久しぶりの空戦もありますのでぜひご覧ください!
翌日、ブリーフィングルームにて一同は扶桑海軍の戦艦大和一団が集結していることを知らされる。勇も同席していたが、一番端でひっそりと話を聞いていた。そこに緊迫した通信が入る。
『こちら扶桑海軍大和、弾薬庫にて暴発!負傷者多数発生!』
この一報に一同は驚愕する。それはそれまで沈黙を保っていた勇も同様だった。
「私が行きます!飛べなくても治療位ならできます!」
「私も行きます!」
「俺も行く」
魔法力が安定しない宮藤と連れ添いのリーネが立候補する中、勇も名乗りを上げる。ミーナはそのことに一瞬驚いたが、事態は一刻を争う為、勇を二人の護衛役として同道させることを了承する。勇は医療品を担げるだけ担ぎ、武器の類も置いての出撃とした。また、宮藤は覚束ない魔法力に不安を覚えながらようやく大和上空に到達する。
「あれが大和・・・大きい!」
「リーネちゃん行こう!」
「こちら第501統合戦闘航空団、赤松勇少佐。大和の負傷者救援に来た。」
『こちら大和、赤松勇少佐か・・・よし、着艦後負傷者を頼む。」
連絡を終えると宮藤とリーネはすぐに負傷者の下に駆けつけ手当を始めた。一方、勇は戦艦大和艦橋にいた。
「やあ、勇中佐。久しいね」
「杉田艦長、赤松勇連合軍中佐ただいま負傷者救援に参りました」
「君が人助けとはね。それとも別の目的かな?」
勇はこの人も食えないなと思いつつ顔色を変えず目的を果たす。
「例の‘あれ’は無事ですか?」
「・・・やはりそちらが目的だったか。ああ、無事だよ。この大和はこの先の決戦に必要不可欠だからね。もちろん君もね」
そう微笑んで目の前の物を見据える杉田の目には仰々しい機械群がそびえていた。勇もその光景を目に焼き付けて決意を固める。勇の若くして他人を威圧させる眼光をもろともせず杉田が話しかける。
「そういえばまた宮藤軍曹に助けられてしまったな。」
「また、ですか?」
勇は杉田が赤城艦長時代に宮藤に救われたことを知らなかった。杉田は朗らかに笑いながら宮藤について語り始める。
「前のお礼は陸軍の扶桑人形だったか!今度は何にするかな」
「今度は海軍のものなんていかがでしょう?」
そんな笑い話を勇は受け流していると、杉田が勇に501との関係について聞いて来る。勇にとって昨日の夜のこともあり少し話しずらい話題だった。
「そういえば勇中佐、501の隊員はどうかね?」
「どうかね、と申されても。仮の基地ですので任務以外の行動は取っていません」
「そう固い回答が聞きたいわけではなくてね・・・だって501への出向は君たっての希望だろう?」
勇は杉田という男が自分のどこまで知っているか末恐ろしくなった。確かに勇は過去の功績から希望の配属場所に出向することが許可されたため501を希望していた。そのことを知っている杉田に畏怖しつつ、ため息交じりに応える。
「戦友に別れを告げる為です。しかし、もう済みましたので」
「別れか・・・君にはそういうことになるのかもな」
勇は別れという単語を用いたことで改めて自分の行動と欲求を回帰させることができた。もう勇は目標を見据えて迷わないことを胸に刻み込んだ。勇の胸は強い鼓動とともに熱くなった。それは大和に搭載された機械も同様に輝いた気がした。
一方、宮藤とリーネは負傷者の手当てに奔走し、宮藤の圧倒的な治癒能力に事態は沈静化に向かっていた。
「ふう、これでこの人も終わり。次の人は?」
「これで最後です。」
「芳佳ちゃん凄いね!たった一人で!」
「よかった・・・」
ようやく一息ついたその時、艦内に警報が鳴り響いた。
『ネウロイ接近!総員戦闘配置に付け!』
「ネウロイっ?!」
艦橋でもネウロイの接近に動揺が隠せなかった。
「なぜこの海域にネウロイがっ?!」
「くそっ!この決戦兵器の大和に勘づいたか?!」
「杉田艦長、私も出ます!」
「武器も持たずにかね?」
勇が出撃しようとするも、医薬品を最大限運んだため武器の類は扶桑刀と拳銃のみしかなかった。それでも勇は大和を守るため出撃を決心する。
