ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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今回の話から勇にとってさらなる激動の時代の幕開けとなります。また、史実の出来事も織り交ぜてあるので比較しながらお読みくださると私の設定がガバガバであることに気づいてしまわれると思います。ではどうぞ!


籠の中の翼 第六話

501を去った勇は数日後、ガリア共和国の軍港があるブレスト軍港の飛行場にいた。ここにはブリタニアで別れた山本が待っていた。本来、ヘルウェティアにて集合予定だったがネウロイの反抗作戦が突発的に起きてしまったため、急遽ガリアのベレストに集合となった。しかし、この集合地点は他の意味でもよい集合地点となっていた。

 

 

 

 

「山本長官、赤松勇大尉ただいま戻りました」

「うむ、よく戻った・・・と言いたいところだが、説明してもらおうか。私はくれぐれも問題は起こすなと言ったはずだが?」

 

 

 

 

山本は勇のネウロイの一大反抗作戦に大々的に関与してしまったことを、バストーニュ基地の記者が撮影した写真から情報を知り得ていた。

 

 

 

 

「この写真を見た時は思わず頭を抱えたよ。これをリベリオンなんぞに送られる前で本当によかった。検閲のために一度ブリタニアに送られてきた写真を現地の指揮官がオッたまげながら見ているところを目撃していなければ、君の名声と恐怖をまたもや世に広めてしまうところだったよ」

 

 

 

 

山本は心底疲れたように情報の拡散を阻止できたことを喜んでいるようであった。対して勇は、自分のせいではないことを責められて文句の一つでも言いたい気分だった。

 

 

 

 

「問題を起こしたのはネウロイでありまして・・・」

「なにか言ったかね?」

「いいえ、なんでもありません!」

「まあいい。君はこれから私の指揮下で働いてもらう。好き勝手はできんよ?」

 

 

 

 

山本は勇を飼い殺すつもりで勇を手元に置くことを明言した。扶桑の頃の言い分と少し違うことから、おそらくブリタニアの会議ではよほど勇の処遇で揉めたことが勇にも伝わった。つまり、勇には時間も世間の我慢もないということだ。

 

 

 

 

「君は最強の戦力だが、矛ではなく盾として使わせてもらおう。ここぞという時に適材適所で君の力を発揮すれば、きっと世間からは恐怖の対象としては見られまい。つまりは殿軍、囮、カモというわけだ。どうだい?君好みだろう?」

 

 

 

 

山本の嫌らしい笑みを見て勇は背筋をゾクゾクさせる。最初に遭った時も感じた、山本のこういった狂気じみた潜在的な威圧感と言うのは、山本の圧倒的な支配力にあると分かってきた。さらに、山本の有能な指揮官ぶりは如何なく発揮される。

 

 

 

 

「もちろん君だけに負わせると、それはそれで厄介なことになりそうなのも今回嫌と言うほどわかった。そこで・・・これまではガリアの防空を担っていた元343空の第二中隊も付ける!君の古巣だ。さぞかし君の輝きを眩ませてくれることだろうよ」

「それって!もしかしてっ?!」

「おう!久しぶりだな!勇!!」

 

 

 

 

振り返るとそこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。かつて勇が戦闘機のパイロットだった頃、戦闘機やパイロットとしてのいろはを叩きこんだ悪友、赤松貞明大尉とその仲間たちが立っていた。彼らはヒスパニアに向かい、勇がサーレマー島に派遣されてから一度も会うことが叶わなかった旧友がそこにはいた。

 

 

 

 

「松さん・・・みんな!」

「よう、勇!大きくなりやがったな!」

「勇くん!大尉昇進おめでとう!」

「勇大尉!お噂はかねがね!」

「久しぶりじゃのう・・・生きておったか!」

 

 

 

 

赤松貞明と羽藤一志、太田敏夫、高塚寅一の四人が勇と久々の邂逅を果たした。勇にとってもはや一番の同郷の旧友と言っていい四人は元気に地に足をつけて屹立している現実に、勇は山本がいることも忘れて駆け寄っていた。

 

 

 

 

「勇、よく生き残った。林や第一中隊は本当に残念だった」

「はい、先日扶桑に帰国してみんなを祖国に戻してきました」

「そうか、やつらも靖国に行けたってもんだ・・・」

 

 

