ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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お久しぶりです。仕事をようやくひと段落してこれました。

今回の話は箸休め的な話しです。これまで大分重い話ばかりだったので、ちょうどよいつまらなさだと思います。ではどうぞ!


籠の中の翼 第十一話

小野里が倒れ、勇も気絶してしまった混沌とした現場でハイドリヒは笑っていた。

 

 

 

「なんてことをっ!」

「私が私の部下になにをしようと勝手です。そして私は仕事をしたまで。あなたは私の仕事を妨害する気ですか?」

 

 

 

 

ミーナとバルクホルンはこのハイドリヒという男の狂気に対峙して何も言えないでいる。小野里の死と勇と言う自分たちの目標の両方をこうも潰されるという予想外の事態に、敵の大きさを見誤ったことを理解する。ハイドリヒは勝ち誇ったように微笑むと、ある提案をしてくる。

 

 

 

 

「さて、ここであなたたちに私から提案があるのですが、あなた方の独立した指揮権は尊重しつつ、我々もここにお邪魔させてはいただけませんか?」

 

 

 

 

ミーナとバルクホルンはそんな提案を予想だにしておらず、狼狽えたことで返事が遅れてしまう。そこに付け込んでハイドリヒは許可を取り付けてしまう。

 

 

 

 

「沈黙は承認の証ですね。ありがとうございます。私どもも困っていたのですよ。最強のウィッチを持っていながらウィッチが一人だけなんて華がないじゃないですか」

 

 

 

 

ハイドリヒは決定事項であるかのように宣う。こうしてハイドリヒは501基地への滞在を己の権限を持って承認してしまい、既に用意していた書類にサインを求める。

 

 

 

 

「ではミーナ中佐、サインを」

「待ってください!私は勇大尉の身柄の引き渡しを要求したはずです!あなたたちは・・・」

「だから『赤松勇中佐の身柄』は引き渡しましたよ?我々は赤松勇中佐の隷下部隊なのですから何も問題はありません。だってあなたがそう要求したのですから」

 

 

 

話をいいように丸め込まれてしまい、ミーナはやむなくハイドリヒとの協議に入らざるを得なくなってしまった。

 

 

 

 

「分かりました・・・ですが話し合わなければならないことがあります」

「それはもちろん!我々は一応同士とは言え、間借りさせてもらう身ですからね。では私はミーナ中佐と協議に移ります。アイヒマン中佐、後は頼みましたよ」

「はっ!了解しました!」

「そうそう、小野里少尉の遺体はどこかへ。あと、小野里少尉の情報を信じたあの隊員は無能です。そこでミーナ中佐にやられた間抜け共々始末しなさい」

 

 

 

 

当然の如く進められる狂気の沙汰を目の当たりにしてミーナは抗議を展開するも、ハイドリヒはどれも取り合おうとはしなかった。そして、一応は身柄を引き渡された勇はバルクホルンに抱えられ、部屋に運び込まれたのだった。数分して目を覚ました勇はいつもの天井じゃないことに飛び起きた。

 

 

 

 

「小野里っ!・・・ここは?」

「我々の部屋だ、安心しろ」

「トゥルーデ・・・そうか、小野里少はもう・・・」

 

 

 

勇は小野里がもう手遅れであることを悟る。藤野の妹を救えなかった事実と、兄妹揃って目の前でいなくなってしまった罪悪感がやってくる。勇は額に手をかけて俯いてしまう。熱くなりすぎた頭が頭痛を引き起こし、それでなくとも吐き気が勇の精神を病んでいた。

 

 

 

「すまないトゥルーデ、一人にさせてくれ・・・」

「ああ、ゆっくり休んでくれ・・・」

 

 

 

 

静かに閉められた扉は勇の孤独感を決定的にしたようだった。自分と関わった全ての343空の仲間が今、死んでしまったのだ。人数にして、その数35と源田、山本、その副官と小野里の合計39人。いずれも扶桑の至宝とも呼べる人間たちだ。これからの未来で活躍するであろう未来ある人間。指揮官として、時には部下を失うこともあるだろう。上の位の者ならば、それこそ数千単位の部下が戦死してしまうこともある。しかし、個人の因果で失った人数なら勇はこの戦争の歴史上一等賞だろう。そして、501もその犠牲の一部に加わってしまうことがなにより恐ろしかった。

 

 

 

 

