ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さま明けましておめでとうございます。2022年になりましたが、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

さて今回の話は様々なことが絡み合う話にしてしまったため難解なところがあると思いますが、私も頑張って回収していこうと思います。


籠の中の翼 第四話

久しぶりの智子との再会に勇は驚きつつ、まずは言わなければならないことを伝えようとする。

 

 

 

「智子大尉!俺、あなたに謝らなければならないことがあるんです!」

 

 

 

智子は何について言おうとしているのか既に分かっているようだった。勇はこれまでに自分に降りかかった出来事を自分が自分たらしめる要素の一つだと考えていた。しかし、その要素が自分を構成するものだったとしても人に当たっていい正当性にはなり得ない。そのことをよく学んだ勇は過去との区切りをつけるため智子に向き直る。当時の頃の智子とはまたもう少し成長した姿が勇の目を見据えて言葉を待っている。

 

 

 

「あの時、智子大尉や他の仲間の方たちの言葉を聞こうとしなくて、すみませんでした」

「・・・よくできました」

 

 

 

激高されても仕方ないことをしたはずの勇は今しがた優しく頭を撫でられてる現状に戸惑っていた。しかし、頭を撫でられることの懐かしさはどことなく悪い気はしなかった。勇は智子をもう一度見据えるが何を話していいか分からなかった。あたふたしていると智子が手を引く。

 

 

 

「ユウ、あなた扶桑に帰ってきたばかりでしょう?せっかくだからご飯食べましょ!」

 

 

 

 

こうして勇は智子の赴くままに連れ回された。喫茶店での初めてのアイスクリームや流行りの曲など、おおよそ勇がこれまで経験してこなかった今に触れたのだった。智子は一頻り紹介し終えたのか、満足げに休憩のお茶を飲んでいた。

 

 

 

「あの智子大尉、俺はその・・・」

「その大尉付けるの止めてくれない?私たち今は普通の時間を過ごしている一般人なのよ?」

「じゃあ、その・・・穴吹さん?」

「わざとやってんの?」

 

 

 

智子の目力に押され観念して名前を呼んでみる。なんで自分にこんなことをさせようとしているのかわからなかったが、智子には逆らえないと思った。

 

 

 

「智子・・・さん」

「・・・まあいいわ。合格にしてあげる」

「はあ・・・で、なんで俺にこんなことをしてくれるので?」

 

 

 

この質問には智子は顔を逸らして空を見上げるようにしてはぐらかす。勇もつられて空を見上げるととてもいい天気だった。そう、とてもいい天気だったのである。そう思うと急に胸が苦しいような騒がしい気持ちに駆られた。

 

 

 

 

「あの、俺、普段こんなふうに空を眺めたことが無くてですね。あと、今日みたいにおいしい食べ物だったり、気持ちのいい曲を聞いたり、そういう‘普通’をやってこなかったんです。だから、今日はとても楽しくて・・・だから・・・」

 

 

 

 

最後の一言はどうしても智子には言えなかった。しかし、智子はその最後の言葉を分かっていたようでため息をつくと勇の手の上に自分の手を重ねる。

 

 

 

「分かってるわよ・・・ちょっと食後の運動してみない?」

 

 

 

 

そう言うとまた勇の手を引いてどこかに連れ立ってしまった。少し歩くとそこは試験飛行場だった。何をしようとしているのかと勇は必死に考えていると、中から見覚えのある人物が出てきた。

 

 

 

「やあ智子・・・と、君は確か海軍の」

「はっ!?お久しぶりです!黒江少佐!?」

 

 

 

 

目の前にいる人物は勇が赤松貞明らと出会った最初の日に、ウィッチを連れてくると言う無理難題に付き合ってもらった人物であり、勇としては当時の醜態を知られる人物として顔を合わせたくはない人だった。

 

 

 

「なに?綾香知り合いなの?」

「ああ、彼に昔アプローチされてな」

「なんですって!?」

 

