ストライクウィッチーズ 君の明日は   作:桜子道 晴幸

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皆さんどうもお久しぶりです。

今回はウィッチの皆さんに頑張ってもらう話です。勇を取り巻く状況についてまとめた回にもなっているので是非読んでみてください!ではどうぞ!


籠の中の翼 第十五話

作戦終了後、基地に勇のユニットが煙を吐きながら到着する。煤けた服装にボロボロになった格好はさながら落ち武者のようでもあった。それを出迎えるのはミーナとバルクホルンだった。

 

 

 

 

 

「今帰った」

「・・・お帰りなさい。聞きたいことがたくさんあるわ。あとハイドリヒ長官は緊急の招集で連合司令部に出頭しています。だからこの後、私の部屋に来てちょうだい」

「了解した」

 

 

 

 

勇はもはや返事をする気力も残っていなかった。寸でのところで自爆に見せかけた攻撃で退避することができたものの、危うく自分まで巻き込んでお陀仏になるところであった。さらに言うと、何度も強烈な攻撃を繰り返したため魔法力もきつかった。そんな中、バルクホルンが暗い顔で勇を睨みつけていた。壊れかけたユニットで滞空しているため、早めに格納庫に行きたかったが、それを阻害するように立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

「トゥルーデ、そこをどいてくれないか?」

「・・・こ、この、大バカ者ぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

突然殴りかけられ、受け身も取れないまま殴り飛ばされた。バルクホルンの拳は重く、手加減など知らない勢いだったことに勇は驚く。普通の人間なら死んでいてもおかしくない威力から、勇もバルクホルンを睨む。既に履いていたユニットは最後の一撃で大破し、煙を上げていた。

 

 

 

 

 

「お前が、お前がいながら!どうして一緒に戦わなかった!」

「ぐぶっ!」

 

 

 

 

今度は腹に重い一発が入り、思わず胃の中の物を出しそうになってしまう。それでも攻撃の手を緩めようとしないバルクホルンの本気を伺い、勇もようやく事の重大さに気づく。

 

 

 

 

 

「お前が全部話していれば、ベルリンを取り戻せたかもしれんと言うのに!」

「ぐはっ!なんだと?!」

 

 

 

 

 

勇のこれまで耐えに耐えてきた何かが爆発しそうになり、バルクホルンに対抗すべく手が上がる。バルクホルンはそれでも勇との殴り合いを止めようとしなかった。

 

 

 

 

 

「っ!お前はもっと強かった!だが、今はどうだっ!」

「俺一人じゃどうにもできないって気づいたんだよ!」

「っぐ!じゃあどうして私たちを頼ろうとしない!?」

「なっ・・・」

 

 

 

 

その一言に、勇は心の中で必死に守り抜こうとしていた存在への自分の決意が揺らぐ。自分と関わった全ての人物が死んでいったあの悪夢のような日々が、無意識に勇の仲間と言う存在を無視させていたことに気づいてしまった。それでもお互いの怒りは収まらなかった。

 

 

 

 

 

「黙れよ・・・」

「お前は一人か?生きるために必死に戦うんじゃなかったのか!?」

「黙れぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

二人の殴り合いが激しさを増す中、ようやくその騒ぎに気付いた隊員たちの手によって引き離される。

 

 

 

 

 

「二人ともやめてください!バルクホルンさんも、勇さんもどうしたんですか?!」

「宮藤離せっ!ユウが目を覚ますまで私を止めてくれるな!」

「ユウも止めろよ!」

「うるさい!あのわからず屋の頑固者には我慢ならん!」

「そこまでよ!」

 

 

 

 

宮藤とハルトマンに引き留められるバルクホルンと、シャーリーとエイラと服部にようやく抑えられている勇という対立構造を前に、ペリーヌが呼んできたミーナが一喝する。サーニャやリーネ、ルッキーニに至っては隅で縮こまっていたほどの殴り合いにようやく終止符が打たれる。

 

 

 

 

 

「皆さんはバルクホルン少佐を部屋まで連れて行ってちょうだい。宮藤さん、怪我の手当てよろしくね」

「は、はいミーナ中佐・・・」

「勇中佐には聞きたいことがあります。この件と合わせて話を聞かせてもらうからついてきて」

 

 

 

 

 

