ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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仕事の息抜きでやってきてしまいました。もちろん、こちらの方が比率が高いのですが・・・

今回の話は小野里の活躍と久しぶりの501の絡み、そしてネウロイの正体についての話となっています。ネウロイの正体については私の憶測なので、ぜひ皆さんも考えながら読んでみてください。ではどうぞ!


籠の中の翼 第十話

牟田口は特攻作戦の失敗に全身から恐怖の冷や汗が滴って、打ち震えていた。それは周りの木々までもが自分を嘲笑っているかのようだった。

 

 

 

 

「ワシは無能じゃない!あああああ!!!うるさい!うるさい!黙れ黙れ!」

 

 

 

 

 

拳銃を乱射し、木々に弾丸が無くなるまで撃ち尽くす。その音を聞いてもなお誰も駆けつけないことに、さらに怒りが際立つ。

 

 

 

 

「おい誰か!誰かおらんのか?!」

 

 

 

 

 

無人の室内に響き渡る自分の声が虚しく響き渡る。自信に満ち溢れたはずの作戦でこれまでに得た戦果は、ベルリンまでの敵を掃討し、ベルリン市街にいるネウロイの規模を捉えただけ。さらには無理やり徴収した戦力、航空戦隊二個中隊が全滅、桜花も全機損失、挙句に一式陸攻も大多数が消失していた。これは責任問題となり得、罷免されることは確実だった。

 

 

 

 

「なぜワシの天才的な作戦がこうも失敗するのじゃ!あやつ・・・赤松勇か!あの疫病神めっ!どこまでワシの邪魔をすれば気が済むんじゃ!!」

「うるさい虫がいたものですね」

 

 

 

 

静かに発された先にはハイドリヒが立っていた。牟田口は優秀な部下であるハイドリヒに縋る。

 

 

 

 

 

「ハイドリヒくん!どうにか、どうにかワシを助けてくれ!」

 

 

 

 

 

ハイドリヒはいつものように余裕のある佇まいで、牟田口の耳にも届くようにしっかりと言い放った。

 

 

 

 

 

「触れるな、虫けら」

「なっ?なんだって!?」

 

 

 

 

ハイドリヒは牟田口を振り払うと、牟田口が触れた部分を払うようにハンカチで拭う。牟田口はハイドリヒの取る態度が理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

「くぅ!裏切者っ!皆の者、であえであえぇ!!」

「お呼びでしょうか」

「おお!小野里!その反逆者を拘束したまえ!!」

 

 

 

 

 

ようやく訪れた小野里という部下に牟田口はハイドリヒを捕まえるように指示する。しかし、小野里は牟田口の命令にピクリとも動かなかった。

 

 

 

 

 

「なぜじゃ?!なぜ動かん!ワシの言うことが聞けんのか!命令じゃ!ワシの命令じゃぞっ!」

「・・・」

「ふふふ、彼女はあなたの命令など聞きませんよ」

「どういうことじゃ!?!」

 

 

 

 

ハイドリヒが小野里を手招きすると、牟田口の時とは違い素直に応じる。ハイドリヒの手元に寄ると、ハイドリヒは小野里の肩に手を置き、仲間であることを示唆する。

 

 

 

 

 

「まあ、こういうことです」

「・・・なんじゃと。どうしてじゃ!ワシが貴様を拾ってやったんじゃ!ワシが拾わなければ仇に仇討ちすることも叶わなかった!ワシのっ!ワシのおかげなのに!」

「うるさい屑虫ですね。あなたは世界に対して重大な犯罪行為を犯した。世界の秩序を乱しました。よって私があなたを逮捕・摘発しようと言うのです」

 

 

 

 

 

ハイドリヒの言葉の意味が分からず、部下だった男の背後に現れる兵士たちが小野里と同じようにハイドリヒの隣に並び始める。そこでようやく味方がいないことを察する牟田口は、既に抜け殻だった。

 

 

 

 

 

「ハイドリヒ・・・お前も同罪じゃぞ・・・」

「軽々しく呼び捨てにするとは、まだ自分の立場が理解できていないようですね。あなたのような虫けらはいつものように突飛な発想をして私を楽しませていればよかったのです。それがどうです、全ての作戦が失敗して羽虫のように狼狽えるばかり。さあ、あなたの小さな頭脳で考えて見せなさい!」

