ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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みなさんお久しぶりです。最近忙しく執筆が進まず申し訳ございません。
さて、今回からは勇の苦悩と501との関りについての話となります。ではどうぞ!


新たな翼 第九話

ここまでの勇と藤野との過去の話を聞いたミーナは、勇の「瞬間移動」という魔法力の存在に驚かされた。また、それ以上に勇の行動原理が分からなくなっていた。大事な仲間を失い途方に暮れて自棄になったのか、はたまたそれを指示した上層部に対しての敵愾心なのかミーナには測りかねていた。ミーナはその真意を伺いつつ、勇の隙を見つけるため話を続ける。

 

 

「あなたの過去については残念に思うわ。でもあなたは私に同情してほしいというわけではないんでしょう?」

「愚問だな。」

 

 

そう言い切る勇は、暗い室内の中でその瞳を爛々と輝かせミーナの瞳を覗き込みながら言い放つ。

 

 

 

「俺は俺が嫌いだ。ウィッチであるという俺の存在・・・ウィッチそのものに辟易してる。さっきも言ったが、ウィッチは戦場の女神だなんだと謳われているが現実はまやかしに過ぎない。その証拠にどのウィッチもあの場に助けに来なかったし、俺も藤野を助けることは出来なかった。つまり、ウィッチは幻想だ。」

 

 

ウィッチは幻想だと言い切る勇だったが、その瞳は怒りと悲しみに混在したどちらとも取れないものだった。ミーナ自身も助けられなかった命は数えきれないし、バルクホルンだって一時期妹を守り切れなかったことを酷く悩んでいた。勇が一人で抱え込む問題ではないし、自分が抱く誇大妄想の類とも受け取れた。しかし、勇はそこからウィッチという希望に縋り切ってしまったのだろう。その結果、ウィッチに失望し、壊れてしまった。ミーナは勇の心を切り開くために対話を続ける。

 

 

「じゃあ、あなたはその幻想と言い切る存在として何を成すつもりなの?それは私たちに害を及ぼすものなの!?」

 

 

ここ501の基地にいる以上、坂本を始め隊員たちに危害が加えられては堪らない。そんなミーナの疑問に勇はくつくつと笑みを携えて嘲笑さえ見せるのだった。

 

 

 

「くくく・・・ミーナ、残念だがお前たちに危害は加えないと最初に言ったはずだ。だが、俺はやるぞ!俺はこの世界のウィッチ全てを、そう全てを!元の平凡な少女に戻す!ウィッチが戦場の女神だと?笑わせる!この世界に女神などいて堪るか!もしこの世界に女神がいるとするのなら止めてみろ!今一度ウィッチがありふれた何の変哲もない少女であると世界に思い出させてやる!」

 

 

勇はまるで世界に演説するかのように宣った。ミーナはその姿を見て狂気を感じた。もし自分たちが勇と対立したら、坂本が言ったように勝ち目がない。今の勇にはそれが実現できてしまいそうなほどの熱量と力が備わってしまった。そう感じてならなかった。しかし、ミーナも勇が描く先に自分たちが立ち並ぶことを思い描く一人のウィッチである。一向に隙の無い勇に向けて少しでも虚勢を張る。

 

 

「・・・あなたはその先で怪物にでもなるつもり?それでも私たちウィッチたちは進み続けるわ。例えあなたがウィッチを憎んでいたとしても。」

「俺の邪魔をすると?」

 

 

ミーナの言葉に反応した勇の手に力が入る。ミーナの腕はぎゅうぎゅうと物凄い力で締め付けられる。勇がミーナの顔に近づいて心に染み入るように脅しにかかる。

 

 

「もし邪魔をするというのならお前には今のうちに消えてもらわないとな。」

 

 

 

ミーナは圧倒的な存在にこうも簡単に消されてしまうという事実に涙を浮かべるしかなかった。勇はそれを冷徹な目で見降ろしていた。しかし、勇が何かを言おうとしたその時だった。司令室の扉がノックされたのだった。返事がなくとも入ってくるところからおそらく坂本だろうとなぜかミーナは冷静に判断できた。その判断が冷静にできたからこそ、坂本が来たことによる安心感と危険を伝えたいという感情が交錯した。しかし、その感情もさらに打ち消す強い衝撃がミーナを襲う。

 

 

 

