ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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遂に第二章最終話です!
勇の乗艦する決戦兵器とその活躍に、そして勇の野望にご期待ください!


新たな翼 第十一話

「烈風斬っ!!」

 

 

 

大型ネウロイの出現に対応していた501は、坂本の必殺技で終止符を打つ。いつものことながら坂本の無茶苦茶な戦法に宮藤は尊敬の眼差しを送っている。また、同時に坂本の魔法力の限界が近づいているのも知る者だけが察せられた。

 

 

 

「魔法力の限界か・・・」

 

 

 

後日、遂に司令部から決戦の招集が下達され、ミーナ、坂本、勇が輸送機で向かうこととなった。その間、宮藤達残された隊員は風呂で最後の基地生活を堪能しようとしていた。

 

 

 

「こんな朝早くからどうしてお風呂に?」

「坂本少佐から決戦に向けて英気を養うよう言われてな。これがこの基地での最後の風呂になるかもしれんからな・・・」

 

 

 

宮藤の質問にバルクホルンが湯船につかりながら答える。他一同もそれぞれ堪能しているようだったが、最後という言葉にこれまでの思い出が過っていた。

一方、司令部では勇は別体系の任務群出身ということもあり途中でミーナたちと別れていた。そして、司令部の会議室ではまさに決戦の内容が伝えられていた。

 

 

 

 

「我々はロマーニャを解奪還する」

「はい!」

「作戦内容は、戦艦大和率いる扶桑海軍を主力とし、敵ネウロイの巣を撃滅するものである」

 

 

 

伝えられた内容にミーナと坂本は疑問を口に出さないわけにはいかなかった。

 

 

 

「それでは私たちはこの作戦に関与しないということですか?!」

「作戦の主役ではないというだけで、作戦の援護を担ってもらう」

「大和は通常兵器であって、ネウロイに効果的な打撃を与えられるというわけではありません!」

「通常兵器ではないのだよ」

 

 

 

ニヤリと将軍が口角を上げるのと同時に脇に控えていた軍人が姿を晒す。その人物はミーナと坂本両人が驚くべき人物であった。

 

 

 

「杉田艦長・・・それにユウ?!」

 

 

杉田とともに肩を並べる勇の姿はいつもの階級のものではなかった。中佐の階級章をつけた、連合軍軍人としての勇がそこにいたのだった。そして、杉田が作戦について話し出す。

 

 

 

「我が大和は、ウォーロック実験からのデータを引き継ぎ、より高性能な装置を開発。10分と限られた時間ではあるが完璧にコアコントロールシステムを作動することができる魔導ダイナモ・・・通称『アラワシ』によりネウロイを撃破します」

「血迷ったか!」

「坂本少佐、君は退役して然る年齢だろう。理解したまえ」

「ウィッチに不可能はありません!真烈風斬さえあればっ!」

 

 

 

坂本の意見も至極当然で、ウォーロックによる被害を受けた501としては確証の無いネウロイの技術を用いることは避けたかった。さらに最近の坂本の魔法力の様子を見るに、将軍の言葉も的を得ていると言わざるを得なかった。そして、ミーナが勇に対しての疑問をぶつける。

 

 

 

「彼はどういった役割でここにいるのでしょうか?」

「赤松中佐、君から説明したまえ」

「はい・・・コアコントロールシステム、『アラワシ』によって制御された大和を誘導、攻撃を指揮する者として、コアの主人たる私が大和に乗艦し、巣の破壊を実行します」

 

 

 

ミーナにはそのコアの出どころに心当たりがあった。以前勇が単独撃破したネウロイのものだと推察できた。ミーナは歯を食いしばって怒りを堪える。自分の決意がこうも勇と言う一人物によって変えられてしまうことが悔しくてならなかった。

 

 

 

「コアの主人と仰いましたが、そのような事実無根の妄想と、実践を想定した訓練やその後の対処プランなどを過分にも私は存じ上げません!不確定要素は可能な限り排除すべきかと愚考しますが?」

「ネウロイに勝つにはネウロイの力が必要なのだよ」

「・・・赤松中佐、あなたも同じ考えですか?」

 

 

 

勇を睨み対けるようにミーナは勇に対峙する。勇は表情を動かさずに解答する。

 

 

 

「ウィッチは主戦力足り得ない・・・いや、戦場に必要ないと考えます」

 

 

 

その言葉にミーナは歯嚙みしつつ、最後の質問を投げ返る。この返答によってはミーナの今後の方針が一変するからである。

 

 

 

「では質問を変えます。あなたを仲間だと思っていた者は救われないのですか?」

 