 

 

黒江の含みのある言い方に勇は頭を抱える。なにやら怒り心頭の智子を横に勇は当時のことを詫びる。

 

 

 

「あの時は突然お呼び立てしてしまい申し訳ありませんでした」

「なに、気にするな。それにしてもなんだって君がここに?」

「私が連れてきたの。ねえ綾香、ユウにテストパイロットしてもらえば?」

 

 

 

勇の知らない間に話が進められているようで、勇はまったく要領を得なかったが、どうやら新しいユニットの性能試験をするようだった。

 

 

 

「実はこのユニットは陸海軍協同開発の機体でな。本当は坂本がテストパイロットをするはずだったんだが、急遽欧州に向かってしまってな。だからぜひ君からも意見を聞きたい」

「俺なんかで良ければ・・・」

 

 

 

陸海軍協同開発の機体なんてものは初めて聞いたが、勇で試験飛行が務まるのならやらない手はなかった。それに勇は今とても空を飛びたい気分だったのである。

 

 

 

「赤松勇大尉、出る!」

 

 

 

勇は黒江に言われた通りの各種試験飛行を行い、速度試験や旋回性能、エンジン出力など様々な項目を確認していく。しかし、お世辞にも零戦を乗り慣れた勇からすれば鈍重な動きに頑丈な機体設計は違和感しかなかった。試験を終え、地上に戻ると黒江と意見を交換し合った。

 

 

 

「ご苦労、どうだった?」

「うーん、やはり魔導インジケータの材質が・・・エンジンの供給形態が・・・フラップの操作軸の強度が・・・」

 

 

 

専門用語だらけの世界だったが、黒江も納得したようにメモに残しながら議論を進めていく。カタログスペックを見るに、最高速度は780キロ、格闘性能や一撃離脱にも対応できる万能ユニットとなっていた。しかし、まだまだ改善の余地があり、完成は先のように思われた。一頻り黒江と話すと暇そうにしていた智子が終わったのを見越して話しかけに来た。

 

 

 

「どお?気持ちよかったんじゃない?」

「ああ、試験飛行とは言えやっぱり空は気持ちよかったよ」

 

 

 

素直な感想を言った所で勇は気づいてしまう。もしかしたら智子は自分の感じていた焦燥感に気づいていたのではないかと。しかし、その上で自分に優しく接し、いろいろなところに連れまわしたのにはどういった意図があるのだろうと智子の顔を見ていた。

 

 

 

「どうしたのよ、そんなに見つめて・・・」

「あ、お構いなく」

「・・・構うわよ!」

 

 

 

バシッと背中を叩かれて勇は咽ながらも智子に本心を尋ねてみることにした。

 

 

 

「じゃあ聞きますが、どうして俺をここに?」

「・・・聞いちゃうんだ」

「はい。昔、智子さんには酷いことをしたのは自分なのに、どうして好意を寄せてくれるのか、分からないんです」

「そこからなの・・・」

 

 

 

智子は意気消沈した様子で、勇は自分の質問がおかしかったかと困惑するありさまだった。智子は自分のマフラーで口元を隠してなにやらぶつぶつと呟いているところで、黒江からお呼びがかかった。

 

 

 

「すまないな、話の途中で」

「いえ、ちょうどよかったです」

「そうなのか。まあいい、聞きたかったのは智子とはどういう仲なんだということだ」

 

 

 

黒江はなんと話のフォローに勇を呼んだらしく、黒江の友好的な態度に好感を抱いた。

 

 

 

 

「どういう仲なのかと言われましても・・・昔、強く当たってしまって、俺としては頭が上がらない人なんですが・・・」

「そうだったのか?てっきり智子とはだいぶ進んでいるのかと思ったぞ」

「へ?」

 

 

 

黒江の素っ頓狂な話しに勇は首を傾げる。なんでも黒江によると、智子は黒江と話す機会がある度に勇のことを話していたらしい。そんなことも露ほども知らなかった勇はどうしてそうなったのか知りたくなった。