「今この大和を失うわけには参りませんので」
「そうか・・・頼む」
「はい」
勇は杉田に敬礼をすると急いで出撃準備に取り掛かる。格納庫から出撃すると既にリーネが交戦中だった。リーネの装甲ライフルでは分が悪いのは目に見えていたが、勇自身も武装はリーネにも劣るため有り合わせの戦術で時間稼ぎするしか手立てがなかった。
「リーネ、宮藤はどうした?」
「芳佳ちゃんはやっぱり飛べないみたいで」
「そうか・・・ならば我々で足止めするしかないか。サポートを頼むぞ」
「武器もなしでですか?!」
リーネは驚きを隠せなかったが、勇なら何かしらの手立てがあるかもしれないと思っていると、すぐさま勇がリーネの目の前から忽然と姿を消した。
「えっ?!どこに?!」
リーネがあたふたしていると勇は既に攻撃を開始していた。一瞬で間合いを詰め、至近距離で拳銃を打ち込んでいる。リーネも急いで援護射撃を開始する。しかし、その装甲は固く、一向にネウロイの進行は止まらなかった。その時大和が艦砲射撃を繰り出す。予め警報が出されていたためリーネは回避をするが、またもや勇の行動に驚愕させられた。なんと勇は大和から放たれた弾道に追随し、着弾し、削られた装甲にすかさず追撃をかましていた。
「勇少佐!?攻撃に巻き込まれます!退避してください!」
「まもなく大和がネウロイの射程圏外に出る!おそらく最後の反撃だ!つべこべ言わずに攻撃の手を止めるな!」
鬼気迫る勢いの勇に気圧されてリーネも攻撃するが、まるで勇についていけなかった。そして、ついに大和が完璧にネウロイの射程圏内に出たことを確認した時にはリーネは肩で呼吸していた。
「はあ・・・はあ・・・全然ついていけない・・・」
リーネの目には物凄い勢いで攻撃を繰り返す勇の姿を映していた。既に拳銃の弾薬も尽き、刀での攻撃をしていた勇は、瞬間移動を繰り返しながら大型ネウロイに切りかかっていた。しかし、致命傷は与えられずやきもきしていた。
「くっそ!こんなことなら機関砲は置いて来るんじゃなかった・・・しかし、いつものことだ。通じないのなら戦術を変えるだけだ!」
刀を収めると今度は己の魔法力を集中させ、拳に集めた。その瞬間勇の拳は青白く輝き、さも502の管野のように拳に魔法力を纏わせると大型ネウロイに突っ込む。
「墜ちろっ!」
鈍い音がして大型ネウロイは悲鳴を上げて高度を落とす。その光景にリーネは目を白黒させるしかなかった。
「すごい・・・あれが世界一の戦い方・・・」
リーネが呆気に取られているほんの一瞬の隙を突いて、大型ネウロイが今度はリーネに攻撃を放ってきた。突然のことに勇も対処が間に合わず、リーネも咄嗟のシールドしか展開できなかった。
「うう・・・もう、だめ・・・」
先ほどの戦闘で疲弊しきったリーネは攻撃を受けとめきれず、シールドが破壊されてしまう。
「リーネ!!!」
「芳佳ちゃん・・・」
ゆっくりと海に落ちて行くリーネを勇は見ていることしかできなかった。しかし、ここで奇跡が起こる。大馬力のエンジン音と共に颯爽と現れたのは飛べないはずの宮藤だった。
「リーネちゃん!!!」
「芳佳ちゃん?!」
「もう大丈夫だからね!」
墜落寸前のリーネを助けた宮藤は、その新型のユニットを力強く羽ばたかせ、大型ネウロイに突っ込んでしまった。勇は宮藤の新たな姿を目に焼き付けるのだった。
「よくもリーネちゃんを!!!」
「まさかあれは震電か?!」
シールドだけで勇が削り切れなかった装甲をいとも容易く貫き、内部から破壊する姿は勇をして驚愕させた。勇は信じられないとばかりに、新人だったはずの宮藤の圧倒的な何かに心が動かされていた。
(なぜだ?!なぜあんな新人が?!俺は宮藤が羨ましいのか?いいや違う!!俺の方が強いはずなのになぜ宮藤ができたんだ!分からない・・・)
その後、基地に無事に帰投した宮藤とリーネは疲労のためすぐに寝入ってしまった。そして、格納庫では三人が話し込んでいた。
「J7W1震電」
「これが扶桑の新型・・・」
「ああ、宮藤博士亡き後、開発が頓挫したと聞いたがな」