 

 

司令である源田も、大隊長である林も、戦友である藤野たちも周りが全ていなくなった勇だったが、この瞬間ばかりは心強く、そして温かくなった。赤松は相変わらずのがたいで、一層大きくなったような気さえした。

 

 

 

 

「まったく、俺たちゃヒスパニアに着いて早々に501がガリアを開放しちまってよ、すぐにガリアに転戦したんだが司令が逝っちまってからは本当にこき使われたぜ!だが、第二中隊は一名の損失もなく!ガリアではちょっとした有名人部隊になったぞ!」

 

 

 

 

赤松たちの部隊はガリアの防空を担い、その屈指の練度から欧州の部隊からも一目置かれる存在となっており、特に勇の目の前にいる四人は各小隊長であり、全員が叙勲されるほどの古強者である。そんな嬉しい旧友の知らせに勇は熱くなる。山本はやれやれと言った様子で時間の到達を告げ、部隊の運用責任者として統括する。

 

 

 

 

「諸君、感動の再会もいいが今の君たちの任務は、この赤松勇大尉の目隠し役だ。今や、君たちが知る赤松勇大尉はウィッチだ。それも世界屈指の畏れられる存在となった。君たちほどの名声を持つ者たちならばと思っての抜擢だ。しっかり働いてくれたまえ」

「まったく、あの『軍神』山本一二三長官直々の指令だと思っていたら、粋なことしやがる!」

 

 

 

 

今回、赤松貞明ら四人がベレストに集合している理由としては、山本の匿名による召集であり、旧知の仲で組ませる連用効果を狙っての運用を山本が考えたからであった。さらに、山本は現地部隊激励と称して欧州を視察するという名目で動いているため、本来このような個人の裁量で部隊を集めること等あってはなあらないことなのだ。そして、山本のこのような独断専行的な判断がこれまでいくつもの劣勢を救ってきたこともあり、もはや元帥府に列せられることも確実なほどの存在である。そんな存在でもどうにもならない存在が今しがた現れる。

 

 

 

 

「はあ、やはり君は現れるか・・・小野里少尉」

「はっ、ただいま赤松勇大尉と合流いたしました」

「まったく嘘くさい。これまでもずっと赤松大尉を尾行していたくせに」

 

 

 

 

勇は小野里の気配は常に感じていたが、初めて声を聴いた。バストーニュにいるときも506にいるときも遠くから監視するように、あるいは他の兵士に混じるように巧妙に勇に付いてきていた。本当にこの小野里という人物は何者なのだろうと思うが、小野里は無機物顔でその場を微動だにしなかった。存在感があるようで妙に霞んでしまうような謎の存在に不気味さを感じていたが、なにも危害を加えてこないところを見るに安全だと思うことにした。

 

 

 

 

「さて、それでは新たな任地に向かうとしよう。今度はベルギガ王国のアントウェルペンだ」

「人類の一大犯行作戦が遂に行われるのですね!」

 

 

 

 

勇も人類による一大反抗作戦が行われることに興奮を隠せなかった。ベルギガ王国のアントウェルペンは自然の要衝がいくつも存在し、入り組んだ入江は守に易く、攻めるに難い要塞だった。そんな物資集積拠点を中心に、反抗作戦の後詰めを担うことが目的だった。

 

 

 

 

「では我らも向かうとしようか。輸送機に私と乗りたい者はいるかね?」

 

 

 

 

 

山本の人の好い笑顔にほだされ、赤松貞明らは次々に手を挙げて輸送機に乗り込んでいった。しかし、その場で動かずにいる小野里に妙なものを感じ、勇は問いかける。

 

 

 

 

「小野里少尉は乗らないのか?」

「・・・自分は遠慮します」

 

 

 

 

尾行はするくせに勇とは行動を共にすることはないのかと、面倒な奴だと思っていると、小野里の移動手段に疑問が湧いて来る。どうやって航空ウィッチである勇に追従することができるのか気になってきた。

 

 

 

 

「少尉はどうやって来るんだ?」

「・・・海路で。空はごめんです」

 

 

 

 

 

高所恐怖症なのだろうかと変な所で臆病なのだと、ますますこの小野里という少女が分からなくなった。しかし、そんな疑問が湧く中、太田らに早く輸送機に乗るように促される。

 