「おーいミーナ、設営班からの風呂の報告があ・・・るんだが・・・」

 

 

 

坂本が扉を開き、網膜に映し出された光景は一瞬脳が処理を放棄したと思えるほど理解するのに時間がかかった。こんなことは戦場ではあってはならないが、坂本にも理解の範疇を越えた光景だったのだ。なんと勇がミーナに覆いかぶさるように深く接吻をしていたのだった。坂本はようやくその行為が接吻であると気が付くと、いたたまれなくなり部屋を後にするのだった。

 

 

 

「お邪魔だったようだな・・・失礼。」

 

 

 

静かに閉められたドアと共に勇がミーナの唇からその唇を離す。必要最低限の情報拡散を心掛ける勇はこの状況を隠匿するため咄嗟にミーナとそういった行為に及んでいると錯覚させることにしたのだった。

 

 

 

「ふう、坂本は相変わらず鼻が利くのか、それともただの間が悪いのか・・・ん、ミーナ?」

 

 

 

勇が冷や汗を拭うとその正面には頬を朱色に染め、気が抜けたミーナがいた。勇は掴んでいた腕から手を離すとミーナはするすると壁を背に座り込んでしまった。あまりの衝撃に脳の処理能力がパンクしてしまったのだろうと察した勇は、もう一度意識が朦朧とするミーナの脳に言葉を植え付けるため囁く。

 

 

 

「俺はいない者として扱え。俺の目標を達するまでお前らが邪魔しない限り、俺もお前たちの障害にならないだろう・・・って聞いちゃいないか」

 

 

 

瞳が忙しなく小刻みに揺れている様子から、この言葉も聞こえていないだろうとため息をつく。勇はもう一度ミーナの唇に手を触れ、その柔らかで紅を帯びた女性の温もりにもう一度自分の唇を沿わせた。

 

 

 

「んっ・・・」

「・・・お前もただの少女に戻るべきなんだ。俺が、終わらせてやる」

 

 

カウハバでも感じたその感触は、接吻を施した相手の反応を彷彿とさせた。あの事件以来カウハバ基地には立ち寄ってはいないが、二度とは戻らないことを思えばの行為だったと振り返ってみたりした。そして勇はミーナを残した部屋を後にした。その部屋には乙女とその残り香が漂っていた。

 

翌朝、ミーナは内心を表に出さないよう取り繕っている合間に設営班からの報告に目を通す。坂本は早朝の訓練に勤しんでおり昨夜の出来事については聞いて来なかった。むしろそうしてくれる方がありがたいのは事実だが、どうしてもモヤモヤしてしまう。密かに顔を赤らめたりしている自分に気づき、大きくため息をついてみる。そういえば、最近はデスクワークが増え肩が凝っているような気さえした。その原因の一端をになっている勇はと言うと、朝早くに出撃任務を下達されたとのことで出撃してしまっていた。

 

 

「はあ・・・守るべきもの、守られるもの・・・ね」

 

 

ミーナの呟いた言葉は坂本の入室のノックによってかき消されていた。

一方、出撃中の勇は歓喜していた。今目の前に広がる光景は勇が求めていた戦場そのものだった。あまつさえ目を輝かせながら勇は不敵な笑みを携えていた。勢いよく突撃した先にあるものを目掛けて他の雑多なネウロイをいなしつつ、その目標と定めた物のみを考える。勇の脳内では今後の行く末を想像するだけで笑みが零れてしまうほどだった。

 

 

「見つけた!」

 

 

勇の行動が他人に理解されないことは、自分自身よく理解しているが、勇はもう迷わなかった。赤く輝く物体に手を伸ばし、それを取り上げた時、先ほどまで無数に存在したネウロイは一匹たりとも勇の周りに存在しなかった。その手に持つ赤い輝きに見とれる勇は口角を上げ胸に抱く。その時、胸に抱かれたネウロイのコアは一層赤く輝いた。ズシンと胸に響く鼓動はコアと勇の心に回廊を繋げるかのように染み渡っていった。

 

 

「これでようやく・・・ああ、待ってろよ。みんな・・・」

 

 

 

一方そのころ、501基地ではとある事件が起きていた。基地内部に超小型ネウロイが侵入し、機械類に深刻なダメージを与えていた。この超小型ネウロイは謎にウィッチたちのズボンに潜り込み、ウィッチたちの生理的障害となっていた。