「俺はトゥルーデたちまで巻き込んでしまうのか・・・」

 

 

 

 

501の仲間たちも勇にとってかけがえのない仲間たちである。それこそ、最初期の自殺ばかりを考えていた頃に生きる希望を与えてくれたトゥルーデ、仲間でいることの大切さを教えてくれた501の隊員たち、そして自分の居場所を守ってくれ、勇を好きだと言ってくれたミーナ。どれを取っても温かい仲間たちだ。自分とこれから関わるだけで加速度的に危険に巻き込まれてしまうならばと、勇は考える。

 

 

 

 

「あいつらとは関わらなければ・・・」

 

 

 

 

 

その頃、ハイドリヒはミーナとの協議を終えて自室として接収した部屋にようやく腰を落ち着けていた。そこには部下のこちらも仕事を終えたアイヒマンが控えていた。

 

 

 

 

「ふう、ミーナ中佐は頑固な方だ。それで?首尾はどうですか」

「はい、隊員の処刑は完了しました。小野里少尉の遺体は適当な場所に埋葬してきました」

「よくやってくれました。それにしてもこの基地に無理やり居座ることができてよかった」

 

 

 

 

ハイドリヒに腹心であるアイヒマンは、そんな上司の意図が見えずにいた。

 

 

 

 

「長官、なぜわざわざ赤松勇中佐を501のような目につく場所に置くのですか?」

「よい質問ですね。おそらく彼女らもそれが一番知りたいことでしょうが、一番の目的である勇中佐の身柄の確保が成功してしまった以上、無理に知ろうとしないと見えます」

「なるほど、利害の一致と言うわけですか」

「そうです。我々の利は彼をここに置くことなのですよ」

 

 

 

 

ハイドリヒは足を組んで優雅に珈琲に口を付ける。計画が順調に行った今の気分は格別だった。

 

 

 

 

「牟田口中将のおかげで無駄に勇中佐の仲間を失った今、彼には失うものがない。それは今後の彼の継戦意欲の絶望的な低下を招きます。ですが、ここ、彼の古巣に私の手が及ぶことが分かれば彼は今まで通りの働きをしてくれます。だから、少々の危険を冒してもここに居る方が、私の最終作戦がしやすいと言うわけです」

 

 

 

 

ハイドリヒはクルクルと珈琲を回しながら微笑む。回る珈琲が自分の意思に振り回される哀れな彼らに見えて仕方がなかった。それをおいしそうに飲むと、アイヒマンも納得したように微笑んでいる。

 

 

 

 

「なるほど、あの作戦で我らの理想郷が見られると言うわけですね」

「そうです。やっとここまで来たんです。少しくらい危険な賭けをしないとつまらないでしょう。目の前のことしか考えることのできない無能を選別して得られる、本当の意味で生まれ変わるハイマート・・・こんなに楽しいゲームです。どうかせいぜい足掻いて私を楽しませてほしいものですね。旧世界の人間はすべからくこのカップのように」

 

 

 

ハイドリヒの珈琲カップには沈んだ挽いた豆の屑がひしめき合ったいた。それをハイドリヒは暖炉の炎に投げ入れてしまう。一瞬で蒸発する光景に恍惚とした表情で未来予想と重ねていた。

一方、ハイドリヒとの協議を終えたミーナは疲労感を携えて勇の部屋に向かっていた。

 

 

 

 

「はあ、あの人と話していると取り込まれそうだったわ・・・ユウ入るわ」

 

 

 

 

ミーナが勇の部屋のドアを開けると、勇はミーナの声が聞こえていなかったのかぶつぶつと小言を呟いていた。ミーナは再び悲惨な目に遭ったであろう勇に同情の念を寄せる。ベッドに腰かけ、勇の肩に手をかけると勇は驚いたのかビクッと大げさに見えるほど反応していた。

 

 

 

 

「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」

「ああ・・・ミーナか、すまない、もう大丈夫だ。もう話は終わったのか?」

 

 

 

 

勇はまだ目を合わせないままだった。ミーナはあのハイドリヒという狂気の人物と過ごした勇の精神状態に配慮しながらも、話し合ったことを伝える。

 

 

 

 

「残念ながら、あなたの処遇に関してはあちらに一存があることは変わらないわ。でも、あなたの安全は私たちが保証することは出来るように交渉したわ」

「それにはどのくらいの指揮系統に介入権があるんだ」

「・・・それは501での?それともあなた自身の?」

「俺のだ・・・」

 

