けるのが咄嗟だったので、少々手荒になってしまいました。普通の人間でしたら意識を失いますし、
少なからず後遺症を残すほどの衝撃を受けたはずです。それが証拠になるかと」
確かにあの速度で落ちたのをキャッチしてからの急上昇。
口から内臓が出てもおかしくないだろう。
「恐らく外界から幻想郷に取り込まれた妖怪って事でしょうね。知識、自覚が少ないことから生まれたばかりの妖怪とも思われます。」
「勝手に話を進めないで下さい!!少なくとも俺はずっと人として普通に生活してきました。」
それに対して返された彼女の返答は意地でも認めたくなかった。
それを認めたら俺はそれこそ妖怪だ。
「普通にですか?よくおっしゃいます。」
「貴方は自身の能力で少なくとも5人は殺してますよ。」
自分は妖怪になってみたいです。