「まるで宮藤さん専用機ね。あなたもご苦労様、勇少佐?」
「ああ・・・」
先ほどの戦闘がいつまでも頭の中を駆け回り、勇は空返事を繰り出すばかりだった。そして、自分の固有魔法も曝け出してしまった以上、追及されるのは時間の問題だった。
「リーネさんから聞いたわ。あなたの攻撃の手数、さすがは世界一の撃墜王ね」
「・・・瞬間移動のことですか。当たらずとも撃墜できなければ元の木阿弥ですがね」
「冷めてるわね。それにしても宮藤さんはお手柄ね。もう一人前かしら」
そのミーナの言葉に勇も坂本も口を開けなかった。
数日後、ミーナは作戦計画の伝達のため作戦本部に飛んだ。今回、マルタ島に新たなネウロイの拠点が見つかり、その奪還作戦を行うことになったからである。足元の脅威に気づけなかったことに士官連中は落胆を隠せなかった。
「灯台下暗しとはこのことだな。まったくいつも上の連中の無茶に突き合せられるこっちの身にもなってほしいものだな」
「まあそう言うなバルクホルン。決戦前に気づけたことを幸運に思おう」
憤るバルクホルンを坂本が嗜めるが、勇も今回の体たらくには思うところがあった。
「概要はミーナ中佐が帰ってきてからとして、我々だけで奪還作戦を完遂できるほどの勝算があるのだろうな。まあ、なにか思惑があると見て間違いないだろう」
「それは上が私たち以外の戦力を保持しているとの見通しがあっての物言いか?」
バルクホルンは勇を見ずに質問する。坂本も勇とバルクホルンの若干の雰囲気の違いに勘づいているのか肩をすくめるだけに留まっていた。
「そう見るのが妥当だろう。最新兵器か、はたまた強力な助っ人か・・・」
「どちらにせよ私たちはこき使われるということだな」
いつもと違う雰囲気なのに勇とバルクホルンの意思疎通が完璧なことに、坂本は苦笑いを隠せなかった。そして、ようやくミーナが搭乗する輸送機が見えた。また同時にその機体から誰かが飛び降りるの光景は勇が予言した通りの災難の予兆であった。
「すごい!飛び降りてきた!」
「ふう、私はハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。アフリカ部隊から来た。よろしく頼む」
疾風迅雷のごとく現れた人物への反応は人それぞれだった。バルクホルンやハルトマンなどは旧知の仲ということもあり頭痛の種が増えたという表情だった。また、宮藤やリーネなどはそのマルセイユの風貌から羨望の眼差しを向けていた。当の本人であるマルセイユはと言うと、元上官であるバルクホルンの怒りの眼光を無視し、ライバルと言えるハルトマンとの邂逅に耽っていた。
「ハルトマンっ!久しぶりだな!」
「あ~久しぶり・・・」
「また撃墜数を増やしたみたいだな!勝負しよう!」
「えー嫌だよ」
バルクホルンの眼光をもろともせず無邪気にはしゃぐ姿にミーナと坂本は眉間を摘まむだけだった。場所を移し、ブリーフィングルームへと集まった隊員は、今回の作戦内容をミーナから聞く。
「今回の作戦は奪われたマルタ島の奪還です。ネウロイは島の沿岸にドーム状の障壁を展開しており、外からの進入は困難です。そのため海中から内部に侵入。外部は陽動とし、内部からの攻勢をメインとします。なお、海中からの進入と言うことで扶桑の伊400型潜水艦の格納庫から二名のウィッチを射出します。」
「海中の進入と言うことで、その難易度は未知数だ。そこでそのメンバーは熟練の者を選びたい。バルクホルンとハルトマンに任せたいと考える」
ミーナの作戦説明と戦闘指揮官としての坂本の提案にほとんどの者が納得しかけた時、ミーナが訂正を入れる。
「ええ、今回の作戦に限り、本部の要請がありました。部隊間の戦力協力を名目にアフリカ部隊よりハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉がこの作戦に参加します。よって、501からは1名の選出です。バルクホルン大尉、お願いできる?」
「ああ、了解した」
妥当な判断かと思われたが、一人がそれに異議を唱える。もちろんその人物とはマルセイユだった。