バルクホルンを自室待機とし、勇を司令室に通す。部屋の周囲から兵士をどかせると、二人きりの空間を作り出す。勇はバツの悪そうに殴られた箇所をさする。すると、ミーナの大きな溜息から会話が始まる。

 

 

 

 

 

 

「はあ、あなたの大声は響くんです。ネウロイに聞かれたらどうするの?」

「・・・」

「あなたの気持ちも少しは分かって来たわ」

 

 

 

 

 

ミーナの真っすぐな瞳は勇の濁った瞳の中を覗き込む。勇はそれが嫌で目線を外す。

 

 

 

 

 

「分かったところでどうしようもない」

「あなたの不貞腐れているところを見ると、昔を思い出すわ」

「止めろ・・・」

 

 

 

 

 

ミーナは勇が怒ることを楽しむかのように話を止めようとしない。フツフツと湧き上がる怒りを抑えながら、勇とミーナの我慢比べが始まる。

 

 

 

 

 

「覚えている?あなたが343空の仲間を失って私たちの下に戻ってきた時のこと」

「止めろって・・・」

「あの時も、本質的には私たちを守ろうとしての行動を取って暴走した・・・懐かしいわね」

 

 

 

 

 

今も昔も確かにウィッチを守ろうとして行動していたのには変わりない。しかし、その結果が今の自分の現状と、今まさに彼女たちすらを巻き込んだ危険なチキンレースと化している。それを止められない自分自身を慰められているようで、勇はもう聞いていられなかった。

 

 

 

 

 

「そんなに俺を慰めたいのか?」

「私にその気はないわ」

「だったらどうして俺に拘る!俺のせいでみんな死んだ!みんなだ!お前たちを巻き込みたくないのに、どうしてお前たちは寄ってたかって過去の俺と今の俺を同一だと言えるってんだ!」

 

 

 

 

 

これは勇の本心だった。世界最高峰の実力者が揃う501という部隊にいる以上、勇のこれ以上の戦果は501を隠れ蓑にできないほどの比較対象となってしまう。あの501ですら勇の足元にも及ばないと分かれば、勇への圧倒的な恐怖は今以上に酷くなってしまう。それなのに、501の彼女らはなんの疑いもなく、勇に踏み込んで関わってきてしまう。ハイドリヒという化け物がいる以上、501の戦力を勇と比較させたがっていることは嫌がおうにも勇には分かってしまっていた。

 

 

 

 

 

「あなたは多くの物を背負い過ぎているわ。私たちならそれを分散できる。あなたは私たちに頼るべきなのよ!」

「はっきり言わないと分からないのか?!だったら言ってやる!お前たちじゃ俺には届かない!だから俺にもう関わるな!」

「それはできないわ」

「ミーナ・・・そろそろ限界だ。いくら間借りさせてもらっているとはいえ、この基地を壊したくない」

 

 

 

 

 

震える拳を抑えるのに必死な勇を差し置き、ミーナは余裕のある表情でそれを跳ねのける。

 

 

 

 

 

 

「ネウロイより厄介な真似しないでもらえるかしら?」

「だったら金輪際俺に関わるな!」

「それは無理よ、勇中佐」

 

 

 

 

 

勇は頭に血が上り、既に血管がはち切れそうなほど煮え切っていた。しかし、それでもなお腕を組み、勇をしっかりと見据えるミーナは、勇が発する殺気に気づいていないかのようだった。

 

 

 

 

 

 

「ミーナ、それは俺に喧嘩を売ってるのか?」

「喧嘩にもならないわ」

「そうだろうな、今の俺は手加減できないぞ?」

「あら、手加減してくれるつもりだったの?案外優しさが残ってたのね」

 

 

 

 

 

ミーナは殺気に気づいていないのではなかった。あえて気づかないのだ。それが勇には我慢ならなかった。ミーナに殺意を仄めかし、早めにこの場から去りたかった。

 

 

 

 

 

「ミーナ、そろそろ本気で止めないか?つい殺してしまいそうだ・・・」

「ふふっ、ようやく美緒が私に拳銃を向けられても恐れなかった気持ちが理解できたわ。ありがとう、勇中佐?」

「次、軽口を叩いたら二度と空を拝めなくなるぞ?」

「そんな上っ面の殺意で私が屈するとでも?」

「今すぐお前を黙らせられるならそれで十分だ。今すぐ憲兵を呼んだ方がいいぞ?万が一にも助かるかもしれん」

「憲兵はあらかじめ下げてあるの。ここには完全にあなたと私だけよ?」

 

