ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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こんにちは!
ストライクウィッチーズRtB良かったですよね!劇場版、ブレイブウィッチーズを経て待ち続けた甲斐がありました!
こちらの作品も読んでいただけると幸いです!


第二話 結成

勇の腕も順調に回復し、訓練に戻れるようになると、予てよりの射撃訓練の習熟に入った。ブランクこそあったものの、それを感じさせない成長で、周りを驚かせた。

 

 

 「今の感じを忘れるな!良かったぞ!」

 

 「了解!」

 

 

 ハルトマンは嫌々ながらも勇と訓練を続けて、二人の成長は目を見張るものがあった。元々編隊飛行などの技術は優れており、特に二番機としての役割が非常に評価されていることから、柔軟な思考と追従するだけの体力が秀でていた。それに、射撃の腕も磨かれ、今や誰が見てもエースウィッチだった。

 そして、訓練も佳境に入っていたある日、基地にとある人物が訪ねて来た。

 

 

 

 「すまない、ここの指揮官と話がしたいのだが、どちらに?」

 

 

 

 扶桑の海軍の軍服を来た少女が訪れ、場は騒然とした。その理由は、欧州派遣部隊として、またストライカーユニットの開発に尽力した人物として名高い坂本美緒大尉だったからだ。

 

 

 「ミーナ少佐に連絡しましたので、しばらくお待ち下さい。」

 

 

 

 ミーナは第501統合戦闘航空団の指揮官として以前より昇進の打診があり、少佐となっていた。坂本は若い男性ながら少尉として登用されていることから不思議に思い、勇に声をかけた。

 

 

 

 「もし、君はウィッチか?」

 

 「はい、扶桑海軍267空赤松勇少尉です。」

 

 「267空…たしかカールスラントで全滅したと聞いたが?」

 

 

 

 勇は坂本とは違う部隊の出であり、坂本より後進で欧州に来たため、情報はあまり出回ってなかった。

 

 

 

 「はい、私を残して全滅しました。今はこの基地に所属させてもらっています。坂本大尉はなぜこちらに?」

 

 「そうか…それと、私を知っているのか?」

 

 「扶桑で知らない人はいないはずですよ。映画にもなっていましたからね。」

 

 

 

 坂本は勇も参戦した扶桑海事変の立役者で、その活躍から映画にも出演するスターだった。ちなみに勇は坂本とは別方面の作戦参加組で、面識はなかった。

 

 

 

 「ああ、なるほど!あっはっはっは!私はこの基地に配属になると聞いて来たのだが…」

 

 

 

 そうこうしているうちにミーナがやって来た。

 

 

 

 「坂本大尉、ご足労様です。我が隊への着任歓迎します。」

 

 「世話になる!」

 

 

 

 豪放磊落な性格だと勇は思った。本当に統合戦闘航空団というものが多国籍によるエースの部隊というのをこの頃に知り始めることになる。

 

 

 

 「ときに勇、カールスラントでは何をしていたんだ?」

 

 「胸の好く話ではないですが…」

 

 

 

 己の過去をこうも気楽に話せることは今までになかったが、自然と空気は重くなってしまった。話終わると坂本は驚いたような、安心したような顔になると自身の話をする。

 

 

 

 「私はリバウで小隊長をやっていたが、上手く行ったことなどなかった…あの時代、上手く行ってた所なんてなかったんだな…」

 

 

 

 坂本も苦しんだ過去をもっているのだと知り、あの豪放磊落な性格もこれまでに培った彼女の処世術だとわかった。

 

 

 

 「でも、この基地に来てから私は変わりました。命は散らすもの、誰かの為になれたのならそれも本望と思っていた私を強く諫めてくれました。今やみんなが闇を持つ中で、互いに支え合っていけるのです。私はこの仲間で未来を見てみたい…」

 

 「武士は戦場でしか生きられない。私は数多の屍を越えていこう。」

 

 

 

 扶桑という大陸と海を隔てたもの同士、分かり合える部分があり、仲良くなるのに時間はかからなかった。次にこの基地に来たのは夜間哨戒要員のサーニャだった。

 

 

 

 「オラーシャ陸軍…サーニャ・リトヴャク中尉…です…」

 

 

 

 酷く緊張している様子で、所在なさげな瞳はいつかの勇を彷彿とさせた。夜間哨戒はこれまで、射撃訓練を修了させた勇が時折行っていたため、引き継ぎとして当分は行動を共にすることとなった。

 

 

