ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆様お久しぶりです。

暑い夏、雨の多い夏も残暑を迎えようとしていますが、いかがお過ごしでしょうか。私は忙しく過ごさせていただいてます。さて、今回の話ですが大分ブラック勇が見られることが予想されます。そして、ついに予てよりの展開に移行します!どうぞご覧ください。


新たな翼 第六話

一方、機上の林と源田はというと、基地現状の意見交流を行っており、勇たちの危険信号に気づくはずもなかった。

 

 

「では、牟田口中将が非ウィッチ戦力に拘っている第一人者と言うわけですか・・・これは厄介ですな。」

「牟田口くんはおろか、一定数の非ウィッチ戦力希望はどこの国にもいるからな。こちら側が一枚岩でなくてどうするのやら・・・」

「司令、地上より通信らしきものが入っています。」

 

 

一式陸攻の通信員が話しかける。普段なら内容や送り主などの詳細を報告するはずがなんとも煮え切らず、林が注意する。

 

 

「所属と管姓名くらいきちんと伝えろ。」

「まあまあ林くん、なんだね?」

「はい、申し訳ありません。おそらくサーレマー島からの通信だと思われるのですが・・・感度が悪く。」

 

 

機材の故障と敵の妨害電波の両方を懸念する二人は、急いでその両方に対処できるよう指示を出す。林が代わりに出ようと受信機に手をかける。そこから聞こえてくるのはノイズばかりでほとんど聞き取ることができなかった。しかし、おそらく人間が発したような言葉の切れ端が唯一聞こえるのだった。

 

 

『・・ちら、・・・隊・・ジジッ・・・・・襲・・退避・・・ガガガッ!』

「なんだ?機長、なにかおかしいぞっ!?」

「はいっ!あっ!?前方より味方機を確認!バンクを振っています!」

 

 

 

零戦が近付いてきたことにホッと胸を撫で下ろす機内は、零戦の慌てぶりに気づくことができなかった。第三小隊の小隊長である大関は必死に無線で呼びかけているがなかなか通じないことにやきもきしていた。バンクを振って敵の存在を知らせるもバンクを返しはするが、退避する素振りは見えないことから真意は未だ伝わっていない。これでは間に合わないと悟り、一度輸送機の直前をギリギリで飛行し、注意を惹きつける。機長と思われる人物に向かって引き返す旨を伝えるとようやくわかってくれた。輸送機がゆっくりと旋回していると、三番機の八島が突如前方に出てくる。この行為に大関の背筋はなにか這いあがる冷気のようなものを感じた。すぐさま大関たち第三小隊は急上昇をかける。その様子を見て林も大声を張り上げる。

 

 

「敵機直上ッ!!!」

 

 

太陽から小型ネウロイが複数襲来してきているのがだれの目にも捉えることができた。一体どこから来たのか、なぜここに敵がいるのかなど様々な憶測が過るが、そんな憶測すら本能からくる危険信号によって打ち消される。林の体は全身全霊をもって死という恐怖が支配する。しかし、その恐怖の元凶たる小型ネウロイは太陽の中からその黒い身体を煌々とどす黒く輝かせながら突っ込んでくるのだった。

この少し前、大型のネウロイの反応に向かう勇たちは緊張を宿しつつ周囲を警戒していた。間もなく会敵するはずだが、たった5機の戦力では大型ネウロイ一機を相手取るのすら不可能である。それが二機もいるとなると勝算はいかほどか、それを考えるだけでも憂鬱だった。しかし、その憂鬱をかき消す光景が目に入る。直線上の彼方に今は小さいが黒い固まりが二つ見ることができた。勇は仲間に警告をする。

 

 

「見えたぞ!決して無理に押すな!敵の侵攻を抑えるだけでいい!応援が来るまで何としても持ちこたえろ!」

 

 

 

合計5機の戦闘機は無謀にも大型ネウロイに向かって突き進んでいく。勇の言葉も既に心に馴染んだころ、ある異変に気付くのだった。

 

 

「副長!なんだか敵の様子が変です!!」

「まさか・・・嵌められた?!」

 

 

大型のネウロイが二機来襲しているのかと思い込んでいたが、片方の黒い大きな塊をよく見ると、少しづつ形が変形している、ずれていることに気が付いた。そう、これは小型ネウロイが密集して飛行し、あたかも大型ネウロイのように見せることで敵の存在を欺く偽装だった。それに気づいたときにはもう遅かった。その小型ネウロイの群集は一斉に散会を始めたのだった。

 

 

「くそっ!みんな、すまない・・・はっ?!」

 

 

勇たちを襲うかと思われた小型ネウロイたちは勇たちを相手にもせず一気にすり抜けて行ってしまった。突然の意味不明な行動に一瞬思考を奪われかけたが、どうしてその行動を取ったのかを考えるとその恐ろしさとネウロイがまるで自分たちを眼中にもいれていないかのような、そんな感じがして堪らなく腹が立った。

 

 

「くそっ!奴らの狙いは司令機だ!!」

「副長!間もなく大型ネウロイと交戦が始まります!」

「わかってる!基地に連絡・・っ?!」 ビュン!

 

 

大型ネウロイは勇たちに邪魔はさせまいと攻撃を開始してきた。勇たちも急いで散会し、攻撃を開始したが一向に胸に響く警告音が鳴りやまないのだった。しかし、勇は諦めずに報告する。

 

 

「こちら343空第一中隊指揮官代理の赤松中尉!サーレマー島基地応答願う!応答願う!」

「こちらサーレマー島基地、副長どうかしましたか。」

「至急連絡を!隊長が搭乗している輸送機に敵小型ネウロイが多数向かった!報告と近隣の基地から応援を要請してくれ!!」

 

 

攻撃をかわしながら必死にそう叫んだ。事の重大さに基地要員は気づくだろうが、今回ばかりはウィッチの出番だと、政治の話などお構いなしにそう願わずにはいられなかった。隊長である林が処分を受けることになろうと、この状況を鑑みれば部隊の全滅よりかは十分ましである。林の判断が正しかったと、今更反省したところで後の祭りだが、今の勇にはそんな後悔より隊長と自分たちの命がまさに潰えようとしていることに抗うことが先決だった。

 

 

(隊長・・・すみません。あなただけでも、いや、必ず生きて見せます!)