 

 

 

「要するにだ、智子は君にホの字ということだ」

「・・・いや、どうしてですか」

「智子は素直じゃないからな。そこのとこは私も知らないんだ。でも、見てれば分かるよ。きっと智子は君を守ってあげたいんだ」

 

 

 

守ってあげる、という言葉に勇は智子の方に振り返る。顔を真っ赤にして待ちぼうけている少女は確かに自分に恋をしているかもしれない。でも守ってあげると言うのは一体どういうことなのか勇にはますます持って分からなくなっていた。

 

 

 

「まあ、しっかりと見てあげることだ。君みたいな綺麗な顔して硬派な感じ、私の好みではあるが君といると心配で仕方なさそうだ。男ならせめて話くらい聞いてあげることだな」

 

 

 

 

黒江の好みに敵ったのは世の男性からしたら垂涎物なのだろうが、これまで異性として人は見たことがあっても恋人としての対象の目は持ち合わせたことがなかった。それは勇が常に死と隣り合わせの戦場に身を置く軍人だからであり、そんな暇がなかったからである。勇はここでピンとくるものがあった。

 

 

 

「そうか『暇』か!」

「な、なんだ?!」

「黒江少佐、ありがとうございます!」

「あ、ああ?」

 

 

 

黒江の下を去ると、勇は待ちくたびれた様子の智子に近寄る。そして、今度は勇が智子の手を取り目を見て話す。

 

 

 

 

「智子、普通を見せてくれてありがとう。暇を感じさせてくれてありがとう!守ろうとしてくれてありがとう!でも、俺はウィッチなんだ。ウィッチは空にいないとダメなんだ。だから、智子の今の気持には応えられない」

 

 

 

 

一気に言い切ってしまうと、智子は驚いたように目を見開いたかと思うと、その大きな瞳から大粒の涙が溢れてきた。

 

 

 

「なんで・・・気づいちゃうのよ!ユウは十分働いたじゃない!これ以上戦ったら本当に戻ってこれなくなっちゃうかもって思ったら、私・・・ユウには笑っていてほしい。なのに、あんたは今日私がどこに連れて行っても楽しそうにするのに、心はどこか遠くにあるみたいで・・・私のこの想いは本物なのに、独り占めしたらダメなの?私はユウ、あなたが好きなの!」

 

 

 

やはり智子は勇の置かれている状況に気づいているようだった。また、勇自身既に壊れていることにも気づいてしまっていた。壊れるとは、普通の生活を普通と思えないことである。今日勇が過ごした日常は勇の中の非日常であり、違和感でしかない。淡水魚が海水では生きられないのと同じように生きている環境が違い過ぎるのだ。智子の行おうとしていたことは勇がウィッチを普通の少女に戻したいと思っていたことの裏返しだったのだ。確かな違い、智子の誤算は普通のウィッチと違い、勇は既に手遅れだと言うことだけだった。

 

 

 

「ありがとう。初めて俺を好きと言ってくれて。俺を人間として見ようとしてくれて。でも独り占めは許してはくれなそうなんだ」

 

 

 

そう智子を慰めるように優しく説明すると、智子は勇の胸に飛び込んで涙ぐむ。勇は智子を抱きしめるように手を出そうとして止めた。その空中を迷う手は行き場を求めるように智子の後ろ髪を撫でる。智子もそれを受け入れるように勇の胸を借りて温かい嗚咽を勇の胸に投げかけていた。

 

 

 

「智子、俺は戦場に戻るよ。世界が待ってるんだ。俺なんかの力を待ってるんだよ」

「分かってる・・・分かってるから・・・じゃあ、これだけは忘れないで。私はここであなたを待っているんだってことを。あなたを好きでいるんだってことを」

「ああ・・・明日を、生きる意味をくれてありがとう」

 

 

 