 「リトヴャク中尉、私はあなたの2番機として行動すればよいですか?」

 

 「あの…はい…」

 

 

 

 男性と関わってこなかったからなのか、酷く怖がられているような勇だったが、階級が上な以上命令で態度を改めさせるわけにもいがず、気まずい雰囲気で夜間哨戒が始まった。

 

 

 

 「夜にだれかと飛ぶなんていつぶりですかね?リトヴャク中尉はありましたか?」

 

 「ないです…」

 

 

気まずい雰囲気に呑まれ、自分と同じように話すのが嫌いなのではと思い提案する。

 

 

 

 「私も口数が多いわけではないんですが、お邪魔であれば報告以外話さないようにしますが?」

 

 

 

 サーニャは困ったようなわからないような顔で口ごもり、間を空けてこう話出した。

 

 

 

 「本当は一人で歌を歌ってたんです。」

 

 「歌ですか?オラーシャの歌は聞いたことありません。よろしければ聞かせていただけますか?」

 

 

 

 サーニャは意を決したのか、呼吸を整えるとその細やかでゆったりとした声で歌い始めた。それは、夜の空に解けて消えていくにはあまりにも儚く、星に彩られたきれいな音色だった。聞き入っているうちに、終わっており拍手をした。

 

 

 

 「大変よいものを聴けました。これなら夜でも寂しくないですね。」

 

 「両親に宛てた歌だから…」

 

 

 

 勇はサーニャがウラル山脈を越えたところに両親がいることを聞き、さきほどの歌が悲しい歌でもあるとわかった。ウラル山脈付近はネウロイの活動が活発であり、もし逃げられたとしてもこちらからは会いに行くのは困難であった。ここでもか弱き少女が胸を痛めていると知り、勇は少しでも元気になれればと過去話を始めた。サーニャは深く聞き入っていた。

 

 

 

 「リトヴャク中尉、決して傷付いた心は治りません。でも、ここで乗り越えることができたのなら、あなたは両親に会えた時、きっと自分のことを誇れる人になると思いますよ。」

 

 「はい…勇さんもお姉さんや仲間のこと悲しいですか?」

 

 

 

 勇は悲しみを共にすると誓ってからは必ずこう言うようにしている。

 

 

 

 「悲しいです。ですから、彼女らが生きるはずだった明日を代わりに精一杯生きるんです。」

 

 

 

 サーニャはそう言うと微笑み、月を背に空を飛んだ。

 

 次に訪れたのはエイラだった。不思議な雰囲気を醸し出す彼女は生粋のエースであまり人と関わることをしなかった。戦闘では未来予知による個人芸もさることながら、その天才的な才能で文句なしの活動をすることから、周囲からは孤立しがちだった。そんな中、業務連絡で勇はエイラに声をかける。

 

 

 「ユーティライネン少尉、一つ頼まれてくれますか?」

 

 「な、なんだよ…」

 

 

 

 酷く嫌そうな顔で答えられ、苦笑いしながら話始める。

 

 

 

 「本日夜の夜間哨戒では冷えることが予想されるので防寒装備を頼まれたのですが、ユーティライネン少尉の方が詳しそうなので、もしよいものがあれば見せてもらえないかと…」

 

 「あ、ああ…私が直接やるよ…」

 

 

 

 男性でウィッチの勇が少し苦手なエイラは、早く話を切り上げるためにサーニャの元に向かった。

 

 

 

 「あいつ苦手なんだよな…うーんでも、やるって言った以上やるしかないんだな…マフラーでも貸すか…」

 

 

 

 サーニャの部屋に着くと、ドアをノックする。返事はなく、留守なのかと思ったが他の部屋にいたのを見たこともなかったのでとりあえず、部屋に置いておこうと扉を開ける。すると、そこにはベッドで横になるサーニャの姿があった。

 

 

 

 「うわっ!」

 

 「ん…だれ?」

 

 

 

 物音とエイラの声で起きたサーニャは寝ぼけ眼で問うと、その可愛らしさにエイラの緊張はマックスになった。

 

 

 

 「あ、あの男のやつからあんたに、防寒装備を頼まれた…んだな!ここに置いておくんだな!」

 

 

 

 さっさと退散しようとしたエイラだが、サーニャの一言で向かうべき場所を定めた。その顔はスオムス人でも見たことないほど燃えるような赤い顔だったという。

 

 

 

 「マフラー…ありがとう…」

 

 

 