 

 

生きることの大切さを知っている勇からすれば、生きることを諦めることは絶対にできなかった。しかし、絶望的なまでの脅威が勇の前に大きく立ち塞がっていた。

時は少し遡りヘルシンキ基地では、管野と下原が出撃準備をしていた。本来、出撃は3日後なのだが何日も待たされているため哨戒飛行と言う名目で出撃していたのだった。

 

 

「はあ、俺としたことが戦闘機相手に後ろを取られるたぁな・・・」

「管野さん、あれは完全に相手が格上の存在でしたね。うふふ」

 

 

そんなことを言いながら林との模擬戦を思い出し、確かに戦闘機如き鉄の塊がウィッチに勝てるはずがないと侮っていたのは事実だった。だが管野も一度決着がついてからごちゃごちゃ言うのも決まりが悪いと思い、素直に従ったのだった。しかし、あの林という人物が言うには自分より凄いパイロットがうちの部隊にいるとのことだった。それを聞いて管野は一度見てみたいと思ったのだった。

 

 

「へっ!今度は負けねーぜ!戦闘機だろうがなんだろーが、この拳があれば・・・」

「管野さん、ちょっと!?」

『こちらサーレマー島基地、我敵の大規模襲撃に曝されり!至急応援を求む!繰り返す・・・』

 

 

目標の基地からの連絡だった。管野と下原はすぐにヘルシンキ基地に問い合わせる。

 

 

「こちら下原!サーレマー島基地が敵の襲撃に曝されています!至急私たちが向かいます!」

『了解した。よろしく頼ん・・・ん?少し待て。』

「なにもたついてるんだ!早く行かねーと!」

 

 

焦る管野だったが、すぐに基地からの返答が来た。しかし、その応答に通信員も困惑したように返答する。

 

 

『あーその件だが、救援は必要ない。』

「なぜです?!」

『それがなんでも現在その空域には極秘作戦が進行しているらしい。だから救援は却下だ。』

「なんだそれっ?!助けを求めてんだろうがっ!」

『すまない、一介の管制官には判断しかねる。』

 

 

突如入った横やりに救援を阻まれたように感じた二人は顔を見合わせる。出撃は認められないが、確かに助けを求められているのだ。下原は何か考えを巡らしているが、管野は一刻も早く向かってあげたかった。

 

 

「下原!かまうこたぁねえ!行っちまおうぜ!」

「・・・」

「下原!!」

「分かりました。基地にはこう連絡しましょう。こちら下原、これより哨戒飛行を続行します。」

『それは・・・どうなっても知らんぞ。」

「はいっ!哨戒任務の許可はそちらの指揮官からいただいていますので!」

 

 

下原の機転により哨戒任務として出撃できることになった。管野は下原の思慮深さには恐れ入ったが、そう感心している暇もないため進路に向かった。

時を同じくしてカウハバ基地では智子とビューリングが出撃準備に取り掛かっていた。

 

 

「あんた今の通信聞いたわね!あらかじめ林大尉に言われて準備していて良かったわ。」

「まったく厄介ごとを持ち込みやがって。智子、お前はあの少年が気になるんだろ?」

「そ、そんなことないわよ!この馬鹿!」

「顔に書いてあるぞ。愛しの人ってな。」

「この偏屈ウィッチめ・・・」

 

 

そんなやり取りをしていると大慌てでアホネンが飛び込んできた。それは慌てた様子で盛大にこけた。

 

 

「あいたたた・・・」

「隊長、大丈夫?そこ、どこかのおバカさんが潤滑油を塗って誰かを転ばせようとしていたから滑りやすいわよ。」

「心外だな。転ばそうなんて幼稚ないたずらはしないさ。ただ、いつも智子が隠し持ってる嗜好品の一つでも落としてくれたらと思ったまでさ・・・とハルカが言ってたぞ。」

「あんたね・・・」

 

 

どうしてこの基地はいつも誰かに一泡吹かせようとするのか意味が分からない智子だった。そして、飛び込んでこけたアホネンが痛がりつつも起き上がる。

 

 

 

「あいててて、うう心配してくれてるんですかあ~ってそうじゃなかった!出撃は中止です!」

「どうしてよ?」

「上からお達しがあったんです。目標空域で現在極秘作戦が展開中だそうです。」

 

 

アホネンの簡潔な説明に二人とも疑問符が浮かぶ。極秘作戦が行われていようと応援を求められているのであれば駆けつけるのが道理である。それが妨げられるということが指し示すこととは、つまり上層部にとって不都合なことが展開されているからである。しかし、現場の兵士でかつ直接助けを求めてきた林の所属する基地からの救援である。これで助けなかったでは不義理になってしまう。智子はもう一度許可を取る。

 

 

「隊長、私たちは行くべきだと思うわ。助けに行かず後ろ指指されるよりかはましだもの。」

「確かに、恨みは後から効いて来るとこの基地に来てから存分に思い知ったからな。」

 

 

智子に続きビューリングも出撃に賛同の意思を示す。こういう時は意見が合うのが智子とビューリングの不思議な縁である。しかし、アホネンはそれを聞いてなお首を縦に振らなかった。

 

 

「許可できません。」

「どうして?!」

「私たちが所属するのは北方軍司令部。ですが、林大尉の基地は東部軍の指揮下なのです。ここでいざこざを起こしては私たちが大変なことになります。」

 

 