勇はこの日のことを決して忘れないでいようと決意した。同時に人としての行為の温かさに触れ、嬉しくもなった。まだまだこの世は捨てたもんじゃないと思える理由を見出したこの帰国は勇の宝物になったのは間違のいない事実だった。

この日を境に勇の体調は回復したとみなされ、欧州行が決定した。派遣地は第506統合戦闘航空団セダン基地となった。これは勇の身分を欲する世界各国の思惑から貴族ウィッチのみで構成された統合戦闘航空団への派遣であり、勇と扶桑海軍はこれを固辞するための所謂便宜上の建前を果たすためのものであった。また、同時期に宮藤の欧州留学も並行して行われることとなったが、勇は海上からではなく空路での別行動となった。出立当日は横須賀からではなく厚木飛行場からの世間の目から離れたところからだった。

 

 

 

 

「赤松大尉、いざとなったらよろしく頼むよ」

「はっ!山本長官との同席、光栄に思います。空路はお任せください。そして、長官の隣いる方は?」

 

 

 

山本一二三海軍大将とその副官が搭乗する輸送機に勇が同乗する形となり、緊張が強いられる旅路になることは明らかだった。また、飛行場には見送りの士官や軍関係者が多く見受けられ、おおよそ陸軍の無茶な横やりがあったことを伺わせた。

 

 

 

 

「ああ、彼は陸軍から要請されていた赤松大尉の陸海軍協同管理の一環で派遣されてきた、陸軍情報部の小野里少尉だ。彼は明野学校出身でね、野戦、特にゲリラ活動の専門家だ。君とは協力関係を築くため君の周囲に常にいることになる。困ったらいつでも小野里少尉を呼びたまえ」

 

 

 

 

山本が紹介し終えると、小野里は無言で勇に敬礼してくる。山本が肩をすくめて辟易している姿に副官が申し訳なさそうにしている中、外の景色に見覚えのあるような風貌が勇の目には映っていた。

 

 

 

 

「あれは・・・」

「では、出発します!」

 

 

 

エンジン音にかき消され、一瞬視界に映り込んだ陸軍の将校はもう見えなくなってしまっていた。その将校の軍帽に隠された嫌な笑みをも忘れて。

空路では山本直々に今後の勇の進路についてこんこんと説明される注意事項の日々が続き、勇も辟易している頃、ようやく第一目標であるブリタニアに到着した。ここでは山本と勇は一旦ブリタニアで降り、新しいユニットとして普段勇が使用していた零式艦上戦闘脚二一型から零式艦上戦闘脚五二型への転換が成され、その受領が行われていた。欧州に来てから使用していたもはや旧友とも言える二一型との別れには感傷があったが、新たなユニットに興奮もしていた。しかし、山本は不満げに勇に謝罪をする。

 

 

 

 

「君ともあろう者が最新式の紫電を使わせてあげられなくて申し訳ない」

「いえ!新しいユニットを頂けただけで私は十分です!」

「そうは言ってもな・・・他のウィッチは軒並み紫電改やその改良型に転換済みなのに比べれば、君の処遇はまだまだと言うものだよ。まだ君を恐れている軍人は多いということだ」

 

 

 

勇の処遇が一向に改善されない理由として、勇の絶対的な功績と健在な実力が挙げられた。これらは扶桑の陸海軍共に勇のこれまでに打ち立てた功績や実力に尾ひれがついたものが風評されていることもあり、勇に対して絶対的な恐怖がその戦力環境の低下を招いていた。これは海軍長官である山本をしても覆せないほどの恐怖であり、事実、扶桑に滞在していた際も今になれば小野里少尉だと分かるのだが、常に監視の目を感じていた勇なら十分に理解できることだった。

 

 

 

 

「では、私は一時ブリタニアで連合軍との会議があるから一旦君とは別行動になるが、宮藤芳佳軍医少尉もヘルウェティア医学校に留学をする予定のため現地でまた会うとしよう。それまで君は506部隊で広報活動に努めよ」