 

 

 

 

話し合いの余地はないことが察せられ、勇は最後通告を突きつける。

 

 

 

 

 

「覚悟はできてんだな?」

「そっちこそ」

 

 

 

 

 

あくまで勇の言うことを聞かないミーナの返答を受け、勇はミーナの目の前に立つ。綺麗な赤い髪と真っすぐに見据えてくる瞳を上から見下ろすと、勇の拳は一直線にミーナの顔面に向かって発射される。部屋が揺れ、風圧が収まる頃、そこに立っていたのは変わらず二人だった。

 

 

 

 

 

「私の勝ちのようね?」

「お前本当に死んでたぞ」

 

 

 

 

 

勇の拳はミーナの顔のすぐそばを通過し、壁に大きな穴を開けていた。ミーナはようやく冷や汗を垂らすと、苦笑いしながら話し出す。

 

 

 

 

 

「内心冷や冷やしてたわ。鉄面皮を装えたことだけは褒めるべきね」

「なんでこんなことをした」

「あなたを試したの」

「試す?」

 

 

 

 

 

試すにしても賭け金の大き過ぎた。自分の命をベットしてまで勇に聞きたかったこととはなんなのか、血の上った頭を深呼吸で冷ましていく。そうすると、ミーナの要求が見えてきた。

 

 

 

 

 

「今日のあれについてか・・・・」

「そうよ。あなたが仲間を失ったことも、ハイドリヒ長官に酷い扱いを受けていたことも想像がついていたわ。でも、ベルリンでのあれはなんなのか・・・あなたの中にしかその答えはない。でも、その答えを聞くにはあなたと私両方の覚悟がなければ聞けなかった。だから、あなたを試したの」

 

 

 

 

 

てっきりこれまでの出来事について聞かれるのではないかと考えていた勇は、ミーナと言う情報収集能力に長けた人物の底知れなさに完敗だった。

 

 

 

 

 

 

「さすがは西の狼の面目躍如と言ったところか」

「あのネウロイは何なの?!教えて!」

「答えは簡単さ・・・」

 

 

 

 

 

勇は諦めた。ミーナに全てを話すことも、これからのことも。ここまで言ってしまえば確実にハイドリヒは放ってはおかない。そしてなにより、話しても何も変わらないという事実に諦めることにした。

 

 

 

 

 

「すべてがあったのさ・・・」

「全て?」

「みんながもういないと信じて疑わないものさ」

「なんだって言うの?ネウロイの秘密兵器の類なの?!」

 

 

 

 

 

ミーナは必死に勇に追いすがって聞き出そうと躍起になっていた。しかし、それすらも勇にはどうでもよかった。

 

 

 

 

 

「秘密兵器か、悪くないな。が、兵器じゃ扱えないな。それこそ連合軍を全部投入したって玉砕が関の山だろうぜ」

「それほど強いの?」

「物量では抗えない、力の根源そのものだろう。言っておくが、全てが備わっている。誰も勝てやしないのさ」

 

 

 

 

 

瞬間移動型ネウロイの正体を知る勇としては、あのネウロイを倒す方法が分からなかった。絶対的な強さと瞬間移動を駆使し、どこまで執拗に襲ってくるあのネウロイは、もはや勇ですら倒すことのできない怪物になっていた。もしあの瞬間移動の能力が最大限発揮され、司令部や軍隊を襲ったら対抗手段がない。

 

 

 

 

 

「詳しく聞かせて!それこそがこの決戦の!人類の戦いの鍵なのよ!」

「残念だが司令部はあいつを認めていない。認めてなければ事実ではない。そう、全部俺の妄想なんだよ、ミーナ」

 

 

 

 

 

未だに瞬間移動型ネウロイを目視で確認したのは勇と501の隊員だけである。さらに、それほどの桁外れの能力を持つネウロイなど、あの壁ネウロイの前で注目する余裕のある人間はいなかった。また、ハイドリヒが徹底した情報統制を行っているため、未だに瞬間移動型ネウロイを認知することすらできていなかった。

 

 

 

 

 