 

 

 

ミーナは頭痛を抑えるように話し始める。ミーナにとっても頭の痛い問題なのだろうが、勇にとっては死活問題だった。

 

 

 

 

「・・・ほとんど」

「そうか・・・」

 

 

 

 

ミーナは勇のそのどこかホッとした表情に違和感を覚えながら、勇を安心させるようにハイドリヒとの勝利条件を宣伝する。

 

 

 

 

 

「通った要求はあなたの衣食住の保証とこちらの作戦への参加要請の融通、そして501への介入禁止ね」

「だいぶ粘ったようだな」

「もちろん!あなたのためならこっちだって手段は選んでいられないわ」

「そりゃ青筋も立つってもんだな」

 

 

 

 

勇に言われてミーナは自分の表情が強張っていることに気づき、顔をほぐしてみる。そんなミーナを勇は見ずに立ち上がる。そして、ミーナに聞こえるかどうかの声量で囁く。

 

 

 

 

「ありがとな」

 

 

 

 

勇はミーナを部屋に残して部屋から出る。ミーナはそんな勇の後ろ姿を眺める。その背中はなにも語ろうとはしないが、哀愁に似た雰囲気に違和感は募るばかりだった。

 

翌日、ネーデルランドに派遣した宮藤たちが帰還し、勇が帰ってきたこととハイドリヒたちの存在に素直に喜べない様子で、基地はにわかにきな臭い様相を呈していた。そして、遂に501はベルリンへの進撃ルートの策定のため、哨戒任務を実施することとなった。隊員は航続距離の問題から扶桑機が妥当だと判断され、宮藤と服部の二人がキール方面から、そして熟練度の問題から精鋭のバルクホルンとハルトマンの二人がカールスラント中央経由での作戦が行われようとしていた。

 

 

 

 

「ベルリンまでの道中は敵の存在が未だ不明よ。十分に注意して」

「了解した」

「はーい」

「わかりました!」

「了解ですっ!宮藤さんよろしくお願いします!」

 

 

 

 

勇は四人が出撃する光景を基地の中から眺めていた。勇の目には新人の服部が藤野と重なって見えていた。真面目で実戦に不慣れな隊員はその被撃墜率も高いのだ。また、カールスラント組の精鋭は自分が概ね敵を掃討しているためそこまで心配はしていなかった。それを見たハイドリヒが後ろに手を組んでやってきた。

 

 

 

 

「彼女らが心配ですか?」

「人並みにはな」

「あなたも行ってもいいんですよ?」

 

 

 

 

面白がるように誘惑するハイドリヒの背後の狙いが分からないため、勇は出撃を断固拒否することにしていた。ただでさえ、501の隊員とはハイドリヒを合わせたくなかったのだ。

 

 

 

 

「遠慮しておく。彼女らに手を出したら・・・」

「はいはい分かっていますよ。そんな野暮はしません。じゃあいっそのことあなたは当分飛行禁止にしておきましょう」

「ふん、好きにしてくれ」

 

 

 

 

ハイドリヒの思い付きに付き合ってはいられないが、出撃することになればそれこそ501の彼女たちにとって災厄の光景を焼き付けることになってしまうため、勇はその判断を素直に聞くことにした。しかし、この判断が後に勇を苦しめることになるとはハイドリヒ以外に知らなかったのだった。

 

しばらくして宮藤達が帰還して基地は急に騒々しくなった。勇も何事かと思い、格納庫に行ってみると出撃メンバーが足りていないことに気づく。その瞬間の背筋の凍り付く感覚は慣れることのない、死を連想させた。

 

 

 

 

「何があったの?!」

「ハルトマンさんが撃墜されました!」

「なっ!?なんだと!・・・まさかあれに?!」

「ユウ!何か知っているの!?!教えなさい!」

 

 

 

 

ミーナが勇に詰め寄り情報を引き出そうとする。勇は道中にどんなネウロイがいるかを知っているが気づかなかった。それは勇が苦戦しつつも倒してきた高速機動力を有するジェット戦闘機型ネウロイの存在だった。

 

 

 

 

「ジェット戦闘機型ネウロイにやられたのだろう・・・」

「どうしてユウがそれを・・・」

 

 

 

 