 

 

勇をしっかりと見据え解答を待つ。坂本もミーナの意図を知り、静観していた。だが勇は変わらず冷たく返答する。

 

 

 

「私はあなたたちを仲間だとは思わない。ただ、私が救うのは世界でありあなたたちだ」

 

 

 

勇の言葉を最後に会議室は沈黙に包まれた。沈黙を答えとした将軍は最期の通告を二人に下す。

 

 

 

「これで会議は終了する。ロマーニャ解放が成されなければ、その時はロマーニャも我々もお終いだ。心せよ」

「・・・了解しました」

 

 

 

決着が着いたかに思われたが、ミーナが最後に付け加える。

 

 

 

「赤松中佐にこれは501統合戦闘航空団隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケからの命令を伝えます・・・きちんと『ただいま』を言ってから戻りなさい」

 

 

 

最後の一言に勇はムスッとした表情を見せるが何も言わずに退場し始める。坂本は不満げな様子だったが、あそこで対立するのは今後の作戦進行上よろしくない。ミーナはあえて了承することで場を収めた。会議室を尻目に見た時、最後に映ったのは勇の後ろ姿だった。

司令部から帰投した二人はすぐに隊員たちを集めて作戦の概要を説明する。もちろん批判が殺到することは目に見えていた。

 

 

 

「ミーナそんな作戦を易々と受け入れてきたのか!?ユウが大和に乗艦するだと?!一人だけでやらせる気か!?」

「そんなわけないじゃない!!」

 

 

 

ミーナも心の中の感情を吐露する。それはどうしようもなく抗えない事実に従うしかない現状にだれしもが抱く不安だった。しかし、ミーナも隊員たちも負けるつもりはない。その葛藤が勇に帰結することを皆が理解していた。

 

 

 

「だれも・・・だれも失わせないわ!誰一人として!」

「そうです!私たちならできます!501のみんななら!12人なら!」

 

 

 

ミーナの決意が一人の少女を立ち上がらせた。宮藤の声に隊員たちも立ち上がる。ミーナは勝利を掴むために仲間の存在を強く再認識した。それと同時に宮藤が二人の存在に一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

(勇さん、坂本さん・・・?)

 

 

 

 

勇は司令部で作戦まで待機していた。501の基地に帰っていないことから、バルクホルンたちは自分を責めているかもしれないと考えたりもした。しかし、それ以上に今回の作戦で勇の思い描く未来が手に入ることを思えば些細なことだった。すると一人の老将軍が勇に声を掛けてきた。この老将軍こそ、勇がこれまで無茶をしてきても各機関を抑え、好きに活動できた功労者だった。

 

 

 

「赤松中佐、君のおかげこで今作戦の目途が立った。君の提供してくれたコアがあってこそ我々はネウロイに我々の手で終焉を突き付けることができるのだ!我々人類の願いを君と共有できることを私は嬉しく思う」

「勿体なきお言葉です。私ができることはこの作戦に、これからの全ての戦いに勝利を齎すことです」

「君の働きに特別の感謝を示そう。501も支援にいることだし、作戦の成功を祈ってるぞ」

 

 

 

501の隊員がこの作戦に関与することを勇は予てから拒絶していた。そのため支援と言えど勇は嫌悪感を示し続けていた。

 

 

 

「将軍、501の彼女らですがやはり作戦に参加させるのですか?」

「彼女らは君が突っ込むまで君を護衛する役目がある。さすがにこの役目を完璧に努められるのは彼女らを置いて他におるまいて」

 

 

 

勇は落胆しつつ、既定事項に立てつくことはしない。その代わり将軍が勇に対して忠告を残す。

 

 

 

「まったく君と言う男は・・・各地で指揮官を脅したり、現場をかき乱した火消しをさせられた私の身にもなりたまえ・・・まあ、私はそんな君のウィッチに対する優しさに周りの意見とは違うからこそ助けるのだがね・・・君は今回の作戦を成功させると世界から狙われることになる。それこそ戦力として名実ともに世界最強になるからな。この意味はわかっているね?」

 

 

 

勇もこのことは理解しているつもりだった。ネウロイに対抗できる手段で、かつ絶対的な力となればどこの戦場でもその戦力は魅力的であり、垂涎の的だろうことは容易に想像できるからであった。しかし、勇はそのデメリットを抱えたとしても成し遂げたい目標があった。

 

 

 

「はい、よく理解しています。一刻も早くこの腐った戦争を終わらせて、全てのウィッチが、全ての人が平和を享受できる世界を作るためならば、例えこの身が引き裂かれたとしても私は全ての火種を消し去ります」