 

 

「あ~もぞもぞする!!!」

 

 

ことあるごとのウィッチたちのズボンに侵入し、怒りを買うネウロイだったが、遂にはミーナのズボンに侵入した際のごたごたで潰されたため消滅した。この功績によりミーナはネウロイの総撃墜数が200機を達成し、表彰されミーナに更なるストレスを与えたのだった。

 

 

超小型ネウロイ侵入事件から数日経ったある日、勇がようやく501基地に帰還した。定期連絡はあったもののミーナが勇の所在を知るすべはなかったため、ミーナは気が気ではなかった。

 

 

「ただいま帰還した。」

「・・・おかえりなさい。話は聞かせてもらえるのでしょうね?」

「聞く耳があるのなら。」

 

 

勇が身支度を整える間に坂本とバルクホルン、シャーリーなど大尉以上の者を司令室に集めた。これはミーナの護身用のためという理由と階級の上の者に勇の知見を伝えるためである。司令室のドアがノックされ、勇が入室すると空気が変わる気がした。勇が一枚の書類を机に差し出す。

 

 

「これは?」

「読めばわかります。」

 

 

普段と違い勇の雰囲気にシャーリーやバルクホルンが顔色を変える。ミーナが代表して書類に目を通すと驚愕の情報が羅列されていた。ミーナが書類を机に置き、勇に目を戻す。勇の表情はいつも以上に冷たく、しかし興奮しているように見えた。

 

 

「これは事実なの?」

「署名通り、連合軍参謀本部の承認済みです。」

「ミーナ、どういうことなんだ。」

 

 

坂本が堪らずミーナに問う。ミーナは顔を下に向けたまま。書類の事実を語る。

 

 

 

「・・・赤松勇少佐は、地中海某地域にて敵新勢力を発見・・・これと戦闘。」

 

 

ミーナはここで自分の常識が次の事実を言うことを妨害される。ミーナ自身、この情報は信じられなかったが信じる他なかった。他の隊員が固唾を飲んでその答えを待つ中、ミーナが口を開く。

 

 

「同日、勇少佐が単独撃破。同地域は解放されたわ。」

 

 

ミーナは言葉を放ったが、その受け取り方は人それぞれだった。シャーリーは大喜びで勇に対して感嘆の声をかけていた。バルクホルンは勇の目を見てまるで偉業を成し遂げた親類に投げかけるような眼差しをしていた。一方、坂本は考え込むような姿勢を取っていた。ミーナは勇から目を離せずにいた。目の前の人物は本当に化け物なのか、それとも英雄なのか見極めかねていたからだった。

 

 

「それじゃあ両大尉は退室して頂戴。詳細と今後については佐官で話し合いたいと思います。」

「ミーナ!作戦中のユウの戦果については私も興味がある!今後の戦闘の参考にするため残っても構わないのではないか?」

 

 

バルクホルンが話に食いついて来るが、バルクホルンがいては都合が悪かったため退室を促した。不満ありげな表情を隠さないバルクホルンを嗜めるようにシャーリーがバルクホルンを連れて退室してくれた。ミーナと坂本、勇の三人になった部屋は先ほどとは打って変わって静かになった。ミーナがどう聞いていこうかと考えていると坂本が口火を切った。

 

 

「ユウ、なぜ一人で行ったんだ?」

「なぜ?」

 

 

ミーナが思いもよらない質問を坂本が投げかけたことで勇もその問いを問い直した。ミーナとしては一人でネウロイの巣を撃滅する能力に恐れ慄いて今後どのような行動を取ると宣言するのかが論点になると考えていた。

 

 

 

「ユウ、お前は確かに強くなった。だが、決して一人で戦いはするものじゃない。ここは、501はお前の居場所ではなかったのか?」

 

 

坂本は純粋に聞いているように見えた。その問いがミーナの疑問の本質に沿っていることに驚いてしまうほど、純粋な問いだった。勇は目を瞑り、吐き出すように坂本の問いに答える。

 

 

 

「俺の居場所は今はない。お前たちのことは大切に思っているが、俺は俺の成すべきことを遂行したいと考えている。」

「そうか・・・私たちでは力不足だったか。」

「俺とは違う・・・それだけだ。」

 

 