アホネンの言うことは正論だった。約束したとはいえ、直接行ってはいけないと釘を刺されてはいくら智子たちでも身動きが取れなかった。盲目的になってしまっていたのかもしれないが、智子を含め全員が陰鬱な面持ちだった。

 

 

「ホントに、軍隊って・・・ごめんなさい。ゆう・・・」

 

 

時は現在に戻り、勇たちは苦戦を強いられていた。そびえ立つ大型ネウロイは一つもくたびれた様子がなく、対する勇たちは魔法弾をいくら叩きつけても一向に怯むことのないネウロイに嫌気がさしていた。垂直降下戦法も徒労と化しており、コアが一向に見つけることができずにいた。

 

 

「藤野!応援はまだ来ないか?!」

「今のところはなにも!」

「くそっ、俺たちを見捨てる気か?!俺らがいなきゃ非ウィッチ戦力云々も言えなくなるっていうのに!!」

 

 

そうこうしているうちに弾薬を撃ち尽くす者や被弾するものが出始めた。

 

 

「第三小隊西池二飛、被弾!」

「すみません副長!」

「俺たちが援護するからそのうちに基地へ戻れ!」

「ですが!」

「駄目だ!これは命令だ!」

 

 

西池は渋々了承し、敬礼を捧げ基地に戻って行った。これで残るは4機のみ。絶望的な状況なのには変わらないが、攻撃力が減るのは苦しかった。そして、さらに困難は続く。

 

 

「副長・・・我、残弾なし。我、残弾なし。御機嫌よう。」

 

 

そう告げると第三小隊長の榊少尉は垂直降下でネウロイに突っ込んで行ってしまった。

 

 

「榊少尉?!待て駄目だぁー!!!」

ズドーン

 

 

轟音を立てて特攻を敢行した榊はもう見えなくなっていた。生き残ると約束した仲間が一人消えてしまったことに悲しみと怒りが沸き立ってくる。しかし、その怒りと悲しみの感情を今ぶつける暇はなかった。頭を無理やり切り替え大型ネウロイを観察する。今しがた榊が突っ込んで行ったネウロイの尾翼部分が赤く輝いている。勇は目を見開き号令を出す。

 

 

「尾翼部を狙えぇぇ!!」

 

 

一斉にありったけの魔法弾を撃ち込む。ネウロイは痛そうに悲鳴を上げている。しかし、大型ネウロイは反撃に大威力ではなくハリネズミばりの攻撃を四方八方撃ちまくってきた。その時、勇の三番機の位置に入ってきていた熟練の小田一飛が爆散する。勇と藤野はその光景を目の当たりにしながら攻撃を続行する。もはや勇は必死だった。絶対に死なないと決めた自分だったが、今は本当に死ぬ気で攻撃を仕掛け続けていた。引き金を握力の続く限り握り続けた。藤野も追従してくるのが感覚的に分かった。

 

 

「墜ちろぉぉ!!!」

 

 

勇は最後のチャンスとばかりに垂直降下からの即時離脱を試みた。しかし、榊と小田の犠牲も虚しく大型ネウロイは生き残っていた。もうこれまでかと諦めかけたその時、上空から閃光が下りてくる。

 

 

ズダダダダ!!

「おりゃー!!!剣一閃!!!」

 

 

大型ネウロイだと言うのに主翼部分を一気にもぎ取るほどの威力の攻撃は明らかに人間業ではなかった。その時の藤野の無線でようやくその正体を認識するほど勇の頭の中は真っ白だった。

 

 

「ウィッチです!ウィッチの応援です!」

 

 

改めて確認すると見慣れたユニットが目に入った。欧州に最初に来た頃から履き慣れたユニットである零式艦上戦闘脚だった。そして、それを駆使して大空を駆るのは正しくウィッチだった。この時ほどウィッチの存在に感謝したことはなかっただろう。大型ネウロイは形勢が不利になったのを悟ったのか方向を転換し、撤退に移っていた。

 

 

「待ちやがれ!」

 

 

少女が叫んでいるのを見てふと我に返る。勇は急いで無線で大型ネウロイの弱点を知らせる。

 

 

「やつのコアは尾翼部分だっ!」

「下原!」

「はいっ!」

 

下原と呼ばれる少女とその少女は一気に間合いを詰めると、海軍の二種軍服に身を包んだ少女が牽制役を務め、もう一人は天高く上り、なにやら拳が輝いているようだった。二人の息が合った攻撃に呆気に取られていると、先ほどと同じように上空から逆落としになって少女が尾翼部分に向かって突っ込んで行った。

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

 

拳に魔法力を纏わせて攻撃に特化させる技で大型ネウロイは光の粒となって消えた。勇も藤野もそれを一瞬たりとも逃さず見ていることしかできなかった。すると、拳でネウロイを屠った少女が近づいて来る。勇は頭を切り替えて感謝の言葉を述べる。

 

 

「こちら扶桑海軍343空第一中隊副長の赤松勇特務中尉だ。応援本当に助かった!ありがとう。」

「第502統合戦闘航空団の管野少尉とこっちは下原少尉だ。ったく、本当に大型ネウロイと戦闘機だけで戦ってやがったのか。」

「ということは林大尉の要請で?」

「ああ、そうだよ。」

 

 

勇は安堵した。林が全ての話を収めてくれていたのだと、そう思うと今自分が生きていることに感謝した。安堵した気持ちを抑えて詳細を聞くことにした。

 

 

「よかった。では隊長も司令も無事か・・・本当によか」

「あ?隊長って何のことだ?」

 

 

その言葉に勇は凍り付いた。よくよく考えると確かに第三小隊からの報告がない。そのことを考えると勇は無線に震える声で語り掛けるしかなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ、林隊長と源田司令の乗った輸送機をあんた達は見てないって・・・そういうことか?」

「ああそうだよ。第一、要人の輸送がその極秘作戦とやらならそっちに護衛を回せってんだ。」

 

 

勇はもうどうにかなってしまいそうだった。無線に怒鳴りつけるようにしてウィッチの少女たちに言ってしまう。

 

 

「隊長と司令を見ていないって、それに大関少尉たち第三小隊は?!どうしてこっちに来ちまったんだ!!!」

 

 

ウィッチの二人は驚いたようにこちらを見ていた。藤野は状況を理解しているため俯くしかできなかった。ワナワナと拳を震わせるもなにも情報がないのであれば自分が赴くしかない。勇は藤野に後を任せると顔で伝えると、分かったように小さく頷くのだった。

 

 

(隊長・・・無事でいてくれ!)

