ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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投稿が不定期で申し訳ありません。

今回は原作アニメの第9話の「ミーナと空」の内容を基に構成されています。是非、アニメの内容と合わせて読んでいただければと思います。
ではどうぞ!


籠の中の翼 第十三話

この日も勇は桜花に乗り込み、訓練を行おうとしていた。その時、基地にアラートが鳴り響く。

 

 

 

 

「ネウロイの反応が出現しました!」

「なんですって?!すぐに出撃・・・」

「駄目です!ネウロイの反応消失しました!」

「どういうこと?!」

 

 

 

 

一瞬で反応が消失したネウロイの正体は、ロケット型ネウロイだった。奇しくも勇が桜花の訓練を行っている最中のできごとに、ミーナの疑念は増していくばかりだった。そして、そのロケットネウロイの対策として現れたのが、ウルスラ・ハルトマン中尉だった。

 

 

 

 

「ノイエ・カールスラントで開発されたジェット戦闘ユニット、『Me163 コメート』、これであのロケット型ネウロイを迎撃できます!」

 

 

 

 

 

この兵器は従来のジェットストライカーとは違い、局地戦用としての用途が設定されており、急速な加速が得られる代物だった。このコメートの仕様に名乗りを上げたのがミーナだった。

 

 

 

 

 

「ミーナ!指揮官のお前が乗らなくてもいいじゃないか!指揮官がわざわざ危険な任務に行く必要はない!」

「コメートを私以上に扱えるウィッチはいないわ。それに、これならユウにも対抗できる」

「ミーナ・・・」

 

 

 

 

ミーナの堅い意志を前に、バルクホルンも退くしかなかった。そして、ハイドリヒや勇も見守る中、訓練飛行が始まる。

 

 

 

 

 

「お手並み拝見と行きましょう」

 

 

 

 

 

ミーナが発進すると、コメートは物凄い勢いで加速していく。全身の血液が脚に押し込まれるような重圧に耐えながら、目標を撃破する。周りからの賞賛も憚らず、ミーナは着陸する。が、しかしユニットから脚を抜くと魔法力が欠乏し、ふらついてしまう。

 

 

 

 

 

「おいミーナ、大丈夫か?」

「ええ、ちょっとつまずいただけよ」

 

 

 

 

 

強がってみせるものの、ミーナの脚は震えが止まらなかった。他の隊員、延いてはハイドリヒや勇の前だからこそその矜持を保てることができた。ハイドリヒは拍手しながら、その笑顔を隠そうともしない。

 

 

 

 

 

「お見事でした。さすがの固有魔法ですね」

「ええ、舐めてもらっては困ります。では・・・」

「ええ、舐めてなんていないですとも。諸刃の剣でも」

 

 

 

 

その後、ミーナはその足でお風呂に入りに行く。何とか隠し通せたが、シャワーを浴びて人目を憚らないと震えたため息は隠せそうもなかった。お湯を頭から浴び、気を紛らわしていると誰かが入ってくる。おおよそバルクホルンだろうと思い、そのままでいると隣の場所の戸が開いた。湯気が立ち込める室内で、仕切りがあるとは言え、そのシルエットの大きさでバルクホルンではないことを知る。

 

 

 

 

 

「ゆ、ユウ?!」

「ああ、すまない。入渠時間が今しか取れなくてな。いつもこの時間に入っているんだ。だれもいないからな」

 

 

 

 

ごく自然に入ってきて、今しがたもミーナがいるのにも関わらずシャワーを浴び続ける勇に、ミーナは動揺が隠せなかった。しかし、それも気にせず汗を流す勇の姿を見て、自分の肌を無意識に隠してしまう。いくら勇がシャワーを浴びているため目を閉じているとは言え、意識されないというのも癪だった。しかし、勇はそんなミーナの態度を知ろうともせずに話しかける。

 

 

 

 

 

「ミーナ、お前魔法力が限界だな」

「え・・・」

 

 

 

 

 

突然の質問と、図星を突かれたことに言葉を失う。勇はさっさと体を洗い終えるともう用はないとばかりに去ろうとする。

 

 

 

 

 

「ミーナ、俺にはもう関わるな。お前までいなくなったら寂しい」

 