ミーナの目には勇と坂本だけが分かる言葉だった。二人してどうして扶桑のウィッチはこうも複雑なのかと嫌になる。ミーナはこれからの勇の処遇について聞くことにした。

 

 

 

「それであなたはこれからどうするつもりなの?」

「しばらくはこっちに世話になるつもりです。しかし、決戦は近い・・・そうお考え下さい、ミーナ中佐。」

「そう・・・では私、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐から‘連合軍赤松勇中佐’に要請します。」

 

 

 

勇の本職である職名を言われ勇はミーナを睨むが、ミーナに同様の素振りは見られなかった。勇は苛立ちを隠して沈黙する。

 

 

 

「あなたにはしばらくの間私たちに協力してもらいます。ここは私たち501、ストライクウィッチーズの基地です。勝手な真似は許しません。ここにいる以上、あなたは私の指示に従ってもらいます。いいわね?」

 

 

 

例え勇が来るべき決戦に戦力として投入することは分かったが、そのことを理由に勝手な真似をしてもらってはミーナとしても面白くない。だからミーナとてもここで楔を打って勇の行動を制限しておく必要があった。しかし、勇もそれは分かっていたのか素直に応じたかに思えた。

 

 

 

「了解しました・・・ただ、私の身辺を調査するのは止めた方がいい。これは警告である。」

 

 

 

圧倒的な気迫に鬼気迫るものを感じたが、ミーナは顔に出すことなく頷くことで了解の旨を伝えると司令室から退室した。事情を察した坂本だけがミーナの傍に寄ってくれる。

 

 

 

「ミーナ、大丈夫か。」

「ええ、彼を、勇中佐を止められるのは私だけだもの・・・」

「ああ、ユウもきっと苦しんでいるんだ。私たちがユウの居場所になってやろう。」

 

 

 

この日から坂本は日頃の訓練をさらに激しくしていくのだった。少しでも勇の見ている景色を共有するためとは言え、その無理な訓練は次第に魔法力の限界にぶつかるのだった。

 

 

「烈風斬!!!」

 

 

海が割れ、衝撃が骨身に染みるほどの斬撃はそれを見ていた宮藤を感動させた。

 

 

「坂本さん!私にもその技を教えてください!」

「お前には無理だ!」

 

 

冷ややかに突き放す坂本だったが、内心は勇のこともそうだが自分に焦っていた。いつ自分の魔法力が限界を迎えるか分からない中、少しでも世界の開放に貢献したい、501の仲間でいたかった。その想いが勇の孤高さと相反する位置にいる羨望の思いだと言うのは分かっていたが、勇は坂本が見ても異色な存在感を放っていた。その姿を見て坂本はいても立ってもいられなかったのである。

一方、宮藤は己の力不足が原因で坂本に認められていないと感じ、訓練に励むのであった。しかし、最近感じられていたユニットへの魔法力伝導が上手くいかないことに疑問を感じていた。

 

 

「私、どうしちゃったんだろう。」

「どうかしたか?」

 

 

突然声を掛けられたことに驚きながらも、隊唯一の男性の声にすぐにその正体は分かった。

 

 

 

「赤松さん!驚かさないでくださいよ!」

「驚かせたつもりはなかったが・・・まあいい。調子が悪いようだな。」

「はい・・・どうも最近ユニットに魔法力を流しても力が抜けちゃうと言うか、私どこか変なんですかね?」

 

 

素直に疑問をぶつけると勇は考え、徐に宮藤の背中の真ん中に手を当てた。突然のことにまたもやびっくりする宮藤。

 

 

「あ、赤松さん?!なにをっ!?」

「な、なんだこれは・・・」

 

 

逆に驚く勇の反応に、宮藤は自分の体に何が起こっているのか不安になった。

 

 

「私何か病気なんですか?」

「い、いや・・・すまない。俺にはどうしようもないな。」

「ええ?!病気なんですか?」

 

 

困惑する両者だが、勇は落ち着きを取り戻すように深呼吸する。勇の感じたものは莫大な魔法力から生じる眩しさだった。勇はウィッチの魔法力を触れることで色や形として認知できるようになっていた。勇のように二回目のウィッチ化した例はなく、確証もないが、魔法力体系に何らかの影響が生じることが分かっていた。そのため自身の魔法力を練り続け、高度に操ることで全盛期と遜色ない、またはそれ以上の技や力が出せていた。瞬間移動などは別のものとして、宮藤のものは何にも染まっていない純粋な白の魔法力だった。それでいて絶大な潜在魔力に慄いてしまった。