 

 

 

 

「今行きます!じゃあ、小野里少尉も気を付けるように」

「・・・」

 

 

 

 

 

小野里は最後までぶっきらぼうで仏頂面なのは変わらず、興味を失った勇は輸送機に乗り込む。機内は盛り上がっており、赤松貞明が大風呂敷を広げて、自分の功績を山本に語っていた。懐かしい空気に小野里の冷たい目線を忘れて機は空を飛び始めた。残された小野里は耳元に手を近づけて、空気に溶け込むような色合いの魔導針を発現させる。

 

 

 

 

 

「こちら小野里・・・予定通り、山本長官及び赤松勇大尉が搭乗した輸送機が離陸しました・・・はい、全ては閣下のシナリオ通りに」

 

 

 

 

 

小野里の声は風に流されてどこの誰に届くことなく、不穏な動きは行動を開始する。

一方機内では、およそブエスト軍港からアントウェルペン港まで直線距離500キロの少しの距離で、安全圏内を飛行する。巡航速度がおよそ450km/hの一式陸攻は乗員が7~8名とされているため、勇を含めて既に6人は若干狭い機内に着席していた。また、操縦手と通信員が常駐してはいるが、副操縦手にじゃんけんで負けた太田が文句をぶつくさ言いながら赤松貞明の話と山本の話に勇を交えた話を聞きながら操縦していた。

 

 

 

 

「君たちの機体は雷電に換装されたのか。雷電はどうだい?」

「率直に言わせてもらいますが、いい機体ですよ!だけどもう少し弾があればもっといいのですがね!」

「はははっ!確かに雷電はずんぐりとしている局地戦闘機だからね。その分武装は強力で20mmが四門付いているから、携行弾薬が少なくなるのは問題だね」

「山本長官は話が分かるなあ!!」

 

 

 

 

終始明るく話が続き、次第に興味が勇の戦闘の話に移っていく。

 

 

 

 

 

「勇はなんでも900機越えの撃墜数なんだそうじゃねーか!ずるいぞ!」

「ずるいと言われましても・・・ただ遊撃任務だったというのと、常に最前線にいたから偶々戦闘機会が多かったと言うだけですよ」

「赤松君はそう言うけどねぇ~君の方から危険に飛び込んでいるじゃないか」

「お前のユニット、零戦だろ?よくもまあこんな貧弱な防備で被弾しないもんだなぁ」

 

 

 

 

最近ようやくゼロ戦の初期型から改良型に換装したが、既に零戦は「駿馬ようやく老いる」と言われるほどには時代遅れな機体になりつつあった。また、欧州の戦いでは一撃離脱が主な戦法として確立しており、火力・防御・上昇力共に劣る零戦を使用する者は少なりつつあることも事実であった。勇はそのことも踏まえて今後の展望を語って見せる。

 

 

 

 

「そうですね。もう自分の体の一部のように扱えますが、確かに時代遅れになりつつあるのは感じますね。ですが、今後はジェットの時代が来ると思うんですよ。だから、私もいつかはジェットストライカーで戦ってみたいですね」

「ジェット機か・・・確かにすごいと思うがありゃあ当分研究が必要な代物だぜ?運用全般を考えると武装一つとっても論争の種だろうぜ」

 

 

 

 

赤松貞明の未来展望も確かなもので、格闘戦思想が強く残る扶桑で早くから部隊運用を唱えだした赤松貞明の先見性は的を射たものだった。山本はそれを楽しそうに聞いていた。そして、貞明も勇に負けずに自分の功績を紹介する。

 

 

 

 

 

「ともかくだな!これからは個人の戦功を語れる機会も少なくなるとなりゃあ、今が稼ぎ時ってもんだ!俺なんかネウロイ100機が襲来した時だな・・・」

「また松さんのあれが始まったよ・・・」

「松さん、そんなに敵は来とらんぞ!あれは20機やそこらじゃ」

「うっさい!まあいい!そこで俺はだな、幸運なことにも一人でいたから分が悪いと思われがちな状況でだ!端っこを飛んでる雑魚を一撃の下で撃墜した!」

「いいぞいいぞ!」

 

 

 

 

得意の抑揚をつけた拳を振るって話す様は昔を思い出すようで、勇は懐かしさに頬が緩んでいた。こんなに気が緩んだのはいつぶりだろうかと思うほど、この空気が楽しかった。

 