 

 

 

 

その言葉を最後に勇は風呂場から出てしまう。一人残された浴室には、シャワーの流れる音と一人の少女だけが際立っていた。シャワーから戻った勇はすぐにハイドリヒの下を訪れていた。

 

 

 

 

 

「勇中佐はミーナ中佐の実力をどうみますか」

「俺は判断するに値しないと思うが」

「主観で構いません」

「・・・到底俺の速度に追いつけるとは思えない。が・・・彼女はその名が轟く第501統合戦闘航空団の隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐だ。ハイドリヒ、お前が暗殺しようとした位のウィッチだぞ?ミーナ中佐は死に物狂いで食らいついて来る」

 

 

 

 

勇の見たてを嬉しそうに聞き入るハイドリヒは、手を叩いて喝采した。

 

 

 

 

 

「そうでなくては面白くありません!我々は、我々の前に立ちはだかる障害は全て払ってきました。この状況に置いて、あなたはネウロイが我々が払う最大の障害だと思っているでしょうが、私たちの障害は常に人間であり、人間こそがこの世界にとって最大の敵だと言っても過言ではありません!」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは立ち上がり、その打ち震える情熱を拳に込めて振るう。まるでオーケストラの指揮者のように振るうその様子はさながら地獄の黙示録の編集者の様だった。

 

 

 

 

 

「お前、本当はネウロイと戦争する気はないんじゃないか?」

「ようやく理解者が現れました、大変嬉しく思います。私の使命はこの世界の秩序の保護!私はこの増えすぎた障害を払い、適切な形で運用する理想郷を建設するために全生命を費やしているのです!」

「『ハイドリヒ』の理想郷だろ、それを人類の枠に当てはめるな」

 

 

 

 

 

ハイドリヒはそんな勇の小言を高笑いで吹き飛ばす。どこがおかしいのか勇には分かってしまっていた。

 

 

 

 

 

「そんなにお前が『守護したい』ものは崇高なのか?」

「勇中佐、あなたもやはりこちら側の人間なのですね!分かっていただけると思っていましたよ!もちろん崇高ですとも。私は人類の守護者であり、番人なのです。人は皆、自分が見ている視点で物を主張します。例えば、窓が違う方向にそれぞれついている家があるとしましょう。一人は山の景色を、もう一人は海の景色を、またもう一人は荒野を、では最後の一人は何を見たと主張すると思いますか?」

 

 

 

 

ハイドリヒは自分の守りたいものの幻想について語る。勇にもその景色は見えているが、酷く殺風景なものに見えていた。

 

 

 

 

 

「それぞれを見ている人間たちを見た、と言うのですよ。物事は一方向では語れません。しかし、近代に入り、人間は産業革命の産物に目を奪われ、機械を介した偶像を実像だと思い込んで憚りません。私が創る世界は全てであり、真実です。私が全てを見せてやるのです」

 

 

 

 

 

勇は酷く殺風景な部屋でハイドリヒと膝を突き合わせて座っている。ハイドリヒが浮かべる世界の景色の色が見えてきたが、その見えた景色が真っ白で何もなかったのだ。

 

 

 

 

 

「それはお前が神になったみたいだな」

「妥当でしょう。盲目な人間を導くのですから、守護者とは創生者、つまりは神です。神が仕事を放棄した現状、だれかがその役目を担わなければなりません。私が神に取って代わるのです」

「俺はその先駆けと?」

「言ったではありませんか。生きながらにして神に至るあなたは誰よりも先駆者になる。そして、それを導いた私が後を率いるのです」

 

 

 

 

 

世界は廻り、朝と夜が入れ替わる中、ハイドリヒだけはそれを紙芝居で見せようとしている。真っ白な世界が絵具で彩られていく。それは色と色とが混じり合うのではなく、きちんと線引きされたすっきりとした世界だった。

 

 

 

 

 

「ネウロイはこうした世界の守護者なのでしょう。忘れられた者が、風化させないために存在するのが世界の神経細胞であるネウロイ・・・なんと合理的なのでしょう。私もこの案は採用したと思います。私の世界では選ばれた人間が暮らし、慈しみと同じ目標に向かって歩む、人類共同体を創るのです」