「理解しているのならよろしい。だがゆめゆめ忘れぬことだ。世界とは生き物、全てが思い通りになるとは限らんぞ。もしかしたら君に牙を向くだろう」

 

 

 

あくまで勇をつけ上がらせないための言葉だが、今の勇には絶対の自信があった。自身があればこそ、勇は何が起きようと自分の手で解決できると確信していた。

 

 

 

 

「私が今の私である限り、牙ごときで貫けるほど私はやわではありません」

「ふっ、若さとは素晴らしきかな・・・」

 

 

 

作戦内容が知らされた日の晩、501基地では隊員が寝静まった頃に坂本が一人格納庫にいた。自分のユニットである紫電改に脚を入れると魔法力を注ぎ込む。発進に必要な回転数に至らず苛立ちを魔法力に込めてぶん回す。やっとのことで発進したものの、外に繋がる通路の先にはミーナが立っていたため避けようとするも体勢を崩してしまっていた。

 

 

 

「うっ!!気づいていたのか・・・ミーナ」

「まるで諸刃の剣ね。烈風丸はあなたのウィッチとしての寿命を縮めているのよ」

 

 

 

ミーナの説得に坂本は尚も諦めずに烈風丸を鞘から出して構える。しかし、その輝きは己の魔法力の欠片をも吸い尽くしてしまっていた。

 

 

 

「美緒、もうやめて!」

「頼むミーナ!私も12人の中に居させてくれ!頼む・・・」

 

 

 

ミーナが坂本の姿に耐えられず、坂本を優しく抱擁する。いつもの坂本ならこんな情けないと捉えられる姿を晒したりしないはずであるが、勇の今日の姿や自分の魔法力の限界が自分の居場所の不透明さを強く想起させてしまっていた。ミーナは今度は強く坂本を抱きしめ耳元で囁く。

 

 

 

「さっき勇中佐から通信があったわ。美緒のこと心配してくれたみたい。」

「ユウも気づいていたのか・・・」

「ええ・・・『真烈風斬は打たずに終わる』ですって。まったく彼らしいわ」

「ああ、そうだな・・・ユウも私たちの大切な仲間だからな」

 

 

 

翌日、遂に501は決戦の場へと出撃した。海域には地中海艦隊が並び、空母天城に並行した魔導ダイナモ、通称「アラワシ」が搭載され勇が乗艦する旗艦大和が聳えていた。

 

 

 

「でっけぇ艦だな!?」

「あそこにユウがいるのか・・・」

「私たちは私たちの任務をこなすのよ」

 

 

 

大和の艦内では魔導ダイナモ『アラワシ』の前に一人佇む男の姿があった。大和のすぐ横をウィッチである501が飛び抜けていく。その姿を見ながらもう一度自分の目標を思い返す。

 

 

 

「もう少しだ・・・お前たちは俺が開放する。」

 

 

 

想いを強くしていると通信が空母天城の杉田から届けられる。

 

 

 

『赤松中佐、こちら杉田だ。今どうしている?』

「作戦に備えています。なにも問題ありません」

『そうか・・・君に一つ言っておきたいことがある』

 

 

 

いつになく杉田が感傷的な雰囲気で勇に語り掛けていることが気にかかったが、そのまま通信に耳をそばだてる。

 

 

 

『これは人類の戦いであって君だけの戦いではない・・・君は今を生きなさい』

 

 

 

杉田の言葉の真意を噛みしめつつ、ネウロイの巣に接近するとネウロイ側から攻撃が仕掛けられ、遂に決戦が開始された。501が散会し、大和に近づけさせまいと奮闘しているのが見て取れた。その姿に勇は歯噛みしつつその時を待った。

 

 

 

「今だけだ・・・今日この時を持ってウィッチのお前たちの‘使命’とやらは俺が取って代わる!だから、坂本・・・死ぬなよ!」

 

 

 

隊員たちが一所懸命に戦闘を続けるがネウロイの攻撃の勢いは止まらなかった。しかし、それでもなお奮闘するウィッチたちの姿は昔自分が所属してた彼女よりもっと強く見えた。その理由を勇は知ろうとしなかったが、少しだけ分かってしまった気がした。そして、坂本が仲間の窮地を助けるため烈風斬を繰り出そうとする。その瞬間、坂本の刀は弾かれ大和の前方に突き刺さった。

 

 

 

「少佐?!大丈夫?!」

「私は、私はもう12人の中にはいられないのか・・・」

 