 

 

 

「雑魚を倒した俺は直ぐには逃げなかった!敵は多勢、俺は単機だ!そこでどうしたか?」

「出ましたっ!敵中突入!」

「その通りっ!俺は敵の中にわざと潜り込み、敵が同士討ちを避けるため攻撃できないという混乱を誘ってもう一機を撃墜した後、華麗に基地に帰還したっていうわけよ!」

「「おおお!!!」」

 

 

 

 

貞明の弁舌が振るわれる中、操縦している目のいい太田が総員に告げる。

 

 

 

 

 

「海上に流氷と思われる物体が接近中。かなりでかい!通信手、照会を頼む」

「おいおい、観光案内を頼んだ覚えはねーぞ?」

 

 

 

 

貞明と共に、勇は外を確認する。貞明ら人間の視力では確認できない距離をウィッチである勇なら確認できるのだが、その能力が勇の目にもたらした光景は、勇を後ずらせるだけの衝撃を与えるものとして十分すぎるものだった。

 

 

 

 

「どうした、勇?」

「・・・あれはまずい・・・」

「勇くんどうしたのかね?ただの流氷なのではないのか?」

 

 

 

 

だれも違和感に気づかないことに苛立ちを隠せない。勇は直ぐに輸送機に格納されているユニットに駆け寄る。その姿に貞明らも行動を開始する。近くの銃座に着くと外周を警戒する。

 

 

 

 

 

「本当に敵なんだな?!」

「はいっ!氷山型のネウロイです!」

「水を嫌うネウロイからすれば信じられない戦法だがね」

 

 

 

 

冷静に敵の特徴を分析する山本だったが、ここでは勘と経験が物を言うのである。勇はユニット装着すると爆弾倉を開かせる。

 

 

 

 

 

「勇!奴はかなりでかい!小火器じゃ通じないぞ!」

「はい分かってます!でもやってみないことには!」

「分かった!俺らもなるべく近くの飛行場に降りる!」

「コールサインは甲一番だ!存分にやってきたまえ!」

 

 

 

 

山本、貞明と簡単な方針を話し合った後、勇は遂に氷山型のネウロイに向かうことにする。爆弾倉からすごい風圧が来るが、もろともせず落下するようにして目標を目指す。まるで航空降下猟兵のような運用だが、今はそのようなことはどうでもよいほどに状況が緊迫していた。勇が近づいてみると、確かに巨大な氷山が不自然に海洋を漂っている。

 

 

 

 

 

「貫通力強化で撃ってみるか」

 

 

 

 

自分の魔法力を貫通力を増すようにイメージして練りこむ。勇の卓越した魔法力操作は最近は神業に近いものがあり、思いのままにコントロールできるほどになっていた。魔法力を糧に貫徹力に特化した弾丸は氷山型のネウロイに着弾するが、氷上で弾が回転してしまいそれほど効果は見られなかった。

 

 

 

 

「じゃあ、今度は衝撃力を増して・・・っ?!」

 

 

 

 

勇が思考を巡らせていると遂にネウロイが氷の中から反撃を仕掛けてきた。勇は対象がネウロイだと確信できたことで、そのことを知らせに通信機を起動させる。

 

 

 

 

「こちら赤松勇大尉、対象はネウロイに間違いありませんでした!現在交戦中!周辺の基地に連絡を・・・?甲一番?どうした応答せよ!」

 

 

 

 

勇の通信に反応しない輸送機に勇はバストーニュでの出来事を思い出す。通信障害を繰り出すネウロイは昨今増えてきており、人類相手に効果的な方法だと分かっているネウロイに憎悪が湧いて来る。

 

 

 

 

「厄介な!これでも喰らえ!」

 

 

 

 

練り上げた衝撃波を増幅するように爆発力を増した術弾は、轟音と衝撃を撒き散らし、氷山型ネウロイに効果的なダメージを与える。氷山の一部が崩れ、中から赤みががった光が漏れてくるようになった。

 

 

 

 

「よしっ!これならいけるぞ!」

 

 

 

 

勇が手段を確立したことに喜ぶ中、ネウロイにダメージが入ったことにより限定的に通信が回復する。

 

 

 

 

 

