いかなる時も冷静で居たいものです。
明くる日の昼過ぎ頃。
ぎこちないながらも飛ぶ俺の姿があった。
「すげぇ!すげぇ!夢みたいだ!キモティイイ!!」
「まだ慣れてないのにはしゃぐと危ないよ!あっ!目の前っ!木っ!!」
わしゃー
「移動に使えそうな位には飛べるようになりました。一重に師匠のお陰です。」
「まぁ怪我しないように練習を続けると良いよ。じゃあ次は弾幕だね。」
「おぉ!!遂に俺にもアイシクルクラッシャーが撃てるように!」
「そんな名前じゃない!それに同じスペカ使ってどうするのよ。」
「えっ、駄目なの?」
師匠が言うにはそれぞれの能力に見合った弾幕を撃ち、それに名前を付けた物がスペルカードと言うらしい。
「あたいの場合は、氷を操る程度の能力だから氷を使った弾幕なの。あんたは何が得意なの?」
「なんだろう、強いて言えば・・・放送?」
「えっ?ぼうそう?怖い。」
「えっ?千葉県は怖くないよ。」
「えっ?」
「えっ?」
「そもそも何の妖怪なの?」
「だからまだ人間という線も残ってるんじゃ。」
「えっ?人間の妖怪?」
「えっ?」
「えっ?」
しばらく低レベルな論争が続いたのだった。
「あんたが知らないんじゃ、あたいにも分からないよ。授業も終わった頃だし先生に聞いてみようかな。」
「先生ですか?」
「そう、寺子屋の先生!」
タイムスリップ説再浮上。
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人里まで離れていないのと、まだ飛ぶのに慣れていないので歩いて向かうことになった。
どうせなら飛びたかったのに。
「人里に向かうんですよね?行っても大丈夫なんですか?こっわ~い退治屋が居て退治されちゃったり。」
「大丈夫よ。あんた弱そうだもん。それよりもその堅苦しいしゃべり方止めてくれない?一々頭の中で通訳しなきゃいけないから疲れるのよ。」
弱いですよーだ
「このしゃべり方ですか?お気に召しませんでしたか・・・うん、止めた。だからそっちもあんたって呼ぶの止めてくれる?傷つくじゃない。」
反撃。
そしてちょっとミスっておねえ言葉。
「えっ?先生が人を呼ぶときはあんたって言わなきゃ駄目だって行ってたよ。」
「それ多分あなた。」
「じゃあ夢仁って呼ぶから夢仁もチルノって呼んで。ふこうへいだから!」
「おっ・・おう、チルノ」
「うーん・・うふふふ。これでようやく友達っぽくなってきたね」
何の躊躇いもなく笑顔で言う彼女。
正直ドキッとした。
その無垢な純粋さが嬉しくて、そしてちょっと羨ましかった。
反則だ。
俺を友達と呼んでくれたのは、あいつ以来初めてだった。
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「おい、見ろよ。妖精と見たこともない妖怪が歩いてるぜ。」
「氷の妖精の方は厄介だが、妖怪は弱そうじゃねぇか。どうせ悪戯しか出来ねぇよ。飲もう飲もう」
人里に入って沢山の目線を感じるが、総じて俺は弱い妖怪に見えるようだ。
正直ちょっと諦めてきた。
人里は意外と活気に溢れていて、多くの人が出歩いている。
買い物をするもの。
世間話をするもの。
昼間から酒を煽るもの。
喧嘩をおっぱじめるもの。
皆思い思いにテレビで見た昔ながらの生活を送っていた。
「あっ!あそこの建物だよ」
「本当にイメージ通りの寺子屋だな。」
「慧音先生はとっても物知りだから大丈夫だよ。」
大きな声で挨拶しチルノは寺子屋に入って行った。
あわてて続く俺。
「ああ、チルノちゃんね。こんにちは。・・・あら貴方は誰かしら」
「こいつは昨日から友達になったんだ。自分が何の妖怪か分からなくて困ってるんだ。助けてくれないか?」
「そう。まぁ身なりは変わっているけど、変質者でも無いみたいね。」
「・・・はい、大丈夫だと思います。申し遅れましたが猿橋夢仁と言います。少し前からこの世界に迷い込んだ、で良いのかな。俺にもよく分からないんです。」
「私は上白沢慧音。この寺子屋で里の子達に歴史や簡単な算数なんかを教えているわ。よろしくね」
慧音さんは若い小学校の先生という印象だ。
仕事が出来そうでありながら、同時に優しい雰囲気も持ち合わせている。
子供の人気は高そうだ。
そして間違いなく美人の分類に入る。
・・・駄目だ。俺には射命丸さんという心に決めた人が居るのだから。
とりあえず俺はここ数日の経緯や出来事を慧音さんに話した。
「えっ?夢仁って外の世界から来たんだ。」
「あれ?そういえば言ってなかったね。めんご」
「むううううぅぅ」
はて、大事なことを伝えていなかったものだ。
チルノが唸るのも納得だ。
「とりあえず外から来た妖怪と言うことは間違いなさそうだね。」
「妖怪はやっぱり揺るがないんですね。」
「ただ、困ったことに君は幻想郷縁起にも載ってない妖怪みたいだ。正直正体は分からない。」
幻想郷縁起?