「おいおい、何だってんだよ。こちとらせっかく応援に来たってのに。」

「管野さん、あれが林大尉の言っていた・・・」

「ああ、確か・・・」

「赤松勇特務中尉・・・我々の副長です。」

 

 

藤野がぽつりと教える。せっかく果てしなく無謀で多大な被害を被った戦いが終わったというのに、藤野は勇がこれから感じるであろう感情を推し量ると涙を流さずにはいられなかった。

そして、勇は目標地点の付近に向かって急いでいた。もう残弾も残っていなかったが、仮に今もなお戦っているのなら体当たりだろうと攪乱だろうとやろうと考えていた。しかし、海に出ても目標地点の近くになっても戦場は見当たらなかった。最悪の事態としてもし輸送機が撃墜されていたとしても死亡している可能性も絶対ではない。なにかその痕跡がないかと必死に探していた。どうしても林に会いたい。会ってきちんと謝罪したい。自分が頑固なせいでもう二度と話すこともできないのは嫌だった。林に会いたい。そう願っているとヒーウマー島から無線が入ってきた。

 

 

『こちらヒーウマー島監視所。上空の戦闘機へ、先ほどこちらに零戦が一機不時着した。おいで願う。』

 

 

勇は急いでヒーウマー島に着陸した。もしかしたらなにか手がかりがあるのではと思い急いで戦闘機を降りる。すると責任者が出てきて事情を話してくれる。

 

 

「ヒーウマー島沿岸監視所のビレル少佐だ。大変なことになったな。」

「は?何のことでしょうか?教えてくださいませんか?!」

「なんだ知らんのか?輸送機がネウロイの襲撃を受けてな、護衛機もいたみたいなのだがほとんど撃墜されてしまったのだ。」

 

 

勇は目の前が真っ白になった。ただ、生存者がいるというその言葉だけを待っていた。

 

 

「こちらも急ぎ生存者確認のために水上機を出して捜索したのだがな。まあ、先ほど無線でも言った一機の零戦のみがここに不時着したというわけだ。他の生存者は・・・残念ながら。」

 

 

勇は膝をがっくりと落とした。もう何も考えられず、地面を踏みしめる気力も奪われてしまった。ビレル少佐が肩を揺すってくれているが、勇の意識は林の朧げな輪郭を思い出すので精一杯だった。すると、施設の中から自分を呼ぶ声がした。

 

 

「副長!!」

 

 

扶桑語で自分の役職を呼ぶ人物がここにいるとなるとそれはもう第一中隊の隊員しかいない。気力を振り絞って声のする方に首を向けると、頭を包帯で手当てした第三小隊の八島がいた。僅かな希望に八島の下へ駆け寄ると八島も勇のもとへ駆け寄ってきた。

 

 

「どうした八島?!隊長は?!第三小隊はどうなった?!!」

「副長ぉ・・・すみません!すみません・・・許してください!」

 

 

八島は泣き崩れてしまった。何のことを言ってるのか勇は理解したくなかった。頭の中に浮かんでくる全滅という二文字を強制的に消去してはまた浮かんできてしまい、自分でも分からない怒りが募っていく。

 

 

「八島ぁ!!!泣いててはわからん!!隊長はどうしたんだ!!生きているんだろ?!隊長が死ぬはずなんて・・・」

「副長、わだじは・・・守り切るごどが・・・できませんでじたぁ・・・」

 

 

勇はもうここからの記憶はなかった。気づいたときにはヒーウマー島から戦闘機に乗ってサーレマー島基地に戻っていた。戻ってきたときには藤野と西池、ウィッチたちが出迎えていた。ヒーウマー島からの水上機に乗って八島も到着したようで急いで基地要員と下原に手当てされていた。管野が勇に近づいて来る。

 

 

「おい、しっかりしろよ!赤松!」

「・・・応援感謝する。貴官らは無事に帰還されたし・・・」

 

 

生気のない声でそう呟くと、通信員が駆け寄ってきて東部軍からの通信が入ったとのことでその対応にあたる。その姿を見た管野はこう呟いた。

 

 

「あれが『荒鷲の副長』かよ・・・本物だけど、虚しいな。」

「ええ、気の毒でなりませんね。それと管野さん、ユニットどうします?」

「あっ・・・またサーシャに怒られる・・・まあ、持って帰るにしても怒られるならここに置いたままにすれば、またここに来た時に使えるだろ。」

「どうなっても知りませんよ。」

 

 

 

 

この日の戦果は非公式に勇たち第一中隊が大型ネウロイ撃破、小型ネウロイ複数を撃墜したと報道された。しかし、現状は司令と指揮官を含め6人の戦死が確認された。事実上の壊滅である。当初12人いた第一中隊は副長の勇と藤野、西池、八島の4人となってしまい、稼働機も4機のみと全滅に近い被害を被っていた。辛うじて基地の防衛には成功したが、指揮官を失った第一中隊はもはやどうすることもできないでいた。

翌日には指揮官を乗せた輸送機が撃墜されたため、東部軍から人員が派遣された。その人物とは牟田口陸軍中将であった。失意の中喪に服す時間もないまま、上級将校が現れたため勇たち残された第一中隊人員は牟田口を出迎えていた。

 

 