 その後のエイラは、よく勇と一緒にサーニャについて話す友達になり、自然と部隊に馴染んでいった。

 次に訪れる隊員の前に、勇はその腕と容量の良さを買われ、坂本とガリアへと向かうことになった。なんでも奪還すべき場所があり、坂本が単独で突撃しようとしたため、慌ててミーナが護衛をつけたのだった。

 

 

 

 「すまないな、急に付き合わせてしまって。」

 

 「少佐、あなたの言動は周囲に与える影響が大きいと心得てほしいものだな!」

 

 

 坂本もまた、統合戦闘航空団に入ったことで階級が上がり、少佐となっていた。また、ミーナも統合戦闘航空団創設にあたりすぐに中佐となっている。

 なぜバルクホルンが怒るのかと勇はおかしくなったが、今回は坂本と二人のため他の隊員も心配していたのだった。

 

 

 「あまり無茶はしないこと。二人ともいい?」

 

 「了解した。」

 

 「必ず戻ります。」

 

 

 

 こう言うと、ガリアへと向かって速度を上げた。

 ガリアはネウロイに奪われ、敵の勢力圏とされていたが、その外縁部はいまだに膠着状態にあった。扶桑のユニットは零戦21型で、航続距離と機動力に優れたものだったことから、ドーバー海峡を越えても悠に戦闘が可能だった。そして、今は坂本の二番機として敵の勢力圏に入ろうとしていた。

 

 

 

 「じきに戦闘になる。準備はいいか?」

 

 「いいですよ。背中は任せて下さい。」

 

 

 

 坂本はしっかりと頷くと、武器を構えた。リバウにいた頃は、リバウの三羽烏と呼ばれ頼れる仲間もいたが、今は不思議とその気分になれた。目的地を定めると、そこには巨大なネウロイの塊が鎮座していた。

 

 

 

 「あれが今日の目標だ。心してかかるぞ!」

 

 「了解!」

 

 

 

 勢いよく降下体勢を取ると、ネウロイも反応して攻撃を開始した。親玉の子機も出現し、瞬く間に乱戦へと発展した。

 

 

 

 「敵のコアはやはりあの親玉だ!集中して叩きたいとこだが、この量では難しい!連携をしっかりして確実に倒す!」

 

 「子機は任せて下さい。なるたけ引き付けます。」

 

 「頼りになる!」

 

 

 

 坂本は刀を抜くと、背中の一切を勇に任せ突撃する。背後では坂本に近づかせまいと、勇が奮闘しているのがわかった。親玉からの攻撃を華麗にかわすとその一端を切り裂いた。

 

 

 

 「やりましたか?!」

 

 「ダメだ。手応えがない。コアは中心部にある。相当硬いぞ。」

 

 「なら…これで!」

 

 

 

 勇が取り出したのは、手榴弾をいくつも束ねたものでエイラから試作を兼ねて受け取ったものだった。エイラとはサーニャの件で仲良くなってからよくこういった装備や武器などの改造物を受け取っていた。

 

 

 

 「これで外殻を壊します。あとは坂本少佐に任せます。」

 

 「任された!」

 

 

 

 作戦を決めると、何も言わずに二手に別れる。坂本は上昇、勇は下降していた。ネウロイも咄嗟に二手に別れたが、これこそが作戦だった。戦力を分散させ、最低限の防御で乗り切ると勇はピンを抜き坂本から聞いていたコアの位置へ投げつける。大きな爆発が辺りを包むと、中にはコアが煌めいた。それを逃さす上昇から下降に切り替えていた坂本が刀を大きく振りかぶる。逆に上昇に転じた勇は、坂本を追って来たネウロイを撃破して援護する。すれ違い様のため追手のネウロイは蜘蛛の子を散らしたように逃げ仰せると、すかさず坂本がコアを切り裂いた。

 

 

 

 ジャキーン!