「了解しました」

「くれぐれも問題は起こすなよ?小野里少尉も勝手に付いていくから心配はいらんよ」

 

 

 

 

小野里は無言で頷き、山本と別れ、勇は一人ガリアのセダンを目指した。勇はふと506部隊について考えてみた。隊長はロザリー・ド・エムリコート・グリュンネ少佐であり、彼女はベルギガ出身でありながらブリタニア空軍で身を立て、遠縁ながらブリタニア王室の王位継承権を持つ貴族である。ヒスパニア戦役からの古強者でありながら、その貴族の義務を果たす淑女としての印象が強い。勇とこの基地の関係は以外にも古くからの縁がある。実は勇を取り込もうと各国が画策する前からカールスラント皇帝のフリードリヒ三世からカールスラント撤退戦の功労者としてカールスラント名誉少尉として当時表彰者の候補に挙がったことがあったのだ。その縁にかこつけてカールスラント名誉貴族の地位から始まり、ブリタニア、ガリアで貴族位が打診されていた。そのためグリュンネ少佐から直々に506へ招かれていた。勇は貴族と言う高貴な生まれでは決してないため、今回の勇の各国の部隊訪問とはまた違った訪問ではあるが気が進まない招待であった。

 

 

 

 

「こちら扶桑海軍、赤松勇大尉。セダン基地応答願います」

『こちら506セダン基地。赤松大尉、お待ちしておりました』

 

 

 

 

丁寧な物腰と落ち着いた口調から分かる品の良さが勇の気分をさらに下げさせる。それもそのはずで、勇とグリュンネは旧知の中である。既にグリュンネの表情が目に浮かぶようであった。

 

 

 

 

「お出迎え感謝します。お久しぶりです、ロザリー少佐」

「遠路ご苦労様です、勇大尉」

 

 

 

 

勇とグリュンネとは下の名前で呼び合う仲で、ある程度には気を許しているのだが、勇はグリュンネの顔色を窺う。するとやはりと言うか取り繕ってはいるが、よく知る者からすればすこぶる悪いのは明白だった。基地の中に案内され、席に着くとグリュンネ自ら紅茶を淹れる所で相変わらず隊長という職に就きながらも揶揄われやすい性格に変わりはないと苦笑いすらした。グリュンネもそんな様子を汲み取ったのか、勇の前に紅茶を置くと元気の欠けた笑みを向けてくる。互いに紅茶を一啜りすると、カップが置かれる音が部屋に木霊する。

 

 

 

 

「さて、まずは勇大尉の体調の回復を祝わせてくださるかしら。もう体調は万全かしら?」

「はい、残念ながら戦場に戻れる程度には」

「あら、残念だなんて。いつから厭戦気分を口にするようになったのかしら」

「これも日頃の教育の賜物でして、そう思われるのでしたらさぞかし上官が良くなかったのでしょうね」

 

 

 

 

一見犬猿の仲のような会話だが、これも勇とグリュンネならではの会話術だった。実は勇はグリュンネの顔色から506における立場上の問題が生じていると察していたのだった。つまり先ほど交わした会話の内容も表面上取り繕ったもので、内容がまったく異なるものになっていた。訳すと以下のような会話になっている。

 

 

 

 

『勇大尉の今の現状は?』

『戦争の参加は認められたという程度です』

『それはどの程度の規模の含意なの?』

『最上位の存在からのお達しとだけ』

 

 

 

 

回りくどい会話を強いられるほどに506という部隊も政治色の濃厚な部隊であり、その運営は各国の戦後を見据えた勢力図争いの種となり果てているほどだ。その意味でもここで勇があからさまに506への加入を拒絶してしまうと、聞き耳を立てている上の偉い人たちの面子を盛大に潰してしまうことになるのである。そうなると勇への今後の政治的圧力に加え、506のグリュンネの立場すら危うくしてしまいかねないため慎重な会話が必要となっていた。