『赤松大尉!急いで輸送機の防衛に戻ってください!上空から多数のネウロイが!!!』

「なにっ?!」

 

 

 

 

勇は海上付近に降りてきてしまっており、距離を取ったために高度差がある輸送機の方を見上げると、無数の黒点が輸送機に迫っていた。それは裕に100機を越えているような大群だった。悪寒が押し寄せ、氷山型ネウロイのことなど頭の中から消し去り全速力で輸送機に戻る。既に無数のネウロイが輸送機に急降下を仕掛けてきており、輸送機の対空機銃が弾幕を張っていた。しかし、それももはや無意味なほどのネウロイが輸送機に殺到していた。

 

 

 

 

「どこからあんな量のネウロイが?!くそっ!間に合わない!」

 

 

 

 

先ほどまで輸送機の中で零戦の能力について語っていたところだが、さっそく上昇力で弱点を見せられるとは思っていなかった。勇も全力でスピードに魔法力を注ぎ込んでいたが、零戦からは悲鳴に近い限界音が聞こえてくる。そして遂に回避行動を取ろうとしている輸送機に群がるようにネウロイは攻撃を開始した。その瞬間に輸送機の通信機から絶叫が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

『うがああああああ!!脚が!!脚が!!!』

『寅さん!駄目だ!死んじまった!』

 

 

 

 

全方向から攻撃が雨あられと降り注ぎ、既に輸送機は翼端から火を噴いていた。ようやく追いついた勇は輸送機の周辺でシールドを展開し、なるべく多くの攻撃を防いでみたが、多勢に無勢でどうしようもなく数の暴力に嬲られていった。100機ものネウロイは統率もなく一撃離脱を繰り返すだけで、勇は突撃してくるネウロイをとにかく撃ちまくった。

 

 

 

 

「うおおおおおお!!!墜ちろ!墜ちろおおおおおお!!」

 

 

 

 

次々に撃墜していく中、輸送機の防衛で表面積が大きな側面を守っていたことに不運が訪れる。前方からネウロイが回ってきており、コックピットを狙おうとしていた。まずいと思った時、勇がコックピットを見ると、血を流した太田が必死に操縦桿を握る姿が映った。その瞬間、鈍重な一式陸攻は右に一回転を繰り出して寸でのところで全弾回避に成功する。さすがは歴戦かつその名が轟く太田だと思わせる機体操作だったが、それが限界なのは明白だった。

 

 

 

 

「太田さん!不時着してください!」

『勇!俺らのことはいいからぶちかませ!』

 

 

 

 

通信機を介してだと太田には通じなかったが、貞明が通信出た。その一言で勇は決意する。魔法力を弾丸に全力投入する。イメージとして、小さな球状の魔法力をいくつも蓄積させ、その球の中心に向かってさらに小さな球状の魔法力をぶつける感覚を思念した。そのビリヤードのような小さな魔法力の球は次々に連鎖して魔法力の球にぶつかって恐るべきエネルギーを生み出していく。そのエネルギーすべてが機関銃の弾丸を通じて、砲身を勢いよく駆け巡る。発射の反動を抑えることもできずに、勇はグルグルとその場を回転するほどの風圧が発生したことでその威力がとんでもないことに気づく。

 

 

 

 

「やったぞ!」

 

 

 

 

一撃でほとんどのネウロイが消し飛び、未だに火炎球がキノコ雲を形成している。あたりの酸素を燃焼し尽くさんばかりの熱量はネウロイの表面を溶かすほどだった。この攻撃に残ったネウロイは蜘蛛の子を散らすように三々五々に退散していく。勇は砲身がめくれ上がった機関銃を捨てると輸送機に向かう。先ほどの攻撃の影響を少なからず受けたようで、片翼の装甲が剥げ、エンジンの留め具であるカルビウスネジも外れかかっていた。勇が急いで機内を覗くと、その中は血だまりで染まっていた。無駄な思考を捨てて、機体が不時着できるように最善を尽くすべく、コックピットを見る。すると、太田が先ほどの爆撃の衝撃で気を失っているようだった。

 

 

 

 

「太田さん!起きてください!寝ちゃだめです!!はっ!?」

 

 

 

 

よく見ると太田の座席の後ろから手が伸ばされていることに気づいた。それは紛れもない貞明のものだった。貞明は生きているという希望に感謝し、勇は声を掛け続け、翼を持ち上げる。

