案外早くに投稿できました。この話から第三章になります。勇の戦後処理から始まるため一旦シリアス路線から離れます。少しでも楽しんでいただけたらと思います。
ロマーニャ奪還作戦を終えた勇の身柄は一時連合軍に拘束され、その特殊任務は解任された。それと同時に勇の処分として連合軍中佐の階級の剝奪と、原級も大尉に降格された。逆に言えば、その程度で処分が済んだのが奇跡だった。勇のこれまでの功績は決して素直に褒められたものではなく、現地部隊との軋轢も生じていたため今回の作戦の有責を問われれば余罪約万で軍法会議もあり得たほどだった。それでもミーナや勇の恩恵を受けた現地指揮官やロマーニャ公女まで減刑を求め、その他多数の声から処分は免れた。しかし、勇自身の「特殊遊撃師団」という部隊から各方面から一個師団の戦力と認められるほどの圧倒的な才能を手ぶらにしておくにはあまりにも厄介な存在だったため、これまでに軋轢を生んだ部隊への謝罪へ向かうこととなった。まずは近場の第504統合戦闘航空団に向かうこととなった。
「久しぶりね、赤松少佐?」
優し気な笑みを携える人物こそ、扶桑海軍竹井淳子少佐だった。勇は竹井の笑みの裏側に潜む怒りに恐縮しつつも自分の与えられた役目を果たそうとする。
「その節は大変ご無礼を・・・今は大尉として当時の謝罪をしに参った次第です」
「そう、まあ私たちとしてもトラヤヌス作戦では被害を被ったとはいえ、あなたには隊員を救ってもらいました。だから、当時のことは水に流しましょう」
「寛大なご配慮痛み入ります」
勇は504が当時のヴェネツィアに巣くっていたネウロイの巣に現れる人型ネウロイとのコンタクトを図るトラヤヌス作戦に一枚噛んでいた。その時の目標こそ、人型ネウロイの情報とそのコアを調査することだったのだが、それを巡り504と険悪な関係になってしまっていた。結局、ヴェネツィア上空のネウロイの巣は新たな強大なネウロイによって一蹴されてしまいご破算してしまっていたが、その際勇のダメージコントロールが的確だったこともあり、甚大な被害は免れていた。
「それと美緒は元気にしている?」
「坂本少佐は一度扶桑に戻り、今後は後人の育成に当たるとのことです」
「そう・・・美緒らしいわね」
竹井が話題を変えてくれていることに感謝しつつ、坂本の戦友である竹井に勇は好印象を抱いていた。
「それで、あなたは今後どうするの?」
「しばらくは各部隊を周り関係改善に努めよとの指示を受けています」
「それは残念ね。暇ならうちに来てもらいたかったのだけれど」
竹井のお茶目で抜け目なさにミーナに通ずるものを感じ、冷や汗をかく。勇は鼻をかきながら招待を断る。
「お話は嬉しいのですが、ミーナ中佐に任務が終わり次第顔を出すように言われておりまして・・・先約を無下にはできません」
「そう、あなたは居場所を見つけたのね」
「はい・・・見つけてもらったという方が正しいですが」
嬉しい話を終え、勇は次の部隊へ足を向ける。そこは以前勇が参加したアフリカでの「ストーム作戦」が行われた場所だった。行くことを現地部隊に伝えると責任者が出迎えてくれるという返答から勇は緊張を強いられる。その理由は、責任者がロンメル将軍、パットン将軍、モントゴメリー将軍の三将軍が勢ぞろいだったからである。胃痛を堪えながら現地に到着すると指揮所には豪勢なほどの人員が配置されていた。中に通されるまで奇異の目に晒されながらもようやく部屋の前に到着する。以前の勇なら他の人物など眼中になかったため人目を憚ることなく行動していたが今は違う。喉が渇きながらも入室の挨拶を始める。
「扶桑海軍、赤松勇大尉入室します」
「入れ」
重厚な声で通された部屋の中は層々たる顔ぶれが揃っていた。三将軍が三方向に深々と座り、入室してきた勇を凝視していた。