「ふむ、ここが噂の海軍343空の基地か。なんとも見すぼらしい。どれ隊員たちを元気づけてやらねば。うひひ」

 

 

牟田口は基地人員を集めると弁舌を始めた。

 

 

「諸君っ!先の戦闘の詳細は聞いた。実に惜しい人物を失くした。私としても心を痛めんばかりである・・・だが・・・」

 

 

牟田口の言葉に最初全員が涙を堪えた。しかし、続く言葉に全員の心臓は鷲掴みされるように締め付けられるのだった。

 

 

「だが、この愚か者どもめがぁ!!指揮官も碌に守れぬ無能どもめ!」

 

 

全員の顔は青ざめると言うより唖然としていた。この人物が一体何を言っているのか誰も理解できなかったからである。だが牟田口の言葉は止まらない。

 

 

「貴様らの精神はたるんどる!ウィッチなんぞに頼るだと?!恥を知れ!今日の報道でワシがどれほど労力を割いたことか!貴様らの戦果にしてやったワシに感謝しろこの能無しどもめ!」

 

 

止まらぬ罵詈雑言に耐えるしかなかった。藤野なんかは今にも陳情を訴えんばかりに拳を握りしめていた。ただ責任者である勇を見て誰も口を開かずにいた。その勇はというと何も言わずただ拳をぎゅっと握り耐えるだけだった。

 

 

「指揮官は前に出ろ!」

 

 

大声に全員の視線が勇に集中する。勇は無言で前に出ると、牟田口の目を見て立ち尽くす。牟田口はそれを見てニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、腰に下げていた鞭のような棒を振りあげると、勇に向かって振り下ろした。バチンという打撲音は木霊する光景を一同が沈痛な面持ちで見ていた。その度に牟田口の口角は上がり、あたかもこの状況を楽しんでいるかのようだった。一頻り叩き終えると牟田口は満足そうに言い放つ。

 

 

「諸君っ!この汚辱を晴らすにはリガに前進拠点を構築するほか道はない!死ぬ気でかかれ!さすれば貴様らの死んでいった無能な魂ですらようやく靖国にいけるというもの。よいな?」

 

 

先ほどの茹蛸のように怒った形相から今度は仏のように微笑む表情の裏に悪魔が潜んでいると全員が感じた。しかし、叩かれて顔が青紫に腫れた勇はもう一度牟田口に向き直る。

 

 

「牟田口中将殿・・・我々は必死に戦いました。それはもう自らの命に代えて任務を遂行してまいりました。だから、無能な魂と言ったこと、訂正して頂きたい。」

「き、貴様・・・この恥知らずがぁっ!」ボカッ!

 

 

さらに強く叩かれる勇。だが、何度ふらついても絶対に立ち上がり牟田口に同じ言葉を繰り返すのだった。それを見かねた八島が庇うように前へ出る。

 

 

 

「中将殿っ!ご勘弁ください!これでは今後の作戦に影響が出ます!我々でリガを攻略します!してみせます!!」

「ほう、物わかりの良い者もいるよのう。ふひひ、では4日後、地上部隊をリガに送る。もうこれは決定事項なのだ。制空権と地上攻撃しっかりと頼んだぞ?」

 

 

 

4日という絶望的な日数を聞いて全員青ざめる。不可能なことを言われているのは分かっているが誰も反論できない。また勇が叩かれると分かっているからだ。牟田口はニッコリ不気味な笑みを浮かべて言い渡す。

 

 

「大型ネウロイをも撃墜する諸君の奮闘に期待するっ!あとそうだな、前任者がいないのであるならワシがこの部隊を接収する。部隊名が必要だな・・・そうだっ!貴様らごときには勿体ないが、新聞に良い言葉が載っておったわ!この部隊を以後『荒鷲隊』と命名する!ワシのためにせいぜい尽くすように。うひひ」

 

 

 

狂気の指揮官が着任してしまったサーレマー島基地は「荒鷲隊」と名称を改名し、地獄の四日間に従事した。朝晩を問わず出撃し、地上目標に対し爆撃や銃撃を加えていった。しかし、このような不遇な環境下でも不思議なほど部隊の結束は強く、皆勇を責任から解放してあげたい一心で付き従っていた。やがて期日の四日が経過し、ついに地上部隊がリガに上陸を開始することとなった。しかし、勇はずっと静かなままだった。

 

 

 

「上陸よーい!!」

 

 

 

東部軍の臨時編成部隊がついに上陸を開始した時、ネウロイはすでに駆逐されていた。上陸した兵士は皆拍子抜けしたという。これにより牟田口は東部軍内での評判はうなぎ登りに上がった。壊滅しかかった荒鷲隊でのリガ沿岸地域の制圧という偉業は牟田口を有頂天にさせた。これにより牟田口は前線拠点を構築した英雄とあだ名され、報道陣に持て囃されにさっさとサーレマー島基地を後にしようとした。

 

 

「赤松中尉、よく成し遂げてくれたぞ!君こそ世界の窮地を救った英雄である。我々人類はこの地よりネウロイを駆逐するであろう。今後とも尽くしたまえ。くひひ。」

 

 

勇はこき使われた挙句に恩賞もなしと散々の使い捨ての駒にされたが、なにも反論できなかった。しかし、牟田口の余計な一言が勇の心に火を付けた。

 

 

「あんなちんけな上官よりワシの方がよっぽど人類に有益じゃな。この世から消して正解じゃったわい。ふひひ。」

 

 

その一言で勇は顔を上げた。この牟田口という人物こそ、源田と林の乗る輸送機の行動日程を通信に流した張本人であり、あまつさえウィッチ部隊を引き留めた人物、その人である。勇は久しぶりに目の前が真っ赤になるような怒りが込み上げた。今まで散々ひどい目に合わせれてきたが、人命まで手にかけるとはいかに人の所業とは言え許すことは出来なかった。震える手を制することもせず、怒りに任せて背中を向けた人の被った悪魔に一太刀浴びせなければ気が済まなかった。隊長である林から受け取った軍刀に手をかけ、その刃の白い輝きが垣間見えたところで待ったが入る。邪魔する者でさえ切ろうとしていた勇が憤怒の表情を向けた人物は藤野だった。

