現実は残酷。夢などぬるい
日本の神社の神様には神霊という性質がある。
神様は自分をほぼ無限に分身する事ができ、その分身を神霊と言う。
パワーは分身に関わらず、本体の神様と遜色がない。
神社には神様自身が居るのではなく、その神霊が居るわけだ。
霊体であるため人間にその姿を見ることは出来ない。
そのため人々は鏡や神木、滝なんかを寄り代にして、それを崇め奉っている。
そう。神様は見えるわけがないのだ。
「先程は失礼した。私はこの神社の神様をしている八坂神奈子だ。」
「私は洩矢諏訪子だよー。」
もう一度言う。
見えるわけがないのだ。
「猿橋夢仁です。最近外の世界からきました。」
八坂神奈子・・確か諏訪大社の祭神タケミナカタノミコトの妃神が、ヤサカトメノカミと言った気がする。
洩矢諏訪子という名前は聞いたことがないが、下の名前は諏訪子。
諏訪湖の近くに洩矢神社が有るが、関係しているのだろうか。
オカルト研究の一環で古事記を読んだことがあるが、そこまでの知識しかない。
まだまだ勉強不足だ。
しかし、見た目は変わった格好をした美女と美少女。
ここは目に優しい世界である。
「神様なのですよね?」
「あぁ、外の世界の信州に住んでいた。お前も外から来たなら知ってるんじゃないか?」
「はい。心当たりが御座います。」
「そうか。このお酒は有り難く頂くとするよ。」
これでほぼ確定した。
お諏訪さまに違いない。
生きてる内に神様を見れるなんて。
確かに御神酒を神様達は喜んでいた。
「それで何の用事があって来たんだ?酒を奉納に来ただけでは無いだろう?」
「はい。自分が何の妖怪なのか知りたくて参りました。」
「ほう、でも私たちは専門家じゃない。その道の者に聞いた方が良いと思うが。」
「最近外の世界で生まれた妖怪らしいので分かりませんでした。外の世界にいらっしゃった皆様なら分かるかなと。」
「なるほどな。取り敢えず何か能力はあるか?見ただけでは流石に分からない。」
やっぱり能力なのか。
普通の人間として生活してきたので、心当たりは無い。
「多分無いと思います。外では一応電車の車掌をしておりましたが。」
「それで軍服みたいな変な格好しているのか。」
ぶっとい注連縄を背負うファッションよりはマシかと思う。
それきり神奈子さんは悩み込んでしまった。
自分でも情報が少ないと思う。
すると先程の巫女さんが口を開いた。
「名前は猿橋夢仁さんと仰いましたね?それでお仕事の方は車掌さんだと。」
「はい。そうですが。」
「夢・・に関して何か心当たりは無いですか?」
心臓が口から飛び出そうになった。
何故ならばそれは一番あって欲しくない可能性に近い質問だったからだ。
「明晰夢をよく見ます。いや、夢を見るときは必ず明晰夢です。」
「えっ?それ十分おかしいじゃん!」
言ったのは目玉の着いた帽子をかぶった少女、諏訪子さんだった。
確かにあり得ないとまでは言わなくても十分おかしい。
「では質問を変えます。それはどんな夢ですか。」
駄目だ。
手が震えてきた。
呼吸も上手くできない。
「答えにくいですか?もしかしたら分かるかも知れません。」
「いえ、そういう訳では無いのですが。」
「貴方が望んだのですから逃げないで下さい。」
出来ればここで帰りたくなってきた。
現実を認める前に。
「裁きを・・与える夢です。・・・悪い奴を電車に乗せ、八つ裂きにする。」
「なるほど、予想通りです。」
聞きたくない。その現実は
「これで確定だと思います。」
やめてくれ
「貴方は猿夢です。」
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猿夢。
インターネット上で流行った都市伝説の一つである。
主人公は電車に乗っている夢を見ている。
その電車は遊園地にある、アトラクションみたいな電車だ。
所謂お猿の電車。
車内には主人公以外に数人の乗客が乗っている。
そして乗客は車掌の放送通りに惨殺されていく。
最後に自分の番になったとき、ギリギリ目が覚める。
しかし、主人公はまた同じ夢を見てしまう。
そして、その話には都市伝説にお決まりのオチが付いた。
この話を聞いた者は猿夢を見てしまうと・・・
勿論その夢は惨殺される側である。
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気が付くと俺は布団で眠っていた。
和室ということは分かる。
「あっ!夢仁起きたの?大丈夫?」
心配そうに見つめるチルノの姿が目に入った。
彼女の姿を見て少し安心する。
「あら!おはようございます。・・ってもう夜ですけどね。急に倒れられたので驚きました。」
ちょうど部屋に巫女さんが入ってきた。
という事は、住居兼社務所の寝室なのだろう。
「ご迷惑お掛けしました。えっと巫女さんがここに運んで下さったのですか?」
「お気になさらないで下さい。少々気が動転しただけだと思われますので。申し遅れましたが私は東風谷早苗と申します。」
「早苗さんですか。」
「はい。巫女さんって呼ばれるのは少し抵抗がありますので、早苗と呼んで下さい。」
やっぱり先程のやり取りは夢ではなかったようだ。
そもそも俺は猿夢以外見たことが無いのだが。
「今日はもう遅いので泊まって行って下さい。夕食の準備がもうすぐ終わりますので、気分が良くなったら降りてきて下さい。」
「すみません。お言葉に甘えさせて頂きます。」
「御神酒も用意しておきますね。こんな時は飲んで気持ちを切り替えるのが一番だと思います。」
「ありがとうございます。後でお邪魔させて頂きます。」
早苗は準備のため部屋を後にした。
俺の正体が猿夢であることは想像していた。
正直それ以外無いと考えていた。
外の世界で初めて猿夢を読んだ時は、余りのショックに声が出なかった。
普段見ている夢と同じだったから。
しかし、認めるわけにはいかなかった。
俺が夢の中で最後までやり遂げた人数が5人だったからだ。
初めて射命丸と会った日に言われた、俺が能力を使って殺した人数と一緒だったから。
つまりあの五人はもうこの世に居ないのだろう。
「やっぱり寝てた方がいいよ。体が震えてるよ。」
手を握られた。
とても冷たいが暖かかった。
「ありがとう。大丈夫だよ。」
「本当?無理はしないでね。また倒れないか心配だよ。」
「うん、色々聞きたい事があるし、後で皆の所に行こう。正直今すげぇ飲みたい気分なんだ。」
「そう?なら良いけど。あたいも夕食の準備手伝ってくるね。」
「よろしくたのむね。」
もしかしたら、彼女なりに気を使って一人にしてくれたのかもしれない。
良い機会なので、もう一度思考を再会する。
まず俺は5人を殺すつもりはなかった。
それぞれ俺の前で痴漢、強盗、ひき逃げなどを犯した犯罪者であった。
実際裁きを下す訳にもいかないので、夢の中でそれを実行していた。
誰だって嫌いな奴を妄想の中で・・ってことは良くあるはずだ。
それがまさか本当に死んでしまうだなんて。
意図しなくても簡単に出来てしまう。
きっとそれが能力という物なのだろうが。
共通しているのは、寝る前にそいつの事を考えて床に就いた事。
危険な能力だが、そこに気をつければ大丈夫だろう。
「ごはんできたよー!!」
チルノの元気な声が聞こえてきた。
取り敢えず皆の所に行こう。
猿夢は本当にある都市伝説です。
興味のある方は、検索していただければ沢山出るかと思います。
その時は自己責任でお願いします。