こんにちは、絶賛現実逃避中の作者です。今回は特攻がメインの話となります。是非いろいろ考えながら見てみてください。ではどうぞ!
最初の特攻の日から数日、その日も特攻が行われていた。既に三組が特攻に出撃し、合計7人が戦死していた。この日の出撃は二人であり、いずれも精鋭の老練なパイロットだった。そんな彼らもベルリンの手前までが徐々に警戒されて来ており、この日も勇の護衛が万全を期して進撃できていた。道中では久々の勇との再会に喜んで手を振ってくれた気のいい人たちだった。しかし、ベルリン市街に入った途端突如として現れるネウロイに勇は全力を挙げることになる。
「あの釣鐘型のネウロイがここの首魁だっ!お願いだから届いてくれ!」
瞬間移動するネウロイは、勇を意に返さず集中的に戦闘機を狙っていた。戦闘機はその腹に爆弾を抱えており、鈍足だった。ハイハイ歩きの幼子を叩き墜とすように無慈悲な攻撃が繰り返される。勇もなんとか攻撃を防ぐも一機が犠牲になる。
「くそっ!零戦じゃ太刀打ちできないぞ!」
瞬間移動は自分が今まで使用していた固有魔法なだけにその対処の困難性も十分に理解していた。しかし、勇は以前使用していたという経験を頼りになんとか食らいつく。戦闘機の花道を作り、遂に首魁の目前まで辿り着いたとき、無数の攻撃が戦闘機を襲う。勇は既に瞬間移動ウィッチだけで手一杯であり、護衛は不可能だった。戦闘機はギリギリ撃墜され今日も戦果らしいものは挙げられなかったことに歯噛みするも、今度は勇に危険が迫る。瞬間移動型ネウロイは最後の目標である勇に的を絞り攻撃してくる。
「ぜえ、ぜえ・・・これでも喰らえ!」
駄目押しに放った大威力の爆発魔法を三連射すると、爆炎に紛れて退散する。その最中、勇に悪寒が最大級の警報音を放つ。咄嗟に避けると、瞬間移動型ネウロイが勇に切りかかってきていた。頬を掠めるほどギリギリで回避、もう一度今度は至近距離で爆発を起こすとまたも消えてしまう。無我夢中で撤退していると、遂に諦めたのか追ってこなくなった。
「はあ、はあ・・・やっと巻いたか。でもあいつ、なんか変だぞ。なんだ、なにか思い出しそうな何かなのに!」
勇の頬に刻まれた切り傷が疼くように勇に何かを知らせてくる。記憶を辿ろうとすると強制的にモヤがかかるような意図的な記憶の欠損に苛立ちばかりが募っていく。考えているうちに基地に着いてしまい、牟田口の罵詈雑言に晒される。
「どうして貴様がいながら戦果が出せんのだ!?何が世界最強のウィッチだ!どいつもこいつも無能ばかりだ!体当たりすればいいだけの簡単な任務もこなせんとは、軍神が聞いてあきれるわ!」
沸々と湧く怒りを必死に抑えていると、ハイドリヒが牟田口に少し離れたところから話しかける。
「閣下、お話したいことがあります」
「うるさいっ!!!」
ビュンと空を切る指揮棒のような厚い棒を予め来ると分かっていたため、ハイドリヒは遠くから話しかけていた。そして、ハイドリヒはニコニコとした顔でおもちゃを披露する。
「遂にあの秘密兵器が全員分揃いました。これで特攻の戦果は確実でしょう」
「なにっ!?あれが来たのか!待ちかねたぞ!すぐ見に行こうぞ!」
先ほどまでの怒りが嘘のように牟田口は小走りで格納庫へと向かう。ハイドリヒが勇を連れ立って案内すると、格納庫には勇の想像を絶する兵器が並んでいた。それは白い塗装に、桜のマークが施された、翼付きの爆弾だった。
「ああああ遂に!遂に実物をこの目で拝めるとは!!!」
頬ずりするように兵器にメロメロの牟田口が称賛するその兵器の名は『桜花』。人間ロケット特攻兵器である。
「最高速度はマッハ1.5。機首前方には1トンの炸薬が盛り込まれた徹甲弾仕様となっています」