 

 

 

「あの・・・どうして背中を触っただけでわかるんですか?そういう診察方法があるんですか?」

「ああ、これは心臓とかに近い場所は魔法力の流れがよくわかるんだ。」

「なるほど・・・赤松さんも見てあげますよ!」

 

 

 

突然の反応に勇も一瞬反応が遅れたことが失敗だった。宮藤は勇の胸に手を当てると一瞬治癒魔法が発動してしまった。その反応に宮藤は目を見張ったが、それ以上に勇が目の前から消えてしまった。辺りを見渡してもそこに勇の姿はなかった。

 

 

 

「あれ?!赤松さん!?どこですかぁ~?おかしいな・・・今の今までここにいたのに。それにあの感触・・・」

 

 

 

宮藤が辺りを探す中、勇は久しぶり心臓が張り裂けそうになるほど収縮を繰り返していた。冷や汗をびっしりとかいていた。

 

 

(まずい・・・なにかは分からんが、俺の中の何かが反応した?でもどうして治癒魔法が発動したんだ?どうして俺は逃げたんだ?)

 

 

 

勇は自分の心が宮藤の魔法力に反応したことに驚かされた。しかし、気持ちを即座に切り替え宿舎に戻ろうとした。振り返るとそこにいたのはおどおどとした少女、リーネだった。リーネは勇に気づくと近寄ってきた。

 

 

 

「あ、勇少佐!芳佳ちゃん見ませんでしたか?」

「ああ、今しがた外にいたぞ。」

「そうですか!ありがとうございます。」

 

 

丁寧にお辞儀をすると駆けだす少女は、昔見た常に怯える存在ではなくなっていた。そのことに気づいた勇は走り出すリーネを見ていると不意にリーネが振り返る。

 

 

 

「あのっ!勇少佐!」

「ん?」

「いつもお一人でネウロイと対峙されていると聞きました。私、そんなこと一人じゃできないから、初めて会った時もそうでしたけど、なんていうか・・・ありがとうございました!」

 

 

 

勇はリーネの突然の感謝に驚きを隠せなかった。ここ数年で久しぶりに聞いた感謝の言葉をすぐに認知できなかったほど「ありがとう」の心の篭った言葉は勇の中で錆びついていた。勇が目を見開いているともう一度リーネはお辞儀をして今度こそ宮藤の下へ駆けて行った。急な心の動揺を鎮めようと食堂でコーヒーを入れていると夜間哨戒のサーニャがやってきた。今日はよく人と会うなと思っていると、サーニャがコーヒーの香りに鼻をひくつかせているようだった。

 

 

 

「・・・サーニャ中尉、紅茶でも飲むか?」

「あ・・・じゃあいただきます。」

 

 

 

久しぶりの勇との会話に気恥ずかしさが滲み出るサーニャだったが、勇が紅茶を出すと香りを楽しみつつ口を付けた。ロマーニャと言えど夜の空は寒い。出撃する前になにか温まる物を飲むだけでも違うのは勇も良く知っていたが、こんなにゆっくりとした時間は久しぶりだった。するとサーニャが静かに口を開いた。

 

 

 

「おいしい・・・」

「それはなによりだ。」

「なんだか、勇少佐の入れてくれる紅茶は優しい味がしますね。ありがとうございます。」

 

 

 

またもや感謝され、あまつさえ優しいとまで言われたのは記憶にないほどだった。こそばゆいような感覚に追われながらサーニャを見送る。今度こそ寝ようと寝室に向かう途中、目の前の部屋からゴミが飛び出してきた。生気を失った目を向けると案の定、ハルトマンがゴミ屋敷から出てきた。

 

 

 

「あ~トゥルーデに怒られる~あ、ユウ!いいとこに!」

 

 

 

ハルトマンに捕まり嫌々ながらも部屋の掃除に付き合う。あまりの惨状に勇は海軍式の片付け方を伝授する。

 

 

 

「いいか、ハルトマン。いい片付けの方法を教えてやろう。」

「えっ!なになに?!」

「・・・床に落ちているものは全てゴミだと思え!」

「うわ~!!」

 

 