相方のハルトマンが撃墜され、消沈したバルクホルンがふらふらしながら勇に近づく。その差し迫った気配は勇に向けられており、他の隊員の視線は釘付けだった。

 

 

 

 

「どうしてユウがそいつの情報を知っている?」

「それは・・・」

 

 

 

 

勇はハイドリヒからベルリンでの作戦全般を軍事機密とするように指示を受けており、教えるわけにはいかなかった。教えてしまったら最後、ハイドリヒは秘密を知ったものを許しては置かないだろう。勇は501を守るために話さないと決めていた。しかし、バルクホルンはその秘密を知り得る勇と言う存在が許せなかった。

 

 

 

 

 

「どうしてユウが知っているんだ!!言ってみろ!ユウ、お前は知っていて私たちに危険を知らせなかったのか!」

「・・・俺は、俺は何も知らないんだ」

「ユウ!ハルトマンはまだ死んでなんかいない!だが今もあいつは私たちのことを待っているんだ!お前は仲間を、お前の仲間を見捨てるのか!!?」

 

 

 

 

仲間という言葉が勇の脳内を刺激するかのようだった。これまで仲間と呼べる人たちはことごとく死に、それは自分と関わったと言う些細な理由で皆勇の前から忽然と姿を消してしまったのだ。そんな勇の経験に対して勇は仲間を捨てると言う言葉は度し難いものがあった。

 

 

 

 

 

「そんなわけないだろ!」

「じゃあ、お前が最初に私たちに言っておけば今回のようなことは起きなかったじゃないか!」

「そ、それは・・・駄目だ」

 

 

 

 

仲間を守ると言う勇の信念と、目の前の出来事が交差した勇にはもはや力のな言葉を発するしかなかった。その姿にバルクホルンは我慢がならなかった。掴んだ服から手を離すと、バルクホルンの目を見ようとしない勇を突き放す。

 

 

 

 

「お前を仲間だと思っていたのに」

 

 

 

 

バルクホルンはそのまま基地の奥に消えてしまい、残された勇はただ地面を見て俯き続けることしかできなかった。そんな姿を高みから観察するハイドリヒは一人楽しそうにその寸劇を鑑賞していた。

 

 

 

 

「見ましたかアイヒマン!彼は!彼は自分の才能がだれよりも突出していることを自覚していない!精鋭の501の中でも最精鋭のウィッチでも倒せないような敵をいとも容易く倒してきたからこそ、その力が当たり前だと信じて疑わない!これが、彼が神に近い存在の証明と言わずなんと言うのでしょう?!」

「もはや一騎当千とは彼のためにあるような言葉ですね」

 

 

 

 

アイヒマンの言葉にハイドリヒは人差し指を左右に振って否定する。

 

 

 

 

「いいえ、彼を人間と比べる方がおこがましいのです。彼は私が神にするのだから。私が作る神はそんなやわじゃありません」

 

 

 

 

勇は部屋に戻って先ほどのバルクホルン言われた言葉について考えていた。自分はどうすればいいのか、どうすべきだったのか。しかし、こうして考える間にもハルトマンは救助をまっているかもしれない。その時間的余裕の無さが勇の思考の邪魔をした。

 

 

 

 

「俺はどうすればいいってんだ!」

 

 

 

 

勇の手は血が滲みるほど強く握りしめられており、その赤い血が勇に気づかるきっかけを与える。勇はハッとしてハイドリヒの下へ走り出す。

 

 

 

 

「ハイドリヒっ!」

「ようやく来ましたか」

「俺は飛行禁止処分が出てたな!」

「はい。飛行してはなりません」

 

 

 

 

勇は現地を得たとばかりに捲し立てる。それをハイドリヒは分かっていたとばかりに手を組み、その言葉を待ち望んでいた。

 

 

 

 

「しばらく外出する!」

「期限は今日より3日です。それを1秒でも過ぎたら脱走と見做します」

「分かってる!」

 

 

 

 

ハイドリヒの言葉を聞くか聞かない内に走り出していた。取り残されたハイドリヒは珈琲に手をつけてゆっくりと香りを楽しみ、こう呟いた。

 

 

 

 

 

「前代未聞ですね。ベルリン付近まで徒歩で強行するなんて・・・本当にここにきて良かったですよ」

 

 

 

 

 

勇は人知れず夜の森の中をひたすらに走っていた。ハイドリヒの部下から車を分捕るとそのまま道なき道を爆速で走り抜けた。こんな運転は501のシャーリーを彷彿とさせた。ただ勇はその記憶から仲間の姿を引っ張り出し、がむしゃらに自分の行いを悔いていた。