「この度、お恥ずかしながら以前の失態とご無礼を働いた贖罪に参りました」
素直に自分の行いを詫びた方が話が早いと言うのは建前で、それしか頭に浮かんでこなかったため簡潔にした。そんな勇をジロリと睨む三将軍の重圧は勇に生唾を鳴らせた。するとパットン将軍が立ち上がり勇に近づいた。拳の一つくらいは覚悟していたため歯を食いしばる勇に、意外にも友好的に肩に手を置いたパットン将軍はガハハと笑った。
「君が『荒鷲隊のゴースト』だったか!間近で見たのはこれが初めてだな!」
青天の霹靂に勇は呆気に取られる勇を置いてけぼりにする三将軍は笑い話として勇の所業を語り出す。
「いやあ、あの時我々に脅しをかけてくる人物がどんな奴かと思えば・・・なんのどうして普通のウィッチじゃないか!ガハハ!」
「一人で我々の三ヶ月分の仕事をこなしていくのだから、モンティなんぞ、総司令部からの我々への批判なんじゃないかと怯えてたほどだ!」
「なんだとロンメル!お前こそ部隊から「ウィッチに現を抜かすな」なんて叱責されていたじゃないか!」
「それこそパットンだ!赤松少佐の戦いを後学と称して自分の部隊のウィッチにコーラ片手に鑑賞させていただろう!」
三将軍が取っ組み合いを始めたのをみて勇は自分の行いがそこまで深刻に捉えられているわけじゃないことを確信し安心する。三将軍が落ち着いたころ、気を取り直して土産話を披露する。
「これは私からのお詫びとして受け取っていただきたいのですが、私のできる限りの協力をさせて頂きます」
その話に三将軍は目の色を変えた。どんな無理難題が来るかと思い、身構えているとその内容に呆気に取られてしまう。ここの将軍はどうも人を呆れさせる天才らしい。その内容とは、ストームウィッチーズのエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユとの模擬空戦だった。
「そんなことで良ければ喜んで引き受けさせていただきます。他にございますか?」
その言葉に三将軍は真剣になる。今の話は冗談で今度こそ本気の注文かと思った自分を叩きたかった。三将軍の要請は同時に発せられた。
「「「君のサインが欲しい」」」
意味が分からずポカンとしていると三将軍は立ち上がり、我先にサインをねだる。
「俺が一番先だ!赤松大尉の初のサインはこのパットンのものだ!なんならいくらでも食料、弾薬を提供する!」
「ずるいぞパットン!なら私はティーガー戦車をやろう!」
「物で釣るなんてやはり浅ましいな!俺は我が部隊自慢の淑女であるウィッチの接待権を付けるぞ!」
またもや取っ組み合いを始める三将軍にもう何も驚かない勇を他所に、一人のウィッチが入室する。そのウィッチは入室するなり三将軍を一喝する。
「こらぁー!!!国家財産を売ろうとするなぁー!!!」
その人物こそ、アフリカ部隊の隊長である加東圭子陸軍少佐だった。扶桑海の三羽烏の一人である加東は、扶桑海事変の「挺身作戦」に参加し、扶桑における最多撃墜王その人だった。本人は既に二十歳を越えているが、アフリカ部隊をまとめる指揮官として戦闘の矢面には立ってはいない。
「まったく揃いも揃って・・・ごめんなさいね。」
「いえもう慣れましたので」
加東は苦労性のようだったが、ここまで将軍相手に強く出れる人物もそうはいないだろうと人柄の良さを感じ取った。その加東が三将軍を置いて外に連れ出す。さんさんと降り注ぐ日光は肌を刺すようで、空気には砂が混じっている。そんな中、加東は勇を日陰に連れて休憩させる。
「あの人たち集めると碌なことがないのよ。せっかく赤松・・・今は大尉ね。あなたが来てくれたんだから時間は有効に使わないとね」