 

 

 

 

 

「松さん!手を伸ばして!早く!機体を立て直せぇぇぇぇえ!!」

「分かってらぁ!くそ・・・太田、起きろ!!!」

 

 

 

 

貞明の手がなかなか届かず、みるみる高度が落ち、地面がまじかに迫りもう間に合わないと思ったその時、急に勇の持ち上げている翼が動き出す。コックピットではなんと失神していた太田が起きたのだった。

 

 

 

 

「すみません、寝てました・・・」

「不時着しろ、森の上だ」

 

 

 

 

太田が必死に震える手を制して操縦桿を握り、その上から貞明がそれを支える。勇も機体を下から持ち上げるようにするが、高度がもうなく森の木にぶつかりそうになる。勇が限界を感じ、機から離れると瀕死の輸送機はゆっくりと木の上を滑っていく。勇は瀕死の機体、重症の身体でここまで機体を操れる技量に感動すら覚えた。やがて、木々をバキバキとなぎ倒しながら不時着していく。両翼がもげ、あちこちに火災が起こっているが翼内の燃料が全て漏れ出たのか爆発は起きなかった。急いで輸送機の下へ駆け寄ると、力の限りを尽くして歪んだドアをこじ開ける。しかし、中の光景はもう見るまでもなかった。

 

 

 

 

「長官・・・松さん、太田さん?」

 

 

 

 

機内では既に息絶えた高塚と羽藤の姿が確認できた。高塚は頭に、羽藤は胸に大きな風穴があいており即死であったことが伺えた。通信手は脚がもげ、大量の出血により死亡が確認できた。そして、長官である山本はというと。

 

 

 

 

「そんな・・・長官が」

 

 

 

 

山本は静かにその闘志を宿したままの目で亡くなっていた。まるで武人のように刀を握ったままの姿は潔よさすら感じることができた。生存確認が優先と頭を切り替え、コックピットに向かうと機長は上半身が無くなっていたことから戦闘中に亡くなったことが察せられた。そして、驚くべきことに貞明と太田には息があった。

 

 

 

 

「松さん!!太田さん!!」

 

 

 

 

 

急いで機体から二人を担ぎ出すと、ゆっくりと地面に寝かせる。二人とも無傷とはいかず、不時着の衝撃で全身打撲や骨折が見られた。特に太田の症状は酷く、腹部にネウロイの攻撃を受けており瀕死の重傷であることが発覚した。通信が未だに回復しないことに苛立ちながら、勇は直ぐに病院へ連れて行くことを思い立つ。

 

 

 

 

「すぐにでも病院に運ばないと!でも二人は一緒には運べない!どっちを運んだら・・・」

 

 

 

 

 

二人とも勇にとってかけがえのない戦友であり、命を選ぶことは出来ないでいた。しかし、二人の荒い呼吸が勇に決断を迫らせていた。勇は覚悟を決め、比較的症状の軽い貞明を運ぶことにした。

 

 

 

 

「松さん!今から病院へ運びますからね!」

「ううう・・・」

 

 

 

担ぐ際にも身体が痛むのか呻き声を漏らすが、時間が惜しいと勇は急いで近くの建物を探す。ブレストからはおおよそドーバー海峡を抜けてダンケルク辺りを掠めるように飛行していたため、おそらくここはベルギガ王国であろうことは察せられた。飛行しながら建物を探していると、先ほどの勇の放った爆発を聞きつけたのか、あちこちで軍関係者が見られた。勇はそこに着陸することにした。

 

 

 

 

「すみません!急患です!彼を病院へ!」

「あなたはっ!?赤松大尉ではありませんか?!」

「いいから彼を早く!」

「はっ、はいっ!」

 

 

 

 

貞明を兵士に任せると、すぐにとんぼ返りで今度は太田を運ぶために全速力で向かう。勇は一刻も早く向かうために、消耗したはずの魔法力を圧縮してエネルギーに変える。ユニットはすでに悲鳴から絶叫に近い音を出しており、勇よりも早く力尽きそうだったが、それも構わず勇は現場に向かった。未だ煙が漂い、煙臭さが充満する現場を見つけるのは容易で、すぐに駆け付けることができた。

 

 

 

 