「いいかハイドリヒ。一つ教えておいてやる。人間はそんな押し付けられた価値観の中で生きるのが大嫌いな生き物だ。生物は自ら生きる道を見つけ出す」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは面白そうに勇の意見を聞き入れた上で、反論する。

 

 

 

 

 

 

「では、その価値観とはなんですか?これまでの価値観は人間が作り、飼い慣らされた価値観です。だから人類は大きな変革を嫌うのです。それが未来で自分たちを良くしてくれるとも考えずに。ならば、私がその価値観も書き換えましょう。新しい世界では私が価値観です」

「独裁者はいつか必ず降ろされるぞ」

 

 

 

 

 

ハイドリヒはその言葉を待っていたとばかりに机に手を着く。

 

 

 

 

 

「そうですとも!その点でミーナ中佐はいい!あのような優秀な人間こそ生き残るに値する人間です!私が思い浮かぶ世界の中で、私の価値観に染まった世界でも必ずはみ出し者は出てきます。そんな時、その時の価値観を自分の信念として守ろうとする者は懸命に戦います。私はこの二重構造を意図的に生み出したいのです!そして、辿り着くのは・・・本当の楽園。だれもが統一された価値観の下で合理的に生きていく社会。ああ、なんと素晴らしい!」

 

 

 

 

 

恍惚とした表情の中、勇はハイドリヒの存在が分からなくなっていた。この線引きされた整った世界には概念がない。その中で概念であり続ける人間など存在するのであろうか。そう考えると、ハイドリヒという存在がますます薄くなる。同じ未来を見た者同士として、勇はハイドリヒに質問する。

 

 

 

 

「じゃあお前は、その世界が完成したらどうなるんだ?」

「考えてもいませんでした・・・そうですね、おそらく私は淘汰されるでしょう。統一され、変革が必要なくなった世界で変革者が不要なように、完成した世界ではその価値観が普通であり当然となり果てるのです」

 

 

 

 

 

驚いたことにハイドリヒは未来の自分の姿を想像していなかった。しかし、それでも平然と自分の身の破滅を予見できるこの男は危険と言わざるを得なかった。そして、ハイドリヒは自分の未来を紡ぎ出すために勇を遣わす。

 

 

 

 

 

「さあ、新たな世界を作る第一歩です!この作戦には意味があります!未来に必要な人間、これを守るノアの箱舟となるのです。これは命令です。勇中佐・・・ミーナ中佐を、死守しなさい」

 

 

 

 

 

翌日、ロケット型ネウロイの迎撃のため編成を組、ベルリン近郊のアウトバーンまで浸透作戦を実行することが立案された。

 

 

 

 

 

「今回の作戦で、私とユニット技師とすてウルスラさん、あと二人を募集します」

「私が行こう」

「私も行きます!」

 

 

 

 

バルクホルンと宮藤が名乗りを上げるが、宮藤は魔法力の問題から却下されてしまう。そして、あと一人のところにはハルトマンが手を挙げた。

 

 

 

 

 

「運転手がいるよね!」

「今回は俺も行こう」

「ユウ!あなたも来てくれるの?」

 

 

 

 

勇の参加に一同は困惑しながらも、参加を喜んでくれた。ミーナも仕方なく護衛役として勇の参加を承認し、出撃が決定した。ハイドリヒは珍しく出張に出かける為、ミーナも安心して残った隊員の中で最も階級の高いシャーリーに後を任せる。そして宮藤にあることを頼んでおく。

 

 

 

 

「宮藤さん、あなたにも頼まれてほしいことがあるの」

「はいっ!なんでもやります!」

「ありがとう。じゃあ、これを・・・」

 

 

 

 

勇は宮藤に渡す何かを横目で見ながら、ミーナの護衛に思考を巡らせる。今回は勇の行動範囲が大幅に制限解除され、定時連絡の類もなかった。要するに自由にミーナを護衛できるのである。運転役にハルトマンと勇が選ばれ、二台での行動が開始された。しばらくすると深い森に入り、ネウロイの監視が薄そうな場所で一夜を明かすこととなった。

 

 

 

 

 