 

 

坂本が失意に沈む中、遂に勇の乗る大和が満を持して出撃する時が来た。

 

 

 

「大和、ネウロイ化準備完了!」

「赤松中佐!いいか!?」

「やってください!」

 

 

 

勇の了承が得られると天城から遠隔操作で魔導ダイナモ『アラワシ』にスイッチが入れられる。徐々にネウロイ化する大和をその場の全員が見守る中、勇は『アラワシ』を制御し続ける。

 

 

 

「坂本、もういいんだ・・・トゥルーデ、お別れだ!行くぞ!大和!『アラワシ』!!」

 

「大和浮上っ!!!」

 

 

 

杉田の号令を受け、勇が『アラワシ』に命じると、その黒鉄の城は浮上を始める。その光景を天城に退避した隊員たちが驚愕の表情で感想を伝え合う。

 

 

 

「すっげえ・・・」

「いっけぇ!!!ユウ!」

「サーニャ見ろ見ろ!」

「もう見てるわ・・・」

 

 

 

ネウロイ化した大和のその異様さと常識外れの光景に誰しもが興奮していた。敵が接近してくるのと判断した勇は『アラワシ』に命じて対空射撃を開始する。

 

 

 

「『アラワシ』に命じる!全火器対空目標各個に定め!対空射撃開始!」

 

 

 

15cm副砲や10cm対空砲、25mm三連装対空機銃、13mm対空機銃が一斉に火を噴く。その圧倒的な火力で敵をなぎ倒しながら進む姿は大和の凄さを見せつけるかの様だった。

 

 

「なんという火力だ・・・」

「あそこにユウもいるんだよね」

「ああ、ユウが大和を操っているんだ」

 

 

勇が乗艦していることを含め、大和の快進撃は止まらなかった。いくつものネウロイの攻撃に晒されても即座に修復し歩みを止めなかった。

 

 

「これがネウロイ化した大和の力だ・・・人類の本気を見せてやる!」

「ネウロイ化が解けるまであと3分!」

「赤松中佐、突っ込めぇぇぇ!!」

 

「行けぇぇぇ!大和ぉ!俺の勝ちだ!!」

 

 

 

ネウロイの巣の核に突撃した瞬間強烈な衝撃に襲われ、勇の視界は暗転した。そして、杉田の掛け声が放たれる。

 

 

 

「主砲斉射ぁ!!!」

 

 

 

その掛け声は大和、そして勇に届くことはなく大和は沈黙したままだった。何事かと全員が焦り始める。そこへ天城の技術員が絶叫と共に報告する。

 

 

 

「魔導ダイナモ『アラワシ』反応しません!砲塔沈黙!駄目です!赤松中佐とも連絡がつきません!」

「くそう!!なんてざまだっ!!!」

 

 

ネウロイの巣からは再び無数のネウロイが大和に殺到し始め、爆撃を続ける。杉田は勇の消息が不明な以上、これ以上の作戦続行はできないと判断する。

 

 

 

「諸君・・・大和の、赤松中佐の反応がない。残念だが作戦は失敗したものと判断する。全艦一六転回頭・・・無念だ」

 

 

 

その言葉にルッキーニが泣き始める。シャーリーが慰めているがその表情にはやりきれなさが表れていた。それは他の隊員も同じだった。

 

 

 

「本当に終わっちゃうの・・・」

「おい!ユウ!!?返事をしろ!ユウ!」

「ユウがまだ大和に残ってんじゃんか!」

 

 

ミーナも坂本も作戦の失敗を受けとめきれず、上空でホバリングしつつ大和に目線を送ることしかできなかった。こんな最悪な形で勇もロマーニャも守れなくなることをだれが想像できただろう。しかし、坂本だけは諦めていなかった。

 

 

 

「まだだ!」

「美緒?!」

「私が『アラワシ』に直接魔法力を流し込む!」

『坂本少佐、無茶だ!』

 

 

 

坂本はその忠告を無視し、ミーナから離れて大和に向かってしまう。天城甲板では宮藤が坂本の行動に気づいてしまう。

 

 

 

「坂本さん!行っちゃだめです!だってもう魔法力が・・・」

「宮藤・・・気づいていたのか。だが私は行かねばならん。武士は戦場でしか生きられないのだ。私も12人の中に居させてくれ・・・」

「坂本さん!!」

 

 

 

宮藤の言葉は届かず、既に留まることを知らない坂本は最期の魔法力を絞って大和に向かう。そのすぐ後をミーナが追い、坂本を止める。

 

 

 