 

 

「隊長・・・駄目です。どうか収めてください!」

「藤野!止めるな!俺はあいつだけは許すわけにはいかないんだ!天誅なんだ!」

「いつか必ずあいつの悪行が世に知れ渡る日が来るでしょう。だから、今は我々と共に生きてください!今隊長に居なくなられたら、我々は本当の意味で生きたまま死んでしまいます!だからどうか・・・」

 

 

藤野の説得で勇は青筋が引かぬうちにゆっくりと刀を収めた。そんな寸劇が繰り広げられていることも知らず、牟田口は徐に勇に向き直ると笑顔で昇進の話を持ち掛けるのだった。

 

 

「そうじゃ!赤松中尉、貴様を現時刻をもって大尉に昇進させる。英雄のこのワシが推薦するのだ、誇りに思うとよいぞ!かっかっか!」

 

 

そう高笑いすると車を発進させ、姿は見えなくなった。勇は荒鷲隊の隊長として、亡き林と同列の位に並んだことを恥じ入るばかりだった。

そこからの荒鷲隊の活躍は目を見張るものがあった。現地部隊からは黒いネウロイを追い払う存在として「ブラックイーグル(黒鷲)小隊」と呼ばれたりしていた。しかし、その裏では勇たちは蓄積された疲労や重責と言ったもので追い詰められ、些細なことでも気に障るようになってしまった。

 

 

「隊長っ!」

「・・・その隊長呼びはやめてくれ。俺たちの隊長は林大尉ただ一人だ。」

「あ、すみません・・・」

「・・・で、なんの用だ?」

「西池二飛が腹痛とめまい、頭痛を押して出撃していまして・・・本人は大丈夫だと言っているのですが心配で。」

「そう・・・か。そうだったのか。俺はそんなことにも気づけなくなっていたんだな。」

 

 

パイロットにとって体調管理は大切なことで、いつ上空で体調を崩して墜落してもおかしくない上、それは死を伴う危険なことであるからだ。勇は自分のことで精一杯で貴重な仲間の体調面まで気を配る余裕がなくなっていることに気が付いた。これでは隊長の代わりを務めるのは失格だなと、勇は自嘲した。だがこの世の不運は勇たちにまだ働けと無情にも強制しているかのように、戦場を用意していた。

 

 

 

ウぅウウ~

「敵襲ぅ!!!」

 

 

 

その日はそれまで順調だった攻略地点の要塞化の目途が立った日に訪れた。オラーシャ陸軍のポポフキン中佐、前線指揮官はいつもに増してネウロイのおどろおどろしさにすぐさま勇たちに救援を要請した。その命令を受領した勇たちはすぐに出撃に取り掛かった。そのとき勇は朝に藤野から聞いた西池の体調の様子を窺うために声を掛けた。

 

 

「西池二飛、体調がすぐれないようだが?」

「大丈夫です。これしきのことで休んでいては小隊長やみんなが報われません。」

「お前まで失ったら俺らはまたもや置いてけぼりだ。決して無理はするな。生きて帰れ。いいな?」

「私にはまだ死んでいった仲間たちの餞も満足にできていません。それが済むまでは八島共々生き抜いてやりますよ!」

 

 

西池の無理をして作った笑顔が勇の心に冷や水を注ぐ。頑張らなければいけない状態を作った本人が自分だからこそ、その頑張りが痛ましかった。そして、西池は実は八島と同期であり、また同郷の仲でもあった。それを考えると簡単に死んでくれるような連中ではないと勇も少し安心したのだった。

 

 

「じゃあ今日も頼むぞ。整備のおっさんが今日の飯は大福だと言っていたからな。」

「それじゃあ張り切らなきゃいけんですね!」

 

 

大福と言うのは今日日ご馳走だった。普段から寂しい生活を送る勇たちに少しでも元気を出してほしいとの親心で、基地要員により好意で大福が振る舞われることになっていた。荒鷲隊の平均年齢は約21歳ととても若い隊員で構成されている。整備員や炊飯を担当する兵士から見ればまだ子どもと言っていい年齢だった。そんな基地を後に、西池は二度と基地に戻ってくることはなかった。

夕飯の席に座ると、四人分の大福が机に並んでいた。それを目にした勇はどうしよもない無力感に襲われた。藤野も大福に手が伸びていなかった。八島は泣きながらドンと机を叩くと立ち上がり言った。

 

 

「西池は大福を食わんと言っとりました!腹が痛いと!だから、俺が奴の分まで食います!」

 

 

そう言うと、泣きながら大福を一口に詰め込んだ。腹の奥底から漏れ出る嗚咽を抑えるように大福を詰め込んでいた。勇たちはついに三人になってしまった。

その日から、ポポフキン中佐の進言により陸上兵力の増援を東部軍より要請することになった。輸送船やカッターなどがサーレマー島に到着し、一時の賑わいを見せていた。そして、翌日には準備を整えた増援部隊がリガ前進拠点に向け出港し、勇たちも上空支援のため出撃していた。しかし、その時勇の無線に緊急電が割り込んできた。

 

 

『こちらリガ前線拠点司令ポポフキン中佐!至急応援を、ウがっ!・・・・・・・』

 

 

その通信の後に遅れて爆発音が響き、目指す対岸に大きな火炎が形成された。勇は何事かと急速に脳を回転させる。答えは明白で敵の攻撃に前線が崩壊したことまでは容易に想像がついた。考えるべきはこれからである。前進を継続か撤退であるが、前線が崩壊した以上、撤退すべきだと考えた。急いで上陸指揮官に通信を試みる。