 

 

 

 

 

馬鹿にされ、罵られようともはや抵抗する気力は湧かなかった。そして、一つの発想が頭を過る。

 

 

 

 

 

「そうか・・・ワシの最後の切り札があったではないか・・・赤松勇、奴しかおらん!奴にあの新型爆弾を括り付けて特攻させればワシはまだ・・・」

 

 

 

 

 

牟田口のその先の言葉は発することは出来なかった。一発の銃声が牟田口の胸を貫く。

 

 

 

 

 

「全員聞きましたね。閣下はご乱心です。撃ち殺せ」

 

 

 

 

 

ハイドリヒの号令一過で全員が牟田口を射撃する。細切れになるかつての司令官は無残な血と肉の塊となり果てて朽ちた。その汚物を華美な部屋にそのままにし、ハイドリヒの部下は引き上げる。残ったのはハイドリヒと小野里の二人だった。

 

 

 

 

「小野里少尉、あなたは賢明です。きちんと強者がだれであるか嗅ぎ分けられる素晴らしい兵士です。そんな素晴らしいあなたに一つお願いがあります」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは書類を取り出すと小野里に手渡す。その書類の右端にはとある人物の写真が添付されていた。

 

 

 

 

 

「度重なるこの部隊の失態の一端が彼女に見つかってしまいました。彼女からは即時赤松勇大尉の身柄の引き渡しの要求が来ています。それをあなたに阻止してほしい。言っている意味は分かりますね?」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは優しく穏やかに諭す。小野里はハイドリヒの命令を聞く以外に道はない。肩に置かれた手が何より恐怖を植え付けていた。

 

 

 

 

 

「彼女、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐はもはや我々の障害でしかありません。我々はどんな障害も排除してきました。例えそれがだれであろうと、どこであろうと、です」

 

 

 

 

暗に、小野里にも裏切ったらどうなるかという脅しを掛けられていることは明白だった。小野里は立ち尽くしてハイドリヒから明確な命令を待つ。

 

 

 

 

 

「小野里少尉に命令します。彼女を、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐を暗殺してください」

「・・・了解、しました」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは小野里の了承を取り付けると、肩を二度軽く叩き退室していった。残された血の匂いだけが漂った部屋に小野里は黙している。かつて自分を拾った愚将は死んだ。小野里はその時のことを思い出していた。兄の藤野の戦死報告が届き、泣いている自分の下をこの男が訪ねて来たのはある雨の日のことだった。

 

 

 

 

『正子ちゃんじゃな、なぜ泣いているのじゃ?』

『兄さんが死んでしまったの』

『悲しいかね?』

『とても悲しい』

『君はウィッチだ。泣いてはいけんよ。ワシが君のお兄さんの仇を討たせてあげよう。だから泣いてはいけんよ』

『仇?』

『そうじゃ。君のお兄さんが見ていた景色を君なら見ることができる。君は正しいことができる子なのじゃから』

 

 

 

 

 

小野里はその記憶にそっと蓋を閉じる。かつての司令官である牟田口の傍に寄り、開いたままの瞼を手で閉ざしてやる。それが最後の奉公だと思って。

 

 

 

 

 

「司令官殿、どうしようもない司令官でしたが、最後くらいあなたの言葉を信じてみようと思います」

 

 

 

 

 

小野里はその足で勇に会いに行く。先日の戦いで負傷し、疲労困憊の彼は眠っていた。それでも小野里は話しかける。

 

 

 

 

 

「私、お医者さんになりたかったんです。母さんの病気を治すんだって。兄さんもそれを聞いてとても喜んでくれました。だから兄さんは恩給の良い海軍に入隊したんです。昔から喧嘩は弱くて、優しすぎる性格なのに・・・私がウィッチだと分かったとき、もしかしたら兄さんもウィッチになったのかなって思いました。でも男の人はウィッチになれないんだって。ウィッチなら帰ってきてくれるかもしれない、だってウィッチは強いんですから」

 

 

 

 

眠ったままの彼の横顔は金平糖の味を思い起こさせた。そんな横顔に小野里は声を掛け続ける。

 

 

 

 

 