「妄想でも構わない!教えなさい!これは命令よ!」

「命令か・・・軍人たるもの命令は厳守、か。軍人になどなるべきではなかったな・・・」

「報告、つまりこの会話もだれかに確認されていなければ違反ではないわ!」

「随分と横暴な意見じゃないか、ミーナ。まさかそのために憲兵を下げさせたのか?」

「このためなら命だって賭けるわよ・・・」

 

 

 

 

ミーナのなりふり構わなさに降参し、勇の知り得る瞬間移動型ネウロイについての情報についてミーナに全て話すことにした。聞いてる途中から顔色が悪くなるミーナを差し置き、話を完結させてしまう。

 

 

 

 

 

「まるで夢物語でも見ているようだわ・・・」

「言っただろう、これはつまり虚構なんだ。ただ一つ言えるのは、瞬間移動型ネウロイは俺の本当の姉、『咲』だ。人類が欲してやまない物量と、誰も抗うことのできない力を両立させた化け物だ。だから勝つだなんて、この虚構を虚構じゃないと信じられる狂ったやつしか言えないのさ。つまりは勝てるなんて言えるのは全員詐欺師ってことだ」

 

 

 

 

机に項垂れ、握りこぶしが震えるミーナの姿を見て、案の定の結果とばかりに勇は肩を落とす。するとミーナが勇の背中の裾を引っ張る。顔を上げると、ミーナの顔があった。

 

 

 

 

 

「あなたは諦めてしまったの?」

「俺か・・・俺は選べないさ」

 

 

 

 

 

その一言に勇の胸にミーナの頭がすっぽりと埋まる。胸の中に納まったミーナに何もできず、目の前の壁をただ見つめる。ミーナは力なく話す。

 

 

 

 

 

「あなたがそうでも、みんながいます。501がいます・・・あとはあなたが私たちの手を取って、信じてくれさえすれば・・・」

「俺より弱いくせに、頼れるかよ」

「・・・あなたより私たちの力の方が強いなら、あなたも心を決めるのね?」

 

 

 

 

 

胸のあたりで力強く拳を握っているのが分かる。今、ミーナは勇に追いつこうとしているのだ。その気持ちがあっても、勇の心は動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

「無理だろうぜ」

「やって見せるわ。でもその時は覚悟なさい。必ずあなたを振り向かせてみせるんだから」

「そう願うよ・・・でも、人じゃ勝てないんだぜ?」

 

 

 

 

 

勇から離れると、ミーナは勇を自室待機とした。バルクホルンの一件もあり、外出の制限をかけられることになったのだが、その方が勇にとって好都合だった。自分の胸から下がる、ハイドリヒの提供物を眺めながら瞬間移動型ネウロイのことについて思案することができた。

 

 

 

 

 

「姉さん・・・」

 

 

 

 

 

そう呟いた瞬間だった。勇の部屋の扉が音を立てて開く。その逆光の中から現れたのは、勇をして驚く人物だった。一方その頃、こちらも自室待機を命じられたバルクホルンは、ベッドに腰を掛けて考え事をしていた。

 

 

 

 

 

「どうしてユウは私たちを頼ろうとしないんだ・・・ユウだからこそ、仲間の大切さが分かっているはずなのに」

 

 

 

 

 

バルクホルンは我慢がならなかった。かつては肩を並べて戦い、世界の最前線で英雄的存在と謳われるまでに上り詰めた最強の存在が、ただ虚しく殻に閉じこもっている事実に歯痒さがあった。それなのに、仲間を蔑ろにし、隠し事を正当化するような口ぶりを聞けば、拳の一つでも喰らわせてやらなければ気が済まなかった。そして、あの敵から祖国を開放するにはどうすればいいのか、あの勇にも分からないという事実を認めたくなかった。勇に分からなければ、誰にも分からないという点で、勇にはいつだって絶対でいてほしかった。勝てると言ってほしかった。だからこそ、どうしてと、そう呟いた瞬間、こちらも同様に扉が開け放たれた。突然のことに目線を扉に向けると、そこに立っていたのは見知らぬ扶桑人だった。

 

 

 

 

 

「バルクホルン少佐はいるかしら」

「わ、私がそうだが・・・貴官はだれだ?」

 

 

 

 

 