「止まりなさい!」

「ミーナ・・・」

「自殺行為よ!行くことは許しません!」

 

 

 

必死に戦友であり、大切な存在が留まるよう説得するも覚悟を決めた坂本には届かず間合いを詰められてしまう。

 

 

 

「皮肉なものだ。魔法力がなく、最後まで戦わなかった私だけが魔法力を残すことになったのだから・・・」

「美緒・・・」

「行かせてくれ、ミーナ!」

 

 

 

ミーナはこの作戦にいろいろなものを賭けていた。それこそ誰一人として失うつもりも、作戦を成功させることも、坂本をそして勇を救うことを。そして今、その全てが失敗しようとしていた。ここで坂本まで行かせてしまったら、それこそ全てが水泡に帰すことになるのだった。しかし、目の前にいる坂本というウィッチは501の一員であり、ウィッチであろうとし続けようとしている。ここで止めては坂本の唯一の願いもないがしろにしてしまうこの葛藤にミーナは苦渋の決断を下す。

 

 

 

「・・・必ず生きて帰ってきて!これは命令よ」

「ああ、ありがとうミーナ」

 

 

 

ミーナの顔ももう見ることもなく一人のウィッチは大和へ向かってしまった。

坂本はもう迷わなかった。大和に乗り込み、艦橋に向かうと勇を探した。するとそこにはネウロイに浸食されかけた勇が刀に手をかけて座っていた。

 

 

 

「ユウ!?どうしたんだ?!」

 

 

 

坂本が必死に呼びかけても勇は目を閉じたまま起きることはなかった。首の上まで浸食されているところを見るにまだ完璧にネウロイ化しているわけではなかったが、これでは『アラワシ』が起動するはずもなかった。坂本は自らの魔法力を用いて『アラワシ』に立ち向かう。

 

 

 

「私がお前に力をくれてやる!起きろ!大和!!」

 

 

 

その頃、天城艦内で『アラワシ』の反応が出現する。坂本が乗り込みに成功した事実とこれで攻撃できることへの期待が場を沸かせ、坂本と現場は一体になる。

 

 

 

「『アラワシ』の反応ありました!出力上昇中!」

「これでいけるぞ!」

「ネウロイ化が解けるまで残り30秒!」

「間もなく臨界!!」

 

「私の魔法力をくれてやる!まだだ!もっと・・・もっとだ!」

 

 

坂本の魔法力を食い続ける『アラワシ』はその力を急速に取り戻すが、それでも物足りないのか坂本まで取り込もうとする。

 

 

 

「そうか、私も取り込むのか・・・・ユウ、お前の力を借りるぞ!」

 

「いつでも行けます!」

「坂本少佐!撃てぇぇ!!」

 

「撃てぇぇ!!大和ぉ!!!」

 

 

 

大和の46cm主砲の一斉射の威力は凄まじいものだった。あたりを爆発と閃光が包む中、勇の意識はうっすらと白み始めていた。

 

 

 

(あれ、俺はどうしたんだ・・・なんで動かない?この魔法力・・・まさか坂本か?どうして坂本を俺の中で感じるんだ?)

 

 

 

爆炎が晴れようとしている中、他の隊員は坂本と勇の安否を心配する。そして、勇の頭の中に一つの声が流れ込む。それはとても懐かしく、勇が探していた人物のものだった。

 

 

 

(隊長!起きてください!)

(その声!まさか藤野か?!)

 

 

 

勇は忘れもしない最後の戦友である藤野の声に驚く。藤野の姿は見えないものの、その声は昔の藤野のものに間違いはなかった。

 

 

 

(隊長!ウィッチが来ましたよ!ウィッチです!)

(馬鹿を言うな・・・ウィッチは来なかったじゃないか)

 

 

 

勇は藤野と交わした最期の言葉を今も鮮明に覚えていた。また、勇はもうウィッチを信じておらず、そのウィッチである自分を徹底して嫌悪し、そんな自分を変えようと粉骨砕身してきた。そんな勇に藤野は明るく声を掛け続ける。

 

 

 

(何を言っているんですか!ウィッチは来ましたよ!)

(わからん奴だな。ウィッチが来なかったからお前は死んだんだぞ!)

 

 

 

霞む視界の中、藤野の姿が徐々に鮮明になる。そんな藤野はあの時のように馬鹿みたいに明るく、慌ただしく勇の手を引いて起こそうとする。

 

 

 

(僕は死んでなんかいませんよ!だって、隊長が覚えていてくれているじゃないですか!)