「あなたが扶桑に来た時、共同慰霊墓地で拝んでいるのを実は見ていたんです。今ならわかります。あなたは兄さんを返しに来てくれたんですね。どこで亡くなったかもわからない私のたった一人の大切な兄を・・・あなたは強い人です。だれよりも強いウィッチです。でも今のあなたは籠の中の翼・・・私がその鍵を開けます。傷ついたあなたの心も私の治癒魔法で治してあげます。だから、あなたは羽ばたいてください。外に出て、この素晴らしい世界を救ってください」

 

 

 

 

小野里の言葉は檻の中の勇に届いたのか、それはわからなかったが、小野里はもう迷わなかった。一朶の涙が床を濡らす頃には、小野里の姿は見えなくなっていた。そこに、勇を連れに来たハイドリヒと兵士たちが通りかかる。

 

 

 

 

 

「長官、小野里少尉はたった今501に向かったとのことです」

「それは重畳です。彼女なら必ずややり遂げてくれることでしょう。アイヒマン中佐、彼女の経歴をきちんと改竄しておきましたか?」

「はい、ぬかりなく。彼女は我々の情報官として少佐の位を付与し、その証人も準備しました」

「よろしい。暗殺任務が終了次第その証人も始末するように。他の者は赤松勇大尉を連れ出しなさい」

 

 

 

 

兵士たちが慌ただしく動き出す中、ハイドリヒは勇の檻の前の床が濡れていることに気が付く。そして、それを見て薄く笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「まったく利口な駄犬ですね。これは面白くなってきました」

 

 

 

 

501基地ではネーデルランドにペリーヌ、リーネ、宮藤を女王の要請で派遣し、少しながら静かな基地内の様相を呈していた。中でも501の隊長であるミーナと戦闘隊長を務めることになったバルクホルン少佐が話し合いをしている最中だった。

 

 

 

 

「ようやくユウの所在が掴めたわね。長い道のりだったわ」

「ユウがあの事件に関与しているの明白だった。それなのにどうしてここまでユウの情報が掴めなかったのか・・・巨大な勢力の暗躍があったとしか言いようがないだろうな」

「そうね、でもようやくその担当官が接見するところを見ると、何かしらの動きがあったようね」

「ユウのことだ、今度はネウロイじゃなく後方でふんぞり返っている将軍たちでもひっくり返したのかもしれんぞ?」

 

 

 

 

そんな話をしていると、その担当官が到着したことを知らせに来る。ミーナとバルクホルンは部屋で待機していると、思ったよりも若くて小さな少女が入室してきた。

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。情報担当官のヘンドラ・ユリーネと申します。連合軍情報局で少佐を拝命しております」

「初めまして、私が501統合戦闘航空団隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ。こちらはゲルトルート・バルクホルン少佐」

「よろしく頼む」

 

 

 

 

挨拶を済ませ、ミーナは齎された資料を一瞥してユリーネと名乗る人物を吟味する。若くしてウィッチとして発現するも、戦闘には不向きと判断されたようで、情報官として各地で活躍しているようだ。しかし、名前と見た目が一致しない違和感と、入室したのにも関わらず、脱がない軍帽という態度から質問してみることにした。

 

 

 

 

「申し訳ないのだけど、ユリーネ少佐はどこの情報局にいらしたのですか?」

 

 

 

 

 

ミーナの質問にユリーネは苦笑いをしたかと思うと、いつもよくしている話のように身の上を話し始めた。

 

 

 

 

「ああ、やはり思われますよね?私の母がアジア系でして、父が貿易商を営んでいたこともあり欧州に移り住んだ移民なんです。見た目がこんなですし、よく間違えられるんです」

 

 

 

 

参ったとばかりに肩を竦めて見せる欧州人特有の仕草に、ミーナは納得する。帽子を脱いでみせると黒髪・黒目でありながら白い素肌に華奢な体格はさながら扶桑美人を彷彿とさせた。安心したミーナは勇の所在の情報について話を進める。

 

 

 

 

「赤松勇大尉のことについてですが、現在ワーテルロー基地の大規模な作戦に関与しているとの情報を掴んでいます。なんでも付近の現地部隊から大型の爆撃機を複数目撃している情報も合わせて入手しています」

「そうですか。なかなか良い耳をお持ちの様ですね。私の仕事もこれでは形無しです」

 