 

 

 

 

「俺はただ繰り返したくないだけだ!俺はもうこれ以上俺と関わった者を巻き込みたくないだけなのに!」

 

 

 

 

 

勇の乗る車の車窓には朝陽が差し込んできていた。およそ6時間もぶっ通しで運転していた。ハルトマンの撃墜地点から50km離れたところで車を止めると、返り分の燃料を入れておく。そして、荷台から武器を取り出し、弾を込める。ジャキりと音を立て、装填された弾と勇の闘志は静かに朝日に萌えた。

 

 

 

 

「待ってろよ」

 

 

 

 

 

勇が捜索を開始した頃、基地ではハイドリヒが届けられた書類に目を通していた。その書類に書かれている内容を一瞥すると、その書類を乱雑に頬り出す。

 

 

 

 

 

「我々の計画を邪魔してくれるとはとんだ駄犬でしたね」

 

 

 

 

 

放り投げられた書類には赤字で大きく『開発の即時中止』の文字が書かれていた。ハイドリヒは冷徹な笑みを浮かべて己の驕りを悔いていた。しかし、すぐにその殺気にも似た雰囲気を鎮めると部下のアイヒマンを呼び出す。すぐに駆け付ける優秀な部下に感心しつつ、命令を下す。

 

 

 

 

「アイヒマン中佐、あの計画が小野里少尉の密告で漏れました」

「まさかっ!」

「ええ、これは私の唯一の汚点です。汚辱は注がなければなりません。すぐに現地の開発者と研究員を拘束し、この基地に『例の物』と一緒に連行して来てください」

「直ちに」

 

 

 

 

打てば響く部下ばらば命令を必ず遂行することは容易に想像できる。それでも計画の一部が外部に漏れたことはハイドリヒの中で看過できないことだった。それだけにハイドリヒは怒りに燃えていた。

 

 

 

 

「だから欠陥品は許せないのです・・・私の世界にはそんな愚かな人間は絶対に残しません。屑は死んでも私の足を引っ張るのですから救えません。まあ、これも私が神になるための必要な試練だと言うことにしておきましょう」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは密かな自分の世界を夢見て、今日もその知恵を巡らせるのだった。

一方、勇は日中のハルトマン捜索に全力をあげていたが、依然として成果は出ていなかった。隠密行動と捜索の両立は意外にも体力を消耗するもので、既に汗だくとなっていた。

 

 

 

 

「もうそろそろ撃墜地点のはずなんだが・・・ん?航空機か?」

 

 

 

 

 

航空機特有のエンジン音が聞こえ、耳を澄ますとハルトマン救助隊の宮藤・服部・シャーリーの三人だった。さらなる被害が出ないことを祈りつつ、殊の推移を見守るつもりが、戦闘は一瞬でケリがついてしまう。

 

 

 

 

 

「やはり、あいつらでも難しいのか・・・」

 

 

 

 

かつてベルリン特攻の道中で戦闘した経験があるが、その時は護衛役として出撃していたため、護衛の戦闘機や輸送機を守りながらの戦闘だったため苦戦を強いられたが、勇自身単独で戦闘した場合、確実に撃墜できる自信があった。しかし、精鋭の中の精鋭と言われる501の彼女たちですら、手も足も出ない現状を目の当たりにして、勇は自分の非常識さを知ることになる。幸い、だれも大事はなかったようだが、ハルトマンの救助活動は限定的になることに変わりはなかった。

 

 

 

 

 

「落ち着け、仕事だ。これは遭難者の捜索であって俺個人の感情は捨てろ・・・ふっ、人助けか・・・」

 

 

 

 

 

勇が再び走り出したころ、バルクホルンはサウナにいた。自分の指示の遅れと敵の戦力を見誤ったことを永遠と振り返りつつ、勇のあのときの表情を思い出していた。それは先ほど破壊したサウナの部屋の壁の破片が散らかるように散乱した思考だった。

 

 

 

 

 

「ユウはどうして強いんだ・・・」

 

 

 

 

そんな台詞を呟いたとき、ミーナがサウナに入ってきた。

 

 

 

 

 

