ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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お久しぶりです。生きてます。

今回の話からアニメ原作のクライマックスに突入します。勇くんの過去編もこれにて終了すると思われます。ではどうぞ!


籠の中の翼 第十四話

そこまで話すと、ウルスラは勇の話を黙って聞いていた。なぜその場にいなかった勇がこの話を知っているかから話すことにしようと、勇は話を続ける。

 

 

 

 

「なぜその話を知っているか、それは葛湯を作りに行ったわけだが、葛湯自体にはあまり甘みがないから、甘みをつけようと金平糖を入れることを思い付いた俺が、取りに戻ったから聞いてしまった話なんだ。聞きたくはなかったが・・・」

 

 

 

 

そして、勇は自分がウィッチに至る経緯から話し始めた。

 

 

 

 

 

「あれはじいちゃんが息を引き取って葬式を執り行う日のことだった」

 

 

 

 

 

道斎の葬式には村中の人間が集まった。村の相談役として長年村の仲を取り持った道斎を弔おうと大勢が集まり、村長が優雨作に代わり喪主を務めることになった。優雨作は咲と共に遺族席に追いやられ弔辞を座して聞いていた。そこには様々な人物が参列しており、中には海軍の将校の制服を着た人物までが列席していた。その人物が勇の下を訪れた。

 

 

 

 

 

「君が道斎殿の言っていた子だね。この度はご愁傷様。私は海軍の楠昌繁という。何か困ったことがあれば私の所に来なさい」

 

 

 

 

 

そういう海軍の将校、楠昌繫は優雨作に自分の詳細を書いた紙を渡す。優雨作はその紙を見ずに咲に渡してしまう。

 

 

 

 

 

「いいの?」

「どうせ俺は姉ちゃんの部下だ。姉ちゃんが持っててくれよ」

「そう・・・」

 

 

 

 

優雨作は咲に腕相撲で負けてから頑なに咲の言うことを聞いていた。もはや優雨作には咲しかいないのである。道斎に頼まれた咲としても優雨作の面倒を見ていたいという思いもあり、仕方なくその紙を受け取る。式は恙なく進み、最後に遺族の最後の別れとして御香を捧げる段になった。優雨作が道斎の棺の前に立つと周りの人間はひそひそと話し始める。

 

 

 

 

「あれが道斎さんの・・・」

「暴れん坊で引き取り手がないって」

「さぞかし大変な思いをしたんじゃろうて」

 

 

 

 

あることないことを囁き合う村人たちに咲はいわれのない怒りの感情が沸き立つ。しかし、優雨作はそんな声がまるで耳に入らないかのように立ち尽くしている。咲が思わず駆け寄りたくなる衝動に駆られると、優雨作が衝撃の行動に出る。

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

本来少量の御香を摘まんで落とす行為だが、優雨作はそれを豪快に掴むと道斎の遺影に向かって投げかける。その場にいた全員の度肝を抜く行為に、優雨作と咲だけが聞こえる声で呟いた。

 

 

 

 

 

「じいちゃん、じゃあな」

 

 

 

 

優雨作の行いに押し黙る者、激高して優雨作をつとっ捕まえようとする者が混在する中、優雨作は駆け出してしまう。咲は優雨作を追いかける。まだ部屋からはどよめく声がひっきりなしに聞こえてくる。飛び出した優雨作がいた場所は神社の本尊だった。薄暗く、底冷えするその部屋に勇が立ち尽くしていた。とりあえず咲は優雨作の後ろに立つ。

 

 

 

 

 

「あんたは織田の殿様のつもりなの?」

「まだいるよ・・・」

「どういうこと?」

 

 

 

 

咲が横に並ぶと、優雨作の足元にはいくつかの染みができていた。それは初めて見た優雨作の涙だった。

 

 

 

 

 

「みんなみんなじいちゃんを分かっとらん!じいちゃんは!じいちゃんは死んでなんかいねえ!だって・・・俺のじいちゃんは今も笑って、俺の中さいるんだ!」

 

 

 

 

 

東北訛りの言葉は生まれた地域こそ違えど、咲の心に届いていた。優雨作のボロボロと流す涙は、本尊の床を濡らすことを憚らずに大きな染みを浮かせた。何度も雑巾がけをした床、道斎と過ごした日々が涙と一緒に流れて行ってしまうような気がして、涙を止めようにも溢れては零れて行ってしまう。咲は優雨作の涙を拭くことはせず、しっかりと抱きしめる。その時だった。突如として優雨作の身体から光が溢れてきた。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと優雨作!」