 

 

 

情報の正当性をここまで安易に認める情報官に、ミーナは呆気に取られてしまう。だがバルクホルンがはぐらかされてはいられないとばかりに追撃の手を止めない。

 

 

 

 

「私たちは過去に赤松勇大尉と作戦を共にした仲です。今回のオペレーション『サウスウィンド』に彼の力が必要です。彼の身柄をこちらに引き渡していただきたい」

「お言葉ですが、一介の情報官には判断しかねる内容です。それに501は既に強力な戦力を保有しています。まだご不満ですか?」

 

 

 

 

バルクホルンの暴走をミーナが嗜めると、ミーナも議論を交わす。

 

 

 

 

「こちらは宮藤少尉が現在不調により、常時戦力にならない状況に加え、坂本少佐が抜けた分戦力は以前ほどもありません。その上でこれまでにも陳情を再三申し入れていたはずですが?」

「新しくウィッチを迎えられたそうですね。服部少尉でしたか?実に面白い陳情ですね?」

「彼女はまだ新人です。それにベルリンを奪還するのに最適な人材を最適な環境に置かない方がどうかしています」

 

 

 

 

議論は平行線をたどり、白熱していた。高度な政治事情を含んだ話にバルクホルンが苛立ちを隠せない。

 

 

 

 

 

「ですから、彼は世情の上でも危険な立場に置かれやすく、私たちウィッチの環境であれば彼の存在感もさほど恐怖の対象とはならずに済むはずです!」

「ほう、あなたたちが彼の存在を上回れると?」

 

 

 

 

不遜な態度に加え、一向に勇の情報について話そうとしないユリーネという人物に我慢ができず、机を叩いて権幕を張ってしまう。

 

 

 

 

「もういい!ユリーネ少佐、あなたは勇大尉を出す気があるのか!ないのか!」

「・・・バルクホルン少佐、今日ここには話し合いに来たと思ったのですが?」

「バルクホルン少佐!座りなさい!」

 

 

 

 

ユリーネ、ミーナ双方の視線が刺さる中、バルクホルンは悲痛な心境を語る。

 

 

 

 

 

「ミーナ、私はユウが心配なんだ。あいつはいつも戦いの中に、危険の中にいる。そんなユウが何週間も連絡も取れないなんて私にはもう耐えられないんだ・・・もう、ユウがいなくなってしまうのは嫌なんだ」

「トゥルーデ・・・」

 

 

 

 

拳を固く握り、歯を食いしばる姿にユリーネは俯瞰したように手を組んで質問を投げかける。

 

 

 

 

 

「バルクホルン少佐にとって、彼、赤松勇大尉とはどんな存在ですか?」

「仲間だ。大切な、それこそ弟のような存在・・・ユウは私の弟だ!」

「そうですか・・・大変美しいですね」

 

 

 

 

馬鹿にしたような言い回しではなく、本心から美しいと言っている様子のユリーネにミーナは驚く。こんなにも真剣にバルクホルンの話を聞くとは思いもしなかった。バルクホルンが言い切る勇との間柄について、ユリーネは興味深さそうに頷く中、ミーナは自分にもその質問の答えが出るのか不安に駆られた。いつも信念を貫き、自分の意見を述べることで、どんな質問や会議でも乗り切ってきたが、この質問ばかりは自分の本心が揺らいでいた。それをユリーネは情報官らしく見抜いたのかも知れない。ミーナにも同じ質問を繰り返した。

 

 

 

 

「ミーナ中佐はどうですか?あなたにとって彼とはどんな存在なのですか?」

「彼は、赤松勇大尉は・・・仲間です。この上なく頼れる戦友です」

「なるほど、戦略上の友人・・・ね」

 

 

 

 

ミーナは答えを自問自答する。自分の答えが心で反芻した時、なにかが痛んだ。勇の記憶を辿ると、大変な記憶や楽しい記憶、愛した記憶、そしてほろ苦い記憶が渾然一体となった。ユリーネがミーナを分析するように見つめてきている。心の底までを見透かされるようなその目は、ミーナの重い口を動かした。

 

 

 

 

 

「戦略上の友人・・・そうかもしれません」

「ミーナ!?」

「でも、彼は、赤松勇は私にとって、想い、焦がれる存在です!」

「ん?ミーナ?!」

 