「おお素晴らしいぞ!これで一切合切を・・・一切合切を振り切り!無に帰すのだな!」
「はい!閣下のお望みの仕様となっています」
「素晴らしいぞハイドリヒくん!」
興奮を隠しきれないおやじほど寒気のするものはない、そう思いながらも勇はこの兵器の恐ろしさに気づき、身震いしていた。
「こ、これはどうやって飛ばすんだ・・・」
「あん?ハイドリヒくん説明したまえ」
「はい喜んで。これは飛ばすのではなく、人間が中に乗って操縦するのですよ。詳しくは一式陸攻に吊るし、目標が確認でき次第投下・・・あとは搭乗員の腕次第ですが、誘導ジェット爆弾という前代未聞の特攻兵器により我らは勝利を掴むでしょう」
立ち眩みがしてきた勇は、命までを部品にしてしまった『桜花』の悲しい未来を想像する。マッハを体験したこともない者たちが受ける苦痛は想像に難くない。項垂れる勇に優しくハイドリヒが励ましの言葉を送る。
「どうしたと言うのです、赤松勇大尉?これまでと何も変わらないではないですか?方法はどうであれ目的は一緒です」
「そういうことじゃねえんだよ・・・こんな生きたままの人間を入れた棺桶で!どうしてお前らはここまで人間を捨てきれるんだ!」
ハイドリヒは桜花に夢中の牟田口を放っておき、勇の質問に答える。
「ハハハ!本当にあなたは冗談が上手い!では、私を理解してもらうための第一歩をお教えしましょう。赤松勇大尉はここ、ワーテルロー基地がどんな歴史のあるところか知っていますか?」
ハイドリヒはまるで歴史の授業をするように話し始める。お伽噺の中に入ったように語るハイドリヒは当時の人物が憑依したようでもあった。
「あれはナポレオン皇帝が黒海へ大規模遠征を行った時のことです。彼は当時のヨーロッパのほとんどをその手に入れました。戦史に残る圧倒的な才覚が電撃的に彼に味方したのです。しかし、その黒海への遠征ではネウロイに侵攻を阻まれ、遂にはあのナポレオンも失脚させられるまでになった・・・彼の電撃的な進軍速度を持ってしても、ネウロイには敵わなかった。それは彼らが時代と人間と言う概念に捕らわれたパラダイムに囚われていたからだと私は思うのです」
確かにナポレオンはその頭脳とカリスマ性でヨーロッパのほとんどを手中にした天才である。当時としては先進的な戦術に、彼の魅力に後押しされた士気により、当時では考えられない速度での進軍を成し遂げた。だがハイドリヒはそんなナポレオンすら否定して見せる。
「産業革命により動力を得た我々は生き方を二次元から三次元の面から体にそのあり方を変遷させました。つまり時代は航空機です。そしてナポレオンが成し遂げられなかった距離と言う壁を速度で超越し得る現世では、速度が火力なのだ、と気づいたのです」
どこかの国家元首は「早い脚より厚い皮膚」という名言を残していたが、この悪魔は速度が命だと宣う。そして、ハイドリヒは自分の正しさを裏付けようとする。
「しかし、速さは命中精度に欠けるのです。ノイエカールスラントではあるウィッチがジェットや誘導爆弾について研究していましたが、あれでは駄目です。あれでは時代、ネウロイと人類の今大戦には間に合わない。さてどうしたものかと思案していた時です。閣下が画期的なアイディアを提示したのです」
牟田口が提案したのはこの桜花の原案となるものだった。それに魅了されたのがこの悪魔、ハイドリヒだったというわけである。まさに最悪の組み合わせ、虎に翼、鬼に金棒を極限まで最悪に煮詰めて出来上がったのがこの二人だったという巡り合わせに失望する。
「まったく、閣下は無能でありながら最底辺の住人であられる。私のような者には到底思いつかないような発想する金の卵を産む鶏ですよ」