「いいや、バルクホルンでは無理だな」
「なんだと?!」
「聞こえなかったか?お前では私に釣り合わないと言ったんだ」
「上官に対する態度が相変わらずのようだな!」
「元、上官だろ?それに今は階級も同じだ」
一触即発の中、ハルトマンが見かねて声を上げる。普段寡黙な分、その行動は周りから異様に映った。
「ああもう分かったよ!私がやるよ!」
「そうこなくっちゃな!私と肩を並べられるほどの実力者はお前しかいない!」
「・・・そうかな。もう一人いると思うけど」
ハルトマンの視線の先にマルセイユも目線を移す。そこには一人の男性が佇んでいた。その姿を見てマルセイユは途端に背筋が凍り付くような感覚に襲われた。
「な、誰だ?!男じゃないか!」
「ユウだよ」
「ユウ?」
「教えてやろう。あれは世界一の撃墜王、赤松勇だ」
バルクホルンのどことなく勝ち誇ったような顔が気に食わなかったようだが、マルセイユは勇の持つ圧倒的なオーラに警笛を鳴らしている自分に気が付いた。
「赤松勇・・・もしかして‘荒鷲隊のゴースト’か?!」
その異様なネーミングに一同は懐疑的になる。先ほどまでの自信をかなぐり捨てて恐怖するマルセイユの対象である勇に視線が集まる。勇は日光の陰からゆっくりとマルセイユの近くに歩み寄るとマルセイユを覗き込むように見つめる。それは蛇に睨まれた蛙の様だった。
「懐かしい名だ。君が何者かは知らないし、知るつもりもないが作戦に参加する以上失敗は許さない。それとも俺が直々に作戦について‘指導’が必要かな?」
威圧的な態度に気を抜いたら食われてしまいそうな殺気にマルセイユは首を振るので精一杯だった。こうして作戦参加者はマルセイユとハルトマンに決定し、作戦まで連携を高める訓練が日々行われ始めた。自信家のマルセイユらしく、常にハルトマンへ勝負を持ち掛けていたある日の訓練で事件は起きた。気球を撃墜する連携射撃訓練で一気に片付けた二人の力量に全員が感心していると、突如マルセイユがハルトマンの背後に回り射撃の構えを取ったのだ。
「訓練中止!二人ともすぐに降りなさい!」
ミーナにたっぷり説教を食らった二人は部屋で愚痴を挟みつつ過ごしていた。
「ミーナに怒られちゃったじゃんか!」
「やっぱりミーナは怖いな」
「本気だともっと怖いんだぞ!」
「・・・怖いと言えば、ハルトマン。お前は赤松少佐は怖いと思わないのか?」
ハルトマンにとっては話の飛躍に一瞬戸惑ったが、普段の勇を思い出し、印象を語る。
「昔はもっと優しい感じだったよ。それこそトゥルーデが手懐けたんだけどね」
「バルクホルンが?!」
このことに驚いたマルセイユは、バルクホルンの所業に彼女の評価を見直すことにしたという。またハルトマンも逆にマルセイユの勇への評価が知りたくなった。
「ハンナはユウのこと何か知ってるの?」
「・・・彼は、赤松少佐とは直接の面識はないんだ。だが、うちに扶桑の戦闘機部隊があってな、そいつらとは仲良くやっているんだが、口を揃えて別格がいると言っていた」
「それがユウなの?」
マルセイユが言うアフリカに駐屯する部隊とは、勇の所属していた343空第二中隊である。マルセイユは彼らの口ぶりを思い出し、またそのほかの情報とも勇を照合しての人物像を持っていた。
「指揮官の杉田はいいやつだ。しかし杉田は赤松少佐の名を出すといつもの明るさがすっと消してしまうんだ。まるで幽霊でも見たかのようにな・・・」
「だからゴースト?」
「それだけじゃない。赤松少佐は以前アフリカ戦線に参加したことがあるらしい。極秘作戦だったからその詳細はうちの隊長と将軍の話を又聞きしたに過ぎないが、僅か一週間で私たちが3か月かけて成し遂げた戦果を出したらしい。私は最初、そんな強者がいることに歓喜した。だが少佐は強いだけじゃなかった」
マルセイユまでもがその噂を未だに信じられない様子だったが、ハルトマンは勇の本当の姿に興味があった。
「うちの将軍をな、脅迫したんだそうだ」
「ええ?!ロンメル将軍だよね?!」