窓から焼却炉に向かってありったけの魔法力を用いてぶっ飛ばすと少し部屋に空間が生まれる。その後もハルトマンの悲鳴を聞きながらも片付けに専念すると、ようやく人間が居住できるスペースができた。一息つくとハルトマンがお礼を言う。

 

 

「いや~助かったよ。ありがとう!」

「勘弁してくれ。」

「でも安心したよ。」

「ん?」

 

 

ハルトマンは月夜に照らされながらにっこりと笑う。心からの笑顔は勇には些か眩しかった。

 

 

 

「ユウがまた帰ってきてくれて!」

 

 

帰るという言葉は勇には必要のないものだと思っていた。ここ501の基地はあくまで仮の住居で、自分の目的を果たすための足掛かりでしかない。しかし、この目の前にいる人物は勇が帰ってきて当たり前の存在であるかのように振る舞うではないか。勇にはこの笑顔が嫌に心に響いた。

 

 

 

「ただいま・・・とでもいえばいいのか?」

「うん!おかえり!」

 

 

ハルトマンはその笑顔のまま横になり、寝る体勢に入ってしまったため勇も部屋を後にした。

 

 

 

(さすがはウルトラエース。一撃離脱がお上手なことだ・・・)

 

 

 

嫌な感心をしつつ自室に入り今度の今度こそ就寝しようとすると、部屋の中に誰かがいる気配がした。気を抜いているわけではないが、自室に入られるのにはいい気分はしない。腰の拳銃に手をかけ、気配を消してドアノブに触れようとしたその時、中から声がした。

 

 

 

「ユウ、私だ。」

 

 

 

その声の主は勇が一番心安らぐ人物のものだった。そう、バルクホルンである。拳銃を急いで戻し、ドアを開くとそこにはベッドに腰かけたバルクホルンがいた。

 

 

「トゥルーデ・・・どうしてこんな時間に?それにこんな時間に俺の部屋にいたら規則違反じゃ・・・」

「ユウ、私に隠していることはないか?」

 

 

 

勇はドキリとした。部屋にはここの隊員には見られてほしくない書類がある。それを見られたとすると、例え姉のように慕っているバルクホルンといえどただでは済まないかもしれない。勇自身、バルクホルンだけは手に掛けたくなかった。

 

 

 

「隠し事って何さ?俺は元々違う任務でここに居させてもらってるんだから命令系統が違うのは分かるだろ?」

「それは知ってる。」

「じゃあ、何が知りたいのさ?」

 

 

 

勇はバルクホルンに何も言わないでほしかった。何も知らないでいてほしかった。何も知らなければバルクホルンが悲しむことは何も起こらない。そもそも勇にバルクホルンを悲しませることはしたくなかった。だから内心、これから言うであろうバルクホルンの言葉を待つこの瞬間が何よりも勇を緊張させた。

 

 

「私が知りたいのは・・・今のお前の気持ちだよ。」

「俺の・・・気持ち?」

 

 

 

バルクホルンは勇に近づくと勇を見上げるようにして瞳を覗き込んでくる。いつの間にか勇とバルクホルンの身長差がついたものだと不意に思ったのが失敗だった。その焦りをバルクホルンは見逃さなかったからだ。

 

 

 

「ユウが扶桑に帰った時、私はお前がパイロットになって大変な毎日を送っているだろうと思い、何度か手紙を書いた。しかし、それは届くことはなかった。」

 

 

 

確かに、バルクホルンからの手紙はあの赤松貞明が握りつぶしていたため、勇に届くことはなかった。また、バルクホルン自身、赤松貞明からそのことを聞き知っているはずだった。

 

 

 

「私もいらない心配をしていたと反省したさ。お前の上官は案外いい人のようだったからな。」

 

 

赤松貞明がどんな内容の手紙を送ったかは知らないが、もう手紙を書くのは止めてほしいという趣旨の内容だったと言っていただけに、勇は赤松の送った手紙の内容が気になった。

 

 

 

「パイロットのお前にも居場所ができたんだと安心した。きっと立派なパイロットになって活躍して名を馳せるとも思ったよ。まさか再びウィッチになって私たちと同じ場所に帰ってくるなんて夢にも思わなかったし、突然のことに驚きつつも感涙に耐えきれなかったよ。」

 

 

 