「ぜえっ!太田さん!大丈夫ですか?!」

 

 

 

 

太田を担ぎかけた勇に不穏な気配が迫る。勇は刀を抜刀してサッと身を引くと、そこにいたのは小野里だった。こんなにも早くに現場に着いたことに違和感を覚えたが、友軍ならと刀を仕舞い、救援を呼ぶように伝えようとする。

 

 

 

 

「小野里少尉か!こんな有様だ!すぐに救援部隊を・・・」

「いつから私があなたの仲間だと錯覚していた」

 

 

 

 

小野里の冷たい声は、その冷徹なまでの事実を勇に付きつける。その眼差しはまるで氷の様で、目の前に抜き身の刀が鎮座しているようだった。

 

 

 

 

 

「なにを馬鹿なことを言っている!貴様も同じ扶桑人ならこの状況がわかるだろ!」

「自分は命令通りに動くまでだ」

「なら命令だ!手を貸せ!そして救援を・・・」

「お前の命令なんか聞くかぁ!!!」

 

 

 

 

普段大人しかっただけに突然の大声に勇は動きを止める。小野里は少しも姿勢を変えることなく、勇を睨むように殺気を放っている。勇はこの少女がこの状況で何を言っているのかさっぱりわからなかった。ただ、勇に対する強烈な拒絶感を持っているようだった。少しの間が辺りを静かにさせたころ、小野里は急に表情をいつもの無表情なものにしたかと思うと、耳元に手を当てると小さく頷いた。

 

 

 

 

「はい・・・」

「なんだ?!誰と話している!」

「・・・もうその人は無駄ですよ・・・では」

 

 

 

 

 

小野里は踵を返すと森の暗闇に溶け込んで行ってしまった。そして、言われた通り太田の様子を急いで確認すると既に息はなかった。あまりの理不尽、不俱戴天、不幸に拳を振り上げる。その拳はブルブルと震え、爪が手のひらに食い込み過ぎて血が垂れるほど強く握られていた。ただ、その下ろしどころも分からず地面に叩きつける。ドンっという轟音と共に血に濡れた拳が姿を現し、地面は大きく窪んでいた。

 

 

 

 

 

「ちく・・・しょう・・・」

 

 

 

 

小さく、だが強い感情の言葉は空気を切り裂くようだった。勇は涙を流そうとは思わなかった。涙は理性の停止を意味し、今の自分の感情を表すのに涙は不適だと考えたからだった。まさに理性が感情を完璧に支配下に置いた瞬間だった。ほどなくして、救援部隊が勇のところに到着して、辺りは騒然となる。事態はベルギガ王国だけに留まらず、当事国の扶桑、延いてはカールスラントまでもが事件の調査に取り組んだ。事件の記録として、後にこの事件には名前が付けられる。『扶桑海軍甲事件』と。被害は山本一二三海軍大将及び乗員五名が殉死、一名重症と報道され、この扶桑海軍甲事件は世界に衝撃を与えた。その中で二人の人物が場所は異なるが同じ時に祝福を唱える。

 

 

 

 

 

「ああ・・・やっとワシの出番じゃ。赤松勇ぃ・・・お前はワシのものじゃ。ワシがお前をワシのために使ってくれようぞ?クカカ!!さぞ楽しかろう?!!」

 

 

「フフフ・・・本当にあなたは素晴らしい・・・世界を廻す準備はいいですか、赤松勇大尉!私と世界を再編しましょう!!!」

 

 

 

 

 

この二人の狂った笑いは世界を飲み込み、勇を引きずり込まんばかりの力が備わっていた。ただただ強い意志の力によって、勇はねじ曲がった世界の歯車に飲み込まれる激動の時代が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




山本一二三海軍大将は今回で退場なさりますが、ここで一つ山本一二三の名前の由来について紹介したいと思います。なぜ本来の山本五十六ではないのかと言いますと、今回の事件で死んでしまわれる、死(四)を前提とした登場人物のため五六の前の数字の一二三を用いています。ただ、誤解してほしくないのは、話の都合上、盛り上げるために故人の山本五十六海軍大将を弄んだわけではないということです。あくまでこの話はフィクションであり、作者の私自身全ての故人には最大限の敬意を払って書かせていただいていることをご容赦ください。

では次回の話にもご期待くださいませ
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