 

 

 

驚くバルクホルンとは対照に、ユリーネは口角を上げて見定め終わったと言った表情だった。失敗したかに思われた会話にバルクホルンは頭を抱えていると、手を叩く音が聞こえてきた。顔を上げるとユリーネが拍手をして微笑んでいた。

 

 

 

 

「合格です。やはりあなたたちに託しましょう」

 

 

 

 

突然の拍手と合格と言う言葉の意味に呆気に取られる二人だったが、顔を見合わせると、その後から嬉しさが押し寄せる。握手を交わし、無言の幸福を噛みしめていると、ユリーネが爆弾発言を下す。

 

 

 

 

「申し訳ありません、あなたたちを試していました。もし、ただの戦力として彼を見るのなら、決して渡すつもりはありませんでした」

「そ、そうか…ハハッハハハ・・・」

「申し遅れましたが、私が情報官というのも、少佐であるというのも全て嘘です」

「なにぃー!!!???」

 

 

 

 

眼鏡を外し、服も脱いだユリーネは中に黒い制服を着こんでおり、別の部隊が本当の所属であることを見せつける。偽りの身分に自分たちを見定めるかのような彼女は、スクッと立ち上がると敬礼を繰り出す。その乱れの無い完璧な敬礼と身分に本当の彼女の存在を知る。

 

 

 

 

「私は元扶桑陸軍情報部少尉の小野里正子と言います。今は連合軍特殊作戦本部の少佐として活動し、本日は赤松勇大尉の所在の情報と交換に、ミーナ中佐、あなたを暗殺する命令を受けてきました」

 

 

 

 

その言葉に二人はギョッとする。バルクホルンはすかさずミーナと小野里の間に割って入ると戦闘態勢を取って警戒した。しかし、小野里に戦闘の意思はなく、降伏のポーズを見せてきた。

 

 

 

 

「私は命令を受けてここに来ましたが、その命令を私は実行しません。なぜなら助けてほしいからです」

「あなたを?」

「いいえ、彼を・・・赤松勇大尉をです」

 

 

 

驚いた二人はまたもや顔を見合わせる。しかし、救助要請に二人は耳を貸す。

 

 

 

 

「あなたはユウの現状を知っているの?」

「はい、彼と同じ基地に居ました。彼は今危険な状態です。このままでは必ず死んでしまいます」

「そんな・・・」

「だから私がここに来たんです。ミーナ中佐、私を逮捕してください!」

 

 

 

 

ミーナは小野里の必死な目を信じ、詳しい作戦を聞くことにした。

 

数日後、ハイドリヒと勇は車に乗って移動していた。勇は501基地に出向いてハイドリヒの仕事に付き合わされるとのことだった。ハイドリヒは終始ご機嫌で資料を読んで、部下と話をしていた。

 

 

 

 

「小野里少尉からの報告は本当ですか?」

「はい、先日彼女から目標達成との報告が入っています」

「では彼女はどうして私の下へ姿を現さないのですか?」

「はい、それがどうも敵の追撃が激しく、しばらく身動きが取れないとのことでした」

「なるほど、ご苦労様です」

 

 

 

 

勇は小野里がまた危険な任務に就かされていることが悔しくて溜まらなかった。そんな視線に気づいたのか、ハイドリヒは資料を部下に預けると勇に向き直った。

 

 

 

 

「怪我の具合はどうですか?」

「治りが遅いが問題はない」

「それはいけませんね、あとで彼女に診てもらわなくては」

 

 

 

 

ニコニコと笑顔を絶やさないハイドリヒにうんざりしながらも、なんでも知っているような顔のハイドリヒは気味が悪かった。確かに瞬間移動型ネウロイの戦闘時に負った傷は治りが遅く、黒く変色していたが特に痛いと言うわけでも、壊死しているというわけでもない不思議なものだった。そんななんでも知っていそうなハイドリヒに一つ自分の疑問を投げかけてみることにした。

 

 

 

 

「ハイドリヒ、お前ただの大佐じゃないだろ。連合軍の裏で暗躍する集団だな」

「よくわかりましたね。そうです、私は連合軍特殊作戦本部局局長であり、世界秩序保安局局長です」

「やはりな・・・てことは大佐も嘘だな。牟田口より上の存在ともなれば、大将しかない」

「ご名答。よくできた赤松勇大尉は何を聞きたいのですか?」

 