その人物は後ろ手に一人を引きずって部屋に入ると、その黒く長い艶やかな髪をかき上げるとその答えを出す。

 

 

 

 

 

「私は扶桑皇国陸軍、穴吹智子大尉よ」

「は、はあ」

 

 

 

 

答えが聞けたのはよかったが、それでも自分の知らない人物が名乗ったところで現状を一向に理解できなかった。しかし、それも構わずズカズカとバルクホルンの目の前に引きずってきた人物を差し出すと、状況は一変した。その正体とは先ほどまで殴り合っていた勇だった。

 

 

 

 

 

「な、なぜユウが・・・」

「ユウについてはあとで説明するわ。それよりバルクホルン少佐、お怪我は大丈夫ですか?」

「あ、ああ適切に処置したから大丈夫だ・・・」

 

 

 

 

 

一向に要領の得ない会話に押され気味になる。それでもこの智子という人物が止まらなかった。

 

 

 

 

 

「レディの顔に傷がついたら大変よ。それを分かっているの?!」

「あいたっ!」

 

 

 

 

 

こつんと叱りつけるように勇を叩く態度から、勇とどういった関係なのかという疑問まで湧いて来る。そのことより、目の前で繰り広げられる説教の姿勢に、バルクホルンの方がいたたまれなくなる。

 

 

 

 

 

「ま、まあ、その穴吹大尉は勇中佐とはどういったご関係で?」

「ああそうね、申し遅れたけど、赤松勇さんとは結婚を前提にお付き合いしています」

「へっ?!」

「なにっ?!」

 

 

 

 

 

その場にいる全員が驚愕する発言をしてもなお気にも留めず、胸を張って堂々としている穴吹に眩暈がする思いだった。

 

 

 

 

 

「まあ、そんなことはさておき、今回は他でもなく面と向かって仲直りさせたくて来たの」

「なっ!仲直り?!」

「あなたも思うところがあると思うから、お互いに今のうちにすっきりさせておきたいのよ」

 

 

 

 

 

突如現れた見知らぬ女性に仲直りの仲裁をしてもらうほど恥ずかしいことはないと、バルクホルンはそっぽを向く。

 

 

 

 

 

「わ、私は謝ることなんて・・・」

「ええ、士官たるもの行動よりまずは理論でというのが軍人ですもの。その点、心当たりがなければ謝る必要はないわ」

「ぐっ!」

 

 

 

 

痛いところを突かれ、軍人と言う言葉に弱いバルクホルンは何も言えなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

「ユウも男として何か言うことはないの?」

「ひっ!」

「わ、私が先に手を出した・・・済まなかった・・・」

 

 

 

 

 

諦めて謝罪するバルクホルンを見て、にこりと微笑むと、今度はその恐ろしい視線が勇に向かう。

 

 

 

 

 

「あなたはなにもないの?」

「あ、あの、俺も悪かった・・・」

「悪かった?ごめんなさい、でしょう?!」

 

 

 

 

またもやぽかりと説教が入る智子は誰にも逆らえなかった。

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい」

「よろしい。じゃあもう戻っていいわ」

「え?」

「ほら、さっさと戻る!自室待機中でしょ!」

 

 

 

 

背中をビシッと叩くと、物凄い勢いで勇は逃げかえるように戻って行ってしまった。残されたバルクホルンはただその光景を見ていることしかできなかった。しかし、智子は振り返る一息つくと、今度は打って変わって落ち着いた口調で話し始める。

 

 

 

 

 

「話を戻すけど、作戦が失敗したのは聞いたわ。手ひどくやられたようね」

「耳が早いな。それ以前にあの壁ネウロイその取り巻きが多すぎる。さらにやつもとなると、事前情報がなかったことが悔やまれるな」

「知ってさえいれば成功したと?」

 

 

 

 

 

確かに作戦の事前情報として知っていればなにかしらの対処も可能だろうが、今回のことはあまりにも想定外が多すぎたため勇のせいだけではないことはバルクホルン自身よくわかっていた。

 

 

 

 

 

「だがユウは知っていたはずだ!」

「機密情報だったからでしょ?」

「それでもだ!仲間のためならユウはもっと早くに情報を共有していてもいいはずだ!」

 

 

 

 

 

今でも湧き上がる怒りが収まらず、こうして吹き出てきてしまう。バルクホルンの様子を見た智子は大きくため息をつくと勇の現状について大まかに説明し始める。

 