「え・・・」

 

 

 

 

本尊の奥が開き、御開帳の様相がまさに神々しさを演出していた。その後光の如き光は優雨作だけを照らし、暖かさを優雨作に齎した。優雨作は起こっている現象に戸惑い、咲は確信した。

 

 

 

 

 

「依り代だ・・・道斎さんが優雨作に入った!」

「じいちゃんが?」

 

 

 

 

咲は驚愕していた。本来ウィッチは神の遣いである動物を遣い魔として、ウィッチと融合することにより魔法力を発現させる。その証拠として咲は丹頂鶴と契約し、魔法力を発現すると動物の耳としっぽが出てくる。しかし、優雨作にはその耳などが見当たらないにも関わらず、きちんとウィッチとしての素質が一体化していた。まさに、道斎が遣いとして宿ったのだと確信できた。

 

 

 

 

 

「道斎さんが優雨作に息づいたんだよ・・・ずっと君を見てくれる。君は一人じゃないよ」

「じいちゃん・・・うわあああん!!」

 

 

 

 

 

その後、優雨作と咲は自分がウィッチであるということは二人の秘密とした。優雨作は案の定村人からは疎まれ、だれも関わろうとしなかった。しかし、優雨作は神社の清掃を引き続き行い、一人で神社を守っていた。そして、毎日咲が優雨作の下を訪れ、ご飯などを共にし、ウィッチとして魔法力の扱い方を伝授するという日々が続いていた。

 

 

 

 

 

「ふう、優雨作はウィッチの素質に恵まれてるわね」

「本当?」

「ええ、魔法力の伝達が私の次に上手よ」

「ちぇー姉ちゃんの次かよ」

「調子に乗らない!」

 

 

 

 

 

咲は当初優雨作が一人で神社に残ることを心配した。しかし、優雨作は日を追うごとに逞しくなり、魔法力の扱いに関しては咲が驚くほど上達速度が早かった。元々遣い魔と契約していなくとも、溢れ出る力を喧嘩という行為ではあるが、行使してきたため身体に魔法力が馴染むのも早かったのだろう。だが、まだ保護者である道斎を亡くしたばかりで精神的に不安定であるのには変わらなかった。

 

 

 

 

 

「君は私が必ず守るからね」

「・・・もう腕相撲も負けないよ」

 

 

 

 

 

強がる優雨作が愛おしく、道斎から託された咲としても、このまま楽しくこの地で過ごせる未来を楽しみにしていた。しかし、その穏やかな未来さえ大声でかき消されてしまう。

 

 

 

 

 

「咲!こんなところで何を・・・お前まさか?!」

 

 

 

 

 

その声の主に咲は凍り付いた。優雨作にも聞き覚えがあり、振り返ると桜の木の後ろから一人の男が出てきた。その男は咲の父親だった。

 

 

 

 

 

「お父さん!」

「お前・・・魔法力を使って・・・」

「違うの!私、ここで本当のことが言える友達が・・・」

 

 

 

 

咲が言いかけたところでその言葉は遮られる。息の荒い咲の父親と倒れる咲の光景が優雨作には理解ができなかった。頬を赤く腫らした咲は父親に強引に手を引かれていく。優雨作がやっとのことで咲の父親に訴える。

 

 

 

 

 

「姉ちゃんはなんも悪いことしてないぞ!」

「すっこんでろ小僧!」

「優雨作っ!」

 

 

 

 

突き飛ばされ、肘を擦りむく痛みが上ってくる中、咲が必死に叫んでいる声が響く。

 

 

 

 

 

「私は大丈夫だから!また来るから!」

「ほらっ早く来い!」

 

 

 

 

引っ張られていく咲の姿と、必死に強がる咲の姿が同時に流れてくる現状に優雨作の脳内は沸騰寸前だった。優雨作の考える家族という壁が絶対の厚さを誇って立ちはだかり、優雨作の思考を遮っていた。咲はかつて父親が好きだと言っていた。しかし、目の前には咲の障害としての父親がいるように思えてならなかった。家族を知らない優雨作はその光景を目に焼き付けることしかできなかった。

優雨作はその日、眠ることができなかった。眠るという行為自体頭に出てこなかった。立ち尽くし、軒先から現れるかもしれない咲の面影を待っていた。しかし、日が暮れても咲の姿を見ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

「俺が行かなくちゃ・・・」

 

 