 「…作成完遂。帰還する!」

 

 

 

 激戦を思わせない清々しさに勇も思わず、これが本物のエースだと感心していた。帰り道も警戒しながらの飛行だったが、坂本と勇は一仕事終えた清々しさで一杯だった。

 

 

 

 「ゆう、今日はついてきてくれて助かった。感謝する。」

 

 「坂本さんと一緒に戦うなんて夢にも思いませんでしたよ。いい思い出になります。」

 

 「まあ、最近来たばかりだから同郷の者がいてくれて少し安心してたんだ。ゆうが他の者と間を取り持ってくれるから話もしやすくてな!」

 

 

 

 軽口を叩きながら飛行するが、ふと坂本が神妙な顔つきになる。

 

 

 

 「ゆうはどうして戦っているんだ?」

 

 「きっと坂本さんと同じだと思いますよ。」

 

 

 誰もが戦いたくて戦ってるわけではない。平和な世界なら誰しもがその生を謳歌するのに一生を費やすだろう。しかし、戦場を駆け巡る者にとって、戦う理由は一つしかない。

 

 

 「私は当初、扶桑で一番のウィッチになってみんなを守りたい…そう思って戦っていたんだ。だが、欧州に来て仲間が傷ついていくのを見て、本当に私には力があるのかと自問自答するときがあったんだ。」

 

 

 

 坂本にも自分と同じことを胸に秘めていることを知り、いつもの豪快さからはかけ離れた坂本がいた。胸に秘めている思いとは、それは何かを誰かを守りたいという想いのはずである。

 

 

 

 「戦争をしていると、ふと自分は人間なのか疑わしくなります。今はそうでもなくなりましたが、ここに来たときはバルクホルン大尉によく叱られました。みんなが傷ついているのは分かりますが、それでも自分の歩んできた道のりは酷いものだったと思います。」

 

 「私は指揮官として、誰かを導く存在に憧れていたんだがな…ここだとそれも理想で終わるかもしれん。」

 

 

 

 坂本はいつになく弱気で今まで誰にも話したことがないような感傷に浸っていた。しかし、勇はそれを肯定も否定もせず持論を展開させる。

 

 

 

 「理想は恐ろしいです。今まで自分が思い描いてきてものが、現実を前にするとこんなにも儚いものだったのかと幻滅しますから。」

 

 

 

 二人して暗い雰囲気のところだったが、ふと勇は顔を上げて笑った。

 

 

 

 「でも、こうも思うんです。たかが自分の理想なのだと。この世界は厳しい。明日を生きることが難しい今ですが、きっと次の世代は新たな希望を胸に理想を抱くのでしょう。それは、今を生きている我々を見て抱くのです。」

 

 

 

 この言葉に坂本も顔を上げる。勇の言葉を胸に吸わせようと必死に耳を済ましていた。

 

 

 

 「理想は幻想です。崩れやすく届かない儚いものです。ですが、思いもよらない形で満足できる現実を目にするとき、きっとそれが幸せになるのでしょう。だから、指揮官は理想を追いかけているから周りがついてくるんです。坂本さんなら、きっとみんなを幸せにできますよ。」

 

 

 

 その言葉に坂本は自分は自分でいいのだと、強く自信を持てた。しっかりと未来を見据えた強い瞳は、たった今横を飛ぶ勇を捉えてこう言った。

 

 

 「着いてこい!」

 

 

 

 次に配属されてきたのは、ガリアのペリーヌ・クロステルマン少尉(次期中尉)だった。ペリーヌは配属されるなり、部隊の現状を見て辟易した。最前線かつエースが集まると言いながらも、体たらくな雰囲気と、名前も聞いたことのない男性ウィッチ、特に扶桑からのウィッチにペリーヌは嫌悪感すら抱いていた。

 

 

 

 「どうして扶桑人なんかがここにいますの?!なんにも知らないくせに!」

 

 

 

 扶桑は自分の国を獲られていないし、リベリオンと同様にウィッチを派遣する余裕すらある。そんな国が自分たちの国を奪われた者のために働くわけがないと、ペリーヌはそう思っていた。

 

 

 

 「あ、ペリーヌ少尉!基地について案内を任されたのですが…」

 

 「結構よ!それと、少尉ではなく中尉です!ふんっ!」

 

 「は、はあ…まだ少尉だと思うのですが…」

 

 

 

 殊更に男性ウィッチの勇は、存在価値すら疑っていた。どうせウィッチとはいえ補助員としての予備だと苛つきを隠さなかった。この現状にミーナは困り、適切な人材を見出だせずにいた。

 

 

 

 「どうしたものかしら…」

 

 「ん?どうした?浮かない顔をして。」

 

 「ああ、ペリーヌさんがね…」

 

 

 

 ミーナは書類を見ながら眉を寄せる。ガリア令嬢でかつ高貴な使命感と祖国を奪われた憎しみで手が付けられないと坂本に吐露した。すると、坂本は配属に伴う特権から策を練った。

 

 

 

 「そういえば、ミーナも私もバルクホルンもみな階級が上がったな。」

 

