酒は良い。効果は平等だ
二階の寝室から降りていくと、食事の準備は済んでおり皆揃っていた。
射命丸さんも含めて。
何時まで居るのだろうか?
「おっ!来たみたいだな。もう動いて大丈夫なのか?」
「はい、特に問題ないかと思います。ご心配お掛けしました。」
「気にするなって。飯でも食って元気出せ。今日は奢りだ。」
最近は食べなくても生きていける事が分かっていたので、食事を摂っていなかった。
ただ食事には栄養補給以外にもストレス解消という重要な役目もある。
食べることは好きだ。
しかし、金がない。仕事を見つけないと。
妖怪でも雇ってくれる所はあるのだろうか?
早苗さんよりご飯の入ったお膳を有り難く受け取る。
卓袱台の上では、箸が行き交い何だか忙しない。
以前は一人で食事を摂っていたので少し落ち着かない。
でも何だか暖かいなと思う。
家族は居ないので想像だが、居たらこんな感じなんだろうなと考える。
悪くない。
「先程早苗と話したんだが、猿夢というのは携帯とかパソコンとかで流行った怪談なんだってな。知ってたか?」
「はい。実は知ってました。確証がなかったので言い出さなかったのですが。」
ちょっと嘘を付いた。
本当はただ認めたくなかっただけだ。
「そうだったのか。まぁ、いいや。その猿夢について仮説を立ててみたんだ・・」
神奈子さんの話はこういう内容だった。
一怪談が妖怪になるにはそれなりの妖力を蓄える必要があるらしい。
そして一介の都市伝説に過ぎない俺が妖怪になった理由だが、インターネットが大きく影響しているのだという。
神奈子さんたちの様な神様は人々の信仰によってその力を得て、維持しているらしい。
俺はインターネットという巨大な媒介を得て、人々に猿夢という共通意識を作った。
そして都市伝説という形を取り、多くの人の恐怖心、畏怖の念を集めることとなった。
それが神様の信仰と似たような役割を持ったのではという。
神様の力というものが、人間の信仰に左右される物だとは思わなかった。
信じる事で救われる。ある意味間違ってない。
それでは人に害を為すだけの俺は、一体何のために生まれたんだ?
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食後に開けた御神酒はとうに無くなっていた。
里の人間より奉納された酒にまで手を出し、とうに二時間が経っていた。
ザルなんてレベルじゃない。
例えるなら砂漠に酒を注いでる感覚だ。
主にペースがおかしいのだ。
「おうおう。さっき注いだ酒まだ半分しか減って無いじゃないか!」
当然だ。
丼に酒を注ぐ奴がどこにある。
絡んできたのは射命丸さんだった。正直に言う。
ちょーーめんどくさい
職場の面倒なおじいちゃん上司が酔っぱらった並にめんどくさい。
ここ一時間は天狗流の上下関係について講義を受けさせられている。
ちなみに5分ヘッドで同じ話がループしている。
「ちなみにお前はちゃんと年上を敬ってるのか?」
テープがまた最初に戻ったようだ。
B面は無いのか?
話す距離は顔が触れるんじゃないかという程近づいているが、本人は夢中で気にしていない。
最初はドキドキしたが、段々鬱陶しくなってきた。
親友のチルノは神様達にやっつけられ伸びている。
酒はあまり強くないらしい。
「あっ!そういえば聞きたいことがありました。なんで氷の妖精と一緒に行動しているんですか?」
久方ぶりに射命丸さんが違う話題を振ってきた。
RPGのコンピューターキャラと思って接していたので少し面食らう。
Aボタン連打だ。
「まぁ成り行きでは有りますが、この世界で生きていくために色々教えて貰ってます。飛んだりとかですね。まだ弾幕は撃てないのですが。」
「つまり彼女を師匠に選んでしまったと。」
「そうですが、何か問題でも?」
「知らないから仕方ないですが人選ミスですね。」
なんだ?今度は喧嘩でも売ってきたのか?