 

 

 

 

「最近では900機の撃墜を果たして各国の覚えもよろしいようね(過度な戦果は困ります)」

「過分な評価を頂いておりまして、銃後の皆様の献身に頭が下がる思いです(ごめんなさい)」

「謙遜なさらずとも勇大尉の評価は私のところまで轟いていますよ(私に対して各国から圧力がありました)」

「今後は分相応を弁えて世界の平和に献身する次第です(身を引いて目立たないよう努力します)」

 

 

 

 

高度な話し合いに疲れが見えてきたころ、扉が開き506の戦闘隊長であるハイリンーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐が入室してきたことにより終わりを迎える。

 

 

 

 

「隊長、お疲れ様じゃ。もう盗聴はされておらん」

「はあ・・・ありがとう、ハイリーンケさん」

「助かった・・・」

 

 

 

 

ウィトゲンシュタインの通信魔法の応用により、盗聴の回線を割り出し、勇とグリュンネの会話に興味を失った相手側の盗聴回線の切断により膨大な努力の会話は終わりを迎えることができた。勇は肩の力を抜いて天井を向いているとグリュンネは胃薬に手をかけているところだった。

 

 

 

 

「それにしてもあなたを欲する勢力が最近は憚らないようになってきて、今回もこんな面倒なことになってしまったわ」

「そこまで深刻なのですか?」

「ええ、私がもしあなたを506に加入させればブリタニアから506及び私の今後が確約されるほどには」

「それは周り回ってブリタニアの国益になるんですね」

 

 

 

もちろんブリタニアのやろうとしていることは各国も見抜いており、ガリアやカールスラントあたりが盗聴を仕込んでいることは明白だった。勇は自分の各国に与える印象がそこまで壮大なものとは自覚できず、困惑するばかりだった。

 

 

 

「それにしてもどうしてそこまで自分を欲するかが理解できませんね。どうせあと1,2年もすれば私は上がりです。戦後なんか想像できない現状、そこまで躍起になる必要があるんでしょうか?」

「おぬしといい扶桑人は相変わらず抜けておるようじゃな」

 

 

 

 

ウィトゲンシュタインがツンツンとした態度で勇に話しかけてくる。ウィトゲンシュタインとは初対面だがお姫様らしい佇まいと特徴的な語尾がそれを強調していた。

 

 

 

 

「こちらにも扶桑のウィッチで黒田という口やかましい中尉がおるが、おぬしと同じで世情には疎いようだから忠告しておく。今、ネウロイに対して決定的な一撃を、それこそ終戦に繋がる一撃を加えることができる戦力を保持した、またはその功績を成し遂げた国が戦後のイニシアティブを握るのじゃ。おぬしを扶桑だけの所有物にするわけがあるまいて」

「まったく、ヴィルケ中佐の苦労が伺えるわ・・・」

 

 

 

 

二人が揃って頭を抱えている現状を目の当たりにして、勇は思ったよりも自分を巡る世界の動きが活発であることを再認識しなければならないと思わせた。それにしてもミーナとグリュンネとの関係が気になった勇は率直に尋ねてみる。

 

 

 

 

「ロザリー少佐、ミーナと面識がお有りでしたか?」

「いえ、面識はないのだけれど噂はかねがね。あなたを先の決戦の後擁護した第一人者ですもの。それにあなたもヴィルケ中佐とは気軽にファーストネームで呼び合うようだし」

 

 

 

自分が今しがたミーナを呼び捨てで言ってしまったことを思いだし、口元を隠す。それにしても自分を擁護してくれたのがミーナだったとは知らなかった。自分がミーナにしでかしたことを考えると、とても擁護してもらえる義理はないのだが、やはりミーナは心の読めないやり手の様だったと勇は反省した。

 

 

 