「ユウがいなくなったわ。ユニットが格納庫に残っているから、ハイドリヒ大将のなにかの命令なのかもしれないけど、もしかしたら・・・」

「・・・いや、きっとそうなのだろうよ」

 

 

 

 

 

バルクホルンは考えるのを一旦止め、己のできることに集中し始めた。バルクホルンは勇だけに背負わせることはもうできないと感じた。例え勇が出たとしても、仲間なのだとするのならバルクホルンは立ち上がらないわけにはいかなかった。勇が常に渦中にいるように、バルクホルンも試練に立ち向かうのだった。その結果、翌日までに限界まで身体を搾り、ユニットを限界値まで性能を引き出す魔改造を施すことに成功した。

 

 

 

 

 

「待ってろ!ハルトマンっ!!」

 

 

 

 

 

その頃、勇は未だにハルトマンの手がかりを見いだせずに焦っていた。期日の3日も迫り、ネウロイとの表立った戦闘もできない現状、慎重にならざるを得なかった。

 

 

 

 

 

「くそっ!ハルトマンどこにいるんだ!?」

 

 

 

 

 

その時、緑が生い茂る森の中で何かが輝いた。近づくとウィッチなどに配給される高カロリー食であるチョコレートの包み紙だった。生存者の可能性を見つけ出した勇は安堵する。ハルトマンの手がかりを掴み、苦労が報われた気がした瞬間だった。さらに、その場所から歩くと人工的に開けた場所を発見する。その中には木の下に埋もれた人間らしき影も確認できたことで、勇の心拍数は急上昇する。

 

 

 

 

 

「まさかっ!」

 

 

 

 

走って確認すると、よくできた偽装であることが判明し、胸をなでおろす。おそらくネウロイによる対空脅威をカモフラージュするための物だろうが、これでハルトマンの生存は明らかとなった。この付近にハルトマンは生きているはずなのである。

 

 

 

 

「急げば間に合う!早く探し出さないと・・・あれは」

 

 

 

 

 

勇の目線の先には川に向かうハルトマンの姿を確認できた。あれだけ探し回り、見つからなかったハルトマンが手がかりを見つけた途端に見つかったことになにも思わないでもないが、発見できた喜びを優先することにした。

 

 

 

 

 

「ハルトマン!」

「えっ?!ユウ!!」

 

 

 

 

ハルトマンは偽装のために薄着で活動しており、少々薄汚れてはいるが元気な姿を見せていた。そのことに安堵し、ハルトマンとの再会に歓喜する。

 

 

 

 

「探したぞ、よく生きていたな」

「来てくれてありがとう!みんなは?」

「お前のことをみんなとても心配してたさ。早く帰るぞ」

「うん!」

 

 

 

 

その瞬間、勇とハルトマンの通信機に声が入る。捜索隊の宮藤と服部、そしてなんとバルクホルンがやってきていた。ハルトマンの通信機は送信ができないらしく、耳を澄まして聞いていた。

 

 

 

 

「トゥルーデ来てくれた!てか、ユウの通信機貸してよ!」

「そ、それは・・・」

 

 

 

 

勇が口籠っている最中、例のジェット戦闘機型ネウロイが姿を現す。バルクホルンがこれまた薄着で応戦し、これまでにない切れのある戦闘軌道に勇もハルトマンも空戦に釘付けだった。

 

 

 

 

 

「トゥルーデの方が早い!」

「ああ・・・勝てるぞ」

 

 

 

 

二人の言う通り、バルクホルンはジェット戦闘機型ネウロイの速度と高速機動を完全に見切っていた。そのことにハルトマンは素直に喜んでいたが、勇は違った視点でバルクホルンを見ていた。

 

 

 

 

 

「勝てる・・・が、まだ届かない」

 

 

 

 

バルクホルンの努力は素直に称賛に値するものだが、勇はそれと同時に寂しさを覚えていた。それは、勇の歩んだ過程を、走り抜けた過程をようやく見つけたという段階に自分との能力の差を感じてしまったからだった。やがて戦闘にはケリが着き、一機のジェット戦闘機型ネウロイを倒すことに成功する。

 

 

 

 

 

「やったぁ!!さっすがトゥルーデ!!!」

「そうだな。さすがだよ、トゥルーデ。まったく予想通りだよ」

「あんま嬉しそうじゃないね?」

「ん?そうかな、気にしないでくれ。お前は帰る場所があるだろ。もう大丈夫。一緒に帰りな」

 

 

 

 