 「ええ、この部隊に配属される以上、連合本部から昇進が認められるのよ。私の場合は兼ねてから昇進の予定があったからまた昇進したの。」

 

 

ミーナは統合戦闘航空団を設立してから、二階級の急速出世を成し遂げていた。

 

 

 

 「さすがの出世だな。」

 

 「誉められたものじゃないわ。代わりの登用よ。士官階級のウィッチが深刻的に不足しているの。」

 

 「なら、ゆうにも適用できるだろ?」

 

 「…ああ!」

 

 

 

 坂本の取った作戦とは、ペリーヌより先に勇を中尉へと昇進させ、命令として連れ出し、あとは勇の持ち前のコミュニケーション能力で和解を計った。そして、トントン拍子で事は運び、あっという間に勇は中尉になった。さらに、ペリーヌへの面倒も任されたのだった。

 

 

 

 「参ったな…嫌われてると思うんだけど…まあ、この際仕方ない!ごほん!…あの、ペリーヌ少尉!少しよろしいでしょうか?」

 

 

 

 少しの間のあとに不機嫌そうに部屋から顔を覗かせたペリーヌは文句を言いかけて止めた。肩の貴章が自身の物より上を示す中尉になっていたからだった。いくらペリーヌとは言え、根は軍人であるため渋々従う。

 

 

 

 (どうして私がこんなへんちくりんより下なんですの?!)

 

 

 

 胸のなかで怒りがふつふつと沸き上がるが、グッと抑えて着いて行く。外に出ると日当たりのいい場所に小さな花壇があり、そこには申し訳程度に花が植えてあった。セントポーリアなどペリーヌが大好きだった花たちがそこに必死に咲いている様を見て、不思議と涙が溢れてきた。

 

 

 

 「どうですか?ここに植えてみたのですが…案外心が安らぐものですね。ペリーヌ少尉の故郷では…」

 

 

 

 そこまで言いかけると、勇は頬を叩かれた。一瞬何が起きたか分からなかったが、目の前を向くと涙を携えたペリーヌがこちらを睨み上げるようにして必死に何かを訴えていた。

 

 

 

 「あなたはっ!私がどんな思いでこの花を見れるとお思いですの?!」

 

 

 

 そう言うと来た道を走って戻ってしまった。立ち尽くす勇は、叩かれた頬を掻きながら呟く。

 

 

 

 「失敗しちゃったな…」

 

 

 

 ペリーヌは部屋で一頻り泣くと、悔しくて悔しくて堪らなくなった。故郷を踏みにじられた自分を前に、故郷の花を植えて見せてくるなんて偽善以外の何物でもなかった。やはり戦火を経験していない者とはやっていけないと思い、また嫌になった。しかし、こんな顔ではいけないと顔を洗いに行く。すると、そこには坂本がいた。坂本はこちらを見つけると話しかけてくる。

 

 

 「やあペリーヌ。もう基地には慣れたか?」

 

 「…坂本少佐もですか?」

 

 

 

 ペリーヌはさっきの勇をふと思い出し、この扶桑人も気安く自分の踏み込んでほしくないところに土足で上がり込んで来るのかと思うと、言わずにはいられなかった。

 

 

 

 「坂本少佐も、ガリアのことなんてこれっぽちも考えたことありませんのね!」

 

 

 

 声の大きさに坂本も驚いたようだが、何かを察すると笑顔を作りこう言った。

 

 

 

 「ガリアのことはよく知っている。下手したら今のお前より知っているぞ?」

 

 

 

 このことに堪忍袋の緒が切れたペリーヌは決闘を申し込む。

 

 

 

 「決闘ですわ!扶桑のだれか知りませんが、勝負して勝った方がなんでも言うことを聞いてくださいまし!」

 

 「うむ!ウィッチたるもの空で勝負しなければな!」

 

 

 

 こうして突如、模擬戦を開始したわけだが、始まる前に勇が声をかけた。

 

 

 

 「ペリーヌ少尉、先ほどは失礼しました。お詫びに一つ助言を差し上げます。」

 

 「…施しは受けませんわ。」

 

 「施しではありません。フェアな情報です。」

 

 

 

 ペリーヌは貴族である以上、施しは受けたくなかったが、それ以前に勝負には勝ちたいという思いが強かったため、渋々聞き入れることにした。

 

 

 

 「…で、なんですの?」

 

 「機体性能についてです。扶桑のユニットは機動力に優れています。旋回などの巴戦になった場合、離脱することを奨めます。」

 