それはさすがのバルクホルンだと、身内びいきのお人好しだと勇は内心微笑んでしまう。だが、バルクホルンは惚気てばかりではなかった。

 

 

 

「だがな・・・ユウ。私は少し盲目になっていたんだと、最近になって気づかされたよ。」

「何が?」

「ユウ、お前がここに居場所を求めていないことにだ。」

 

 

 

勇はバルクホルンの目を直視することができなかった。今目を合わせたらなにか見透かされてしまうような気がしたからだ。思い当たる節はあまりなかった。自分の任務と目標のため、完璧にこの基地の隊員との繋がりを維持したはずだったからである。確かにミーナは勇の狂気に気づいてしまったが、それには釘を刺しておいたはずで情報の漏洩はあり得なかった。坂本だって魔法力の限界を誤魔化しつつ自分と戦っているからこそ、焦りの部分が勇と重なって見えてしまったことは、特に失点ではなかった。それなのに、なぜ目の前の人物、ゲルトルート・バルクホルンは気づけたのだろう、その一点のみが勇の脳内を駆け巡った。

 

 

 

「なに・・・言ってんだよ。俺はここに居るじゃないか。」

「そうじゃない!」

 

 

バルクホルンの大きな声にハッとして顔を上げて目を見てしまう。その瞳には疑いや蔑みとは全く別の涙が浮かんでいた。勇はこの涙の理由が分からなかった。

 

 

 

「あの日、この基地に来た時、ユウと私は涙を流して再開を喜んだはずだ!だが、ユウの心はどこにもなかった!」

 

 

 

その一言に勇は己の失点を理解した。表面上は仲間だと取り繕えていたが、自分の中で一度も「仲間」という言葉を使ってこなかったからだ。常に心のどこかに距離を置き、「隊員」と呼んでいた。一番近い存在であるバルクホルンにはその心に勘づいてしまったのであろう。

 

 

 

「いつから気づいたの?」

「・・・そんなに前からではない。確信を得たのはお前が返ってきた時だ。」

「えっと、詳しく教えてもらえるかな?」

 

 

 

勇はもう隠しても無駄かなと思った。いつバルクホルンが襲い掛かってきてもいいように体内で魔力を纏わせて臨戦態勢を整える時間稼ぎをし始めた。

 

 

 

「さっきの戦闘報告の時だ。あの時までは私もユウは変わらないと盲信してた。だが、一人でネウロイの巣に攻撃を仕掛けて、帰還したユウの目つきは・・・嬉しそうだった。」

 

 

 

比較的表情はあまり表には出さないことを心掛けていた勇だったが、まだまだ甘かったようだと反省した。確かに興奮した時は顔がにやけてしまうのは悪い癖だろう。そして、勇は魔力を全身に行き渡らせるのが完了しつつあった。あとはバルクホルンの出方次第である。

 

 

 

「それだけで気づいたの?」

「当たり前だ。私はユウの‘お姉さん’なんだから。」

 

 

 

そう言うとバルクホルンがゆっくりと勇に近づいてきた。前進に力を込め迎撃準備に移る。バルクホルンの怪力は近距離ではなかなか厄介な相手だからこそ全力で臨むつもりだった。しかし、バルクホルンに敵意が一切感じられなかった。するとバルクホルンは勇の少し前で立ち止まると手を広げた。

 

 

 

「ユウ、帰っておいで。」

 

 

 

それはまるで勇が最初に仲間と打ち解けた時に、バルクホルンが勇を優しく包み込んでくれた時の光景と酷似していた。勇の目の前に再び光が差し込んだ瞬間だった。しかし、勇はその輝きに包まれることは出来なかった。

 

 

 

「俺にはすべきことがある・・・‘ここ’にはもう帰れない。だから・・・さようなら、姉さん」

 

 

 

そう言い残すと勇は瞬間移動でバルクホルンの前から消え去った。勇の部屋には一人残されたバルクホルンがただ虚しく残されただけだった。今夜の月は一層輝くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 




ついに姉離れか・・・そう思うとみんな成長するんだなと、もうアニメの登場人物より年上になってしまったことに感慨深い思いです。

今回は勇の行動目的と仲間たちとの関係の苦悩についてでした。さて、次回はついにロマーニャ解放まで話を進ませたいと思います。投稿期間は伸びてしまいますが、ぜひご期待ください!
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