 

 

 

 

勇は世界を渡り歩いた遊撃部隊の所属だった過去があり、その際に見聞きした集団と言うのがあった。世界の裏で暗躍するその集団は別命「アインザッツ・グルッペン」、通称「移動虐殺部隊」である。世界のどこであろうと、障害となる存在をこの世から消し、ターゲットになったら決して逃げることはできないと言われるほど恐れられている、知る人ぞ知る集団である。そんな集団の親玉がハイドリヒだというわけである。そんなターゲットのことならなんでも知っいるハイドリヒに先回りされた質問を投げかける。

 

 

 

 

「ネウロイの正体なんだが、あいつらは・・・」

「人間でしょうね」

 

 

 

 

即答で応えるハイドリヒにはあたかも簡単な問題であるかのように言い放った。驚く勇を他所に、ハイドリヒは勇にもわかるように説明し始める。

 

 

 

 

「ネウロイがどこから来て、何が目的なのか・・・だれも本質を見ようとしないから分からないのです」

「本質?」

「ええ、ネウロイの語源が何かわかりますか?『ニューロン』ですよ。つまり神経細胞。古代ギリシア人はネウロイを『覚える者』と言う意味で名付けたのだそうですが、一体何を覚えているのか?それは記憶です」

「記憶・・・」

 

 

 

 

勇には心当たりがあった。瞬間移動型ネウロイと交戦した時に感じたのは何かを思い出そうとする力だ。それを言葉で表現されて納得してしまう。ハイドリヒは共通の認識を確立しながら話を進める。

 

 

 

 

 

「ネウロイが水や寒さを嫌う理由がそれに該当します。人類は本来、水を嫌い、寒さから逃れた生活を送ってきました。その本能が彼らに息づいているのです」

「そうか・・・」

「彼らが我々を襲う理由、それは我々が彼らを忘却しようとしているからです」

「ネウロイを忘れる?」

「はい、ネウロイが世界を滅ぼす存在なのだとしたらなぜ環境を破壊しないのでしょう。なぜ鳥や動物は見逃すのでしょう」

 

 

 

 

一つずつ嵌っていくピースに勇は震えが止まらない。自分の予想が現実味を帯びることが恐怖以外の何物でもなかったからだ。

 

 

 

 

「彼らは忘れられた人間の記憶、意思で動いている。人類が文明を興し、人と人の繋がりが薄れる度に彼らは現れた。昨今では産業革命を成功させた人類はさながら大量の労働者の代わりに機械が仕事を取って代わり、仕事にあぶれ、途方に暮れた者は世間から忘れ去られて行きました」

「それが今回のネウロイ・・・」

「島国やまだ独立して新しい大陸であるリベリオンにネウロイの巣ができないのがその証拠です。ブリタニアは余った労働者をリベリオンへ、扶桑はその独特な文化により人の繋がりを維持した。しかし、産業革命の産物である科学を、発明したわけでない者に文明を与えた結果が大量の浮浪者を出してしまう結果となったのです」

 

 

 

 

歴史を紐解くハイドリヒの歴史好きな理由が垣間見えたが、勇は全てを想像し、納得していた。コミュニティの多い扶桑では、本土に巣ができたことはない。扶桑海事変は大陸、古代清王朝が滅亡してできた荒廃した大地だった。時間を経て、忘れ去られた人間の意思が人であった頃の記憶を辿るからこそ、人間を狙うのだ。つまり、忘れてほしくないのだ。

 

 

 

 

「戦争を繰り返し、栄枯盛衰を遂げる度に忘れられる存在は現れる。歴史を見ればその時期にネウロイの出現時期がピタリと重なります。しかし現在は状況が異なるのです。与えられた文明の本当の意味を理解せず、ただ教科書に沿って扱う人間の愚かさが今回の事態を招いたのです。金に群がり、何を作るかも碌に分かっていない愚かな人間のなんと多かったことか・・・もはや人間こそがネウロイにとって怪物に見えるのでしょうね」

 

 

 

 