そう言うと加東はある場所に連れて行く。そこには目につく建物もなく、あるのは木や石で積み上げられた所謂墓標だった。
「ここには343空の第二中隊の人が眠っているわ」
その言葉に勇は加東を凝視する。加東は勇を見ずにその墓標を眺めている。勇ももう一度墓標に目を向けると既に字面が消えかかっており、亡くなってからしばらく経っていることが伺えた。勇はその墓標に手を添える。
「彼らの最期は?」
「大丈夫、ハンナが看取ってくれたわ」
「そうか・・・彼女には直接挨拶したいですね」
ウィッチが女神と言われる理由はいくつかある。それは戦場に福音を齎す、つまり勝利の象徴というものと、戦死者の最期を看取るとその者は天国に行けると信じられてる民間信仰的背景があるからである。その点から言うと、ここアフリカは正に女神が必要だった。広大な陸の大海が広がる砂漠では誰かが最期を見てくれる保証もなく、また祖国から遠く離れた地での死は、死者にとって最大の苦痛である。その苦痛を取り払うのがウィッチであることを勇も理解していた。だからこそ、マルセイユのしてくれた行動には深く感謝する必要があった。
「失礼する。マルセイユ大尉はいるか?」
「なっ!?どうしてあなたが・・・」
マルセイユは勇にトラウマがあり、また当時は少佐と言う階級から普段の態度は影もなかった。また、そんなマルセイユの姿を見て仲間たちも注目し始める。
「ティナどうしたんです?」
「ライーサ!」
僚機のライーサ・ペットゲン少尉が来るとすぐにその陰に隠れることから勇に疑いの目が集中する。しかし、ライーサは勇の姿を見るなり驚いてマルセイユを問いただす。
「ティナ!赤松少佐ではないですか!世界一の撃墜王の!」
「えっ!あの男性の方がですか?!」
驚いている小さく黒髪の少女は扶桑陸軍の稲垣真美軍曹だった。同じ扶桑人にも関わらず勇を知らないことにライーサは首を傾げる。
「どうして真美ちゃんが赤松少佐を知らないの?海軍とは言え同じ扶桑人でしょ?」
「はあ、男性でウィッチというのは私も知りません」
稲垣の言葉も正しく、勇は扶桑でも特殊な立ち位置であり、男性でありながらウィッチというのは大衆迎合的な扶桑からすれば異端な存在で、悪く言ってしまえば臭いものには蓋をするかのように勇の存在は公にはなっていなかった。そこで加東が咳払いしつつ説明を入れる。
「おっほん!えー彼は赤松勇大尉。ロマーニャ解放の折にわけあって今の階級に落ち着いています。そして彼が今回ここに来たのはハンナ、あなたにお礼がしたいからだそうよ?」
「なに?私にか?」
怯えつつも自分に害意がないと分かり、ライーサの後ろからおずおずと顔を出す。
「先日の態度は失礼した。今回はそのお詫びと、俺の仲間を弔ってもらった礼を言いに来た」
「ああ・・・この前はこの前だ。もう水に流すさ。それに礼を言われる筋合いはない。私は私のできることをしただけだからな」
「それでもだ。彼らは俺の大切な仲間なんだ。丁重な弔いに感謝する」
しっかりと帽子を取り、お辞儀をする勇にマルセイユは狼狽えてしまうも、仲間の手前かっこ悪いところは見せるわけにもいかず頬を赤らめながら感謝を受け取る。
「礼と言ってはなんだが、これを受け取ってほしい」
「これは・・・扶桑刀か?」
勇が渡したのは500機撃墜の折に授与された「武功抜群」の文字が柄に貼られた扶桑刀だった。マルセイユはその刀をまじまじと見つめている。しかし、そのような代物に加東が忠告する。
「ちょっと!それって恩賜されたものでしょ!?簡単にあげていいの?」
「構いません。恩賜されたというにはあまりにもお粗末な理由ですから」
「と言うと?」
「前人未到の500機撃墜を公式に認められたわけですが、どうも素直に褒めたくなかったようで・・・勲章や表彰の類をしない代わりにこの刀一本が無造作に机に置かれていたというわけです。なので大層なものではありません。それに私は自分の物がありますから」