「いえ、失礼しました。上官である者を呼び捨てとは、反省します」

「仲がいいことはいいことだわ。あなたには一人でも多くの理解者が必要だもの」

「まあそうじゃな。確認じゃが、本当におぬしは506に入る気はないんじゃな?」

 

 

 

ウィトゲンシュタインは最後の確認とばかりに勇に詰め寄るが、勇はきっぱりと答えを繰り出す。

 

 

 

 

「はい、私はしがらみに囚われず世界平和に、ネウロイを倒すことに専念したいと思います。だから、506には入れません」

「そうか・・・506に入ればまた違った未来も待っておると思うのじゃがな」

 

 

 

 

ウィトゲンシュタインなりに心配してくれていることが分かったが、勇はそれを受け止めつつ持論を展開する。それは予てより勇がここ506部隊を訪れる目的でもあった。

 

 

 

 

「私はこの506部隊の体制が嫌いです」

 

 

 

この言葉にウィトゲンシュタインは顔色を暗くさせる。面と向かって自分が所属する部隊を嫌いと言われたら嫌な顔をしないウィッチはいないだろう。しかし、グリュンネは真剣な面持ちで勇の話の先を促す。

 

 

 

 

「大儀名分は国の今後の未来を明るくする意味では有効でしょう。ですがそれが活用されているとは思えません」

「続けてちょうだい」

「はい、貴族という称号は国に所属する権威に取って代わられるお飾りにすぎません。あなたがたが活躍すればするほどだれかが憎いと思うのです。それは個人かもしれませんし、国規模のものかもしれません。人の意思とは難解で、それでいて無限大です。私はその事実をこの戦争においてこの目で見てきました」

 

 

 

グリュンネは顎に手をかけて単語一つ一つを咀嚼するように頷いている。対してウィトゲンシュタインは貴族の務めという単語の一括りでしか勇の話を捉えられていないのか、勇の話を静観していた。

 

 

 

 

「あなたともあろう人が、人やウィッチの力に左右されて来たというの?あなた自身の力によってのみ得た事実ではなく?」

「はい、人とは、人たらしめるものはなにか?ウィトゲンシュタイン少佐は分かりますか?」

「それはもちろん『誇り』じゃ!貴族と言う誇りがわらわをわらわたらしめておる!それは誰にも取って代わることのできないわらわたちだけの務めだからじゃ!」

 

 

 

ウィトゲンシュタインの意気揚々とした回答にグリュンネは驚いたようにかつ懐疑的な目で事実を捉えようとしていた。勇はそんな二人の対極的な姿を見て話を戻す。

 

 

 

 

「私は違うと思う」

「なぜじゃ?!」

「『誇り』で戦いには勝てないからです」

「なんじゃと?」

 

 

 

ウィトゲンシュタインは己の信念を侵害されそうなこの現状に怒りを隠しきれない。ウィトゲンシュタイン自身も既に辿り着いているかもしれない答えに勇はゆっくりと事実のみを突き付ける。

 

 

 

 

「人が人たらしめるものはただ一つだからですよ・・・それは、『意思』です!『誇り』とは誰が保証したものですか?あなたの国ですか?あなたの家ですか?それともあなた自身ですか?」

「ぐぬぬ・・・」

「ハイリーンケさん、一旦落ち着きましょう」

 

 

 

 

ここまで沈黙を保ってきたグリュンネがウィトゲンシュタインを制する。ウィトゲンシュタインは上がった息を整えるように席に深く着席する。グリュンネは溜息を吐きながら、胃痛を抑えながら、許容量が越えそうになった頭を抱えながら回答を持つ人物の前に鎮座する。もはや20歳前の少年がこの事実にたどり着いたこと自体が驚愕の事実だった。早熟とはよく言った人物を前に、グリュンネは名誉隊長職というものにも噛みついてきそうな強烈な批判をぶってくる勇が狂気そのものに見えた。

 

 

 

 