 

 

優雨作は神社に供えてある酒を持ち出し、咲の家に向かう。自分のことを待っているかもしれない、たった一人の自分の理解者の下へ駆ける。日が落ちかけ、すでに薄暗さがあたりを包むころ、咲の家に着いた。明かりが灯り、中にいるであろう咲とその父親を呼ぶ。

 

 

 

 

 

「姉ちゃん!優雨作だよ!開けてくれよ!」

「やかましいっ!!」

 

 

 

 

出てきたのは、やはり酒臭い咲の父親だった。しかし、優雨作は臆せず咲の父親に向き合う。

 

 

 

 

 

「姉ちゃんはじいちゃんから俺のことを任されてんだ!姉ちゃんに会わせてくれよ!」

「なんだこのガキ!任されただぁ?お前みたいなクソガキを養うほど楽な暮らしはしてねえんだ!」

「お願いだ!お酒も持ってきたんだ!これやるから姉ちゃんを許してやってくれよ!」

 

 

 

 

優雨作が酒を差し出し、咲のことを許すように懇願すると、咲の父親はワナワナと肩を震わせ拳を上げる。握られた大人の拳は優雨作の小さな顔の半分を殴りこむ。吹き飛ばされる優雨作の上に馬乗りになると、落とした酒瓶でさらに殴りかかってくる。

 

 

 

 

 

「てめえみたいな小僧におこぼれもらうほど落ちこぼれちゃいねえんだ!姉ちゃんを許せだ?!俺の、俺の娘をなんで許さなきゃなんねーんだ!」

 

 

 

 

瓶の底は固く、ヒビから漏れ出る酒が傷口に染みてくる。優雨作は人生で初めて人の本質的な人に対して向けられる怒りの感情に恐怖していた。その騒ぎが聞こえたのか、中から咲が出てくるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

「ちょっとお父さん何してるの?!」

「うるせえ!」

「止めて!止めてよ!」

 

 

 

 

咲が父親と優雨作の間に入り、優雨作を包むように守る。必死に自分を守ろうとしてくれている咲の顔は、優雨作が見たことのない表情だった。人のこんな顔は見たことがなかった。そうしている間に、攻撃をしずらくなった咲の父親は荒い息を吐きながら残った酒の蓋を開けると二人の上からかけ流す。

 

 

 

 

「はあ、はあ・・・頭でも冷やせ!」

 

 

 

 

甘んじて優雨作にかからないようにしてくれている咲の姿と漂ってくる酒の香りに優雨作は涙が溢れてきた。喧嘩でも流したことのない悔し涙は、殴られた傷もそうだが、なにより庇ってくれた咲に申し訳が無くて溢れて止まらなかった。

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、ごめん・・・家族ってわかんねーよぉ!姉ちゃんを守りたかったよぉ!」

「ごめんね・・・ごめんね」

 

 

 

 

あおぶちと切り傷だらけの顔を優しく撫でてくれる咲は、ただ謝罪を繰り返すだけだった。そして、咲は決意を優雨作に話すことにする。

 

 

 

 

 

「分かった・・・私、決めた」

「・・・何を?」

「あの海軍の人の所に行こう」

 

 

 

 

突然の決意表明に優雨作は困惑する。自分が咲の将来を左右してしまうことが怖くなってしまったのだ。咲とならこの村でも生きていける、そう考えていただけの幼い自分の頭を撫でる彼女は、奥から怒鳴る父親の声を振り切って計画を簡潔に告げる。

 

 

 

 

「今夜の時計がてっぺんを回る頃、隣村に繋がる道の入り口にいて。必ず迎えに行くから!」

「姉ちゃん・・・俺・・・」

「大丈夫、私が守るから!」

 

 

 

 

そう言ってもう一度優雨作の頭を撫でると、今度こそ家の中に戻って行ってしまった。優雨作は暗い夜道を這う這うの体で神社まで戻ると、咲の言われた通りに旅の準備をする。自分の将来が今日確実に大きく変わってしまう事実に脚が竦む。だが、咲の方がもっと大きな決断に迫られていることを支えに、行李袋に支度を詰め込む。自分を拾い、育ててくれた神社は、月明かりに照らされて不気味に輝いていた。

 

 

 

 

 

「行ってきます」

 

 

 

 