司令官であり、上司のはずの牟田口を鶏、無能、最底辺と罵るハイドリヒに勇は驚いた。常に敬語のハイドリヒは牟田口の良い理解者であり、仲間だと信じて疑わなかった。驚いたように瞬きをしていると、ハイドリヒは面白そうに遂に悪魔の顔を見せてきた。
「私がいつあの馬鹿の手下だと誤解していましたか?心外ですね・・・奴は身代わりとして生かしておいているただの人形に過ぎませんよ?私の新世界にあのような屑はいりません」
はっきりと断言するハイドリヒの心には一体何を思い浮かべているのだろうか。ハイドリヒの理想郷に住む人間の世界が一向に想像できなかった。どこまでも夢の先を掴もうとするハイドリヒは今日も笑っていた。
そして、ついに桜花での特攻作戦が開始されようとしていた。隊員たちは今まで見たこともないその機体の無言の圧力にただただ押し黙って死を受け入れる時間だけを探し求めていた。各々、今日の出撃メンバーにならないことを願いながらその日を過ごし、家族に手紙を書いたり、念入りに自分の戦闘機を整備する者、タバコや酒に手を出す者など様々だった。そんな特攻隊員の姿を端から見ている小野里は、自分があの立場じゃない幸運を噛みしめている自分に疑問が募っていた。
「なぜ彼らは逝くのだろう。なぜ私は生きて行けるのだろう。私と彼らとの違いはなんだろう。人とウィッチかの違い?男と女の違い?誰も彼もあの赤松勇という一人の男と関わったという点で運命がこうも変わってしまうのだろうか。じゃあ、赤松勇はみんなに恨まれていいはずなのに、どうして彼らはみんな笑って逝けるのだろう」
死の淵にただ歩かされている哀れな隊員たちと自分の相違点について必死に探そうとしている自分に驚くことはもうなかった。そんな中、一人の特攻隊員が宿舎を離れて森へと入った。小野里はこっそりとその後を付けてみる。すると、木々の間で立ち止まると懐から何かを取り出した。それは写真だった。
「たか子・・・帰ってやれなくてごめんな。もう一年半もお前と赤ん坊の顔を見ちゃいない。ああ、お前らの顔ももうあまり思い出せないんだ・・・たか子!会いたい!生きてお前の肌の温もりを、お前の飯を食いたい!お前の横顔を見ながら眠りたい!たか子ぉぉぉぉ!!あああああ!!!!」
木々に埋もれて誰にも聞こえないだろうところで、こうして木霊する悲痛な叫びは、先ほどまで笑って過ごしていた者とは思えなかった。小野里はその叫びを聞きながら、死に行く英霊の魂は生きたいと願って憚ることはないのだと、これが彼らの本音であると知ってしまった小野里は漏れ出る何かを必死に抑える。人知れず誰かのためか、もしかしたら本当にただ死んでいるだけかもしれなかったが、彼らは死ぬのだ。死ぬために今日を生きている、生かされているのだ。
「こんなの、おかしいよ・・・」
翌日、出撃割にはあの森で泣いていた兵士の名前があった。その名前を見た瞬間、小野里は勇のところへと向かっていた。既に出撃準備を整えて、時を待っていた勇に騒ぐ心を見透かれることのないように話す。
「おい、今日の特攻からは桜花なんだろ」
「ああ」
「お前なら守れるのか」
「いつだって初撃は相手も混乱する。今日はもしかしたらうまくいくかもしれん」
勇の言葉に少しの希望を抱く。しかし、小野里は本当の気持ちを言いたくて仕方なかった。本当は森で泣いていた彼を救ってほしいとこんなにも願っているのに、勇の前で本音を曝け出すのが怖くて仕方がなかった。すると、勇が目の奥に宿した炎をメラメラと燃やしながら小野里に言った。
「お前、なんのためにここに来たんだ」
「え・・・」
「本当のことを言えよ」
自分ともあろう者が一番知られたくない相手に本心を見透かされた気がして、喉がキュッと締め付けられる。まだ無表情を貫いているはずの自分のどこからこの男は察したのか本当にわからなかった。