勇への過去の扱いは嘆かわしいものだが、勇が良いと言うならということで丸く収まった。さらに言えばマルセイユ自身が自分の扶桑刀というものを大層気に入ったという方が大きかった。そして勇は三将軍から言われた要求である、マルセイユとの模擬戦を伝えるも、マルセイユは以前の空戦にトラウマを持っているらしく、またマルセイユが負けると分かっている空戦は現地の部隊の士気の低下を招く恐れから却下された。それからは用事も済んでしまったっためその場を後にしようとする。すると加東再度勇を呼び止める。
「第二中隊には寄って行かないの?」
「残念ですが、次の予定が詰まってまして・・・会いたいのは山々ですが」
「そう・・・それは残念ね。次はどこに行くつもりなの?」
「次は502に行く予定です。その次は507ですかね」
カウハバという単語に加東が反応する。実を言うと507については勇は行きたくはなかった。過去にカウハバで事件を起こしていたからであった。しかし、それを知るはずもない加東は勇に話をせがむ。
「507に行くってことは以前にも行ったことがあるんでしょ?智子はどうだった?」
智子とは加東と同じく扶桑の三羽烏と謳われた穴吹智子陸軍大尉のことである。第507統合戦闘航空団、通称「サイレントウィッチーズ」の所在地はカウハバ基地であり、502基地とも若干近い距離にある。その指揮官である穴吹智子の様子を聞かれるのが勇にとってなにより心に来るものがあった。
「穴吹大尉ですか・・・ええっと、仲間と愉快にしていましたよ?」
「どうして疑問形なの?まあ元気そうならよかったわ!」
その言葉に勇は胸を痛める。しかし、いつかはけじめをつけなければいけない問題でもあるため、ここでは一旦保留と言うことにしたのである。最後に別れの挨拶を交わすと、加東は何気なく勇に声を掛けた。
「お姉さんにもよろしくね!」
この言葉にいつしかの穴吹とのセリフが被ってしまい、勇は身体をびくつかせる。冷や汗が吹き出そうになる感覚を気取られないように片手をあげて応えた。
その後、頭を冷やして落ち着いた三将軍の下をもう一度訪れ、マルセイユとの模擬戦は叶わなかったことを伝える。すると三将軍は大層悲しそうにしていたため、勇がある提案をする。それを聞いた三将軍は目を輝かせてその提案に乗るのだった。その提案とはこの後に行く予定の502部隊の道中にカールスラントへちょっかいをかけると言う大それたものだった。それは三将軍による勇への賭け事であった。
「時に赤松大尉。現在の撃墜数は?」
「そうですね、公式撃墜記録は846機です」
この報告に三将軍は捲し立てる。この賭け事が後のベルリン奪還作戦の人事に影響するのはまた別の話である。そして、勇はアフリカを離れることにする。移動手段は自力であり、ここでも勇の扱いの粗野さが分かるが、中継地点での整備と休憩を兼ねているため勇はのんびりと移動することができた。勇は砂が混じる空を飛びながら辺りを警戒しつつ飛行していると左前方に複数の飛行隊を発見する。警戒しているとそのシルエットがバンクしていることに気づく。勇も接近して注視してみるとその光景に目を見開く。
「杉田隊長・・・」
なんと会うことは出来なかった343空第二中隊の杉田たちであった。実は加東が密かに勇が来ていることを連絡していたのだった。久々の再開に勇の胸は込み上げてくるものがある。見える機体数は三個小隊分、つまり9機であり、待機している人間がいるのかもしれないが、先ほど見た墓標は二つであったことから3人が戦線離脱したことの方が事実として捉えることができた。そんな悲しい現状が理解できたが、杉田たちはその翼を大きく振ったり、綺麗なアクロバット飛行を見せつける。