勇の言葉の陰に違和感を覚えたハルトマンに対して、空では衝撃が起きていた。

 

 

 

 

 

『あれ、ハルトマン中尉では?』

『そんな・・・ハルトマンさんが・・・』

『エーリカ?・・・』

 

 

 

 

二人して顔を見合わせて、空の視線の先を見やる。その先にはハルトマンの偽装したハルトマンの死体があった。ハルトマンは青ざめた顔をして嘆く。

 

 

 

 

「ああああ!!!しまったぁ!!!」

「やれやれ・・・」

「ユウ!ごめん!私行くよ!」

「ああ、決して振り返るなよ」

 

 

 

 

ハルトマンが走る。そして、勇は帰路に着いた。そんな中、ハルトマンが死んだと思い込んだバルクホルンの心からの声が通信機を伝って勇とハルトマンの耳に届いていた。

 

 

 

 

 

『エーリカ・・・エーリカ!お前失くしてベルリンを取り戻しても意味がないんだ・・・エーリカ、お前は私の・・・ハイマートなんだ」

 

 

 

 

その後、ハルトマン救出部隊は無事に帰還し、元の喧騒を取り戻した501の片隅で、勇は一人左手を眺めていた。

 

 

 

 

 

「姉さん・・・そんなに俺を忘れられないのかい・・・」

 

 

 

 

勇の左手は瞬間移動型ネウロイとの戦闘でつけられた傷から広がるように、黒色の変色域が拡大しつつあった。ベルリンに近づくにつれて、勇の記憶の中の姉の姿は明確な輪郭を帯びて迫ってきていた。暗く閉ざされてきた勇と勇の姉の咲しか知らない、過去の思い出はもう二度と思い出すことはないと思っていたパンドラの憂鬱である。勇はハイドリヒからネウロイの正体を知り、ベルリン最大の敵である瞬間移動型ネウロイの正体に勘づいた今、そのパンドラの箱の扉を、錆びついて重い扉を開くことを決意する。開いた記憶は、今でも鮮明に思い出せ、懐かしい匂いまでもが漂ってくるようだった。

 

 

 

 

 

「こらっ!!また近所の子らを殴ったのか!優雨作(ゆうさく)!」

「へんっ!こいつらが俺のことを馬鹿にするからはっつけてやったんだ!」

「だからって10人も殴りつけることはなかろう!」

 

 

 

 

1934年、現在の勇が9歳は当時、優雨作という名前を名乗っていた。今の勇の保護者は神社の神主であった。勇は捨て子で、それを引き取ったのが神主であり、老齢ながら男手一人で勇を育てる心優しき人物、「榊枝道斎」であった。しかし、そんな環境で育った優雨作は親無き子として周囲から揶揄われることが多く、その度に暴れまわった。

 

 

 

 

「俺は親がいないんじゃないやい!じいちゃんのことを蔑ろにされて黙ってらんねんだ!」

 

 

 

 

優雨作は神主の道斎を爺として仰ぎ、一人でも自分のことを悪く言われると飛びかかる様は猛犬と言われるほどだった。その証拠に、優雨作はまだ9才でありながら人一倍身体能力が高く、年上の男子をも軽々と伸してしまうほどの剛力の持ち主だった。しかし、その力の使い方は今しがた振るわれるような暴力沙汰ばかりであり、そのことに道斎も困り果てていた。

 

 

 

 

「ワシのことを思ってくれるのなら、少しでもワシのお前を心配する気持ちを汲んでくれんか?」

 

 

 

 

優雨作は困った顔を隠すようにそのふくれっ面を膨らませてそっぽを向いた。それを見て道斎は困り果ててしまう。そして、話題を変えるように優雨作に話を持ち出す。

 

 

 

 

 

「はあ、優雨作や、先日こっちに越してきた人がおってな、その家に挨拶に行こうと思うんじゃ。お前も来なさい」

「ちぇー、面倒くさい」

「こらこら・・・そういえば、噂によるとなんでも妻と喧嘩別れした男とその娘がいるそうじゃ。お前もしっかり挨拶するんじゃぞ」

 

 

 

 

優雨作はつまらなそうにあくびをしながら、その家のことを考えていた。近所のちょっかいをかけてくる男子しか見てこなかったため、その娘という存在に少なからず興味があった。

 

 

 

 