 

 

 

勇はその言葉にはっとする。目の前の藤野は恨みなど微塵もない晴れ渡った顔で微笑んでいる。勇はまじまじと藤野の顔を覗き込むと藤野はしっかりと勇の手を掴んで語り掛ける。

 

 

 

(隊長が覚えていてくれてる限り、荒鷲隊は生き続けます。だから僕たちはみんな生きているんですよ!ウィッチはやっぱり来てくれたんです!)

(俺はお前を、みんなを守れなかったんだぞ?)

 

 

 

藤野の顔を見ないように勇が顔を下に向けると、藤野はゆっくりと立ち上がりそんな勇を置いて歩き始める。藤野の影が離れたことを感じた勇は藤野の追憶を追ってしまう。それがもう二度と見ることのできない存在であると知りながら、時間がそれを許さなかった。視界が白み始めるころ、藤野は振り返り言葉を送る。

 

 

 

(もう‘僕’を背負わなくていいですよ。ウィッチが来てくれましたから。隊長、さようなら・・・)

(頼む!藤野!俺を許してくれ!!)

(隊長・・・ウィッチに不可能はないって『言いましたよね?あなたの』ウィッチはどこですか・・・)

 

 

 

その言葉と共に勇の意識は現実に引き戻される。大和の艦橋で倒れていたようで、現状がどうなっているのかわからなかった。急いで戦闘指揮所に上り、外を確認する。そこには驚きの光景が広がっていた。

 

 

 

「な、なんだこれは?!坂本っ?!!」

 

 

 

勇の目の前に広がる光景には巨大なネウロイのコアのてっぺんに坂本が張り付けられているものだった。大和を動かしたところから察するに、坂本が勇のところまでやってきたことは確かだが、それでは坂本がネウロイのコアに持っていかれたことに説明がつかない。その時勇はハッとして自分の魔法力を確認する。

 

 

 

「・・・まさか!?あいつ、俺の『瞬間移動』を奪っていきやがったのか!?」

 

 

 

勇は自分の固有魔法である『瞬間移動』を発動しようとしたが一向に発動できなかった。それどころか身体がだるく、いつもの7割程度しか魔法力を発揮できなかった。このことから坂本が、坂本の残り僅かな魔法力だけでは『アラワシ』を満足させられず、勇の魔法力を奪っていったと判断できた。怒りが込み上げてくるが自分の今の状況ではどうしようもなく、ただ立ち尽くして坂本を見上げることしかできなかった。

 

 

 

「坂本さんっ!!」

 

 

 

その時、銃声とネウロイの子機が攻撃に移ったことで眼下に宮藤が上昇してきていることに気が付く。それも宮藤一人の単機であり、状況は絶望的だった。

 

 

 

「宮藤!止めろ!お前だけじゃ無理だ!引き返せ!」

 

 

 

勇の必死の叫びに気が付いた宮藤は、勇が生きていたことに安堵した表情を浮かべつつ、圧倒的な不利な戦況と残り僅かな魔法力をフル活用して事態に当たっていた。

 

 

 

「勇さん!生きていたんですね!良かった!」

「馬鹿か!いくらお前の魔法力が膨大だったとしても坂本のところまで行けっこない!」

「やっぱり勇さんは勇さんです!」

「な、何を言っている・・・」

「仲間じゃないなんて言っておきながら、私たちを心配してくれているじゃないですか!やっぱり勇さんは優しい勇さんです!!」

 

 

 

宮藤の頑なな態度と意味のない信頼に呆れる勇と同時に坂本が目を覚ます。坂本も勇同様忠告をする。

 

 

 

 

「宮藤諦めろ!このシールドがあっては辿り着けない!倒すことなど不可能だ!」

 

 

 

 

坂本も勇と同様の意見を述べるが、宮藤は決して諦めなかった。それどころか必死に近づこうとさえしていた。

 

 

 

「ウィッチに不可能はありません!」

 

 

 

その言葉に勇と坂本は胸を貫かれる。坂本は自分がかつて宮藤に教えた言葉が返ってきたことに、また勇は藤野が最期に残した言葉を宮藤に言われたことに返す言葉が亡くなってしまった。そして、そんな戦況に光が差し込む。宮藤の周りの敵機が根こそぎ吹き飛んだのだ。

 

 

 

「わたくしたちもいますわよ!」

「みんな!」

 

 

 

そこには既に魔法力切れで退避したはずの501の隊員たちがいた。そしてすかさずミーナが部隊を前進させる。

 

 

 

「行くわよ!フォーメーション『ヴィクトル』宮藤さんを援護します!」

「「「了解」」」

 