「はい、姉さま。コーヒーです」

「ありがと!・・・うげぇなにこれ」

「タンポポの根を煎じた代用コーヒーです」

「贅沢を言うな」

「うふふ、ベルリンを奪還したらみんなでカフェに出かけましょ!」

「ケーキもある?!」

 

 

 

 

 

和やかな話しを前に、勇は持ち物を確認し、木の陰で銃を抱えて敵の襲撃に備えていた。持ち物は最低限とし、衣服の替えしか持ってきていなかった。そこにミーナがコーヒーを持ってやってくる。

 

 

 

 

 

「ユウ、あなたも少しは休んで」

「俺は平気だ。だが、ありがたくもらうよ」

「はあ、こうしてるとなんだか不思議と気が落ち着くわね」

 

 

 

 

春といえどまだ夜は冷え込み、暖かいコーヒーが揺らめく湯気を立てているのを目で眺めてしまう。だが、そんなミーナを見て、勇は命令としてここにきているという事実を隠していることに口を噤んでしまう。

 

 

 

 

 

「あなたも一緒にお茶しましょう」

「今飲んでるじゃないか、一緒に」

「うふふ、そうじゃなくて、ベルリンを奪還したらよ。大丈夫、あなたもハイドリヒ長官から奪還してみせるから」

 

 

 

 

ミーナの目は本気だった。振り返ってみるとミーナはいつだって本気だったのである。一度たりとも無理なことは言わない。それがミーナという隊長の持つ風格だった。それでも勇はその未来だけは掴みえない、ミーナの汚点になってしまうことが悔しかった。

 

 

 

 

 

「夢を戦闘前に語るのは縁起が悪いぞ」

「うふふ、トゥルーデと同じことを言うのね。やっぱりあなたは変わらないわ」

 

 

 

 

 

嬉しそうに笑うその姿に、勇の胸はキュッと締め付けられる。自分の手は真っ赤に染まっている。それか真っ黒だ。変わらないとしたら自分のミーナたちを守りたいと言う信念だけだろう。そんな皮肉を考えると、ウルスラがやってくる。

 

 

 

 

「赤松中佐、以前見かけた時よりだいぶ痩せたようですね。是非補給をしてコンディションを整えてくださいね」

「ああ、悪いな」

 

 

 

 

 

勇は以前のウルスラへの隠れたいという感情は消え失せていた。そして、手渡された食事にモシャついていると首元のハイドリヒから貰ったネックレスになにやら熱い視線を向けてくることに気づく。

 

 

 

 

 

「赤松中佐、このネックレス・・・」

「ああ、これはハイドリヒから着けているように言われてな。これがどうかしたか」

「い、いえ・・・以前どこかで耳にした兵器に似ているような気がしまして」

 

 

 

 

煮え切らない態度のウルスラは置いておいて、すっかり冷めてしまった食事を平らげることに集中する。

 

 

 

 

 

「あれはもしかして・・・」

 

 

 

 

 

翌朝、再び出発し、予定時刻にアウトバーンの下に到着する。ジェットストライカーに燃料を注入する間、バルクホルンとハルトマンの二人は上空警戒を行い、勇は周囲の安全を確保するために索敵を行う。燃料の注入にあと10分ほどのところで勇は異変に気付く。

 

 

 

 

「来るぞ」

 

 

 

 

地上の監視ネウロイが接近し、ミーナたちのことを捉えようとしていた。それをすかさず倒してしまう。すると、倒した瞬間にバルクホルンらが苦戦したジェット戦闘機型ネウロイが現れる。まさか監視ネウロイ自体が位置情報を放っていた可能性を失念しており、倒してしまった時点でこちらの居場所がバレたと知る。

 

 

 

 

 

「敵襲!!!」

「なんですって!」

「出るぞハルトマンっ!」

「うん!」

 

 

 

 

勇の警告ですぐに発進する二人がジェット戦闘機型ネウロイを相手にし、勇はすぐにミーナの周囲を護衛する。周りに敵がいないことを確認すると、勇も旧式ではあるが零戦に乗る。ミーナの身辺を護衛するつもりだがシールドに関しては、その緻密な魔法力操作と魔法圧調整能力によりおそらく宮藤よりも限定的ではあるが固いシールドを張れる自信すらあった。