「ああ、まあ真相は分からないが、噂では作戦の開始段階でうちの部隊との協力を打診したら・・・」
「まさか、拒絶したの?」
ハルトマンが最初に勇に出会った頃の勇の反応に似ている気がしたため胸騒ぎを覚えた。急かすように答えを促すハルトマンとは対照に、マルセイユはゆっくり当時の感情を思い起こすように言葉を紡ぎ出す。
「拒絶だけならまだよかっただろうさ。返事と共に拳銃と弾丸が一発だけ届けられたんだ」
「どういうこと?」
「返事にはこうあったそうだ。『協力は断固拒否する。もし一発でもこの作戦に関与したならば、この弾丸があなたの頭に届くことになるだろう。私には即座にあなたの傍に行くことができるし、そのことに誰も気づかない。気づいたとしてもその時にはあなたはもうこの世にはいないだろう』・・・」
ハルトマンまでもその文言に戦慄を覚えた。将軍という人物であろうと暗殺すると宣う異常性と勇が結びつきそうだった自分自身にも驚いていたほどである。本当にあの勇がその人物であるのかは分からないが、あの夜に部屋の片づけを手伝ってくれた勇と模擬戦をした時のあの威圧感を持った勇とが、その情報にある勇の像と結びつくかせめぎ合っていた。勇のあだ名とも言える‘ゴースト’に納得の説明だっただけにその前の文言が気になった。
「ゴースト・・・前に言ってたあだ名ってなんて言ってた?」
「ああ?『荒鷲隊のゴースト』か?」
「うんそれ。荒鷲隊って何のこと?」
「うむ・・・私も詳しくは知らないんだ」
全てを知るわけじゃないマルセイユに全て教えてもらうことはできないと諦めかけたハルトマンは質問を終えようとした。するとマルセイユが思い出したように呟く。
「荒鷲隊と言えば・・・どこかで聞いた気がするな。あれは確か・・・ああ!本部で聞いた何かの兵器の名前だ!」
「兵器?」
「ああ、アラワシが成功の鍵とかなんとかって・・・まあ上層部の暗号かなんかかもしれんがな」
そんな話をしていると警報が鳴り響く。同時に出撃予定時刻になったためミーナが部屋に入る。二人は顔を見合わせて出撃準備に取り掛かる。部屋を勢いよく出るのを見たミーナは小さく呟いた。
「荒鷲隊のゴースト・・・・そういうことだったのね」
作戦は開始され、ハルトマンとマルセイユは潜水艦の格納庫の中で互いに確かめ合う。もちろん撃墜数勝負を盛り込んだ意気込みもあったが、それ以上に今回の‘作戦’は互いの強さだけが試されると覚悟していたため、艦内は緊張感に包みこまれた。
「約束守ってよ」
「もちろんだ」
艦内の出撃用意の警報が鳴り、潜水艦が浮上。それと同時に二人は射出され、ネウロイのドーム状の内部に放たれる。ネウロイが慌てふためきながらコアを守らんと一斉に襲い掛かってくる。それを外部からミーナの空間把握の固有魔法で確認する。
「敵数は?」
『50!』
『いや45だ!』
「え?!どっちなんですか?」
「どちらも正解よ」
「二人が撃墜してるんだ」
「すごい・・・」
世界の中でも屈指の実力者の攻撃は圧倒的だった。瞬く間にドーム内の敵を片づけるとコアを破壊し、同地域を開放してしまった。お互いに25機ずつの撃墜を確認し、ミーナが安堵しつつ作戦終了を告げる。しかし、二人は顔を見合わせると二人の‘作戦’を実行する。
「これで作戦を終了します。二人ともご苦労様・・・っ?!二人とも終了よ!」
ドームから出てきてもなお二人の速度は変わらず、猛り狂ったように勇のいる方向に突入しようとしていた。慌ててミーナが制止させようとするも、当の勇はため息を吐きながら安全装置に手をかけていた。それを見たミーナは事態を重く受け止めたが、それは時すでに遅かった。二人が高速で危険なほど勇の至近を通り抜けると、勇も二人に追随し始めてしまった。ミーナとバルクホルンは止めようとするが、坂本がそれを止めさせた。
「美緒?!」
「少佐?!あれは実弾だぞ?!」
「やらせてやれ。勇が了承したことだ。」
「でもっ!」
「大丈夫、だれも傷つかない」
坂本の確固たる自信にミーナとバルクホルンは渋々了承する。既に三人による、おそらく世界でも類を見ないほどの実力者による空戦が行われようとしていた。