 

 

 

 

「仲間だから伝えられなかったのでしょうね」

「どうしてだ!」

「ユウの仲間である343空が全滅した時に、自分の存在の大きさを知ってしまったからでしょうね」

 

 

 

 

 

智子の言うように、扶桑では343空の精鋭の搭乗員の部隊が全滅した噂は軍内部で大きな波紋を呼んでいた。それと同時に海軍長官である山本の戦死事件である、扶桑海軍甲事件はより勇の存在を強調させていた。

 

 

 

 

 

「ユウには責任がある。長官を守り切れなかったという責任と、自分自身の存在の強大さを隠しきれなかったという責任がね」

「そんな・・・そんなバカなことがあるか!ユウは今や世界屈指の最高戦力なんだぞ!?それを制限?!上層部は本当に世界を救う気はあるのか?!」

 

 

 

 

 

悔しくもハイドリヒによる勇の存在の隠ぺいは一定以上の効果を上げていた。それは勇と言う強大な存在を拘束できる環境があると言う、一種の安心材料だった。しかし、それでも世界は安心できなかった。

 

 

 

 

 

「理論は簡単よ。ユウは今や強すぎるの。世界にとってその強さは無限の希望であるのと同時に、戦後の世界には持て余してしまう劇薬なの。ユウの行動一つで戦争が起こるくらいにはね」

「だから飼い殺すのか・・・世界を救える唯一の存在を!」

 

 

 

 

 

バルクホルンは世界の思惑に拳を震わせていた。それと同時に勇の気持ちにも気づき始めていた。

 

 

 

 

 

「バカな・・・愚かだ。人間同士の戦争?ネウロイを倒した後で?」

「ユウはもしかしたら個人で国を相手取ることもできるかもしれない。だから、ユウを拘束する必要ができたのだけれど、偶然にもその口実ができた」

「扶桑海軍甲事件か・・・」

 

 

 

 

 

扶桑海軍甲事件が引き起こした衝撃はあまりにも大きかった。勇と言う強大な存在がこうして隠匿されている事実に、世界が何の行動も起こさないのは些かおかしいとは思っていたが、こういった背景があったことに吐き気すらもよおしていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、ユウは今後どうあるべきなんだ・・・」

「まあ、よくて不名誉除隊。最悪戦死してもらいたいのが本音でしょうね」

「な、んだと?!世界を救える人物に対して、用済みになればお払い箱だと?死ねだと?!どう考えてもおかしいじゃないか!」

「そうよ、だから私が結婚するの」

「頭が痛くなってきた・・・」

 

 

 

 

話しの大きな飛躍に頭痛が痛いという状況だが、それなりに智子の意思が固いことに、バルクホルンは智子と言う人物を尊敬し始めていた。

 

 

 

 

 

「私と結婚すれば、少なくともユウに円満な形で私と言う足枷ができる。私もユウのことは好く想っているし」

「だがユウの気持ちはどうなんだ?」

 

 

 

 

 

一番の問題は、自称勇の姉を謳うバルクホルンとしての関心事である、勇の本意が思っているのかどうかだった。それに、ミーナの恋敵ともなってしまうことも悩ましい種だった。

 

 

 

 

 

「・・・残念ながらユウは選べないわ」

「と、言うと?」

「私と結婚しても迷惑がかかると思うはず・・・それに、ユウはまだ心が帰ってこれてないもの・・・」

 

 

 

 

 

悲しい表情の裏に必死に押しとどめている感情をバルクホルンは勇に重ねてしまう。自分の言動は、勇をどんな気持ちにさせてしまったのか。自分の気持ちの押し売りこそが、勇の鎖を重くしてしまっていることに気づいてしまった。

 

 

 

 

 

「だから、あまり彼を責めないであげて。それに、壁の中の敵・・・瞬間移動型ネウロイ。ユウも一人では勝てないし、協力もできない。その制限下で彼は生きることを諦めようとしている。でも、その選択肢だけは選ばせたくない!いいえ、選ばせちゃいけないの!」

 

 

 

 

 

智子は自分の知り得る情報を、危険な情報を収集してこうしてやってきた。その行動力は紛れもなく真実で、それでいて自分には何もできない証明だった。だからこそバルクホルンは自分の手を見つめる。