 

 

 

 

 

「ここは俺が守る。早く準備を整えろ」

 

 

 

 

 

ミーナとウルスラが準備を整える間、ジェット戦闘機型ネウロイを二人がかりで抑え込んではいるが、どうにも目標はミーナとそのユニットらしいことが伺える。二人の隙を突いて攻撃を仕掛けてくるが、しっかりと勇が防御する。

 

 

 

 

 

「ありがとう、ユウ!」

「いいから早く行け!」

 

 

 

 

ロケット型ネウロイの発射が予定よりも早く、現在進行形で危機的状況であることは変わらない。あのロケット型ネウロイがキール軍港を襲うだけで、甚大な被害とハイドリヒはさぞかし怒り狂うだろう。狂っていてもあのハイドリヒという男は早く作戦を成功させたいと願っているのだ。そして、ミーナが発進したところで勇もミーナに続く。さすがの加速力については行けず、ミーナの上空警戒程度しか務まらないが、それでも行く。

 

 

 

 

 

「うまくいきすぎてる・・・」

 

 

 

 

 

勇はミーナがロケット型ネウロイの迎撃に迎い、そのロケットも撃ち落せることだろう。しかし、姉である咲に呼ばれてこの因果を導いているのだとしたら、これで終わるはずもなかった。間もなくミーナから悲痛な報告が入る。

 

 

 

 

 

『こちらミーナ・・・ロケット型ネウロイを多数視認!』

『どういうことだミーナ!?』

『行ったらもう燃料が残ってないよ!そしたら巣に真っ逆さまだよ!』

『おい、聞いているのか!ミーナ?!』

 

 

 

 

同じく通信を聞いていたバルクホルンとハルトマンの二人がミーナの報告からミーナが行こうとしていることに気が付く。それはミーナの護衛をしている勇にも感じられていた。それは一番自分が分かっている感情だからこそ、いち早く行動することができた。

 

 

 

 

 

『トゥルーデ、エーリカ・・・あとはお願い』

 

 

 

 

 

その一言を遺してミーナは通信機も投げ捨てる。そして、もう一度ジェットストライカーでロケット型ネウロイの迎撃に向かってしまう。勇もあと寸でのところまで来ていたが、ミーナはその豪速のジェットストライカーで引き離されてしまう。

 

 

 

 

 

「くそっ!ミーナのやつ!こうなったらやるしかあるまい・・・」

 

 

 

 

 

勇は目を閉じ、ハイドリヒからの命令の内、自分の魔法力についてやこれまでの戦闘のことを話すのを禁じられていた。しかし、最優先命令の死守命令が出されているミーナの保護のため、勇は自分の魔法力の一部を開放する。全神経を集中させ、魔法力と魔法圧の配分を最適化させる。そして、その最大化された魔法力はユニットへ送られ速度へと変換される。

 

 

 

 

 

「ジェットには比べるまでもないが、誰も守れないよりはマシだ!」

 

 

 

 

 

勇の目指す先はミーナで、そのミーナは全力で発射台に今まさに発射しようとしているロケット型ネウロイを根こそぎ破壊していた。しかし、燃料が残り少ないのかフラフラと蛇行しながら、ミーナの圧倒的熟練した機体操作のおかげで全機撃破に成功していた。

 

 

 

 

 

「お願い!あと少し!あと少しだけ力を貸して!」

 

 

 

 

 

ミーナは目の前の目標を狙い続ける。引き金を引く指の感覚が薄くなり、徐々に脚から魔法力が抜けていく感覚に襲われながらも、全ては守るべきもののために引き金を引き続けた。そして、遂に見える全てのロケット型ネウロイの撃破に成功した。目の前には、悲痛な叫び声をあげるようなネウロイの巣が、その動力を落としているようにも見えた。

 

 

 

 

 

「やった・・・」

 

 

 

 

 

しかし、ネウロイの巣同様にミーナも自身の魔法力とユニットの燃料が同時に底を突いていた。全ての体力と魔法力を消費し、もうミーナには銃を握るだけの握力も残されてはいなかった。ゆっくりと落ちて行く浮遊感が心地よく、風が耳を割く音はどこまでも暗く、それでいてミーナは安心と不安に襲われていた。