知っている単語はこれくらいだった。別れ、出立、門出、卒業、脱出・・・いろいろ言葉があるだろうが、優雨作の心にはもう帰ってこれないのではないかという不安があった。だから、僅かな希望を残して挨拶したのだった。そして、咲に言われた通りに隣村に通じる一本道に差し掛かる。こんな夜更けにはだれも通らず、僅かな月明かりだけが勇の足元を浮かび上がらせていた。

 

 

 

 

「姉ちゃん・・・」

 

 

 

 

時計などは持っていなかったが、おそらく世間で言う丑三つ時の時間になっても咲は現れなかった。優雨作の心の中では咲が嘘をついたのかという少しの疑念が浮かんだが、それはないと頭を振る。咲は確かにここで待つように言ったのだ。しかし、待てど暮らせど咲は来なかった。

 

 

 

 

 

「もしかしたら父親に酷いことされてるのかも・・・」

 

 

 

 

そう考えると、確かに咲はどうやってここまで来るのか考えていなかった。自分のことばかり考え、自分を守ってくれる存在のことを考えていなかったのは恥ずかしいことだった。もしかしたら、今度こそ咲が助けを求めているのかもしれない。そう思うと居ても立っても居られなかった。優雨作は木々も眠る中、闇夜を駆けた。

 

 

 

 

 

「待ってろよ姉ちゃん」

 

 

 

 

走る足を一歩前に踏み出すごとに心配の気持ちが強くなり、景色が変わるごとに暗さが増していくようだった。それでも自分を信じてくれる咲の下に一刻も早く向かう為、息の続く限り走り続ける。そして遂に咲の家が見える。明かりはついておらず、眠ってしまったのかとも考えたが、咲の救出を第一に考えるとドアを蹴破って中に入ることにした。

 

 

 

 

「姉ちゃん!!」

 

 

 

 

ドアは意外にも空いており、蹴破ることなく勢いよく開く。人気が無く、鬱蒼とした室内の奥で優雨作は何かを感じ取った。部屋の扉の奥からすすり泣く声がした。その声がする扉をゆっくりと開いていく。声が少し小さくなった気がしたが、その声の方向に足を向ける。そこには襖やテーブルが散らかっており、激しく暴れたことが伺えた。その時、月明かりが破れた障子から差し込んだことで、部屋の状況が見えてきた。

 

 

 

 

 

「ねえ・・・ちゃん?」

 

 

 

 

部屋の隅でうずくまるように膝を抱えていたのは、変わり果てた咲だった。髪の毛は乱雑に切られたか引きちぎるような跡があり、背中や顔には殴打の跡が痛ましく刻まれていた。そして、なにより優雨作の目に入ったのは、咲の頭から生えたウィッチの印である耳が千切れていたことだった。

 

 

 

 

 

「どうした姉ちゃん!?痛いのか?!」

「うう・・・ごめんさい・・・」

「父親はどこだ!とっちめてやる!」

「・・・憎い・・・どうして・・・殺してやりたい・・・」

 

 

 

 

 

顔を手で隠し、優雨作の存在を見ようともしなかった。この瞬間、優雨作の心の何かが音を立てて壊れるのが分かった。自分を守ろうとしてくれた人が、こんな目に遭わせる人間の心と、家族という絆のおかしさに狂わされ、苦しめられる所以はどこにもないはずである。自分の子どもだからと言って何をしてもいい、縛っていいことにはならない。そんな不条理を優雨作は許すことができなかった。なにより、この時代親を子が殺すと言うのは『尊属殺人』と言って、死刑に等しい行為だった。少なからずこのまま事態を放置しておけば、いつかは必ず咲はあの父親の命を奪ってしまうだろう。ならばと、優雨作は決意と共に走り出した。

 

 

 

 

 

「どこだ・・・・・・・・・・いた」

 

 

 

 

 

夜が過ぎる頃、咲は優雨作に背負われていたことに気が付く。滅茶苦茶だが服が着させられており、汗の滴る優雨作は隣町への入り口を歩いていた。

 

 

 

 

 

「優雨作・・・」

「姉ちゃん・・・俺・・・」

「いいの、私の代わりに、ごめんね」

 

 

 

 

優雨作の背中から降り、二人は歩き始める。手を繋いで、互いを見失わないように歩き続ける。

 

 

 

 

 

「優雨作、君にはとても大きなものを背負わせてしまったね」

「ううん」

「お返しに私の苗字をあげる。君を私の弟にしてあげる」

「うん」

「海軍に入ることになるんだったらその方が都合がいいでしょ?そうだな・・・名前も変えておこうか?」

「姉ちゃんに任せる」

「うーん・・・優雨作だからな、じゃあ君の名前は勇(いさみ)!」

「どういう意味?」

「漢字の通りだよ。音読みでユウと呼んであげよう」

「語呂があんま変わんないね」

「変わらないところもあっていいじゃない」

 