「なんのことだ」
「だって・・・お前、泣いてるじゃないか」
小野里は言われたことの意味を理解するのに数秒を要した。泣くことは昔に止めたと思ったから、今自分の頬を流れていく液体が涙だと気づくことができなかった。急いで袖で拭っても、涙は後から後から止めどなく流れてくる。見られたくない相手に見られた。その羞恥心と敗北感がさらに涙を加速させる。
「お前も苦しんでいたんだな」
「うるさい!これは、これは違うっ!」
優しい言葉に遂には膝の力までが抜けてきてしまい、少し気を抜いたら崩れてしまいそうな自分が情けなかった。だが、どうしてもあの兵士の昨日の顔が頭から抜けなかった。
「任せてくれとは言えない。俺も生きて帰るのがやっとの世界だ。でも、彼らのことは俺が全部背負う。彼らの今日は俺が明日へと繋ぎたいんだ」
「傲慢だ・・・お前も最後には逝くんだ。だれがお前のことを覚えてやるものか」
悪態がついて出てしまうが、自分の意図をこうも読み取ってくれる頼もしいこの男に、小野里は縋ってしまう。止めどない涙だけが温かな自分の気持ちを代弁していることは皮肉としか言えなかった。
勇は桜花の出撃隊員四人であることを確認する。残りの隊員が今日の分を合わせて10人であることを考えると大盤振る舞いである。そこまでして人を殺したいのかと怒りを煮やす。だが、今日の特攻からは勇も少し気が変わっていた。それは小野里に頼まれたわけではないが、その涙が語っていたのだ。救ってくれと。
「赤松勇大尉、出るっ!」
道中の敵を掃討し、ベルリンまでの活路を開く。日に日に増していく敵戦力の険しさを、勇は己の全てを持って防いでいく。それはまるで山本が言っていた盾の仕事であり、だがそれでいて食い違う盾の用途に人の業が見え隠れしているようで誇れはしなかった。ただ、自分の盾で誰かの道が切り開けるのならと、そう考えていた。
「桜花投下5分前っ!」
勇は一式陸攻のコックピットに対して五本指を見せる。分かったとばかりに操縦士たちは機体をバンクさせる。この桜花の輸送機のパイロットたちはハイドリヒの子飼いの隊員たちであり、扶桑の機体である一式陸攻の操縦訓練を慣熟させていた。そして、時は訪れる。
「投下っ!!」
輸送機のパイロットがそう言うと、桜花は陸攻から切り離され、自由落下の後に一気に燃料を転化させて進んで行く。その速さは勇に追いつけるものではなく、ベルリンの郊外から投下させるため目標への正確な誘導は無理だった。桜花は物凄いスピードでベルリンの市街に突っ込んで行く。三機の桜花はベルリンの街と共に逝くのだった。
牟田口は勇が帰ってきたことで、鼻息を荒げて報告を待つ。今度からは通信機の類が輸送機にしかないため、正確な戦果は勇の口からしか知ることは出来ないのだ。そんな勇が疲労困憊の状態で帰還する。牟田口は詰め寄り戦果を聞き出す。
「して成果は?!」
「・・・二機がベルリンの大型地上ネウロイの破壊に成功、二機は目標をややずれての至近弾となりました」
牟田口は久々の戦果に湧いていた。それを聞いていたハイドリヒが質問する。
「どうして外したのでしょうか?仮にも精鋭の彼らですよ?」
「・・・あんな音速を突破した状態じゃ、気を失ってもおかしくはないんだよ」
「なるほど」
ハイドリヒは納得がいったとばかりに何かを思案し始める。もはやこの空間には涙を流す者はいない異質な空間だった。そして、この結果に気をよくした牟田口はここぞとばかりに戦力を投入する。その翌日には残り6人の内の5人を向かわせることを決定した。勇は何度も敵の警戒が上がっているため中止を申し入れたが取り付く島もなかった。