 

 

「こちら荒鷲隊、前線は崩壊したと愚考します。撤退の指示を!」

『撤退の指示は出ていない。前進を続けろ。』

 

 

上陸部隊は報道に湧く牟田口の栄光を自分たちにもと考える上層部のごり押しだったために、撤退の二文字は眼中になかった。それでも勇はこの戦力だけでは勝てないと、再度撤退を促す。

 

 

「ですが我々の戦力だけでは到底太刀打ちできません!どうか撤退を!」

『それは上官に対する侮辱か?それとも抗命か?敵前逃亡と見做せば対空機銃の餌食だぞ?言葉は選んで言いたまえ。』

 

 

勇の必死の説得も成就せず、あまつさえ撤退すれば仲間から撃たれるとの警告に狂気を感じた。ここまできてはやるしかない、そう腹を決めて勇は二人に通信を送る。

 

 

「こちら勇、これより上空援護及び上陸部隊の地上援護を行う・・・過酷な任務になるだろう。だが、どうか俺についてきてほしい。君たちをこれ以上危険に晒したくはなかったが・・・」

 

 

もしかしたら本当に誰も返ってこれないかもしれないと思った。これまで必死に生きて、いろんな人に守られて、いろんな人の屍の上に生きてきたのに自分の命令で命の灯を消してしまうのは本当に忍びなかった。だが、その思いは歌声によってかき消された。

 

 

『貴様と俺と~は 同期の桜~』

 

 

同期の桜が無線から聞こえ、それは藤野の声だった。続いて八島も声を重ねる。その歌声に勇はもう言葉はいらないと分かった。覚悟を決めていざ突撃を開始した。

爆炎の向こうからはネウロイの大群が押し寄せているようだった。それに追われるように基地から兵士たちが海岸に向かって避難して来る様子が伺えた。勇たちはそんな彼らを無事にサーレマー島まで避難するまでの間戦線を持ちこたえることが任務だと感じた。上陸艇が間もなく上陸するというところでネウロイの猛攻が始まった。ビームや機銃掃射が海岸線を薙ぎ払うように飛び交った。上陸用舟艇が何隻も炎上している。兵士は海に飛び込み、他の船に泳いで逃げるしかできなかった。勇たちは海岸付近に出てきたネウロイを掃射する。

 

 

 

「撤退までの時間稼ぎだ!ありったけぶち込んだら我々も撤退する!」

 

 

 

今回に限っては守るべき存在に自分たちの命も含まれると思うと攻撃に集中できた。地上型ネウロイを何匹も消し飛ばすと、敵も学習したのか一次後退を開始する。すると、後方より小型ネウロイの群れが飛び出す。これも今までのネウロイの常套手段だと勇たちも一度態勢を立て直す。しかし、如何せん戦力差が大きくすぐに攻撃から防御に専念せざるを得なくなる。いつの間にか勇の背後には3機のネウロイが張り付いていた。

 

 

「副長!背後に三機ついてます!」

「藤野!お前も自分の心配をしろ!俺は俺で何とかする!」

 

 

 

勇は攻撃を避けるべく海面ギリギリまで高度を落とす。プロペラが海面を叩く音が聞こえるがネウロイはまだついてきていた。

 

 

 

「しつこいやつらめ!これならどうだ!!」

 

 

 

勇はそこから僅かに機首を上げた。すると零戦の腹側の尾翼で海面を割る。強い水飛沫が背後のネウロイを襲う。ピッタリ背後を飛んでいたネウロイが体勢を崩し海面に激突、さらにその後ろのネウロイまでもがそれを避けるために高度を取ろうと機首を上げた。そこを逃がさず、海面に触れたことにより急速に減速した勇は前へ突き出たネウロイの腹に一連射する。見事にネウロイが光の粒になる。それを目撃した藤野は芸術的なまでの勇の行動に感心するが、すぐに危険が差し迫っていることに気づき、勇に警告する。

 

 

「副長!まだ後ろに!!」

「なっ?!」

 

 

全部で三機いることを失念していた勇はひやりとして後ろを振り返る。コックピットから見える黒く輝くネウロイは正に勇を狙っていた。勇は咄嗟に操縦桿を捻る。その瞬間焼きごてを押し付けられるような痛みが大腿部を貫く。ちらりと目をやると赤い血液が左足を伝って足元に溜まっていた。間一髪胴体などの主要個所は避けられたが、機体に異変を感じた。燃料タンクなどの致命傷にはならないが一向に速度が出なかった。藤野が攻撃を避けながら警告する。

 

 

「引き込み脚が出てます!!」

 

 

被弾したことで引き込み脚が飛び出てしまっていた。これでは満足に速度が出ず、格好の的である。勇は周りをもう一度見渡す。炎上した上陸用舟艇、海岸に倒れる無数の兵隊、白波を立てて引き返す船の姿が目に映った。勇自身はこう感じた。自分はよくやった、がここまでであると。多勢に無勢で、あとは最後まで足掻いても撃ち落されるのが関の山だった。藤野を見やると、必死にこちらに来ようとしているが敵の攻撃に晒されており、来ることは出来そうもなかった。八島は既に黒煙を吹いており、もう長くはなさそうだった。せめて部下の二人だけでも助かってほしい、そう願った。しかし無情にも後ろにネウロイが来た。操縦桿をぐりぐり回すが一向に振りほどけない。ネウロイのビームの輝きすらゆっくりとした動きで見え、勇は人生で何度目かの死を迎えようとしていた。

 

 

 

「くそっ・・・ごめん姉さん、約束果たせそうにないや。藤野、八島お前たちは生きてくれ・・・」

 

 

 

弱気だと自分でもそう思ったが、無意識に言葉が出きて来てしまった。無線からは藤野の声が聞こえてくる。必死に自分のことを叫んでくれているのだろう。力がふと抜けそうになるが、その声の非常識さから耳にいやでも集中せざるを得なくなる。