 

 

 

 

日が昇る頃には海軍基地に着いていた。優雨作は海軍に入隊するに際し、正式に戸籍を登録する必要があったが、咲が自分の弟だと言い張り通ってしまった。葬式で出会った楠昌繫はなんと海軍少将だった。その楠の一言で全てが許可されたからだった。

 

 

 

 

「ウィッチの戦力ならば是が非でもほしい」

 

 

 

 

この言葉により優雨作は『赤松勇』として海軍にウィッチとして登録された。そして、赤松咲もそのついでと言わんばかりにトントン拍子で登録が決まってしまった。その際、あまりにも迅速に処理されてしまったため名前が『えみ』の音だけで漢字に変換されてしまい、『赤松恵美』として登録されてしまった。これには後に登録された漢字を見た咲も大笑いだった。

 

 

 

 

「ユウ、あなただけは私の名前、覚えていてね」

 

 

 

 

 

勇には今も鮮明にその時の様子を思い出せた。そして、真実に迫ろうとするウルスラに向き直る。

 

 

 

 

 

「だから、この世に俺の姉である赤松咲を知る人物は俺しかいない、と言うわけだ」

「赤松咲さんの母親や村人が覚えていることはないのですか?」

「母親の方は扶桑海事変の時に病死したらしくてな、村人は尊属殺人は死刑だと分かっているからな。実際に姉は命を落としているわけだし」

 

 

 

 

そこまで説明すると、一度二人とも無言になる。おそらくウルスラは勇とネウロイの関係を模索しているのだろうことは分かっていた。あまりにも勇の行動にネウロイがそれに適した行動を取ってきているからだ。勇も日に日に姉の咲がベルリンにいる瞬間移動型ネウロイであると確信している。

 

 

 

 

 

「なるほど、私はてっきりあなたがネウロイと内通しているのだと思っていました」

「・・・あははははあはは!!!俺がネウロイ?ハハハハハ!!!」

「合理的な考えだと思うのですが」

 

 

 

 

 

ウルスラの予想に勇は思わず笑ってしまった。こんなに笑ったのも久しぶりな気がした。自分がネウロイだったらどれほど楽なのかと考えたからだった。自分の包帯を巻いた左手を太陽にかざしてみる。

 

 

 

 

 

「どうしました?」

「いや、俺はまだ人間なんだって思えたのさ」

 

 

 

 

 

ウルスラは首を傾げていたが、勇には納得できてしまった。車を走らせる夜道は、無数の星の輝きが勇の未来の道筋を示しているようだった。

ようやく基地に帰還した勇は、すぐに四人の替えの服を持ってくるように指示を出すとハイドリヒに帰還の報告を行う。

 

 

 

 

 

「ハイドリヒ、今戻ったぞ」

「・・・」

 

 

 

 

 

ハイドリヒは外を眺めていた。まるでなにか思案しているかのようで、勇にまったく気が付いていなかった。勇がもう一度咳ばらいをするとようやく気が付いたのか、ああ、と返事をして勇の任務の報告を聞いた。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労様です。これでキールは安全です。決戦は近いですよ」

「そうだな」

「勇中佐」

「なんだ」

「・・・いえ、やはり何でもありません」

 

 

 

 

 

勇は報告を終え、部屋を後にする。残ったのは腹心のアイヒマンだった。

 

 

 

 

 

 

「長官が出張に出ている間、501を監視していた報告を致します。ここ数日、宮藤曹長と服部少尉がなにやら外に包みを持って出かけた以外、ほとんど変わったことはありませんでした。彼女らを今後も監視しますか?」

「・・・いえ、彼女らは放っておいてもいいでしょう。それより、考えていたことがあるのですよ」

 

 

 

 

 

ハイドリヒはアイヒマンに自分の考えを打ち明ける。驚くアイヒマンを他所に、ハイドリヒは至って冷静に未来への展望を思案し続けていた。

 

 

 

 

 

「よろしいのですか?!」

「ええ、これより全面的に勇中佐の行動制限を解除します。もうこそこそ隠れるのは終わりです。私たちの戦争を世界に見せつけてやりましょう」

 

 

 

 

 