「杉田隊長・・・よくぞご無事で・・・俺も生きています。生きていますよ」
勇が手を振ると、それを見て満足したのか杉田たちは旋回して引き返す際にもう一度バンクを振って砂漠の空に消えて行ってしまった。勇は仲間の姿を目と心に焼き付けて次の502へ足を向ける。その時の勇の心は砂漠の空模様のような気持になれた。
502に行く途中、勇は三将軍の約束通りカールスラントに向かい、ちょっかいをかけようとしていた。途中で購入したカメラを携え、敵を倒しながらカシャリと撮影していく。カメラの設定に悪態が出ながらも勇は撮影を続けていく。そんな中、遂に目的地付近まで到達に成功する。
「あれが・・・懐かしい街並みだ。いつか取り戻してやる・・・ん?あれはなんだ?」
勇の視線の先にある不思議な物体には心当たりがあった。それを撮影しようとすると突如無数のネウロイが出現した。勇は必死にシャッターを切ると残りの燃料を考え退くことにする。敵勢力圏を出る最後まで勇はその地域の光景のことが気にかかっていた。
そして、そんな賭け事の真似事を終えると遂に502部隊へと足を踏み入れる。無線で502に呼びかけると不愛想な隊長らしい簡潔な言葉が返され、基地への着陸を許可される。着陸を済ませると勇は一息つく。それは疲労からの物ではなく、ため息に近いものである。その理由は勇がこの基地でやらかしたつけを清算しに来たためであった。
「よく来たな、赤松勇大尉。来るのを楽しみにしていたぞ。」
「そ、それはどうも・・・ラル少佐」
この502の隊長であるグンデュラ・ラル少佐こそ、ミーナから散々注意を促され、勇も要注意人物として絶賛身構えている人物である。そんな隊長が自ら出迎えることなどこの後に起こる不吉なことの前兆であると容易に想像できてしまった。
「早速だが、ここに来た理由はもう知っている。単純にいこう。出す物を出してもらおう」
普通の軍人ならこの不遜な態度はあり得ないものだろうが、この勇の目の前の人物がそれが許される、いやまかり通ってしまう人物だった。勇は若干顔を引きつらせながら話の主導権を取り戻そうと努力する。
「まあそう性急にならずに・・・そうだ!ここに来る道中に面白いものが・・」
「世間話をしに来たわけでもあるまし。それで出すのか?出さないのか?」
「ぐ・・・何のことでしょうか?」
あくまで知らないふりをしてみるも、勇はこの手は悪手だと知っていた。むしろこれからの話題に持っていくことが目的だった。
「ほう・・・そういう態度に出る訳か・・・ならば仕方ない。先生」
「はい。赤松勇大尉、これはあなたがうちのユニットを強奪した時の写真です。そして、これが燃料・弾薬を・・・」
ラルに先生と呼ばれる少し身長が低いウィッチは歴戦の存在で、今や教導隊からも引手あまたとなったエディータ・ロスマン曹長だった。丁寧に勇がかつて行った蛮行の数々が写真と被害報告書として並べられる。勇としてもここまで鮮明に当時の出来事を写真に残していたことが不思議でならず、もしかしたらわざと盗ませたのではかと疑うほどの出来だった。
「まったく、君のおかげで我々は大損害を被った。ああ、なんと嘆かわしく、痛ましい」
証拠を並べ立てた上でさらに泣き真似の三文芝居まで入れ込んでくるあたり、このラルという存在はミーナから聞いていた以上の厄介者だと勇は分からされる。ミーナにはこのように忠告されていたのだった。『あいつは傲慢、強情、強盗のネウロ以上の無神経」とまで言い切るミーナは本当に当時の怒りを抑えきれていない様子だった。挙句の果てには勇にも心当たりのない被害までも盛り込まれていたことには苦笑いを堪えられなかった。