 

 

勢いよく羽ばたくウィッチたちは疲れを感じさせない動きで、先ほどまで威勢を放っていたネウロイを圧倒していく。そんな姿を見て、勇は起こっていることが理解できなかった。

 

 

 

「どうしてだ・・・なぜ彼女らは飛べるんだ。なぜ宮藤をそこまで信じられる!?」

 

 

 

そこで勇は過去の宮藤に触れた時のことを無意識に思い出す。膨大な潜在魔力と共に感じた純粋な白い魔法力。それは彼女の心を表していたのかもしれない。扶桑の言葉に「無邪気」という言葉がある。邪気が無いという簡素な意味だが、これが指し示す言葉こそ宮藤のような存在だと妙に納得できてしまった。行動と理念が完璧に一致した時、ウィッチというのは力を得て飛ぶ、いや、ウィッチを飛ばすのだ。勇は宮藤の姿とかつての信頼できる仲間たちに目を向ける。宮藤を必死に、そして団結して援護している。

 

 

 

「あなたの可能性を信じるわ!ネウロイを倒して、宮藤さん!」

 

「さっさとやっつけちゃおうぜ!」

 

「私たちが道を作る!」

 

「宮藤なら楽勝だよ~ん」

 

「頼みましたわよ!」

 

「芳佳ちゃんなら大丈夫!」

 

「今日のお前はついてるぞ!」

 

「いっけぇ!芳佳ぁ!」

 

「頑張って!芳佳ちゃん!!」

 

 

 

その一つ一つの言葉に想いが乗り、全員が一つの目標へと進んでいた。そして着実に進む宮藤を見て、勇は無意識に身体が動いていた。同時に宮藤は大和手前の敵に四苦八苦していた。

 

 

 

「あともう少しなのに!」

 

 

 

その時、宮藤の周りのネウロイが光の粒になって消えていく。目を向けるとその攻撃場所には勇がいた。

 

 

 

「宮藤!烈風丸のところまで急げ!ここは俺が死守する!」

「勇さん!?」

「お前なら打てる!なにもかもぶつけて倒せ!そして、坂本を頼む!!」

「はいっ!」

 

 

 

宮藤が目を輝かせ烈風丸のところまで飛んでいくと、それに群がろうとするネウロイを大和の対空機銃で牽制する。最後に大和の命令系統を自力で強制的に繋げ、勇の魔法力だけを頼りに全ての目標を補足、攻撃していた。その膨大な情報量と使用魔力に脳が焼かれる思いだったが、血涙や鼻血を吹こうとも勇は全力で宮藤に想いを託したのだった。

 

 

 

「抜けないっ!お願い頑張って震電!!」

 

 

魔法力と震電の力を全力で注ぎこむ宮藤を目にし、勇は攻撃を続けながらさらに意識を烈風丸に集中させる。

 

 

 

「限定的にネウロイ化を解除・・・っ!」

 

 

 

勇が強引に大和の命令システムに割り込み、艦前方の烈風丸の周りだけネウロイ化を弱めていく。これも勇が常日頃から魔法力の運用に拘り、鍛えてきた賜物だった。そして、遂に烈風丸を引き抜くことに成功した宮藤は坂本の下へ急ぐ。その宮藤の膨大な魔法力と烈風丸の輝きはまさに天に届くほどだった。それを見ていた坂本がなおも宮藤を止めようとする。それは烈風丸の特性を知っていたからこその忠告だった。

 

 

 

「止めろ宮藤!烈風丸はお前の魔法力を吸い尽くすぞ!」

「構いません!」

 

 

強がる宮藤だったが、烈風丸は確かに宮藤の魔法力を急速に吸収し、飛行が覚束なくなっていた、それでも宮藤は前へ進み続ける。

 

 

 

「それでみんなを守れるなら・・・願いが叶うなら!」

 

 

 

宮藤はコアが悲鳴を上げて接近を拒絶する断末魔に近いものを聞きながら、自分の願いを望む。

 

 

 

「お願い烈風丸・・・私の魔法力を全部あげる。だからその代わりに・・・・ネウロイを倒して!私に真烈風斬を打たせて!!!」

 

 

 

願いを聞き入れるかのように烈風丸は輝きを放ちそれに応える。宮藤はコアに突撃し、コアは最期の足掻きとシールドを張る。

 

 

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 

 

宮藤の叫びを推進力にシールドはいとも簡単に破れ、遂にコアに到達する。そして、扶桑の最終奥義『真烈風斬』は放たれる。

 

 

 