「少しでも俺のことを見下したらげんこつ喰らわしてやる」

「こらっ!下らん事考えとらんでシャキッとせい!失礼のないようにな」

 

 

 

 

道斎は優雨作が悪さをしないように手を繋いで歩き出すが、優雨作はそんな道斎の下から見上げる景色が好きだった。歩いているのは田舎道で、周りは畑と田んぼが混ざった農道と朽ち果てかけた家々が点在する。川のせせらぎと動物たちの鳴き声はここらの人口を遥かに凌駕するほどの小さな規模の村である。そんなちんけだが、優雨作にとっての故郷に新しい住人が来るのは珍しいことだった。だからこそ、優雨作はどんな人物が来るのか目星を付けて、敵対する者なのかどうか判断するつもりだった。

 

 

 

 

 

「ほれ、あれじゃ。ワシが子どもの頃にはまだ人が住んでいた古い家でな・・・」

 

 

 

 

道斎は優雨作に説明するが、優雨作はここの立地がどういったものなのかよく理解していた。いわゆる村はずれの場所で、人目に付かない隔絶した場所というわけである。こんな所に住む人間なんて言うのは、おおよそ対外関係がおざなりな人間に決まっていると決めつけて、興味を失くしかけた優雨作と道斎は遂に玄関の戸を叩く。

 

 

 

 

 

「ごめんください。ここらで神主をやっとります、榊枝道斎と申しますが・・・」

 

 

 

 

中からの反応はなく、留守かなと思っていると中から瓶のぶつかる音がしてきたことで人の存在が明らかになる。乱暴に開けられたガラス戸からは、まだ昼間の早いうちだと言うのに顔を真っ赤にし、無精ひげをこしらえた小汚い男が出てきた。

 

 

 

 

 

「うっさいな・・・ひくっ!誰だてめぇらは?」

「これはお休みのところ失礼しました。ワシらはここらで神主を務めております、榊枝と申します。ここらはなにかと不便でしょうから、これからのお付き合いも兼ねて挨拶に参った次第ですじゃ」

「ん~・・・俺はお付き合いする気も、仲良くする気も俺の勝手だ。好きにやるからほっといてくれ」

 

 

 

 

ぴしゃりと扉を閉めると、それっきりまた瓶の転がる音が聞こえ、話はできないと知る。優雨作は道斎を見ると、道斎は元から細い目を細めて困った顔をしていた。優雨作はそんな道斎の困った顔を見て腹が立ってきた。何か一言文句を言ってやろうとしていると、優雨作が来た道から声がする。

 

 

 

 

 

「あの、家になにか御用ですか?」

 

 

 

 

 

優雨作が振り返ると、そこには大きな荷物を背負った少女が不思議そうにこちらを見ていた。身長は優雨作よりも頭一つ大きく、黒髪は艶やかで長く、それでいて背後の桜並木の光景が良く似合うどこか品のある少女だった。

 

 

 

 

 

「ここの家の方ですな?ワシらはここらで神主をしているんじゃが、今日は挨拶に来たんじゃよ」

「ああそうだったんですか!お構いもできず申し訳ありません!」

「いやいや、これはご丁寧に。でも、挨拶も済ませたし、ワシらは帰るとしますじゃ。これ、優雨作も挨拶せんか」

 

 

 

 

ここらで見かけることがなかった年上の綺麗な少女に優雨作は言葉の掛け方を探せずにいた。道斎に前に押し出され、とりあえず挨拶代わりに拳を突き出すと、道斎に後ろからひっぱたかれる。

 

 

 

 

 

「どんな挨拶じゃ!お辞儀せんか!」

「うふふ、面白い子ね!私、赤松咲っていうの!これからよろしくね」

 

 

 

 

 

これが優雨作と咲との初めての出会いだった。勇の少年時代の名である優雨作は、この時の咲の笑顔をよく覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回の話はあのバルクホルンとハルトマンの仲を明確にしたRtoBの内容となっています。私としては、あのバルクホルンがハルトマンの偽装を信じてしまった際に言ったセリフがずっと気になっていました。しかし、今回その一つの答えが出せたのか、出せなかったのか私にも判断しかねる所ではあります。ぜひ皆さんもアニメ視聴後にもう一度バルクホルンが言ったセリフを考えてみてください!

そして、勇と咲の過去の話を最後に持ってきましたが、今後瞬間移動型ネウロイの正体が姉の咲である理由を紹介したとも思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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