「私はここまではしていないと思うのですが?」
「だから何だと言うのだ?」
傲慢にもほどがあると勇もたまげるが、退かずに応戦する。
「心当たりのあるものでしたら分かりますが、確実に私のものではないものに関しては感知しませんね」
「確実と言う根拠はなんだ?君にはこちらに被害を齎した確固たる証拠がある以上周囲がこれらの証拠を正当なものと判断するのは道理だと思うが?」
「では私も防衛線を張らせていただきます。ラル少佐、以前501の坂本少佐をミーナ中佐に無断で引き抜こうとして、書類を偽造されてましたね?ミーナ中佐から伝言です。『今度会う時は豪勢にもてなさせていただきます。遠慮せず機関銃の弾をプレゼントします」だそうです」
ラルは面白くなさそうに腕を組んでいる。効果があったようだ。勇はさらに畳みかける。
「そしてここからはお詫びですが、ロスマン曹長。こちら私が収集した嗜好品です。どうぞご笑納ください」
「あらっ!こんなに!それにこのキャビアにワイン!どこで手に入れたのかしら!」
「くっ!仲間を買収しに来るとは・・・」
勇もニヤリと悪い顔をする。ロスマンは嬉しそうに勇の出した嗜好品に飛びつくと、証拠写真の一部を勇に引き渡す。するとラルもせがみ出す。
「もちろん私にもあるのだろうな?」
「それはもちろん。私の一存で運べるだけの武器弾薬・食料を準備しています。その代わり分かっていますね?」
勇は手を出すと写真を要求する。ラルは写真を渡そうとしたところでその写真を引っ込める。
「ふん、その手には乗らんぞ。君の一存で運べるだけの量なんてたかが知れている」
簡単には餌には食いつかないなと歯噛みする表情を浮かべる勇に、ラルは勝ち誇ったように笑みを再度浮かべる。
「ちっ・・・分かりましたよ。今日運んできたのは食料を隊員一月分と武器・弾薬は501を参考に3週間分用意しました」
「足りんな。今日ということは今後も運んで来れる量がまだあるということだろう?全部出せ!」
ラルは当然の要求だとばかりに傲慢に要求してくる。勇は泣き顔でラルに媚びる。
「ラル少佐・・・さすがに運べても次回は今回の半分が限界です!どうかご勘弁を!」
「ふん、君が私たちに変なことをしなければこんな要求をしなくても良かったのだがな・・・そうだな、大尉?」
「ぐぬぬ・・・はあ、分かりましたよ。今週末までに今日搬入した物資の全量の3倍を手配します。これで本当に限界ですよ」
ラルはニッコリと微笑むと「出せばあるじゃないか」などと悪い笑みを携え証拠の写真を勇に手渡す。しかし、勇もただでは信じない。
「ラル少佐、証拠はいただきましたが複製がないとも限りません。書面で今後私に請求しないと署名してください」
「ちっ・・・君も敏いな。まあ、私には敵わないがな」
「これ以上集られたら堪りませんから。見習わせてもらいますよ・・・」
勇は用意してきた署名にラルに署名させ、ラルの本物の署名と見比べ有効であることを確認する。その用心深さを見てラルは「信用ないな」などとほざいたため、勇は笑顔で対応する。
「『502には近づくな』が、鉄則ですから!」
ラルに挨拶するとすぐに次の目的地に向けて準備する。勇は一刻も早くこの基地から離れたかった。装備の点検を行っていると不意に少女に声を掛けられる。
「あっ!」
大きな声に声の下へ視線を向けると、そこには茶色がかった髪色に小動物を思わせるような海軍練習生の制服に身を包んだ少女がいた。勇は首を傾げているとその少女が駆け寄り話しかけてくる。
「やっぱり佐世保で見た人だ!」
佐世保という地名から勇は必死に記憶を辿る。佐世保にいたのは343空に配属される直前のことだ。その頃の会った記憶というか、そもそもウィッチとは面識がなかったため思い出すことは叶わなかった。