縁起だからここの歴史書か何かだろうか。
自分が妖怪だったならば、一体何の妖怪なのか知りたくなってきた所だったのに。
残念である。
竜とか鬼ならカッコいいが、べとべとさんや垢なめだったら嫌だ。
「ちなみに話を聞いていると、外の世界では人間に紛れて生活をしていたようだね。何か普通の人と違った事とか些細でも良い。何か無いですか?」
「どうでしょう・・・人と違うとこって案外自分じゃ分からないですし。そういえば物忘れが多いですね。」
「例えば?」
「最近では自分の仕事の師匠の名前が出てこなかったですね。来る前だと出身の学校とか出身地・・・あと両親の名前も忘れちゃってますね。」
「・・・えっ?・・それは何の冗談ですか?」
慧音さんは目を見開いてこっちを見ている。
見とれているのだろうか?
いやいやいやいや
「えっ?・・何か変なこと言いましたか?」
「普通はそんな大事なことを忘れたりしません。」
「ひまーひまー♪」
「そうなん・・・ですか?」
何か様子がおかしくなってきた。
「じゃあ質問を変えましょう。貴方の記憶はどこまで遡れますか。」
今までそんなこと考えたことなかった。
まだ長くはない25年の記憶を遡ってみる。
遡ってみる。
遡ってみるが、
遡れなかった。
三年前を境にきっかりと。
しかし、そんなこと気にしなくても良いじゃないかと思えてくる。
強制的に
強制的に強制的に強制的に強制的に、
強制的にだ。
そして脅迫的に
そこがもうおかしかった。
「・・・駄目です。3年前からきっかり空白です。」
「ねぇ?夢仁大丈夫?」
確かに声は少し震えてしまった。
「ちょっと能力を使わせて貰うぞ。」
そう言うと慧音さんは俺の頭に手を置いた。
動揺している俺を安心させているわけでは無かろう。
「なるほど、やはり貴方には食べることの出来る歴史、つまりは記憶が3年分しかないみたいだ。」
「簡単に言うと?」
「貴方は生まれたばかりの妖怪よ。三年前にね。通りで縁起にも載ってないわけだわ。」
生まれたばかりの妖怪。
確か射命丸さんにもそう言われたような気がする。
初見でそこまで見破った彼女。
やっぱりすごい。
結婚してくれ
そんな事より、俺の22年は無かったのか?
てか、まさかそれって・・・
「俺・・・3歳ですか・・?」
「そうね。」
チルノが腹を抱えて笑う声だけが響いていた。
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「最近外の世界から来た巫女と神様が居るの。彼女に聞けばもしかしたら分かるかもしれないわ。貴方の正体。」
「巫女・・ですか?」
「さっ・・さう、3歳。3歳いいぃっいひひひひっひぃっ」
あれからしばらく放心状態に陥った俺も、ようやく会話が出来るまで回復した。
最愛の友人は未だ笑い地獄から帰れずにいる。
「妖怪の山の頂上。そこの神社に彼女達は居るわ。」
「そうですね。明日向かってみようと思います。」
「あと、最後に一つ気になったことがあるの。」
今日はもうこれ以上新しい情報は入れたくなかった。
しかし、聞かないという訳にもいかないだろう。
「なんでしょうか?」
「貴方話すとき敬語なのは良いけど、常に一人称が俺のままよ。気を付けた方がいいわ。」
「確かに意識しないと俺って言っちゃいますね。」
「外の世界で舐められまいと虚勢ばっかり張ってたんじゃないの?ここはそんなに気を張らなくても良い所よ。少しリラックスして過ごすと良いわ。」
慧音さんはスクールカウンセラーも兼ねているのだろうか。
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俺たちはお礼を言い寺子屋を後にした。
「静かだけど・・もしかして笑ったの怒ってる?ごめんね」
「違うんだ。ちょっと今までの自分が虚像だと思うとショックがでかくてね。」
とりあえず早く帰って眠りに就きたかった。
頭がパンクしそうだ。
「そっかぁ。今日は一人にした方が良いかな?色々考えたいよね?」
「いや、むしろ一人だと寂しくて発狂しそう。泊まってって。」
「うん!それくらいなら任せといて。友達が困ってるならいくらでも助けてあげるよ!」
チルノの存在は大きかった。
きっとこの現実を一人の時に突きつけられたら、俺は壊れてしまったかもしれない。
「見つけたぜ!妖精妖怪御一行共!!悪事は芽を出す前に摘む。覚悟しろ!!」
瞬間チルノに突き飛ばされたのだが、俺は何が起きたのか分からなかった。
「くらえっ!伝家の宝刀マスタースパアァクッ!!」
それは光線と言うには余りに太く、さっきまで立って居た位置が一瞬で光に包まれた。
そして光線が消えたとき。
そこに立っていたチルノも居なくなっていた。
「ちっ!一匹外したか!!」
目の前に立つ黒い悪魔を、俺は呪いを込めた眼で睨みつけた。
純真無垢。
守りたいその笑顔。
チルノかわいいよチルノ