 

 

 

 

 

(トゥルーデ、エーリカ・・・ごめんなさい・・・ユウ、あなたとの約束も、守れないわ・・・もう一度でいいから・・・あなたの背中で同じ景色が見てみたかった・・・)

 

 

 

 

 

ミーナはサントロン基地での戦闘からの帰還したときをふと思い出していた。ミーナと勇の二人で戦い抜いた戦闘は、いつになく劣勢で、それでもなんとか二人で難局を乗り切り、背中に乗せられたまま基地に向かい、恥ずかしい思いをして怪我をさせてしまった記憶。そして、宮藤の魔法力が復活した後に見た、軍帽に隠された勇の顔がゆっくりと思い起こされていた。しかし、その記憶もふわりとした重力と共に光が差し込んだことで終わりを迎える。

 

 

 

 

 

「まったく、強情なやつだ・・・」

 

 

 

 

 

その声はミーナの耳が目を開くだけの希望を与える声だった。目を開くとそこには勇の顔があった。常に前を向き、飛び続ける彼の姿は、まさにミーナが想い焦がれるそのままの彼だった。

 

 

 

 

 

「どうして・・・」

「任務だからな」

 

 

 

 

 

まったく無表情で可愛さの欠片も失くなってしまった彼の言葉が嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。お姫様抱っこの形で運ばれ、本来恥ずべく姿だったが、憧れの存在が自分を一番に救いに来てくれた事実がミーナにとってなによりも幸せだった。嬉しさと反省で涙が溢れる。だからミーナはお返しをする。自分の手の拳に優しく口づけをする。

 

 

 

 

 

「バカ」

 

 

 

 

 

その拳は優しく勇の頬に吸い込まれる。気にもしない勇は今しがた追いついたバルクホルンとハルトマンの二人にミーナを引き渡す。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ!!」

「すまない、無理してユニットがガタガタだ。先に戻る」

「ユウ・・・さっきのあの速度、零戦の物じゃないぞ」

「・・・やれることをしたまでだよ」

 

 

 

 

ハルトマンとバルクホルンにミーナを渡すと、勇はがたつく零戦を制御しながら先にアウトバーンの所まで戻る。待っていたのはウルスラだった。

 

 

 

 

 

「赤松中佐、ミーナ中佐をありがとうございました」

「任務だからな」

「それにしても今回のロケット型ネウロイの出現といい、あなたの乗るあの機体といい、もしかして・・・」

「それ以上は話すな・・・分かった、後で話してやる」

 

 

 

 

 

ウルスラは神妙な顔で聞いていたが、なにか知り得ていることは勇にも分かった。いずれにしても今後、自分が行う義務と作戦には関連があることを考慮すれば、賢いウルスラは後々役立つだろうと考えた。そうしていると三人が戻ってくるところだった。

 

 

 

 

「皆さん!っあ!」

 

 

 

 

駆け寄ったウルスラが躓いたのは、ジェットストライカーの燃料補給用の管だった。その管が外れると、燃料が噴出し、そこら中に撒き散らす。勇も咄嗟にシールドを展開し、それを防ぐも、今しがた来た三人は間に合わなかった。燃料を浴び、衣服が溶けてしまっていた。

 

 

 

 

 

「なっ、なんだこれは!」

「か、隠す物は?!」

「ウルスラぁ!!!」

 

 

 

 

素っ裸になってしまった四人は替えの衣服などは持ってきておらず、勇という異性の存在に酷く動揺していた。勇は黙って自分の荷物から替えの衣服と今来ている上着を脱ぐと、その場に放り出す。勇の体格のサイズなら四人には十分な大きさであり、事足りた。そして、勇は黙ってトラックの運転席に乗り込み、目を閉ざすのだった。

帰りの道中、勇の服を着た三人はギャーギャーと騒いでいたが、勇は全てを無視するとやがて声はしなくなり、次第に眠ってしまった。トラックの一台が攻撃により破壊されてしまったため、一台での帰路は荷台に三人を乗せ、運転席には勇とウルスラが座っていた。