必死に戦う人類は、ただこの戦争を忘れたい、早く終わってほしいと願っている。この世界に住む人間、特に勇もそうだが戦争なんか大嫌いである。無駄な活動だとも思っている。しかし、勇にとって戦場が全てであり、戦うこと以外の道を知らない。扶桑に帰国した時も、智子の誘い出してくれた普通の日常ですら勇には馴染めず、拒絶してしまった。だからこそ、勇は結論に達してしまう。

 

 

 

 

「じゃあ、あのネウロイは姉さんで間違いない・・・だって姉さんを覚えているのは俺だけなのだから」

 

 

 

 

 

自分しか分からない声量で話したため、その声は車のブレーキの音でかき消えてしまう。どうやら501に到着したようだった。勇に頑丈な手錠をし、連れ立つと基地にズカズカと入っていく。あまり人の気配はなく、本当にあの501の基地かと疑うほど静かだった。それでもハイドリヒは響く靴音が楽しいのか、司令室の扉を豪快に開け放つ。中には久しぶりに見る懐かしいバルクホルンの姿があった。

 

 

 

 

「なんだ貴様らは。ここは501の基地だぞ。部外者は立ち入りを禁止されている」

 

 

 

 

相変わらずのお堅い口調は健在なようだったが、今回ばかりは相手が悪いと目線を送る。

 

 

 

 

「おや、これは失礼しました。ここの指揮官がご不在と言うことで伺ったのですが?」

「貴様に関係のない話だ。早く出て行ってもらおう」

 

 

 

 

何かを企んでいるハイドリヒは、バルクホルンの威圧に動じることなく大股でバルクホルンへと近づく。一触即発の事態に勇は冷や冷やしながら動向を見守る。

 

 

 

 

「話の分からない人ですね。指揮官が不在なのでしょう?でしたら待たせて頂きましょう!」

「・・・私が臨時の指揮官だ」

「なんと!でしたら話は早い!連合軍最高司令部のお達しです!指揮官の権限をこの赤松勇『中佐』に移譲してください!これからは彼がここを仕切ります!」

「なにっ!?」

 

 

 

 

勇も驚きだったが、バルクホルンはそれでも相好を崩すことはなかった。普段なら激高してもおかしくないはずなのに、どうしたのだろう、成長したのか、などと考えているとバルクホルンが勇を見て笑った気がした。それと同時に勇の背後から一人の人物が歩み寄る。

 

 

 

 

「それはどういうことですか?ハイドリヒ大将?」

 

 

 

 

それはまたも懐かしのミーナだった。最後に会った頃のほろ苦い思い出の少女は目の前で屹立としている。どうして彼女らウィッチはこうも敢闘精神逞しく、そして頼もしいのか。勇は嬉しくなった。しかし、ハイドリヒも未だに相好を崩すどころか、その状況を楽しんですらいた。

 

 

 

 

「おやミーナ中佐ではありませんか!ご不在と伺ったのですが?」

「誤報を掴まされたようですわね。それに先ほどの話は一体どういうことでしょうか?」

 

 

 

 

またもや一触即発の緊張感の中、先に動いたのはハイドリヒの部下だった。ミーナの背後から銃を構えてしまった。勇も足で阻止するつもりが、ミーナは最初から分かっていたのか、銃を構えるよりも早く兵士を倒してしまった。

 

 

 

 

「やれやれ・・・」

「私は話し合いができるものと思ったのですが、違うようですね?」

「ハハハ!さすがは西の狼ですね!大丈夫です、話し合いと行きましょう!」

 

 

 

全てにおいて置いてけぼりを食らう勇を他所に、ミーナは組み伏せた兵士の拘束を解いてテーブルに着く。勇だけがこの状況を全く理解が追い付いていなかった。

 

 

 

 

「先ほどの話でしたが、赤松勇大尉の階級は大尉です。中佐ではありません。よって先ほどの申し出はお断りさせていただきます!」

「いいえ、彼は私の、連合軍の拘束下にあります。よって以前の特殊遊撃師団時の階級を適用できます」

「詭弁です!既にその師団は解体され、勇大尉自身連合軍によって降格されています!それに師団と言うほどの戦力には兵員が足りません!」

「いいえ!私が連合軍の権限をもって中佐に復位させましたので問題ありません。それに師団ならあります。私の師団が彼の隷下に置かれるのでその点も問題は皆無です!」

 