「ハルトマンいいか?まだ少佐の実力の全貌が見えない以上、最初から全力を出すぞ!」
「分かってるよ!それに多分だけど全力でも互角に持ち込めるかどうかだよ」
「それほどか?」
「うん」
「わかった」
ハルトマンとマルセイユは互いを信じ、勇に戦いを挑む。勇自身は零戦の速度とは思えないほどのスピードで二人を追っていた。二人が上昇したため勇も追随すると、二人は左右に分かれる。勇は的を絞って一人を追う。
「食いついたぞ!」
「うん!」
左右に別れた後、互いにぶつかるように水平方向に旋回を開始する。すれ違いざまに攻撃をする手立てだった。徐々にハルトマンの前方に勇を背後に連れたマルセイユが見える。銃を構え、勇から自分の姿をマルセイユに被るようにし、マルセイユは勇の視線を遮るように飛行する。ちょうどよいタイミングが訪れるまでがマルセイユの恐怖の時間だった。いつもなら高次元軌道で攪乱できるが、今回は視界を遮ることが目的のため、飛行が安直になりがちで、勇の実力が確かならいつ射撃されてもおかしくなかった。
「ハルトマン頼むぞ!」
「任せて!」
タイミングを完璧に掴んだマルセイユは解放されたかのように高次元機動を取り、勇の前から姿を消そうとする。その途端にハルトマンがすれ違いざまを射撃する。集中的に放たれた弾幕は勇の取り得る軌道にばらまかれ、凡そ回避は困難に思われた。しかし、蓋を開けて見れば勇は悠然とその攻撃を回避していた。
「どういうことだ?!まるで消えたみたいだぞ!そうかっ!前に言っていた固有魔法か!?」
「そう!『瞬間移動』ってやつ!」
「くそう!あれを回避されるとは・・・」
「ハンナ!?来るよ!」
戦術が覆されたことに驚きを隠せなかったが、ハルトマンの警告で急速に頭を切り替える。いつの間にか背後を再び取られていたことに気づき、回避に専念する。急激に制動をかけて勇の背後を取ろうとする。それを見ているミーナたちも興奮を隠せなかった。
「撃ちました!?撃ちましたよ?!いいんですか?!」
「はあ、後で処罰を下します」
「それにしてもすごいな・・・ハイジ―バレルロールで切り返し状況を覆したぞ!」
「ああ、それでもユウが優勢なのには変わりないな」
「あれが前にリーネが言ってた『瞬間移動』ってやつか。あの時私がやられたのもあれだったんだナ」
「二人を相手に優勢を誇るなんてさすがは勇少佐ですわ!」
「どっちも頑張れえ!!」
「どうしたら決着が着くんだ?」
「・・・どちらかがシールドを張ったらだろうな」
応援の声もさることながら、二人は一向に勇を崩せずにいた。また、奇妙なことに勇は未だに一発も二人に攻撃をしてきてはいなかった。ハルトマンとマルセイユは汗を滲ませながら最後の大攻勢に打って出ようとしていた。
「ハルトマンっ!お前に合わせる!」
「頼んだよ!」
ハルトマンが先に急上昇し、それに続く形でマルセイユ、勇の順に並んでいた。振り切れないギリギリのスピードでマルセイユが勇に背後を取らせる。マルセイユもここまで危険な飛行をしようとしている自分に驚いていたが、相手が相手なだけにもはやなりふり構っていられなかった。意を決すると木の葉落としの要領をマルセイユなりにアレンジした技を繰り出す。急制動に普通の相手なら目の前に落ちてくる機体に目を逸らしてしまうか、体勢を崩すはずだった。しかし、木の葉落としの最中に身体を捻って銃を構えるが、勇はそれを見越して勇も木の葉落としを繰り出していた。
「なんてやつだ!?だが・・・ハルトマン!!」
「シュトゥルム!」
「来いっ!!」
ハルトマンが逆落としに急降下をしており、マルセイユの体制と合致する最高のタイミングで攻撃を仕掛けてきた。以前の模擬戦の時は瞬間移動で回避されていたことも考慮した上での戦術のため、マルセイユとハルトマンの位置とタイミングは完璧と言えた。ここでシュトゥルムが回避されたとしても、マルセイユが既に射撃体勢を取っており、いくら瞬間移動といえど木の葉落としをした直後は急激な動きは出来ない為、二重の包囲網と言えた。勝ち筋が見えたと、二人も観戦している誰もがそう思った。しかし、現実は目を疑う光景を映し出していた。