「これじゃベルリンに着く前に全滅だぞ!くそがっ!」
勇は悪態を零しながら出撃する。そもそも投下された時点で勇には手が出せず、重量が1トンを超える桜花を積んだ一式陸攻にはかなりの無理があった。飛行はかなり鈍足になり、道中のネウロイ地帯の突破ですら困難になっていた。今日も勇は道中の敵の襲撃に構えていた。すると、勇の目の端で何かが煌めいた。
「早いッ!?」
勇は今日の出撃が予定よりも早く終わったため、憎悪を隠そうともしない牟田口の前に立たされていた。打ち震えながら口を開こうとする哀れな司令官は、今日の戦果に愕然とする。
「全機撃墜・・・輸送の一式陸攻までも全機未帰還じゃと・・・一体ワシは夢でも見ているのか!」
「いえ、道中の敵が特に強化された結果かと」
「っ!貴様のせいじゃ!!!」
机の脇に備えてあった鞭で勇を強く殴りつける。勇はよろけながらも持ち直すと、その額からは赤い血が流れてきていた。
「貴様がいながらなぜこんな結果なのじゃ!戦果は?!ワシの戦果をどこへやったあああああああああ!!」
鞭を乱れ打ちしてくる牟田口の口撃を勇は耐える。目の前のことに囚われている哀れな小男が惨めで仕方がなかった。しかし、こんな男が彼らを死地に追いやった張本人なのだ。自業自得という感情と怒りの感情が交差して無茶苦茶だった。
「道中のネウロイは超高速で接近し、一撃離脱に徹底した戦術でした。それに不規則な挙動をあのスピードで取ってきます。私でなければ撃墜は至難の業です」
「して、何機墜としたのじゃ・・・」
「・・・三機です」
「もうそれを戦果とするしかあるまいて」
勇は今すぐにでも目の前の男を殺してやりたかった。自分が必死で守ろうとした男たちの行動を一つも見ようともせず、挙句の果てに勇の戦果を彼らの物としようとしていることは、彼らに対する侮辱に他ならない。そこにハイドリヒが口を挟む。
「閣下、問題は速度でしょう。一式陸攻では無理がありました。ならば・・・」
「そ、そうか!!あれならば!」
ハイドリヒと牟田口が揃って喜んでいるものとは、又よからぬものがワーテルローに舞い込んでくるのは時間の問題だった。翌日、ワーテルロー基地には三機の怪物が舞い降りる。その巨体は銀色に輝き、鯨ほどもあろうかと言うほどの圧倒的な存在感は何もかもを屈服させるだけの恐怖の塊を運んできた。
「あれは・・・」
「ふふっ、あれが我々の決戦兵器の一つ、リベリオン製設計図を私たちが極秘裏に盗み開発したB-29フライングフォートレス。私はあれを「Moby dick」・・・『白鯨』と呼んでいます」
ハイドリヒが白鯨と呼んだ超大型最新鋭爆撃機は、あの桜花を軽々と搭載し、高高度を悠々と飛行する。まさに大空を泳ぐ白鯨そのものだった。そしてもう一つ、その白鯨から現れた人物に勇は目を奪われた。その人物は、山本を失い、勇が助け出し、その後生死の境を彷徨ったはずの赤松貞明、その人だった。
「なぜ赤松貞明大尉がいる?!彼はまだ療養中のはずだろ?!」
「落ち着いてください。彼は自らこの作戦に志願してきたのですよ?」
「なっ?!」
勇はもう一度貞明を見る。もう怪我など微塵も感じさせない堂々たる姿に迷いは見られなかった。こんなにも根こそぎ勇の仲間を棺桶に積み込む白鯨とは一体何だと言うのだろう。勇は悔しくて溜まらなかった。
「まあ、私としても扶桑海軍甲事件の関係者はすべからく消すつもりでしたが、手間が省けました」
悪魔が人間ではないことは薄々感じていたが、ここまで人間に似た悪魔もいないだろう。勇は残り二人となった仲間を死なせるために守る葛藤に苛まれていた。自分の師であり、仲間であり、戦友でもある彼をどうにかする手はないか思案してみるが、やはりどうすることもできない自分が歯痒くて溜まらない。