「あっ、私ったら名前も名乗らず失礼でした!私、雁淵ひかりって言います!以前佐世保の飛行学校でお見掛けしました!」
「えー俺は話した記憶はないが・・・まあいい。俺は扶桑海軍赤松勇大尉だ。」
「あーそういえば新藤教官も言ってました!でも・・・『赤松には近づくな』って・・・」
勇は吹き出しそうになった。ようやく雁淵の記憶の間違いが分かり、状況が掴めてきたため訂正しておく。
「ああえっとだな・・・俺も赤松だが、新藤少佐が言っていた赤松は同姓の俺の隊長だ。そうか、隊長がちょっかいを掛け・・・おっほん!助言した子か!」
「ああそうです!それにしてもストライカーを履くってことはウィッチだったんですね!私、男の人のウィッチって初めて見ました!」
明るく好奇心旺盛な少女に誰かに似ているものを感じていると、奥から二人の扶桑の少女がやってくる。
「なんだひかり、こいつと知り合いだったのか」
「管野さんっ!お見掛けしたことはあったんですけど・・・」
「ああ!うるさいな!さっき聞こえたよ!」
管野と雁淵は仲が良いのか悪いのかわからなかったが、もう一人のウィッチが礼儀正しくお辞儀をする。
「赤松中佐・・・あれ?大尉でしたか?お久しぶりです。新聞では501で活躍されたと聞いたのですが?」
「ああ、まあ訳ありでな。今は大尉だ」
「そうだったんですか。それにしても坂本さんと肩を並べていらっしゃったなんて。それに撃墜数も世界一になられたんですね!凄いです!」
素直に褒められているが、このウィッチの名前は下原定子少尉と言い、サーレマー島で当時の勇の隊長である林を失ったときに勇を助けに来てくれた人物であった。その時の状況はかなりの窮地だったこともあり、その後の勇の行動も支援に来てくれた二人には決して良くは思われない行動を取っていた。
「あの頃からだいぶ垢抜けられましたね」
「恥ずかしい話だな・・・当時はすまなかった」
「まったくはた迷惑な奴だったぜ!『荒鷲の闘魂』さんよお?」
話しに割り込んできたのはブレイクウィッチーズの一人である管野直枝中尉だった。管野も当時勇を支援に来てくれたウィッチであり、勇がウィッチ化した時に管野が残したストライカーで飛ぶことができたのだった。しかし、勇は藤野が戦死した際、ユニットを壊しており、このユニットをわざわざ502まで返しに来たのだった。
「あんときは失くしたってサーシャに嘘ついたのにお前が持ってくるもんだから正座させられたぜ!」
「管野さん、それは管野さんの自業自得です。それに『荒鷲の闘魂』って・・・あうっ!」
雁淵が茶々を入れる度に管野がデコピンをかましていた。仲は良いようだ。バツの悪そうに管野はしているため下原が話を続ける。
「突然いらしたときは驚きましたけど、ユニットを貸してもらう商談としてクルピンスキーさんと管野さんを模擬戦で倒してもぎ取っていくとは思いませんでした!まさかウィッチになられているとは」
当時の様子を思い出したのか、下原はクスクスと笑い、逆に管野はバツの悪そうな顔がさらに不機嫌になる。それを雁淵に指摘されさらに事態が悪化する。終いには急いでいる勇を差し置いて管野が模擬戦を申し込む始末だった。
「もう一回俺と勝負しろ!」
「いや、今は急いでるから・・・」
「なんだい?面白そうな話をしているじゃないか」
話しに割って入ってきたのはヴァルトルート・クルピンスキー中尉だった。また迷惑な人物が来てしまったと眉間を摘まむ。その時だった。基地の奥から絶叫が聞こえてくる。全員が耳を抑えて声の方向を見る。その瞬間放送が入る。
「緊急!これよりこの基地を出る者は全て確保せよ!これは命令だ!該当者は『赤松勇大尉』!捕まえたものには褒美を出す!」
急いで逃げ出そうとする勇だったが、この放送にクルピンスキーが即座に勇の腕に手を絡める。