 

 

 

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

 

 

互いにあまりしゃべらない性格のため、道中はしばらく無言だった。しかし、勇はウルスラの動じない視線に圧力を感じていた。

 

 

 

 

 

「ウルスラ中尉、ずっと見ているというのも趣味が悪くないか」

「いえ、あなたが話してくれるのを待っていました」

「そうか、何を話せばいい?」

「あなたとネウロイとの関係です」

 

 

 

 

 

ウルスラは待ち望んだ解答を、ずっと待っていた。勇も話すと約束した手前、惚けるつもりもなかった。だから、勇が思うベルリンのあの瞬間移動型ネウロイの正体についてウルスラに話すことにした。

 

 

 

 

 

「あれは俺の姉に腕相撲で負けた後のことだ」

 

 

 

 

 

運転しながら、自分の記憶の蓋をそっと開ける。だれにも汚されず開かせたことのない蓋は今も錆びつくことなく開いてしまう。しかし、そこには勇の一番隠したかった過去が眠っていた。

 

 

 

 

 

 

「じいちゃん、塩梅はどうだ?」

「ああ、悪いよ・・・」

 

 

 

 

 

床に臥せっているのは優雨作の保護者である榊枝道斎だった。優雨作が起こした傷害事件の謝罪の後、風邪を引いたと、臥せっていた。優雨作は必死に看病してはいるが、一向に回復の兆しが見えることはなく、症状は悪化の一途をたどっていた。

 

 

 

 

 

「ごめんください、道斎さんのお見舞いに来ました」

 

 

 

 

 

ここのところ咲も看病によく顔を出すようになり、二人で看病をしていた。道斎は次第にやせ細り、元々細い身体は骨と皮だけになっていた。医者などはいるはずもなく、薬剤師という体の漢方医が持ってくる薬だけが頼りという状態だった。

 

 

 

 

 

「道斎さん、何か口にしないと・・・」

「なんもいらんなぁ」

「じいちゃん俺が玉子酒作ってやろうか?」

「ん・・・葛湯、なら・・・」

 

 

 

 

葛の木の根を粉末状にしたものを湯に溶かした、経口流動食という希望を口にした瞬間に優雨作は走って部屋を出ていた。それほどに優雨作は道斎の体調を心配しているのが伝わり、咲は微笑ましく、また物悲しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

「本当に優雨作くんに伝えなくていいんですか?」

「ああ、今ですらこんなに尽くしてくれんじゃ。ワシがもう駄目だと知ったらあの子まで駄目になってしまいかねんよ・・・」

 

 

 

 

 

口から涎が垂れてしまうのも拭くこともできなくなってしまった道斎の代わりに、咲が口元を拭いてやる。道斎の気持ちもよく理解できるが、咲には道斎の死後の優雨作の方がどうにかなってしまうのではないかと心配していた。

 

 

 

 

 

「もし、ワシが死んだ後に困ったことがあったらあるところに世話を見てもらえるように頼んであるんじゃよ」

 

 

 

 

 

咲の心を読んだのか、その答えを先に提示する道斎だったが、その世話をする人物と言うのに心当たりがなかった。

 

 

 

 

 

「どちらの人ですか?」

「海軍の知人じゃ。昔、あれは1904年か、扶桑沖で怪異との戦いがあったときのことじゃ。ワシは先代の付き添いで海軍の偉いさんの所で、祝詞を寿ぐ役目を仰せつかったんじゃ。ワシではなく、ワシの父親が名が通った人物でな、ワシはさっぱりじゃったが、ワシはこの目でしっかりと見たんじゃ」

 

 

 

 

 

当時のことを今しがた見たことのように、道斎はしわがれた目を輝かせて話した。

 

 

 

 

 

「あれはワシよりも少し若いくらいの年ごろの女の子じゃった。その女の子は不思議な力を持った巫女で、襲い掛かる怪異という災厄から扶桑を守らんがために立ち上がったお人じゃと言う。ワシはなんとも凄いお人じゃと年上ながら恥ずかしい思いをしたもんじゃ・・・」