 「あなたは!私に尻尾を振って逃げろとおっしゃるの?!」

 

 

 

 これを自分への侮辱だと感じたペリーヌは、勇が嫌みなやつであると心底辟易した。しかし、反対に勇は至極真剣な眼差しで助言する。

 

 

 

 「これは戦いです。どれだけ相手を知れるかが勝敗を分けます。」

 

 

 

 ペリーヌは勇の出す真剣な眼差しに圧され、たじろぐが、プロペラを回し、言葉を交わさずに発進した。

 外に出ると坂本が待機しており、ペリーヌが来るのを見るとまた笑顔で出迎えた。

 

 

 

 「来たな!では、早速始めるとするか!」

 

 「手加減はいたしませんわよ。」

 

 「手加減など武士道の恥だ。全力で挑ませてもらう!」

 

 

 

 この場に及んで潔い坂本を内心嘲笑うが、坂本はペリーヌが知り得る情報以上にやり手である。ペリーヌも全力で挑むつもりだった。こうして、模擬戦は始まりを迎えた。

 まず仕掛けたのはペリーヌだった。一気に上昇し、坂本の後方から射撃体勢に入り、機を伺った。照準に入るようにギリギリまで近づくも坂本がそう易々と狙わせてはくれなかった。坂本は左旋回を始め、ペリーヌもそれに釣られる。強烈なGをなんとか堪えながらも必死に坂本の背後を取ろうと歯を食い縛る。しかしここで、ふと勇の言葉が過る。

 

 

 

 「巴戦になった場合、離脱することを奨めます。」

 

 

 

 こんなとこで勇の言葉に頼りたくはなかったが、いくら追いかけてもこちらが徐々に不利になっている現状と、このままでは危機的状況になってから離脱するのでは遅いと判断し、勇の言葉を信じた。一度下方に離脱し、背後を見るとやはりピッタリと着いてきている。あのまま巴戦を続けていたら、離脱しようがどのみち終わっていたと肝を冷やした。低空に入り障害物を利用して、斜線から外れると、一気に上昇に転じ、雲の上までかけ上がる。ここでもしっかりと坂本は威嚇射撃で雲に逃げられないようにするあたり、やはり本物だと感じてしまう。それでもペリーヌはここが勝負処だとなるべく坂本を引き付ける。いかにも降りきれなさそうな飛行で慢心したところを叩くつもりだった。

 

 

 

 「いいわ…ついてらっしゃい…そう…ここ!」

 

 

 

 急激な上昇ロールにより、減速がかかりペリーヌは坂本の背後を取る。目の前には坂本の驚く顔があり、ペリーヌは勝ったと確信した。しかし、銃を構えるとそこにはだれも居なかった。しまったと思ったそのとき、背後から坂本の射撃が走った。咄嗟に舵を切り、逃げるがここまで詰められてしまうともはや袋のネズミだった。

 

 

 

 (まさか、この私が負けるなんて!)

 

 

 

 涙が溢れそうになるが、最後まで諦めない気持ちで左右上下に必死で機体を揺らして足掻いた。そして、地面すれすれでもはやどこにも逃げ場がなくなり、ついに追い込まれた。それでもペリーヌは諦めきれず、やけくそで上昇して一矢報いるために高度を上げた。

 

 

 

 (何がなんでも一泡吹かせてみせますわ!)

 

 

 

 エンジンが悲鳴を上げ、ギリギリまで上昇するとペリーヌはエジソンの出力をカットし、落下体勢で反転、坂本とヘッドオンを取った。互いに向かい合い射撃する。ペリーヌは意地でも当てるつもりで全弾発射し、二人が交差した後、決着は着いた。

 

 

 「そこまで!勝者…坂本少佐!」

 

 

 

 ペリーヌは呆然とした。身体にはそこかしらにペイントが施され惨めな姿となっていた。対して、決死の覚悟で挑んだはずの坂本の身体には汚れ一つない姿があった。完全敗北である。

 

 

 

 「そんな…私は…こんな…」

 

 

 

 負けて泣くのは負け犬のすることだと必死に堪えても涙は溢れてくる。惨めな姿を坂本はきっと笑っているだろう。これを見た勇も笑うだろうと思うと悔しさで消えてしまいたくなった。そんなとき、坂本がペリーヌに声をかける。

 

 

 

 「…ペリーヌ」

 

 「…笑いに…きたんですの?」

 