「終わりだ」
シュトゥルムで体勢を崩していたはずの、二人に完璧に包囲されたはずの勇は逆に二人を完璧に超至近距離で捉えていた。それは誰もが二人が本来撃墜されると確信できるほどの距離だった。勇は静かに銃口を二人に向けており、その目線はどこまでも暗く冷たかった。二人はその目線に心が鷲掴みされそうになり、無意識にシールドを張っていた。しかし、一瞬の間が空いてミーナが終了の合図を下す。
「そこまで。三人ともこれにて今作戦の全てを終了します。帰ってきなさい」
「・・・了解」
その後、作戦は無事完遂され、マルタ島は奪還。三人はこってりとミーナに説教されたという。その頃、格納庫では坂本とバルクホルンが勇の武器の前で語らっていた。
「少佐、結局ユウは一発も撃たずに二人を同時に撃墜判定を出したわけだが・・・」
「私は最初から心配していなかったさ」
「どうしてだ?」
「ユウは今回の作戦に関与するつもりはなかったらしい。その証拠にほら」
坂本が勇の武器を指さす。バルクホルンが勇の武器を覗き込むと驚きの事実が発覚する。
「なっ?!これは!!」
「そう・・・弾は入っていなかったのさ」
勇の使用する20mm機関砲は坂本たち扶桑海軍のウィッチが使用するホ号改13mm機銃よりも大威力のものだった。その弾倉にはただの一発も弾が入ってすらいなかった。坂本は出撃する際、整備員が訝しむように武器を勇に渡す様子をみていたため、今回の行く末が予知できたという。
「じゃあ、ユウは全部ハッタリで二人を?!」
「そういうことになる。私もさすがに驚いたがな・・・」
「ユウ・・・お前は一体私たちをどう思っているんだ」
格納庫には二人の心音が溶け込んだいった。
翌日、マルセイユは元の部隊に帰還するため輸送機に搭乗するところだった。ハルトマンは自分たちの作戦が失敗に終わったことの責任を感じてか、自ら汚部屋を掃除していた。そして、マルセイユは清々しい表情でミーナに別れを告げる。
「世話になったな」
「もうお世話はごめんです。アフリカに帰るのね。もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「私は忙しいのさ」
そう恰好を付けるマルセイユはポケットから一枚のサイン入りの写真を取り出すとミーナに渡す。ミーナは苦笑しつつそれを受け取る。
「本人に直接渡せばいいのに」
「まあ、あいつのことを正当に評価しただけさ」
「正当に?」
「・・・あんな怪物を手懐ける奴にはちょっかいも易々かけれんからな」
怪物と言う単語からその該当人物がだれか分かったミーナは、少しバルクホルンと勇の関係を誤解していることに苦笑いした。そして、マルセイユに向かって一つ訂正しておくのだった。
「怪物と言うけれど、彼、案外優しいのよ」
「・・・嘘をつけ。まったくミーナには敵わないな」
「ええ、あの人を‘守る’のは私たちだもの。だって・・・仲間だから」
「・・・そうか」
マルセイユは機上の人となり、決戦の前段階が全て片付いた。遂に決戦である。ミーナは基地を振り返り、仲間たちの顔を思い出す。その顔触れは最高の仲間たちであり、坂本やバルクホルンやハルトマン。そして、その枠の中には勇の顔も入れていた。
「私が、私たちが決着を付ける」
その決意を意にも介さない人物は自室でベッドに腰を下ろして拳を胸に気を高めていた。心臓が熱く、高鳴っていた。勇の目指す未来をその拳に込めて誓う。
「俺が、俺だけで決着を付ける」
勇の瞳は一瞬赤く輝いて凍てつく。決戦に渦巻くそれぞれの苦悩と期待は全て勇が握っていると言っても過言ではなかった。その自信が勇にはあった。勇は基地の外を見下ろす。そこにはただ悠然とアドリア海が漣を打ち付けるだけだった。
ようやくここまで来ましたよ。人数が多いので全員との関りを書くのは難しいですね。推しのウィッチが出てきていない方には申し訳ございません。
次回はついに決戦編です!気長にお待ちください!