この日より突如として勇の行動制限が大幅に解除され、ついにベルリンの奪還作戦、オペレーション『サウスウィンド』が発動されることとなった。基地はにわかに慌ただしくなり、B-17爆撃機が多数501基地に集結し始めた。そんな中、501では作戦に向けたブリーフィングが行われていた。

 

 

 

 

 

「これよりベルリン奪還作戦、オペレーション『サウスウィンド』が発動される。我々501もこれに参加、B-17爆撃機に搭乗し、上空降下によってベルリンの巣『ウォルフ』を一気に叩く!」

「突入隊と陽動隊の二部隊に分けます。さらに、赤松中佐には上空監視任務を依頼します」

 

 

 

 

 

少佐となったバルクホルンが作戦の概要を説明し、ミーナが全体の詳細と作戦の中身を詰める。あくまで勇は上空監視を目的としているのには、ミーナがハイドリヒの突然の勇の行動制限を解除したことへの警戒があったからだった。さらに言ってしまうと、勇のユニットである零戦が、ロケット型ネウロイに使用した際に負荷がかかりすぎ、オーバーホールしたものの、調子が良くなかったためでもある。

 

 

 

 

 

「了解した」

「ではこれより、我々もB-17に搭乗。これより出撃する!」

 

 

 

 

 

B-17に乗り込み、宮藤が先輩らしく服部に助言する中、ミーナの隣に格納された勇は疼く左手を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「まだ怪我が痛むの?」

「いや、痛いわけではないんだ」

「宮藤さんに手当してもらえばいいのに」

「いや、これは忘れないための印だから」

 

 

 

 

 

ミーナも作戦に集中するために、あまり深くは聞いてこない。勇もこの作戦に賭けていた。これだけの戦力を整えられた連合軍の意気込みも確かなものだが、それ以上にこの戦いで敵を殲滅してしまいたかった。例え瞬間移動型ネウロイが出てこようと、全員の力を集中すれば勝機はあると踏んでいた。そして、ついにベルリンの巣に攻撃が仕掛けられていく。

 

 

 

 

 

『501部隊、降下ぁ!!!!』

 

 

 

 

爆弾倉から投下されていく彼女たちを尻目に、勇は高度を保ちつつ全体を俯瞰する。かつての仲間たちが眠るこの地で決戦が行われていく様を、勇は目に焼き付けるように見ていた。勇の主な任務が全体の支援であるため、勇は積極戦闘は行わないことにしていた。これも501にハイドリヒの手が及ばないようにするための勇なりの考えだった。

 

 

 

 

 

「おかしい・・・敵が、あれほどいた敵はどこに行った」

 

 

 

 

 

勇は全体を俯瞰し、過去の戦闘の経験があるからこそ、現在の異常性が警笛を鳴らしていた。いくら巣の上空のモヤを爆弾で吹き飛ばしたとはいえ、敵があの釣鐘型ネウロイだけのはずがなかった。勇の不安は今まさに敵の首魁に向かう彼女たちに向けられていた。

 

 

 

 

 

「いけない!行くな!そっちは危険だ!」

 

 

 

 

 

勇の声が発せられた時、満を持して敵の罠が発動する。驕りがあったと言えばなかったと断言できる。ただ、勇はあまりにも彼女たち501を過保護に意識してしまったことが敗因だと悟った。上空からさきほど吹き飛ばしたはずのモヤが巨大な壁を形成し、降ってくる。それはベルリン市街を取り囲むように並び、まさに袋のネズミの様相を呈していた。そして、攻撃が開始された頃、勇の予想は的中する。

 

 

 

 

 

「やつだ!」

 

 

 

 

瞬間移動型ネウロイが遂に姿を現す。こんな混乱した状態では勝ち目はないと悟った勇は即座に行動に移る。

 

 

 

 

 

「ミーナ!すぐに撤退しろ!」

「駄目よ!爆撃機集団の撤退の援護を任されているわ!」

 

 

 

 

爆撃機は次々と撃墜される光景を見てもなお、勇は彼女たちに迫る危険に気づかない状態に歯噛みする。そんな中、ミーナに司令部から通信が入る。

 

 

 

 

 

「宮藤さん、あなたは先に基地に戻りなさい」

「嫌です!皆さんと一緒に戦います!」

「司令部の命令よ!服部さん、宮藤さんを頼んだわよ」

「了解しました!」

 

 

 

 