 「そんなことあるわけない。ペリーヌ、君は素晴らしいウィッチだ!」

 

 

 

 坂本の称賛の言葉にペリーヌは驚いた。言葉だけ聞けばお世辞かとも思うが、坂本の表情からはその様子は一切感じとることができず、本心からの言葉だった。

 

 

 

 「特に最後の反撃は、死中に活を求める泥臭さが貴族とは思えぬ立派なものだった!正直ここまでの戦いができるとは思ってなかったんだ!いや、ありがとう、ペリーヌ!」

 

 「あ、へ、ああの…こちらこそ…」

 

 

 

 すっかり毒気を抜かれ、顔を真っ赤にしたペリーヌは坂本に勧められるままに身体を洗うことにした。身体を洗い、着替えを済ませても一向に嫌な気持ちがしなかった。むしろ、清々しさと満足感すらあった。坂本を田舎のわからず屋と思ってた自分は、ただ誰かに当たりたかっただけで、だれかに慰めてほしかったのかもしれない。そうであるならば、自分が今までしてきた態度はネウロイにとって利になり、仲間にしては害悪にしかならない。それに気付いたペリーヌは坂本に謝罪しようと決意する。そして、坂本のいそうな部屋の前で咳払いをし、入室しようとすると坂本とバルクホルンの声がした。

 

 

 

 「少佐、この基地に風呂なんぞいらないと何度言えば分かる!」

 

 「まあまあ、風呂は人の心と身体を清めてくれる。存分に心と身体を癒すことも兵士として大切なことだぞ。」

 

 

 

 なにやらバルクホルンと坂本が言い争ってるように聞こえ、ペリーヌはそっと聞き耳を立てる。

 

 

 

 「だいたい、この基地の運用に関しても少佐が以前のようにガリアの南部を奪還するようなことがあっては、基地の戦力が大幅に低下するんだ!」

 

 「だが、なんとしても守らねばならないことだってあるだろう。」

 

 

 

 ペリーヌはここで驚愕の事実を知る。ガリア南部とはペリーヌがブリタニアへ渡る前までいた場所であり、思い出の場所だった。それを奪還したのがなんと坂本だったのである。

 

 

 

 「たとえそうだとしても、戦闘指揮官として、基地のことを考える器量があってもいいじゃないか!どうせ、ゆうのことも勝手な都合で昇進させたんだろう!」

 

 「ゆうに関しては適材適所だ。バルクホルンも知ってるとは思うが、私と一緒にガリアへ行き背中を任せられたのも、隊員とのコミュニケーションを確立できたのもゆうのおかげじゃないか。」

 

 

 

 ペリーヌはあの勇が坂本とガリア救援に向かい、あまつさえ坂本が背後を任せたという事実に衝撃を受けた。自分は補助員としか考えていなかったあの男性ウィッチが、と考えると居たたまれなくなった。

 

 

 

 「ゆうのおかげで少佐の行動の余波が軽減されてるんだ!少しはゆうを労ってくれ!」

 

 「それが言いたかったのか!」

 

 「ち、ちがーう!!」

 

 

 

 ペリーヌはこの場は一旦離れ、先に勇の下へ向かった。どこにいるのか検討もつかなかったが、ちょうどサーシャが歩いていたため、恐る恐る話かける。

 

 

 

 「あ、あの赤松中尉がどこかご存じない?」

 

 「あ、あの…庭に…」

 

 「あー!!」

 

 

 

 サーニャが言いかけたところで、エイラが大声を上げ走り込んできたことで中断してしまう。

 

 

 

 「な、なんですの?!」

 

 「やい、つんつんメガネ!サーニャに一体何したんだ!」

 

 「エイラ、私なにも…」

 

 「サーニャ痛くなかったか?で、何の用だ!」

 

 

 

 頭が痛くなりながらも、もう一度勇の場所を尋ねた。すると、無言で中庭の方を指差し、舌を出しながらサーニャとともに消えてしまった。わずかにイライラしながらも、中庭に向かうとたしかに勇がいた。なにやら座り込んで何かをしている様子だ。恐る恐る近づくと、勇のしていることに気づく。

 

 

 

 「あ、あなた…」

 

 「あっ!あの、ペリーヌ少尉!?」

 

 

 

 勇は急に現れたペリーヌに驚きながらも、背後に作業していたものを隠そうとする。隠しきれない大きさのそれはペリーヌを困惑させる。

 

 

 

 「あなたそれ…」

 