「つまりあなたは、506を解散しろと言うの?」

「・・・はい。意思の無き所に変革は訪れません。それに、空に上がれば泥と血と汗に塗れたただのウィッチです。そこになんの違いがあると言うのでしょう。そんな誇り、私が全機叩き墜としてみせましょう」

「痛烈な意見表明ね。とても今の私たち・・・いえ、私たちを祭り上げた人たちには受け入れること等到底不可能よ」

 

 

 

 

飛躍した話にウィトゲンシュタインは狼狽し、項垂れるグリュンネに対して勇は嬉々として確信をもって答える。

 

 

 

 

「イデオロギーなんぞ捨ててしまいなさい。イデオロギーに人が作られてはいけない。人がイデオロギーを作るのだから。506はただの506になればいい。それをできるのはロザリー少佐、あなたではないですか」

「私にはもうそんな力も魔法力も残ってはいません。これからカールスラントを奪還するにしても私一人の力では・・・」

「ベルリンを見てきましたが、確かに一人では無理でしょう。ですが、これは総力戦です。全軍を上げて事に臨めばこんな茶番にもおさらばです」

 

 

 

 

悲嘆にくれるグリュンネだったが、勇が放った常識外の一言に一瞬の沈黙が作られた後、飛び起きるように勇の話に食いつく。

 

 

 

「ちょっと待って!!勇大尉!?あなたもしかしてベルリンに行ったの?!」

「ええ、サントロン基地に寄る前にアフリカの三将軍と賭けをしまして。確かにあそこの戦力は桁違いです」

「桁違いはおぬしの思考じゃろうに・・・」

「本当に、ヴィルケ中佐の気苦労が知れるわ・・・分かりました。斯様な経験者からの証言です。私の方でも上と戦う姿勢は見せましょう」

 

 

 

 

一連の話は今後グリュンネが公式文書として上と掛け合うことが明言され、勇も自分の役割を果たしたため次の目的地に向かうことにした。見送りにはグリュンネとウィトゲンシュタイン、そしてウィトゲンシュタインについてきた黒田邦佳中尉がやってきた。

 

 

 

 

「この後はどこに行くつもりなの?」

「この後は武器等の補給にバストーニュ基地によるつもりです」

「ここ最近はネウロイの活動がないし、あなたなら心配ないとは思うけど一応は用心してね」

 

 

 

 

勇は会釈をして発進すると眼下でウィトゲンシュタインが駆け寄ってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

「おぬしの話、完全に受け入れられるわけではないが!間違いでもないと思う!」

 

 

 

 

そう大声で伝えてくるのを勇は笑顔で返す。なにやら態度を軟化させたウィトゲンシュタインというのがよほど珍しかったのか、黒田がウィトゲンシュタインを揶揄っていた。

 

 

 

 

「あれ~ハイリーンケさんが素直になるなんてどうしちゃったんですか~本当にツンデレなんだから~」

「わらわを変なカテゴリーに分類するな!!!」

 

 

 

案外普通な少女の戯れに勇は少し506の評価を改める。貴族のみの部隊と言えど根は少女なのだと勝手な自分のカテゴライズに自分自身を諭しながらバストーニュ基地に向かう。そういえば宮藤がヘルウェティア医学校にそろそろ着くころだと考えながら旅路を急ぐのだった。しかし、宮藤の折り紙付きの災難との巡り合わせをこの時点で失念していた勇は愚かだとしか言いようがないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回の話では智子さんが急接近してきましたね。私個人としましては黒江さんの方が好みなのですが、智子さんに活躍していただいています。また、作中の小野里陸軍少尉はあの最後の日本兵であられた小野田少尉をモチーフにしております。今後の活躍に期待ですね。
今回506部隊を取り上げましたが、ノーブルウィッチーズの作品もぜひみなさんも見てみてください。ストライクウィッチーズRtoBでも少しだけ登場した彼女たちとの勇の絡みも次の話でご覧いただければと思います。
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