「必ず!必ず二人をベルリンのあのネウロイの下へ届ける!どんな障害があろうと、俺が例え壁になろうと絶対にだ!!」
勇はハイドリヒに恥を捨ててユニットの転換を願い出る。ハイドリヒは難なく新しいユニットを用意しており、『白鯨』に追従できるだけのユニットであるリベリオン製P-51戦闘脚を勇に渡した。これで高高度でも追従できかつ、防御やスピードの問題もある程度は克服できたが、一番の問題はベルリン市街にいる瞬間移動型ネウロイの存在だった。確かに、ロケット特攻兵器である桜花になってからは瞬間移動型ネウロイの妨害は確認できていないが、それは検証回数が少ない確証の無いものだった。
「まだだ、まだ足りない。どうすれば・・・」
勇は考え抜いた結果、501で行った高度3万3333メートルの敵のことを思い出していた。彼女らは追加加速装置を着けていた。このロケット特攻を行う基地ならば、予備の追加加速装置など探せばいくらでもあることは確かだった。しかし、障害があるのも確かだった。それは、勇が行動の自由を制限されており、格納庫に近づけないことだった。勇はある人物のことを頭に思い浮かべるのだった。
最後の特攻当日、勇は檻の中である人物が来るのを待った。必ず来るという確証はなかったが自信はあった。そして、勇はその賭けに勝つ。
「今日で最後だ。無力なお前の最後の日だぞ」
その人物はやはり少し悲しそうだった。無表情の奥に秘められた感情の渦が戸愚呂を巻いて出てきていたことは勇には分かっていた。勇はそんな彼女に頼む。
「お願いがある」
小野里は勇の話を黙って聞いていた。そして無言で立ち去った。結果は推して知るべし、勇が出撃するときに自分のユニットにはきちんと追加加速装置が取り付けられていた。
「ありがとう・・・」
勇は久しぶりの感謝の言葉に胸を軽く、決意を固くする。勢いよく発進するとスロットルを上げて高度を上げた。ベルリンまでの道中には何波にもなる波状攻撃が仕掛けられることは明白で、勇はこのあたりのネウロイを狩り尽くす勢いだった。もちろん高高度にいる『白鯨』に近づこうとする小型ネウロイなどは途中で限界高度にぶち当たり、ヘロヘロになったところを仕留めることができた。そして、第一の難関が勇たちを襲う。
「来たなっ!前までの俺だと思うなよ!」
ジェット機のような形状をした超高速ネウロイが複数同時に出現した。勇にはもはや勝てる未来しか見えていなかった。
「遂に・・・辿り着いたぞ!白鯨、投下準備だ!」
結局6機ものジェット戦闘機型ネウロイを撃墜した勇は、息を切らしながら眼下に見えるベルリンの街に歓喜する。そして、運命の最後の特攻が始まる。
「今だっ!投下しろっ!」
勇が手を下すと同時に勇は先んじて急降下を開始する。後から桜花が投下された気配を感じ、勇も追加加速装置を点火させる。凄まじい速度に耐えながら、桜花に追従する。二機の桜花は轟々と音を立てて突っ込んでくる。速さで勝る桜花がジリジリと勇に追いついて来る。その瞬間、勇の隣を並走する男の顔が見えた。それは紛れもない赤松貞明だった。
「松さん・・・隊長、あなたを死なせたりはしない!」
聞こえるわけがないが、勇が貞明機に近づくと貞明は勇の顔を見るなり憤怒の表情になって拳を突き上げる。勇は怒る貞明の意図が分からなかったが、その口の動きで察してしまう。
『ばかやろう!ぶっとばすぞ!』
赤松貞明という男は最後まで自分を子ども扱いしてくるのだった。勇にはそれが悔しく、それでいて嬉しく、悲しかった。こんな時にふと、思い出す光景があった。それは、勇が欧州に派遣される際に約束した会話だった。