 

 

 

ミーナの指摘も尤もであったが、それを覆すハイドリヒの用意周到さには驚かされる。どうにかしてでも自分を手元に置いておきたい気持ちが表れている。しかし、ミーナも負けてはいなかった。切り札を出すように一枚の書類をハイドリヒに差し出す。

 

 

 

 

「これは?」

「501に対する妨害行為の陳述書です。先日、この基地に私を暗殺しに一人の部下を送りましたね?」

「はて、なんのことでしょう?」

「惚けても無駄です。本人からあなたが命令を出した本人であるという自白を受けています。これは明確な犯罪行為です。あなたを通報します!」

 

 

 

 

恐ろしい計画の実態に勇は寒気を催す。ミーナを暗殺する計画と、その実行者がおそらくこの場にいない小野里であることは明白だったからだ。ミーナが助かったと言う事実と、小野里がどうなったのかと言う不安が混ざり合い、殊の推移を見守る他選択肢が残されていなかった。しかし、ハイドリヒを追い詰めた事実だけは変わらなかった。勇は遂にハイドリヒの呪縛から逃れられる希望を見た気がした。が、それも幻想に過ぎなかった。

 

 

 

 

「暗殺?逮捕?私には関わりのないことばかりで話になりませんね」

「しらばっくれるな!証拠は出ているんだぞ!」

「ハハハ!証拠ですと?それはもしかしてこれのことですか?」

 

 

 

 

ハイドリヒの言葉の後に、部屋に連れてこられたのはボロボロになった小野里の姿だった。

 

 

 

 

「ううっ・・・」

「なっ!小野里少尉!」

「おや、知り合いですか?彼女は私の下を無断で離れた逃亡兵でして、もしかしてあなた方の所でご迷惑でもおかけしましたか?」

 

 

 

 

満面の嫌な笑みを浮かべ、勝ち誇ったハイドリヒの顔は黒く輝いていた。対照にミーナとバルクホルンは事の重大さと予想外の事態に腰が浮いていた。

 

 

 

 

「なぜ彼女の居場所が・・・」

「なぜって、私の仕事は秩序の保安!この世界の秩序の守護者なんですよ!裏切者の所在程度分からなくてどうするのです!さて、私も仕事をしなければなりませんね?」

 

 

 

 

ハイドリヒは立ち上がると、兵士に拘束された小野里を引き取り、無理やり跪かせた。勇にはこの後の光景が見えてしまったが、ハイドリヒもそれに気づいたのか部下に命じて勇の口を塞いでしまう。確定した未来に勇は抵抗するが、もはや遅かった。

 

 

 

 

「彼女は我々の部下ですから。部下の躾は上司の責任、今処置します」

「な、なにを・・・」

「秩序の回復ですよ」

 

 

 

 

その瞬間、ハイドリヒは腰の拳銃を抜くと小野里を撃ち抜いた。弾丸は右胸から左胸を抜け、その穴から赤い鮮血が飛び散る。勇には小野里が倒れるまでの瞬間がスローモーションに見えた。ゆっくりと倒れる小野里は少し笑っていた。何かから解放されたかのような安らかな顔だった。勇は藤野の忘れ形見である妹の小野里の死を目の当たりにし、怒りの熱さが限界を突破した。その熱さは自分の意識も自制できず、勇の意識は白く歪んで落ちて行った。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
牟田口ついに退場す!モチーフは錯乱した私なのですが、綺麗に逝きましたね。私は満足です。
そして、本性を現し始めたハイドリヒ!もはやこの男が主人公でも行ける気がします。ハイドリヒの策略は用意周到の極みですが、それを表現できたのかが心配です。さらに、その豊富な知識から導き出されるネウロイの正体はいかがでしたでしょうか。原作でも明らかにされていないため、私の勝手な憶測でしたが、皆さんはどう考えているのでしょうか。よろしければ教えてください。
久しぶりの501登場でしたが、バルクホルンはRtoBではかなりお姉さんらしく人間的に成長していましたね。特にルッキーニを諫めているシーンは感動でした。さて、ミーナさんですが、言っちゃいましたね。彼女の決意を糧に今後の物語もどうかよろしくお願いします。

ではまた
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