宮藤の反対を押しのけ、服部が宮藤を連れて戦線を離れるが、勇の中では嫌な予感がしていた。瞬間移動型ネウロイが狙う先が自分であるならば、今勇が思い描いているシナリオも読まれている気がしたからだ。勇が考えていることは宮藤の存在だった。

 

 

 

 

 

「俺も行こう」

「ユウがいてくれるなら安心ね、頼んだわよ」

 

 

 

 

 

ミーナの許可をもらい、宮藤と服部の護衛を引き受けたはいいが、不安は募るばかりだった。敵の猛攻に会う爆撃機は、全戦力の3割が既に脱落しており予断を許さない状況だった。そして、ついに災厄が降りかかる。勇の悪寒がその危機を直前で回避することに成功させる。

 

 

 

 

「二人とも先に行け!」

「勇さん!?」

「早く!っ!!!」

 

 

 

 

目の前に突如出現する瞬間移動型ネウロイの攻撃を勇が最大限の堅さで発現させたシールドで防ぐ。その威力を目の当たりにして宮藤と服部は驚愕する。

 

 

 

 

「どこから?!」

 

 

 

 

 

服部が辺りを見渡すと、勇が猛烈な勢いで突っ込み服部の目の前に割り込んでシールドを展開させる。その直後、頑強なシールドが歪むほどの攻撃が服部と勇を襲う。敵の存在が見えない中、勇がそれに必死に対応している姿を見て、服部はなにか幻を見ているような気になった。

 

 

 

 

 

「ぼおっとするな!宮藤を守れ!」

「は、はいっ!」

 

 

 

 

勇の怒号にハッとした服部は、銃をしっかりと持ち直し、宮藤の護衛に専念する。その間も勇は見えない敵と戦ったいた。なぜ勇はあんな強敵と戦うことができるのかわけがわからなかったが、ただ自分の任務をこなすために前を見る。

 

 

 

 

「赤松中佐、敵は!敵はどこですか?!」

「やつと戦おうとするな!奴の狙いは宮藤と俺だ!」

 

 

 

 

 

なぜ勇がそんなことを知っているのか、やつとは一体何なのか、服部の疑問は増すばかりだった。宮藤を見ると、いかにも戦闘に参加したがっていた。服部は何とか宮藤を説得し、帰投するように促す。

 

 

 

 

 

「私を信じてください!宮藤さんは早く帰投を!」

「・・・分かった。静香ちゃんも気を付けてね!」

 

 

 

 

ようやくのことで宮藤が折れ、爆撃機に向かったことを確認すると瞬間移動型ネウロイはいつの間にか宮藤の追撃を止めていた。そして、自分に近づいて来る大型ネウロイに目標を絞る。

 

 

 

 

「ミーナ中佐、宮藤さんは一人で基地に帰投してもらっています!現在、赤松中佐が正体不明の敵と交戦中!私は大型ネウロイの対処に向かいます!」

『正体不明の敵ですって!?分かったわ、あなたも気を付けて!』

 

 

 

 

服部が大型ネウロイの対処に向かう中、勇は息を切らしながら瞬間移動型ネウロイと対峙していた。宮藤から対象が勇に移っていたが、相変わらずの瞬間移動と恐ろしいほどの威力の攻撃にもはやまともな対抗手段がなかった。

 

 

 

 

「くそっ!この零戦じゃ追い付かない・・・ここでは大規模な攻撃も使えない。どうしたものか」

「赤松中佐、こちらも援護に向かいます!」

「ミーナ?!駄目だこっちには来るな!」

 

 

 

 

勇の警戒が逸れてしまった瞬間だった。瞬間移動型ネウロイが突如として勇の前から忽然と姿を消した。その瞬間の恐怖と言ったら経験したことのないものだった。絶対的な暴力を前になすすべもなくやられていく未来を想像した勇は無意識に魔法力を練っていた。

 

 

 

 

 

「警告する・・・総員、衝撃に備えよ」

「ユウ、何をする気?!」

 

 

 

 

ミーナの声は既に届いておらず、501の全員が勇の姿に釘付けになった。後光の如く輝く魔法力に、目を奪われると、間もなく強烈な閃光が少し遅れて届く轟音と共に襲ってきた。

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは?!」

「すごい爆発だ!」

「何が起きたの!?」

 

 

 

 

全員の咄嗟のシールドの展開により、負傷者こそいなかったが辺り一面のネウロイの大半が吹き飛んでしまった。そして、その光景の中で怒声が響き渡る。

 

 

 

 

 