『勇、お前の生き方は常に考え、ああでもねえこうでもねえって迷いながら、間違えながら進まなきゃなんねえ。強くなけりゃままならねえ世の中だ。だから、勇は勇の思う正しい方に進め。それが間違ってたら俺がぶん殴って元のところまでぶっ飛ばしてやる。それがお前にできる最後の説教だ。どんなにひねくれても必ず守るべきものだけは守り通せ。呪縛のように染みついて離れないだろうが、それが力を持った者の定めだ』
本当に最期まで自分の最高の師匠なのだと実感した瞬間だった。あの懐かしい会話はもう二度とできない。それでも勇と貞明は最後まで口汚く罵り合うことを忘れない。
「すみません、忘れてましたよ・・・あんたって人は」
『おう!しばしの別れだ!クソ優秀な弟子野郎!』
「はい!しばしの別れです!クソ傲慢な尊敬する・・・最高の隊長!」
貞明と本当にそんな会話をした気がした。貞明はニコッと笑うともう前しか見なかった。少しずつ離れていく距離に手を伸ばしかける勇はまだまだ弱かった。さらにもう一機には瞬間移動型ネウロイが接近しており、その迎撃にも労力を割く。
「今だぁぁぁ!!!行けぇぇぇええ!!」
瞬間移動型ネウロイを勇がしっかり抑えつけている間に、二機の桜花は釣鐘型ネウロイを狙いすます。瞬間移動型ネウロイもそれに気づいたのか、ようやく勇から離れようとするももはや遅かった。そして、釣鐘型ネウロイの下へ二機が辿り着くと、大爆発を起こして土煙が辺りを覆う。
「やったか?!・・・な、なんだとっ!?!」
勇が見たものは目を疑うものだった。桜花はきちんと突入し、爆発したがそれは釣鐘型ネウロイの少し手前だった。なんと釣鐘型ネウロイの手前には何枚もの壁が作り出されていたのだった。そして、最後の一枚まで迫った桜花の攻撃も虚しく、釣鐘型ネウロイは無傷で鎮座していた。
「聞いてないぞ・・・こんのペテン師めっ!!!」
勇が突撃しようとしたとき、災厄はまたも勇に立ちはだかる。瞬間移動型ネウロイが勇の目の前に出現し、攻撃を仕掛けてきたのだった。
「しまっ・・・」
勇は咄嗟に空いている左手を差し出してシールドを張る。大爆発の後、激痛が勇の左手に走る。魔法力を細分化させた硬質シールドを突き破り、勇の左手に突き刺さるネウロイの手のような部位からは、赤い血が滴っていた。勇は咄嗟に左手を捻り、相手の腕ごと引きちぎる。
「こんのっ!」
ボキりと折れた敵の腕を振り払い、勇は今度は自分が攻撃を繰り出す。その爆炎を縫って勇は命からがらベルリンからの脱出に成功する。しかし、道中で痛む左手には痛覚だけが危険を訴えているのではなかった。
「なんだ、また記憶が侵食されてるような・・・っく!」
左手を見るとまだ、瞬間移動型ネウロイの破片が残っていた。止血をしていると、急にふと意識が飛びかける。その瞬間に見た光景は走馬灯のように勇の頭の中を駆け巡る。その光景には勇の最愛の人物が映し出されていた。
「姉さん・・・?」
いかがでしたでしょうか。何度も無謀な特攻を仕掛ける狂気の時代を体験できたでしょうか。牟田口のイメージとしては、某艦隊ゲームで突撃を繰り返す指揮官の様ではありませんか?そうです、私です。無理な突撃、ダメ絶対!
さて、今まで登場していた私のオリジナルキャラクターが根こそぎ特攻に駆り出してしまいましたことが、私自身残念でなりません。そして、今回の無謀なベルリン突撃が、原作のストライクウィッチーズでのベルリンの道中と繋がっていると思ってくだされば幸いです。ベルリンまでそんなに簡単に行ける訳がないのですが、原作ではジェット戦闘機型ネウロイのみの描写だったため、勇くんが狩り尽くした設定にしてみました。
次回からはネウロイの本質にも迫ってみたいと思いますのでご期待ください!