「宮藤・・・!」

 

「烈風斬っ!!!」

 

 

 

コアに真烈風斬が打ち込まれると同時に、辺り一面のネウロイが光と化し、辺りもまるで昼に咲く花火のように白ばむ。ネウロイ化が解けた大和が海面に落ち行く中、サーニャの固有魔法によってネウロイの存在が完全に消滅したことを確認する。

 

 

 

「三人は?」

 

 

 

ミーナが心配そうに辺りを探す。全員が光の粒の中に目を凝らす中、目に良いリーネが声を上げる。

 

 

 

「あそこっ!」

 

 

 

光の中には坂本、宮藤、そして勇の姿があった。ゆっくりと落下する中、勇と坂本が疲れ果てた宮藤を引き寄せようとしていた。

 

 

 

「宮藤・・・」

「宮藤!」

「あっ・・・坂本さん!勇さん!」

 

 

ようやく気が付いた宮藤を坂本と勇がしっかりと抱える。坂本は心配そうに自分の疑念を投げかける。

 

 

 

「宮藤・・・お前魔法力が」

「いいんです。みんなを守れたから・・・願いが叶ったから!」

 

 

 

宮藤は自分の魔法力がなくなってもそれを事も無げに一際嬉しそうに坂本に言う。そんな宮藤を見て坂本は感謝する。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

そして、坂本が不安を口にする。それは勇も同様の不安だった。

 

 

 

「だが私たちはもう飛べないぞ?」

 

 

 

そう言うと宮藤はまたにっこりと笑い、その不安を取り払う。

 

 

 

「大丈夫です。私たちは12人なんです」

 

 

 

その言葉に勇はもう流すことはないと思っていた涙が溢れ出す。夢の中に出てきた藤野の言葉で、過去に藤野が最期に言った一言は憎しみからのものではなかったと、今更ながらようやく気づけたのだった。あの時、藤野が勇に言った本当の『意味』とは、今まさに勇たちに近づいていた。だからこそ勇は感謝する。これまでの苦境を変えてくれたウィッチに対して、なにより勇の仲間たちに。そして、これから訪れるであろう困難に対しても。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

その感謝は三人を助けに来た仲間たちの激励の言葉にかき消されるようだった。各々が激励し、宮藤に坂本に群がる。そして、一人のウィッチが勇に近寄る。

 

 

 

「トゥルーデ・・・」

「・・・おかえり」

 

 

決別したはずのバルクホルンが優しく、そして強く勇を抱きしめる。これほど温かな気持ちになれたのは久しぶりだった。そしてミーナがやってくる。坂本と勇は抱えられながらもしっかりとミーナの目線を受けとめる。

 

 

 

「ミーナ・・・命令通りだ。私は返ってきた」

「みんな・・・『ただいま』」

 

 

 

二人の言葉に、ミーナは気丈に顔を強張らせる。しかし、自身の感情を堪えきれず二人に抱き着く。

 

 

 

「おかえりなさいっ!」

 

 

 

感傷に浸る中、ロマーニャ出身のルッキーニが自身の故郷を取り戻したことの喜びを爆発させる。

 

 

 

「やっったぁぁぁぁ!!!ネウロイが消えたよ!ロマーニャが解放されたー!!!やった!やった!やったった!」

 

 

 

そのうるさい声は誰の耳にも喜びにしか聞こえなかった。1945年7月、このオペレーション「マルス」において宮藤・坂本の両名が魔法力を喪失。作戦参加艦艇も大きな損害を負った。しかし、ヴェネツィア(ロマーニャ)上空のネウロイの完全消滅が確認された。これをもって正式に第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』は解散と同時に、勇の所属する架空の部隊も解散した。参加ウィッチは以下の通りに報道されたという。

 

 

 

第501統合戦闘航空団隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐

             坂本美緒少佐

            ゲルトルート・バルクホルン大尉

             エーリカ・ハルトマン中尉

             シャーロット・E・イェーガー大尉

             フランチェスカ・ルッキーニ少尉

             サーニャ・V・リトヴャク中尉

             エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉

             ペリーヌ・クロステルマン中尉

             リネット・ビショップ曹長

             宮藤芳佳軍曹

 

連合軍特殊遊撃任務師団、赤松勇中佐

 

 

 

 




これにて「新たな翼」、第二章を完結させていただきます。ここまで読んでくださった方に感謝申し上げます。ありがとうございました!

まだまだ稚拙で見るに堪えないもので申し訳ないのですが、今後も引き続き第三章と勇くんの活躍をご一読いただけると幸いです。
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