「俺はここだぞぉぉぉ!!!姉さぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

 

勇の声に反応した一機のネウロイが、突如として勇に襲い掛かる。その光景が501に衝撃を与えるのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

「どういうことなの・・・!」

「あれって・・・ユウの瞬間移動じゃん」

「姉さん、だと?」

 

 

 

 

 

一同の混乱は勇の切迫した声により現実に引き戻される。

 

 

 

 

 

「なにしてるんだ!早く逃げろ!」

 

 

 

 

 

ミーナを含め、突入組の5人の目の前には瞬間移動型ネウロイが立ちはだかっていた。先ほどの勇の猛烈な攻撃をもろともせず、瞬間移動を用いて目の前に屹立するその姿はまさに昔の勇そのものだった。

 

 

 

 

 

「攻撃開始っ!?」

「バカ野郎!!」

 

 

 

 

勇は迎撃を始める501の仲間たちの危機に居ても立っても居られず、全速力で救出に向かう。もはやこれは撤退戦ではなく、一方的な虐殺になってしまう前になんとしても止めなければならないと感じていた。それでも501は団結して瞬間移動型ネウロイに立ち向かってしまう。

 

 

 

 

 

「フォーメーションアロウ!一気にカタを付けます!」

「了解っうわっ!」

「中に入り込まれた!」

 

 

 

 

 

勇は瞬間移動型ネウロイの行動に身に覚えがあった。敵中に入り込み、誤射のできない状況を作り出すことをしたのは、赤松貞明その人だった。貞明の行動をも学習してしまったネウロイに、勇は命を賭ける。上空から逆落としになると、混乱している501の編隊に向かって突き進む。狙いをつけても無駄であることは分かっているが、それでも勇は誤射を恐れず射撃を開始する。

 

 

 

 

 

「総員散会しろ!あとは全力で振り返らずに基地に戻れ!」

 

 

 

 

勇の言葉でようやく全員の意識が我に帰る。ミーナが全員をまとめ、シャーリーが突破口を作る。殿を勇が務める形で退却の時間を稼ぐことに集中する。なおも追いすがろうとするネウロイに、未来予測を重ねて射撃する。周りから見れば何もない空間に撃ち込んでいるようにしか見えなかったが、それでも勇が射撃した場所にネウロイが現れるため、対処を勇に任せて一目散に退却する。

 

 

 

 

 

「どれもこれも俺の真似ばかり。それでは俺には勝てないぞ!」

 

 

 

 

 

強がってみたものの、「俺も勝てないがな」という一言をしまい込む。ハルトマンが最後の退却をしているところを見届けると、最後の一撃とばかりに魔法力を練り上げる。なおも瞬間移動で所在を掴ませないネウロイには目もくれず、勇は目を閉じてその時を待つ。その瞬間に左手を這い上がる何かを感じると目を開ける。

 

 

 

 

 

「今だっ!」

 

 

 

 

目を開けるとそこには人型の形をしたネウロイが勇の顔の前に佇んでいた。まるで顔を覗き込んでいるかのような距離に勇は微笑む。

 

 

 

 

 

「この距離でかせるものならかわしてみろっ!」

 

 

 

 

勇は銃を捨てると、軍服の前を開いてみせる。そこには勇の身体に括り付けられた手榴弾がいくつも魔法力を滾らせていた。銃弾ではなく、爆風での加害範囲なら、瞬間移動といえどただでは済まない。勇は自分の身体を囮にして魔法力を溜め、この時を待っていた。しかし、ネウロイも驚きの行動を取り始める。

 

 

 

 

「・・・ユウ、・・・」

「亡霊め・・・あばよ」

 

 

 

 

爆風はあたりを吹き飛ばし、爆炎とともに火炎を形成し、あたりを静かにさせた。そして、ベルリンの壁の内部には既に姿を残す者はいなかった。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。優雨作の御香を投げつけるシーンですが、あれは織田信長のうつけぶりを示す逸話があります。勇くんの今後が楽しみですね。また、優雨作の人を殺めるシーンは都合により書きませんでした。サイコパスであられる方には申し訳なく思っています。

アニメ原作でのベルリンの壁の出現は、私もこうなるんじゃないかなと思っていました。ベルリンの壁は熱かったですよね。また、ハイドリヒの心境の変化にも今後注目してもらえればと思います。そして、最後が呆気なかったと思われた方もいると思いますが、まだ続きますのでご安心ください。
次回も引き続きよろしくお願いいたします。
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