 「い、いえ…その別に嫌がらせではないのです。」

 

 

 

 なにか怒られるのではとばつの悪そうな顔をしているところが可笑しく、ペリーヌは笑ってしまう。久しぶりに笑った気がして、ペリーヌが笑ったことでさらにおどおどする勇の様子が可笑しくて笑いが止まらなかった。一人困惑する勇の足元には、前回とは違い、庭一面の花が咲き誇っていた。

 

 次に隊員となるべくして、基地に来たのは二人のウィッチだった。バイクで高らかに登場し、派手に着地する二人の姿はまさにお転婆。その凹凸コンビの名は、リベリオン合州国のシャーロット・イェーガー中尉(次期大尉)とロマーニャ公国のフランチェスカ・ルッキーニ少尉だった。

 

 

 

 「よっと!私はリベリオン合州国陸軍シャーロット・イェーガー中尉だ!よろしく!」

 

 「私はね!ロマーニャ公国のぉ~ルッキーニだよ!」

 

 

 

 個性派の登場とあまりの元気を目の当たりにし、隊員たちは少し引いていた。そして、案の定基地の案内は勇に一任された。

 

 

 

 「ここがシャーロット中尉とルッキーニ少尉の…」

 

 「いやっふぅ~!」ドサッ!

 

 「ひゃっはー!」バフン!

 

 

 部屋に案内してそうそうベッドにダイブし、説明をする前に腹が減ったと喚きだした。見かねたミーナが街まで車を出し、勇に二人を任せた。食糧を購入すべく、車を走らせたまでは良かったがここで予期せぬ事態が勇を襲う。規則正しく、かつ丁寧に運転する勇に痺れを切らし、突如シャーリーがハンドルを握り始める。

 

 

 

 「もう見てらんねぇ!ちょっと貸してくれ!」

 

 「シャーロット中尉!?ちょっと運転中です!止めて下さい!!」

 

 「おおぅ~いっけぇーシャーリー!」

 

 

 必死に抵抗する勇を横目にルッキーニは盛り上がり、混沌を呈していた。上官命令を口にしたシャーリーにやむなく運転を譲るも、シャーリーの運転はスピード重視のスピードアタック。未舗装の道を突っ走り、でこぼこ道もなんのそのと爆走で走りまくった。それでもなお収まらない二人の興奮に当てられ、勇はシャーリーに肩を組まれて笑い合う。これを人はスピードハイと言うのだろうか。

 

 

 

 「あははははは!!」

 

 「ひゃーい!!」

 

 「はははははははは!!」

 

 

 

 猛スピードの運転が終わり、街に着くとさっそく食糧を買い込み、シャーリーたちの道草に付き合うころには打ち解けた勇は、帰り道の爆走でも最早動じず、世間話をする余裕すらあった。

 

 

 

 「シャーロット中尉はスピード狂というやつですね。」

 

 「シャーロットなんて堅苦しいのいいよ。シャーリーで!」

 

 「私も~」

 

 

 

 互いに名前で呼び合う仲になり、会話も弾んで来た。シャーリーとルッキーニは勇に興味が尽きず次から次へと質問していった。

 

 

 

 「男性でウィッチってウィザードって言うのか?」

 

 「使い魔は?」

 

 「普段なにしてるんだ?」

 

 「好きな食べ物は?」

 

 

 

 爆走の運転の中、大きな声とテンションで質問に答え続け、基地に着く頃には喉が枯れかけていた勇を見て、仲間たちは買い物は今後、勇に任せることを暗黙の了解としていた。この二人の存在は、勇をして楽しい存在と言えた。特に、勇はルッキーニのお気に入りで、珍しい虫やいい寝床があれば勇を呼び、かくれんぼなど暇潰しに勇を連れ出し、それまで勇を頼っていたミーナに叱られ、バルクホルンに至っては八つ当たりをするためシャーリーと険悪な仲になっていってしまったのを勇は微笑ましく見ていた。そして、この隊員たちの戦果は瞬く間に欧州全土に知れ渡り、501はエース揃いのエリート集団と噂され、その実績の裏には必ず勇がいた。密かにミーナ宛に勇を引き抜く工作が行われたが、頑なにミーナ、バルクホルン、坂本がその悉くを握りつぶしていた。そこまで勇は、この501になくてはならない存在になりつつあった。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?501統合戦闘航空団の結成をテーマについにこの物語でも勇が活躍していきます!次回は、勇のカッコイイところをお見せできるかも!では!
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