 

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

思ったより長い絶叫だった。その声の主は藤野ではなくなんと八島だった。黒煙を吐いた機体を操り勇の方へ向かってくるではないか。後ろのネウロイにその声が聞こえたかどうかは分からないが、八島の殺気を放った突撃で攻撃位置を捨てて八島の対応に追われていた。

 

 

「俺らの最後の希望に近寄るなあああああああああああああ!!!」

 

 

八島の絶叫は必死に勇を守るために張り上げられていた。どうしてこんな自分を、と疑問が渦巻くがこの隙に撤退を開始する方向に思考が動き始めた。

 

 

「八島ぁ!もういい!撤退だ!」

「はあいっ!」

「藤野、了解です!」

 

 

 

死にもの狂いの攻撃にネウロイは攻撃の手を緩めていた。その隙に勇を始め戦場を脱出し始める。藤野も無事についてきたことを確認する。勇は痛む脚にも気に留めず、とにかくサーレマー島を目指した。

 

 

 

「八島助かった!!これよりサーレマー島に帰還する!二人ともついてこい!」

「はいっ!ですがまだ後方に敵が追撃してきます!」

「絶対に速度を落とすな!機体がどうなろうと基地を目指せ!墜ちても泳いで帰ってこい!ここまで来て死ぬことは許さんぞ!」

 

 

勇も生きるために必死だった。しかし、藤野と八島に比べてどうしても速度が出なかった。二人と徐々に距離が開き始める。それと同時にかなり距離があったネウロイに追い付かれるようになっていた。藤野も助けようにも自分の機体も燃料タンクがやられており、基地までもつかすら怪しかった。最後まで八島は勇を助けようと勇に近づき始めた。勇は並び始める八島を窓越しに殴るゼスチャーで追い帰そうと拳を振り上げる。

 

 

 

「来るな!俺に構わず先に行け!」

 

 

その迫力をもろともせずずっと寄り添うように飛行する八島。そっと無線に声が入る。

 

 

『副長、いえ隊長。私の最高の隊長。私の機体はもう持ちません。』

 

 

 

八島の機体を見ると所々被弾しており、エンジンもガタガタと非規則な振動を立てていた。そして震えるような、清々しいような声に勇は何度も見てきた「自爆」の二文字が過る。

 

 

 

「そんなこと言うな!必ず生きて帰れ!もう少しで基地なんだぞ!」

『隊長、これでは全員帰れません。基地に奴らも招待しちまう。後生です。やらせてください。』

「駄目だ!お前はまだ西池の分も生きなきゃならん!これは命令だ!」

 

 

 

勇の言葉になおも反抗する八島はいっそこの時のためにと言った雰囲気で勇の目をしっかりと見据えて敬礼を添える。

 

 

 

『みんなの分まで生きなきゃいけないのは、これからも生きていかなきゃいけないのは隊長、あなたです。あなたなだから今まで生きてこれました。もう十分生きました。隊長に私の命を差し上げます。どうか大事に使ってください。』

「なにを、なにを言っている・・・」

『今までご一緒できて、光栄でした!どうか、どうか生きてください!』

 

 

そう言うと黒煙をもくもくと立てながら上昇を始めた。その影を眺めながらどうしようもない勇は叫ぶことしかできなかった。

 

 

「ふざけんな!勝手に命なんて預けるな!お前は、お前の人生を全うしろ!俺は・・・俺はそんな崇高な人間じゃない!頼むから行かないでくれ、八島ぁ!!!!」

 

 

勇が叫び終わっても八島は戻るつもりはなかった。弧を描くように後方に向かうと。一番手前のネウロイに狙いを定めた。数機のネウロイは気づいて避けたが、反応に遅れた2機のネウロイは八島の機体と共に爆散して爆ぜた。爆ぜた瞬間を見て、勇は心がいつになく痛み始めた。まだネウロイは追ってきていたが、こんなにも胸が熱く、痛くなったことはなかった。勇は最後に残された、最後の良心である藤野を守り抜くと心に誓った。

また、藤野もその光景を見て胸を熱くしていた。自分も勇と歩んできた数奇な運命を辿れば、命を捧げられる。今までの勇を見れば八島の行動も十分に共感できる、しかし、自分は勇と共に切り開くこの先も一緒に居たかった。この隊長ならきっと自分に未来を見せてくれる。そう感じていた。林が亡くなってからも他の隊員が団結できたのも勇がいたからだった。だから、今この時、藤野は迫りくるネウロイから勇を守りたかった。死んでほしくない、自分を導いてくれる存在を失いたくないと藤野は強く願った。

この願いは奇跡的に同時だった。その願いは世界に認められ、二人の胸の中に宿る。

 

 

 

「な、なんだ?!」

「これは・・・!?まさか!」

 

 

ネウロイからの攻撃が迫る中、胸の高まりと溢れる力を二人はそっと開放する。ネウロイのビームが零戦の後方で弾き返される。ネウロイは驚いたように、もしくは諦めたかのように引き返していった。静寂が包む中、二人は驚きの出来事に目を何度も瞬かせるだけだった。自分の後方に魔法陣が展開されているのだ。そして、溢れ出る力は胸を熱くする。藤野が困惑したように聞いて来る。

 

 

 

「ふ、副長、これは一体・・・」

「ああ・・・世界が俺たちの願いを聞き入れたぞ。」

 

 

二人の頭と臀部には荒鷲隊の象徴である鷲の羽が生えていた。

 

 

 

 

 




主人公をいじめるのが得意な私ですが、ようやくここまでもってこれました。当初から二人のウィッチ化計画をしておりましたが、ここまで勇くんをいじめることに時間を割くことになるとは・・・ですがご安心ください?まだまだ苦難は続きます。人生そう簡単に転機なんて来ないもんです。
では、また次回にご期待ください!


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