「赤松勇大尉~?捕まえたよ!」
「は、離せっ!!?」
「やったぁ!これでご褒美のぶどうジュースだぁ!」
勇は仕方なく奥の手を出してクルピンスキーを出し抜く手段を講じる。ある物を胸元から出すとなるべく遠くに放り投げる。
「クルピンスキー中尉!501のサーニャとリネット・ビショップだ!」
「なっ!?カワイ子ちゃ~ん!」
その言葉と写真の映像に即座に反応したクルピンスキーは拘束をあっさりと解除すると写真を追いかけて行ってしまった。拘束が解かれた勇は即座に発進する。しかし、ここでも邪魔が入る。
「逃がさねーぞ!俺と勝負しろ!」
管野が発進した勇の背中に飛びついてきたのだった。勇は仕方なくそのまま発進すると勇にとっての幸運が訪れるのが見えた。それは暗雲が広がる空にポツンと浮かぶ白磁の肌を輝かせる少女だった。
「おーい管野?お客さんか~?」
「あっ!ニパ!今はだめだ!こっち来んな!」
管野が驚きで勇を掴む手を緩めた瞬間を逃さず、二パと呼ばれるニッカ・エドワーディン・カタヤイネン、通称「ついてないカタヤイネン」曹長に向かって急上昇する。上空ではゴロゴロと虫の居所が悪そうな響きをしながら二パを際立たせていた。二パは突然向かってくる存在に狼狽えて何もできないでいた。勇は全速力で上昇すると二パの手前数メートルで急停止する。すると慣性の法則に則り管野が二パに向かって放り出される。
「ぬわー!!!!」
「管野ぉ!!?」
二パが管野を上手くキャッチした時、勇は必死に二パより高度を落としていた。管野も無事にキャッチされたことに安心している暇はないのかじたばたしていた。
「二パ離せ!すぐに離せぇ!!雷だっ!!!」
「なんだよせっかく助けてあげたのに!・・・って、え?」
二パが気づいたときにはもう遅かった。管野もろとも二人は落雷が直撃し墜落していった。勇は間一髪難を逃れ、502基地に目もくれず次の507基地に向けて速度を上げていた。基地からは大きな声で何かが叫ばれているが、気にせず、むしろ無視してひた走った。その理由は先ほどラルに渡した物資にあった。
「くそったれ!あのタヌキめ!!」
「どうされたんです、隊長?」
地団駄を踏むラルの横には戦闘隊長を務めるアレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉がいた。ラルが壊したであろう物資が入った箱に目を向けると、サーシャは苦笑いをした。そこにはサーシャ宛にこう書かれていた。
『サーシャ大尉へ
業突張りの隊長をどうにかしていただきたく。なおサーシャ大尉には悪いと思っています。お詫びにこちらを。今後役立て頂けると幸いです。 赤松勇大尉』
物資の箱に目を向けると、その中には大量の戦闘糧食と試験運用されるはずの武器・弾薬が満載されていた。詰る所、食料は食べられる味の最低限のもので、武器弾薬は実戦で使えるかもわからない品ばかりだった。さらに、こんないらない、使えないものがあとこの3倍届くのだ。ここまでの芝居は勇がこの物資をラルからカモフラージュするためのものだった。あまりの用意周到さにサーシャは勇の機転良さに笑うしかなかった。
「わあ、レーションがこんなにたくさん!おいしそう・・・」
若干一人のみ食べ物と言うだけで無条件に反射してしまう、ジョゼット・ルマール少尉だけは嬉しそうに糧食を眺めていた。また、サーシャの手には別の茶封筒の中に何枚かの写真が封入されていた。そこにはベルリンの現状が写されていたのだった。
いかがでしたでしょうか。ストライクウィッチーズの作品の世界観の広さには驚かされるばかりですが、もうすぐ年末と言うことで次回は勇も帰省させてみようかと思っています。次回もご一読くださると幸いです。