「その方のお名前は?」

「たしか・・・秋本芳子さんと言ったか。先代はその方に神の力を寄せるということで、それは強い力で祈った。ワシはそういった力には恵まれんでな、先代の後ろで必死にただ祈っとった。その祈りが通じたかは分からんが、その後、そのお方は扶桑沖戦役と名がつく戦いの功労者として名を上げる活躍をしたんじゃ」

 

 

 

 

 

咲には今道斎が話している存在が咲と同様のウィッチであることを知っている。しかし、それを隠すために故郷を離れ、こうして田舎に身を潜めているため、自分もウィッチであると言うことを伝えたくても伝えることができずにいた。

 

 

 

 

 

「先代が亡くなって、ワシはなんの力もない神主となった。しかし、先代はワシに言ったのじゃ。『お前には私にもない力が宿っている。それは人に見えることはない力だが、お前が望むならきっとそれに応えてくれるだろう』とな・・・だが、それも今日まで現れることはなかった」

 

 

 

 

 

道斎の先代は何のためにこんな嘘をついたのか、咲は道斎という心優しい人物に宿る、当時の野心と無駄だと分かった時の落胆を想像した。しかし、道斎は咲の手に自分の瘦せ衰えた少し暖かい手を乗せる。

 

 

 

 

 

「ワシは思うんじゃ。ワシには何の力もない。ワシの血筋はこれで潰えると・・・だが、そこに優雨作が現れた。血の繋がりもない子じゃが、あの子は何かが宿った子じゃとワシは直感的に思えてならんのじゃ。もし、ワシの先代の力の噂を聞いて、あの子をワシに預けたのだとしたら、きっと咲ちゃん、君もここで会うために神様が導いてくれた思し召しなのじゃと」

 

 

 

 

神に仕える身として、道斎はこれまで一心に祈りを続けてきた。自分に帰ってくる保証もない中、ただ無心に祈ったのだろう。そんな中、優雨作が現れた。これは天啓というものなのかもしれないが、道斎の思う、優雨作がウィッチの力を持った少年であることは的を得ている。そして、自分も巡り合った。道斎の強い思いが二人を引き合わせたと思うと、道斎の力とは実に滑稽なことに適ったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

「咲ちゃん、あの子を、優雨作を頼むよ。ワシは『最後のお勤め』を果たさなければならん」

 

 

 

 

 

道斎は分かっていたのかもしれない。優雨作も咲自身もウィッチであることを。だから、初めて優雨作の下を訪れた時に『咲ちゃんの事情も分かっている』と言ったのだろう。この道斎という人の本当の力とは引き合わせる仲介者という稀な力なのかもしれない、そう考えれば考えるほど道斎の思う、優雨作への想いが本物なのだと分かってしまった。そして、それ以降道斎が起きることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回はハイドリヒの真実とミーナの活躍を描いてみました。ハイドリヒがミーナを暗殺対象から保護対象にしたことは意外だと思います。「全て燃やせ!」と言わせてもみたいキャラですが、今後の活躍をご期待ください。そして、ウルスラがまた登場しましたが、勇くんがウルスラの言葉を遮ったのも『自ら関わった存在』を巻き込まないために勇くんから喋るという禁忌を犯したことで、責任を勇くんが全て負うという意思の表れを示しています。(分かりにくくてすみません)そして、道斎が見た「秋本芳子」という人物もストパンガチ勢なら分かってしまうかもしれませんが、今後の繋がりにご期待ください。

あと、燃料で服だけが溶けるなんて設定考えたやつ・・・馬鹿野郎!勇くんの罪がまた増えましたね。

また、道斎についてですが、この人物の元ネタは私の祖父です。体調は?と尋ねると「悪い」と答えるような人でしたが、頑固で芯のある人でした。前話の水面に映った揺れる月を「笑った」と表現したのも祖父であります。まあ、作中では石を投げこんで揺らした水面ですが、本当は酔って川に立ちションをした際に見えた月を見た祖父がそう表現そうなのですが・・・それを警官に見つかってその警官を投げ飛ばして川に突き落として帰ってきたと言う蛮勇な落ちまでついています。(後日警察署には謝罪に行ったそうです)



さて、次回からはおそらくクライマックスに差し掛かっていくと思います!次回も是非よろしくお願いします!
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