 

 

 

 

 

「それは、それだけは人としてあまりにも惨い選択だ・・・」

「ユウは、必要がそうさせるように求められている。世界の解放と己の滅亡を・・・」

「人とは一体何なのだろうか」

 

 

 

 

天井を見上げることしかできない自分と、未来を見据えた勇との天と地の開きに絶望している暇はなかった。智子が新たな情報を話しだしたからだった。

 

 

 

 

 

「そして最近になって新たな作戦が密かに打ち出されたわ」

「ユウが絡んでいるのか?」

「ええ・・・新型爆弾をネウロイの首魁にぶつけるために、ユウを誘導装置として爆弾を起爆させる作戦よ」

 

 

 

 

 

バルクホルンは一気に目が覚めた気分だった。寝耳に水とはよくいったもので、勇のあまりの不遇に智子の話に飛びつく。

 

 

 

 

 

「なっ!それではユウは?!」

「爆弾とネウロイとともに爆ぜてなくなるわ。威力が従来の爆弾の比較にならないから、ユウのようにネウロイを惹きつけられるのが絶対条件というわけよ」

「狂っている!英雄を生贄に、我々がのうのうと生を謳歌できるとでも?!それは今まで死んでいった者たち、延いてはユウへの侮辱だ!これほど胸糞悪い話は聞いたことがない!人の命を部品に使うだと!」

 

 

 

 

 

バルクホルンは目の前が真っ暗になった。勇を殴ってしまった自分は何を知っていたのか。偉そうに自分の正義を振りかざし、あまつさえ強要した。しかし、勇には世界の表舞台から消えるしか生きる道がなくなってしまっている。それを知らずとは言え、推し量れなかった自分が情けなかった。あの勇があそこまで塞ぎ込んでしまうのも無理のないことだった。勇は自分の命を天秤に、世界か他人かを選ばなくてはならないのだ。そしてその他人とは誰か。そう、501や戦友、仲間である私たちだ。気づけばこうも困難な選択肢はないだろう。とりあえず救わなければならない、が死ぬ。これを求められている人間はこの世界でただ一人、勇だけなのだ。

 

 

 

 

 

「私はなんということをしてしまったんだ・・・」

 

 

 

 

 

勇は今まさに迷っている。誰一人として同じ境遇に立てない孤独をただ粛々と甘受している。緩やかな自殺もいいとこだ。だが、自殺なんてもってのほかである。それは死んでいった仲間を裏切る行為だからだ。自分が死ぬことを強要されている最中に、律義に他人を思いやる精神とはいかに。

 

 

 

 

 

「仕方なかったわ。あなただからこそ殴れたのよ。そのおかげで救われるのがユウなんだから」

「救う?私がか?」

 

 

 

 

 

いまいち分からないことを言う智子を見上げる。その顔はまるで憧れの男性に想いを寄せる少女の顔だった。バルクホルンは勇のことを想うこの人物の言っていることが理解はできないかもしれないが、信頼に足るものだと本質的に理解しようとしていた。

 

 

 

 

 

「それでは私もきちんと謝らないとな」

「そうね、二人ともお互いのことが理解出来たら仲直りしてちょうだい」

「そうだな・・・」

 

 

 

 

 

バルクホルンはベッドから腰を上げて立ち上がる。差し出された手を取り、智子と目線を合わせる。

 

 

 

 

 

「501には素敵な仲間がいるわ。きっとユウを救えるはずよ。全て織り込んで今回のこともユウを救うことになるわ」

「ああ、あとは時間だな。時間がない」

「一撃離脱といきましょう」

 

 

 

 

 

握手を交わすとお互いに進むべき道を見定める。バルクホルンだけでなくミーナも気づいただろう。知ってしまったからには仲間としてだけではなく、人として勇を救わなければいけない。世界を救う勇を、人として残すために第501統合戦闘航空団は選ばれたのだ。ならば救おうと、歴戦のウィッチたちは魔法という名の翼を大きくはためかせる。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。ミーナは本当にいいキャラしてますよね。そして、恋敵の登場!挟まれるバルクホルン!為すすべのない勇くん!混沌を生み出せたかと思います。智子もどうやってあそこまでの情報を持ち込めたのか、ぜひ今後の展開にご期待ください!
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