流石の射命丸さんでも友人兼師匠をそこまで言われると苛っとくる。
飛べるようにしてくれたのは他でもないチルノだ。
「俺はそうは思いません。何回も助けて貰いましたし、彼女はとても正直で人としても信用できます。」
「妖精ですけどね・・・。貴方も分かるとは思いますが、彼女はあまり利口では有りません。本気でこの世界で生きていきたいなら、彼女は友人として割り切り新しい師を探すことを勧めますね。」
意地の悪い笑みを浮かべ射命丸さんは言った。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
「忠告は有り難くないので拒絶させて頂きます。第一チルノほど親身になってくれる者がいるとは思えないので。」
「随分ご執心な様で。では私がご教授いたしましょうか?私はこう見えて結構実力を持っています。中級の妖怪をなぎ倒せる程度には出来ますよ?妖精なんかよりよっぽど良いと思いますが。」
思ってもいない提案をされた。
確かに天狗と言えば日本では知らない人が居ないメジャーな妖怪だ。
昔、鞍馬の天狗が義経に剣術を教えたという伝説もある。
実力は確かだ。
チルノは友人として付き合い、天狗は師として割り切る。
なんて合理的な話だろうか。
強くなれるし、大好きな友達とは親交を深めることだけに専念出来る。
ふざけるな。話にならない。
「俺はこう見えて短気です。それ以上言うなら貴女の夢に参上しますよ?」
「いつでもウェルカムですよ。覚めたくなくなる素敵な夢でお迎えしましょう。」
にらみ合う二人。しばしの沈黙。
「喧嘩は宴会の花だ。でも二人とも、そろそろ止めな。」
言ったのは目玉の付いた帽子を被った諏訪子さんだった。
ファンシーな帽子に少女の体躯の彼女は愛いらしく、普段なら目の癒しになる。
しかし、今の一言を発したときは雰囲気がちがった。
軍神の神奈子さんとは違う感じ
おどろおどろしい。
そう、まるで邪神のようだった。
「やだなー諏訪子様。ちょっとからかっただけですよ。この子、私の有り難い話を真面目に聞かなかった物ですから。」
「やり過ぎだ。あまり生まれたての妖怪をからかわない方が良い。力の暴走が怖いからね。」
「本気にしないで下さい。本当にちょっとからかっただけですから。でも夢仁さん、もし気が変わったら私を訪ねて下さい。今回は振られちゃいましたが、何時でも待ってますから。」
射命丸さんはちょっと飲み過ぎたかな、と言い席を外した。
一体何処までが本気なのか分からない。
普通に話していたので忘れていたが、彼女も妖。
あまり話を鵜呑みにすると馬鹿を見るかも知れない。
「あの娘も悪気が有った訳じゃないんだが、少し探求欲が強すぎるんだよね。ネタのためなら何でもしちゃう。所詮天狗の言ったことだから気にしなくて良いよ。」
「いえ、すみません。俺もちょっと大人気無かったです。でも彼女は俺をからかってどうしたかったんでしょうね。」
「まぁ君の能力が見たかったんだろう。彼女は自分で言ったとおり実力者だ。呪いを受けたところで払拭できる自信があったんだろうね。まだまだ浅はかだ。」
微妙な空気を残した宴会は終了し、後片づけをして床に就くことになった。
今日は完全に射命丸さんのペースに乗せられてしまった。
取材のためなら恥も倫理も捨てる。
全ては一つの真実のために。
記者としての彼女は優秀だ。
少なくとも俺は合わない。
好きではなくなった。
まぁ、苦手だな。
明日は気持ちを切り替えて、友人兼師匠もと弾幕の練習に勤しむとしよう。
暫くはこの世界で暮らすことになりそうだし、早く慣れればなるまい。
それにしても、久々に飲んだので意識が朦朧としてきたようだ。
だって寝室の布団が一組しか見当たらないのだから。
お酒は二十歳になってから。楽しく適量で